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使い魔の達人-14


 ルイズの部屋を突然訪れてきた黒ずくめの少女。
その正体は何を隠そう、その日学院にやってきて、熱烈な歓迎を受けたばかりの、アンリエッタ王女その人だった。
 アンリエッタは、膝をついたルイズを見て、感極まった表情を浮かべてルイズを抱きしめた。
「ああ、ルイズ、ルイズ、懐かしいルイズ!」
「姫殿下、いけません。こんな下賎な場所へ、お越しになられるなんて……」
 抱きつかれながら、ルイズはかしこまった声で言った。
「ああ!ルイズ!ルイズ・フランソワーズ!そんな堅苦しい行儀はやめてちょうだい!
あなたとわたくしはおともだち!おともだちじゃないの!」
「もったいないお言葉でございます。姫殿下」
 態度を和らげるよう促すアンリエッタにしかし、ルイズは堅い口調のまま返す。
 そんな二人の様子を、カズキはぼけっと眺めていた。


  使い魔の達人 第十四話  王女の依頼


「やめて!ここには枢機卿も、母上も、あの友達面してよってくる欲の皮の突っ張った宮廷貴族たちもいないのですよ!
ああ、もう、わたくしには心を許せるおともだちはいないのかしら。昔なじみの懐かしいルイズ・フランソワーズ、
あなたにまで、そんなよそよそしい態度を取られたら、わたくし死んでしまうわ!」
「姫殿下……」
 どこか逼迫した様子の王女に、ルイズは顔を上げた。
 ルイズと目を通わせて、アンリエッタはすかさず言葉を重ねる。
「幼い頃、いっしょになって宮廷の中庭で蝶を追いかけたじゃないの!泥だらけになって!」
 はにかんだ顔で、ルイズが応えた。
「……ええ、お召し物を汚してしまって、侍従のラ・ボルトさまに叱られました」
「そうよ!そうよルイズ!ふわふわのクリーム菓子を取り合って、つかみ合いになったこともあるわ!
ああ、よくケンカになると、いつもわたくしが負かされたわね。あなたに髪の毛をつかまれて、よく泣いたものよ」
「いえ、姫様が勝利をお収めになったことも、一度ならずございました」
 懐かしそうに言うルイズ。どうやら二人、すっかり思い出話に花を咲かせたらしい。
「ルイズは会った頃からだけど……あの王女さまもなんていうか」
 二人をぼんやり観察しながら、カズキはひとりごちた。その続きを、魔剣が引き継ぐ。
「ま、お転婆娘ってやつだぁな。よくわからんけど、結構なんじゃねえの?子供は元気が一番ってな」
「だね」
 最初からだが、すっかり外野なカズキとその相棒であった。
「失礼、姫さま……聞こえてるわよ、そこ。静かになさい」
 すると、ルイズがぎろんと睨んできた。あちゃあ、と思いながら苦笑いを返す。
 そしてそこでアンリエッタは、藁束の上であぐらをかくカズキに気づいた。
「あら、ごめんなさい。もしかして、お邪魔だったかしら?」
 カズキとルイズを交互に見ながら、アンリエッタは頬に手を添えて恥ずかしそうに言い出した。
「お邪魔?何故です?」
「だって、そこの彼、あなたの恋人なのでしょう?いやだわ。わたくしったら、つい懐かしさにかまけて、とんだ粗相をいたしてしまったみたいね」
「へ?恋人?」
 間抜けな返事とともにルイズは、カズキと目を見合わせる。カズキもまた、面食らったような顔になっていた。
 思わず頬を染めたルイズは、大慌てで手やら首やらぶんぶん振りながら、アンリエッタに言った。
「ち、違います姫さま!あれ!あ、あれはただの使い魔です!こ、こここ恋人だなんて、ご冗談にもほどがありますわ!!」
「まぁ、使い魔?」
 アンリエッタはきょとんとした面持ちで、カズキを見つめた。
