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ウルトラ5番目の使い魔-74a



 第74話
 鳴動する世界

 えりまき怪獣 ジラース
 宇宙海獣 レイキュバス 登場!


 アルビオン王党派とレコン・キスタの決戦が、ヤプールによって利用され、
両軍ともに傀儡となりかける最悪の事態を、二人のウルトラマンと少数の勇敢な
者たちによって回避してから、およそ半日後、タルブに展開したトリステイン軍
本陣では、アルビオンへの上陸を命じたアンリエッタとマザリーニの激論が
交わされていた。

「繰り返して命じます。トリステイン軍はアルビオン王党派と合流して、
レコン・キスタ軍を撃滅します。すぐに準備なさい」
「なんですと! 無茶をおっしゃいますな、艦隊で軍隊をあの空飛ぶ大陸に
渡らせるのに、どれほどの時間と資材がいるとお思いですか?」
 反対意見を述べるマザリーニも、アンリエッタも一歩も引かない。
「全軍でとは言いません。五千、いいえ千もいれば充分です。今必要なのは
トリステイン軍が援軍に来たと、王党派に教えてあげることで、そうすることで
彼らに安心感を与えるのです」
 確かに、トリステインのアンリエッタ王女が、自ら軍を率いて応援に来てくれた
となれば、王党派はウェールズに代わる大義のよりどころを得て、自らこそが
アルビオンの正当な統治者だと再認識して、立ち直ることができるだろう。
「確かに、ですが上陸の理由は他国にはどう説明します。大義名分が
なければ軍は動かせませんぞ」
「大義名分? そのようなものが、それほど必要なのですか。考えている
うちにアルビオンが壊滅したらどうします? 王党派が再建できたという
既成事実さえ作ってしまえば、誰もそんなことは気にしません。」
 マザリーニは返す言葉がなかった。まさかこの少女から、こんな果断な
決断を聞くことになろうとは想像もしなかった。まるで普段とは別人の
ように覇気に満ちているというか、それがなにゆえのことであるのかまでは
わからないが、その判断は強引ではあるが最善といえた。
 ただ、話はそれほど簡単ではなく、マザリーニはそのことを問いただすのを
忘れなかった。
「艦隊の出動準備は整っていますが、食料等の積み込みは不十分です。
補給はどうなさいますか?」
「王党派の補給基地がサウスゴータまでに点在していますから、そこから
頂戴し、到着後は本隊から分けてもらいます。皮肉なものですが、
ヤプールが平民も集めるために食料事情を良くしてくれましたから、
余裕は充分にあるはずです」
「了解しました。ですが、アルビオンに渡りますのは、グリフォン隊を筆頭とします
最精鋭部隊を優先しますが、国に残留する部隊の指揮はどうなさいますか?」
「マンティコア隊のド・ゼッサール殿にお任せします。あの方はカリーヌ殿の
愛弟子ですから信頼できます。あなたはここに残り、彼を補佐してあげて
ください。それから……」
 アンリエッタは、念のために聞き耳がないかとディテクトマジックで盗聴の
可能性を排除した後で、さらに用心深くマザリーニに耳打ちした。

