あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ナイトメイジ-35


石で組まれた広い部屋はそれまでとは造りこそ同じであったが、一歩踏み込んだときから今までの通路や部屋とは違うことが知れた。
部屋の壁や床には7つの意味も効果もわからない魔法陣が描かれていた。
といっても、それになんの力もないことは、ベルが魔法陣の中に足を踏み入れてすたすた歩いてもGマンティスのいた部屋の封魔陣のように光らないところから見ても明らかだ。
なんの華やかさもない飾り以下の模様、あるいは落書きでしかない。
ではあるが、
「おお、これが!」
この部屋には、フォートレスの役割の象徴とでも言えるものをが、一つ前の部屋で見たジャイアントパンダとは、また違った異様さを見たせてたたずんでいた。
「これが、これが!竜の羽衣なのですね!」
9メイル強の長さのカヌーにも似た金属の胴体、その片方の端に胴体に比べてやや小さめの風車をもつそれが、竜のように自在に空を舞うという竜の羽衣なのではないかと思わせるのは、これまた金属でできた長い一対の羽と短い1対の羽を持つからである。
ルイズは竜の羽衣をとりあえず端から端まで眺めてみた。
短い羽のある方が前で、風車のある方が後ろだろうか。
いやいや、短い方の羽の間にはぴょこんと一枚だけ縦に立っている羽がある。
あれは尻尾を思わせる。それなら向こうの方が後ろで風車の方が前なのかもしれない。
「先生、これはどう見たって名前だけのインチキですよ。この羽はどう見てもがっちり胴体にくっついている。それに、これはゴーレムでもガーゴイルでもない。これじゃ羽ばたけないから飛べるはずがないですよ」
ゴーレムやガーゴイルなら金属の堅さを無視して羽ばたけるのだろうが、竜の羽衣はそんなものではない。
「いやいや、ミスタ・グラモン。そうでもないですよ」
コルベールは竜の羽衣を一目見たときからその隅々まで見ようと、さっきの部屋でルイズ達がパンダを見ていたのと同じくらいに目を懲らしていた。
今は竜の羽衣の前肢みたいなものの隙間からその中を覗き込もうとしている。
「鳥や竜は絶えず羽ばたいているわけではありませんよ。羽を広げたまま羽ばたかずに飛んでいることもありますよ」
「それでも飛べませんよ。地面から飛び立つときには、竜も鳥も羽ばたくじゃないですか」
「いやいや竜も鳥も上昇するときには羽ばたくばかりでなく、翼に風を受けることでも舞い上がりますぞ」
「でも、この竜の羽衣は風竜くらいはありそうですよ。風竜を羽ばたきなしで上昇させるほどの風となったらかなりの強風じゃないないですか」
「その秘密はおそらくあの、風車にあるんじゃないかと考えられますね」
「あんな小さいのに?」
「ええ」
「竜の羽衣は飛べるんですか?」
「研究してみる価値はあると思いますね」
──これがねえ……
とは言っても、ルイズは信じられない。
が、自分なりに調べてみる。
フネみたいに風石を詰め込めば何とかなるかも、と思って竜の羽衣の胴体と叩いてみた。
響く音が帰ってくる。
なるほど、中はがらんどうのようだ。
これなら風石を詰め込むスペースもあるだろう。
どのくらいがらんどうがあるのかともう二三回叩いてみた。
「あ……」
べこん
胴体が
へこんだ
ちょうど握り拳の大きさにへこんでいる。
ルイズは振り向いた。
キュルケは気があるのかないのかわからない顔をしているものの、竜の羽衣を見ていて、こっちはまだ見てない。
それに比べてタバサは何か琴線に触れるものがあったのか、竜の羽衣の大きい方の羽に手を伸ばしている。
「これは大収穫です。竜の遺跡にふさわしい一品ですぞ」
