*
全てのメイジは魔法を使う。
これは始祖ブリミルから王権を託されたハルケギニア諸国に共通する常識である。メイジ達は四つの系統に分かれた魔法を駆使し、戦い、作り、そして治めた。
それを持って彼らは貴族と称し、魔法を持たない平民の上に立つ。
だから公爵家の三女として生まれ育ったルイズ・中略・ヴァリエールが劣等感に苛まれるのは当然と言えば当然であった。
貴族でありながら魔法が使えない。
両親と姉にはガッカリされ、同年代の貴族の子弟にはゼロのルイズとバカにされる毎日。屈託なく笑えた日々は、今は遠い昔の事。
それでも彼女は貴族としての矜持や誇りを欠片も失わないのだから、偉い。
生まれてから16年、内心で毒づいた始祖ブリミルへの不満をノートに書き連ねれば、累計で10冊は軽く越えるにしても、だ。
「やった……?」
そのルイズが。
サモン・サーヴァントを成功させた。
どよめくクラスメイト一同を背に、彼女は初めて成功させた魔法の結果に半ば放心状態の体であった。
「亜人だっ」
「ゼロのルイズが亜人を召喚した……」
「で、でも、見た事無いぞ。あんなの」
出てきてくれれば猫でも犬でもいい。学園長だって使い魔は鼠だ。全宇宙の云々という大げさな呪文の裏で、何でもいいから兎に角出てきて欲しいと願ったルイズの望みは確かに叶えられた。
思っても見なかった形で。
「う、動くぞっ」
「結構、大きい。けど」
「危険は……なさそうだ」
ペタンとしゃがみこんだルイズを、じっと見下ろす未知の亜人のその瞳。吸い込まれそうなほど真っ黒で、何を考えているのかは全く分からない。
印象としては優しげであり、だがどこか捉え所が無く、飄々としていた。
「あ……」
身の丈はおよそ180サント。真っ白な体毛に覆われた体躯は、だが撫肩と大きな頭が変にアンバランスで堂々としている割に力強さは伺えない。
黒いソラマメのような鼻は、両脇が団子のように膨らんでおり、そこから左右に三本ずつ髭が伸びている。手足の指は太く短く黒い肉球がある。
これらの特徴から、猫型の亜人らしいのだが、全体的にずんぐりとしたシルエットは猫特有の俊敏さを見事に裏切っていた。
しかしながら、妙にピンと伸ばされた背筋はある種の貴品を感じさせる。理知的と言っても良いかもしれない。
「あ、えっと……」
戸惑いつつ、自分が召喚した亜人をしげしげと眺めるルイズ。取り巻いたクラスメイト達も、同じように言葉もなく見入っていた。その奇妙な生き物に。
直立する猫型の亜人。撫肩で、だが背筋は伸びている。全身を覆う白い体毛は、だが頭部の両サイドから後ろに掛けてだけは黒い。丁度コルベール教諭の髪型のように。
耳は無く、代わりに後頭部から太い筆のような物が上を向いて突き出ている。
頭と胴体の境目に赤い首輪が巻かれているが枷ではなく装飾品らしい。その中心に括られた金の鈴はむしろ誇らしげだ。
何だろう、この生き物は。
猫のようで猫でなく。獣のようで獣でなく。首輪があるのにフリーダム。
その存在が、その有り方が、分かり辛過ぎる。
だが最も重要なのは――。
ルイズはポカンと口を開け、だが次の瞬間には跳ねるように飛び起き、衝動的にジャンプしていた。己の、使い魔目掛けて。
この変な生き物が、異様に愛らしいという事だッ!
