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世界最強コンビハルケギニアに立つ-15





「下がっていろルイズ!」

叫びとともにボーは地を蹴った。
向かう先は、考えるまでもなくゴーレム。

「ぬぅおおおおおおおおおお!!」

中空で放った蹴りがゴーレムの腹部へと突き刺さる。
身体全体に伝わるのは確かな手応え。
土くれをまるで肉片のように撒き散らしながらゴーレムの体が大きく傾ぐ――が、倒れない。

「くそっ!」

視線の先――そびえる土の巨体はまるで山のようで。
これほどまでに巨大な存在との1対1の戦いなど、ボーにとって完全に未知の世界である。
故に何が有効打になりえるのか、どうすれば有利に立ち回れるのか。何一つわからない。
ただ一つ間違いないことは、先ほどの一撃には何の意味もなかったということ。

「よかろう――」

ボーの顔に浮かぶ表情は笑み。
それは彼の心を高揚感が支配していたが故の表情。
目の前に存在するのは乗り越えなければならない壁。
恐れる理由などなく、挑まない理由は存在しない。

「相手にとって不足はないッ!」

ただ、愚直なまでに前へ。
ボー・ブランシェが再び跳躍する。



(何、コレ?)

眼前で繰り広げられるのは、信じ難い光景だった。
トライアングルクラスといわれるメイジの作り出したゴーレムに、一人の平民の男が素手で立ち向かっている。
現状を誰かに伝えたとして、一体何人が信じるだろう。
自らの五体のみを武器として巨大なゴーレムに立ち向かう人間など、英雄譚や御伽噺ですら目にする機会はない。
懐に飛び込み、強烈な打撃を打ち込み続けるボーと、その大きすぎるリーチを持て余し、速度で勝るボーととらえきれないゴーレム。
体勢を崩したゴーレムの立てる地響きはまるで咆哮のようで。
それはまるで英雄譚のクライマックス、勇者が魔王を打ち果たさんとする光景によく似ていた。

(すごい――けど)

しかしこの瞬間、ルイズの心を支配していたのは勇者への賛美や歓喜ではなく、不安と焦り。
理由など、考えるまでもない。

――ボーの攻撃が一切ゴーレムに通じていない。

戦闘に関しては素人のルイズですら感じ取れるほどに、状況はボーにとって圧倒的に不利。
ボーの放つ一撃一撃がゴーレムの身体を抉り、そのたびに巨体は大きく揺れる。
だがそれでもゴーレムは倒れない。倒れる気配すら感じない。

(なんで)

ゴーレムは人ではなく、魔王でもない。ただの土くれの人形だ。
人形は痛みを感じず、疲労も蓄積されない。多少の傷で機能が失われることもない。
さらに悪いことにゴーレムを構成しているのが土であるため、多少の損傷は周囲の土を使いすぐに再生してしまう。
これまでのボーの行動にはせいぜい『術者に雀の涙ほどの魔力を使わせた』程度の意味しかなく、ボー自身が消費する体力を考慮すればまったく採算は取れていない。

(なんで勝ち目がないのに向かっていくのよ)

ボーが現在の状況を理解していないはずがない。
それでも彼は引くそぶりすら見せず、それが当然のことであるかのようにゴーレムに立ち向かい続ける。

(私は――)

拳を握り締め、ルイズは考える。

(何でこんなところに突っ立っているの?)

許せなかった。
使い魔が一人強大な敵に立ち向かっているにもかかわらず、それを見ていることしかできない自分自身が。
確かに主人を守るのは使い魔の仕事であり、現在の状況が間違っているわけではない。
それでも、ルイズにとって今の自分の姿はあまりにも情けなかった。

『魔法が使えるものを貴族と呼ぶのか?魔法が使えればそれだけで人の上に立っていいのか?』

思い返すのは、先程のボーの問いかけ。
多くのメイジ――貴族はこう問われればおそらくイエスと答えるだろう。
魔法が使えるからこそメイジは平民の上に立ち貴族を名乗る。それはハルケギニアの不文律なのだから。

(違う。絶対に違う)

真の貴族とは、ただ魔法を使えるだけの存在のことではない。
ゲルマニアの貴族のように金で成り上がった者のことでもない。
ルイズにとっての貴族とは、子供が憧れる英雄によく似ている。
それは彼女が誰よりも歪んだ人生を送ってきたがゆえに抱く夢なのかもしれない。

「私はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールよ」

言葉に込めるのは強い決意。
視線の先にあるのはルイズの理想によく似たあり方を貫く一人の男。
そしてルイズはその魔法も使えない平民の背中の向こう側を見据える。
いつか絶対に追いつき、追い抜いてみせると。

「貴族があの程度の敵、恐れるわけがないでしょう!」

なれないとは思わない、叶わぬ夢だとも思わない。
ありったけの信念をぶち込み、震える腕で無理やり杖を振るう。
空気が、爆ぜた。




男が一人――森の奥からルイズたちを見つめていた。
変わった意匠のコートに身を包んだ、どことなく場にそぐわない空気を漂わせる男である。
彼の目には敵意も、殺意もこもっていない。ただ観察しているといった様子で戦況を見つめ続ける。

――ボー・ブランシェはゴーレムに勝つことができない。

戦闘開始後すぐに、男はそんな結論を出した。ボーの行動は無駄でありまったく価値がない、と。
現時点ではあの筋肉達磨が勝てる要素が見当たらない。
無論負ける要素も見当たらないが、それではなんの意味もないのだ。