コルベールはギーシュとなにやら議論しながらさっきからこの調子だ。
これなら多分、いや絶対に気付かれていない。
──黙っていることにしよっと。私はなにもしていない。最初からへこんでいた。
ルイズはそう決めた。
「あのう……」
シエスタの声にルイズはびくつく。
まさか見られていて、それで声をかけられたのでは、と思ったのだ。
だがシエスタが声をかけているのは自分ではなくコルベールである。
びっくりして声がどこから聞こえたのかもわかってなかったようだ。
「こんな事を聞くのは失礼かもしれないんですが……竜の遺跡ってなんのことですか?」
「もちろんここのことですよ」
何か言いにくいことでもあるのだろうか。
シエスタはどうしようかと目を泳がせて、おずおずとコルベールを見た。
「ここって、竜の遺跡って所じゃないはずですよ」
「え?いや、しかし」
コルベールは取り出した地図に目を走らせる。
それによると、確かにここは竜の遺跡の筈だ。
「だって、ここって遺跡って言うほど古くないんです」
「なんですと?」
「ここを作ったの私のひいおじいちゃんなんです。だから、遺跡じゃないんです」
「で、ではこの竜の羽衣は?」
さっきの喜びようからは急転直下。
コルベールの顔は目に見えて青ざめていた。
「え?竜の羽衣?」
「ええ、そうです。これは竜の羽衣ですよね?」
「ちがいます。それ、竜の羽衣じゃありません」
「でしょうね」
竜の羽衣を叩く音と一緒にベルの声が聞こえてきた。
そっちを見るとベルがルイズが作ったへこみをの上をこんこん叩いていた。
何か言われるんじゃないかと思ったルイズは一瞬背筋が冷たくなったが、ベルは何も言わずにへこみをわざとらしく叩き続けている。
「では、これはなんなのですか?」
「あ、これね」
ベルはリンゴや苺のような当たり前のものを説明するようにさらりと答えた。
「タケちゃんのゼロ戦よ。懐かしいわね」」
「ちょっと待ちなさいよ!」
毎度のことだが、この使い魔は聞き捨てならないことを言う。
「どういうことよそれ」
「どういうことって……これ、ゼロ戦っていうのよ」
「なにそれ」
「空を飛ぶための道具ってところかしら」
「それも気になるけどタケちゃんとか、懐かしいってどういうことよ」
「ああ、そっち。これ、私の知り合いが昔使ってたものなのよ」
「知り合い?」
「そう。ほら、ここの入り口に書いてあったでしょ。佐々木武雄。聞いたことある名前だからもしかしたら、と思ったけどこの「辰」付きのゼロ戦があれば間違いないわね」
ベルがゼロ戦と呼ぶ竜の羽衣の風車の近くには意味不明の模様が描かれていた。
どうやらあれは竜を意味する文字らしい。
「あんた、そのタケちゃんとどういう知り合いなのよ」
「そうね……」
ベルがどこともしれない空中を見つめる。
「一言ではいい笑わせないけど」
「けど?」
「いろいろあった知り合いだったわね」


それは何十年も前の話である。
ハルケギニアとは違う世界。
ルイズの知らない太平洋と呼ばれる海の上に地図にも載っていない島があった。
それもそのはず。この海域には数十分前までは島の姿は影も形もなかったのである。
突如洋上現れたこの島はその存在自体が不可思議なものではあるが、その上にある数々の建築物もまたさらに不可思議なものであった。
7つに区切られた区画に存在する建物はもちろんハルケギニアにあるいかなる建築物とも共通点を持たない。
それどころか、この世界にあるいかなる建築物とも似ていないのだ。
いかなる賢者、学者であろうともこの建築物の由来を説明できないに違いない。
そして島を見下ろす遙か上空に人影があった。
体を潮風に晒し、いかなる支えも無しに空に浮かぶ影こそはベール・ゼファーである。