「う、うわーーいっ! 私の使い魔ーっ」
ジャンプしてギュと、しがみ付く。彼女の使い魔は当たり前のように抱きつかれ、微動だにしない。
この辺りで他の生徒達も正気に戻った。そして理解した。ルイズの召喚した亜人が、デカイ図体の割に愛嬌に溢れている事を。
特に可愛い物好きの女の子達はソワソワと落ち着かない。羨ましいのだ。白い奇妙な生き物に派手に飛びつき、グリグリと頬擦りをするルイズが。
「やだ、何アレ。可愛い……」
「見て。ルイズの頭をポンポンしてるっ」
「い、いいなあ。私も抱きつきたい」
その羨望感は男子生徒にも広がり、やがてその場にいた全員が同じ衝動を抱える事になる。
即ち――とびつきたい。いい歳した教師のコルベールや、クールで知られるタバサですら例外なく。
その生き物は、ただそこにいるだけで人を魅了し、和ませる。
ひょっとしてスゴイのを召喚したんじゃないかとルイズが思うのは、後の話だ。
「コ、コホン……。ミス・ヴァリエール。浮かれるのは分かりますが、先ずはコントラクト・サーヴァントを」
「あ、そうでした」
どうにか妙な衝動を自制したコルベールが、ルイズに使い魔との契約を促す。
ルイズにとっても否はなかった。見た事も聞いたことも無い亜人だが、コレが自分の物になるというのは気分が良い。
「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司どるペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔となせ」
そう唱えて猫っぽい口にキスをする。 白い亜人はルイズの行為に一瞬だけキョトンと丸い目を更に丸くした。
次の瞬間、己の体に変化が起こったのを察知したのか、抱きついていたルイズの両脇をそっと持ち上げて地面に下ろし、自身は一歩下がってゴロンと横になる。
そして左腕を押さえ、ゴロンゴロンとゆっくり転がった。
「えっと……痛い、の?」
呆然と亜人が転がる様を眺めていたルイズは、その謎の行動がひょっとして痛みによるものではないかと思い当たり、オズオズと口に出して見る。
すると亜人はピタリと転がるのをやめ、妙に礼儀正しく正座になってコクンと頷いた。そしてまた横になり、スローペースで大地を転がる。
「あ、その。使い魔のルーンが刻まれてるだけだから、すぐに収まると思う」
彼はルイズの言葉を聞いて再び起き上がり、正座をしてコクンと頷いた。その妙に澄ましたまま変わらない表情と、コミカルでありながら礼儀正しい姿に、一同は揃って和んだ。
何アレ。可愛い。
やがて痛みが治まったのか、ルーンの刻まれた左手をサスサスと撫でた謎の亜人は、無言のままに立ち上がる。そしてボンヤリとそれを眺めていたルイズの正面に立った。
「あ、ああああの。よ、よろしく……」
自分がどんなリアクションを求められているのか分からず、混乱するルイズ。だが目の前の生物は自分が呼び出して契約を交わした使い魔だ。取り敢えず挨拶だけはしておこうと声を掛ける。
白くて猫っぽい亜人は、そんな彼女に向かってコクンと頷いた。
決して公の記録には残らないが、幾つもの伝説を生み出した使い魔は、こうしてハルケギニアに召喚されたのである。
これは始祖ブリミルから王権を託されたハルケギニア諸国に共通する常識である。メイジ達は四つの系統に分かれた魔法を駆使し、戦い、作り、そして治めた。
それを持って彼らは貴族と称し、魔法を持たない平民の上に立つ。
だから公爵家の三女として生まれ育ったルイズ・中略・ヴァリエールが劣等感に苛まれるのは当然と言えば当然であった。
貴族でありながら魔法が使えない。
両親と姉にはガッカリされ、同年代の貴族の子弟にはゼロのルイズとバカにされる毎日。屈託なく笑えた日々は、今は遠い昔の事。
それでも彼女は貴族としての矜持や誇りを欠片も失わないのだから、偉い。
生まれてから16年、内心で毒づいた始祖ブリミルへの不満をノートに書き連ねれば、累計で10冊は軽く越えるにしても、だ。
「やった……?」
そのルイズが。
サモン・サーヴァントを成功させた。
どよめくクラスメイト一同を背に、彼女は初めて成功させた魔法の結果に半ば放心状態の体であった。
「亜人だっ」