 カズキもカズキで、なんか前にもこんなことあったよなあ、と思いつつも、頬を染めて困惑していた。なんだかんだで、顔に出やすい性質なのだ。
 あの時は確か、みんなに斗貴子さんがカノジョだって間違われたんだっけ。
斗貴子さん、笑ってはいたけど、ちょっと本気で怖かったよなぁ。すぐにみんなですいませんしたし。
 ……みんな、今頃なにしてんのかな。
 そこまで考えて、カズキもぶんぶんとかぶりを振った。
斗貴子の、まひろの、元の世界の面々の顔を、思い出すだけでどうしようもなく、切なくなってしまうのだ。
 頭の中でみんなに謝罪しながら、なんとか思考の外に追いやる。
 そうだ、もう、戻れない……戻らないんだ。目の前に集中しろ。
 そう、そんで今度は、ルイズが間違われて……いやこの場合、オレが勘違いされてんのかな。ルイズの恋人、だから。
 そんな風に考え込むカズキを見て、アンリエッタ王女は小首を傾げた。
「人にしか見えませんが……」
「あ、どうも。人です」
 ギリギリだけど、と心中で付け加えてから一礼すると、アンリエッタは、どこか納得したようにひとつ頷いた。
「そうよね。はぁ、ルイズ・フランソワーズ、あなたって、昔からどこか変わっていたけれど、相変わらずなのね」
「好きであれを、使い魔にしたわけじゃありません」
 憮然としながら、ルイズ。ちょっと酷い言い様だけど、こっちが弁解する前に、王女様の誤解もなくなったようだ。
 しかし……。と、カズキはひとつ唸った。目の前には、確かに昼間見た王女様だ。
「ルイズって実はスゴい?」
「なにが……っていうかあんた、さっきからなにその態度。姫さまの前で、不敬にも程があるわよ」
 いまだ藁束の上のカズキを、ルイズはたしなめた。そういえば、ルイズはさっきから膝をつきっぱなしだ。
そういやそうだ、とカズキも立ち上がって、ルイズに倣う。そんな二人に、アンリエッタが苦笑しながら言った。
「かまいませんよ、ここは、あなたの部屋なのですから」
「いえ、そうもいきません。これもわたしの監督ですので。で、スゴいって、なにが?」
「あ、うん。ルイズって、お姫様と知り合いなんだろ?それも、昔からの」
 すると、今度はルイズとアンリエッタは目を見合わせた。再び、お互いを懐かしむように笑うと、ルイズは口を開いた。
「そうね。姫さまがご幼少のみぎり、恐れ多くもお遊び相手を務めさせていただいたの」
 そして、アンリエッタに向き直る。
「でも、感激です。姫様が、そんな昔のことを覚えてくださってるなんて……。わたしのことなど、とっくの昔にお忘れになったのかと思いました」
 王女は深いため息をつくと、ベッドに腰掛けた。
「忘れるわけないじゃない。あの頃は、毎日が楽しかったわ。なんにも悩みなんかなくって」
「姫さま?」
 その憂いを含んだ声に、ルイズは心配になってしまった。
「あなたが羨ましいわ。自由って素敵ね、ルイズ・フランソワーズ」
「なにをおっしゃいます。あなたはお姫様じゃない」
「王国に生まれた姫なんて、籠に飼われた鳥も同然。飼い主の機嫌ひとつで、あっちに行ったり、こっちに行ったり……」
 窓の外の月を眺めながら、寂しそうに言うアンリエッタ。ルイズの手を取ると、にっこり笑って言った。
「結婚するのよ。わたくし」
「……おめでとうございます」
 その声に悲しいものを感じたルイズは、沈んだ声で返した。
 重い空気が辺りを包む。さらに加重をかけるかのように、アンリエッタの深いため息が、部屋に響いた。
 めでたい話をしたばかりだというのに。アンリエッタを案じたのか、ルイズが訪ねた。
「姫さま、どうなさったんですか?」
