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ゼロのルイズと大いなる子(ダイジェスト版)

「ゼロのルイズと大いなる子」
(ダイジェスト版)


  • ブレンパワード より プレート を召喚
  • 契約に失敗して自分にガンダールヴを刻印
  • サイトは東京でリバイバルしたブレンパワードに搭乗した際、ティファニアに召喚


第21話 「絶望の空を超えて」


 やぁ、マリコルヌ・ド・グランプレだよ。
 使い魔品評会の後からルイズの様子がおかしいと思ってずっと気にかけていたんだけど。
 なんと我等が麗しのアンリエッタ姫を使い魔のグランに乗せて、何処かへと連れ去って行ってしまったと言うじゃないか。
 全くいつか思い余って何かするかと思ってたけど、やりにもよってなんてことするんだよ!
 僕はミスロングビルを迎えに来たサイトって平民に掛け合って、ルイズの使い魔と似たゴーレムでアルビオンに向かった。
 ブレンパワード、サイトが乗る心を持ったゴーレムはそんな名前をしているらしい。
 ルイズのグランと大喧嘩したブレンがもう一度ルイズたちと会ったらどうなるかわかったもんじゃない。
 だけれどこの時の僕には、悔しいけどサイトとブレンに全てを賭けるしかなかったんだ。

「ウェールズ様」
「ア、アンリエッタ? 本当に、本当にアンリエッタ、君なのかい!?」

 グランのコクピットからウェールズに向かった姫様は、あわや地面に激突するかと言う寸前にレビテーションでふわりと浮かび上がられ、そして殿下の腕の中に抱きしめられた。
 ウェールズ殿下はこれは夢かと何度か瞳を瞬かせ、二度と離さないとばかりに姫殿下を抱きしめた後、唇を噛み締め震える手で姫殿下を突き放した。

「ここは君がいるべき場所ではないよ、アンリエッタ」

 感情が篭っていないかのような平坦な口調。
 けれどウェールズ殿下は嘘が下手だった、その言葉の一つ一つには血を吐くような想いが必死の努力で隠されていた。
 ウェールズ殿下は隠し切れない想いをなんとか心の奥底に封じ込め、アンリエッタ姫殿下に帰れと告げたのだ。

「嫌でございますウェールズ様!」

 だが姫殿下もまた必死だ。
 涙を流し、その髪を振り乱しながら、懸命にウェールズ殿下の胸にしがみ付く。

「ラグドリアンで、誓約の精霊の前で誓ったではありませんか、死ぬと仰るのならばわたくしも共に参ります」
「なっ、正気かアンリエッタ!? トリステインは、君の祖国はどうするんだ!?」
「知りませぬ、そんなことは知りませぬ。ウェールズ様どうかお傍に」

 私はグランのコクピットで熱烈な様子で悲劇演じる二人の様子を見ていた。
 いや悲劇と言うよりも喜劇か、これは。
 ウェールズ殿下はアンリエッタ姫殿下の居るトリステインを守るために命を賭した最後の戦いに向かおうと言うのに、アンリエッタはそんなもの全部放り出してウェールズ殿下共に死のうと言うのだから。
 おそらくは酔っているのだろう、王女と言う重責を忘れたいと言うただ一念が、淡い初恋でしかなかったアンリエッタの心を、命を捨ててでも相手を愛すると言う行動へと駆り立てているのだ。
 そんなことをしてもウェールズ殿下が哀しむだけと言うのが何故分からないのか。
 私はぎりと歯を食いしばり----そしてその不快な音で正気に帰る。

「やだ、私なんてことを考えているのよ」

 私は自分の体を掻き抱きながら己の思考回路に恐怖する、少し前の私はけしてこんな風な考え方をするような人間ではなかったはずだ。
 幼馴染で親友でもある、姫殿下のことを心の中でとはいえ悪し様に罵り、望みどおり死ねばいいなどと考えるような人間では…・…




 そう呟いた途端に猛烈な頭痛と左手の痛みに襲われ、意識を失ったルイズはコクピットに突っ伏した。
 コントラクトの失敗で自分自身に刻んでしまった使い魔のルーン、かつてはグランを怯えさせるだけの邪魔者にしか思えなかったガンダールヴと言う名の伝説の力が朦朧とした意識のなかで語りかけてくる。