「この混乱に乗じて、国内のレコン・キスタ派の残党や反動勢力が動く
かもしれません。なにしろ、彼らはまだレコン・キスタがすでに乗っ取られて
いることを知らないのですから……筆頭はむろん、あの男ですが、害虫
退治はこの戦の後です。それまで国内の治安維持を第一にお願いします」
「承知しました。ですが、軍の主力をアルビオンに送れば、侵略行為だとして
ゲルマニアやガリアが黙っていますまい」
「その点は心配要りません。ゲルマニアのほうは、今軍を動かせばあの国は
国内を襲う怪獣災害におびえている貴族たちが黙っていません。重工業の
工場が破壊されたら、あの国の経済基盤が麻痺しますからね」
 ゲルマニアは、近代的にとまではいかなくても、製鉄業をはじめとする
重工業が発達しており、多数の工場から生まれる鋼鉄や、高い冶金技術から
生まれる高精度の部品は、兵器その他の需要を生んで、この国に莫大な
財力をもたらしているが、その反面それが急所となって、工場を私有する
有力貴族や大商人の国政への影響力を、皇帝とて無視できない。
 しかも今は、金を生むからと巨大化を続ける工場群も、そのために
焚きだす大量の石炭から生まれる煤煙や排水が、土壌や大気を汚し、
ヤプールのマイナスエネルギーがきっかけとなって目覚めた怪獣たちに
よって次々と破壊され、悲鳴をあげる工場主たちによって、ゲルマニア軍は
それらの怪獣たちの対策のために国内にくぎづけにされるありさまだった。
「しかし、それでかの国々がトリステインに不信感を抱き、共同して
攻めてきたらいかがいたします?」
「マザリーニ、そうやって敵を作るまいと他国の顔色をうかがって
いるから、トリステインは弱国だとあなどられるのです。ましてや
今は、お母様が女王に在位中とはいえ、実権を持っているのは
若輩もいいところのわたくし、これでは軽く見られないほうが
どうかしています。だからこそ、トリステインは必要なときは戦うし、
わたくしは油断ならない相手だと諸国に知らしめ、今後なめられない
ようにしなければ、彼らと対等にわたっていくことはできないでしょう」
 実績を示して、虚名でもいいから、トリステインにはアンリエッタという
あなどれない指導者がいると、諸国に強い印象を与え、対等の立場を
作り上げて国を守り抜く。そうしなければ、いずれトリステインは他国を
恐れるあまり、自ら傀儡へと成り下がり、国民もそんな誇りのない国は
見捨てていって、他国に併呑されるか、アルビオン同様の内戦で滅亡する
未来が待っているだろう。
 マザリーニは、アンリエッタがそこまでを見通して決断したことに、
年寄りから見たら若者の成長速度というものは目にも止まらぬものだと
いうことを痛感し、うやうやしく頭を下げた。
「成長なさいましたな殿下、少し前とは見違えるようです」
「あなたからお褒めの言葉をいただくのは、ずいぶんと久しぶりですわね。
けれども、それは結果が出るまでとっておいていただきましょう。
それよりも、ロングビルさん」
「あ、はいっ」
 それまで精力的に命令を下すアンリエッタの姿に見とれていた
ロングビルは、いきなり声をかけられてびっくりしたが、すぐに
姿勢を整えて、姫殿下の次の言葉を待った。

「もうしわけありませんが、トリステイン軍はアルビオンの地理には
不案内ですので、水先案内をお願いします」
「わかりました。微力をつくしましょう」
 ロングビルは、傀儡に落ちて、上っ面だけ取り繕って実の無かった
ウェールズと違って、この姫君ならば任せても大丈夫であろうと、
信頼を抱き始めていた。
 そうなると、あとは時間との勝負である。すぐさま移動の命令が
全軍に飛び、ラ・ロシュールへ向けての行軍準備が命令される。
兵士たちは、突然の命令に驚くものの、訓練に従って大急ぎで準備を進める。
 その様子を、アンリエッタは先頭に立って督戦していたが、そこへ全身を
鋼鉄の鎧と、鉄仮面で覆い隠した一人の騎士がやってきて、彼女の
隣から話し掛けた。
「まあまあですな。政治の舞台で主導権を握るには、常に先手をとって
相手に対処する余裕と時間を与えないこと、教えたことは忘れていませんでしたか」
「あれだけ厳しく指導されたら、忘れたくても忘れられませんわ。けど、
感謝していますのよ、あなたがグリフォン隊の訓練の合間をぬって、
家庭教師をしてくれなかったら、わたくしはどうしていいかわからずに
ここにとどまり続けていたかもしれません」
「お忘れなさいますな、あなたに教えたことはまだほんの初歩の初歩、
まずは上出来といって差し上げますが、アルビオンの内乱を収めることなど、
凡百の政治家でもできることです。今後、ガリアやゲルマニアと渡り合って
いくには、今のままではいきませんぞ」
 王女に対して一かけらの遠慮もなく、仮面の騎士は厳しい言葉を連ねる。
けれど、アンリエッタも黙っているわけではなく、したたかな反撃を
用意していた。
「お手柔らかに……そういえば、教訓その二は『使えるものは死人でも
墓から引きずり出して使え』でしたわね。ですから、あなたがわたくしの
親衛隊に就任したことは、もろもろの方面から宣伝させていただきました。
銃士隊からの報告ですが、どの国の間諜の方々も色を失って国に帰って
いったそうですわよ」
「……老兵に酷なことをなさる。これでは、当分やめられなくなったではありませんか」
「あら、わたくしは教えを忠実に守っただけですことよ。それに、あなたが
いるというそれだけで、戦争抑止力となります。もちろん何年もかかりますが、
わたくしはこの国を軍事力などによらずして立ち行く国にしたいと思っていますが、
それまで失業はさせませんので」
 にこやかだが目が笑っていない笑顔を向けて、アンリエッタはおしとやかな
お姫様では決してありえない、たくましさというか腹黒さを見せた。
「ならばさっさと平和を取り戻しませんとな、せっかく楽隠居を楽しんでいたというのに、
こんな世の中では、娘の恋人にケチをつけていじめる暇もありませんわ」
 どこまで本気なのかわからないが、仮面の下で笑ったようであったのに、
アンリエッタは気づいていた。
 ともかく、これからアンリエッタが女王の冠を頂くにしても、アルビオンの内戦処理
などは序盤のハードルの一つに過ぎないはずで、ぐずぐずと手間取っている
訳にはいかないのだ。

