「アンパンマン、新しい顔よ!」
コック帽を被り青いオーバーオールを着た女性がそう叫んだ。
彼女が放り投げたアンパンは僅かのスピンもすることなく、一直線に黒い鉄像へと向かって進んでいった。
「し、しまった!」
紫色のUFOに乗った悪魔じみた男が鉄像を見ると、既にその頭部は焼き立てのアンパンへとすり替わっていた。
「元気100倍! アンパンマン!」
勢いよく地面を蹴って跳ね上がった鉄像が忽ちの内に砕け、その中からは真っ赤な体と焦げ茶色のマントが姿を現した。
「許さないぞ! ばいきんまん、黒バラ女王!」
アンパンマンと名乗るその男の視線の先には天を衝くほどの大きさの黒い影が佇んでいた。
「おのれアンパンマン! こうしてくれるーっ!」
黒バラ女王が両手を掲げると辺り一面見渡す限りの地面に亀裂が走った。そして大地の裂け目からは無数の茨が芽を出し、アンパンマン目掛けて一斉に伸し出した。
上空から降り注ぐ茨の先端は槍のように鋭く、アンパンマンの体を貫くことなど容易く見えた。
しかし彼は茨同士の間にできた僅かな隙間を潜り抜けると、瞬く間に黒バラ女王の目前へと迫り右腕を振り上げた。
「アーンパーンチ!」
「どわぁーーーー!!」
アンパンマンが放った必殺の拳が黒バラ女王の下顎を突き上げた。
同時に彼女の意識は彼方へと消え去り、闇の力によって模られた巨大な体は黒い薔薇吹雪と共に砕け散った。
散り散りになり竜巻を纏った黒バラ女王の断片は、空の向こうの何処かへと飛び去っていった。
「おぉ!? おわわわわ! バイバイキーン!」
ばいきんまんもその竜巻に巻き込まれていた。
コック帽を被り青いオーバーオールを着た女性がそう叫んだ。
彼女が放り投げたアンパンは僅かのスピンもすることなく、一直線に黒い鉄像へと向かって進んでいった。
「し、しまった!」
紫色のUFOに乗った悪魔じみた男が鉄像を見ると、既にその頭部は焼き立てのアンパンへとすり替わっていた。
「元気100倍! アンパンマン!」
勢いよく地面を蹴って跳ね上がった鉄像が忽ちの内に砕け、その中からは真っ赤な体と焦げ茶色のマントが姿を現した。
「許さないぞ! ばいきんまん、黒バラ女王!」
アンパンマンと名乗るその男の視線の先には天を衝くほどの大きさの黒い影が佇んでいた。
「おのれアンパンマン! こうしてくれるーっ!」
黒バラ女王が両手を掲げると辺り一面見渡す限りの地面に亀裂が走った。そして大地の裂け目からは無数の茨が芽を出し、アンパンマン目掛けて一斉に伸し出した。
上空から降り注ぐ茨の先端は槍のように鋭く、アンパンマンの体を貫くことなど容易く見えた。
しかし彼は茨同士の間にできた僅かな隙間を潜り抜けると、瞬く間に黒バラ女王の目前へと迫り右腕を振り上げた。
「アーンパーンチ!」
「どわぁーーーー!!」
アンパンマンが放った必殺の拳が黒バラ女王の下顎を突き上げた。
同時に彼女の意識は彼方へと消え去り、闇の力によって模られた巨大な体は黒い薔薇吹雪と共に砕け散った。
散り散りになり竜巻を纏った黒バラ女王の断片は、空の向こうの何処かへと飛び去っていった。
「おぉ!? おわわわわ! バイバイキーン!」
ばいきんまんもその竜巻に巻き込まれていた。
激戦の後、半日を掛けてアンパンマン達は破壊されたパン工場を修復し終えた。
「これで一安心ね」
「アンアン!」
コック帽の女性と土色の犬が微笑んだ。
しかし丸顔の初老の男性は強張った表情を崩さなかった。
「だけどまたいつか、黒バラ女王の封印が解けるかもしれない」
重苦しい雰囲気がその場を支配するかのように思えた。
「大丈夫ですよジャムおじさん。その時はまた僕がみんなを助けますから」
アンパンマンの力強い一言が彼らの笑顔を取り戻した。
「これで一安心ね」
「アンアン!」
コック帽の女性と土色の犬が微笑んだ。