『グランチャー(Grand child)----恒星間航行艦オルファンが生成する内外の脅威を排除する自立型生体兵器
オルファンにとって人間の抗体反応に働きをすることからイサミケンサクにより抗体(アンチボティ)と呼称される
個体ごとに独自の意志を持ち、操縦者と同調することによりさらに高い性能を発揮する』

「しかし同調の進行は機体との同一化を促す結果となる、すなわち母体であるオルファンへの依存、人間を仲間とは思えなくなることによる他者への関心の喪失。また初期の段階では拒否反応により精神の不安定化、事故防衛本能の暴走により攻撃性の激化などが起こりうる」

 私は何を言っているんだろう? そんなことを思いながら指先一つすら動かせない状態でルイズは呟き続ける。

 ----それはオルファンに対する抗体化と使い魔のルーンの主に対する洗脳効果が拮抗した結果だった。
 その二つはもともとそれほどまで精神と言う部分で劇的な効果を及ぼすものではなかった。

 せいぜいがオルファンに対する依存心を刷り込むと言う程度の。
 或いは主に対して好意を刷り込むと言う程度の。

 ソノ程度のものでしかないのだ。
 だがグランチャーへの同調とルーンの効果が互いに互いを主人であるルイズに対して害を及ぼす存在であると判断し、その影響を排除しようと互いにルイズの体のなかで荒れ狂っているのだ。

『ダいジョウBU?ルイず』

 グランチャーのコクピットに、たどたどしいハルケギニア語でルイズを心配する言葉が浮かぶ。
 だがそれを読むことができる者は、もはや誰も居なかった。 







第22話「幸せの意味」



 ルイズのグランチャーは恐ろしい存在だってサイトって平民は言うけれど、あたしには邪気なんていうものは感じ取れなかったわ
 けれどどうしても胸騒ぎがするから、親友のタバサと一緒にルイズたちの後を追いかけることにしたの。
 けど全速力で飛ぶと風竜ですら追いつけないって、ルイズは一体どんな化け物を呼び出したよ!?
 しょうがないからせいぜいのんびりと空の旅って思ってたら、背後から悲鳴を上げる豚をぶらさげながら飛んでいくどこまでも濃い海みたいな蒼い機体。
 話を聞くとサイトと名乗った平民は、グランチャー目の仇にしているみたい。
 火を囲んで皆で眠りに付くとき、悪夢に魘されながら目に涙を浮かべて「母さん」と呟いた姿が、あたしの脳裏から離れなかったのよ。


 目を覚ますとウェールズ殿下からこれからアンリエッタ姫殿下との結婚式を行うと告げられた。
 その為に私に巫女の役目をやって欲しいと言うことだ。
 この非常時に何をやっているんだろうかと思ったが、この非常時だからこそなのだろう。
 俯いてしまった私に何を思ったのか、ウェールズ殿下は小さな銀の鐘と小さな瓶に入った紫色の薬を手渡した。

「これは王家の秘宝、眠りの鐘と禁制の忘却の秘薬だよ。使うことなんてないと思っていたんだけれどね、ミスヴァリエール頼まれてくれるかい?」

 ウェールズ殿下は私に姫殿下を裏切れと、そう言っているのだ。
 確かにそれは姫殿下の為にはなるだろう、だが裏切ったと言う事実だけは私が一生背負っていくことになる。
 私は一瞬悩んだ後、ウェールズ殿下に向かって深く深く頭を下げた。

「謹んで、お受けいたします」
「ありがとう、ミスヴァリエール。本当に感謝するよ」

 そう言ってウェールズ殿下が頭を下げた時、殿下の私室の扉が開いて花嫁衣裳に着飾ったアンリエッタ姫殿下が飛び込んできた。

「ウェールズ様!」

 さすがトリステインの至宝、長いウィッグで腰まで伸ばした髪のは無数の金銀で出来た髪飾りが結び付けられ、その体に身に帯びた少し大きめの純白に輝くウェディングドレスは思わず嫉妬すら抱いてしまうほど。
 だがなによりも心の底から湧き上がる愛によって、姫殿下ご自身がこの世界にあるどんな宝石よりも煌めかしく光輝いているように私には思えた。

