――ゴオオオオ……
深夜の空を空船が風を切って飛行する。
その中の一室に設置されたラウンジでは、シエスタがバーカウンター内の男に話しかけていた。
「あの……、食券使いたいんですけど」
「見せな!」
「『虚無壺の会』のミスタ・クロムウェルから貰ったんです。これと引き換えでごはんが貰えるからって……」
「ふん……」
バーカウンターの男は流しから取り出した三角コーナーを3人の目の前に置く。
「これだけしか残ってねーな」
「………」
ルイズ・サタニスターが三角コーナーを睨みつけた時、
「へっへっへ……」
「ふん……」
髪とあごひげを逆立てた筋肉質の男が薄ら笑いを浮かべつつサタニスターのあごを指で撫で、そばかすの女とチェックの帽子の男も3人に値踏みするような視線を向けていた。
「『サタニスター』っつったっけなあ、お前の名前……。知ってるぜ~」
そう言いつつ、チェックの帽子の男はサタニスターに頭から酒を浴びせかけた。
「『殺人鬼を狩る』そうじゃねえかよ。そんな女がこの空船に乗り込んでくるとはいい度胸だぜ!! テーブルを空けろお!!」
「あいよ」
筋肉質の男の言葉にそばかすの女が手近なテーブルを傾け、上に置いてあったグラスや酒瓶を落とす。
――ドンッ
筋肉質の男はその上に肘を突き腕相撲の体勢を取った。
「てめーの怪力はなかなかのものらしいじゃねえか。こいよ~!! このエイモスとの勝負を拒むんなら、てめーのメシは三角コーナーの残飯だ……。しかあし、俺に勝てたらまともなメシにありつけるぜ。係のやつにもそう話を通してある」
「ミス・ナックルスター……、私サンドイッチ作ってきたので……」
「………」
話しかけてきたシエスタに何も答えず、サタニスターは片手を上げて挑戦に応じる。
「念のため尋ねるわ。途中で勝負をやめるのはナシよね?」
「当ったり前だろ、バカヤロ~!! 野暮な事言ってんじゃねえぞ、コラ」
「………」
筋肉質の男・エイモスもサタニスターに応えてテーブルに肘を突いた。
「READY!! GO!!」
「ふうんっ!」
日焼けした男の合図で2人の勝負が開始され、組まれた腕はサタニスターの側に大きく傾く。
「始まったあーっ!! 早くも修道女が劣勢だぜえ!! みんな笑ってやれ!!」
「やっちまえ、エイモス!! そのまま叩きつけろーっ!!」
「ふんっ!! ふんっ!!」
エイモスと呼ばれた筋肉質の男は血管の浮かんだ顔を引きつらせて力を入れ、サタニスターも汗を流しつつ歯を食いしばる。
そんな中、サタニスター・エイモス戦のなりゆきを見守っていたルイズ・シエスタに、そばかすの女とチェックの帽子の男が歩み寄っていた。
「おおっと、小鹿を発見~♪」
「!!」
「うふふ……、サタニスターが負けたらどうなるかわかってんだろうね?」
「この空船に『弱虫(チキン)』は必要無え。よってたかってぐしゃぐしゃに痛めつけられるぜ~!!」
「そうなればお嬢ちゃん達も無事ではすまないねえ。……意味わかるよね? ふふふ……」
2人の言葉にルイズは怒りも露わに彼らを睨みつけ、シエスタは固唾を飲んで戦いの行方を見守っていた。
「ぶっつぶせ、エイモス!!」
「エイモス!!」
「エイモス!!」
「エイモ……」
エイモスコールを上げていた観客達が、ふと違和感を覚えた。
「……エイモス?」
「ん~!! ん~!!」
圧倒的優位に立っているはずのエイモスの腕がその場からまったく動かず、本人も苦痛の呻きを上げているのだ。
そして次の瞬間、
――ゴッシャア!