「ゼロのルイズが亜人を召喚した……」
「で、でも、見た事無いぞ。あんなの」
出てきてくれれば猫でも犬でもいい。学園長だって使い魔は鼠だ。全宇宙の云々という大げさな呪文の裏で、何でもいいから兎に角出てきて欲しいと願ったルイズの望みは確かに叶えられた。
思っても見なかった形で。
「う、動くぞっ」
「結構、大きい。けど」
「危険は……なさそうだ」
ペタンとしゃがみこんだルイズを、じっと見下ろす未知の亜人のその瞳。吸い込まれそうなほど真っ黒で、何を考えているのかは全く分からない。
印象としては優しげであり、だがどこか捉え所が無く、飄々としていた。
「あ……」
身の丈はおよそ180サント。真っ白な体毛に覆われた体躯は、だが撫肩と大きな頭が変にアンバランスで堂々としている割に力強さは伺えない。
黒いソラマメのような鼻は、両脇が団子のように膨らんでおり、そこから左右に三本ずつ髭が伸びている。手足の指は太く短く黒い肉球がある。
これらの特徴から、猫型の亜人らしいのだが、全体的にずんぐりとしたシルエットは猫特有の俊敏さを見事に裏切っていた。
しかしながら、妙にピンと伸ばされた背筋はある種の貴品を感じさせる。理知的と言っても良いかもしれない。
「あ、えっと……」
戸惑いつつ、自分が召喚した亜人をしげしげと眺めるルイズ。取り巻いたクラスメイト達も、同じように言葉もなく見入っていた。その奇妙な生き物に。
直立する猫型の亜人。撫肩で、だが背筋は伸びている。全身を覆う白い体毛は、だが頭部の両サイドから後ろに掛けてだけは黒い。丁度コルベール教諭の髪型のように。
耳は無く、代わりに後頭部から太い筆のような物が上を向いて突き出ている。
頭と胴体の境目に赤い首輪が巻かれているが枷ではなく装飾品らしい。その中心に括られた金の鈴はむしろ誇らしげだ。
何だろう、この生き物は。
猫のようで猫でなく。獣のようで獣でなく。首輪があるのにフリーダム。
その存在が、その有り方が、分かり辛過ぎる。
だが最も重要なのは――。
ルイズはポカンと口を開け、だが次の瞬間には跳ねるように飛び起き、衝動的にジャンプしていた。己の、使い魔目掛けて。
この変な生き物が、異様に愛らしいという事だッ!
「う、うわーーいっ! 私の使い魔ーっ」
ジャンプしてギュと、しがみ付く。彼女の使い魔は当たり前のように抱きつかれ、微動だにしない。
この辺りで他の生徒達も正気に戻った。そして理解した。ルイズの召喚した亜人が、デカイ図体の割に愛嬌に溢れている事を。
特に可愛い物好きの女の子達はソワソワと落ち着かない。羨ましいのだ。白い奇妙な生き物に派手に飛びつき、グリグリと頬擦りをするルイズが。
「やだ、何アレ。可愛い……」
「見て。ルイズの頭をポンポンしてるっ」
「い、いいなあ。私も抱きつきたい」
その羨望感は男子生徒にも広がり、やがてその場にいた全員が同じ衝動を抱える事になる。
即ち――とびつきたい。いい歳した教師のコルベールや、クールで知られるタバサですら例外なく。
その生き物は、ただそこにいるだけで人を魅了し、和ませる。
ひょっとしてスゴイのを召喚したんじゃないかとルイズが思うのは、後の話だ。
「コ、コホン……。ミス・ヴァリエール。浮かれるのは分かりますが、先ずはコントラクト・サーヴァントを」
「あ、そうでした」
どうにか妙な衝動を自制したコルベールが、ルイズに使い魔との契約を促す。
ルイズにとっても否はなかった。見た事も聞いたことも無い亜人だが、コレが自分の物になるというのは気分が良い。
「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司どるペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔となせ」
そう唱えて猫っぽい口にキスをする。 白い亜人はルイズの行為に一瞬だけキョトンと丸い目を更に丸くした。
次の瞬間、己の体に変化が起こったのを察知したのか、抱きついていたルイズの両脇をそっと持ち上げて地面に下ろし、自身は一歩下がってゴロンと横になる。
そして左腕を押さえ、ゴロンゴロンとゆっくり転がった。
「えっと……痛い、の?」
