あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

Fatal fuly―Mark of the zero―-10


前回のあらすじ。

品評会の後、ちょっとした会話がありまして、その後部屋をノックしてくる音がありましたとさ。




      ※

 扉を叩いたノックの音は合計五回。
 奇妙なリズムをもって為されたそれに、ルイズがはっとした表情を見せた。
 急いで寝巻きの上からブラウスを羽織ると、藁葺きのベッドで胡坐をかいたままのロックに向けて何やら目を瞬かせて合図を送った。
 客が訪れたという事以外、状況をいまいち飲み込めないロックは、佇まいを直しているルイズに倣って立ち上がった。
 一拍の間を置いた後、緊張した様子でルイズは静かに扉を開く。
 その先に立っていたのは、黒い頭巾が物々しげな少女と、それと対象的な色合いのローブを身に纏った老人――オスマンであった。
 いよいよもってよくわからない。ロックは奇妙な組み合わせに首を捻った後、固まっているルイズを差し置いて口を開いた。

「こんな時間に泥棒みたいな格好させた女の子連れて、何の用だい? 爺さん」

 普段通りの彼の不躾な言葉に、背後に立っていたルイズが肩をわなわなと震わせ始めていた。対面するオスマンはそんなルイズの姿を認め、苦笑いを浮かべて返す。

「随分な言い様じゃな、ロック君。ミス・ヴァリエールの心労が増えとるのも頷けるなぁ」
「俺の言葉は俺の物だろ、あいつには関係ないじゃないか」
「世の中それでまかり通らぬよ。まして使い魔である以上、あらゆる意味で一人の身ではないのじゃからな」
「ったく、年寄りは説教が好きだよな。嫌んなるぜ」

 ぶすっとした表情で頭を掻くロックにオスマンは続けざま言おうとした所、

「……ふ、ふふふ」

 入室してからずっと俯き加減で一言も発さなかった少女の、小さな笑い声がそれを遮った。

「す、すみません。あ、あなたの言葉受けて、今のわたくしを改めて見直すと……本当にその通りでおかしくって」

 首をロックに向けて、堪えきれないとばかりに笑う少女。
 そこへ肩を震わせているばかりだったルイズがようやく口を開いて言った。

「泥棒の様ななどとご自分で、冗談ではありません! もう、ロック! この方をどなたと心得るの!?」
「誰って言われても――」
「いいのです。ルイズ。この様に顔を隠していながら、わたくしが彼に何を言えるのでしょう」

 今にもロックに掴みかからんとするルイズを片手で制し、彼女は空いた手を頭巾にかけた。
 そして露になったその素顔は、昼間に見た――

「おいおい、何の冗談だよ……」

 アンリエッタ姫殿下その人であった。

    ※

 アンリエッタとオスマンの来訪より数十分程が経っていた。
 面と向き合う久方ぶりの再会に、アンリエッタとルイズはロックにとっては劇役者の様にすら聞こえる言葉を尽くして喜びを交わしている。
 それがどうにも居心地が悪い。
 そこからしばらくして、何やら話は国際情勢などに広がり、そこにオスマンも混じってどうのこうの言っているのだが、まるでついていけないロックはただ手持ち無沙汰に淹れた茶を一人啜るばかりだった。
 ちら、とアンリエッタの横顔を眺めてみる。
 昼は品評会でのごたごたのせいもあり、まともに意識もしていなかったが、改めて見てみるとハッとするような美人である。
 一国の姫、というとやはり言葉にするだけで美しげな印象を持ってしまうものだが、それを丸ごと絵にしたかの如き人物だ。逆に戸惑いすら覚えてしまう。
 ルイズとの共同生活のおかげで女性に対する苦手意識は随分薄れたと思っていたが、やはり根本で抜けきらぬ部分があるようだ。
 そんなロックの視線を感じたのか、ふとアンリエッタが彼に顔を向けた。そして、おもむろに近づき、ロックの姿をまじまじと見つめてきた。

「…………それにしても、伝説のガンダールヴとは本当に”人”なのですね」
「?」

 何やら良く分からない事を言うアンリエッタに、ロックは首を捻った。
 先ほどまでかしましく話していたルイズも意味が分かりかねるのか、何やら言葉に詰まっているらしい。
 続けざまにアンリエッタはオスマンへ声をかける。

「虚無の担い手、そして使い魔。ロマリアで聞いた話はどこか夢物語にも思えましたが……」
「判断材料としては彼の左手のルーン。これはうちの教員の一人がスケッチした上で、文献より確かめたものですが、教皇が仰られたのでは、疑うべくもないですなぁ。それにあの先住の如き力。品評会で姫様がご覧になった通りで」
「ちょ、ちょっと、話が見えませんわ。姫様にオールドオスマン。虚無って――」
「うむ、私らがここに訪れたのはまさにその事が主題でなぁ」

 一つ頷きを見せてオスマンが懐に手を入れた。
 そこから取り出されたのは過剰とも取れる意匠の二通の書状であった。重要な品である事は容易に推し量れる。

「先日、ロマリアからこの学院に送られてきた物だが、片方はそのままここに宛てた物、そして、片方はロック君、君へだ」
「俺に?」

 まさかそんな筈は、と思うが、何かしらの予感がある。差し出された書状をロックは何か途轍もなく重い物を持つようにして受け取った。

「学院へは正式な依頼状でな」
「そしてその内容は、わたくしがあなた方へお願いしたい事と同一なのです」

 オスマンの言葉についでアンリエッタが言う。

「まず、その前にこれ、読ませてもらっていいか?」

 ロックが言うと、オスマンとアンリエッタが頷く。
 ルイズはすす、とロックに近づくと、封を切った書をその背後から覗き見た。
 宛書こそハルケギニアの言葉ではあったが、中身は違った。それはロックにとって久方ぶりに見るアルファベットで記されたものである。