「綺麗だ、ああ綺麗だよアンリエッタ」
「愛しておりますウェールズ様」

 二人はきつくきうく抱きしめあう、まるでお互いを二度と離さないとでも言うように。
 だから悲しい、これほど幸せそうなのに殿下が姫様を裏切っていると言うことが。
 そしてそれに姫様の親友である私が加担していると言う事が。
 この場において、ただ一人姫様だけが道化。
 悲しくなって私は窓の外で膝を付いた私の使い魔を見上げる。
 彼の名はグラン。 
 桃色の装甲に身を包んだ、臆病で優しい、物言わぬ私の騎士。
 グランはその小さな窓から私のことを心配そうに覗き込んでいた。

「大丈夫、グラン。私は大丈夫だから……」

 そう言って部屋を出る殿下と姫様の後について、私は歩き出した。
 たとえその道の先に悲しみしか待っていないとしても、殿下と姫様が最期の絆を紡ぐ為には必要なことだと思えたから。
 けれど同時に思ってしまった。
 それが姫様の願いだとしても、姫様を殿下へお連れしたことそのものが、間違いだったのではなかったか?
 本来なら出会うことが出来なかった二人を出会わせてしまったことが……


 振り返れば窓の外にはグランの顔。
 暗い思考に沈みこむ私を見送るように、その表情の刻めない装甲の下から心配そうに私のことを見守ってくれていた。
 大丈夫、そう返答しようとして――唐突に閉じられた扉が私とグランを遮った。
 自分で決めたことだから、懺悔も謝罪も許されないと、私は思った。

「これより始祖の名の下に、新郎ウェールズ・テューダーと新婦アンリエッタ・ド・トリステインの婚礼の儀を執り行います」

 互いの手を握り締め、殿下と姫様は幸せそうに礼拝堂の床をしずしずこちらへと歩いてくる。
 体一杯に幸せを詰め込んだみたいな姫様の隣で、ウェールズ殿下は幸せそうな表情の中にアルビオンの空よりもなお空虚な瞳で私を見た。
 すべての感情が飽和してしまった故の混沌とした空虚をその瞳に宿し、殿下は私に目配せする。
 “願わくば、彼女に幸福な一時の夢を”
 私はこくりと頷き、手の中にある銀のベルを握る。

「新郎ウェールズ・ド・テューダー。あなたは新婦アンリエッタ・ド・トリステインを永遠に愛することを誓いますか?」
「ああ、あの日から僕の心はずっとアンリエッタと共にある」

 その言葉に姫様の瞳から大粒の涙が零れ落ちる。

「ウェールズ様、ウェールズ様!」
「新婦、アンリエッタ・ド・トリステイン。新郎ウェールズ・ド・トリステインを永遠に愛することを誓いますか?」
「はい、誓いますっ……誓います」

 正直結婚式なんてまともに参加したことなんてない、それでもこんなおままごとみたいな略式の結婚式でも十分姫様は幸せそうで……
 だから次の瞬間に起こったことを、私は決して許すことが出来なかった。

「それでは、誓いの口付けを……」

 ゆっくりと二人の顔が近づいていき――その誓約が果たされることはなかった。
 突然礼拝堂が大きな揺れに襲われ、私は思わずその場に手を着いた。

「レコンキスタかっ!? くそっ、まさかこのような時に攻めてくるなど!!!」

 先ほどまで束の間の安寧に浸っていたウェールズ殿下は一瞬で死を覚悟した戦士のものに戻る。

「ミスヴァリエール、アンリエッタを頼……」

 轟音が響いたかと思うとウェールズ殿下の体がブレた。
 高速で飛来した物体がウェールズ様を貫いたのだ。
 だがこの時私は何が起こったのか分からなかった、側で見ていた姫様もそして指されたウェールズ様もきっと何が起こったか分からなかったと思う。
 だが一瞬の、永遠とも思えた長い混乱が終わる。
 その次に響き渡ったのは、悲痛な姫様の叫び声だった

「イヤァァァァアアアア!?」

 ウェールズ様はまるで磔刑にされたように、その上半身を巨大な刃で刺し貫かれ、礼拝堂の壁に縫いとめられていた。
 どうみても即死の傷、だが悪い冗談のように血を流しながらそれでも瀕死のままでウェールズ殿下は生きていた。

「殿下、ウェールズ殿下、ウェールズ、返事をしてウェールズ!?」

 姫様がウェールズ殿下にしがみ付き、その体を抱きしめ、無き縋る。 
 だが私は姫様の姿を少しも見ていなかった。
 何故ならウェールズ殿下を刺し貫いた敵に意識のすべてを持っていかれていた。
 だって礼拝堂の壁を真っ二つにして現れたのは……