呆然と亜人が転がる様を眺めていたルイズは、その謎の行動がひょっとして痛みによるものではないかと思い当たり、オズオズと口に出して見る。
すると亜人はピタリと転がるのをやめ、妙に礼儀正しく正座になってコクンと頷いた。そしてまた横になり、スローペースで大地を転がる。
「あ、その。使い魔のルーンが刻まれてるだけだから、すぐに収まると思う」
彼はルイズの言葉を聞いて再び起き上がり、正座をしてコクンと頷いた。その妙に澄ましたまま変わらない表情と、コミカルでありながら礼儀正しい姿に、一同は揃って和んだ。
何アレ。可愛い。
やがて痛みが治まったのか、ルーンの刻まれた左手をサスサスと撫でた謎の亜人は、無言のままに立ち上がる。そしてボンヤリとそれを眺めていたルイズの正面に立った。
「あ、ああああの。よ、よろしく……」
自分がどんなリアクションを求められているのか分からず、混乱するルイズ。だが目の前の生物は自分が呼び出して契約を交わした使い魔だ。取り敢えず挨拶だけはしておこうと声を掛ける。
白くて猫っぽい亜人は、そんな彼女に向かってコクンと頷いた。
決して公の記録には残らないが、幾つもの伝説を生み出した使い魔は、こうしてハルケギニアに召喚されたのである。
「う、うわーいっ! ニャンまげーっ」
ルイズ・中略・ヴァリエールはその日から変わった。魔法とかゼロとか、余り拘らなくなった。それもコレも全て彼女が召喚した使い魔『ニャンまげ』に依る物である。
何故『ニャンまげ』などという不思議な名前をつけたのか? 仇敵であり級友でもあるキュルケの質問にルイズはこう応えた。
「さあ? でも如何にも『ニャンまげ』って感じでしょ?」
「そ、そう。あー、うん。そうなのかも知れないわね……」
キュルケは情熱家だが賢い子だったので、理性で考えてはいけないのだと直ぐに悟った。そして感覚と本能でアレを見つめれば、なるほど『ニャンまげ』という感じだ。
廊下を走ってジャンプし、ギュとニャンまげに抱きついたルイズをぼんやりと眺めながら、キュルケはボンヤリと「雪どけの時代なのかねぇ」と呟いた。
余談だが、彼女たちの世代以降、ヴァリエールとツェルプストーは大の仲良しになる。
ニャンまげは、実にフリーダムであった。
昼の行動も、夜に寝る場所も一定していない。トコトコと学院内を歩き回り、程よく日の当たる場所を見つけるとゴロンと横になって昼寝を始める。
大人しいようでいて、誰も彼の日常を妨げる事は出来なかった。
主たるルイズですら、ニャンまげに枷を嵌める事を躊躇い、結局は好きにさせているのだ。
末の妹が未知の亜人を召喚したと聞いて駆けつけたエレオノール・中略・ヴァリエールですら、ポムと頭を撫でられて和まされ、アカデミーに連れ帰る事を断念したのである。
ヒス持ちの公爵令嬢でダメなら、誰が彼を繋ぎ止められるだろうか。
ニャンまげの行動は首尾一貫の欠片も無く、全くもってフリーダムとしか言いようが無い。
いつの間にか学院長の部屋にいてオスマンとチェスを始めたかと思えば、気がつくと中庭でメイドにブラシを掛けて貰っていた。
かと思えば授業中の教室に現れ、黒板に『にゃん』と書いて出て行き、教師と生徒を和ませつつ混乱させた。
夜は夜で、ルイズの抱き枕になって眠る事もあれば、他の使い魔と一緒になって焚き火を囲み、マイムマイムを踊る事もある。
またどういうわけか、料理長のマルトーに付き合い、愚痴を聞きながらウンウンと頷いて夜をあかす事もあった。
ルイズ・中略・ヴァリエールはその日から変わった。魔法とかゼロとか、余り拘らなくなった。それもコレも全て彼女が召喚した使い魔『ニャンまげ』に依る物である。
何故『ニャンまげ』などという不思議な名前をつけたのか? 仇敵であり級友でもあるキュルケの質問にルイズはこう応えた。
「さあ? でも如何にも『ニャンまげ』って感じでしょ?」
「そ、そう。あー、うん。そうなのかも知れないわね……」
キュルケは情熱家だが賢い子だったので、理性で考えてはいけないのだと直ぐに悟った。そして感覚と本能でアレを見つめれば、なるほど『ニャンまげ』という感じだ。
廊下を走ってジャンプし、ギュとニャンまげに抱きついたルイズをぼんやりと眺めながら、キュルケはボンヤリと「雪どけの時代なのかねぇ」と呟いた。
余談だが、彼女たちの世代以降、ヴァリエールとツェルプストーは大の仲良しになる。
