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ゼロの黒魔道士-63


その光景は、正直に言って夢みたいなものだったんだ。
……綺麗な夢じゃなくて、とびっきりの悪夢みたいな……
「そ、空がっ!?」
真っ黒だった空全体が、グネグネと動く光の流れで覆われている。
まるで、生きているみたいに、それが瞬いたり蠢いたりしている。
その光が、ときどきボク達を見ているような、手を伸ばしてくるような……
そんな寒気がして、窓から体を慌てて離した。

「何これ……」
「ビビ君――『霧』を覚えているかい?」
クジャが、聞く。
覚えているか?
……忘れられるわけがない。

「……魂の残り滓でしょ?」
ガイアに混乱をもたらした、『霧』。
モンスターを凶暴化させた、『霧』。
ボクの体を作っている……『霧』。
忘れられるわけがないんだ。

「そう。そしてこれは、『霧』を生み出す一歩手前、まだ煮込まれてジャムになる前の果実……
 魂、そのものの輝き――いや、断末魔かな?」
「魂……って……」
嫌な予感。デルフじゃないけど、嫌な予感がしたんだ。
……魂っていうことは、誰かが……
「ふふ――我らが興行主様は、意地でもこの屍の舞台を成功させるつもりらしい!
 魂という対価を観客の皆さまから頂戴してまでもね!」

空一面に広がる、まがまがしいばかり光を放ち続ける、魂の群れ。
それだけの人が、死んだ?
そんなこと、そう簡単に信じられない。信じたくなかったんだ。



ゼロの黒魔道士
~第六十三幕~ 虹、まだ間に合う



ボク達は今、艦橋ってところに向かっている。
この船を操作している場所で、ウェールズ王子がいるところだ。
「――お、おい、しっかりしろ!おい!」
「寒イ、寒イ……凍え死ニソウダ……」
ぐっちゃぐちゃになった艦のあちらこちらに、倒れている船乗りさんがいた。
怪我をしている人はどうなっているか分かりやすかったけど……
寒さを訴えている人は、どうなってしまったのかよく分からなかった。

「な、何がおこったんですか――?」
ギーシュが、おずおずと聞く。
空が、急いでいるみたいにグネグネと歪み続けていた。
「人はね、ここまで美しい物を見ると魅入られてしまうのさ。
 ――空を覆うばかりの『虹』。美しいだろう?」
美しい?これが?
……ボクにとっては、ただただ不気味だった。
色とりどりに光り輝いていて、見た目だけなら綺麗、になるのかもしれない……
でも、これは……なんて言うか、不安になる。
見ていると、空に落ちて行きそうになるって言うか、
波に飲まれるような……

「うわっ!?」

飲み込まれる。そう感じたときには遅かった。
『虹』が津波のように押し寄せてきて、一瞬にしてまとわりつかれる感覚。
『ドレイン』?『アスピル』?いや、そんなものなんかじゃない。
体ごと、バラバラにされて奪い取られてしまう感覚が、体を襲った。
目が、耳が、頭の中が、感覚の全てが、『虹』に溶けてしまいそうになる。

「おっと、危ない危ない……」
……白状してしまうと、クジャが肩をゆさぶってくれなかったら、
危うく『連れていかれて』しまいそうだった。
あの『虹』は、激しい流れの河のように、誰かれ構わず引きずって行ってしまう。
そんな怖さがあった。

「――っな、何ですか、これ!?」
「耳鳴りが――あ、頭が割れそう――」
「っふぁ――あ、あぶねー!?おれっちまだいる?ここにいる?」
ギーシュとルイズおねえちゃんも、デルフまで同じことになっていたみたいだ。

「子守歌としては恨みがましく、鎮魂歌としては慰めがなく――
 あぁ、不協和音もここまで来ればむしろ心地良いね」
クジャが皮肉っぽい調子でそう言った。
不協和音……あぁ、それがしっくりくるかもしれない。
色んな楽器の、一番悲しい音を組み合わせたような、不協和音。
それが『虹』から聞こえてくる気が……いや、実際に聞こえたんだ。