「いえ、なんでもないわ。ごめんなさいね……、いやだわ、自分が恥ずかしいわ。あなたに話せるようなことじゃないのに、わたくしってば……」
「おっしゃってください。あんなに明るかった姫さまが、そんな風にため息をつくってことは、なにかとんでもないお悩みがおありなのでしょう?」
「……いえ、話せません。悩みがあると言ったことは忘れてちょうだい。ルイズ」
「いけません!昔はなんでも話し合ったじゃございませんか!わたしをおともだちと呼んでくださったのは姫さまです。
そのおともだちに、悩みを話せないのですか?」
 ルイズがそう言うと、アンリエッタは嬉しそうに微笑んだ。
「わたくしをおともだちと呼んでくれるのね、ルイズ・フランソワーズ。とても嬉しいわ」
「友情だなあ」
「なんだかねえ」
 外野が何か言ってるが無視。ともかく、アンリエッタは決心したように頷くと、語り始めた。
「今から話すことは、誰にも話してはいけません」
 それから、カズキのほうをちらっと見た。
「え、えーと。オレたち、いない方が良いのかな?」
 傍らの魔剣を掴んで訊ねるカズキに、アンリエッタは首を振った。
「いえ、メイジと使い魔は一心同体。席を外す理由がありません……どうなさいました?」
 アンリエッタがそんな声を上げるので、今度は何だとルイズが見てみると、カズキが顔を俯かせてどんよりしていた。
 それはいつかの浜辺で、斗貴子と交わした言葉。
 ああ、そうか。斗貴子さんとは……六週間、もう、過ぎちまったもんな。
 だから、今はオレ、ルイズと一心同体なのか……。
 どうやらアンリエッタの何気無い例えが、カズキの心を抉っては、奈落へ叩き落す一言になったようだ。
「おーい、相棒ー。どしたー」
「それで、姫さま?」
 いちいち構っていても仕方がないので、あっちは剣に任せて、ルイズはアンリエッタを促すことにした。
 そして、物悲しい調子で、アンリエッタは語り出した。わりといい性格をしている。
「わたくしは、ゲルマニアの皇帝に嫁ぐことになったのですが……」
「ゲルマニアですって!」
 ルイズは驚いた声をあげた。何を隠そう、ルイズはゲルマニアが大嫌いなのだ。
「あんな野蛮な成り上がりどもの国に!」
「そうよ。でも、しかたがないの。同盟を結ぶためなのですから」
 なんとか復活したカズキは、壁の向こうを見やりながら、この会話隣に漏れてないよなぁ、とちょっと心配になった。
 アンリエッタは、ハルケギニアの政治情勢を、ルイズに説明した。
 アルビオンの貴族たちが反乱を起こし、今にも王室が倒れそうなこと。反乱軍が勝利を収めたら、次にトリステインに進行してくるであろうこと。
 それに対抗するために、トリステインはゲルマニアと同盟を結ぶことになったこと。
 同盟のために、アンリエッタ王女がゲルマニア皇帝に嫁ぐことになったこと……。
「そうだったんですか……」
 ルイズが沈んだ声で言った。アンリエッタが結婚を望んでいないのは、口調から明らかであった。
「いいのよ。ルイズ、好きな相手と結婚するなんて、物心ついたときから諦めてますわ」
「姫さま……」
「礼儀知らずのアルビオンの貴族たちは、トリステインとゲルマニアの同盟を望んでいません。二本の矢も、束ねずに一本ずつなら楽に折れますからね」
「三本だともっと折れないよね」
「相棒おめえある意味すげえよ」
 ルイズが一睨みすると萎縮する使い魔の少年に、アンリエッタはそうですね、と笑いかけて、ひとつ咳払いすると続けた。
「……したがって、わたくしの婚姻をさまたげるための材料を、血眼になって探しています」
「もし、そのようなものが見つかったら……いえ、まさか……?」
 わざわざこんな話をしてくるくらいだ。その材料が、実在する、というのだろうか?