鈍い音を立ててエイモスの手が握り潰された。
「ぎゃあああ!! 放せ!! 放せ!! 手え放せ、ちくしょう~っ!!」
「エ……、エイモスの手があ~っ!!」
「つっ、潰されたあ~っ!!」
「どちらかの手がテーブルに付くまで勝負は終わらなくてよ!! 『お前もそれに同意したはず』!!」
「ぎゃひいい~っ!!」
激痛のあまり悶絶して椅子から転げ落ちるエイモス。
「エイモス!?」
『………!!』
サタニスターの手に握られたままのエイモスの右手首に、ルイズ・シエスタを含め観客全員が言葉を失った。
そしてその手首をテーブルに叩きつけ、
「私の勝ちよ……。文句がある奴は1歩前に出なさい」
「ひっ……」
バーカウンター内の男は、慌てて缶詰やら果物やらハムやらをカウンター上に並べだす。
そしてサタニスターはルイズ・シエスタに……正確には彼女達のすぐ傍まで来た男女に視線を向ける。
「あ……」
「い……、いや、アタシ達は……」
歩み寄ってくる自分を何とか誤魔化そうとする男女のしどろもどろの弁明に耳を貸さず、サタニスターは4人に歩み寄る。
「私の頭に酒を浴びせたのは……、どっちの手だい」
「は……!?」
「どっちよ」
さらに1歩接近するサタニスター。
「ひ……、左かな?」
――ドゴオッ!!
サタニスターの左アッパーがそばかすの女の顔の下半分を粉砕した。
「ぶぎっ!!」
「うおおっ」
「ひいいいい! ひいいいい!」
目の前で人間の顔が半分ちぎれかける様を目の当たりにしたチェックの帽子の男が、服を返り血で染めて悲鳴を上げた。
泣き喚く男にサタニスターは最早興味を示さず、背中を向け居並ぶ面々を指差して宣言する。
「ここにいる連中全員に告ぐ……。私の使命はお前達『殺人鬼』を『狩りつくす』事。この使命は私の母から譲り受け、母は祖母から譲り受けている。先祖代々受け継がれる。殺人鬼の怨霊を無数に蓄えたこのナックルと共にね……!! しかしこれはあくまでも先代から伝えられた使命『だけ』の話。私の本音は別にある……!! 私はね……、単にお前達が嫌いなのよ。金が欲しくて誰かを殺すは、特別な自分になりたくて誰かを殺すは、人をいじめるのが楽しいから誰かを殺すは……。そして捕まれば今度は言い訳三昧。『病気だった』、『酒を飲んでいた』。極刑を免れる事ができないと見るや、世間や遺族にからかい文句を投げかける!! そんなみっともない害獣になりながら生きさらばえるくらいなら、あたしが楽にしてあげる」
手近な女性の着ている服の胸元でナックルを拭い、サタニスターはルイズと共にラウンジを後にする。
「行くわよ、シエスタ。食べ物持ってきて」
「あっ……、はっ、はい!!」
シエスタは慌てて愛想笑いを浮かべつつバーカウンターの男から食料を受け取り、ルイズ達の後を追った。
深夜の空を空船が風を切って飛行する。
その中の一室に設置されたラウンジでは、シエスタがバーカウンター内の男に話しかけていた。
「あの……、食券使いたいんですけど」
「見せな!」
「『虚無壺の会』のミスタ・クロムウェルから貰ったんです。これと引き換えでごはんが貰えるからって……」
「ふん……」
バーカウンターの男は流しから取り出した三角コーナーを3人の目の前に置く。
「これだけしか残ってねーな」
「………」
ルイズ・サタニスターが三角コーナーを睨みつけた時、
「へっへっへ……」
「ふん……」
髪とあごひげを逆立てた筋肉質の男が薄ら笑いを浮かべつつサタニスターのあごを指で撫で、そばかすの女とチェックの帽子の男も3人に値踏みするような視線を向けていた。
「『サタニスター』っつったっけなあ、お前の名前……。知ってるぜ~」
そう言いつつ、チェックの帽子の男はサタニスターに頭から酒を浴びせかけた。