「何これ?」
「……俺の、俺の世界の言葉だ」

     ※

 ロマリアにある大聖堂の一室、必要な物が必要なだけ配置された簡素な作りの部屋が、カインに宛がわれた場所だった。
 部下からの数多い報告書の一つ一つを手早く眺め、それらを片付けて一息つく。
 肩まで伸びた金髪に手ぐしを入れて立ち上がると、カインはそのまま退室して表に出る。
 そこには現在起こっているアルビオンの内乱で出た、難民達が数多く存在していた。
 身を寄せ合い、肩をすぼめている彼らの姿に思う所はあるが、甲斐甲斐しくそれらに世話を焼く一人の女性を見ると、何も言えなくなる。
 カインはその女性の元へと歩み寄ると、その肩に手を置いた。

「姉さん。この間から少し根を詰めすぎじゃないかな。少しは休んでくれた方が安心できるんだが……」

 振り返った女性はカインの姿を認めると元から浮かべていた微笑を深いものにした。
 二十代の半ばにすら見える、金色の髪が艶やかな妙齢の女性である。実際には三十代も後半なのだが、とてもそうには見えない。

「別に大したことはしていないのよ、カイン。むしろ何もしていない方が腐ってしまうもの。体の心配をしてくれるのは嬉しいけどね」
「……そうは言うけど」
「過保護よ。もう」
「…………」

 言葉を続けられぬカインを置いて、女性は再び難民達の間を奔走し始める。
 肩を竦めてその様子を眺め、しばらく経って彼女の活動がひと段落した頃に彼は再び口を開いた。
 普段の彼であれば絶対に見せぬ、どこか気の抜けたような、安心した声色であった。

「姉さん。まだ少しかかりそうだが、ロックと会えそうなんだ」

 その一言はどれ程の衝撃だったのだろうか、彼女の顔色が変わり始める。様々な感情が混在したそれを見て、カインは何とも言い難いものを感じていた。

「そう……あの子、もう随分大きくなってるでしょうね」
「ああ。それに強くなっている。俺ですら敵わない程にね」

 カインの一人称が変わっていた。アベルか、彼女の前でしか使わないものだ。

「ヴィットーリオの手引きもある。寄り道はあるが、間違いはないよ」
「ねぇ、カイン」
「ん? なんだい?」
「あの人はもう、いないのよね」
「……ああ」
「その事であの子が歪んでしまっていないか、今になってそんな事を思うわ」
「歪んでなんてないさ」

 気休めの言葉ではあると分かっていたが、カインはそう言わざるを得なかった。
 自らの血に酷くコンプレックスを抱いている事を、ロックと出会ってそう長くないカインですら分かる。
 だが、自分の姉に対してそんな事を伝えるのはあまりにも野暮だ。第一、その傾向が悟れない姉ではない筈である。

「でも、楽しみだわ。どんな顔をするのかしら、ロックったら」

 ふふ、と笑って彼女――メアリー・ハワードは言う。

「そうだな、きっと、喜びすぎて言葉も出ないんじゃないかな」
「それは多分私の方よ」
「なるほど」

 と、そこでカインの表情に険が走った。ほんの一瞬の事ではあったが、メアリーはそれに気付き、そっと目を伏せる。

「カイン……」
「無粋な輩がいるものだ。姉さん、俺は仕事に戻るよ。じゃあ」
「……ええ」

 そのまま大聖堂より出て、建物の裏手に回る。そこに人気はなく、見上げると聖堂のステンドグラスが日の光を浴びてきらきらと輝いていた。
 ふ、と薄く笑みを漏らしてカインはその手に紫炎を宿らせた。ごくりと息を呑む音が聞こえたのは気のせいではないだろう。

「レコン・キスタだったか。どうやらある程度の分別はあるらしいが?」
「…………」

 物陰からひっそりと姿を現したのは、先ほど聖堂の中で見かけた内の一人であった。
 裏での活動を進ませていたカインではあるが、それにしては少々動きが派手に映っていたらしい。アルビオンから流れてきた難民に混じり、時としてこういう刺客が彼を襲う事があった。
 影として生きる事に慣れているのだろう。相手はカインの挑発的な口調に耳を貸さず、ただ懐から取り出した得物を構えて対峙するばかり。そこに感情の色は一切見えはしなかった。
 くくっ、とカインが笑う。
 男が踏み込んだのはその機であった。

「シィッ!」

 逆手に持たれた短刀の一閃がカインの頭上を通り抜けた。刹那の見切りにより、毛髪がいくらか持っていかれたが、それがいかほどのものか。
 返しの突きで狙う心臓の位置には、指二本が添えられており、短刀はそこでピタリと動きを止められる事となった。
 指で挟まれた短刀を一瞬の判断で捨てた男の動きは見事とも言えたが――

「この程度でどうこうというレベルでは、とても生きてはいられなかったのだよ」

 男が後退した分、それに合わせて踏み込んだカインが紫炎を纏った蹴りを放ち、その体を上空へと押し上げた。
 蹴った勢いのまま飛び上がり、止めに組んだ両手をハンマーの様に打ち下ろすと、後は物言わぬ焼死体が出来上がるばかりだ。
 着地したカインはそれを見下ろし、つまらなさそうな顔をした後、薄く汗の浮かんだ額を拭って前髪をかき上げた。

「無様な」

 まだ小さな火の粉しか上がらぬ。
 いずれ大きな花火が頭上を照らす事となるだろう。その時までは。
 カインは少しセカンドサウスの街並みと、アベルの素顔を思い出して、すぐさまそれを打ち消した。



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