ニャンまげは、実にフリーダムであった。
昼の行動も、夜に寝る場所も一定していない。トコトコと学院内を歩き回り、程よく日の当たる場所を見つけるとゴロンと横になって昼寝を始める。
大人しいようでいて、誰も彼の日常を妨げる事は出来なかった。
主たるルイズですら、ニャンまげに枷を嵌める事を躊躇い、結局は好きにさせているのだ。
末の妹が未知の亜人を召喚したと聞いて駆けつけたエレオノール・中略・ヴァリエールですら、ポムと頭を撫でられて和まされ、アカデミーに連れ帰る事を断念したのである。
ヒス持ちの公爵令嬢でダメなら、誰が彼を繋ぎ止められるだろうか。
ニャンまげの行動は首尾一貫の欠片も無く、全くもってフリーダムとしか言いようが無い。
いつの間にか学院長の部屋にいてオスマンとチェスを始めたかと思えば、気がつくと中庭でメイドにブラシを掛けて貰っていた。
かと思えば授業中の教室に現れ、黒板に『にゃん』と書いて出て行き、教師と生徒を和ませつつ混乱させた。
夜は夜で、ルイズの抱き枕になって眠る事もあれば、他の使い魔と一緒になって焚き火を囲み、マイムマイムを踊る事もある。
またどういうわけか、料理長のマルトーに付き合い、愚痴を聞きながらウンウンと頷いて夜をあかす事もあった。
ただ、やはり主と使い魔という絆がある為か、ルイズの面倒はよくみた。
錬金に失敗すればポムと頭を撫でて慰め、他の子に「ゼロ」呼ばわりされて凹めば、やはりいつの間にか現れてポンポンと頭を撫でる。
その度に和み、落ち着きを取り戻すルイズは、やがてストレスを溜め込まなくなった。
屈託無く笑い、良く食べ、良く学び、良く眠る。そんな彼女と白い使い魔の姿を見た他の子達も、やがてルイズをバカにする事を止めた。
そういう訳で、トリステイン魔法学院は、この所すっかり平和の一言である。
ギーシュは落とした香水を拾ったメイドに「有難う」と返したし、二股が発覚してもメイドを恨んだりしなかった。
キュルケは男漁りを何となく止め、ルイズやタバサと談笑して過ごすようになった。
そして一時期は学院の宝物庫を狙っていたロングビルも、ニャンまげに頭を撫でられて以来、アルビオン王家や貴族達に対する敵愾心が薄れ、普通に学院で働くようになった。
オスマンと交渉して賃金を上げて貰ったので、ティファニアへの仕送り金を稼ぐ為に盗みを働く必要も無くなったからだ。
競争はあっても闘争は無く、発奮はあっても恨みはない。
この風潮は、やがてニャンまげの活動範囲が広がると、王都トリスタニアにまで波及した。
白い亜人の散歩範囲に、王宮までもが含まれるようになったのだ。
ポムと頭を撫でられたマリアンヌ太后は娘にばっかり心労を掛けるのは悪いと思って女王の座に着く決心をしたし、やはり和まされたリッシュモン高等法院長は横領した私財を全て国庫に返還し、以後は清廉な政治家として国に尽くした。
また、ダングルデールの虐殺を含むかつての罪も全て告白し、アニエスを呆然とさせた。
楽になったのはマザリーニ枢機卿で、彼は仕事量と心労が減って肌にハリを取り戻した。
近く、聖職者としての位をロマリアに返還し、改めてトリステインの大臣に就任する予定である。
腐敗が消え始めた故国に希望を見出したワルド子爵もレコン・キスタと手を切り、トリステイン貴族として公爵令嬢の嫁を貰う利を悟り、打算も込みではあるがルイズと真摯に向き合うようになった。
錬金に失敗すればポムと頭を撫でて慰め、他の子に「ゼロ」呼ばわりされて凹めば、やはりいつの間にか現れてポンポンと頭を撫でる。
その度に和み、落ち着きを取り戻すルイズは、やがてストレスを溜め込まなくなった。
屈託無く笑い、良く食べ、良く学び、良く眠る。そんな彼女と白い使い魔の姿を見た他の子達も、やがてルイズをバカにする事を止めた。
そういう訳で、トリステイン魔法学院は、この所すっかり平和の一言である。
ギーシュは落とした香水を拾ったメイドに「有難う」と返したし、二股が発覚してもメイドを恨んだりしなかった。
キュルケは男漁りを何となく止め、ルイズやタバサと談笑して過ごすようになった。
そして一時期は学院の宝物庫を狙っていたロングビルも、ニャンまげに頭を撫でられて以来、アルビオン王家や貴族達に対する敵愾心が薄れ、普通に学院で働くようになった。