「『殺人鬼を狩る』そうじゃねえかよ。そんな女がこの空船に乗り込んでくるとはいい度胸だぜ!! テーブルを空けろお!!」
「あいよ」
筋肉質の男の言葉にそばかすの女が手近なテーブルを傾け、上に置いてあったグラスや酒瓶を落とす。
――ドンッ
筋肉質の男はその上に肘を突き腕相撲の体勢を取った。
「てめーの怪力はなかなかのものらしいじゃねえか。こいよ~!! このエイモスとの勝負を拒むんなら、てめーのメシは三角コーナーの残飯だ……。しかあし、俺に勝てたらまともなメシにありつけるぜ。係のやつにもそう話を通してある」
「ミス・ナックルスター……、私サンドイッチ作ってきたので……」
「………」
話しかけてきたシエスタに何も答えず、サタニスターは片手を上げて挑戦に応じる。
「念のため尋ねるわ。途中で勝負をやめるのはナシよね?」
「当ったり前だろ、バカヤロ~!! 野暮な事言ってんじゃねえぞ、コラ」
「………」
筋肉質の男・エイモスもサタニスターに応えてテーブルに肘を突いた。
「READY!! GO!!」
「ふうんっ!」
日焼けした男の合図で2人の勝負が開始され、組まれた腕はサタニスターの側に大きく傾く。
「始まったあーっ!! 早くも修道女が劣勢だぜえ!! みんな笑ってやれ!!」
「やっちまえ、エイモス!! そのまま叩きつけろーっ!!」
「ふんっ!! ふんっ!!」
エイモスと呼ばれた筋肉質の男は血管の浮かんだ顔を引きつらせて力を入れ、サタニスターも汗を流しつつ歯を食いしばる。
そんな中、サタニスター・エイモス戦のなりゆきを見守っていたルイズ・シエスタに、そばかすの女とチェックの帽子の男が歩み寄っていた。
「おおっと、小鹿を発見~♪」
「!!」
「うふふ……、サタニスターが負けたらどうなるかわかってんだろうね?」
「この空船に『弱虫(チキン)』は必要無え。よってたかってぐしゃぐしゃに痛めつけられるぜ~!!」
「そうなればお嬢ちゃん達も無事ではすまないねえ。……意味わかるよね? ふふふ……」
2人の言葉にルイズは怒りも露わに彼らを睨みつけ、シエスタは固唾を飲んで戦いの行方を見守っていた。
「ぶっつぶせ、エイモス!!」
「エイモス!!」
「エイモス!!」
「エイモ……」
エイモスコールを上げていた観客達が、ふと違和感を覚えた。
「……エイモス?」
「ん~!! ん~!!」
圧倒的優位に立っているはずのエイモスの腕がその場からまったく動かず、本人も苦痛の呻きを上げているのだ。
そして次の瞬間、
――ゴッシャア!
鈍い音を立ててエイモスの手が握り潰された。
「ぎゃあああ!! 放せ!! 放せ!! 手え放せ、ちくしょう~っ!!」
「エ……、エイモスの手があ~っ!!」
「つっ、潰されたあ~っ!!」
「どちらかの手がテーブルに付くまで勝負は終わらなくてよ!! 『お前もそれに同意したはず』!!」
「ぎゃひいい~っ!!」
激痛のあまり悶絶して椅子から転げ落ちるエイモス。
「エイモス!?」
『………!!』
サタニスターの手に握られたままのエイモスの右手首に、ルイズ・シエスタを含め観客全員が言葉を失った。
そしてその手首をテーブルに叩きつけ、
「私の勝ちよ……。文句がある奴は1歩前に出なさい」
「ひっ……」
バーカウンター内の男は、慌てて缶詰やら果物やらハムやらをカウンター上に並べだす。
そしてサタニスターはルイズ・シエスタに……正確には彼女達のすぐ傍まで来た男女に視線を向ける。
「あ……」
「い……、いや、アタシ達は……」
歩み寄ってくる自分を何とか誤魔化そうとする男女のしどろもどろの弁明に耳を貸さず、サタニスターは4人に歩み寄る。
「私の頭に酒を浴びせたのは……、どっちの手だい」
「は……!?」
「どっちよ」
さらに1歩接近するサタニスター。
「ひ……、左かな?」
――ドゴオッ!!
