あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

アノンの法則-15



学院に戻り、フーケを衛兵に引き渡したルイズたちは、学院長室でオールド・オスマンに事の次第を報告していた。
「ふむ……。ミス・ロングビルが土くれのフーケじゃったとはな……。美人だったもので、なんの疑いもせず秘書に採用してしまった」
「いったい、どこで採用されたんですか?」
横に控えたコルベールが尋ねた。
「街の居酒屋じゃ。私は客で、彼女は給仕をしておったのだが、ついついこの手がお尻をなでてしまってな」
「で?」
「おほん。それでも怒らないので、秘書にならないかと、言ってしまった」
つまりオスマンはフーケの色仕掛けにあっさりと引っかかり、学院への潜入を許してしまったのだ。
生徒達の視線が、オスマンに冷たく突き刺さる。
オスマンはごほん、と咳払いをすると、厳しい顔を作った。
「さてと、君たちはよくぞフーケを捕まえ、『奇跡の木札』を取り返してきた。フーケは、城の衛士に引き渡した。そして『奇跡の木札』は、無事に宝物庫に収まった。一件落着じゃ」
アノン以外の三人が誇らしげに礼をした。
「君たちの『シュヴァリエ』の爵位申請を、宮廷に出しておいた。追って沙汰があるじゃろう。といっても、ミス・タバサはすでに『シュヴァリエ』の爵位を持っているから、精霊勲章の授与を申請しておいた」
「ほんとうですか?」
キュルケが、驚いた声で言った。
「うむ。今回の君たちの働きは、それに値するものじゃ」
あ、でも、とキュルケは後ろにいるアノンを見た。
ルイズも思うところがあったのか、アノンを見て言った。
「……オールド・オスマン。アノンには、何もないんですか?」
実際、フーケを倒したのはアノンなのだ。
ルイズもキュルケも、それを全て自分達の手柄にしてしまうのは気が引けた。
「残念ながら、彼は貴族ではない」
すまなそうにオスマンが言ったが、アノンは考えごとをしているようで、そのやり取りは耳に入っていないようだった。
オスマンは、ぽんぽんと手を打った。
「さてと、今日の夜は『ブリッグの舞踏会』じゃ。この通り、『奇跡の木札』も戻ってきたし、予定どおりとり行う」
「そうでしたわ! フーケの騒ぎで忘れておりました!」
「今日の舞踏会の主役は君たちじゃ。用意をしてきたまえ。せいぜい、着飾るのじゃぞ」
三人は、礼をするとドアに向かった。
だが、アノンはそこから動かず、じっとオスマンを見つめている。
「ルイズ、キミは先に行っててよ」
「あんた、オールド・オスマンに何の用があるの?」
「いいんじゃ。君は舞踏会の準備をしなさい、ミス・ヴァリエール」
オスマンにそう言われ、ルイズは心配を隠せないように、何度も振り返りながら部屋を出て行った。
「なにか、私に聞きたいことがおありのようじゃな」
「ええ、いろいろとね」
「うむ。私の方からも聞きたいことがあるが…まず君のほうから聞かせてもらおうかの」
アノンは頷いた。
「『奇跡の木札』。あれはボクが元いた世界のものです」
オスマンの目が鋭く光る。
「元の世界、とな?」
「ええ、ボクはこの世界の人間じゃありません。正確言えば、人間でもない」
アノンは、オスマンに自分の正体を告げた。
例えこのことが自分の不利に働くとしても、この『奇跡の木札』については確認しておかなければならない。
そう考えてのことだった。

