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世界最強コンビハルケギニアに立つ-14





【――まぁ、俺っちは別に構いやしねぇけどよ】

屋根のない、まるで荷車のような馬車に揺られながらデルフリンガーがカタカタと、どこか呆れたように言葉を発する。
馬車に乗っているのは暁、ボー、ルイズ、キュルケ、タバサ、そして手綱を握るロングビルの六人。
日差しを浴びながら街道を行く馬車に乗った一行は、状況が状況ならピクニックのように見えただろう。
だが――現実はそれほど平和ではない。

【有名な盗賊を捕まえに行くのがこんな子供ばっかりって、いつから世の中はそんなメイジ不足になったんだ?】

この面々が学院に押し入った賊――『土くれ』のフーケ討伐隊である。



『神秘の鎧、確かに領収いたしました。 土くれのフーケ』

学院の――しかも宝物庫の壁に大穴をあけられた挙句、そんなふざけたメッセージとともに学院最大の秘宝と言われる『神秘の鎧』が盗まれたとあって、
翌日の学院は蜂の巣をつついたような大騒ぎとなった。

侵入した賊の名は『土くれ』のフーケ。神出鬼没のメイジの盗賊である。
フーケのメイジとしての腕前は『土』系統のトライアングルクラスと言われ、生半可なメイジでは歯が立たない。
だがそこは多くの優秀なメイジが集うトリステイン魔法学院。すぐに強力な討伐隊が結成され、今回ばかりはフーケも捕まるだろう――話を聞いたものは、誰もがそう思った。
しかし、現実に優秀なメイジたち――教師陣が奔走したのは責任の追求と擦り付け合いであり、オールド・オスマンが討伐隊を募った際にも我こそはと杖を掲げる者は誰一人としておらず
それどころかお互いがお互いに『お前が行け』と言わんばかりの視線を送る始末だった。

「で、お嬢さんがたが名乗りを上げた、と」
「仕方ないじゃない、誰も杖を掲げなかったんだもの」

どこか憮然とした表情でルイズが言う。
度胸も気概も誇りもどこかに置いてきてしまったような大人たちを尻目に、我こそはと杖を掲げたのが――他でもない、ルイズだった。
そしてそれに触発されたようにキュルケ、タバサ、ギーシュの三人も杖を掲げた。ギーシュは薔薇だったが。
彼女たちは目撃者としての証言をするためにその会議に出席していただけであり、討伐隊に参加する必要があったわけではない。
当然ながら教師陣からは反対意見が出た。しかしそれはルイズたちの身ではなく自分たちの立場のほうを心配しているようで――暁は苦笑を、ボーは苦々しげな表情を顔に浮かべながら、その様子を眺めていた。

【でもよ、普通こういう危険なこと子供にやらせねーだろ。何で許可したんだよ】
「あの仙人みたいなじいさんよく許可したなとは俺も思う」

結局キュルケとタバサはメイジとしての実力を、ルイズは使い魔の強さを認められた形となり、学院長であるオールド・オスマンによって彼女たちは討伐隊として任命された。
ギーシュだけはメイジとしての実力が備わっていないこと、使い魔も暁やボーほど強くないこと――彼の使い魔はジャイアントモールと呼ばれる大きなモグラである――を理由に参加を許されなかった。
彼はずいぶんと悔しそうにしていたが、暁としてもそればかりはフォローのしようがない。
そもそも賊の討伐に子供を向かわせること自体が謎である。正常な思考の持ち主であるなら、おそらく許可などしなかっただろう。

「オールド・オスマンなりに深い考えがあってのことだと思います。彼は本当に偉大な魔法使いですから」

そしてルイズたちを手伝うために同行することになったのが彼女――ミス・ロングビルである。
ルイズたちとオールド・オスマンを除けばあの場で腰が引けていなかったのは彼女だけだったし、そもそもフーケの居場所を突き止めたのが他でもない彼女だったため、暁としても同行に異論は無い。
しかし――と御者を務めるロングビルの背中を眺めながら、暁は考える。

(疑われそうなことをしれっと言いやがったのは、何でなんだ?)

