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ゼロの使い魔人-11


「土くれのフーケ! 貴族達の財宝を荒らしまくっているという盗賊か!
 魔法学院にまで手を出しおって! 随分と舐められたもんじゃないか!」
「衛兵は一体、何をしていたんだね!?」
「衛兵なぞ当てにならん! 所詮は平民ではないか! それより当直の貴
族は誰だったんだね?」
――多事多端な夜が明けたトリスティン魔法学院であったが、事態は何一
つ進展も沈静化もしていない。
むしろ火に油を注ぐというか、グダグダ化の一途を辿りつつあった。
現に今も、犯行現場となった宝物庫の前で雁首揃えた教師陣が騒ぎ立てて
いるだけ。
これからどうするか、を論じるどころか、各々何ら意味を持たない雑言を
言いたい放題垂れ流し、そして責任を押し付けるべき相手を探し出す始末
である。
その槍玉に挙がったのは、本来なら不寝番として当直にあたるべきだった
中年の女性教師である。
「ミセス・シュヴルーズ! 当直はあなたなのではありませんか!」
と、さっそく教師陣の一人が金属的な喧しい声を張り上げ、吊るし上げに
かかる。
問い詰められた側というと、ひとしきりおたおたして言い訳を並べた後で
やおら俯き啜り泣きを初め、先の教師は嵩に掛かって難詰の勢いを強めて
いた所。
「これこれ、そう女性を苛めるものではなかろうて」
緊張感やら謹厳さを欠いた口調と表情で、学院長である老魔術師がその場
に現れる。
「しかしですな! オールド・オスマン! 彼女は昨晩の当直でありなが
ら、自室でぐうたら高鼾をかいていたのですぞ! その責任を問わないで、
どうするというのです!」
自分の言葉に興奮し、声量と勢いを強める教師に対し、オスマン氏はとい
うと片手で髯を弄りながらその顔を眺めつつ、おもむろに口を開いた。
「まあ……、責任の所在はともかくとしてじゃな、一つ私からも皆に問お
う。――彼女を責めてはおるが、ならばその当直の任をただの一度も休む
事なく、忠実に果たしたと胸を張って言える者は、諸君らの中におられる
のかな?」
言いつつ、オスマン老が居並ぶ教師らを見回したのに対し、まともに視線
を合わせたり声を上げる者は無かった。例の教師も不本意そうに口元をも
ぐつかせるに留まっている。
「さて、声ばかり大きいがこれが現実じゃな。この中の誰もが……、無論
私も含めてじゃが……、よもやこの魔法学院が賊に襲われるなどとは、夢
にも思っておらなんだ。此処にいるのは殆どがメイジじゃからな。誰が好
き好んで、竜の巣に潜り込むのかという訳じゃが……。いやはや、ごらん
の有様だて」
オスマン老はまず教師達に、そして壁に穿たれた大穴へとその視線を移す。
「我々の油断と驕りじゃろう。それが賊をここに忍び込むのを許し、むざ
むざ『破壊の杖』を奪われる事につながったのじゃ。責任があるとするな
ら、我等全員にあるといえるじゃろう」
それを聞くや、それまで床にへたり込んで泣きじゃくるだけだったシュヴ
ルーズ教諭はオスマン老に縋り付き、目やに下げた老はセクハラに走った
りといった馬鹿な一幕があったものの、それはさておき……。
重々しさを装った咳払いの後、オスマン老は一同を見やる。
「――それで、犯行の現場を見ていたのは誰かね?」
「は。この三人です」
と、コルベール教諭がそれまで自分の脇に控えていたルイズにキュルケ、