コルベールが驚いて言った。
「物語に出てくるような別の世界の者、とでも言うのかね? いや、それより人間で無いとは?」
「ボクのいた世界は、三つの異世界から成り立っていた。天界、人間界、地獄界の三つ。ボクは地獄界で生まれた“地獄人”です。ルイズの『召喚』で、こちらの世界に呼ばれたんですよ」
「なんと……」
「なるほど。異世界の……」
オスマンは目を細めた。
「それと、あの『奇跡の木札』…正しい名前は“空白の才”といいます」
「ザイ?」
「“才”って言うのは、まあ才能のことかな。“空白の才”は書き込むことで自分の望む才能を手入れられる、というものなんです」
「望む才能を、ですと? なんと素晴らしい!」
「いや、なんとも危険な代物じゃ」
コルベールが感動したように声を上げたが、オスマンは深刻な顔で言った。
「それが本当なら、あの秘宝は白くも染まれば黒くも染まる。確かに、善の者が手にすればこれほど夢のある力はないじゃろう。
 だが、悪の者が手にした場合、“盗み”の才、“破壊”の才、“支配”の才…夢を叶えるどころか他人の夢まで食われかねん」
コルベールははっとして言った。
「確かに……そう考えると、本当にフーケから取り戻すことができてよかった」
「うむ。これからはもっと厳重に管理するとしよう」
深刻な顔で頷く二人に、アノンが尋ねた。
「アレは天界の物、いやすでに人間界の誰かに渡っているはずのものです。アレを一体どこで?」
そう、“空白の才”は天界にあった物だ。
今は優勝チームの誰か…恐らくは、植木耕介の手に渡っているはずの物。
オスマンは遠くを見るような目で話し始めた。
「何年も前の話じゃ。あれは私がある村からの依頼で、ワイバーンを退治したとき、その礼として受け取ったものなんじゃ。なんでもその昔、どこぞの貴族が召喚したものだとか」
「召喚?」
「うむ。稀にそういうことがあるらしい。書物だったり、用途不明のマジックアイテムだったり。様々だが、魔法によって召喚されるということがな」
「ほかに詳しいことは?」
「いや、今君に説明されるまで、使い方も分からんかった。それでも珍しい物には変わりないのでな。とりあえず王室に献上するという形で、学院の宝物庫に放り込んで置いたんじゃ」
「元の世界に帰る手がかりにはならない、か」
「すまんな」
「じゃあ、もうひとつ」
特に気落ちした様子も無く、アノンはそう言って左手を見せた。
「この文字が光ると、何故か剣を自在に使えるようになるんです」
コルベールがオスマンを見る。オスマンはコルベールと目を合わせ、しばし悩んだあと、頷いた。

「それは伝説の使い魔、ガンダールヴの印です」
コレベールが告げた。
「伝説の使い魔?」
「はい。その伝説の使い魔はありとあらゆる『武器』を使いこなしたと伝えられています。君が剣を操れるというのもそのおかげでしょう」
「『武器』って事は剣だけじゃなく、槍や斧…銃なんかでも扱えるってことかな」
「おそらくは…」
「ふぅん。それは便利そうだ」
想像を廻らし、子供のような瞳でルーンを眺めるアノンに、コルベールの表情が曇る。
「では、今度はこちらの番じゃ」
オスマンが重々しく言った。
「君が元の世界に帰る手がかりは、今のところ無い。もちろん私なりに調べるつもりじゃが……君はこれからどうするつもりかね」
「どうするって、使い魔を続ける以外になにをするって言うんです?」
「……正直に言おう。我々は君の存在を危険視しておる」
表情を変えないアノンに、オスマンはさらに続けた。
「君は強力な使い魔じゃ。素手でメイジを倒せるほどにな。故に主に、ミス・ヴァリエールに御し切れぬのなら、野放しにはしておけん」
「嫌だなぁ、オスマン先生。ボクは強くなんてありませんよ」
「ミスタ・グラモンとの決闘を見させてもらった。あの時君は、ミスタ・グラモンを殺そうとしたじゃろう」
「……」
オスマンとコルベールは、厳しい表情でアノンを見つめる。
「でも、ルイズが止めた」
オスマンはしばし目を閉じた後、アノンににっこりと笑いかけた。
「あい、わかった。時間を取らせて悪かったの。今夜の舞踏会には君も参加するといい」
アノンはぺこりと頭を下げて、部屋から出ていった。
「オールド・オスマン…」
コルベールがオスマンを見た。
「まだ彼が安全と決まったわけではない。だが確かに決闘の時、彼はミス・ヴァリエールによって止められた。今回も、主と共にフーケ討伐の任を果たした。少なくとも、ある程度はミス・ヴァリエールに従うようじゃ」
「…はい」
「ミスタ・コルベール。この件は引き続き私が預かろう」
「わかりました」
「君はミス・ヴァリエールの方に気を使ってやってくれ。彼女、扉の向こうで話を聞いておったぞ」
「! …分かりました」
そう言って、コルベールも部屋を出て行く。
ひとり学院長室に残ったオスマンは、静かに呟いた。
「はてさて、伝説の使い魔となった彼は一体どうなるのか……。願わくばその力、壊すためではなく、守るために使ってほしいものじゃ」




