何千年も生きた大樹のように太い茨の間掻い潜りながら、数え切れないほどの細い茨が人間達を捜し回る。
女王が造り出した茨は、言わばガーゴイルのようなものだった。
茨の蔓は女王の意の儘にその身を動かす。
だが、それは女王の指示無しに彼らが動けないということは意味しない。
一本一本それぞれが擬似的な意志を持ち、独立して女王のために働こうとする。
彼らはそのような存在であった。
女王が造り出した茨は、言わばガーゴイルのようなものだった。
茨の蔓は女王の意の儘にその身を動かす。
だが、それは女王の指示無しに彼らが動けないということは意味しない。
一本一本それぞれが擬似的な意志を持ち、独立して女王のために働こうとする。
彼らはそのような存在であった。
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一般的に、フライの魔法を使いながら他の魔法を使うことはできない。
火系統の魔法が使える者は他の生徒達の背におぶさりながら炎の魔法を唱えていた。
彼らが飛び進む道の横から躍り出る茨の蔓は、皆一様に炎の玉を目掛けて進路を変える。
視力や聴力を持たない茨達は空気の流れの微妙な変化を頼りに獲物を捜していた。
そして彼らは周囲の温度変化を特に敏感に感じ取っていた。
宙を飛び交う炎の玉は、茨に捕らえられるとすぐに消えてしまう。
しかし、炎の玉に触れ接触部の温度を上げた鋼の茨は別の茨によって自由を奪われる。
高温になった茨を獲物と間違えた茨達は、次々と同胞達を地中に引き入れていった。
火系統の魔法が使える者は他の生徒達の背におぶさりながら炎の魔法を唱えていた。
彼らが飛び進む道の横から躍り出る茨の蔓は、皆一様に炎の玉を目掛けて進路を変える。
視力や聴力を持たない茨達は空気の流れの微妙な変化を頼りに獲物を捜していた。
そして彼らは周囲の温度変化を特に敏感に感じ取っていた。
宙を飛び交う炎の玉は、茨に捕らえられるとすぐに消えてしまう。
しかし、炎の玉に触れ接触部の温度を上げた鋼の茨は別の茨によって自由を奪われる。
高温になった茨を獲物と間違えた茨達は、次々と同胞達を地中に引き入れていった。
「……!」
生徒に背負われたコルベールが青白い炎を放った。
前方から迫り来る茨の先端が炎で焼かれる。
炙られた茨の両側から現れた別の茨が、熱を持った標的を縛り上げた。
締め付け合う茨が地中に潜り、前進するための道が開く。
コルベールを先頭に一同は先を急いだ。
生徒に背負われたコルベールが青白い炎を放った。
前方から迫り来る茨の先端が炎で焼かれる。
炙られた茨の両側から現れた別の茨が、熱を持った標的を縛り上げた。
締め付け合う茨が地中に潜り、前進するための道が開く。
コルベールを先頭に一同は先を急いだ。
「ねぇ……」
ルイズが囁いた。
ギーシュの両肩の上から胸の前にかけて両腕を廻し、両脚で腰を挟みながら彼女はギーシュにおぶさっている。
ルイズはメイジでありながら魔法が使えなかった。
空を飛べない彼女は、始めのうちはコルベールにおぶってもらえた。
ところが、火系統の魔法の教師であるコルベールが先陣に立たねばならなくなったため、彼女は誰か他の生徒の背中を借りなければならなくなった。
その時、ルイズ自身はこの状況の中でわざわざ足手纏いになる自分を助けようとする者がいるとは思っていなかった。
周りに居る生徒のほとんどはルイズと面識が無い。
彼女が知り合いと呼べるのはキュルケとタバサ、そしてギーシュだけ。
さらに、唯一の知人である彼らとの仲もそれほど良いというわけではなかった。
ルイズはコルベールに志願者を募るのを止めさせようとした。
彼女は自分の命を諦めかけていた。
しかし、彼女が声を上げるよりも先にギーシュがコルベールに話しかけた。
彼は彼女との同道に志願した。
ルイズを背に乗せたギーシュは今、波打つ茨の群れの間を覚束無い動きで進み抜けている。
「どうして?」
人一人分の重さが加わった状態では、熟練したメイジ以外は思うように飛ぶことは出来ない。
飛行速度が落ちれば、茨に捕らえられる確立は格段に上がる。
炎の魔法を使えない者をわざわざ乗せることなど自殺行為に他ならなかった。
「なんで私なんか」
「僕の、責任だから」
申し訳のなさそうな声でギーシュが答えた。
その声色からはルイズを乗せたことに対する後悔は感じられなかった。
それを切りに、ルイズは彼に話しかけるのを止めた。
ルイズが囁いた。
ギーシュの両肩の上から胸の前にかけて両腕を廻し、両脚で腰を挟みながら彼女はギーシュにおぶさっている。
ルイズはメイジでありながら魔法が使えなかった。
空を飛べない彼女は、始めのうちはコルベールにおぶってもらえた。
ところが、火系統の魔法の教師であるコルベールが先陣に立たねばならなくなったため、彼女は誰か他の生徒の背中を借りなければならなくなった。
その時、ルイズ自身はこの状況の中でわざわざ足手纏いになる自分を助けようとする者がいるとは思っていなかった。
周りに居る生徒のほとんどはルイズと面識が無い。
彼女が知り合いと呼べるのはキュルケとタバサ、そしてギーシュだけ。
さらに、唯一の知人である彼らとの仲もそれほど良いというわけではなかった。
