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ギーシュ・ド・グラモンと黒バラ女王-02


――翌日。
 この日のヴェストリの広場にはいつにない賑わいがあった。
 そこでは決闘が行われていたのである。
 ここトリステイン王国では貴族同士の決闘は禁止されている。
 では何故決闘が行われているのか。
 それはある貴族が決闘を挑んだ相手が平民だったからだ。

「まだ続ける気はあるかい?」
 全身が傷だらけになった平民を一瞥すると、ギーシュは造花の杖を振るった。
 杖の先から剥がれ落ちた赤い薔薇の花びらが空中を舞う。
 するとそれは一本の剣へと変化し、平民の目の前に突き刺さった。
「続ける気があるならその剣を取りたまえ」
 ギーシュ口元の右側を吊り上げながら平民を見下ろした。
「その気がないなら僕にこう言うんだ。『ごめんなさい』とね」
 このときギーシュは自分の勝利を確信していた。
 しかし――
 決着は一瞬のうちについた。
 平民の少年は剣を右手に携えると人間離れした速度でギーシュが召喚していた青銅のゴーレムを切り裂いた。
 ギーシュはすぐさま新たなゴーレムを六体召喚したが、どのゴーレムも間も無く青銅の残骸と化した。
「うあぁ!? ふあぁっ!!」
 目前に剣の刃を差し出されると、ギーシュは力なく腰を地面に落とした。
 平民の意外な反撃に観衆は沸いた。
 そして、突然圧倒的な力を見せ付けられたギーシュは俯きながら『参った』と言おうとしていた。

 ところが、ギーシュが降参の意を表そうとする直前、彼の頭の中に聞き覚えのある声が響き渡った。
『お待ち。まだ貴方には勝ち目があるよ』
 それは昨日の夕方、眠りに就いたバラの精の声だった。
『あの少年からは強い力を感じるよ。私の封印を解くチャンスさ』
 バラの精がギーシュの心の中で囁き始める。
『いいかいギーシュ。私を閉じ込めているこの忌々しい玉をあの少年に投げ付けるんだ』
『そうすれば必ずこの玉を砕いてくれる』
『なぁに、心配はいらないよ。封印さえ解ければあとは私に任せてくれればいいんだからね』
 声は何重にも重なり合い、ギーシュの頭の中を埋め尽くした。
(……使い魔は主と一心同体の存在。ならばここで君の力を借りても)
『十分面目は保たれるさ! 何も問題はないよ!』
『さぁギーシュ! 早く私をあの少年の元へ!!』

 バラの精の助言を得たギーシュは後方に向かい跳ねるように起き上がると、胸元から黒いガラス玉を取り出しそれを敵対する平民の前にかざした。
「まだだ! 勝負はこれからだ!」
 間合いを取り相手の顔に狙いを定め、力いっぱいに玉を放り投げた。
 普通の平民が相手であればこれだけでも十分な程の勢いが玉にはある。
 しかし、ガラス玉はが直撃したのは少年の顔ではなく、彼が振り下ろした剣の切っ先。
 ガラス玉は衝突の直後、眩い光を発し少年の剣を弾こうとした。
 ところが少年の左腕に刻まれたルーンも同時に眩く輝き出し、そのままガラス玉の光を凌駕しそれを断ち切った。
 そしてその瞬間、割れたガラス玉の中にあった黒いバラが灰色の煙となって霧散した。
(あ、あれ?)

 ギーシュは少年と睨み合いを続けていた。
 頼みの綱であるバラの精が一向に姿を現さないからだ。
(も、もしやさっきの一撃でやられてしまったんじゃ……)
 使い魔の死という最低の結末をギーシュは予感した。
 だがしかし、彼のこの予想は最悪の形で裏切られることになる。
「へへ、そっちが来ないんならこっちから行かせてもらうぜ」
 痺れを切らした少年が剣の柄をギーシュに向け踏み込みを始めた。
 軽やかに足を進める少年はたちどころにギーシュとの間を狭めたのだが――突如、学院全体に激震が走った。
 凄まじい揺れはその地の上に立つ全ての者達の身動きを止める。
 そして激甚な地響きと共に学院の外側、ちょうど入り口付近の大地が爆ぜると巨大な塔――いや、巨大な塔と見紛う蔓が陸続と姿を現した。
 その場に居合わせたギーシュ、少年、ルイズ、そして観衆は息をこらし天を仰ぐ。
 互いに絡み合いながら背丈を伸ばす不気味な植物は、異様な雰囲気を放ちつつ地上約200メイルの上空で一つの黒い蕾を膨らませた。

「ば、薔薇だ。でっかい黒い薔薇だ!」
 しばらくの間、驚愕のあまり一同は静まり返っていた。
 しかし彼らの内の誰かが漏らすように声をあげると、堰を切ったかのように観衆がどよめいた。
「な、何あれ!? あんな大きい薔薇見たことない!」
「100メイル、150……いや、もっと大きいぞ!」
 話題は学院を覆い尽くすほど巨大な影を作り出す謎の黒いバラの正体でもちきりだった。
 その結論の出ない話し合いはいつまでも続くかに見えた。
「黒いバラ、ギーシュの召喚した使い魔」
 だが、青い髪の小柄な少女が呟いた一言が一同の注目をギーシュに向けさせた。
「こ、これが僕の使い魔だって……?」
 この状況に最も驚いたのはギーシュに他ならない。
 彼の想像していた自分の使い魔――バラの精の姿とは、悪者に囚われてガラス玉の中に閉じ込められてしまうようなか弱い女性、透き通るような白い肌に妖艶な黒いドレスを纏った美しい女性の姿であったからだ。
「この黒いバラが……」
 しかし、ギーシュの視線の先にそのような女性はいない。
 あるのはただ天を衝くような巨体を誇る閉じた蕾の異形の花だけ。
「見て! 蕾が開くわ!」
 観衆の一人、褐色の肌に赤い長髪の女生徒が声を張り上げた。
 注目の的は再び黒いバラに移る。
 荘厳と佇むバラの蕾がゆっくりと開きだした。
 芯を捻じらせながら開く花弁が怪しく輝く。
「綺麗……」
 咲き誇る大輪は見る者を魅了し心を奪った。
 観衆の中には禍々しくもあるその風体にうっとりと見とれる者もいる。

 ところが、螺旋状に絡み合う茨の回転は花が満開になってからも止まらない。
 そして花冠が反転しきったとき、今まで隠れていたその裏側が晒された。
――静寂がその場を支配する。
 そこには、在り得ないものがあった。
 若者とも老人ともいえぬ女の顔、黒金の目蓋を閉じ真っ黒な唇に笑みを浮かべた女の顔が。
 先ほどまで優美を誇っていた巨大なバラは観衆の視界から消え去り、代わりに黒い薔薇の形をした杖を携えた巨人の女が移り変わるようにその姿を現した。


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