「グラン……チャー?」

 漆黒の装甲を持った、私の使い魔と同じ存在だったのだから。





 第27話 「憎悪と愛と」

 お前は誰だと尋ねられたなら。
 僕の名はジャン・ジャック・フランシス・ワルド、故郷を裏切った最低の男さ。
 そう答えることに決めていた。
 だが僕にはそれ以外己の望みを叶える方法がなかった以上、後悔はしているが迷ってはいない。

 僕の母は“虚無”の担い手だった。
 息子である僕を愛し、故郷であるトリステインを愛し、呼び出した使い魔を愛した僕の母は。
 愛するが故に死なねばならなかった。
 僕だけが知っている。
 聖地にはオルファンと呼ばれる巨大な存在が転がっていて、もしそれが一度目を覚ませばハルケギニアすべての命を吸い尽くして月へ至るのだと言うことを。
 母はそれを防ぐためにオルファンと一つになった。
 ――僕は、かあさんを助けたい。

 たとえすべてを裏切り、母が守ったものをすべてを壊したとしても。
 母さんを、解き放ってあげなければならない。
 それが僕が己に課した使命だったんだ。





「つき合わせてすまんな、グラン」

 ワルドの声の漆黒のグランチャーはただ身体の軋む音だけで応じた。
 子供の頃から続く長い長い付き合い故に、一人と一体の間には言葉は不要。
 それでもワルドが声をかけたのは、これが己のわがままだと言うことを噛み締めるためなのかもしれない。

「しかし何故ルイズとアンリエッタ姫が此処にいるのだ……」

 ワルドは不快そうに呟く。
 一度は忠誠を誓った相手と、薄汚れた姿をけして見せたくない相手、その二人が一緒にいることが、まるで始祖が自分自身に与えた罰であるように思えた。

「いや理由など重要ではないな、大事なのは“俺”の役に立つかどうかだ」

 そう言うとワルドはグランチャーのコクピットのなかから惚けたようにこちらを見上げるルイズと、ウェールズに縋って泣き続けるアンリエッタを見下ろす。




 黒いグランチャーはゆっくりとウェールズの身体から突き立った刃を引き抜くと、剣状の物体をルイズたちに向ける。
 その武器はソードエクステンションと言う名で呼ばれる武器だった。
 グランチャーのリバイバルの際本体と一緒に出現する、グランチャーの用の装備である。
 グランチャーの装甲と同じ物質で出来たこの武器はただでさえハルケギニアの治金技術では再現できない硬度と弾性を持っているが、それに加えてアンチボディの動力源であるオーガニックエナジーを圧縮し、放出する媒介ともなる。
 つまりは剣でありながら、まるで銃のように凝縮させたエネルギーを弾丸として放つことができるのだ。

 ルイズは血で染まったその切っ先を睨みつけながら、こくりと唾を飲んだ。
 黒いグランチャーの乗り手がどういうつもりなのかは分からないが、もし攻撃してきたらただではすまないだろう。
 その場合、なんとしても姫様だけは逃がさなければ……

「やぁ、僕の小さなルイズ。元気にしてたかい?」

 油断なく「敵」を見据えながら思考にふけるルイズに向かって唐突に声が掛けれたのは、次の瞬間のことだった。
 見れば黒いグランチャーの、ちょうど女性の子宮にあたる部分のコクピットが開き、中の人物が顔を覗かせていた。



「ワルド……様?」

 信じられない、そう言った様子でルイズは呟く。
 これは悪い夢か何かではないか、と。
 だがそこにあったのはルイズが望んだ悪い夢などではなく、ただ悲しい現実が横たわっているだけだった。

「簡潔にいこう!ルイズ、俺の望むものは三つだ」

 ワルドは一本人差し指を立てる。

「まずはウェールズ皇太子の命」

 その言葉を聞いて真っ先に反応したのは、ウェールズの死に呆然を膝を付いていた一人の老いたメイジだった。

「きさまぁぁぁぁあぁああ! 薄汚い貴族派かぁぁぁあああ!」

 杖を構え、真っ向からワルドへ向かって突撃するバリー。
 だがまるでワルドは羽虫でも追い払うように、グランチャーの手を振るわせる。
 結果としてバリーは全速力で目の前に発生したチャクラの力場に突っ込むことになった。
 嫌な音を立てて骨が砕け、黒いグランチャーが手を振る動作に従ってその小さな身体が舞う。