ルイズはコルベールに志願者を募るのを止めさせようとした。
彼女は自分の命を諦めかけていた。
しかし、彼女が声を上げるよりも先にギーシュがコルベールに話しかけた。
彼は彼女との同道に志願した。
ルイズを背に乗せたギーシュは今、波打つ茨の群れの間を覚束無い動きで進み抜けている。
「どうして?」
人一人分の重さが加わった状態では、熟練したメイジ以外は思うように飛ぶことは出来ない。
飛行速度が落ちれば、茨に捕らえられる確立は格段に上がる。
炎の魔法を使えない者をわざわざ乗せることなど自殺行為に他ならなかった。
「なんで私なんか」
「僕の、責任だから」
申し訳のなさそうな声でギーシュが答えた。
その声色からはルイズを乗せたことに対する後悔は感じられなかった。
それを切りに、ルイズは彼に話しかけるのを止めた。
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「むぅぅ~……」
杖を持った右手を組んだ膝の上に置き、左手で頬杖を突きながら女王は座っていた。
右手の人差し指でとんとんと膝を小突き、不愉快そうな顔をしながら彼女は足元を眺めていた。
コルベール達が炎の魔法を使い出してからは、女王の元に捕らえられた人間が届けられなくなった。
そして、その代わりに互いに絡み合った茨達が、さも獲物を捕らえてきたかのような様子で地面の中から現れるようになった。
そのようなことが一時間以上も続くと、さすがに女王も茨達に何か異常が起こったのではないかと気掛かりになり、森の様子を自ら調べることにした。
椅子に座ったままの女王のローブの裾の下からは二本の足ではなく、無数の茨が伸びている。
女王の体から直接生えている茨は他の茨と見た目の変わりはないが、二種類の茨の間には大きな違いがあった。
それは生物や物に宿った生気や魔力といったものを感知し、触れれば立ち所にそれを吸い上げることができるという点だ。
女王は自分の茨を森の中に這わせた。
しかし人間達は既に遠くに逃げてしまったのか、彼女の茨は人間の生気を感じ取ることができなかった。
「おかしいねぇ……」
女王は茨を縮めローブの中に戻した。
「それにしても茨達は何をやってたんだい! あんな鈍間そうな奴らを取り逃がすなんて!」
右手を振り上げ、女王は杖の先で地面を叩いた。
すると、太い茨で出来た椅子が凄まじい勢いでその身を伸ばした。
茨の椅子は女王を乗せたまま地上3000メイルまで高度を上げる。
「そぅれーっ!」
女王が両腕を広げた。
上空に巻き起こった激しい風がドス黒い雲が掻き消し、隠れていた太陽を露わにする。
女王の結界を通過した日差しが紅色の光線となって大地に降り注いだ。
「私の手の内から逃げようだなんて、ぜーったいに許さないんだからね!!」
空高くから地上を見下ろす女王の目に青い小さな光が映った。
紅色の光に照らされた茨の森の中、丁度あと数百メイルで森の外に出られるという所で青い炎が輝いていた。
さらに、日差しのせいで見え難くなっているものの、その青い炎の周りには幾つもの赤い炎が光を発していた。
杖を持った右手を組んだ膝の上に置き、左手で頬杖を突きながら女王は座っていた。
右手の人差し指でとんとんと膝を小突き、不愉快そうな顔をしながら彼女は足元を眺めていた。
コルベール達が炎の魔法を使い出してからは、女王の元に捕らえられた人間が届けられなくなった。
そして、その代わりに互いに絡み合った茨達が、さも獲物を捕らえてきたかのような様子で地面の中から現れるようになった。
そのようなことが一時間以上も続くと、さすがに女王も茨達に何か異常が起こったのではないかと気掛かりになり、森の様子を自ら調べることにした。
椅子に座ったままの女王のローブの裾の下からは二本の足ではなく、無数の茨が伸びている。
女王の体から直接生えている茨は他の茨と見た目の変わりはないが、二種類の茨の間には大きな違いがあった。
それは生物や物に宿った生気や魔力といったものを感知し、触れれば立ち所にそれを吸い上げることができるという点だ。
女王は自分の茨を森の中に這わせた。
しかし人間達は既に遠くに逃げてしまったのか、彼女の茨は人間の生気を感じ取ることができなかった。
「おかしいねぇ……」
女王は茨を縮めローブの中に戻した。
「それにしても茨達は何をやってたんだい! あんな鈍間そうな奴らを取り逃がすなんて!」
右手を振り上げ、女王は杖の先で地面を叩いた。
すると、太い茨で出来た椅子が凄まじい勢いでその身を伸ばした。
茨の椅子は女王を乗せたまま地上3000メイルまで高度を上げる。
「そぅれーっ!」
女王が両腕を広げた。
上空に巻き起こった激しい風がドス黒い雲が掻き消し、隠れていた太陽を露わにする。
女王の結界を通過した日差しが紅色の光線となって大地に降り注いだ。
「私の手の内から逃げようだなんて、ぜーったいに許さないんだからね!!」
空高くから地上を見下ろす女王の目に青い小さな光が映った。
紅色の光に照らされた茨の森の中、丁度あと数百メイルで森の外に出られるという所で青い炎が輝いていた。
さらに、日差しのせいで見え難くなっているものの、その青い炎の周りには幾つもの赤い炎が光を発していた。