数十年前であるにもかかわらず彼女の姿は今と寸分も変わりない。
億の年月を経てなお生き続ける彼女にとっては数十年という月日などものの数ではないのだ。
「ええ、そうよ。ここに来るために。この遺跡を復活させるためにあなたを利用したのよ」
低いエンジン音を立て、風を切る濃緑に塗られた機体が彼女の周りをが旋回する。
その黒いつや消しカウリングには白抜きで「辰」の文字が書かれていた。
「お礼を言うわ。タケちゃん」
渦巻く風の中であってもベール・ゼファーの声は佐々木武雄に届く。
彼女は人知を越え、世界を破壊しうる力を持つ魔王なのだから。
「いろいろしたわね。欧州じゃ軍と追いかけっこしたり、西蔵じゃ片手に西蔵をあっちに行ったりこっちに行ったり」
耳を貫くエンジン音の中あっても佐々木武雄の声はベール・ゼファーに届く。
彼は失われた魔法を操り、世界を守るウィザードなのだから。
「でも、それもこれも全てこの遺跡を復活させるため」
ベール・ゼファーが腕を振る。
七つの区画によって作られた七つの魔法陣がそれぞれ別の魔力を蓄え始めた。
「今の世界結界の中では結構苦労したけど。これであなたの役目も終わったわ」
それはこの世界に存在する7つの属性を持つ魔力。
光を伴い時に脈動し、そして力を強めゆく。
「どうするって、決まってるでしょ?この世界を滅ぼすのよ」
旋回するゼロ戦が機首をベール・ゼファーに向けた。
機銃を中心とし、二つの魔法陣が生まれる。
通常の弾丸ならそれがいかに大口径であっても魔王であるベール・ゼファーに傷を負わすなどできようはずもない。
彼女を倒せるのは、この世界ではすでに失われた魔法の力のみ。
魔法陣はその力を弾丸に与えるのだ。
続けざまに火薬の爆ぜる音がした。
「そう。残念。大人しくしていれば世にも珍しい世界が滅びる様とその後をじっくり見せてあげようとしたんだけど……そういうつもりならしょうがないわ。ここで終わってプラーナの全てを私に捧げなさい。佐々木武雄!」
火線に晒されるベール・ゼファーの顔には笑みがあふれていた。



「あの後だったのよね。遺跡が暴走して全部だめになっちゃったのは。プラーナだけでもいただこうかと思ったけど、タケちゃんもいなくなるし。決着つかずでどこに行ったのかと思ってたけど、こんなとこに来てたんなら探してもいないはずね」



なにやらベルには思うところがあるのだろうか。
多分あるのだろうが、どんなことがあるにしてもルイズは一つだけ確信を持っていた。
「迷惑かけてたんじゃないでしょうね。その、佐々木武雄?シエスタのひいおじいさんに」
「全然。むしろ私が面倒みてあげてたわ」
大変疑わしい。
というか、ほぼ間違いなく大迷惑をかけていたに違いない。
ベルだって身分が低いわけではないのだから、平民を使うのは当たり前なのだが、これの場合、それが度を超していそうな気がひしひしとする。
なんというか、シエスタがかわいそうになってきた。
曾祖父、ひ孫そろってベルが面倒をかけているのだ。
なんかこー、運命じみたものまで感じてしまう。
まことにありがたくない運命だが。
だんだんこめかみを押さえたくなったが、そんなルイズを置いて話は進んでいく。
「しかし、これが空を飛び、竜を意味する文字が書かれているのなら、そこから竜の羽衣と呼ばれたのではないですか?」
「いいえ、そうじゃないんです。竜の羽衣は他にあるんです」
シエスタは部屋の一角に駆け足で向かう。
そこにあるものもまた、トラップやクリーチャーがいる遺跡には何となく場違いなものだった。
大きく、とても頑丈そうな木の棚に、がらくたじみた何に使うのかもわからない金属の塊がいくつも押し込められているのだ。