「真面目に耳を傾けてはダメだよ。彼らの歌は魂ごと攫って行く。
 ここまで群れた死者の魂は、どんな兵器よりも恐ろしい……」
死者の魂……そうだ、あれは死んだ人達なんだって、改めて思ったんだ。

                  『お願いしますお願い』
  『助けて』              
     『痛い苦しい熱い熱い熱い』
                    『俺が、俺がいなくなる』 
        『死ぬのは嫌ぁああ』        
 『何で何で何で』     
             『何も見えない何も聞こえない』
       『この子だけは』 
『やめてくれぇえええ』
                『おかあさーん……どこー……』

……そんな悲しい声と色が、激しい流れとなって船の後ろの方から前の方へと、
ずっと続く嵐のように、どんどんどんどん通り過ぎていく。

「舞台の上の生者が恨めしくて仕方ないのさ。
 隙あらば、役を代わってやろうと手を伸ばしてくる。
 その執念こそが、魔力の素となり、力となる」

『生きたい』。
そう願わない人って、いないと思うんだ。
それって、すっごい力になるっていうことは知っている。
……でも……
「……人を殺して、魔力の素にしたっていうの!?」
その、力のため?
より多くの力をつけるために、これだけ多くの人達が死んだっていうこと?
「単純明快だろう?――さて、ビビ君のご感想は?」
問いかける、クジャ。
……感想?そんなもの、決まっている。
「……許せない!」
力のためなんかに、誰かを苦しめるなんて、絶対に許せない。

ボクの答えに、クジャは満足したように頷いて、階段をのぼりはじめた。
「――さて、ではまず舞台に上がろうか!敵の用意した忌々しい舞台へ……」
 ・
 ・
 ・
艦橋は色々な計器や機械、それをチェックしたり操作する人達でいっぱいだった。
その人達の真ん中でウェールズ王子が、指示を送ったり報告を受けたりと忙しそうにしていた。
「――どうだい?」
クジャが、合間を縫ってウェールズ王子に聞く。
ウェールズ王子は渋い顔をしていた。
状況はあまり良くないみたいだ。

「――衝撃で軽傷16名、寒気を訴えているのが21名ですね」
溜息をつきながら、ウェールズ王子が答える。
自分の部下さんが傷ついたことに少なからずショックを受けているみたいだ。
それにしても、結構な人が乗っているっていうのに改めて気がつく。
そこまで大きな飛空挺でもないけど、
きっと計器や機械がいっぱいあるせいなんじゃないかなぁ?
「飛行に支障は?」
「――針が振りきってます。エネルギーの障壁を作られたものと思われます……」
計器の1つを見ている船乗りさんが答える。
エネルギーの障壁……
この間の、エルフの風の障壁を思い出す。
あれはすっごく厄介だった。

「やれやれ、入口は関係者以外お断り。流石にガードが堅いねぇ。
 大した役者もいないのに、飛び入りは許されないと来た」
「――クジャさん」
ウェールズ王子が、大げさにがっかりしたフリをしているクジャに、一呼吸を置いてから声をかけた。
「どうしたい?臆したかな、この大舞台に?」
クジャが、顔を挙げてニヤリと笑いかける。
ウェールズ王子は、それに対して思い切りの良い笑顔を浮かべたんだ。
……怖さとかを、ふっ切ろうとする、強い笑顔を。
「まさか!――まだ、このような場に立てることを感謝したかっただけですよ!」

「ふふ――大した役者魂だね。演技力がそれに劣らないか心配になるね」
クジャが満足したように頷く。
……なんか、何もかもクジャの思い通りに動いているみたいで、ボクはちょっとだけ不安になるんだ。
……クジャがもしボク達を騙して……うぅん、もうあんまりそういうの、考えたく無いなぁ……