そしてタバサらに前に出るよう促す。一応、龍麻も目撃者としてルイズの
背後に立ってはいたが、員数外と見做されていた。
「ふむ……。君たちか」
「……………」
オスマン老は、ルイズらを流し見たのに続いて龍麻に視線を止め――過去
の経験から、老獪な人物の言動やら雰囲気等に対して、些か用心を抱かざ
るをえない心境にあるので――その視線に対し、龍麻は無表情を保つ。
「詳しく説明したまえ」
ルイズが一歩前に出ると、一部始終を述べる。
「あの、大きいゴーレムが現れて、此処の壁を壊したんです。肩に乗って
た黒いメイジがこの宝物庫の中から何かを……、その『破壊の杖』だと思
いますけど……、盗み出した後、またゴーレムの肩に乗りました。ゴーレ
ムは城壁を越えて歩き出して……、最後には崩れて土に戻ってしまいまし
た」
「それで?」
「後には、土しかありませんでした。回りを捜しまわってはみたんですけ
ど、肩に乗っていた黒いメイジは、影も形もなくなっていました」
報告を聞き終え、オスマン老は唸り声を洩らしつつ、顎鬚をしごく。
「後を追おうにも手掛かりはナシ、という訳か……」
呟いていた折、ふと何かに気付いたか手を止めて、周りを見回した。
「所で、ミス・ロングビルはどうしたかね?」
「それがその……、朝から姿が見えませんので」
「この非常時に、何処に行ったのじゃ」
「ええ、どうしたんでしょうか……」
等と話していた所に、よく通る声で「済みません」や「通してください
」といった言葉が人垣越しに聞こえた後、件の女性が一同の前に現れた。
彼女に向かい、泡を食って事の大きさをまくしたてるコルベールだった
が、それには同調せず儀礼的に一礼しつつ、上司たる学院長に向き直る。
「遅れて申し訳ありません。朝から急ぎ調査をしておりましたの」
「調査?」
「そうですわ。今朝方、起きたら大騒ぎじゃありませんか。そして宝物
庫はこのとおり。壁に書かれたフーケのサインを見つけたので、これが
国中の貴族を震え上がらせている大怪盗の仕業と知り、すぐに調査に掛
かりました」
「仕事が速いのう。ミス・ロングビル」
オスマン学院長が呟く横で、コルベールが忙しなげな調子で続きを促す。
「で、結果は?」
「はい。フーケの居所がわかりました」
それを聞いてコルベールが調子っ外れな声を上げたのを皮切りに、周り
の面子も色めき立つ。
「誰に聞いたんじゃね? ミス・ロングビル」
「はい。近在の農民に聞き及んだ所、近くの森の廃屋に入っていった黒
ずくめのローブの男を見たそうです。おそらく、彼はフーケで、その廃
屋はフーケの隠れ家ではないかと」
「黒ずくめのローブ? それはフーケです! 間違いありません!」
其処まで聞いて、ルイズが声を張り上げる横で、学院長は目を細めて表
情を引き締める。
「そこは近いのかね?」
「はい。徒歩では半日。馬なら四時間といった所でしょうか」
続く説明を聞きながら、龍麻の表情に思惟と不審の色が浮かんでは消え
ていく。
――だが。一介の平民でしかも使い魔に過ぎない彼を顧みたり、表情の変化
に気付いた者はこの場には居なかった……。
「すぐに王宮に報告しましょう! 王室直属の魔法衛士隊に頼んで、追
っ手を差し向けてもらわなければ!」
勢い込んで叫ぶコルベールだが、言い終わらぬ間に倍するボリュームで
オスマン氏の怒声が響き渡った。
「馬鹿者! 王宮なぞに知らせている間にき奴めは逃げおおせてしまう
わ! その上……身に掛かる火の粉を己で払えぬようで、何が貴族じゃ! 