サタニスターの左アッパーがそばかすの女の顔の下半分を粉砕した。
「ぶぎっ!!」
「うおおっ」
「ひいいいい! ひいいいい!」
目の前で人間の顔が半分ちぎれかける様を目の当たりにしたチェックの帽子の男が、服を返り血で染めて悲鳴を上げた。
泣き喚く男にサタニスターは最早興味を示さず、背中を向け居並ぶ面々を指差して宣言する。
「ここにいる連中全員に告ぐ……。私の使命はお前達『殺人鬼』を『狩りつくす』事。この使命は私の母から譲り受け、母は祖母から譲り受けている。先祖代々受け継がれる。殺人鬼の怨霊を無数に蓄えたこのナックルと共にね……!! しかしこれはあくまでも先代から伝えられた使命『だけ』の話。私の本音は別にある……!! 私はね……、単にお前達が嫌いなのよ。金が欲しくて誰かを殺すは、特別な自分になりたくて誰かを殺すは、人をいじめるのが楽しいから誰かを殺すは……。そして捕まれば今度は言い訳三昧。『病気だった』、『酒を飲んでいた』。極刑を免れる事ができないと見るや、世間や遺族にからかい文句を投げかける!! そんなみっともない害獣になりながら生きさらばえるくらいなら、あたしが楽にしてあげる」
手近な女性の着ている服の胸元でナックルを拭い、サタニスターはルイズと共にラウンジを後にする。
「行くわよ、シエスタ。食べ物持ってきて」
「あっ……、はっ、はい!!」
シエスタは慌てて愛想笑いを浮かべつつバーカウンターの男から食料を受け取り、ルイズ達の後を追った。
翌朝、どこかの桟橋に横付けされた空船の船内にアナウンスが流れる。
『これよりは徒歩となります。各自愛用の武器をお持ちになってください。それ以外のお荷物はこちらでお預かりします』
既に到着していた参加者達が新たに到着していた空船を見て、思い思いに雑談を交わし合う。
「空船が来たぞ!」
「予選に参加予定の殺人鬼達がまたまた新たにご到着だぜ」
「これで参加者は100人越えか」
「本選に出られるのはおそらく1~2割……。ここからは完全に弱肉強食の世界だ」
そんな時、ある一団が空船から一緒に下りてきた3人の女性らしい人影を発見する。
「……おい、何か顔色の悪い連中がいるぞ。泣きそうな面してやがる」
「さっきあれに乗ってるダチから連絡があった。『修道服を着た女とは戦うな』だとよ……」
その一団に噂されているとも知らず、ルイズ・サタニスター・シエスタも桟橋を歩いていく。
「ミス・サタニスター、結局私達缶詰しか食べませんでしたね……」
「毒入り牛乳うっかり飲んだ件があったからね」
「嫌な事思い出させるんじゃないよ」
「ところで……、ここってハルケギニアですか?」
桟橋のある建物の周囲は見渡す限りの原生林で、遠くに霞む山並みまでの間に人工建造物らしい物はまったく見えなかった。
「……さあ」
『これよりは徒歩となります。各自愛用の武器をお持ちになってください。それ以外のお荷物はこちらでお預かりします』
既に到着していた参加者達が新たに到着していた空船を見て、思い思いに雑談を交わし合う。
「空船が来たぞ!」
「予選に参加予定の殺人鬼達がまたまた新たにご到着だぜ」
「これで参加者は100人越えか」
「本選に出られるのはおそらく1~2割……。ここからは完全に弱肉強食の世界だ」
そんな時、ある一団が空船から一緒に下りてきた3人の女性らしい人影を発見する。
「……おい、何か顔色の悪い連中がいるぞ。泣きそうな面してやがる」
「さっきあれに乗ってるダチから連絡があった。『修道服を着た女とは戦うな』だとよ……」
その一団に噂されているとも知らず、ルイズ・サタニスター・シエスタも桟橋を歩いていく。
「ミス・サタニスター、結局私達缶詰しか食べませんでしたね……」
「毒入り牛乳うっかり飲んだ件があったからね」
「嫌な事思い出させるんじゃないよ」
「ところで……、ここってハルケギニアですか?」
桟橋のある建物の周囲は見渡す限りの原生林で、遠くに霞む山並みまでの間に人工建造物らしい物はまったく見えなかった。
「……さあ」
桟橋のある建物から程近い広場に参加者達を集め、クロムウェルがマジックアイテムを使用して全員に声をかける。
『「ハルケギニア最強殺人鬼決定戦」の予選をこれより開始致します。私「虚無壺の会」のクロムウェルがルールをご説明致します。……と、その前に……』
クロムウェルの後方から揃いの服に身を包んだ女性達が何人も現れ、参加者達の方に向かっていく。
「こちらをお受け取りください」
「どーぞ」
女性達は参加者達に鞄から取り出した何かを手渡していく。
『皆様にお配りしている物は「革製ホルダー」でございます。ホルダーには10個のくぼみが空いております』
ホルダーを受け取ったルイズは、くぼみの1つに金属製の小さな円盤がはめ込まれている事に気付いた。
(これは……、メダル……?)
