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虚無と最後の希望 Level19


level-19「生命」


 ゆっくりと、気づかれぬ様足音を忍ばせて目標が居る部屋へと進む。
 迫る影は六つ、左右二手に分かれているその全てがメイジ。
 一歩、二歩、三歩と忍び寄る。
 杖を引き抜き、いつでも呪文を詠唱できるように構える。
 ただ無言、命令を忠実に実行するだけの人型。

 それらは人間でもガーゴイルでもゴーレムでもない、死して動く肉、『人間だったもの』。
 故に忠実、これらは死した人間に強力な水の魔法を掛けて使役する道具。
 不要なもの、人を彩る感情などを極限までそぎ落とす。
 残るのは生前の戦闘技術と、命令に対しての絶対服従。
 命令されればなんとしてでも遂行する、今回命じられた事も同じくだ。

 明確な殺意を持ってにじり寄る。
 目標は『ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド』と『ガンダールヴ』。
 特徴を学び、命じられたのは殺害。
 鋭い武器、杖でもある得物を持って迫る。
 その杖を、目標へ突き立てんと。



 そうして踏み込む、部屋の中にいる存在を殺すために。
 一人がドアを蹴破り室内へと突入、それに続こうとさらにもう一人がドアを潜ろうとすれば吹き飛ばされた。
 突入した最初のメイジが室内を確認したと同時に攻撃を食らった、首に掛かる強烈な負荷の正体はマスターチーフの右手。
 室内に入り込んできたメイジの首を掴むと同時に、ドア枠と壁をぶち抜いた。

 土埃を舞い上げながら、瞬時に敵の位置を確認する。
 右手に掴む男の首を絞める、軽く500kgを超える握力で瞬時に意識を落とそうとするが。
 首を掴まれるメイジは平然とチーフの腕に組み付き、重荷になる様に纏わりつく。
 不自然だった、これまでのチーフの経験からすればとっくに意識を失っている力の込めよう。
 生態医学などにも則った意識の飛ばし方、類似点も極めて多いハルケギニア人にも問題無く通用すると思っていた。

「!」

 デルフリンガーを床に叩き付けるかのように振るい、飛び奔って来る火の弾を打ち落とす。
 火の弾の大部分をデルフリンガーが吸い取り、残り漂う火の粉を散らしながら駆けた。
 右腕に100キログラムも無い人間が纏わり付いただけで、魔法によって強化されたチーフの足を緩めることはできない。
 走りこんで来るチーフを見て、迎撃の魔法が間に合わないと踏んだメイジは杖を構えチーフを迎え撃つ。

 その判断は正しいのだろう、チーフ以外の相手には。

 迎え撃つメイジが繰り出す突き、槍のように構えるデルフリンガーで簡単に切っ先を逸らされ右腕に組み付いていたメイジで殴り飛ばす。
 拳ではなくしがみ付くメイジの頭を、突きを繰り出してきたメイジの腹へと叩き込む。
 殴り飛ばされ転がるメイジ、だが問題ないと言わんばかりに腕にしがみ付いたままのメイジ。
 振り解こうとしても離れず、強引に解き放つ手間が惜しい故にそのままで次のメイジへと振り返る。

 振り向いた目の前には巨大な石の拳、一気に盛り上がって廊下の天井ぎりぎりまで腕を形作り、振り下ろしに近い打撃。
 予想外の盲点、魔法と言う非常識に地球人類の常識を当て嵌めた愚考。
 10メートルや20メートルもある土や岩の人形を作り出せる事を知っているのに、それを使用する場面が広い場所だと誰が決めた。
 それは限定用途、巨大な人形の腕だけを城を構築する材料で作り上げて敵を攻撃する。
 3メートル以上もの巨大な拳が、マスターチーフを殴り飛ばした。