我が学院の宝が盗まれた! これは魔法学院の問題じゃ! 当然我等で
解決する!」
老魔術師は昂然たる口調と態度で宣言すると、咳払いに続いて教師陣一
同を見回す。
「では、この中より捜索隊を選抜するが……。我こそはと思う者は杖を
掲げよ」
その声が聞こえない訳が無いだろうに、先程までの剣幕は何処へやら。
それに応じようとする者は現れない。
「おらぬのか? おや? どうした! かの者を捕らえ、名を挙げよう
と思う気概を持つ貴族はおらぬのか?」
静まりかえる中、学院長の声ばかりが響く。
学院長からの視線を向けられるとさり気無く、或いは露骨に上や下を向
く者を初め、無言で隣や前後の同僚と非友好的な押し付け合いをしてる
奴、黙ったまま熟慮している様に見(せかけてる)える手合い……。
(日和見かよ……。ま、名を挙げるより恥を掻きたくない。何より、大
言壮語して出張ったものの、取り逃がしたり返り討ちに遭った挙句、一
連の責任おっ被せられて干されちゃかなわん……。ってのが本音だろ
うな)
先程の情報の中身について思案しながら周りを観察し、内心で意地の悪
い推論を龍麻が出したその時。
龍麻の前に立ち、其れまでずっと無言で頭を垂れていたストロベリーブ
ロンドの少女が、その手に握り締めた杖を挙げた。
「ミス・ヴァリエール! 何をしているのです!? あなたは生徒では
ありませんか! ここは教師にまかせて……」
「誰もあげないじゃないですか」
ルイズの行動に、シュヴルーズ教諭が驚き半分、後は懸念と諫止混じり
の声を出したが、その“常識論”はルイズのさして大きくもないがはっ
きりとした口調で切り返しに遭い、ぐうの音も出ず黙りこくる。
そしてそれ以外の教師連中はと言うと、ならば自分が行く……どころか、
何やら険のある視線と雰囲気を湛えて、一躍注目の的となった少女を見
やる。
と。その横で、また一つ杖が頭上に掲げられた。
「ツェルプストー! 君もかね!?」
意外さを隠さぬコルベール教諭の声に、キュルケは煩わしそうに前髪を
掻き上げながら答える。
「ふん。ヴァリエールには負けられませんわ」
そう啖呵を切った彼女の横で、更に杖を掲げる者が現れる。
「タバサ。あんたこそいいのよ。関係ないんだから」
傍らに立つ小柄な人影に向かい、キュルケが気遣うように声を掛けたの
に、抑揚の無い声で答える。
「心配」
その声に感極まった様な表情を浮かべるキュルケ。やや遅れて、ルイズ
もタバサの方に向き直り、ぎこちない笑みと共に礼を述べる
「ありがとう……。タバサ……」
(――考えてみりゃ、昔の俺達と今のこいつらがやろうとしてる事は、
大して変わらんじゃないか……。今にして思えば本当バカやってたと
いうか、俺達を見てた天野さんやマリア先生辺りがどんな気持ちでい
たか、解ったような気がする……)
もし、時間を遡行する事が叶えば、当時の自分を思い切り張り倒して
いただろうなと、龍麻は内心で猛省しつつ、一人バツの悪い思いをす
る羽目になった。
ともあれ、目の前で繰り広げられる『誠に心暖まるやり取り』を見
やって、老魔術
師は髯を震わせて笑う。
「そうか。では君らに任せるとしようか」
「オールド・オスマン! わたしは賛成できません! 生徒たちをそ
んな危険に晒す訳には!」
「ならば、君が行くかね? ミセス・シュヴルーズ?」
「い、いえ……、わたしは、こういった争いごとには経験がございま
せんので……」
先程の女性教師が抗議の意を示したものの、矛先が自分に向けられる
や、たちまち尻込みし、隅に引っ込んでしまう。
「彼女達は、敵を見ている。その上、ミス・タバサは若くしてシュヴ
ァリエの称号を持つ騎士だと聞いているが?」
それを聞いてキュルケやルイズは元より、教師連中までもが一様に驚
きと興味を込めた眼差しを向けるが、当人は表立った反応を示さず黙
然と立ち尽くしているばかりである。
「ミス・ツェルプストーも、ゲルマニアの優秀な軍人を多く輩出した
家系の出であり、彼女自身も炎の魔法に於いては、衆に抜きん出た腕
前を持つとの話じゃがのう」
社交辞令もあるだろうが、聞こえの良い語句を並べられ、キュルケは
自慢気に髪を掻き上げる。
そして、オスマン老の視線がルイズに移ると、褒められるのがさも当
然の様に当人は胸をそびやかすものの。
まず、さり気無く視線がルイズから逸れ、表情と表現の選択に難儀す
る様な沈黙の後。
「その……、ミス・ヴァリエールは旧くは王室に繋がるヴァリエール
公爵家の息女であり、あー、その、なんだ、将来を嘱望されるメイジ
だと聞き及んでおるが?しかも従える使い魔は……、平民でありなが
らあのグラモン元帥の子息である、ギーシュ・ド・グラモンと決闘し、
勝ったという噂だが」
しどろもどろな口調で話している所へ、横からコルベールが勢いこん
で口を挟む。
「そうですぞ! 何せ、彼はガンダール……っっっ!?」