『「虚無壺の会」の紋章が刻まれたメダルが、ホルダーに1枚だけはまっているのがおわかりいただけますかな? それと同じメダルが森の中のあちこちに隠されております。それらを探し当てて……、ホルダーにはめていってくださいませ。3枚集めれば合格!! 大会本選に出場できます』
「な~んだ、たった3枚かよ」
「案外優しいぜ」
ホルダーを腕にはめるルイズ達3人の後ろで、メイスと拳銃を持った2人組が薄ら笑いを浮かべつつそう軽口を叩いていたが、
『ただし!! 武器を持って本選に出るならば、メダルは5枚必要となります。銃火器類や爆発物等構造が複雑な武器・メイジの杖の場合はメダル8枚!! 本選での戦いを勝ち抜くには……、メダル3枚の成績では「地獄を見る」とお考え下さいませ。なおメダル10枚完全収集(コンプリート)された方は、本選においてシード選手として扱われます。シードの特典は――』
「待ちな、おっさん」
そこまで言ったところで、背後から迫ってきた巨大な人影がクロムウェルの首根っこをつかんだ。
「あっ」
「『サイト』……!!」
「何か用かね」
「『森の中でメダルを集めろ』だと!? 殺人鬼に宝探しさせて何の意味があるんだ? 小学生のキャンプと同じに考えてねえか、この野郎……!!」
「単なる宝探しではございません」
苛立たしげに叫ぶ才人をホルダーを配布していた女性達が制する。
「メダルを弱い者から力ずくで奪い取る行為も『あり』でございます」
「たとえ奪い取る際に相手を殺そうとも」
「やはり『あり』でございます」
「……それを早く言えよ」
クロムウェルの首根っこから手を放し、才人は元いた場所に戻っていく。
「ふふ……、血の気の多いのは実に結構」
「……本選における『シードの特典』って?」
「途中で変な邪魔が入ったからわからなかったわ」
サタニスター・ルイズの言葉に才人がぴくりと反応したが、それにかまわずクロムウェルは説明を再開する。
『試合条件について注文をつけられる権利が発生します。ある程度の「わがまま」が利くようになるとお考えください。もちろんそれなりの説得力も要求されますが』
立ち止まった才人はちらりと振り返りサタニスター達を睨みつけたが、すぐに他の面々のいる所に向かう。
(覚悟しとけ……、サタニスター……!!)
サタニスター達に露骨な敵意を向ける才人に彼の仲間は、
「あんまり熱くなるなよ、サイト」
「なってねえよ」
「なってるでしょ」
「なってるな」
『予選の制限時間は12時間。それまでにここに帰ってこれなかった者は失格となります。なお1時間ごとにこの場所から花火を打ち上げるので、帰る際の目安にしてください』
全ての説明を終えたクロムウェルが懐から取り出した拳銃を構える。
「それでは用意……ドーン!! ……と言ったら始まるんですよ!!」
クロムウェルの軽口に参加者たちは全員沈黙でもって応えたのだった。
「ふふふ……、流石は冷酷な殺人鬼達。ギャグで笑う明るい感情などとうに捨て去ったというわけか……」
「すべっただけなのでは」
女性の1人からのツッコミを聞き流し、クロムウェルは改めて拳銃を構える。
――パアンッ!