彼女が報告したまでの距離は徒歩で半日、馬で四時間――正直言って、簡単に調査ができるような距離ではない。
もしかしたら何かしら便利な魔法が存在するのかもしれないが、教師陣の中にも違和感を抱いた人間がいた様子だったので、それはないのだろう。
それでも彼女の堂々とした態度と、その後すぐにオールド・オスマンが討伐隊を募りはじめたことで、誰一人としてその部分を追求することはできなかった。

(……何が出てくるか楽しみにしておくとするか)

この先ではきっと、何かが起こる
そしてロングビルがその『何か』を知っているのだろう。
勘と期待に基づいたあまり当てにならない予測を巡らせながら、暁は少しだけ口を笑いの形に歪めた。

「まぁ、俺にとってはありがたいことだけどな、あの強盗と戦う機会はもうないだろうと思ってたし」
「……あんたたちってほんとメイジを怖がらないわよね。一回戦ってもう嫌になった、とかないの?」
「あると思うか?つーか、勝手に討伐隊に立候補して俺たちを巻き込んだご主人様が何を言ってるんだよ」

杖を掲げた際のルイズの態度は暁の目から見て、それこそ大人たちが無様に思えるほど堂々としたものだった。
確固たる決意、あるいは自信。そんなものを内に秘めなければあんな態度など取れはしない。

「何を言うか暁、ルイズは我々の力を信頼しているからこそ杖を掲げたのだ。ここで期待にこたえてこそ真の漢というものだぞ」
「……たまにお前の前向き思考がうらやましくなるぜ」
「貴様が後ろ向きすぎるのだ。そんな慎重にならずとも我々世界最強コンビの手にかかれば、あの程度の土人形などどうということはないわ」

ルイズの内に自分たちへの信頼があるのか、単に暴走して立候補しただけなのか。
そんなことは暁にはわからないし、そもそもさほど興味は無い。
ただ、再びフーケと戦う機会が巡ってきたことは暁にとって喜ばしいことであったし、その点でルイズへの感謝の気持ちもある。
それでも、前途は多難である。

「……ボーの自信っていったいどこから出てくるの?」
「そういう考えるだけ無駄なことは考えないほうがいいぜルイズお嬢さん。ストレスが溜まるだけだ」
「暁、貴様今ものすごく失礼なことを言わなかったか?」

現状暁たちがあの巨大なゴーレムをどうこうする手段は存在しないに等しい。
そしてそれはルイズたちも理解しているはずだ。
にもかかわらず彼女たちの様子がいつも通りなのは彼女たちの強さによるものか、はたまた理解できないほど暗愚なのか。

「どうせなるようにしかなりませんわよ。気楽に行きましょう」
「キュルケお嬢さんもずいぶん適当なんだな?」
「私はアカツキがどうにかしてくれると信じてますもの」

――考えているのはもしかして自分だけか?
暁の脳裏にそんな言葉がよぎる程度には、無言で手綱を握り続けるロングビル――彼女に関してはわからないだけだが――を除いた面々には緊張というものが見られなかった。
穏やかな微笑を暁に向けているキュルケを筆頭に、いつも通り本を読むタバサ、いつも通り自信満々のボー、
唯一ルイズのみが気負ったような表情を見せていたものの、どうも会話を続けているうちに肩の力は抜けたらしい。
今ではいつも通りの少女へと戻ってしまっている。

「緊張感のない連中だな……」
【何言ってんだ相棒、俺っちにはお前さんも緊張してないように見えるぜ?】
「俺はいいんだよ」
【……お前さんも大概だな】

デルフリンガーの声は、これ以上ないほど呆れ返っていた。



【そういやぁよ、神秘の鎧ってーのはどういう代物なんだい?】
「ああ、俺もそれはちょっとばかり興味あるな」

――神秘の鎧。
学院から盗まれた大仰な呼び名を持つ宝物には、デルフリンガーのみならず暁もボーも興味があった。
暁とボーはそういう『大仰な代物』を巡る争いに身を置いていたが故の職業病に近い感覚だったが。

「えーっと、確か学院長のご友人のミノタウロスが着ていた……」
「完っ全に間違えてるわよ、ヴァリエール。頭でっかちの割に、胸と一緒で肝心なとこが足りないわねぇ」
「う、うるさいわね!間違ってると思うんならあんたが説明しなさいよツェルプストー!」
「はいはい」