言い終るより早く、学院長が手にした杖がコルベール教諭の向う脛を
目立たぬ程度に強打し、彼は場所ならぬ舞踏を一人で演じる事となっ
た。
そして咳払いの後、その場にいる全ての人間に向かい、オスマン学院
長は厳かともいえる声を発した。
「謙遜は無用じゃ。この三人に勝てるといえる者がいるのならば、前
に一歩出たまえ」
あの、責任云々を五月蝿く騒ぎ散らしてた教師も含めて、誰一人とし
て学院長に異議を表す者は出なかった。
(ダメだこりゃ……。こんだけの大事があったってのに、いい歳こい
ててしかも学院から給料貰ってる大人が誰一人動かない時点で、自分
等には身に掛かる火の粉を払う様な覚悟に意欲なぞ無いと、証明して
るような物だろこれは……)
「我が学院は、諸君らの努力と貴族の義務に期待する」
ルイズ以下の三人は、生真面目な表情を作り姿勢を正し「杖にかけて
!」と、同時に唱和するとスカートの裾を摘み上げ、恭しく例をする
その後ろで。
龍麻も一応、儀礼的に頭を下げる事でそれっぽく見せたが、それは己
の表情を他者に見せない為であり、その心境は暗澹たるものであった。
もし人目が無ければ、片手で顔を覆って大仰な溜息をついていた事だ
ろう。
(酷ェ話だ……。事態の収拾を自分らの子供とさして変わらんだろう、
生徒数人に丸投げしやがったよ……。よくそれで他人に対して、努力
と義務を期待するだなんて言えるなぁ……)
「うむ。では、馬車を用意しよう。それで向かうのじゃ。魔法は目的
地に着くまで温存したまえ。ミス・ロングビル!」
「はい。オールド・オスマン」
「彼女たちを手伝ってやってくれ」
脇に控える、自身の秘書に向かい指示を出す。
同行する以上、魔術師同士の戦いに巻き込まれる可能性と危険は大有
りだろうに、彼女はたじろいだり不平の色をまるで見せず、当たり前
のように頭を下げる。
「もとからそのつもりですわ」
――それから数十分後。
四人は案内役であるミス・ロングビルが操る馬車の客となっていた。
尤も、馬車といっても屋根も座席もない荷馬車みたいなものだったが。
……不意打ちなどがあった場合、即座に降りて対応出来るようにとい
う考えの下である。
一行の間に物見遊山みたいな雰囲気は無く。ルイズは手にした杖をい
じくり、タバサは分厚い本から一時も目を離さず、龍麻も毎度の結跏
趺坐の姿勢による錬氣を行っていた。
「だって、貴女はオールド・オスマンの秘書なのでしょう?」
「ええ。ですが、オスマン氏は貴族だ平民だという事に、あまり拘ら
ないお方ですから」
そして、やはり無聊を囲っていたキュルケは手綱を握っているミス・
ロングビルに何のかのと話しかけていた。
「差し支えなかったら、事情をお聞かせ願いたいわ」
その話が、ミス・ロングビル個人の事に関わる流れになるにつれその
口数が減っていくのとは逆に、キュルケは興味の色も露わに言い寄ろ
うとするがルイズがその肩を掴んで引き戻す。
「何よ。ヴァリエール」
「よしなさいよ。昔の事を根掘り葉掘り聞くなんて」
気分を害した表情を見せるキュルケに、ルイズもつっけんどんな声で
やり返す。
「暇だからお喋りしようとしただけじゃないの」
「あんたのお国じゃどうか知りませんけど、聞かれたくない事を無理
やり聞き出うとするのはトリステインじゃ恥ずべき事なのよ」
それに対して、直接言い返そうとはせず。キュルケはふん、と小さく
鼻を鳴し頭の後ろで手を組むと、荷台の柵に背中を預けた。
「ったく……、あんたがカッコつけたおかげで、とばっちりよ。何が
悲しくて、泥棒退治なんか……」
厭味をたっぷり含ませ、聞こえよがしにぼやくキュルケを、ルイズは
ジト目で睨む。
「とばっちり? あんたが自分で志願したんじゃないの」
「あんた一人じゃ、ヒユウが危険じゃないの。ねえ、ゼロのルイズ」
「どういう意味よ?」
「いざ、あの大きなゴーレムが現れたら、あんたはどうせ逃げ出して
後ろから見てるだけでしょ? ヒユウ一人を戦わせて自分は高みの見
物。そうでしょう?」
(そうしてくれた方がずっと有難いけどな。ほぼ丸腰、実戦経験無し
の人間に、「偉い奴こそ、一番に危険に立ち向かわなければならん」
なんつー戯言を馬鹿正直に実行されて、引き際や周囲の状況も顧みず
前に出てこられちゃ、堪ったもんじゃ無い)
「誰が逃げるもんですか。わたしの魔法でなんとかしてみせるわ」
「魔法? 誰の? 笑わせないでくれる!」
副音声で龍麻が呟く一方で、昨晩の舌戦が時間と場所を変え、再戦
の兆しを見せ出した。
「お前ら、かなり良家(いいトコ)の出なのに、二人して街中のガキ
レベルの喧嘩するなよ……。それ人前でやれば、品格疑われるぞ。只
でさえ、色々気に食わない事があるってのに……」
聞くに堪えかねた龍麻が厭々ながら口を挟んだが、それはルイズの癇
癪を爆発させただけだった。
「何が気に入らない、よ! いい? あんたはわたしの使い魔よ! 