アノンはバルコニーから、華やかなホールをぼんやりと眺めながら、手皿に盛られた料理をつついていた。
さっきほどシエスタが、適当によそって持ってきてくれたのだ。
そのシエスタも、今は忙しげにホールの中を動き回っている。
キュルケも男達に囲まれているし、タバサは一心不乱に手と口を動かし、料理の空き皿で山を築いている。
ルイズはまだホールに現れていない。
となると、話しかけてくるのは横に立てかけたデルフリンガーだけである。
「ワインは飲まないのか、相棒」
「んー」
気の無い返事を返すアノン。
「帰る方法がわかんなかったのが、そんなにショックかよ?」
「いや、そう急いで帰るつもりはないよ。ただ、これまでのことをちょっと振り返ってたんだ」
アノンは、一呼吸おいて、
「今まで、他人を助けたことなんて無かった」
と言った。
「あのメイドの嬢ちゃんのことか? それとも今日の貴族の娘っこのことか?」
「両方だよ」
『他人の命なんて、どうなったっていい』
ずっとそうやって生きてきた。
だから、他人を助けることなど、今まで考えたことも無かった。
だが、こちらに来てからは、一度会っただけのメイドやヒステリックな主のために、貴族の屋敷に乗り込んだり、巨大なゴーレムを相手にしたり。
なぜ、自分はそんな、なんの得にもならないことをしたのだろうか。
ふと、植木の姿が頭に浮かんだ。
植木耕介。誰よりも強くなったはずの自分を倒した男。
彼は仲間のため、見知らぬ他人のためにまで、怒り、自分の身を犠牲にして闘った。
彼の敵たちはそれを愚かだと嘲笑い、自分もそう思った。
それでも彼は、それが自分の『正義』だと決して曲げず、最後はその強い意志に惹かれた仲間達と共に、世界を守った。
「そう言えば…似てる気がする」
自分が助けた二人の少女。
シエスタもルイズも、どこか植木を思わせるものを持っていた。
シエスタはその容姿が。ルイズはその強い意志が。
アノンに植木を思い出させた。
だからだろうか。
植木と言う、自分が誰よりも認める男に似ていたから―――。