ルイズは顔を蒼白にしてアンリエッタの言葉を待つ。返事は、アンリエッタの悲哀に満ちた首肯から始まった。
「おお。始祖ブリミルよ……、この不幸な姫をお救いください……」
 王女は顔を両手で覆うと、床に崩れ落ちた。随分と芝居がかった仕草だ。
「言って!姫さま!いったい、姫さまのご婚姻をさまたげる材料ってなんなのですか?」
 ルイズも興奮した様子でまくしたてる。両手で顔を覆ったまま、アンリエッタは苦しそうに呟いた。
「……わたくしが以前したためた一通の手紙なのです」
「手紙?」
「そうです。それがアルビオンの貴族たちの手に渡ったら……、彼らはすぐにゲルマニアの皇室にそれを届けるでしょう」
「どんな内容の手紙なんですか?」
「……それは言えません。でも、それを読んだら、ゲルマニアの皇室は……、このわたくしを許さないでしょう。
ああ、婚姻はつぶれ、トリステインとの同盟は反故。となると、トリステインは一国にてあの強力なアルビオンに立ち向かわねばならないでしょうね」
 ルイズは息せき切って、アンリエッタの手を取った。
「いったい、その手紙はどこにあるのですか?トリステインに危機をもたらす、その手紙とやらは!」
 アンリエッタは、首を振った。
「それが、手元にはないのです。実は、アルビオンにあるのです」
「アルビオンですって!では!すでに敵の手中に?」
「いえ……、その手紙を持っているのは、アルビオンの反乱勢ではありません。反乱勢と骨肉の争いを繰り広げている、王家のウェールズ皇太子が……」
「プリンス・オブ・ウェールズ?あの、凛々しき王子さまが?」
 アンリエッタはのぞけると、ベッドに体を横たえた。
「ああ!破滅です!ウェールズ皇太子は、遅かれ早かれ、反乱勢に囚われてしまうわ!そうしたら、あの手紙も明るみに出てしまう!
そうなったら破滅です!破滅なのです!同盟ならずして、トリステインは一国でアルビオンと対峙せねばならなくなります!」
 ルイズは息を呑んだ。
「では、姫さま、わたしに頼みたいことというのは……」
「無理よ!無理よルイズ!わたくしったら、なんてことでしょう!混乱しているんだわ!
考えてみれば、貴族と王党派が争いを繰り広げているアルビオンに赴くなんて危険なこと、頼めるわけがありませんわ!」
「何をおっしゃいます!たとえ地獄の釜の中だろうが、竜のアギトの中だろうが、姫さまの御為とあらば、何処なりともむかいますわ!