ご主人様に従うのが当然じゃないのよ!」
「……ちょっと落ち着いてくれ。俺が気に入らないってのは、そもそ
もこの任務(クエスト)が実行される切っ掛けになった情報について
の事で、あんたの護衛仕事が嫌なんじゃない」
手で押さえろ、という風な仕草をしながら話を続けようとした矢先に、
「それってどういう事よ?」
「それは、わたくしの話が信じられない、とでも言いたいのですか?」
畳み掛ける様に、ルイズとミス・ロングビルが口を挟んでくる。
「凄く長いが、それも含めて説明する。この件な、俺が駆け出しの頃
に関わった事件に似てる点があるし、考えてみたら状況的に噛み合わ
ない事だらけでな……」
一旦、言葉を切るとそこから立て水の如く話し出す。
「昔、俺が通っていた学校にある競技で、優勝候補に挙げられるチー
ムがあってな。そして近々大会が開かれようという次期のある日。そ
この主力メンバー数名が、時間も場所もバラバラだが、一晩のうちに
襲われて大怪我をしたんだ。
不意の事で、反撃どころか犯人の人相や数に凶器とかも解らないまま、
一方的にやられたんでまともな手掛かりもロクに無いと来た。物盗り
でもないし、誰かが恨みでも買ってたか? って線から地道に犯人捜
しに掛かろうって時に、現場にボタンが一つ落ちてた。
それも……、同じ大会に出る予定があって、もう一つの優勝候補と目
された学校の紋章が彫られた奴がな」
「ちょっと、それって……?」
「そ。単純に考えれば、ライバルを事前に蹴落として確実に勝つ……。
って言う事なんだろうが……、考えてみろ。『争った形跡は無いのに』
何故、『被害者達のモノ』じゃないボタンがその現場に落ちてたんだ?
 普通、軽く引っ張った程度で取れる様な物じゃないぞ」
と、龍麻は皆に見えるように自分の服を捲り上げ、付いたボタンを指
で突いてみせる。
「第一、対抗馬がマトモじゃないやり方でコケた事で、真っ先に疑わ
れるのは何処の誰だ? 仮にそのまま優勝できたとしても、不正がバ
レた日にゃ団体にはキツい処分が下され、選手はそれで身を立てる事
は難しくなり、更には卑怯者の恥知らずとして延々と侮蔑と嘲笑の的
になり続ける……。ンな割に合わない事を本気でやらかす莫迦がいる
か? ……実際、調べたら当の団体は全くの無実で、真犯人は外部の
人間だったけどな」
「……それで、あんたの昔話とこの事件が、どう関係するのよ?」
「確認するぞ。『朝から聞き込みに走って、近在の農民から、近くの
森の廃屋に入っていった黒ずくめのローブの“男”を見た』と、いう
話を持ち帰ったんでしたっけ? ロングビルさん」
「はい。その通りです。……それの何がおかしいのですか?」
彼女が頷くのを見て、龍麻はルイズを指差した。
「そして黒ずくめのローブを着てたって話だけで、フーケに違いない
と、お前は決め付けたけどな。――黒ずくめのローブを引っ被ってた
のに、目撃した奴はなんで男と解ったんだ? 歩幅や体格か? 声を
聞いた? さては容姿を目にした? 最後だとしたら、何でその詳細
が解らず、それを聞こうとしなかった? 昨日の晩は月が出て割と明
るかったが、名うての魔術師で泥棒な奴を相手に、只の農民がそうい
うのが解る距離まで近寄れて、相手が無防備にそれを許したって状況
自体が凡そ信じられない。
もし、黒のローブを引っ被ってりゃフーケになる、つーなら何だ。昨
日の晩、あのデカブツを潰して俺達を撒いた後で、アレ作るのに要る
だろう何分の一かの力で、以前のギーシュみたく等身大のシロモノを
作ってから、そいつにボロ布被せて力尽きる迄適当に歩かせるか、予
