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PERSONA-ZERO -02 前篇

「―――びっくりした」

 そう言いながら、番長はにっこりと微笑んだ。

「えっ……あ、す、すいません! 驚かせちゃいましたか?」

 シエスタは慌てて、両手を胸前でワタワタさせながら謝罪を口にする。
 次いで、ペコリと頭を下げた。

「……ごめん、冗談」

 それほどまでに畏まられると思っていなかった番長は、逆に申し訳なくなり頭を下げた。
 そしてその、可愛らしい擬音が聞こえてきそうな仕草に、番長はクスリと笑みを漏らす。

「冗談……?」

「うん、ゴメン」

「な、なんだ……冗談ですか。もう、私の方がびっくりしちゃいましたよ」

「意外とイジワルなんですね」

 そう微笑みながらシエスタは、ホッと胸を撫で下ろすと番長から一人分間を空けた隣に腰を下ろした。
 そんなシエスタに番長は鼻の頭をかいて答える。

 シエスタに出会ったのは、番長がこの世界に召喚されて2日目の朝、つまりつい先程である。
 にも関わらず、番長はシエスタにほのかな親愛の情のようなものを感じていた。
 きっかけは洗濯の場所がわからず迷ってウロウロしていた時、この場所を教えてもらったこと。
 そして、彼女は親切にココでの洗濯の仕方を教えてくれた。

 元々番長は家事一般、専業主婦並みかそれ以上の腕前を持っていた。
 特に料理に関しては、周りにいる女性陣に比べても天と地の差があった。
 ―――もとより女性陣の作る物体Xが酷過ぎるという話もあるのだが―――
 しかしそれも、洗濯機・ガスコンロ・炊飯器など文明の利器があってこその話である。
 案内してもらった後、女性ものの下着類と洗い桶を前に途方に暮れていた番長の元に、わざわざ引き返してまで丁寧に教えてくれたのはシエスタであった。
 まだ自分の仕事も残っているというのにだ。

「―――? どうなさったんですか?」

「あ、いや……」

 思わずシエスタを見つめてしまっていたことに気付き、番長は慌てて眼をそらした。
 やや長めのボブカットに切り揃えた黒髪と漆黒の瞳、少しソバカスが浮いているが
 その肌は、水場で仕事をしているとは思えないほどきめ細やかで美しい。
 自分に微笑むその顔は、素朴でありながら愛嬌もある。

「キレイだな、と思って」

 こういうことをサラッと言えてしまうのが番長だ。
 それを受けたシエスタは、たちまちその頬を紅く染めた。

「え?……ええ!?」

「な……なに言ってるんですかミスタ・バンチョー! からかわないでください」

 ワタワタと両手を振りまわしながら慌てるシエスタ。
 その様子に、また番長からクスリと笑みがこぼれる。
 それを見たシエスタの駄々っ子パンチ。ぽかぽか。ぽかぽか。
 早朝のトリステイン魔法学院に、2人の笑い声が響き渡った。

 思えば―――コチラに来てから、こんな風に人と会話したのは初めてだ。
 丁寧な対応ではありながら、どこか事務的で微妙に警戒心を持っていたコルベール。
 そして敵愾心を丸出しにしていた、自分をここに呼び寄せた少女。
 その少女を嘲笑していたクラスメイトとは、話をする気にもなれなかった。
 だから、シエスタが言った「寂しそうにしてたから」という言葉を、番長は否定できなかった。

「寂しそう?」

「はい、おせっかいかとも思ったんですけど……なんとなく」

 そう言いながら、シエスタは照れたように笑う。
 ああ―――この娘は、こういう娘なんだ。
 番長は自分の胸の奥に、なにか温かいものを感じた。それはおそらく―――

「そう……かもしれない」

 思い出す。
 花村陽介。里中千枝。天城雪子。クマ。巽完二。久慈川りせ。白鐘直斗。
 堂島の叔父さん。奈々子。部活のみんな。学校や町の人たち。
 言ってくれた、離れても心は繋がっていると。

 ならばこの感情はなんなのだろう。
 言われて初めて気がついた。

「友達がいたんだ」

 シエスタは答えない。黙って番長の次の言葉を待つ。

「いや……これじゃ故人みたいだな」

 苦笑を洩らす。

「いいやつらだよ」

「俺達の町に、ちょっとした事件が起こってさ。解決しようとみんなで頑張った」

「回り道もした、挫けそうにもなった。でもアイツらがいたから乗り越えられた」

 空を見上げる。
 そこにはあの頃とかわらない、澄み切った青い空。

「また、会えるかな」

 シエスタは答えない。
 しばしの沈黙。不思議とその沈黙が心地よかった。
 やがてシエスタが不思議な言葉を口にする。
 歌うように。囁くように。

「ノモラカ・タノママ―――」

「……え?」

「元気の出るおまじないです」

 そう言ってシエスタはニッコリと笑った。

「おじいちゃんに教えてもらったんです。私の家に伝わる魔法のおまじない。誰でも使える心の魔法。
 おじいちゃんは、なんでも願いをかなえてくれる魔法だって言ってましたけど、私はそんなのいりません。
 でも、これを唱えるとなんだか心があったかくなるんです。元気になるんです」

 キョトンとしている番長に、シエスタは照れたように頬を紅く染めた。

「あ、あはは……変ですよね私。こんなこと……」

「いや……」

「ノモラカ・タノママ」

 不思議と心が温かくなる気がした。元気が出た。
 心温かな彼女と接したかもからしれない。
 だがそれでも、彼女の言うことは『真実』なんだろうと思う。

「うん、元気出た」

 ニッコリと。シエスタの頬が朱に染まる。

「へ……変な方ですね。ミスタ・バンチョー」

「変かな」

「あ……す、すいません。変だなんて失礼なことを……」

「いや……」

 慌てて頭を下げようとするシエスタを番長は手で制した。

「そっか、変か」

 言われたことは何度かある。
 うぬぼれでなければ、それは良い意味でだったはずだ。

「えっと、あの、その……」

「じゃあ変でいいや。シエスタさんと一緒だ」

「え……」

 いたずらっぽく番長がほほ笑む。
 さらに紅が濃くなった。耳まで真っ赤だ。

「も、もう……やっぱりミスタ・バンチョー、変です」

 照れ混じりに、シエスタがクスクスと笑う。
 つられて番長も笑う。

 思い出す。
 ジュネスのフードコートで、バカ話をして笑いあったこと。
 みんなで祭りに出かけたこと。修学旅行での王様ゲーム。
 文化祭で女装して、笑い者になったのも今では良い思い出だ。

「それからさ、『番長』って呼んでよ」

「はい?」

「友達に敬称はおかしいでしょ?」

「え、ええ!?」

 またシエスタがワタワタと慌てだす。
 コロコロと表情を変えるシエスタは、見てて微笑ましい。

「そ、そんな……私なんかが友達だなんて……」

「駄目かな」

「そんな、駄目だなんて私……」

 オロオロと戸惑うシエスタ。
 困らせてしまっただろうか、迷惑だっただろうか。
 しかし番長は、スッとシエスタに手を差し出した。

「あ……」

「じゃ、じゃあ、バンチョーさん。私のこともシエスタで……その、できれば呼び捨てで……と、友達ですから」

 そっと触れるように、シエスタがその手を握り返した。
 水場仕事でその手は荒れている。でも美しい手だった。

「うん、じゃあシエスタ……」

「今後とも、ヨロシク」

 [BGM : SMILE / 目黒将司 / Persona4 Original soundtrackより]




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