 その後、アンリエッタの判断はハルケギニア全土で種々の反応を生んだ。

 この翌日にゲルマニア皇帝アルブレヒト三世は『トリステイン軍二千が
アルビオンに上陸』の報を聞くに当たって、彼の参謀たちが、

「これはトリステインがアルビオンを併合、あるいは傀儡国家にせんが
ための侵攻、どちらにしてもかの国の領土拡大の意思は明らか、
ただちにトリステインを占領すべし」との進言に対して、トリステインを
屈服させて、その始祖直系の権威を得ようという誘惑を感じたが、
トリステイン国内にはまだ九割以上の軍が残っており、それを撃破
するためにはこちらも全軍を動かさざるを得ず、そんなことは保有する
工場や鉱山が無防備になる貴族や商人が許すわけはなかった。
 実際この日も彼の執務室には「南部の鉱山に見えない怪獣が出現」、
「北部製鉄所の河川から青い怪獣が出現」という報告書と、それらに
対抗するために軍が数個師団を出動させているとの追加報告が
来ており、ここで軍を無理に他に動かせば、それらの貴族や商人は
結託してアルブレヒト三世を退位させようとするだろう。元々、彼は
他国の王のようにハルケギニアの基礎を築いたといわれる始祖ブリミルの
血統というわけではなく、簒奪によって皇帝となったので、ブリミル教徒の
臣下からの忠誠心は無きに等しく、要するに自分たちに儲けさせてくれる
というのが国民からの支持の理由であって、それがなくなったときには
用無しとなった皇帝は即座に捨てられるだろう。
「まさかあの小娘、そこまで読んで兵を動かしたのか……」
 彼は執務机に面杖を突きながら憮然とつぶやいた。直接会ったのは、
半月ほど前の会談のときが最初で最後だが、ゲルマニアのことを
根掘り葉掘り調べていったのはこのときを見越していたのか。
「それで皇帝陛下、いかがいたしましょうか?」
 考え込む皇帝に、彼の摂政が話しかけるまで、皇帝はずっと
娘のような年齢の、隣国の姫の食えない笑顔のことを思い出していた。
「……今は動けん。しばらくは情報収集に専念し、あやつがアルビオンの
領有を宣言しようものなら、改めて経済制裁なり、宣戦布告なりを
すればよい」
「仕方ありませんな。当分基本方針は、国内の安定が第一でまいりますか」
「まったく、どうしてわが国にばかり、こうも怪物が次から次へと出現するのか」
 ぼやいた皇帝は、自らが富を得ようと、鉱石を掘り出すために鉱山を
切り開いたことが地底に眠っていた怪獣を目覚めさせ、水を汚した工場の
排水が怪獣を作り出し、空を汚した工場の煤煙が怪獣を怒らせ、そしてそんな
欲に満ちた心や、劣悪な環境で働かされる平民たちの恨みがマイナス
エネルギーとなって、ヤプールに力を与えていることを知らなかった。
 先の報告書にあった怪獣にしても、山を切り開いたせいで、山間部で
おとなしくしていた透明怪獣ゴルバゴスを怒らせ、精錬のために出た
廃液や魔法薬などを垂れ流しにした工場廃水が、川のただの魚を、
巨大魚怪獣ムルチへと変貌させたのだった。
 これらの件は結局、両方ともかろうじて怪獣を追い返すことには
成功するものの、工場の半分は破壊され、出動した部隊も多数の
死傷者を出し、逃げた怪獣がまたいつ出てくるかわからないために、
別の部隊が臨戦態勢で待機しなければならないという、到底外征
などをしている場合ではないということになって、さらに皇帝を悩ませることになる。