め小金掴ませて集めた町のチンピラヤクザにやっぱボロ布被せて、目
立つように彷徨つかせて囮にしてる間に本人は正反対の方角へ、逃げ
出すぐらいの事はやるだろうに。
で、特におかしいのが、その『目撃者』をじっとアジトらしいトコま
でついて来させて、そのまま何一つ手を出さずに戻る事を只見過ごし
た点だ。考えるまでも無く、命取りになりかねん事であって、そいつ
がその足で官憲にタレ込んだ物なら、即追っ手が向けられて人生終了
のお知らせだ。
そもそも、素人に尾行けられてる事にさえ気付かないほど無用心で間
抜けな奴なら、城下町で噂になるまでも無くとっ捕まってるんじゃな
いか?」
水が欲しいなと思いつつ、龍麻は速射砲の如く腑に落ちない点を列挙
していき、纏めに掛かる。
「ちょい私見も混じったけど、ともかく似てる点を挙げるとな……、
突然の事で、犯人を捜そうにも手掛かりは殆ど無く、手探りで始めな
きゃならん所に、上手い事情報が転がり込んで来た。……けれど、だ。
情報の中身ときたらより犯人を絞り込むのに要る……さっき言った様
な……『次に』繋がる手掛かりの部分がすっぽり抜け落ちてるのに、
そのくせ単に聞くだけならこっちが欲しいモノ……動向や所在……が
みな揃ってて、有力な手掛かりに思える。そう。都合よく答えが『与
えられてる』といった感じだ。
そういう点から見るとな。どうも、この目撃談は何らかの目的を持っ
て、情報を得た側の行動や思考を一定の方向へと誘導させる様な意図
を含んでる様に思える。
『例えば』、手頃な情報をちらつかせる事で、俺達とその疑いを向け
られた団体との間に不信を抱かせて、互いを潰し合わせようと企んだ
奴みたいに、な。
本当なら、その農民だけじゃなくもっと広範に情報を集めて、摺り合
わせる事で話の裏付けを取るべきなんだ。こうやって人手出す前にな。
……正直、かなり罠臭いというか、最悪その目撃した奴自身がフーケ
とつるんでいて、先の話をする様に予め仕込まれてんではないか……
っていう、可能性も有るんだ」
「……あんたねぇ。そんなんじゃ間に合わないって、オールド・オス
マンがいってたでしょうが! いい? 使い魔なら使い魔らしく、そ
のお喋りな口を閉じて、ただついて来ればいいのよ!!」
「けどな。これ以外にも馬で数時間、徒歩で半日って場所まで行った
って割にゃ、朝起きて異変を知ってから調べに向かい、学院へと戻っ
て来るのが早すぎだろう?その農民に、そして情報を持って帰ってき
た当人もだ。この辺もまた、引っかかるじゃないか……」
「黙りなさい、といったでしょ! なによ、延々ともっともらしい事
を言ってるようで、実はねちねちミス・ロングビルの揚げ足取ってる
だけじゃないのよ!」
ルイズは怒鳴り散らしながら立ち上がると、尚も食い下がる龍麻の鼻
先に杖を突き付け、権高に言い立てる。
「…………」
これはもう、どんなに下手に出ようとも以後の話は聞いて貰えはしな
い、と見て取った龍麻は止む無く口を閉じる。
(参ったな……。そりゃ、推論ばかりで他人を納得させられるだけの
根拠に欠けるのは確かだけどな。だからって、この“情報”を鵜呑み
にして、誰も内容や真偽について考えようとしないってのは、危なす
ぎるぞ……)
己が見解を上手く周りに納得させられない、自身の迂闊さ加減に内心
嘆息しつつ、龍麻は片手でがしがし頭髪を掻き回す。
――緩慢に揺れる馬車から見える、ただっ広い平原に小川。遠くに望
む山並みに雑然とした森林。たまに鳥の鳴き声。
牧歌的な風景といえば聞こえが良いが、実の所変化に乏しい単調な光