シエスタはその金属の塊を一つ引っ張り出し、手につり下げるようにして持ってきた。
「これです。本当は竜の羽衣って名前じゃないみたいですけど」
「ほう?」
これもまたどう使うのかよくわからない代物だ。
複雑に金属の部品をいくつも組み合わせて作られた人間の胴体くらいの太さの棒とでもいえばいいのだろうか。
「これが……飛ぶのですか?」
コルベールが疑うのも無理はない。
ゼロ戦には羽があって、それが空を飛ぶ道具であると思わせる要素となっていたが、この新しくシエスタが持ち出した竜の羽衣と呼ぶ金属の塊には羽はなく、その他の空を飛ぶと思わせる要素もなにもないのだ。
「いえ、今は飛ばないんです」
「今は、というと?」
「これ、壊れちゃってるんです」
よく見れば不自然なところが塊の一端にあった。
他の部分は、どのようなものかはわからないが、何らかの意図を持って作られた部品であることが伺える加工の後が見られるのだが、その一カ所だけが不自然に歪んだ断面を見せているのだ。
ここにあった金属の部品に大きな力を加えてへし折ればこんな断面になるであろう事は、土のメイジではないルイズにもわかる。
「直らないのですか?」
「ひいおじいちゃんは直そうとしてたみたいす。けど、直せなかったみたいなんです」
「ほう」
「ほんとはここに長い剣がついているはずだそうなんです。それが折れたから飛べなくなったって言ってました」
「剣なら売っているのでは?」
「はい。ですから、ひいおじいちゃん、いくつも剣を買ってきて試してたんです。あげく、自分でも作ったんですけど材料が悪いってどれもだめだったみたいです」
「なるほど。是非直してみたいですな」
直してみたいと言っても、持ち主が直せなかったのだ。
そう簡単に直せるとは思えない。
「長い剣ですか」
コルベールは顔を上げてシエスタを見た。
「長い剣……」
ギーシュがシエスタの肩を見る。
「剣ねえ」
キュルケがシエスタの肩から腰にかけて視線を動かした。
「剣……」
タバサがシエスタの背中を見た。
「剣ねえ」
ルイズの目は、シエスタの背中に担がれているデルフリンガーで止まった。
「お、おい。なんだお前ら。その目はなんだ?悪い予感しかしねえぞ」
カタカタと鍔元で音を立てている。
しゃべる度に音が出るのは、デルフリンガーの構造上しかたがないのだが、今はそれが震えて歯の根が合ってない音のように聞こえる。
「ま、うだうだ言っててもしょうがないわ。ちょうどいい長剣もあるんだし、試してみましょ」
ベルがひょいと壊れた竜の羽衣を小脇に抱え、シエスタの背中からデルフリンガーを抜く。
気付けばもうベルの手の中にその二つがあった。
「おい、待て。だいたいわかるが何をする気だ」
「もちろん直してみるのよ」
「お前それの直し方知ってるんだろうな」
鼻で笑うベルは胸をはる。
「見たことくらいならあるわ!」
「まてぇええええええええええ」
「ところで、シエスタ。タケちゃんが修理に失敗したら剣はどうなってた?」
「全部壊れてました。こう、ぽきっと折れちゃってて」
「わかったわ。なら問題ないわね」
「やめろぉおおおおおおおおお」
わめくデルフリンガーの鍔元にベルが口を寄せる。
が、デルフリンガーも今回ばかりは黙る気はないようだ。
「嫌だあああ。死にたくねええええ」
「安心しなさいよ」
「どこをどう安心しろって言うんだよ」
「奇跡が起これば直る上に折れないから」
「無茶苦茶言うな!」
そしてこれまたベルは堂々と宣言する。
「奇跡の一つくらい起きるわよ!起こしてみせるわよ!」
「そんな簡単に奇跡がおこるもんかーーー!」


がんがんがん
「ちょ、ま、やめろ」
どんどんどん
「まがる、まがる、おれる、おれる」
ちゅいーーーーん
