「君達が学院を出て行った後じゃ、あの亜人が先住魔法を使ったのは」
列の先頭を歩きながらオスマンは事の仔細を伝える。
「奴が両手を天に掲げると、学院の回りから巨大な植物が生えてきおってな。
我らはものの数秒も経たん内に閉じ込められてしまったのだ」
「我らって……オールド・オスマンの他にも無事だった人がいるんですか?」
ルイズが意外そうな顔で訊ねる。
「ああ、ミスタ・コルベールとミス・ロングビルあの時一緒に居たのでな。
……それで閉じ込められてから数分すると、窓の外が急に曇り出して来おった」
彼らは宝物庫へ向けて足を進める。
「その時丁度、ミス・ツェルプストーの叫び声が聞こえての」
(やだ……)
キュルケはタバサに縋り付いて叫んでいた自分を思い出して顔を赤くした。
「声のした方向を照らしてみたら、やっぱり君らが居たというわけじゃ。
……で、それ以来亜人からこちらへの攻撃は止んだままというわけじゃ」
「どうして攻撃、してこない?」
タバサが小声で独白した。
彼女には合点がいかない事があった。
巨人はその気になればこの学院ごと自分達を捻り潰すことなど容易いはず。
それ故、何故自分達を学園まで連れ戻したのかがわからなかった。
「楽しんでいるのじゃろう」
オスマンは即座に答える。
「そのような目を、あの亜人はしていた。自分より小さく弱い者を踏み躙って嘲り笑う……我らを生かすも殺すも奴の気まぐれなのかもしれん」
「まるで貴族と平民の関係ね」
キュルケがため息を吐いた。
「ツェルプストー! それってどういう意味!?」
食い掛かるルイズを無視して、キュルケは毒突きを続ける。
「深い意味は無いわよ。自分より弱くて小さい奴を弄ぶ、現にそういう貴族は一杯いるでしょう?」
この世界において貴族――魔法を使うことのできる者・メイジとそうでない者の間にある溝は大きい。
いつの時代でも、貴族は圧倒的な力を以て平民を平伏させて来た。
「貴女だってそうでしょう? 勝手に呼び出した平民を自分の使い魔にして」
キュルケは鋭くルイズとサイトの関係を指摘する。
昨日ルイズがサイトと結んだ契約、サイトを使い魔にするという契約は彼の同意を得たものではなかった。
「それは……あんたには関係ないじゃない!! 何よ偉そうに!」
目を赤く染め、ルイズは後ろに居るキュルケに掴み掛かった。
「全部ほんとのことじゃない!」
キュルケはルイズの両腕を掴み返し彼女を壁に押し付ける。
胸と腰を当て、押し潰すようにルイズの体を圧迫する。
「止めんか!!」
オスマンは怒声を上げながら杖の先で床を叩いた。
静まり返った通路に怒号が木霊する。
「このような状況じゃで何かに当たりたい気持ちはわかる。じゃが、今はいがみ合っている場合ではないわ!」
ルイズとキュルケを引き離し、オスマンは諭すよう一同に語る。
「我らがすべきことは、一刻も早くこの学院から脱出することじゃ!」
言い終わるとオスマンは今までよりも歩調を早めた。
彼に合わせてルイズ達も足を急がせる。
それ以来、誰も口を開こうとはしなくなった。
些細な口論をきっかけに確執を広げるのは得策ではないからだ。
極限状態での不安と焦りは正常な判断を狂わせ兼ねない。
彼らはそれ程までに追い詰められていた。
「オールド・オスマン!」
宝物庫の入り口まであと少しという所で前から男の声がした。
額から頭頂部にかけて大きく禿げ上がった眼鏡の男がオスマンに走り寄る。
「おお、ミスタ・コルベール。して、外の具合はどうじゃったのだね」
オスマンはギーシュ達が学院に戻るより前に、コルベールとロングビルを使いに出していた。