景に皆がいい加減飽き掛けた頃に馬車は街道を外れ、雑木林沿いに伸
びる細い脇道へと進路を変え。
やがて……その道は、生い茂る樹々の中に通じる人一人がどうにか通
れるといった感じのモノへと変わって行く。
「ここから先は、徒歩で行きましょう」
案内役の彼女の声に従い、馬車から降りた一同は森の更に奥へと足を
踏み入れる。
昼なお暗い鬱蒼とした森は人を拒むかのように静まり返り、木立に遮
られて陽光も充分に差し込まず、見通しはかなり悪い。
(真昼間でこれなら、夜は完全に闇一色だ。こんなトコで明かりを焚
きゃ一発で存在がバレるし、少々夜目が利こうと月や星明りだけを当
てにして歩くにも限度が有るぞ。これでどうやって気付かれずに、後
を尾行けるっていうんだ……?)
周囲の状況を観察し、龍麻が先の「証言」の信憑性に対する猜疑の念
をますます強めていた所に。
「なんか、暗くて怖いわ……、いやだ……」
そんな事を口にしつつ、キュルケは龍麻の腕に自分のそれを絡めて来
たが、それを素気無く振り払う。
「利き手を塞ぐな。いざという時に反応が遅れる」
「だってー、すごくー、こわいんだものー」
一本調子な声に、全く恐怖や怯えの色が無い表情で言われても、説得
力に欠けるという物だろう。
「お手々繋いで仲良しこよしがしたいなら、俺じゃなく他の三人とや
ってくれ。そもそも、ンな事してる場合じゃないだろ」
つっけんどんな声で答える間にも、下生えや梢の合間を始め全周に視
線をやるのを止めない。
得物こそ構えてないが龍麻の精神に肉体も既に臨戦態勢に入っており、
不急不要の事に気を回してはいられないのだ。
――誰も積極的に話そうとしない雰囲気の中、更に歩き続ける一行の
前の視界が急に開けた。
行く手には、サッカー場一枚程の広さを持つ更地があり、そこにひっ
そりと吹けば飛ぶような小さいあばら家が佇んでおり、それと隣りあ
う様に炭焼き用と思しき窯や、半ば壊れかけた納屋が建っている。
「わたくしの聞いた情報だと、あの中にいるそうです」
ひとまず、小屋に近い茂みに身を隠すルイズ以下五人。そして、ミス・
ロングビルは隙間から廃屋を指差して見せる。
「……で。今の所、目立った動きは無いけど、どう攻める? いっそ、
妙なマネされる前に此処から全員で一斉に魔術ぶっ放して、問答無用
で小屋ごと吹っ飛ばすか?」
相手がまだ、あの場所にいると仮定して対応を話し合う。
無論本気ではないが、極論を最初にぶち上げる事で、場の反応を引き
出そうとした龍麻に、一同から白い目が向けられはしたが。
続いてタバサが出した策は……、一名が先行して中の様子を探り、も
しフーケが居れば挑発なり威嚇攻撃を仕掛け、フーケを屋外へと引っ
張り出す。しかる後、奴が例の巨大ゴーレムを作り出す前に全員が一
斉攻撃を浴びせ、仕留める……。と、いった内容であった。
「他に意見の有る者は? ……仮に其れで行くとして、肝心の“火中
の栗”拾う役は誰だよ?」
当然の疑問を龍麻は口にし、タバサはそれに答えて曰く、「すばしっ
こいの」。
四対の視線が、一斉に一名……自分から地雷踏みに行った粗忽者……
を刺し貫く。
「やっぱ俺かい。……肉体運動に頭脳労働もやって、ギャラは同じ……
どころか無し。やってられんね」
前世紀のギャグを口にしつつ、手短に以後の段取りを付けてから中腰で
立ち上がると極力姿を見せぬ様、周囲の木々に紛れながら龍麻は小屋ま
での距離を詰める。
――相手が此処に居るという情報自体が眉唾物だし、又は何らかの魔術
で鳴子みたいな仕掛けが用意されていて、既に自分らの存在が筒抜けに