まずルイズが説明を始めたものの、記憶の深層を掘り起こしながら自信なさげに語るその内容はものの見事に間違っていたらしい。
容赦ないツッコミを入れたキュルケが、こちらは自信満々といった様子で語り始める。

「『神秘の鎧』……それはオールド・オスマンの古いご友人が着ていたとされる鎧です。
 その堅さはダイヤに勝り、軽さは布にも劣らない。さらには着ている者に片手でミノタウロスと切り結べるほどの力を与える、と伝えられていますわ。
 オールド・オスマンのご友人はそれを着て、ナイフでオーク鬼の群れを切り裂いていった、と学院長は自慢してらっしゃいましたわね。
 まぁ私には、ただの変な服にしか見えませんでしたけど――どうかなさいまして?」

自分の説明に対し驚愕の表情を見せた暁とボーにキュルケは怪訝な表情を向ける。
多少は興味を引けるだろうか――そう思いながら語ったのは事実だが、さすがに彼らの反応がここまでとはキュルケも予想していなかった。

「……まるでどこぞの筋肉服ではないか」
「やっぱりお前もそう思ったか」

暁もボーも、それによく似た説明を必要とする『鎧』に心当たりがあった。
無論、それが『神秘の鎧』であると断言できるわけではなかったが――もしそうだとするのならば、持ち出されたのが妙に近代的なケースだったことも説明がつく。
不思議そうな表情のキュルケたちに苦笑を向けながら暁は考える。

(万が一『神秘の鎧』が『アレ』だった場合は、かなり笑えるんだがな)

普通に考えれば暁の想像している物品がこちらの世界に来ている可能性など、大陸の両端で放した蟻が真ん中で出会う可能性よりさらに低い。ないに等しいとすら言える。
だが――かなりの偶然、理不尽が重ならなければ起こりえないそれが実際に起こっているような予感が、暁にはあった。
何しろ、考えるのも馬鹿らしいほど低い可能性の果てに、暁とボーはこの世界に立っているのだから。



「着きました、ここです」

ロングビルの言葉とともに馬車が停止する。
そこは昼間だというのに薄暗い、鬱蒼とした森。

「気味が悪いわね」

ルイズは明らかに緊張していた。
口にこそ出さないがキュルケも同様だろう。タバサは――相変わらずだったが。
暁やボーにとっては特に何も感じないただの森なのだが、そういう場に馴染みのない彼女たちの恐怖を掻き立てるには十分な舞台設定なのだろう。

「いやですわ、暗くて怖い……」
「あんたはなんで人の使い魔にぴったりくっついてるのよ!」
「だってー、すごくー、こわいんだものー」
【……これ以上ないほど棒読みだな】

あからさまに演技とわかる態度でキュルケが暁の腕にしがみつき、それを見たルイズが怒る。
緊張を紛らわしたい――そんな意図が見え隠れしたものの、普段から学院内でよく見る光景がそこにはあった。
そしてそんな平和な喧騒の中、暁は一人視線を森の中へと向けた。

(見られてんな)

森に入ってから、何者かの視線が暁たちに張り付いている。
それは敵意も殺気も感じられない、ただ観察しているだけといった視線だったが、視線の主がわからない以上警戒を解けというのは無理な相談である。
普通に考えれば視線の主はフーケである。むしろそれしか心当たりはないと言ってもいい。
しかし暁にはフーケが自分たちを観察する理由は思い浮かばなかったし、
敵であることがわかりきっている暁たちへの視線に敵意が込められていない理由も想像できなかった。

【どうかしたのか?相棒】
「ん?ああ、なんでもねぇよ」

どこの誰かもわからない視線の主を探しても、おそらく見つけることは出来ない。
むしろ、それで時間を浪費するほうが余程問題だろう。
そう結論付けた暁は苦笑を浮かべ、警戒だけはしつつもそのまま進むことを選択する。
そしてしばらく歩いた後、彼らは開けた場所にたどり着いた。
そこは学園の中庭ほどの広さに森が切り取られた、光差し込む空間。