「まぁ、見ていてください!――総員に告ぐ!」
そんなボクのぐるぐるしてきた頭の中を吹き飛ばすような、
威勢の良い声がウェールズ王子から飛び出したんだ。

「こちらは、ウェールズだ」
ウェールズ王子は、みんなに語りかけるように、伝声管に向かってしゃべりかけている。

「皆、怪我の具合はどうだ?疲れて立っているのも辛いかもしれないな」
一人一人に聞こえるように、しっかりした、それでも優しい声だった。

「でも聞いてくれ。もう一度生きるチャンスをくれた皆の為に、力を貸してくれ」
普通、船の一番偉い人なんだから、こういう場合にするのは『命令』なんだろうけど……
どう聞いても、これは『お願い』だったんだ。

「僕達はこれから最後の戦いに向かう。敵の攻撃がハルケギニアを襲う前に、こっちから敵陣に乗り込む」
ピンっとした緊張感が伝わってくる。
船に乗っている人皆が、同じ気持ちなんじゃないかなぁと思うんだ。

「そのために、このブラックジャック号をまっすぐ敵陣に向かわせる」
船の外の『虹』も、目の前にあるだろう魔力の壁も、全てを迎え撃つというような、力強い言い方。
ゴクリ、という誰かが唾を飲み込む音が聞こえた気がした。

「大きい衝撃に耐えられる準備をしといてくれ。周囲に怪我人がいる場合はよろしく頼む」
大きい衝撃。
この船は、鉄や木が入り混じっていて、頑丈にできているみたいだけど、
それでも無事じゃいられないかもしれない。
その覚悟が必要なんだと思って、帽子をかぶりなおして気合いを入れた。

「まだ力の残っている乗員は各々の役割を果たしてくれ。力の無い者もすまないがなるべくサポートをして欲しい」
ここまで言ったところで、ウェールズ王子は深呼吸をした。
ボクの位置からは、ウェールズ王子の背中しか見えないけれど、
その背中が、一際ピンっと伸びたような、そんな感じがした。

「軍とは、民草を守るために存在する。王軍とはその最たる物だ」
誰かを、傷つけるための力じゃなくて、誰かを、守るための力。
それを、はっきりと感じる、静かだけど、強い言葉。

「だから、これはアルビオン王軍の本当の戦いなんだ」
他の何でもない、ハルケギニアの皆を守るため。

「キツくて嫌になるような戦いだ……でも、後悔はしたくない。皆にも悔いを残して欲しくはない!」
後悔。もし守れなかったら……?
……いや、守れなかったらなんて、考えちゃダメだと思う。
守るんだ。悔いが残らないように。



「だから、みんなの残っている力、全部、僕に貸してくれ!」
ウェールズ王子の、ボクの、そしてみんなの、握り拳に力がこもる。

「これより、我ら修羅に入る!」
歓声にもよく似た雄叫びが、ブラックジャック号を包んだ。
『虹』をも吹き飛ばすように、強く、強く……

 ・
 ・
 ・

「流石の名調子!やはり、君は僕が見込んだ役者だ――」
クジャが丁寧な拍手を送る。
ボクまで、何だか体が熱くなってきた気がして、夢中で拍手を送ったんだ。
横を見れば、ルイズおねえちゃんも、ギーシュも拍手を送っている。
なんかこう……うまく言えないや。
胸に熱がグッと来た?うん、それが一番近そうだ。
どんな困難が待ち受けてようとも、立ち向かって行けそうな……
そんな熱が、お腹の底から湧きあがってくるような、そんな感じ。
よし、やるぞっ!って思える、そんな……

「それはどうも――さて、船員以外の方々は、揺れるんでその辺に捕まっていてください」
え?揺れる?

