「な、何も見えないじゃないか」
ギーシュが呟いた。
茨のトンネルを抜けた先、半径80メイルの半球――茨の壁に囲い込まれた空間は完全に闇に包まれていた。
ひしめくように群生した蔓の間からは僅かな光さえも差し込まない。
辺りの確認をするためには何らかの光源が必要であった。
そこで、キュルケとタバサは照明の魔法、ライトを唱えた。
しかし、杖の先端から発せられる光は彼らの体を照らす程度にしか広がらない。
この閉鎖空間には濃霧が立ち込めていた。
彼らは皆、言い知れない恐怖に襲われた。
「ちょ、ちょちょっとこれ、ど、どうするの?」
キュルケがタバサの肩に手を乗せながら訊ねた。
タバサのマントを握り締める彼女の手は微かに震えている。
「……」
タバサは俯いたまま口を開こうとしない。
「あ、貴女だったらこういう時にどうすればいいか知ってるんでしょう!?」
タバサを振り向かせると、キュルケは縋るように問い詰める。
「……わからない」
タバサは素っ気無く答えた。
ギーシュが呟いた。
茨のトンネルを抜けた先、半径80メイルの半球――茨の壁に囲い込まれた空間は完全に闇に包まれていた。
ひしめくように群生した蔓の間からは僅かな光さえも差し込まない。
辺りの確認をするためには何らかの光源が必要であった。
そこで、キュルケとタバサは照明の魔法、ライトを唱えた。
しかし、杖の先端から発せられる光は彼らの体を照らす程度にしか広がらない。
この閉鎖空間には濃霧が立ち込めていた。
彼らは皆、言い知れない恐怖に襲われた。
「ちょ、ちょちょっとこれ、ど、どうするの?」
キュルケがタバサの肩に手を乗せながら訊ねた。
タバサのマントを握り締める彼女の手は微かに震えている。
「……」
タバサは俯いたまま口を開こうとしない。
「あ、貴女だったらこういう時にどうすればいいか知ってるんでしょう!?」
タバサを振り向かせると、キュルケは縋るように問い詰める。
「……わからない」
タバサは素っ気無く答えた。
しばらく無言の時間が続くと、突然目の前の霧が晴れた。
そして数秒の後、強い光が霧の無い方向から発せられた。
「な、何!?」
ルイズは目を凝らした。
暗闇の中にぼんやりと人影が浮かび上がる。
そこには白い長髪に長い白髭を蓄えた老人がいた。
「オールド・オスマン!?」
長い杖から強力な光を発している老人、オスマンはこの魔法学院の最高責任者である。
彼は学院中央にある本塔の最上階にいた。
「こっちじゃ! こっち!」
オスマンは学院長室の窓から身を乗り出してルイズ達に手招きをする。
シルフィードは15メイル程身を進ませると、長い首を下ろしてタバサとキュルケが窓を通りやすいようにした。
そして、両前足で抱えたルイズとギーシュを学院長室の中へ入らせると、部屋に入れないシルフィードは本塔の屋根の上に腰掛けた。
ギーシュが部屋に入ると、険しい顔をしたオスマンが彼に近づく。
「さて、ミスタ・グラモン」
オスマンはギーシュと目を合わせる。
ギーシュはオスマンの気迫の篭った眼差しにたじろいだ。
「詳しく話を聞かせてもらいたいのだがの。君の召喚した使い魔について」
部屋中に張り詰めた空気が漂う。
「あ、いえ……その、彼女は」
巨人について説明を求められるのだろうということは、ギーシュも何と無く予測はしていた。
しかし実際に問われてみると何も言うことができない。
「だからその、玉が割れたら急に大きな薔薇が生えてきて」
「君とミス・ヴァリエールの使い魔との決闘については、そこにある遠見の鏡で始めから見ておった」
オスマンはタバサ達の方を向く。
「そして何故、君達が学院に戻って来たのかも分かっている」
ギーシュに再び厳しい視線が向けられた。
「私が聞きたいのは君だけが知っていることじゃ」
オスマンの指摘はギーシュが説明すべき内容を限定した。
ギーシュは昨日の巨人との語らいについて話す。
ガラクタを召喚したと思い塞ぎ込んでいたことや、ガラス玉の中にいたバラの精が自分に話しかけてきたことをギーシュは皆に打ち明けた。
「それで、彼女は自分が悪い奴らに閉じ込められているから、ここから出して欲しいと……」
その時のことを思い出しながらギーシュは話を続ける。
「だから僕もガラスを割ろうと色々試してみたのですが、その、何をやってもガラスは割れなくて……」
その日のギーシュは昼頃から夕方になるまでガラス玉を割ろうと努めていた。
「それで彼女はもうやらなくていいと言って、一ヶ月くらいは眠らせてくれと言ってきました」
昨日のバラの精とのやり取りについて、ギーシュは全て話し終えた。
話は今日の決闘の最中の出来事に移る。
平民に負けそうになり焦っていたこと、そして眠っていたはずのバラの精の声が急に頭の中に響いてきたことを話した。
「彼女は、私に任せてくれば何も問題ない、そう言いました。それでルイズの使い魔に自分を投げつければ、きっと彼が封印を解いてくれる、って」
「ガンダールヴの力を利用したのか」
オスマンは髭を撫でながら言葉を漏らした。
(ガンダールヴ?)