しかし丸顔の初老の男性は強張った表情を崩さなかった。
「だけどまたいつか、黒バラ女王の封印が解けるかもしれない」
重苦しい雰囲気がその場を支配するかのように思えた。
「大丈夫ですよジャムおじさん。その時はまた僕がみんなを助けますから」
アンパンマンの力強い一言が彼らの笑顔を取り戻した。
ここはトリステイン魔法学院。
今日、この学院では今年二年生に進級する学生達によって使い魔召喚の儀式が行われていた。
今日、この学院では今年二年生に進級する学生達によって使い魔召喚の儀式が行われていた。
「常に我らを導きし偉大なる始祖ブリミルよ、この青銅のギーシュの下部となりし気高きものよ」
学院の広場では金色の巻き髪にフリルシャツを身に着けた少年が声高々に呪文を唱えていた。
彼の名はギーシュ・ド・グラモン。
トリステイン王国伯爵家の息子である彼のプライドは高い。
術者の力量が表れるといわれるこの儀式は彼にとって重要な意味を持つものであった。
「我が聖なる召喚に応えたまえ」
彼は詠唱を終えると静かに胸を高鳴らせた。
この学院創立以来の凄まじい使い魔を召喚してみせる。そう心の中で呟きながら使い魔となるモンスターが姿を現すのを待った。
そして数秒の後、彼の目の前の一点が真っ暗になると、闇の中から何かが零れ落ち地面に転がった。
「えっ!?」
自分の呼び出したその物を見てギーシュは困惑した。
それは水晶、手の内に収まるほどの大きさの墨色の水晶であった。
「こ、これが僕の……使い魔?」
使い魔は主人に一番お似合いのものが召喚される。これは彼が召喚の儀式の直前に言った言葉だ。
彼の召喚したそれは黒いバラが中に埋められた水晶玉。
自らを薔薇と称する彼にはある意味お似合いの代物ではあった。
学院の広場では金色の巻き髪にフリルシャツを身に着けた少年が声高々に呪文を唱えていた。
彼の名はギーシュ・ド・グラモン。
トリステイン王国伯爵家の息子である彼のプライドは高い。
術者の力量が表れるといわれるこの儀式は彼にとって重要な意味を持つものであった。
「我が聖なる召喚に応えたまえ」
彼は詠唱を終えると静かに胸を高鳴らせた。
この学院創立以来の凄まじい使い魔を召喚してみせる。そう心の中で呟きながら使い魔となるモンスターが姿を現すのを待った。
そして数秒の後、彼の目の前の一点が真っ暗になると、闇の中から何かが零れ落ち地面に転がった。
「えっ!?」
自分の呼び出したその物を見てギーシュは困惑した。
それは水晶、手の内に収まるほどの大きさの墨色の水晶であった。
「こ、これが僕の……使い魔?」
使い魔は主人に一番お似合いのものが召喚される。これは彼が召喚の儀式の直前に言った言葉だ。
彼の召喚したそれは黒いバラが中に埋められた水晶玉。
自らを薔薇と称する彼にはある意味お似合いの代物ではあった。
「ふむ、これは……」
春の使い魔召喚の儀式の担当教諭であるコルベールが水晶玉を取り上げた。
まじまじとそれを観察した後、彼は眉を顰めながら口を開いた。
「ミスタ・グラモン、残念ですがこれはただのガラス細工のようです」
「え……その、何かの間違いじゃ」
ギーシュは呆然としながらコルベールに訊ねた。
「間違いありません。ディテクト・マジックに対して、このガラス玉は何の反応も示さないのですから」
「と、いうことは……マジックアイテムでもない、と」
「当然です」
つい先ほどまで期待に胸を膨らませていたギーシュの頭の中は突如として真っ白になった。
春の使い魔召喚の儀式の担当教諭であるコルベールが水晶玉を取り上げた。
まじまじとそれを観察した後、彼は眉を顰めながら口を開いた。
「ミスタ・グラモン、残念ですがこれはただのガラス細工のようです」
「え……その、何かの間違いじゃ」
ギーシュは呆然としながらコルベールに訊ねた。