(相手が人間大だったら、ってところかね)

ボーが弱いかと問われれば、答えはノーである。
仮に挑めと言われれば丁重にお断りしたい。男のボーに対する評価はそれくらい高い。
それでも、男にはボーに勝利の目はないという確信がある。
巨大なだけのゴーレムならば、ボーは多少時間はかかろうとも破壊して見せるだろう。
だが今彼が対峙しているゴーレムは『巨大なだけ』ではない。
男の知る限り、ボーはそのプラスアルファをどうにかする術を持っていない。
それがこの戦いの全てであり、戦いは男にとって無意味な消化試合のはずだった。
だがルイズが杖を振るい、巻き起こした爆発――それが状況を変える。

(凄まじいな、まるで大砲の直撃だ)

ゴーレムの頭部で巻き起こった爆発が顔面のおおよそ3分の1を吹き飛ばし、土くれをまるで肉片のようにように撒き散らす。
爆発の規模、威力ともに申し分がない。もし対象がゴーレムではなく人間ならば余裕で死んでいるだろう。
『ルイズの魔法』に感心しているのか、男の顔に浮かんでいるのは愉しそうな笑み。

(なるほど、なるほど。彼女がそうか)

新しい玩具を見つけた子供――男の顔に浮かぶ多くの喜びと若干の悪意を混ぜ合わせたような表情は、そう表現するのが適切だろう。
彼の目的はまるで別のものであり、思春期特有の悩みを抱えた少女など興味の外であった。
だが今では彼の興味の対象は完全にルイズへと移っている。それほどの驚きを『ルイズの魔法』はもたらしたのだ。

(非常に面白い展開になったね。だが――敵を倒すには後一歩足りないぞ?)




二度目、三度目の爆発がゴーレムの身体を抉る。
グレネードが炸裂したかのような爆発は大きな衝撃をゴーレムへと叩きつけ、
ボーの打撃とは比べ物にならない量の体積をゴーレムの身体から引き剥がしていく。
ルイズが『ゼロ』であることを象徴する魔法の失敗、爆発という現象。
本来無価値であるはずのその現象に与えられたのは『暴力』という存在価値。
並の魔法など問題にならない異質な力が今、存分に真価を発揮していた。

「一体何なのよコイツ!」

しかしそれは同時に、ゴーレムの圧倒的な力をも浮き彫りにすることとなる。

――再生能力。

土が舞い上がり、爆発が抉った体表へとまとわりついていく。
そして土がゴーレムの傷を埋め、ゴーレムの姿はもとの無傷の状態へと。
ゴーレムが土くれで創り出されているが故に存在する『作り出す素材には事欠かない』という利点。
その利点をを最大限生かしたその能力が、脆くやわらかいという欠点を完全に埋めていた。

「このっ!このッ!」

諦めずボーは打撃を、ルイズは爆発をそれぞれ繰り出し続ける。
一撃一撃は面白いように直撃するものの、どれだけ当てようと致命打にはなりえない。
そしてそんなゴールの見えない我慢比べの途中、ボーが幾度目かの飛び蹴りを放ったとき、大きな変化が起こる。

「ぬおっ!?」

蹴り脚の先にあったのはこれまでのような土の塊ではなく、粘土。
ゴーレムの体のごく一部、ボーの打撃が当たるであろう箇所のみに起こった変化。
ボーの身体はその粘土の壁を突き抜け、まるで沼に飲み込まれたかのようにゴーレムの体内へと消えた。

「ボー!」

ルイズの腕が振り上げられ、そして止まる。
この瞬間、彼女の心にあった感情は二つ。ボーを救い出さなければという焦りと、今爆発を起こせばボーを巻き込んでしまうかもしれないという不安。
その二者択一がルイズを迷わせた。
もし彼女に少しでも実戦経験というものがあればすぐさま答えは出、身体は動いていたのかもしれない。
だが迷いに縛り付けられた身体は爆発を起こすことも、逃げることも選択できないまま。
結局彼女が混乱という呪縛から開放されたのは、眼前でゴーレムが腕を振り上げた後。

(嘘――)

慌てて振り上げられた腕に向かい爆発を起こすが、遅い。
容赦なく迫り来るのは、巨大な質量を伴った『死』。
酷く緩やかな時間の流れの中、ルイズに芽生える諦観。
もう駄目だ、自分はここで死ぬのだ――と。
諦観が芽生えたのはほんの一瞬。だがその一瞬が、彼女の足を止める。

(こんなところで――)

気付けばゴーレムの腕はもう目前まで迫っている。
悔しかった。この程度で諦めようとする弱い心のまま消えてなくなるのは嫌だった。
だが、ルイズのそんな意思など知らぬとばかりに具現化した死は彼女に迫り――。

(え?)

瞬間、ルイズの身体を風が攫った。
まるで馬上のようなスピードで景色が流れていく。
そして離れた場所で響く、轟音。その段になってようやくルイズは自分が抱きかかえられていることに気付いた。

「ったく、世話の焼ける」

何が起こったのか理解できないままルイズは声の主――自分を抱きかかえる使い魔を見つめる。

――物語で英雄に救われた人々は、こんな感情を抱くのだろうか。

逆光の中苦笑を浮かべる暁の顔が、途方もなく頼もしいように映った。



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