「予選『メダル探し』、スタート!!」
銃声と叫びを合図に、参加者達は一斉に走り出した。
「流石に今ここでメダルを奪い合う連中はいないようだな!!」
「当然だぜ!! 相手がメダルを貯めてから狙う方が効率がいい!! 今喧嘩を始める馬鹿はいねえよ!!」
メンヌヴィルにそう答えた才人のすぐ横までサタニスターが駆け寄り……、
──バギャス!!
突然の右ストレートが才人の顔面を襲った。
「うごおおおっ!」
才人はたまらずもんどりうって倒れる。
「サイト~っ!!」
「あ、あいつ~っ!!」
サタニスターはさらに倒れた才人に馬乗りになって顔面に連打を浴びせる。
「てめー、よくも教会ぶっ壊してくれたわねえ~っ!! 許さんっ!!」
「行くよっ!! サイトはもう駄目だ!! それに元々はあいつが撒いた種!!」
飴姫のその言葉に、3人は一路森の中へと向かっていったのだった。
『「ハルケギニア最強殺人鬼決定戦」の予選をこれより開始致します。私「虚無壺の会」のクロムウェルがルールをご説明致します。……と、その前に……』
クロムウェルの後方から揃いの服に身を包んだ女性達が何人も現れ、参加者達の方に向かっていく。
「こちらをお受け取りください」
「どーぞ」
女性達は参加者達に鞄から取り出した何かを手渡していく。
『皆様にお配りしている物は「革製ホルダー」でございます。ホルダーには10個のくぼみが空いております』
ホルダーを受け取ったルイズは、くぼみの1つに金属製の小さな円盤がはめ込まれている事に気付いた。
(これは……、メダル……?)
『「虚無壺の会」の紋章が刻まれたメダルが、ホルダーに1枚だけはまっているのがおわかりいただけますかな? それと同じメダルが森の中のあちこちに隠されております。それらを探し当てて……、ホルダーにはめていってくださいませ。3枚集めれば合格!! 大会本選に出場できます』
「な~んだ、たった3枚かよ」
「案外優しいぜ」
ホルダーを腕にはめるルイズ達3人の後ろで、メイスと拳銃を持った2人組が薄ら笑いを浮かべつつそう軽口を叩いていたが、
『ただし!! 武器を持って本選に出るならば、メダルは5枚必要となります。銃火器類や爆発物等構造が複雑な武器・メイジの杖の場合はメダル8枚!! 本選での戦いを勝ち抜くには……、メダル3枚の成績では「地獄を見る」とお考え下さいませ。なおメダル10枚完全収集(コンプリート)された方は、本選においてシード選手として扱われます。シードの特典は――』
「待ちな、おっさん」
そこまで言ったところで、背後から迫ってきた巨大な人影がクロムウェルの首根っこをつかんだ。
「あっ」
「『サイト』……!!」
「何か用かね」
「『森の中でメダルを集めろ』だと!? 殺人鬼に宝探しさせて何の意味があるんだ? 小学生のキャンプと同じに考えてねえか、この野郎……!!」
「単なる宝探しではございません」
苛立たしげに叫ぶ才人をホルダーを配布していた女性達が制する。
「メダルを弱い者から力ずくで奪い取る行為も『あり』でございます」
「たとえ奪い取る際に相手を殺そうとも」
「やはり『あり』でございます」
「……それを早く言えよ」
クロムウェルの首根っこから手を放し、才人は元いた場所に戻っていく。
「ふふ……、血の気の多いのは実に結構」
「……本選における『シードの特典』って?」
「途中で変な邪魔が入ったからわからなかったわ」
サタニスター・ルイズの言葉に才人がぴくりと反応したが、それにかまわずクロムウェルは説明を再開する。
『試合条件について注文をつけられる権利が発生します。ある程度の「わがまま」が利くようになるとお考えください。もちろんそれなりの説得力も要求されますが』
立ち止まった才人はちらりと振り返りサタニスター達を睨みつけたが、すぐに他の面々のいる所に向かう。
(覚悟しとけ……、サタニスター……!!)