「間違いありません。ディテクト・マジックに対して、このガラス玉は何の反応も示さないのですから」
「と、いうことは……マジックアイテムでもない、と」
「当然です」
つい先ほどまで期待に胸を膨らませていたギーシュの頭の中は突如として真っ白になった。
広場に集まった全生徒が儀式を終えると、ギーシュは逃げ出すように自分の部屋に戻った。
あまりの恥ずかしさに堪えられなかった。
自分以外の学生も同じような失敗をするのではないか。
僅かにそう期待しながら残りの生徒達が行うサモン・サーヴァントを見物していたギーシュであったが、彼以外の人間は誰一人として召喚の儀式を失敗させなかった。
彼が今まで無能者と馬鹿にしていた生徒でさえ平民の人間を召喚していた。
そのことはギーシュのプライドを大きく傷つけた。
あまりの恥ずかしさに堪えられなかった。
自分以外の学生も同じような失敗をするのではないか。
僅かにそう期待しながら残りの生徒達が行うサモン・サーヴァントを見物していたギーシュであったが、彼以外の人間は誰一人として召喚の儀式を失敗させなかった。
彼が今まで無能者と馬鹿にしていた生徒でさえ平民の人間を召喚していた。
そのことはギーシュのプライドを大きく傷つけた。
彼は一人ベッドの中にうずくまり、黒く濁ったガラス玉を抱きしめながらすすり泣いた。
今まで生きてきて、これ程落胆したことはなかったのだ。
「泣かなくてもいいんだよ」
なまめかしい女性の声がした。
「だ、誰だ!?」
ギーシュはベッドから飛び起きると部屋中を見渡した。
しかしそこには女性の姿は見当たらない。
「ここだよ」
声はギーシュの胸元から聞こえた。
ギーシュが首をうつむかせると、ちょうど腕の中に抱かれたガラス玉が目に映った。
「まさか、今の声は君が?」
「そうだよ。貴方に話しかけたのは、この私だよ」
あまりの事にギーシュは面を食らった。
これはただの置物のはずではないのか。
ギーシュはこの部屋に戻ってた時、何度もディテクト・マジックをこのガラス玉に掛けていた。
その結果が彼の絶望感を大きくしていたのだが――
今まで生きてきて、これ程落胆したことはなかったのだ。
「泣かなくてもいいんだよ」
なまめかしい女性の声がした。
「だ、誰だ!?」
ギーシュはベッドから飛び起きると部屋中を見渡した。
しかしそこには女性の姿は見当たらない。
「ここだよ」
声はギーシュの胸元から聞こえた。
ギーシュが首をうつむかせると、ちょうど腕の中に抱かれたガラス玉が目に映った。
「まさか、今の声は君が?」
「そうだよ。貴方に話しかけたのは、この私だよ」
あまりの事にギーシュは面を食らった。
これはただの置物のはずではないのか。
ギーシュはこの部屋に戻ってた時、何度もディテクト・マジックをこのガラス玉に掛けていた。
その結果が彼の絶望感を大きくしていたのだが――
「私はバラの精。貴方のお名前は?」
バラの精。
この言葉を耳にした時、ギーシュはあることを思い出した。
(確か先住魔法は探知することができなかったはず)
「ぼ、僕の名はギーシュ。ギーシュ・ド・グラモン」
咄嗟に答えると、慌てて黒い玉を自分の方に向けなおす。
そして傍に置いてあった造花の杖を手に取ると、それを胸元に寄せつつ名乗りを上げた。
「そして二つ名は青銅。華麗なる土のメイジ、青銅のギーシュだ」
この時のギーシュは有頂天になっていた。
先住魔法を使う薔薇の精霊、まさしく学院創立以来の使い魔といえる。
一度潰されかけた彼のプライドはたちどころに輝きを取り戻した。
「そうかいギーシュっていうんだね。強そうな名前だねぇ」
バラの精の囁きはますますギーシュを奮い立たせた。
今の彼は頼みごとをすれば何でも引き受けてくれるように見えた。
バラの精。