オスマンと交渉して賃金を上げて貰ったので、ティファニアへの仕送り金を稼ぐ為に盗みを働く必要も無くなったからだ。
競争はあっても闘争は無く、発奮はあっても恨みはない。
この風潮は、やがてニャンまげの活動範囲が広がると、王都トリスタニアにまで波及した。
白い亜人の散歩範囲に、王宮までもが含まれるようになったのだ。
ポムと頭を撫でられたマリアンヌ太后は娘にばっかり心労を掛けるのは悪いと思って女王の座に着く決心をしたし、やはり和まされたリッシュモン高等法院長は横領した私財を全て国庫に返還し、以後は清廉な政治家として国に尽くした。
また、ダングルデールの虐殺を含むかつての罪も全て告白し、アニエスを呆然とさせた。
楽になったのはマザリーニ枢機卿で、彼は仕事量と心労が減って肌にハリを取り戻した。
近く、聖職者としての位をロマリアに返還し、改めてトリステインの大臣に就任する予定である。
腐敗が消え始めた故国に希望を見出したワルド子爵もレコン・キスタと手を切り、トリステイン貴族として公爵令嬢の嫁を貰う利を悟り、打算も込みではあるがルイズと真摯に向き合うようになった。
「と、いう訳で。これが"竜の羽衣"です」
「ふーん」
そんなある日。ルイズとキュルケ、それにタバサの仲良し3人組は、メイドのシエスタを交えて宝探しなどを行っていた。
結局の所、宝らしい宝など見つからなかったが、道中はそれなりに面白かったので良しとした。
そして最後に訪れたシエスタの故郷、タルブの村で"竜の羽衣"なるマジック・アイテムらしき物を見物に来たのである。
一緒について来たニャンまげは――特に興味を示さなかった。ただ佐々木老人の墓に向かって手を合わせ、僅かに黙祷を捧げたのみだった。
手の平を合わせて軽く頭を下げるという仕草をシエスタが見ればまた話は別な方向に転がったかもしれないが、特にそういったイベントも無かった。
一行がシエスタの実家で飲み食いし、それで終わりである。
こうしてゼロ戦は歴史の表舞台に出る事も無くなり、タルブの村で長く奉られた。
「ふーん」
そんなある日。ルイズとキュルケ、それにタバサの仲良し3人組は、メイドのシエスタを交えて宝探しなどを行っていた。
結局の所、宝らしい宝など見つからなかったが、道中はそれなりに面白かったので良しとした。
そして最後に訪れたシエスタの故郷、タルブの村で"竜の羽衣"なるマジック・アイテムらしき物を見物に来たのである。
一緒について来たニャンまげは――特に興味を示さなかった。ただ佐々木老人の墓に向かって手を合わせ、僅かに黙祷を捧げたのみだった。
手の平を合わせて軽く頭を下げるという仕草をシエスタが見ればまた話は別な方向に転がったかもしれないが、特にそういったイベントも無かった。
一行がシエスタの実家で飲み食いし、それで終わりである。
こうしてゼロ戦は歴史の表舞台に出る事も無くなり、タルブの村で長く奉られた。
ルイズ・中略・ヴァリエールが、その生涯に渡って成功させた魔法はたった二つ。使い魔の召喚と契約だけだ。
だが、その二つは彼女に計り知れない恩恵をもたらし、やがて始祖ブリミルの御許に招かれるまで特にコレといって大きな障害もなく、平穏かつ幸福に生きた。
その子供達は彼女の危惧を覆して普通に魔法が使えたし、マザリーニや綺麗なリッシュモンが安心して引退できるほど立派な貴族に成長した。
それもこれも白い亜人の使い魔のお陰である。だが、その事実を正確に知る者は少ない。
故に記録には決して残らず、ただ晩年にルイズが著した絵本によってのみ物語られた。
その絵本のタイトルはこうだ。
だが、その二つは彼女に計り知れない恩恵をもたらし、やがて始祖ブリミルの御許に招かれるまで特にコレといって大きな障害もなく、平穏かつ幸福に生きた。
その子供達は彼女の危惧を覆して普通に魔法が使えたし、マザリーニや綺麗なリッシュモンが安心して引退できるほど立派な貴族に成長した。
それもこれも白い亜人の使い魔のお陰である。だが、その事実を正確に知る者は少ない。
故に記録には決して残らず、ただ晩年にルイズが著した絵本によってのみ物語られた。
その絵本のタイトルはこうだ。
ニャンまげに飛びつこう!
おわり