姫さまとトリステインの危機を、このラ・ヴァリエール公爵家の三女、ルイズ・フランソワーズ、見過ごすわけにはまいりません!」
 ルイズは再度膝をついて、恭しく頭を下げた。
「『土くれ』のフーケを捕まえた、このわたくしめに、その一件、是非ともお任せくださいますよう」
「このわたくしの力になってくれるというの?ルイズ・フランソワーズ!懐かしいおともだち!」
「もちろんですわ、姫さま!」
 ルイズがアンリエッタの手を握って、熱した口調でそう言うと、アンリエッタはぼろぼろと泣き始めた。
「姫さま!このルイズ、いつまでも姫さまのおともだちであり、まったき理解者でございます!永久に誓った忠誠を、忘れることなどありましょうか!」
「ああ、忠誠。これがまことの忠誠です!感激しました。わたくし、あなたの友情と忠誠を一生忘れません!ルイズ・フランソワーズ!」
 カズキはそんな二人を見て、半ば呆れ気味に呟いた。
「なんか、お芝居でも見てるみたいだな」
 今度は遠い世界へ旅立っている二人には、聞こえなかったみたいだ。そのかわり、すぐ後ろのデルフリンガーが応えてくれた。
「お互いが、自分の言葉に酔ってんだろうさ。それより相棒、いいのかい?お前さんのご主人様は、自分から戦争中のアルビオンに行くと言ってるぜ」
 途端に、あ、と声をあげ。言われて気づいた。戦争なんて、元の世界じゃテレビの向こうの話だから、いまいち現実感は沸かないけれど。
「となりゃ当然、使い魔のお前さんも、その相棒の俺も行くことになる。俺としちゃあ、使ってもらう絶好の機会だから嬉しいもんだが……相棒はどうするね?」
 ルイズは、王女さまのためならどこへだって行くとは言っていたけれど……。どうにも勢いで言ってるような気がする。これはさすがに、放ってはおけない。
「なあ、ルイズ。せっかくのところ悪いんだけど、ちょっといい?」
「あによ」
「本気でその、アルビオン、ってトコに行くつもりなの?戦争やってて、危険なんだろ?」
 ルイズは嘆息した。この使い魔は、同じ部屋にいて何を聞いていたのだろうか。だが、それよりも。
「あんた、姫さまの前でそんな……」
 睨んでくるルイズを、指先で涙を拭いながらアンリエッタが制した。
「構いません、ルイズ。主人の身を案じるのは、使い魔として当然のこと。けれど……」
 俯き、しばし黙考しては、アンリエッタはルイズに言った。
「そうね、そうなのよ。ルイズ。やっぱり、あなたに頼むのはだめ」
「そんな、姫さま!」
 ルイズは悲鳴にも似た声をあげた。アンリエッタは、まるで夢から醒めたような面持ちで、ルイズを見つめた。
「あなたの言葉には、わたくし本当に感動したわ。だけど……いいえ、だからこそ、あなたには頼めない」
「それでは手紙は……、この国の未来は、どうなさるのですか!?」
 ルイズの問いに、アンリエッタは苦い顔になった。他に頼める者は居ないのだろう、二人はあたりをつけた。
 おそらくルイズが依頼を受けたのも、王女さまに直に会えた懐かしさと、覚えてもらっていた嬉しさ。それが要因になったのは、間違いない。
 だけど、きっとルイズは、それがなくても依頼は受けたんだろう。
カズキは今しがたのルイズを見て、これまでのルイズを思い出して、改めてそう思った。
 ルイズはやさしい、そして強い女の子だ。ちょっと無鉄砲で考えた足らずで、負けず嫌いなところがあるけれど。
「じゃあ、オレが行きます」
 だから、カズキはそう言った。
 当然、二人は驚いた顔をカズキに向ける。
「何を言ってるの。あんた、わたしの使い魔なのよ。そんな勝手、許されると思ってんの?」
「そうです。それに、わたくしの大事なおともだちの使い魔を、単身危地へ赴かせるなど、できるはずもありませんわ」
「だけど手紙を取りに行かないと、この国が危なくなるんですよね?それに、ルイズを行かせたくないってのは、オレも同じ気持ちです。
オレも、ルイズに死にに行くような真似はして欲しくないし、もちろん死んで欲しくなんかない。