「え、ちょ、その辺って言われても――」
ルイズおねえちゃんが慌てるのも無理は無いと思う。
突然、「その辺に捕まって」って言われても……
「無駄口叩いてると舌噛みますよー!特に新兵はね!ほら、そこの柱にでも捕まっててください!」
「え、わわわ……」
船員さんの1人に促されるようにして、大きな柱のところまで下がらされた。
それにしても、揺れるって……どういうこと?

「帆を畳め!動力解放っ!」
ウェールズ王子の声が、さっきの演説とはまた違った張り方で、聞こえてくる。
ボクが今いる場所からだと、直接聞こえる声より伝声管からの声の方が大きい。
「『蒸気エンジン解放、80%、81、82……』」
足元の方から、ブゥウウンって、大きな振動が伝わってくる……
揺れるって、これのこと……?
「速力最大、進路変更無し!」
「速力最大、了解っ!」
ウェールズ王子の合図でブゥウンっていう振動の音が、少しずつ高い音に変わっていって……
変わって……
「け……きゃぁあああああああああああああああああ!?」
「あ、あわわわわわっ!?」
「ぬぉぉおおお!?」
後ろに引っ張られるかと思うような、衝撃。
それが急激な加速だっていうのに気付くのは、もうちょっと後の話だったんだ……

 ・
 ・
 ・

大波の中の、木の葉のように、飛空挺が揺れる。
頑丈な作りに見える船なのに、すっごく心もとない。
……せめて、立っていられるような揺れならなんとも無いんだけど……

「艦長っ!『虹』がエネルギー中心部に吸い込まれるように……巻き込まれます!」
船員さん達も不安みたいで、慌てるような声が計器の方から聞こえてくる。

「構わん!翼を波に合わせろ!波に乗ってしまえ!
 諸君はアルビオンの船乗りだろう?合わせられぬ気流があるのか?」
それに対して、ウェールズ王子の声は力強いまんまだ。
流石は、艦長さん。かっこいいなぁって……
……素直にそうとだけ思える余裕がボクにあったらなぁ……
この揺れ、結構きつい……

「り、了解っ――両翼稼働っ!」
「『両翼稼働了解』」
「『左翼が悲鳴を上げてる!燃えちまうよぉお!?』」
「なんとか持たせろ!」
伝声管からの声も、あっさりと撥ね退けるウェールズ王子。
や、やっぱり慣れなのかなぁ……?
ボクは……この揺れに、慣れることができそうにない……
あぁ、気持ち悪い……

「っ!?ま、前からエネルギー反応!?これは……砲弾!?」
遠のきそうな意識に、切羽詰まった声が飛び込んでくる。
砲弾?どこから?……そんなこと考える余裕、あんまり無かった……
だって……
「総員、耐衝撃!」
っていう、声がしたと思ったら……
「え、え、えぇえええ!?」
窓の外におっきな光の弾が見えて、慌てる暇すら全然無くて……
「ぐあっ!?」
「ぅあぁああ!?」
「きゃっ!?」
柱から手がほどけて、体が宙に飛んでいたんだ……

 ・
 ・
 ・

「――っ状況報告!」
ルイズおねえちゃんの下敷きになっていると、ウェールズ王子の声が聞こえた。
あぁ、なんとか無事なんだと、打ちつけた腰をさすりながら立ち上がる。
……ルイズおねえちゃん、ちょっと重くなった?

「『右翼異常なし!』」
「『左翼軽微破損っ!な、なんとか飛べるというところです!』」
「『動力部オーバーフローっ!これ以上速度上げるのは危険だ!』」
「『甲板、左側欠損!畜生、三人やられた!』」
……あまり、無事ってわけでも無いみたいだ。
足元の揺れ方が、明らかに変わっている。
弱々しく、傷ついているようなそんな振動。
……まさか、落ちる?
嫌な予感って、本当にしてほしくないときにするんだなぁ……

「さ、さらにエネルギー反応!三、四……連続で来ます!」
衝撃がまだ来るの?船がボロボロなのに?
みんなを守りきれない?どうすれば良い?
慌てる船員さんの言葉に、艦橋のみんなが色めき立つ。