「はい、それがあの植物、茨の蔓のようですが、想像以上に頑丈でして」
コルベールは学院の周りに生えた巨大植物の調査を命じられていた。
「炎で焼き払おうとしても表面が熱くなるだけでどうにもなりませんでした」
コルベールの目には失望が浮かんでいる。
「ふむ……やはりそうか」
オスマンはコルベールの隣を通り過ぎた。
そして一同に背を向けたまま呟いた。
「わしは破壊の杖を持ってくるでな。ミスタ・コルベール、彼らのことは頼んだぞ」
列の先頭を歩きながらオスマンは事の仔細を伝える。
「奴が両手を天に掲げると、学院の回りから巨大な植物が生えてきおってな。
我らはものの数秒も経たん内に閉じ込められてしまったのだ」
「我らって……オールド・オスマンの他にも無事だった人がいるんですか?」
ルイズが意外そうな顔で訊ねる。
「ああ、ミスタ・コルベールとミス・ロングビルあの時一緒に居たのでな。
……それで閉じ込められてから数分すると、窓の外が急に曇り出して来おった」
彼らは宝物庫へ向けて足を進める。
「その時丁度、ミス・ツェルプストーの叫び声が聞こえての」
(やだ……)
キュルケはタバサに縋り付いて叫んでいた自分を思い出して顔を赤くした。
「声のした方向を照らしてみたら、やっぱり君らが居たというわけじゃ。
……で、それ以来亜人からこちらへの攻撃は止んだままというわけじゃ」
「どうして攻撃、してこない?」
タバサが小声で独白した。
彼女には合点がいかない事があった。
巨人はその気になればこの学院ごと自分達を捻り潰すことなど容易いはず。
それ故、何故自分達を学園まで連れ戻したのかがわからなかった。
「楽しんでいるのじゃろう」
オスマンは即座に答える。
「そのような目を、あの亜人はしていた。自分より小さく弱い者を踏み躙って嘲り笑う……我らを生かすも殺すも奴の気まぐれなのかもしれん」
「まるで貴族と平民の関係ね」
キュルケがため息を吐いた。
「ツェルプストー! それってどういう意味!?」
食い掛かるルイズを無視して、キュルケは毒突きを続ける。
「深い意味は無いわよ。自分より弱くて小さい奴を弄ぶ、現にそういう貴族は一杯いるでしょう?」
この世界において貴族――魔法を使うことのできる者・メイジとそうでない者の間にある溝は大きい。
いつの時代でも、貴族は圧倒的な力を以て平民を平伏させて来た。
「貴女だってそうでしょう? 勝手に呼び出した平民を自分の使い魔にして」
キュルケは鋭くルイズとサイトの関係を指摘する。
昨日ルイズがサイトと結んだ契約、サイトを使い魔にするという契約は彼の同意を得たものではなかった。
「それは……あんたには関係ないじゃない!! 何よ偉そうに!」
目を赤く染め、ルイズは後ろに居るキュルケに掴み掛かった。
「全部ほんとのことじゃない!」
キュルケはルイズの両腕を掴み返し彼女を壁に押し付ける。
胸と腰を当て、押し潰すようにルイズの体を圧迫する。
「止めんか!!」
オスマンは怒声を上げながら杖の先で床を叩いた。
静まり返った通路に怒号が木霊する。
「このような状況じゃで何かに当たりたい気持ちはわかる。じゃが、今はいがみ合っている場合ではないわ!」
ルイズとキュルケを引き離し、オスマンは諭すよう一同に語る。
「我らがすべきことは、一刻も早くこの学院から脱出することじゃ!」
言い終わるとオスマンは今までよりも歩調を早めた。
彼に合わせてルイズ達も足を急がせる。
それ以来、誰も口を開こうとはしなくなった。
些細な口論をきっかけに確執を広げるのは得策ではないからだ。
極限状態での不安と焦りは正常な判断を狂わせ兼ねない。