それにオレ、こう見えても危険な目に遭っても平気っすから」
 心配無用と笑うカズキにしかし、ルイズは首を縦に振るはずはなかった。
「じゃあ、わたしも一緒に行くわ」
「ルイズ!?」
「使い魔だけを危地に向かわせるなんて、そもそも主人のすることじゃないもの。
あんたが行くって言うんなら、わたしも行くわ。もともと、わたしが受ける依頼だし」
「なに言ってんだ。こんなときのための使い魔なんじゃないのか」
「あんたみたいなどっかズレてる使い魔に、こんな重要任務、任せられるわけないじゃない。
それに、あんた一人でウェールズ王子のところまで辿り着けたって、事情が事情だもの。信用してもらえるかしら?」
「それは、ルイズだって同じじゃないか」
「あんたね……」
 ルイズはちちち、と指を振ると、薄い胸を張って自信満々に言った。
「わたし、トリステイン貴族。それも、由緒ある公爵家の三女。あんたよりかは、信用あるの」
「じゃ、じゃあ、オレだってその使い魔だ」
「それ、わたしが居なくてどうやって証明するの?」
 ぐ、とカズキは思わず呻いた。そして、思いついたように左手の淡く光るそれを掲げる。
「こ、これ!使い魔のルーン!」
「そうね。ルーンがあったわね。で、誰の使い魔なのかしら。貴族派のメイジかも知れないわ」
 いよいよカズキは顔をしかめてしまった。しかし、頷くわけにもいかないので、ルイズをぐっと睨めつける。
しかしそれはルイズも同じ。どちらも一歩も譲る様子はなく、アンリエッタなど、睨み合う二人に挟まれて、困惑してしまっていた。
 すると、ルイズの部屋の扉が勢い良く開かれる。
「君たちいい加減にしないか!姫殿下の前でみっともない!」
 ルイズとカズキに造花の薔薇を突きつけて、いきり立ちながら入ってきたのは、なんとギーシュであった。
 しかし二人が、突然の闖入者にそのまま視線をスライドさせたので、闖入者のほうが思わず呻き声をあげた。
「……って、ギーシュ、なんでここに?ここ、女子寮よ?」
「あ、ああ。いやなに、薔薇のように見目麗しい姫さまのあとをつけてみればこんな所へ来てしまうじゃないか。
それでドアの鍵穴からまるで盗賊のように様子を伺っていれば……まったく、君たちは」
 ギーシュが嘆息交じりに呟く中、ルイズは歯噛みした。
「姫さま。どうされます?話を聞かれてしまっていたようですが……」
「え、ええ」
 アンリエッタはやはり困惑気味に相槌を打った。まだルイズとカズキの話にも、決着はついていないというのに。
 そしてそれは、さらに面倒な方向へ転がっていく。
「そう!姫殿下!その困難極まりない任務、是非ともこのギーシュ・ド・グラモンに仰せ付けますよう!」
「え?あなたが?」
「お前、言ってる意味わかってんのか?」
 ギーシュは薔薇をルイズ、カズキに突きつけながら答えた。
「少なくとも、姫殿下の御前で口論しだすようなメイジとその使い魔よりは、わかっているつもりさ」
 そんな科白に、ルイズは思わず頬を染め、唇を噛んだ。それもこれも、このいまいち融通の利かぬ馬鹿使い魔のせいだ。
「グラモン?あの、グラモン元帥の?」
 アンリエッタが、きょとんとした顔になってギーシュを見つめた。
「息子でございます。姫殿下」
 恭しく一礼するギーシュ。まぁ、と笑うアンリエッタは、またややこしくなったと内心辟易し始めていた。
 しかし、これは願ってもない話だ。まだ学生の身ではあるが元帥の子息ともなれば、ルイズやその使い魔よりは、まだ頼れる人材だ。
気疲れし、判断力が鈍くなったアンリエッタの瞳には、ギーシュはそう映った。
「わたくしの力に、なってくれますの?」
「姫さま!?」
 ルイズが悲鳴にも似た声を再度挙げる。
「任せていただけるならば、望外の幸せにございます」
 熱っぽい口調のギーシュ。しかし、そこにカズキから横槍が入った。
「ちょい待ち、ギーシュ。まさかお前、一人で行くとか言い出すんじゃないだろうな」
「なんだい、自分だって言ってるくせに。当然、ぼくの使い魔は連れて行くさ。心配ならいらないよ?