「――蒸気エンジン最大!風石ブースト準備!一気に超える!」
ウェールズ王子は、違った。
迷いの無い一言には、歪みも何も無かった。

「無茶です!?弾に向かっていく気ですか!?」
そう慌てる船乗りさんを尻目に、ウェールズ王子は舵を握っている船員さんに向き直る。
まだ若い、ルイズおねえちゃんとそう変わらないぐらいの船乗りさんだ。
「――操舵手っ!」
「はっ!」
「代われ!」
「は、はいっ!?」
……なんか、半分以上『無理矢理』、残りを『ノリノリ』って感じで、舵を取る場所を奪ったって感じだ……
……王子さま、操縦得意なのかなぁ……?
舵を久しぶりに握るのか、その感触を一通りペタペタと試して……
おもむろに、クジャの方に向き直ったんだ。
「クジャさん――」
「無茶を言う気かい?」
そういえば、クジャもこれっぽっちも慌てていない。
……予想してた、ってことかなぁ?
……なんか、ちょっとだけ腹が立った。

「――お願いします」
「しょうがない……ビビ君、行くよ!」
頭を下げてお願いするウェールズ王子と目だけで会話をして、
クジャはボクの手を引っ張った。
「え、えぇええ!?」

「エネルギー反応、来ます!」
後ろから、声がする。
「風石ブースト!」
「『ブースト了解っ!!』」
その合図と共に、弱々しかった船の振動に急に活力が戻る。
ドンッという大きな振動と共に、飛空挺が加速するのが分かる。
「うわぁっ!?」
……当然、その振動にボクは立ってられなかったんだ。
「ビビ君、こっちだ!」
だから、クジャに引っ張られるまま、艦橋を後にするしか無かった……

 ・
 ・
 ・

甲板は風と『虹』が渦巻いていた。
欠けた船の傷が、痛々しい爪痕になっている。

                     『死にたくねぇええ』
『やめてぇええ』
         『殺さないで』 
             『こわいよー……寒いよー……』
  『痛い痛い痛い』

体の外からも、中からも凍えてしまいそうだ。
風の音と重なってさらに寒々しい声に、連れて行かれそうになる。
その音に耳を塞ぎながら飛空挺の前方、向かう先に目を向けた。

繭。芋虫が蛹になって、蝶や蛾になる前に自分の身を守るための、糸の鎧。
『これ』を見た瞬間、繭を思い出したんだ。
とにかく、『これ』は巨大だった。
数えきれないほどの禍々しい『虹』の群れを吸い取るように巻きつけながら、『これ』はそびえていた。
ときどき、巻きついた『虹』が脈打つようにゆらめいて、今にも丸ごとぐねりと動きそうだ。

「な、な、何これっ!?」
「エネルギーの壁ってヤツさ……これを抜ける!
 この先に、君が許せないと言ったヤツがいるのさ!」
「これ全部……魂っ!?」
そう考えると……余計に、ぞわってした。
こんなに大きな魂の塊……
それだけ多くの人が死んで、それだけ多くの人が苦しんで……
寒気を超えて、怒りが勝ってくる。
許せない、そんな言葉だけじゃ足りそうに無い。
荒れ狂う風と『虹』の中、ズレた帽子をギュッと、ギュッとかぶりなおした。
大きく旋回するように飛ぶ飛空挺。その揺れも気にならなくなっていた。

「さて、来るぞっ!」
クジャが、身構えた。
「え!?う、うわわわわ!?」
その光の弾は真横まで来ていた。全部で4つ。
まるで、意志を持つかのように、絡み合いながらまっすぐこの船に飛んでくる。
フーケのゴーレムよりも大きな、『虹』の塊……
これが、さっきの衝撃の原因?
これが……あの繭から飛んできたの!?