「ヴァリエール公爵が息女、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール嬢のおな~~~り~~~!」
呼び出しの衛士の声がホールに響き、アノンの主人の到着を告げた。
アノンは思考を中断して、ホールに視線を移す。
ルイズは髪をバレッタで纏め上げ、白いパーティドレスに身を包んでいた。
いつもとまるで印象が違う。
彼女の美貌に、いまさらながら気づいた男子生徒たちが群がったが、ルイズはそれらを軽くあしらうと、バルコニーのアノンに近寄ってきた。
「楽しんでる?」
「まあね」
改めて見ても、ルイズはシエスタと違い、容姿に植木と共通するところは無い。
だが、その目からは、植木を思い出させる強い意志が感じられた。
「なに見てるのよ」
少し顔を赤くして、ルイズが言った。
「いや、キミは踊らないんだね」
「相手がいないのよ」
「さっき、いっぱい誘われてたじゃないか」
ルイズは答えず、すっとアノンに手を差し伸べた。
「?」
「踊ってあげても、よくってよ」
目を逸らして、ルイズは照れたように言った。
きょとんとするアノン。
そこにデルフが口を挟む。
「おいおい、そこは踊って下さい、だろ。娘っこ」
「し、仕方ないわね…今日だけよ」
かちゃかちゃと笑うデルフリンガーを睨みつけた後、ルイズはドレスの裾を両手で持ち上げると、膝を曲げて一礼した。
「わたくしと一曲踊ってくださいませんこと。ジェントルマン」
「ああ、そういうことか」
アノンはいたずらっぽく笑い、芝居がかった仕草で、
「喜んで。レディ」
と、ルイズの手を取った。
真っ赤になったルイズと一緒に、アノンは煌びやかなホールへ向かった。



「でもボク踊ったことないよ」
「いいから、わたしに合わせて」
見よう見まねで、アノンはステップを踏む。
ルイズにリードされながらしばらく踊っていると、何とか形になってきた。
「ねえアノン」
済ました顔で踊っていたルイズが言った。
「信じてあげるわ。あんたが別の世界から来たってこと」
「へえ? あれだけ疑ってたのに」
「…聞いてたのよ。オールド・オスマンとの話。秘宝のこととか、伝説の使い魔のこととか、全部」
「盗み聞きかい?」
「だ、だって……不安じゃない。あんたが何かやらかしたら、主の私の責任なのよ?」
ばつが悪そうに言うルイズ。アノンは、何気なくに尋ねてみた。
「欲しいかい? “空白の才”」
「…要らないわ。そんなの欲しがったりしたら、自分で才能がないって認めるようなもんじゃない」
ルイズはすっと視線を上げ、
「それに」
と続けた。
「確かに私は魔法が使えないわ。人が一回でできることを、百回やってもできなかった。でも、だったら千回やればいい。それでもだめなら一万回でも、十万回でも。
 たとえ才能がないとしても、その分努力すれば、必ずできるようになる。私はそう信じて、今までやってきたのよ」
そう言って、ルイズはしばらく無言で踊った。
「え、えっとね…」
それからルイズは、恥ずかしそうに目を逸らして、思い切ったように口を開く。
「ありがとう」
「え? 何が?」
「だ、だからぁ……」
鈍いアノンに、ルイズはじれったそうに言った。
「た、助けてくれたでしょ? フーケのゴーレムにやられそうになったとき……」
「ああ、あれか。キミでもそういうこと言うんだね」
「あ、あんたは使い魔だし…その、ご主人様を守るのは当然だけど……えと、やっぱり助けられたわけだし、お礼ぐらいは……」
しどろもどろになりながらも、感謝の言葉を伝えるルイズ。そんなルイズがおかしくて、アノンはクスリと笑う。
ルイズは赤い顔で、不機嫌そう口をとがらせた。
微笑ましい空気が流れる。
「アノン」
突然、真剣な顔になって、ルイズはアノンを見つめた。
「なんだい、ルイズ」
「あなたに言っておくことがあるわ」
どこまでも真剣な瞳。アノンは眩しいものを見る様に、その瞳を見つめ返す。
「もう、ギーシュの時のようなことはしないで」
命令でも懇願でもなく、ただ強く、ルイズはそう言った。
「いい? これは、あなたのためでもあるの」
アノンは、本当によく似てるな、と思った。
「ああ、わかったよ」
「本当に?」
念を押すルイズに、アノンは笑いかけた。
窓の外には二つの月。
楽士たちの奏でるテンポのいい曲を聞きながら、異世界ハルケギニアの象徴のようなその光を感じて、アノンは想う。
まだこの世界には、知らないことがたくさんある。
それを、彼によく似たご主人様と一緒に見て行くのも、悪くない。

「ボクは、キミの使い魔だよ」


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