いくら以前、決闘でいいところまで持っていかれたとはいえ、使い魔の君に心配されるほど落ちぶれちゃいない」
「なに言ってんのよ。こいつにコテンパンだったじゃないの。そのくせアルビオンに乗り込もうだなんて、頭沸いてんじゃないの?」
 さらにルイズが一撃を加える。ギーシュは顔をしかめたが、すぐに余裕の表情をつくった。
「その言葉、そっくりお返しするよ。聞けば以前の広場での誓いを成すため、連日図書館でさまざまな資料を漁ったり、
フーケを捕まえたりといろいろ努力してはいるようだけど……、肝心の魔法の方は相変わらずさっぱりだそうじゃないか。
魔法ひとつ満足に成功させられないのに、アルビオンに行こうとは。いくら使い魔君の腕が立つと言ったって、無謀だとぼくは思うね。
それに、いまだその使い魔の躾もできてないと見える。よもや、姫殿下の前であんな見苦しい口論を始めるとは」
 やれやれと首を振った後、次いでカズキを見やった。
「君も君だ。姫殿下も仰られていただろう?メイジと使い魔は一心同体なんだ。なんでもない、秘薬の採集とはワケが違う。危地に赴くのであれば、尚更さ。
それを、まぐれとはいえぼくに……メイジに勝った使い魔のくせに、危険だからと勝手に主人を置いていこうとはね。
さしものルイズとて、覚悟くらいは出来てるだろう。なら君も、せめて主人を守りきるくらいの気概を持ってはどうかね?」
 そんなギーシュに、二人は憮然とした顔を向けた。
「あ、あの……みなさん?」
 懐かしい友人に会いに来たはずが、よもやこんな展開になるとは。
アンリエッタの声も届かぬ一触即発気味の場の空気に、王女はすっかりまいってしまった。
「なあ、もう三人で行きゃいいんじゃねえの?」
 これ以上は見てられないのか、唯一の外野が呆れ声で建設的な意見を出してきた。
 三人は素面になって魔剣を見やれば、各々顔を見合わせた。
 ギーシュにしてみれば、使い魔は居ても、実質一人でできることには限界がある。威勢の良いことは言ったが、正直不安は尽きない。
だが、決闘でカズキの実力は良く知っているし、自分にはゴーレム『ワルキューレ』がある。
ならば、内乱のアルビオンを突っ切り、王党派までの往復くらいは出来るのでは、とだいぶ楽観的に考えた。
 カズキにしても、何があるかわからない戦地。先日のフーケのときとは危険度は段違いだし、今度はキュルケやタバサも居ない。
それにルイズは、斗貴子のように自分で自分を守れるわけでもない。失敗魔法は強力だが、必ず当たるものでもないのだ。
守りきる自信がないわけではないが、ルイズに危険なことはなるべくして欲しくないのが、なによりの本音だった。
だがしかし、ルイズがアルビオン行きをやめないだろうことは、カズキにも良くわかっている。
ならば、ルイズのために。ルイズが守りたいこの国のために、彼女の使い魔として、自分も力になるしかない。
そう、覚悟を決めようかと、ギーシュが入ってくる寸前にはちらと考えていたほどだ。
そして、闖入者のギーシュ。その実力は、やはり決闘を通して良く知っているつもりだ。
そのギーシュも、共にアルビオンに行くと言うのならば……多少の危険は、なんとかなる。そんな風に思えていた。
 ルイズはとにかく、トリステインのためにもアルビオンに行き、手紙を取ってこれるのならば何でもよかった。
 一本では折れやすい矢も、二本ならば折れにくくなる。そして、三本ならば――。
「じゃあ、それで」
「仕方がないね」
「いいわ」
 各々が頷くのを見て、アンリエッタは安堵の息を吐いた。とにかく、この剣呑とした雰囲気が解消されたことが、一番嬉しかった。
「それでは姫さま。この三名で任務を執り行いますが……急ぎの任務なのですか?」
「え、ええ。アルビオンの貴族たちは、王党派を国の隅にまで追い詰めていると聞き及びます。敗北も時間の問題でしょう」