「あの中にいる、という話です」

ロングビルの指差した先――空間の中心には、ポツンと一軒の廃屋が佇んでいた。
元は木こりでも住んでいたのだろうか、朽ち果てた炭焼き用と思しき釜と壁板が外れた物置が見える。

「人の気配なんざしないけどな」

確かにこの場所は盗人の隠れ家としては非常に『らしい』。
何者かが最近この小屋のあたりを行き来したのだろう、その痕跡も若干ながらのこっている。
だが、今現在は人の気配がまったくない。

「見てくるから、お嬢さん方はボーとその辺で待ってな」
「では私は裏から回り込んでみます」
「ああ、頼むよ秘書さん」

ひらひらと手を振り暁が入り口へ、ロングビルが裏手へとそれぞれ移動を始める。
フーケを倒すだけならゴーレムを作り出す暇を与えず、奇襲で倒す方法が最も手っ取り早い。
無論それは暁にとってはくだらないことこの上ない方法だったが故に、彼は心からフーケの不在あるいは待ち伏せを願っていた。

デルフリンガーを構えたまま小屋の壁に張り付き、窓から中を伺う。
見えたのは、埃の積もったテーブル、転がった椅子、崩れた暖炉……人影も隠れる空間もありはしない。
そこはおおよそ誰かが生活しているとは思えない空間だった。
そして暁の目は、あまりにもあっさりと取り戻すべき品物を発見する。
部屋の隅に積み上げられている薪の山。
その脇に無造作に置かれたひとつのケース。
それは確かに見覚えのある、昨晩盗み出されたケースだった。

【えれぇあっさり見つかったな、オイ】
「拍子抜けするほどにな」

再度小屋の中へ視線を巡らせながら暁は考える。
普通に考えれば罠の可能性が高い。
この小屋は隠れ家というには人が入った痕跡が少なすぎ、保管庫というには物が少なすぎる。
だが、こんな学院から遠い場所で罠を張って待ち構える理由もまったく思い浮かばない。
というより、普通ならこんなところにいたことが学院にばれることなど、ありえるのだろうか。

(普通に考えても駄目なのかも知れんな)

苦笑とともに答えの出ない思考を放り投げ、暁はルイズたちを小屋のほうへと呼び寄せることにした。



「罠はない」

ドアに向けて杖を振るったタバサが呟く。
彼女の手によって開けられたドアには、確かになんら仕掛けは施されていなかった。

「けほっ、何ですのここ。埃っぽすぎやしません?」

空気が入り込んだことで室内に積もりに積もった埃が舞う。
光を浴びてキラキラ輝くそれは、埃だと思い込まなければさぞかし幻想的な光景なのだろう。
もっとも埃だと思わなくてもこの空間に一歩踏み込めばキュルケのように咳き込み、現実を思い知らされるのだろうが。

「まぁ、隠れ家でも何でもないことだけは確かだな」
【だなぁ】

足元を見ながら苦笑する暁と、それに呆れたような声で同意するデルフリンガー。
二人の視線の先――デルフリンガーに視線があるのかはわからないが――には、たった一度ドアからケースのある場所までを行き来した跡がしっかりと埃の海に刻まれていた。

「タバサお嬢さん、ケースに仕掛けがないかも見てもらえるか?」
「わかった」

やはり罠以外には考えられない状況だが、それならばすでに何かなければおかしい。
道、ドア、そして室内。ここにたどり着くまでの場所にはまったく何も仕掛けられていなかった。
小屋ごと吹き飛ばすこともありえるのだが、キュルケとタバサによれば小屋自体にもなんら仕掛けはないらしい。
この調子ならおそらくケースそのものにも仕掛けはないだろう。

(ゴーレムで小屋ごと踏み潰すとかか?)