「二つ、アンリエッタ王女の手紙」

 床に叩きつけられ昏倒したバリーなどもはや見向きもせず、ワルドは食い入るようにルイズを見つめる。
 ――その熱の籠もった瞳のなかにまるで救いを求めるような色があったことに気づいていれば、この場にいる者たちの未来はきっと違うものになったであろう。

 だがルイズにはそんな時間は残されていなかったし、混乱しきった彼女にそんなことを求めるのはあまりにも酷すぎる話だ。

「そしてルイズ、キミッ!?」
「グラン!」

 ワルドはその言葉を最後まで言い切ることなく、グランチャーのコクピットから転げ落ちた。
 慌てて〈浮遊〉レビテーションを唱え、見上げたその先に居たのは。

「なるほど、これが君の使い魔と言う訳だね。ルイズ」


 薄桃色の装甲を持った、ワルドの使い魔の相似の存在。
 ルイズのグランチャーが、窮地にあるルイズを救う為にワルドのグランチャーの腰に頭から組み付いていた。

「だが甘い、今の好機にグランごと真後ろから僕を串刺しにするべきだったね」

 そう言って顔を上げたワルドの目の前には。

「姫様、ウェールズ皇太子を連れてお逃げください! 私の使い魔で」

 その瞳の決意を秘めた、一人の戦士が立っていた。
 震える右手で杖を構え、それでもただその誇りと覚悟で己を鼓舞して。
 まるで英雄譚のなかから出てきた強大な敵に挑む勇者のように、〈無能〉ゼロの少女はワルドの前に立ち塞がる。

「ははは、ルイズ、そうか僕に挑むと言うんだね! 素敵だ、素敵だよルイズ。ますます君を手に入れたくなった」

 ワルドはしゃらんと音を立てて鈍色に輝く剣杖を引き抜く、その剣先に映ったワルドの顔は狂ったような凶笑が浮かんでいた。

「よろしいならば決闘だ! ルイズ、僕がこの決闘に勝ったらどんな手段を使ってでも君を僕のものにさせてもらう!」
「あなたなんて死んだってお断りよ! さぁ姫様、お早く! グラン、姫様をなにがあっても守りきりなさい!」

 ルイズに急かされ、アンリエッタは冷たくなっていくウェールズを抱えながらルイズグランの差し出した掌の上に乗り込んだ。
 絶望に追い立てられながら、閉じていくコクピットのなかからルイズを見る。
 アンリエッタの目には、これほどの地獄のなかにあってさえ、ルイズは宝石の如く輝いているように思えた。
 なんとか無事に帰って来て欲しい、心のどこかでアンリエッタはそう思いながら、始祖に祈ろうとしてやはりやめる。
 彼女の愛するウェールズにこんな悲惨な運命を与えた始祖が、ルイズを守ってくれるはずなどない。
 そう思えたのだ。

「ルイズ……」

 王女の呟きは虚空に溶け、その下ではスクウェアとゼロのはなから戦いすらなりもしない決闘が始まろうとしていた。
 王子の血で染まった礼拝堂で、戦いがはじまろうとしていた……






第23話 「Resurreccion」


 私はずっとワルド様に憧れていた。
 幼かった私が秘密の隠れ場所で泣いていると、いつも迎えに来てくれた私の王子様。
 ずっと会っていなかったその人が、どんな理由でこんなことをしているのかなんて私には分からない。
 けれど姫様を傷つけると言うのならどんなことをしてでも私が止める。

 ありがとう、そしてごめんなさいグラン。
 きっと私は帰れないから……




「げふっ」

 もはや何度目になるか分からない突風がルイズの小さな身体を吹き飛ばし、ルイズは礼拝堂の石畳へと這い蹲った。
 元より勝負になるはずなどなかったが、下手に抵抗したせいでルイズの今様子は酸鼻極まりない有様となっている。
 体中大小問わず傷だらけで、ぼろぼろになった制服にはその血が滲み乾いて斑模様の毛皮のよう。
 転がった際に痛めたのか右足は真っ赤に腫れあがり、熱を持って鈍痛を主に訴え続ける。
 そして何よりその桃色ブロンド髪が一房、半ば頃から切り落とされている。
 それでもルイズは立ち上がった。
 震える足を自分の手で叩きながら起き上がり、ワルドに向けて再び杖を構える。