サタニスター達に露骨な敵意を向ける才人に彼の仲間は、
「あんまり熱くなるなよ、サイト」
「なってねえよ」
「なってるでしょ」
「なってるな」
『予選の制限時間は12時間。それまでにここに帰ってこれなかった者は失格となります。なお1時間ごとにこの場所から花火を打ち上げるので、帰る際の目安にしてください』
全ての説明を終えたクロムウェルが懐から取り出した拳銃を構える。
「それでは用意……ドーン!! ……と言ったら始まるんですよ!!」
クロムウェルの軽口に参加者たちは全員沈黙でもって応えたのだった。
「ふふふ……、流石は冷酷な殺人鬼達。ギャグで笑う明るい感情などとうに捨て去ったというわけか……」
「すべっただけなのでは」
女性の1人からのツッコミを聞き流し、クロムウェルは改めて拳銃を構える。
――パアンッ!
「予選『メダル探し』、スタート!!」
銃声と叫びを合図に、参加者達は一斉に走り出した。
「流石に今ここでメダルを奪い合う連中はいないようだな!!」
「当然だぜ!! 相手がメダルを貯めてから狙う方が効率がいい!! 今喧嘩を始める馬鹿はいねえよ!!」
メンヌヴィルにそう答えた才人のすぐ横までサタニスターが駆け寄り……、
──バギャス!!
突然の右ストレートが才人の顔面を襲った。
「うごおおおっ!」
才人はたまらずもんどりうって倒れる。
「サイト~っ!!」
「あ、あいつ~っ!!」
サタニスターはさらに倒れた才人に馬乗りになって顔面に連打を浴びせる。
「てめー、よくも教会ぶっ壊してくれたわねえ~っ!! 許さんっ!!」
「行くよっ!! サイトはもう駄目だ!! それに元々はあいつが撒いた種!!」
飴姫のその言葉に、3人は一路森の中へと向かっていったのだった。
「サタニスタ~ッ!!」
絶叫と共に才人は起き上がった。
その頭部は各所がへこんでいて、「バカ」だの「うんこ」だのといった落書きもされている。
「どこ行った!! がああ~っ!! ……あっ!! 俺のメダルが無いっ!! ポケットに入れてたのに!!」
「おおっ、君まだ動けたのかい! 凄いねえ」
才人の復活に気付いて、女性達とカードゲームをしていたクロムウェルが声をかけた。
「既に6時間経過しているが、頑張ってメダルを集めてくれ。本戦への参加には3枚必要……いや、君の場合は8枚だな」」
「8……、何だそれ!? 不公平だろ!!」
「機械類等の使用者は8枚必要と説明したぞ。君の体は機械じゃないのかね?」
「じゃあ聞くが、義手や義足を付けてるやつも8枚要るのか!?」
「ははは、そーゆうのはまた別だろう」
「それなら間を取って5枚にしろ!!」
絶叫と共に才人は起き上がった。
その頭部は各所がへこんでいて、「バカ」だの「うんこ」だのといった落書きもされている。
「どこ行った!! がああ~っ!! ……あっ!! 俺のメダルが無いっ!! ポケットに入れてたのに!!」
「おおっ、君まだ動けたのかい! 凄いねえ」
才人の復活に気付いて、女性達とカードゲームをしていたクロムウェルが声をかけた。
「既に6時間経過しているが、頑張ってメダルを集めてくれ。本戦への参加には3枚必要……いや、君の場合は8枚だな」」
「8……、何だそれ!? 不公平だろ!!」
「機械類等の使用者は8枚必要と説明したぞ。君の体は機械じゃないのかね?」
「じゃあ聞くが、義手や義足を付けてるやつも8枚要るのか!?」
「ははは、そーゆうのはまた別だろう」
「それなら間を取って5枚にしろ!!」
それからしばらく経って、1人原生林の中を行く才人の姿があった。
彼はまだ知らない。
(くそっ……、結局8枚かよ。仲間達は俺を置き去りにしやがるし、ついてないぜ……。どこ行った、あいつら?)
仲間達と出会う事は2度と無いという事を……。
彼はまだ知らない。
(くそっ……、結局8枚かよ。仲間達は俺を置き去りにしやがるし、ついてないぜ……。どこ行った、あいつら?)
仲間達と出会う事は2度と無いという事を……。