 普通なら即死、大型の車に撥ね飛ばされたと同等以上の衝撃。
 だが食らったチーフは普通ではない、遺伝子学的、生物学的に、非人道的で過酷な身体強化を施され、人間にしては尋常ではない耐久力を発揮する。
 さらに身体を守る最新鋭強化複合装甲戦闘服、ミョルニルアーマーのエネルギーシールドがキャパシティ限界まで衝撃を和らげる。
 アーマーの表面に、エネルギーシールドが限界を超えた証の小さな閃光が何度も弾ける。
 以前のチーフならば死にはしないが耐えきれず気絶、意識を手放していた可能性が極めて大きい。
 ……以前のままならば、だが。

 この惑星に来てから目の辺りにした不可思議な現象、魔法の力によってマスターチーフと言う存在の力は全てが底上げされていた。
 武器を言う道具を持てばすべての能力が跳ね上がる、自身の身体能力からミョルニルアーマーの性能を問わず。
 有機物も無機物も、問わず武器を持つマスターチーフの全ての限界を優に突破する。
 故に耐えられる、失神せずに耐え切って受身を取れた。

 だから気づく、右腕に組み付いていたメイジの残骸を。

 それはクッションになった、巨大な石の拳とマスターチーフの間に挟まれ僅かばかりだが衝撃を和らげた。
 下半身は潰れて原型を留めず、背中も大きな損傷を受けているメイジ。
 致死、確実に生きていないはずのメイジは恐るべき事に今だチーフの右腕にしがみ付き、変わらず眼球が動き視線を向けてくる。
 明らかなる異常、生物に寄生したフラッド並みの恐るべき耐久力。
 しかしながら限界であったか、腕から力が抜けて嫌な音を立てて床に落ちた。

「………」

 攻撃ばかりに目が行っていたが、メイジとはこれほどまでに耐久力を上げられるものか。
 認識を改めながら巨大な腕の攻撃範囲の外へ逃れる。
 離れればひびが入り自重に耐え切れなくなったのか、崩壊して出来上がった瓦礫の山。
 むしろ破壊して材料を使いまわしたのか。

 そこから盛り上がって立ち上がるは高さ2メイルほどのゴーレム、一体二体三体と増え続けて二桁を超える。
 廊下の端から端まで隊列で揃え、床から引っ張り出すように槍を手に取る。
 多少なりだが装飾もされていて、簡素な石人形が鎧や兜を着けているような姿。
 そのゴーレムたちが一列に並んで槍を構える、その後ろのゴーレムも槍を持ち一列目の隙間から槍を突き出す。
 整列して槍を構えるゴーレムは全く同時に一歩踏み出す、その規則正しく整った姿はギーシュのものと比べ物にならない。

 ゴーレムが作る隊列の向こう側、そのさらに奥では子爵が残りのメイジと戦っているらしい。
 デルフリンガーを握り直し、腰からフラググレネードを一つ手に取る。
 港町で戦った傭兵たちより数段厄介、あの隊列を抜けるのは少々骨が折れる。
 だから一つの武器、『M9 HD-DP Frag Grenade』と命名されている破片手榴弾の使用を決断する。

 ピンを親指に掛けて思う、やる事は何時も一つ、敵陣を突破して目的を達する。
 このメイジたちを打倒して、脱出退路を確保しながらクロムウェルを捕縛する。
 ただそれだけ。

「………」

 足並みを完璧に揃え、距離を詰めてくるゴーレムの戦列。
 一瞬だけフラググレネードに視線を落とし、ピンを抜く。
 駆け出しオーバースローにて、ゴーレムの足元へ叩き付けるように投げ付ける。
 ゴーレムたちはそれに反応するが、攻撃ではないと判断したのかすぐに槍を向け直してくる。
 常識の範囲外、手に収まる直径7cmほどの丸い物体がどうして爆発して人を優に殺傷できるだろうか。