「――そぉれ!」
「ち、地の底に眠る星の火よ、古の眠り覚し
        裁きの手をかざせ! ファイガ!」

1つはボクのファイガで、
1つはクジャが指を鳴らして出して光球で(『ホーリー』……かな?)
そして、あともう2つは……

「王子さまもやるねぇ、船がワルツを踊っているようだよ」
ほんのわずかに、船全体が身をよじらせた。
それだけの動きで
かすりもしないように繭からの光弾を避けてしまう。
……王子さま、すっごい。

しかも、避けた上に、繭がもうすぐ目の前に……

「『障壁を抜けますっ!』」
「『総員退避っ!!一番大きい衝撃が来るぞっ!』」
伝声管から聞こえてくる、おっきな声。
「ビビ君っ!」
「わぁああああっ!?」
船全体が軋んで歪む。
飛ばされないように、クジャの手を握った。

ボク達は、繭の中に入っていく。
まだ間に合う、とそう信じて。



ピコン
ATE ~惨事、もう手遅れ~


「な、何、これ……」

艦橋のエレオノールの口から洩れたのは、研究者らしからぬ感情的な呻き声であった。

「燃えて……いる……何もかもっ!?」

だが、それを咎めるような者は誰もいない。
この惨事を瞳に捕えた上で、何も思わないような人間などいやしないのだ。

「あ、アクイレイアの方角ですっ!い、いや……ロマリアが、全部っ!?」

突如空を覆った『幸運の帯虹』と酷似した彩の渦。
その源流を辿って、火竜山脈調査団の船群は山脈の南側、ロマリア側へと針路を取った。

国境付近の虎街道付近に差し掛かった時、見えた色は血にも良く似た朱の色。
地より舞いあがって、天をも焦がさんばかりの炎の色。
『虹』は、そこから立ち上っていた。
いや、より研究者らしく言葉を選ぶならば、「『虹』はそこから『も』立ち上っていた」だろうか。

まるで、地図上で人が住む場所を赤く塗りつぶしていくかのように、
地平線のあちらこちらの街という街、村という村が赤く印づけられ、
そこから幾重にも重なる極彩色の渦が湧き立っている。

(悪い物だ。あの虹は忌まわしき物だ)
エレオノールはそう直感する。
研究者にとって大切なのは分析力や論理力だけでは無い。
閃きとも呼べる本能で、エレオノールは『虹』の正体を感じとっていた。

「――団長さん、悪いですが、寄り道の許可を願ってよろしいか?」
ここで始めて、艦長が口を開いた。
重々しいのに、哀願するように震えた声だった。
「っ、どういうことですか、艦長?」
エレオノールが問う。
操艦については艦長がとりしきっているが、この調査団のリーダーは彼女だ。
その団長として彼女は問うた。

「元、軍人として……黙って燃えている街を見ていられるほど、気が長くないんです」
歯軋りと共に、微かに語尾に残るアルビオン訛り。
エレオノールの耳はその言葉をしかと聞き取っていた。
そして感じとる。
ボーウッドと言ったか、艦長の、この男の悔しさを。
祖国が内乱の火の海にありながら、何もできなかったという後悔の念を。

「……今回の調査範囲は『火竜山脈』……ならば、アクイレイアもその麓の街として充分範囲内です」
「では――っ」
「後で越境行為の謝罪文は手伝ってもらいますよ。何枚書くか分からないですけど」
エレオノールはこの後待ち受ける煩雑な事務処理を考えたのか、暗欝とした声で言った。
それでも、彼女は『調査』の許可を出した。
研究団のリーダーとして。否、人間として。

「――これより本艦は南方へ進路を取る!他の艦も追従せよと通達っ!」
「はっ!」
船の針路は、山脈を越えて南方へ、水の都として知られる国境近くの街アクイレイアに向かう。

エレオノールの顔は沈んだままであった。
彼女の、研究者としての――いや、女性特有と言った方が良いか、直感が告げていた。
(もう――手遅れ?)
今度ばかりは、その予想が外れていることを祈らねばならなかった。


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