なっているかも知れないが、其れでも正面からノコノコ近寄る様な真似
は憚られたのだ。
身を低くして力を溜め、物陰から一気に飛び出す。そのまま小屋の外壁
に取り付くと、身を寄せて内部の気配を探る。
……数秒後。匍匐で窓へとにじり寄ると、キュルケから借りた手鏡を使
い室中の様子を映し見る。
――薄汚れた床と、粗末な椅子とテーブル。表面には随分と埃が溜まっ
ており、長らく人の手が入ってない事が伺える。
部屋の隅には朽ちた暖炉と、やはり腐りかけた薪が無造作に置かれ、空
の酒瓶が数本転がっている。それ以外には……、木で作られた雑具箱が
有るぐらいか。
室内には人どころか鼠一匹居らず、身を隠せるような場所も見受けられ
ない。
(空城、か。こっちの行動が遅きに失したっていう線も完全には消えち
ゃないが、やっぱガセネタ掴まされたかね……。これで手ぶらで帰った
日にゃ、日和見ってた奴らがこれ幸いとばかりに叩きにくるだろうな……)
皆がいる方へと向き直り、片手を挙げて先に決めた手筈通りに合図を送
ると物陰に潜んでいた面々が、おっかなびっくりな様子で近寄ってくる。
「空振りだ。まあ、魔術で何か『置き土産』を用意している可能性もあ
るが、俺には解らん」
タバサが前に出ると、短い詠唱に続いてドアに向かい杖を振る。
「ワナはないみたい」
呟くとドアに手を掛け、中へと滑り込む。
「わたしは外で見張ってるわ」
「それなら、わたくしは周りを偵察してきます」
ルイズに続き、ロングビルも言うなりそそくさと動き出す。
「待った。単身では拙い。誰かと一緒に行動した方がいいのでは?」
その背中に向かって、龍麻は声を掛けたものの彼女は、顔だけを向けて
小さく笑っただけで、そのまま森へと入ってしまった。
そして、その場に残った面子はフーケがいた痕跡なり、手掛かりを見つ
ける為の家捜しに取り掛かったが。
「破壊の杖」
どれ程もしない内に、いきなりタバサが『当たり』を引いた。
あの雑具箱に押し込まれていた件の一品を手にすると、皆に見える様に
頭上に掲げたのだ。
「あっけないわね!」
拍子抜けした表情でキュルケが叫び、
「――おかし過ぎる。あれだけ荒っぽい真似をしてまで奪ったモノを、
本人が不在なのにまるで隠そうとせず、どうぞ見つけて下さいとばかり
に放置するか普通? こんな真似をして、野郎に一体どんな得が有るっ
ていうんだ?」
予想の斜め上を行く現況に、深刻な疑義を抱きぶつぶつ独り言をこぼす
龍麻だったが、それも『破壊の杖』を見るや雲散霧消してしまった。
「……………。って、二人共。まさかと思うが、そいつが『破壊の杖』
で間違い無いのか?」
「そうよ。あたし、見た事あるもん。宝物庫を見学したとき」
目を“それ”に釘付けにしたまま、唖然とした面持ちで尋ねる龍麻に、
キュルケは頷き答える。
(いや待て。慌てるな。まだ本物だという確証は無いぞ。というか、
何でまたこんな危険ブツが、こんなトコに宝物扱いで伝わってるんだ
!? 冗談にしても性質が悪す……)
「きゃぁあああああ!」
だがしかし。背後から俄かに響き渡った悲鳴に、この場で一人思考の
淵に居座る様な暇は与えられなかった。
「―――ッ!?」
反射的に顔を上げ、片足を軸に入り口側に振り返った瞬間。落雷の様
な異音と共に、小屋の屋根自体がごっそり吹き飛び、撃砕された。
細かい破片と塵埃が落ちかかる中、垣間見える程々に晴れた空。
そして――。視界を覆いつくさんばかりに屹立する影は、全員が見知
ったるモノだった。


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