この言葉を耳にした時、ギーシュはあることを思い出した。
(確か先住魔法は探知することができなかったはず)
「ぼ、僕の名はギーシュ。ギーシュ・ド・グラモン」
咄嗟に答えると、慌てて黒い玉を自分の方に向けなおす。
そして傍に置いてあった造花の杖を手に取ると、それを胸元に寄せつつ名乗りを上げた。
「そして二つ名は青銅。華麗なる土のメイジ、青銅のギーシュだ」
この時のギーシュは有頂天になっていた。
先住魔法を使う薔薇の精霊、まさしく学院創立以来の使い魔といえる。
一度潰されかけた彼のプライドはたちどころに輝きを取り戻した。
「そうかいギーシュっていうんだね。強そうな名前だねぇ」
バラの精の囁きはますますギーシュを奮い立たせた。
今の彼は頼みごとをすれば何でも引き受けてくれるように見えた。
「ところでギーシュ、貴方にお願いがあるのだけど……」
バラの精は優しい声でギーシュに語りかけた。
「何だい。我が使い魔よ」
「この玉を割ってくれないかい?」
予想外の依頼にギーシュは戸惑った。
彼はこのガラス玉をバラの精の寝床か何かだと思っていたからである。
「い、いいのかい? そんなことをして」
「構わないさ。むしろ割ってほしいくらいだよ」
バラの精は話を続けた。
「私がね、この狭くって息苦しい玉の中にいるのは、悪い奴らに閉じ込められてしまったからなんだよ。だからね、ギーシュにはこの玉を割ってほしいんだ」
バラの精の悲しげな語り口に彼が応えぬはずはなかった。
「よし、それじゃあさっそく出してあげよう。それっ!」
ガラス玉を持った腕を大きく振りかぶると、ギーシュはそれを勢いよく床に叩きつけた。
しかし、ガラス玉は床に当たる直前に光ったかと思うと無傷のまま彼の足元を転がっていた。
(ど、どういうことだい! いつもならこんな玉すぐ割れるのに!!)
バラの精は優しい声でギーシュに語りかけた。
「何だい。我が使い魔よ」
「この玉を割ってくれないかい?」
予想外の依頼にギーシュは戸惑った。
彼はこのガラス玉をバラの精の寝床か何かだと思っていたからである。
「い、いいのかい? そんなことをして」
「構わないさ。むしろ割ってほしいくらいだよ」
バラの精は話を続けた。
「私がね、この狭くって息苦しい玉の中にいるのは、悪い奴らに閉じ込められてしまったからなんだよ。だからね、ギーシュにはこの玉を割ってほしいんだ」
バラの精の悲しげな語り口に彼が応えぬはずはなかった。
「よし、それじゃあさっそく出してあげよう。それっ!」
ガラス玉を持った腕を大きく振りかぶると、ギーシュはそれを勢いよく床に叩きつけた。
しかし、ガラス玉は床に当たる直前に光ったかと思うと無傷のまま彼の足元を転がっていた。
(ど、どういうことだい! いつもならこんな玉すぐ割れるのに!!)
その後ギーシュは自ら造り出した自慢のゴーレムにガラス玉を攻撃させたり、高所から玉を落として地面に激突させてみたが、結局ガラス玉にはヒビ一つ入らなかった。
最終的にはバラの精と相談した結果、ガラス玉を割るのは後日ということになり、またバラの精は玉が割れるまで眠りに就いておくということになった。
最終的にはバラの精と相談した結果、ガラス玉を割るのは後日ということになり、またバラの精は玉が割れるまで眠りに就いておくということになった。
「はぁ……まさか玉から出られないと力を全く発揮できないなんて」
ギーシュはバラの精から聞いた話を思い出してため息を吐いた。
「それじゃやっぱり置物と一緒じゃないか」
高位の使い魔をみんなに自慢するという夢を打ち砕かれた彼の目の前は真っ暗になった。
ギーシュはバラの精から聞いた話を思い出してため息を吐いた。
「それじゃやっぱり置物と一緒じゃないか」
高位の使い魔をみんなに自慢するという夢を打ち砕かれた彼の目の前は真っ暗になった。