 ガンっと床が割れそうな音を立ててきっちり一秒、グレネードが爆裂すると同時に複数のゴーレムが吹き飛ぶ。
 破片の直撃で四肢が欠損する物や、爆風に煽られて転倒する物、そうして戦列は容易く崩れた。
 戦列に開いた穴に飛び込む、無事だったゴーレムが機敏に反応して槍を突き出してくるが、その突きを上回る速度でデルフリンガーを振り下ろして槍を叩き折る。
 そうしてバランスを崩したゴーレムへすれ違いざまに右拳を叩き込んで殴り飛ばす、そんな様子に人形が戦くわけでもなく一本二本と次々と突き出してくる。

 厳しい訓練を耐え抜いた兵を超える突きの速度、しかし狙われる者は人間を超える身体能力と技術を持つコヴナントから『悪魔』と恐れられた戦士。
 その上魔法で強化された身体能力を持ってすれば、それこそ余裕を持って、確認してから避けられるほどの反応速度。
 迫る槍の一突きを意図も容易く捌いて跳躍。
 前列のゴーレムたちを乗り越え、後方のゴーレムたちを作り上げたメイジへと一気に迫る。

 無論それを易々と認めるわけがない、進路を防ぐようにゴーレムが立塞がるが、突きを繰り出す前に接近、高速でデルフリンガーを振り下ろして破壊する。
 その槍兵の後ろには手堅く剣を握ったゴーレム、同じ体格で同じ武器。
 鍛え上げられた人間を上回る膂力を持つゴーレムに、60トンを超える主力戦車を引っくり返せる膂力が襲い掛かる。
 結果は言わずもがな、デルフリンガーの切っ先がゴーレムを通した後、廊下の床にめり込むほどの力で破壊された。

 馬鹿げた腕力で粉々に砕かれた一体のゴーレムを他所に、目前に迫ったメイジへとデルフリンガーを切り上げる。
 狙いは杖、右手に持っていたレイピアの頭を打ち跳ね飛ばす。
 そのまま流れ顎を捉える振り抜きのアッパー、顎の骨を砕きながらメイジの体が縦に一回転して倒れ伏す……はずだった。
 四つんばいになりながらも受身を取り、そのまま駆け出し体当たりを敢行する。
 そのような不安定な体当たりなど当たるはずも無く、足を掴もうとしてくるタックルを切って腹に膝、肩に肘を打ちつける。

 激しくうつ伏せに倒れるメイジ、それを飛び越え廊下の奥、子爵の元へと走る。
 その間にエネルギーシールドのリチャージが完了して、見えぬもう一つの鎧を再度纏う。
 そうして駆けつける先、子爵と二人の倒れるメイジ、いまだ対峙して子爵へと攻撃を繰り出すもう一人のメイジ。
 その姿は苛烈、血が噴出し半ばまで切り裂かれた首、縦に切り裂かれて二本になった右腕、腹を切り裂かれ腸が飛び出している。

「このメイジたち、おかしいぞ!」

 チーフに気づいて叫ぶように言う子爵、先ほどのメイジと同じように異常なほどの耐久力。
 もう『死んでいて当然の傷を負う』メイジたちが、いまだ攻撃を加えている。
 魔法の力ではないのか、致死の攻撃を受けてなお動き続けるメイジたち。

「まさかこやつら!?」

 子爵が気づいたように、閃光の二つ名に恥じない速度で魔法を詠唱、振り下ろすと同時に風の刃が走り、敵メイジの首を完全に切り落とした。
 そうしてようやく止まる、司令塔である頭部が落ちたためにバランスを取る事無く仰向けに倒れた。
 倒れているもう一人のメイジも、腕や胴に酷い怪我を負っていると言うのに立ち上がろうとしている。

「……この者たちを知っている、クロムウェルの虚無の魔法によって……」

 そう呟き、風の刃を撃ち出して起き上がろうとしていたメイジたちの頭を割る。
 腹を割ろうが腕を切り落とそうが、その程度の怪我では動きを止めることは無い。
 つまりは……。