彼らはそれ程までに追い詰められていた。
「オールド・オスマン!」
宝物庫の入り口まであと少しという所で前から男の声がした。
額から頭頂部にかけて大きく禿げ上がった眼鏡の男がオスマンに走り寄る。
「おお、ミスタ・コルベール。して、外の具合はどうじゃったのだね」
オスマンはギーシュ達が学院に戻るより前に、コルベールとロングビルを使いに出していた。
「はい、それがあの植物、茨の蔓のようですが、想像以上に頑丈でして」
コルベールは学院の周りに生えた巨大植物の調査を命じられていた。
「炎で焼き払おうとしても表面が熱くなるだけでどうにもなりませんでした」
コルベールの目には失望が浮かんでいる。
「ふむ……やはりそうか」
オスマンはコルベールの隣を通り過ぎた。
そして一同に背を向けたまま呟いた。
「わしは破壊の杖を持ってくるでな。ミスタ・コルベール、彼らのことは頼んだぞ」
一方その頃、学院の外――トリステイン王国の各地で異変が起こっていた。
「な、なぜ、こんな……!!」
トリステイン王国の王都・トリスタニアの近くにはラグドリアン湖という巨大な湖がある。
その湖の周辺の土地は強力な力を持つ水の精霊によって治められており、ここ最近は異常な程に水位を上げていた。
周辺に住む村の住人は口々に水の精霊の怒りのせいだと言っていた。
しかし今日の昼頃、丁度六分前に村を水没させていた水は何かに吸い上げれるように退いていき、見る見るうちに水位が下がっていった。
そのため村人達は水の精霊の怒りが静まったものだと思い込んだ。
ところが、水位の下降は湖が本来の状態に戻っても止まらず、遂にはラグドリアン湖は完全に干上がってしまった。
トリステイン王国の王都・トリスタニアの近くにはラグドリアン湖という巨大な湖がある。
その湖の周辺の土地は強力な力を持つ水の精霊によって治められており、ここ最近は異常な程に水位を上げていた。
周辺に住む村の住人は口々に水の精霊の怒りのせいだと言っていた。
しかし今日の昼頃、丁度六分前に村を水没させていた水は何かに吸い上げれるように退いていき、見る見るうちに水位が下がっていった。
そのため村人達は水の精霊の怒りが静まったものだと思い込んだ。
ところが、水位の下降は湖が本来の状態に戻っても止まらず、遂にはラグドリアン湖は完全に干上がってしまった。
「森が、草原が……作物が!?」
トリステイン南部にあるタルブは緑豊かな森と見晴らしのいい大きな草原が特徴の村だった。
だが、数分前に村中の咲いていた花が真っ黒に染まり出したのを皮切りに有りとあらゆる植物が枯れ始めた。
生気を失い渇き切った草花は黒い鉄の塊と化していた。
トリステイン南部にあるタルブは緑豊かな森と見晴らしのいい大きな草原が特徴の村だった。
だが、数分前に村中の咲いていた花が真っ黒に染まり出したのを皮切りに有りとあらゆる植物が枯れ始めた。
生気を失い渇き切った草花は黒い鉄の塊と化していた。
トリステイン中の自然が活力を奪われていた。
風に吹かれた大地は乾燥した砂埃を舞わせる。
宙に舞い上がった土煙は大きな雲となり日差しを遮る。
風に吹かれた大地は乾燥した砂埃を舞わせる。
宙に舞い上がった土煙は大きな雲となり日差しを遮る。
その時、王都トリスタニアに巨大な地響きが轟いた。
激しく揺れる地面は城下の町に建てられた全ての建造物を軋ませた。
狭い通り道には逃げ惑う人々が溢れかえる。
トリスタニア中が大混乱に陥った。
激しく揺れる地面は城下の町に建てられた全ての建造物を軋ませた。
狭い通り道には逃げ惑う人々が溢れかえる。
トリスタニア中が大混乱に陥った。