「驚いたな、まだ立てるとは。そしてその身のこなし……ふむ」

 ワルドの視線はルイズの左手で強烈な光を放つルーンに向けられていた。
 ガンダールヴ。
 始祖の左手であり、あらゆる武器を使いこなしたとされる使い魔の証。
 その効果が発動しているのだとすれば、ルイズがまるで武術の達人のような動きでこちらの攻撃を見事に受け流し続けているのも頷ける。

「ならばその翼をもぐとしよう」

 ワルドが唱えるのは己が最も得意な呪文。
 即ち……

「ユビキタス・デル・ウインデ!」

 風の遍在、その魔法を使った瞬間ワルドの姿が霞みのように一瞬ブレたかと思うと、次の瞬間には四人のワルドがルイズの目の前に立っていた。

「あ……」
「チェックメイトかな?」


 ワルドたちはルイズの手を押さえ、後ろ手に捻りあげた。
 それでも三人がかりで可能限り痛くしないように取り押さえるところが、ワルドなりの優しさなのかもしれない。

 ワルドはルイズの顎を掴むと、その顔が触れるか触れないかと言う至近距離まで己の顔を近づける。

「ルイズもう一度言う、俺のものになれ」
「い、いやよ! そんなことするくらいなら舌を噛んで死んでやるわ!」

 ルイズの言葉にワルドはくつくつと笑う。

「それでこそ僕の伴侶に相応しい、いいだろう手に入らないのなら力ずくで奪うのみさ」

 ワルドは一度顔を離すと、その唇を舌で湿らせる。

「此処が礼拝堂でよかったな、愛を誓うにはこれ以上の場所はない」

 ワルドの顔がゆっくりと近づいてくる。
 背後に回った遍在の一人がルイズの頬を抑えているため、舌を噛むことすら出来ない。

「あ……いやっ、いやぁ……」

 これから何をされるのか? そのことに思い至ったルイズの顔が蒼白になる。
 じたばたと暴れるが、どだい少女の細腕で大の男、それも鍛え上げた軍人の腕力に抗えるはずもない。

「さぁ、ルイズ、誓いの、口付けを……」

 ルイズは諦めたようにきつくきつく目を閉じた、助けを求める相手すらないこの異国の地で、自分はかつて憧れていた相手におぞましく蹂躙されるしかないのだと。
 ルイズの瞳に涙が浮かぶ、それでも最後の心の底で輝き続ける矜持が彼女に命乞いをさせることなく。

 だからその奇襲は、ワルドが油断した最大のチャンスに狙いたがうことなくワルドの胸を貫いた。

「ガッ!?」

 何が起こったのか分からないままワルドは背後を振り返る。
 そこには信じられない人物がいた。

「アンリエッタ、守る」

 ブレイドを纏わせた杖を引き抜き、無表情な顔でワルドのことを蹴り飛ばしたのは、どう見ても先ほど殺した筈のウェールズ・テューダーそのものだ。

「ウェールズだとぉぉぉおおおおおおおおお!?」

 あまりの驚愕に集中が途切れ、遍在の動きが止まる。
 その隙を見逃さす、ウェールズは返す刀で遍在の一体を切り裂くとそのままルイズの手を取り礼拝堂の床を蹴った。

「アンリエッタ、守る」

 再び同じ言葉を繰り返し、ウェールズはルイズとワルドたちの間に壁となるように立ち塞がった。

「なんだこれは、これは悪夢か? 亡霊が俺の前に立つんじゃない!」

 ワルドの感情を含んだエア・カッターが飛ぶが、それをウェールズは身を挺して防いだ。
 だがその一撃でウェールズの左手が切り落とされ、ごとんと音を立てて地面に落ちる。


「ひっ」

 ルイズは引き攣った声をあげるが、当のウェールズはなんの痛痒も感じていないように同じエア・カッターでワルドに逆襲する。
 そのあまりの異常さに、ワルドは理解できない怪物を見る瞳でウェールズを見た。