「……生き返されたメイジか」

 振り返り、先ほど打倒したメイジたちを見る。
 それは礼拝堂で子爵が言っていた、虚無の魔法で蘇ったメイジたち。
 腕に取り付いていた、押し潰されたメイジはさすがに動いては居ないが、殴り飛ばしたメイジと顎を砕いたメイジが立ち上がっていて魔法を詠唱していた。
 それは凶悪だった、怪我を怪我とも思わないメイジたち。
 頭部を切り落としたり砕いたり、それほどの攻撃を加えなければ倒せない兵。

 普通の感性で見れば恐怖を覚えてもおかしくは無い。
 しかしながらチーフにとってしてみれば、痛みなどで怯まなくなった人間程度の変化でしか無かった。
 そこに死んでいると言う事実の付加は、相手に対するマスターチーフの手加減を止めさせる条件でもあった。
 このメイジたちは一体どう言う存在か、そもそも対峙してから一度足りとも表情に感情を浮かべたか? たった一言でも声を漏らしたか?
 否、常に無表情で常に無口、どのような怪我を負おうとも大声を上げて痛みに苦しみ、床に転がり回ることが一切ない。

 これは如何に厳しい訓練を通そうとも、完全に感情や痛覚を消せるものではない。
 過酷にして苛烈な訓練を耐え抜いたマスターチーフですら完全に消し去ることはできない。
 医学的処置により痛覚を除去したり、魔法で心を完全に縛れば可能かもしれない、魔法があるこの世界では後者の可能性の方が高いだろうが・・・…。
 その推察、当たっているか外れているかは分からない。

 そもそもの前提、このメイジたちは『すでに死んでいる人間』だと言うことか。
 死んだ人間を生き返すことなどマスターチーフの世界の医療技術でも不可能。
 ハルケギニアの常識でも死んだ者は生き返らない、ならばこのメイジたちは一体どんな状態なのか。

 勇猛果敢に戦い散っていった者たち、己の誇りと名誉を示すために死んだ者たち。
 謳われるべき英霊、そんな彼らが認められぬ敵に蘇らされ、まるで手足のように操られる。
 どれほどの悔しさか、死んでも死に切れない程の、煮え滾る辛苦を味遭わされる。
 苦痛の極み、そのような苦しみから解き放つことは出来ないのか。

「───」

 ならば二度と蘇らないようにするべきか、良い様に使われる事無いように安らぎを与えるべきか。
 そうすると決めたからには駆け出す、不可思議な魔法の力によって強化された身体能力は、20メイル以上ある距離をわずか1秒という時間で埋める。
 石のゴーレムが同じように槍を突き出すが、デルフリンガーの豪速の振りで纏めて圧し折り。
 まるで戦車のように困難な悪路を平然と突破する、その道中にある障害物を跳ね飛ばしながらだ。
 つまりは邪魔なゴーレムは一度のタックルで複数吹き飛び、障害が無くなればもとより一直線。

 迫り振り上げるデルフリンガーで繰り出した攻撃は凶悪の一言、切れ味など殆ど無い錆びたデルフリンガーを振り下ろされ、杖で受け止めようとしたメイジに、杖ごと押し込められて致命的な一撃を与えた。
 正しく重大な損傷、皮膚を抉り、鎖骨を叩き折り、心臓を潰し、肋骨を砕き、背骨をへし折り、軌跡上の五臓六腑を悉く押し潰し、逆袈裟懸けに人体を両断した。
 骨が折れる音、肉が潰れる音が止み、オーバーキル、過剰攻撃とも思える攻撃をもって攻撃が完了する。