 数十年前の地球と同じように、自らが壊した自然のバランスに復讐される。
誰を恨みようもない、因果応報の結果であった。しかし、エコロジーの
思想が世界的に広まり、公害怪獣の出現が激減した地球とは違って、
公害の概念すらないハルケギニアで、そのことに人々が気づくまでには
まだまだ多くの痛みが必要であった。
 が、不幸にしてそれを知らない皇帝は、とりあえず目の前の問題を
考えることにした。
「アンリエッタか、籠の鳥との噂はどうやら外れのようらしいな。
あるいは名宰相との噂高いマザリーニの教育あっての代物か、
どのみちしばらくはトリステインから目が離せんな」
 国土、国力、軍事力、すべてにおいて数倍の規模を誇るゲルマニアの
皇帝ともあろう自分が、たかが小娘一人が勝手に振舞うのを
止めることができないのを、彼は忸怩たる思いを抱きながら、
事務的に答える摂政の言葉を聞いていた。
「では、トリステインとはこのまま同盟を強化なさいますか?」
「強いものをわざわざ敵にすることはないからな。それに……
卿も聞いているだろう。今トリステインには、奴がいる」
 戦えば、最終的に勝てるにしても、恐らくは全軍の半数以上が
失われ、そして自分は確実に皇帝の座から下ろされる。彼に
そう確信させるだけの巨大な不安要素が、トリステインにはあった。

 そのころガリアでも、会議にはほとんど欠席する『無能』と揶揄
されるジョゼフ王を欠いて、大貴族と軍人たちによるトリステインの
アルビオン侵攻に対する措置を論議していたが、自衛のためにと
先制攻撃を主張する若い貴族や軍人たちはともかく、重鎮を占める
壮齢以上の者たちは、アルブレヒト三世と同じ、たった一つの
情報によって戦意を完全にそがれていた。
「だが……諸君も聞いているであろう。あの『烈風』が、現役に
復帰したというではないか」
 生きた伝説である、ハルケギニア最強の魔法騎士が戻ってきた
という情報は、数十年前にその鬼神のごとき圧倒的な強さを
目にしてきた者たちにとっては、恐怖以外の何者でもなかった。
 もちろん、若い貴族の中には、
「噂に聞く『烈風』とやらが、いかに強くとも、今はとうに現役を
下りた老兵、なにほどのことがありましょうぞ」
 という勇ましい意見も出たが、将軍たちの中でも特に年老いた
白髭の大将はこう言った。
「そなたは、たった一人のメイジが、一個師団を相手にして、自らは
無傷でこれを殲滅することが可能だと思うか?」
「いえ……」
「『烈風』は、それを二個師団を相手にやってのけたのだ」
 全員が絶句し、トリステイン攻撃の案はそのまま流された。