「あぎゃ、うぎゃ、ぐぎゃ、へぎゃ」
どがががががが
「むりやりねじこむな!」
くぎゅぅーーーーーん
「あががあがががががががっ……!」


この時、奇跡が起きまた。とゆーか、起こした。
とにかもかくにも何をしたかルイズにはさっぱり不明だが、とにかく奇跡的に修理はできたみたいだ。
金属の塊の壊れた部品は取り除かれ、代わりに柄を外したデルフリンガーがねじ込まれてがっちり固定されている。
「あの音……」
ルイズが聞いたこの世のものとは思えないそれもまた不明である。
「お、おい。俺はどうなっちまったんだ」
デルフリンガーが息も絶え絶えにつぶやく。
それはルイズも知りたいことだ。
どうやら竜の羽衣はこの謎の道具の正しい名前ではないらしいし。
「安心なさい。手術……じゃなくて修理は無事完了よ」
「そうか」
ほっとするデルフリンガーにベルは言葉を続ける。
「というわけであなたは今日から剣じゃないわ」
「なに!なんだそりゃ」
そしてベルは驚愕の事実を告げたのである。
「あなたは今日から剣じゃなく「箒」よ」
「なにーーーーーー」
「だから名前も変わるわ」
「かってに変えるな!」
「その名もデルフリンガー改めデルブルーム!」
「名前からして箒かよ!」
「長いからデルフって呼ぶけど」
「おおおおおい」
まあ、それはそれとしてだ。
どうしても聞き捨てならないことがある。
「ちょっと、ベル。それ箒って本気?」
「そーよ」
「箒って掃除に使う?」
「そーよ」
「どこの世界に剣がついた箒なんてあるのよ!」
「ここにあるじゃない。それに私が前にいたとこにもあったわよ」
「だいたいそれって空を飛ぶ道具じゃないの?」
「そーよ」
「なのに箒?」
「そーよ」
「全然箒に見えなくても?」
「そーよ」
どう見ても変な細工を柄代わりにした剣にしか見えないがそうらしい。
「何で箒なんかで空飛ぶのよ!」
「魔法使いが空飛ぶのに使うのは箒ってのはアタリマエじゃない」
「どこの世界のアタリマエよ!」
「私が前にいたところのアタリマエ」
うがー、と叫びたい気分になるが実行するのはやめた。
そんなところのアタリマエなんて知るはずがない。
まあ、いい。形については妥協する。
遠い国ではあれで掃除をするんだろう。
何せ遠い国なのだから。
そう思うことにした。
「何でよりにもよって箒なんか使うのよ!空飛ぶんだったら竜使いなさいよ、竜!」
「それは無理ね」
「何でよ」
「これ使ってるとこじゃ竜がほとんどいないんだから」
それならしょうがない。
いないものは使えない。
「じゃ、じゃフネ使いなさいよ。風石使えばいいでしょ」
「それは無理ね」
「何でよ」
「これ使ってるとこじゃ風石取れないんだもん」
それならしょうがない。
ないものは使えない。
ではあるのだが、いくらなんでも箒はないと思う。
だいたい、どう考えたって飛びそうにない。
「い、いやだ」
だが、そんな疑問などにはかまってられない者がいた。
元デルフリンガー、現デルブルーム、略称デルフである。
「お、俺は箒じゃねえ、箒じゃねえんだ」
歯──刃じゃなくて歯──をギリギリとくいしばり、唐突に立ち上がる。
「おれは、おれは……剣だーーーーー!」
魂の奥底から絞り出すような悲鳴と叫びを上げ、デルフは自力で浮いた。
「剣、剣なんだよーーーーーっ」
そして唯一開いている出口から飛び出してしまったのである。
「……とんだわね」
しかも予想外に結構高速で飛んでいる。
ルイズは箒が飛ぶなんて半信半疑だったが、目の前でああも飛んでいるところを見れば認めざるをえない。
人間は風石や竜がないと空を飛ぶのに箒を使うようになるのだろうか。
おかしな話ではあるが、箒が空を飛ぶのは見てのとおりである。
ルイズはゼロ戦を見た。