 ビチャリと血肉を撒き散らしながら、衝撃のあまり両断されたメイジが激しく転がり壁にぶつかった。
 そのまま斜め前に走りこむ、火の弾を打ち出してきているもう一人のメイジへと接敵。
 右から左へ振り払って火の弾を打ち消し、踏み込みの逆の軌跡を持って一閃。
 超高速のデルフリンガーの打撃、右側頭部から強かに刀身で殴りつけられ、首から上を叩き飛ばした。
 激しく頭部が廊下の壁に叩きつけられ、それによって血が壁や床に飛び散り、白を基調とした城の廊下を紅で彩り、そうして首から上が無くなったメイジは倒れた。

「……こんなものが、こんなものが虚無だと言うのか!!」

 そうして生き返されたメイジを打ち倒してから一息、その背後から憤りが大多数を占める叫び。
 その声に振り向けば、怒りの形相で立ち尽くす子爵。
 憤慨、人を生き返らせると言うのは感情を無くして動く人形。
 認められるはずは無いと、子爵は激しい怒りを浮かべていた。

 死んだ人を生き返らせる、それはまさしく究極の夢。
 だが現実は死して動く肉、思い描く夢とはあまりにもかけ離れたモノ。

「こんなものを、私は求めていたのか……」

 子爵がどのような幻想を抱いていたかは知らないが、幻滅するには十分な事実であったのだろう。
 伝説と謳われる始祖ブリミルが扱った虚無、確かに今現在の貴族が使う魔法とは一線を画している。
 間違いなく強力な魔法だ、このような存在が増えれば間違いなく厄介所か極めて危険な状態だ。
 寄生虫、フラッドとも通じる、戦って死んだ者が乗っ取られて敵として襲ってくる。
 戦いになれば必ず犠牲者が出る、そしてその犠牲者が取り憑かれ異形の化物になって襲ってくるのだ。

 減ることがない敵、それは肉体的にも精神的にも大きな負荷を掛けることとなる。
 そして味方が、さらには自分の友人などだったりすればなお更だ。
 現に子爵の顔色は悪い、間違いなく今の戦いで疲弊したのだろう。

 6名のメイジを全て葬り、血の付いたままのデルフリンガーをそのまま腰に据える。

「拭くもんが無いとは言えね、そのままはいやな訳よ」

 とデルフリンガーはすごく遺憾だと鍔を鳴らして喋る。
 拭くのも良いが、まずは移動する方が先だ。
 顔を伏せていた子爵に近づき、肩に手を置いて移動しようと促す。

「……悔いる暇は、ないか」

 歩き出し、その後に子爵が続く。
 落ち込むのは無事に帰還してから、今は任務を完遂する事が第一。
 やるとするならば、クロムウェルを捕獲なり暗殺するなりして、二度と使わせない様にする事だ。





 部屋の前の惨状をそのままに、二人は走り廊下の先にある階段へと向かう。
 時間が経って戻ってこなければ失敗したと判断され、増援が送られる可能性が高い。
 もうすでに送られている可能性もある、故に素早く動いて退路の確保を目指す。
 目指すのは階下、城の上階に脱出するための風竜が居たり、クロムウェルが居たりはしないだろう。

 そうして走る廊下は人気が無い、レコン・キスタが制圧したにも拘らず人気が全くと言って良いほど無い。
 それが不気味、窓の外には竜が飛び交い、城の外ではレコン・キスタ軍がキャンプを張っている。
 あのようなメイジを差し向けてきた事から、向こうは当然こちらを殺そうとしてくるはずだ。
 なのに人気が無い、城の外に居る兵を使えば間違いなくこちらは苦戦し、いずれは殺されるだろう。
 そうしないのは理由があるからか、やはり迂闊に決め付けるのはよくないが……。

「たった二人相手になぜ畳み掛けない? 確かに手練れのメイジ6人を打ち倒したとは言え……」

 子爵も同じ疑問を持つ、ここで手を抜く理由が分からない。
 そもそも先の生き返されたメイジをもっと送り込めば、あの時点で決着が付いていた可能性も大きい。
 過小評価か、あるいはそれを適切だと思ったか、どちらにしろ生きて今ここに居るのだから良しとするべきか。
 疑問が残るとはいえ、実際問題敵の影一つすら見えない。