ルイズはサイトのことを指すその言葉を不思議に思う。
ギーシュは話を続けた。
「それから後は、彼が剣でガラスを割って……後のことはみんなが知っている通りです」
話を終えギーシュは皆の様子を伺う。
「ふむ……つまりミスタ・グラモン、君は騙されていたということかの」
「は、はい!」
ギーシュは畏まった顔で答えた。
「ときにオールド・オスマン、私達の方からもお聞かせ願いたいことがあるのですが」
ギーシュがもう話すことが無いのを確認すると、キュルケはオスマンに問いかけた。
「今、この学院はどのような状況にあるのですか? あの化け物の姿も見えませんし」
二分間ほど学院から遠くに離れていた彼女達には現在の学院に関する情報が無い。
オスマンが一度は晴らした空は、再び深い霧に包まれた状態に戻っていた。
学院長室の窓から外を確認することはできなかった。
「この学院が謎の植物によって覆い尽くされている、ということは君達もわかっているじゃろう。問題なのはミスタ・グラモンの使い魔についてじゃが……」
オスマンは学院長室の扉を開ける。
「それは宝物庫まで行く途中に話すとしよう」
ギーシュ達はオスマンに導かれるままに学院長室を後にした。
そして数秒の後、強い光が霧の無い方向から発せられた。
「な、何!?」
ルイズは目を凝らした。
暗闇の中にぼんやりと人影が浮かび上がる。
そこには白い長髪に長い白髭を蓄えた老人がいた。
「オールド・オスマン!?」
長い杖から強力な光を発している老人、オスマンはこの魔法学院の最高責任者である。
彼は学院中央にある本塔の最上階にいた。
「こっちじゃ! こっち!」
オスマンは学院長室の窓から身を乗り出してルイズ達に手招きをする。
シルフィードは15メイル程身を進ませると、長い首を下ろしてタバサとキュルケが窓を通りやすいようにした。
そして、両前足で抱えたルイズとギーシュを学院長室の中へ入らせると、部屋に入れないシルフィードは本塔の屋根の上に腰掛けた。
ギーシュが部屋に入ると、険しい顔をしたオスマンが彼に近づく。
「さて、ミスタ・グラモン」
オスマンはギーシュと目を合わせる。
ギーシュはオスマンの気迫の篭った眼差しにたじろいだ。
「詳しく話を聞かせてもらいたいのだがの。君の召喚した使い魔について」
部屋中に張り詰めた空気が漂う。
「あ、いえ……その、彼女は」
巨人について説明を求められるのだろうということは、ギーシュも何と無く予測はしていた。
しかし実際に問われてみると何も言うことができない。
「だからその、玉が割れたら急に大きな薔薇が生えてきて」
「君とミス・ヴァリエールの使い魔との決闘については、そこにある遠見の鏡で始めから見ておった」
オスマンはタバサ達の方を向く。
「そして何故、君達が学院に戻って来たのかも分かっている」
ギーシュに再び厳しい視線が向けられた。
「私が聞きたいのは君だけが知っていることじゃ」
オスマンの指摘はギーシュが説明すべき内容を限定した。
ギーシュは昨日の巨人との語らいについて話す。
ガラクタを召喚したと思い塞ぎ込んでいたことや、ガラス玉の中にいたバラの精が自分に話しかけてきたことをギーシュは皆に打ち明けた。
「それで、彼女は自分が悪い奴らに閉じ込められているから、ここから出して欲しいと……」
その時のことを思い出しながらギーシュは話を続ける。
「だから僕もガラスを割ろうと色々試してみたのですが、その、何をやってもガラスは割れなくて……」
その日のギーシュは昼頃から夕方になるまでガラス玉を割ろうと努めていた。
「それで彼女はもうやらなくていいと言って、一ヶ月くらいは眠らせてくれと言ってきました」
昨日のバラの精とのやり取りについて、ギーシュは全て話し終えた。
話は今日の決闘の最中の出来事に移る。
平民に負けそうになり焦っていたこと、そして眠っていたはずのバラの精の声が急に頭の中に響いてきたことを話した。
「彼女は、私に任せてくれば何も問題ない、そう言いました。それでルイズの使い魔に自分を投げつければ、きっと彼が封印を解いてくれる、って」
「ガンダールヴの力を利用したのか」
オスマンは髭を撫でながら言葉を漏らした。
(ガンダールヴ?)
ルイズはサイトのことを指すその言葉を不思議に思う。
ギーシュは話を続けた。
「それから後は、彼が剣でガラスを割って……後のことはみんなが知っている通りです」
話を終えギーシュは皆の様子を伺う。
「ふむ……つまりミスタ・グラモン、君は騙されていたということかの」
「は、はい!」
ギーシュは畏まった顔で答えた。
「ときにオールド・オスマン、私達の方からもお聞かせ願いたいことがあるのですが」
ギーシュがもう話すことが無いのを確認すると、キュルケはオスマンに問いかけた。
「今、この学院はどのような状況にあるのですか? あの化け物の姿も見えませんし」
二分間ほど学院から遠くに離れていた彼女達には現在の学院に関する情報が無い。
オスマンが一度は晴らした空は、再び深い霧に包まれた状態に戻っていた。
学院長室の窓から外を確認することはできなかった。
「この学院が謎の植物によって覆い尽くされている、ということは君達もわかっているじゃろう。問題なのはミスタ・グラモンの使い魔についてじゃが……」
オスマンは学院長室の扉を開ける。
「それは宝物庫まで行く途中に話すとしよう」
ギーシュ達はオスマンに導かれるままに学院長室を後にした。