暁が後ろを振り返ると、窓の向こう側にボーとルイズが見えた。
念のためにと外で残った二人である。

(方法としてはそれでも半端なんだよな、確実性がない)

外でなにかあれば、ルイズはともかくボーは確実に気付く。
ボーは脳まで筋肉の詰まった馬鹿だが、戦士としては超のつく一流である。
そんな彼を誤魔化して巨大なゴーレムを出現させ、彼が気付く前に小屋を踏み潰すなどさすがに不可能と言わざるをえない。
どこかの段階で小屋の中にいる三人は外に脱出してしまうだろう。

(何かやりたいことがあるのか、それとも自らのゴーレムへの信頼か)

いずれにせよ考えても結論は出ない。やはり相手の思惑は暁が想像できる範疇に存在しないのだろう。
暁が本日何度目かのその結論にたどり着いたとき、タバサの何も仕掛けはないという声が聞こえた。



小屋の中で作業する暁たち三人を窓の外から眺めながら、ルイズは一度大きなため息を吐いた。
暁たちがいる中と、ルイズのいる外を隔てているのはたった一枚の朽ちかけた壁。
だがルイズには壁の向こうが途方もなく遠いように感じられた。

――主人であり、メイジである自分が先んじて小屋に入るのが本来あるべき姿だったはずだ。

しかし現実は違う。先陣を切ったのは暁だったし、メイジとしての役割を果たしたのはキュルケでありタバサであった。
ルイズはそれが悔しくて、悲しくて仕方なかった。
この時、もし目の前に悪魔が現れて『力が欲しいか?』と問うたならばルイズは迷わずイエスと答えただろう。

「なぜそんな顔をする必要がある」

彼女に声をかけたのは悪魔ではなく、ボーだった。
いつもと比べれば少しだけ険しいその表情を見て、ようやくルイズは自分が情けない思考の沼に沈んでいたことを自覚した。

「……なんでもないわよ」
「なんでもなくはあるまい。そんな泣きそうな顔をしているお前は初めて見る」
「なんでもない、本当になんでもないのよ」

無様だと思った。
放っておいてくれればいいのに、とも思った。
ルイズにとってこの任務は『ゼロ』の汚名を返上するまたとない機会になるはずだった。いや、なって欲しかった。
だが今となっては『実際にはそんな機会はやってこないだろう』という諦観すら芽生えている。
そもそも彼女に確固たる勝算があったわけではない。
ルイズの背中を押したのは彼女自身の意地と、暁とボーならなんとかしてくれるのではないかという期待。

――今にして思えば、自分自身の力はまったく関係ない。

自分はいったい何をしたかったのか。
それすらもわからなくなったルイズはボーに背を向けた。

「キュルケとタバサがうらやましいのか?」

背中に投げかけられた言葉はあまりにも的確で、残酷で。
うつむき、何も答えないルイズの背中を見つめながらボーは続ける。

「魔法が使えればあの場所にいたのは自分だった――とでも考えたか?」

ただ確かめるような問いかけ。
にもかかわらずその一つ一つが、まるで糾弾されているかのようにルイズの胸に突き刺さる。
泣きたかった。
逃げ出したいと思った。
だがそのどちらもルイズにとって到底許せる行動ではなかったが故に、実行されることはなかった。

「以前も言っただろう。自分で自分を否定するな」
「わかってるわよそんなこと!」

そして、限界まで溜め込まれた感情が決壊する。
どこか遠くで自分自身を惨めと蔑む自分の存在を感じながらも、ルイズは吼えた。
泣かなかった、逃げなかった。だがそれももう無理だ。

「わかってるけどどうしようもないじゃない!魔法が使えない貴族なんて――」
「魔法が使えるものを貴族と呼ぶのか?魔法が使えればそれだけで人の上に立っていいのか?」

ボーの瞳は、声音はどこまでも静かだった。
ルイズだけでない何か別なものを見るように、言い聞かせるように。
波立っていた心が急速に静まっていく。

「お前は魔法が使いたいだけなのか?」

(違う)

拳を強く握り締めながら、思考を搾り出す。
それはルイズにとって確固たる答え。
魔法が使いたいだけ――そんなことは、ありえない。

「違うだろう。貴族というのは――」

弾かれたようにボーが後ろを振り返る。
つられるようにルイズも視線を上げ――目を見開いた。

「出たか!」

大地が森を突き破り、隆起していく。
それはさながら空へと向かい伸び続ける豆の木のように、どこまでも高く。
徐々に人の形へと変化していくそれは、あまりにも馬鹿らしいサイズで。

「ゴーレム……!」

ルイズの呟きに呼応するかのように、ゴーレムの進攻が始まる。



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