「……予想してたとは言え随分と過酷だったな」
「そうでもない」

 モーショントラッカーと視界と音、すべてに警戒を払いながらも廊下を歩き続ける。
 そう言って否定するマスターチーフが赴く戦場は、その殆どが困難と言える。
 敵に包囲されている、孤立無援、敵本拠地など、最精鋭特殊部隊隊員として最も苛烈で過酷な戦場へと送られる。
 数名のサポートが付く、強力な武器が支給される、支援を受けられる、どれか一つでも付けば御の字と言えるほどだ。
 故にマスターチーフからして見れば、この状況は一般的な海兵が通常の戦場に送られる程度のものと変わり無い。

「問題はクロムウェルがどこに居るかだ」

 無論死ぬ気など無いために、必ずこの状況の打破、そして目的の達成を考える。
 少なくとも城内には居ないだろう、居るとすれば城の外のレコン・キスタ軍のキャンプ。

「どうやって向かう? 正面からはさすがにチーフでも無理だろう?」
「できない事はないが……」

 万の兵とは言えその殆どが剣や槍、銃より断然短い射程と速度の弓矢。
 魔法についても威力はあるが弓矢より射程距離が短い、範囲攻撃の類で無ければ十分切り抜けられる。
 その時その時で的確な判断が求められるだろうが、不可能ではないと考えるチーフ。
 相手の武器が近代兵器、銃などであったなら切り抜けるのは不可能だと考えるが。

「……出来るのか?」
「不用意にメイジの一団に近づかなければおそらくは可能だ」

 増しては不可思議な魔法の恩恵を受けていることから、効果がずっと続くならより可能性は上がる。
 そうワルドに言うチーフ、言われたワルドは驚きに目を剥いている。

「やらない事に時間を費やしても意味が無い」

 出来ない事、では無くやらない事と断言する辺り、やれば出来ると言う自信が垣間見え、より驚くワルド。

「子爵を置いていく事になる、それでは意味が無い」

 チーフ一人であったならやっていたかも知れないが、ワルドは付いて行けないだろう。
 ワルドも五体満足でトリステインに戻る必要があるためだ、置いてけぼりになれば間違いなく捕まって殺され、あの生き返されたメイジのようにされるだろう。

「まずはクロムウェルだ」
「……ああ、確かに」

 廊下の窓際に寄り、外を覗く。
 広がるのは青空と平原と、その平原に陣取るレコン・キスタ軍。

「子爵」
「……普通であれば、あの一際大きな天幕だろうな」

 窓の外の陣地、万の兵が蠢く平原の中、ほかの天幕より一回りも二回りも大きな天幕。
 直線距離で2リーグはあるだろう距離でも見える大きな天幕だ。

「走って行くのは不可能……、空でも飛ぶか?」

 冗談半分で言う子爵。
 それを聞いてチーフは一つの考えが思い浮かぶ。

「……そうするか」
「なに?」

 その言葉を本気で取るとは思っていなかった子爵。
 ここ数分で何度も驚く子爵に、向き直って自分の作戦を聞かせた。

「……馬鹿な、失敗すれば死んでしまうぞ!?」
「問題無い、慣れている」

 声を荒げる子爵に淡々と返すチーフ。

「普通に行けば十中八九やられる」
「だからと言って……」
「死にはしない、お互い生きて帰らなければならない」
「……わかった、この命預けよう」

 覚悟の込められた視線をチーフに向けるワルド。
 『普通』で駄目なら『普通ではない』方法を取るだけ。
 この男、マスターチーフにとって普通ではない事は幾度も経験し、『慣れている』。
 伊達に博打の様な作戦を何度も成功させてきた訳ではない、故に今回の作戦も『普通ではない普通』、チーフからすればごく普通の作戦であった。


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