「なんだお前は、ウェールズではないのか? お前はなんだ、なんなんだ!?」

 混乱するワルドと同じように、ルイズもまた混乱していた。 
 目の前のウェールズには先ほどの傷が跡形もない、此処を出た後、強力な先住魔法なり奇跡のようなマジックアイテムなりのいんちきな手で完治したのだろうか?
 いやそれにしたって仮に衣服に乱れ一つないのは明らかにおかしい。
 それにこのウェールズには感情と言うものが感じられなかった、あのような目にあわされたワルドに対する憎悪や怒りが欠片も感じられないのだ。
 そして先ほどから呟き続けるこの言葉。

「アンリエッタ、守る」
「ウェールズ――様?」

 ウェールズは硝子球のような瞳でルイズを見た後。 


「アンリエッタ守るアンリエッタ守るアンリエッタ守るアンリエッタ守るアンリエッタ守るアンリエッタ守るアンリエッタ守るアンリエッタ守る
守る守る守る守る守る守る守る守る守る守る守る守る守る守る守る守る守る守る守る守る守る守る守る守る守る守る守る守る守る」

 壊れた玩具のようにその言葉を繰り返す。
 その時ルイズの頭に宝物庫が盗賊に荒らされた際、学院長が言っていた言葉を思い出す。

 ――土くれのフーケめ、宝物庫から金目のものをごっそり持っていきおった。特にスキルニルは惜しかったのぅ、血を与えた人物の能力をそっくりにコピーし、血を与えた人物の命を遂行する魔法人形だったんじゃが。

「まさか、スキルニルなの?」
「アンリエッタ、守る」

 そう言って、ウェールズの姿をした何者かは無表情に頷いた。
 そしてワルドグランとルイズグランがあけた壁の大穴を杖を持っていない方の手で指し示す。

「アンリエッタ守る」

 彼が何を言いたいか、ルイズには痛いほど理解できた。

「ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール、その使命謹んでお受けいたします」

 ウェールズに頭を下げるとルイズは走り出した、だが目指すのは外ではなく……

「ふざけるな!人形ごときが俺の前に立つんじゃない! ルイズを止めろグラン!」

 ワルドの命令を遂行しようとグランチャーが腰をあげるよりも、ルイズがグランチャーのコックピットに滑り込むほうが僅かに早かった。
 ルイズは手を大きく広げ、コクピットの縁をなぞるようにすると、グランチャーに向かって語りかける。


「お願い、私の話を聞いて……」

 ルイズの言葉のワルドグランの瞳が赤く明滅する。
 迷っているのだろう、かつての主人と似た気配〈オーガニックエナジー〉を持つ少女と、長い間連れ添った相棒と、どちらの言うことを訊くべきか?

「大切な人を守らなければいけないの……だからおねがい、力を貸して」

 ルイズの言葉と共にその左手が強い光を発する。
 ワルドグランの瞳が狂ったように明滅する。

 ワルドグランは何度も躊躇うように己の主人を見た後……

「馬鹿なっ!? 何故だ、何故だグランーーーー!?」

 ルイズをコクピット乗せたまま、ゆっくりとその場を離陸する。
 オーガニックエナジーを放出する際出るチャクラ光を身に纏いながら、ゆっくりとニューカッスルを離れていく。

「ありがとう、本当にありがとう」

 涙を流ししゃくりあげるルイズを乗せて、グランチャーは離れていく。


「待て、待って、僕を、僕を置いていかないで……グラン、グラン、グランチャー――――母さん!」

 フライの魔法を使って飛び上がるワルド、その足をがっしと掴んだのは。

「アンリエッタ、守る」

 ウェールズの血によって死の間際のウェールズの遺志を継いだただの一体のスキルニル。
 ルイズに王家の秘宝を手渡した際、もしものことがあってもいいようにウェールズが用意しておいた策は、己の役目を果たしきった。
 最後にその無表情な顔に、人形とは思えない幸せそうな表情を浮かべると。

「離せ!離せぇぇぇぇええええ、母さんが、母さんがいってしま――」
「カッタートルネード」

 スキルニルは、唱えておいた魔法を解き放った。




 次回予告  最終話『絆』


 ワルドグランを奪って姫様を追いかけたのは良かったんだけど、ウェールズ様の死で心を乱された姫様に攻撃されちゃった。
 なんとか説得しようとしたんだけれど、私の言葉じゃ姫様の心には届かない。
 手をこまねいているうちに私のグランチャーが巨大化していく。
 姫様と戦場に溢れる貴族派の傭兵たちの命を吸っているんだと、何故か私には理解できてしまった。
 けど駄目です姫様、そんなんじゃ誰も救われないじゃないですか!





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