 ルイズは真顔になると、アンリエッタに頷いた。
「早速明日の朝にも、ここを出発いたします」
 アンリエッタは、そう言うルイズにおずおずと訊ねた。
「……本当に行くの?ルイズ」
「申し訳ありません、姫さま。このルイズ、なんとしても愛する姫さま。そしてトリステインのため、役に立ちたいのです」
「姫殿下。心配には及びません。ぼくと、彼女の使い魔も共に行くのです。必ずや、目的のものを手に入れて無事に帰還してみせましょう」
 ギーシュが気障ったらしく助け舟を出した。カズキも首肯して、同意を示す。
「大丈夫ですから、任せてください」
 アンリエッタはしばし三人の顔を見渡せば、やがて頷いた。
「……ありがとう」
 ルイズとギーシュの顔が、明るくなった。
「ウェールズ皇太子は、アルビオンのニューカッスル付近に陣を構えていると聞き及んでいます」
「了解しました。以前、姉たちとアルビオンを旅したことがございますゆえ、地理には明るいかと存じます」
「旅は危険に満ちています。アルビオンの貴族たちは、あなたがたの目的を知ったら、ありとあらゆる手を使って妨害しようとするでしょう」
 ギーシュがごくり、と唾を飲んだ。なるべく目立たないようにしようとか、考えているのだろうか。
 アンリエッタは机に座ると、ルイズの羽ペンと羊皮紙を使って、さらさらと手紙をしたためはじめた。
 突っ立ったまま待つのも退屈なのか、隣のギーシュにぼそりと訊ねた。
「あれ、なにしてんの?」
 ギーシュは顔をしかめた。少しくらい、静かに待てないのか。仕方なしに説明する。
「皇太子から、手紙を返還してもらうための依頼状、かな。姫殿下直筆のものならば、王党派からの信用はなにより高いからね」
「なるほど……じゃあ、あれがあれば」
「あれだけあっても、あんた一人じゃ結局信用されないでしょうね。然るべき人物が届けてこそ、意味があるのよ」
 然るべき人物とは、やはりルイズのことだろう。釘を刺され、カズキは肩を落とした。
「いい加減、覚悟決めなさいよね」
「わかってるよ。危険なことは、オレが引き受ける。だから、無茶はしないでくれよ」
 いい加減聞き飽きたとでも言うように、ルイズはそっぽを向いた。
「なあに、ぼくも行くんだ。心配は無用さ」
「ああ。ギーシュもよろしくな」
 そうこうしてるうちに書き終えたアンリエッタは、自分の書いた手紙をじっと見つめ……、そのうちに、悲しげに首を振った。
「姫さま、どうなさいました?」
「な、なんでもありません」
 アンリエッタは顔を赤らめると、決心したように頷き、末尾に一行付け加えた。それから、小さい声で呟く。
「始祖ブリミルよ……。この自分勝手な姫をお許しください。でも、国を憂いても、わたくしはやはり、この一文を書かざるをえないのです……。
自分の気持ちに、嘘をつくことはできないのです……」
 密書だというのに、まるで恋文でもしたためたようなアンリエッタの表情だった。ルイズはそんなアンリエッタをじっと見つめるばかり。
 アンリエッタは手紙を巻くと、杖を振って、巻いた手紙に封蝋をし、花押を押した。その後に、ルイズに手渡した。
「ウェールズ皇太子にお会いしたら、この手紙を渡してください。すぐに件の手紙を返してくれるでしょう」
 それからアンリエッタは、右手の薬湯にから指輪を引き抜くと、それもルイズに手渡した。
「母君から頂いた『水のルビー』です。せめてものお守りです。お金が心配なら、売り払って旅の資金にあててください」
 ルイズは深々と頭を下げた。カズキとギーシュも、それに続いた。
「この任務には、トリステインの未来がかかっています。母君の指輪が、アルビオンに吹く猛き風から、あなたがたを守りますように」




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