あれもシエスタのひいおじいさんが使っていたもので、しかも空を飛ぶ道具らしい。
それならきっと箒の一種なのだろう。
フネだって軍艦と商船では共通点もあるが大きさも形もずいぶん違うんだから、箒も用途によって形も大きさも違うのだろう。
「いろいろあるものね」
世界にはルイズの想像もつかない文明があるようだ。
その広さについてまた認識を新たにしたルイズであった。


デルフリンガー改めデルブルームは飛んだ。
全速力で飛んだ。
そうせずにはおれない気分だったのだ。
薄暗いフォートレスを抜け、じめじめした洞窟を突っ切り、うっそうとした森の中をただひたすらに飛んだ。
行く手に立ちふさがる木や草を自らの刃で切り払い、ただまっすぐに飛んだ。
ふと、気付くと川があった。
水のせせらぎに誘われ、岸辺にたどり着いたデルフリンガーは水面に映る自身の姿を見た。
「お、おおおおう。なんてこった」
この変わり果てた姿はなんということだろう。
柄があるべき場所に着いているのはわけもわからぬ金属の塊。
長い刃はまだあるものの剣としてはあまりに滑稽な姿だ。
いや、すでにデルフは剣ではない。
箒なのだ。
「俺もうはだめだぁ」
そう思うと体から力が抜けていく。
デルフは倒れる体を重力にまかせ、水の中にその身を投げ出した。
「待って下さい!」
肩──に当たるのだろうか、そう思える場所を誰かが掴んだ。
支えられるままに振り向くと、そこにはシエスタがいる。
「デルフさん!早まらないで下さい」
「いいんだ。もうほっといてくれ。俺はもう剣じゃねえんだ」
「剣でなくなったからそんなことするんですか?」
「そうさ。俺は剣だった。だからいつか現れる使い手が俺を使うはずだったんだ。ところがどうだ。今の俺は。剣じゃなく箒になりはてたんだ」
「そんな……」
「ああ、箒でもいいさ。箒でも。だけどよ、こんなヘンテコな箒を使うやついるはずがねえよ。誰ももう俺を必要としねえのさ」
「そんなことないです!」
シエスタがデルフの肩……みたいなとこを掴む。
「私がデルフさんを使います。だから、こんなことしないでください」
涙が出そうになった。
だが、涙を流さない。
インテリジェンスソードだから、長剣だから。
だだっだー
「あんた……優しい人だな」
鍔元をかちんと鳴らし、デルフは顔を上げた。
「それなら俺もまだ終わるわけにはいかねえや。お嬢ちゃん、よろしく頼むぜ」
「はい!」
目に光が入ってきた。
沈む太陽の赤い光が木々の間を抜けている。
太陽は何故沈むのか。
それは新しい明日を作るためだ。
デルフもまた、その明日を迎えたいと思った。
「よし、お嬢ちゃん。あの夕日に向かってダッシュだ!」
「はい!」


見ていたルイズは口をぽかんと開けるしかなかった。
いったいどういう考えをすれば、ああいうことになるかさっぱりわからない。
だが2人……もとい1人と1本はその結論に至るのは当然とばかりに太陽目指し突っ走っている。
ルイズはだんだん不安になってきた。
元々何となく嫌な予感がしたのでデルフとシエスタを追いかけてきたのだが、こうして追いついてみるとその不安は止むどころかどんどん大きくなっていく。
それはすぐに限界を迎え、耐えられなくなったルイズも太陽に向かって走り出した。
ここで2人を止めないと何か取り返しがつかなくなるような気がしたのだ。
「ちょ、ちょっと待ってー!どこに行く気?戻ってきなさーーーい」
ルイズは走る。
シエスタとデルフを追いかけ、長い影を背にどこまでもどこまでも。
ああ、すばらしきかな青春。それは太陽の季節。



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