 ちなみにこのとき、ジョゼフは自室に一人でこもり、チェス盤を前に、
チャリジャがハルケギニア各地から集めてきた、珍しい怪獣が
収められた数個のカプセルを前にして、何か面白い使い道は
ないかと思案にふけていたが、トリステイン侵攻は是か非かという
会議の案件について、
「ふむ……そういえば父上が生前、トリステインを落とすには
六個師団の犠牲がいるが、そのうち四個師団は、たった一人の
メイジの精神力を削りきるのに必要だと、俺とシャルルに
言っていたな。伝説の怪物か、俺の指し相手には面白いかも
しれんな」
 そう思い、ほおを歪めたが、そこへチェス盤の上へ置いた
小さな人形から、彼にしか聞こえない声で、女性の声が流れてきた。
「ジョゼフさま、ジョゼフさま……」
「おおミューズ、余のミューズか」
 それは、アルビオンでクロムウェルの表面上の秘書として、
裏では彼を操っているシェフィールドの声だった。そう、ジョゼフは
シェフィールドを介して、クロムウェルやレコン・キスタを裏から
操っていたのだ。
 今から数年前のことだ、水の精霊から強奪したアンドバリの指輪と、
シェフィールドの内部工作によって、アルビオンの不満分子を結集させて
レコン・キスタを作り、そのときはまだ一介の司教に過ぎなかった
クロムウェルを言葉巧みに誘って、最高指導者にすえて、いいように
内乱を発生させていたのだが、それを彼の臣下で知っている者は
誰一人としておらず、またなぜそんなことをするかについても、
シェフィールド以外に知るものはいない。
 ジョゼフは、すっかりトリステインのことなど忘れてシェフィールドの
話に聞き入った。シェフィールド、もっともそれは偽名で、ジョゼフは
彼女を本来の呼び名のミョズニトニルを縮めてミューズと呼んでいるが、
彼女はレコン・キスタ、その指揮官であるクロムウェルが最近
こちらの要求をまともにこなせずに、ひたすら戦争を長引かせている
だけであることを、怒りに震えた声であげつらい、かくなる上は
アンドバリの指輪で操ろうかと言ってきたが、ジョゼフは笑って
それを退けた。
「もうよい。どのみちアルビオンのことは、暇つぶしにはじめた
余興に過ぎんし、そろそろ飽きてきたところだ。そんなものよりも、
集まりつつある新しいおもちゃでどう遊ぶか、それを考えるほうが
幾倍も愉快だ」
「では、アルビオンはもう切り捨てなさいますか?」
「いや……せっかく作ったオペラだ。出来栄えは悪くとも、脚本家が
途中で降りては無責任だし、観客にも失礼であろう。せめて最後は
派手に散らせてやろうか」
 彼はそう言うと、貴下の空軍の艦隊をアルビオンに向かわせようかと
思案し始めた。ここでレコン・キスタを撃ってアンリエッタに恩を売るもよし、
トリステインと戦争に拡大しても、それはそれで面白い。

 だが、ジョゼフもシェフィールドも、自らが脚本を書いていると信じる
あまり、舞台がすでに別の脚本で動かされていることに気づかなかった。
彼らの作った脚本に合わせて踊るはずのクロムウェルは、もはや
彼らの糸の先にはいないことに……

 こうして、各国がそれぞれの事情の元に鳴動している中で、
アンリエッタは精鋭二千の兵とともに船上の人となっていた。
結局、大半の兵は置いて越さざるを得なかったが、トリステイン艦隊旗艦、
新鋭高速戦艦『エクレール』の甲板上で、艦首の女神像と見まごう
ばかりの凛々しい姿を見せる王女の姿に、兵たちは自らがこの船に
乗る資格を得れたことを誇りに思った。
「スカボロー港への到着は、あのどれくらい必要ですか?」
「およそ、二時間を見ています」
 航海士官の報告に、アンリエッタは満足そうにうなづいた。だが
それにしても、いくらアルビオンが再接近しているとはいえ、
普通なら七,八時間はかかる行程を恐るべき速さである。
 その理由は、このエクレールはゲルマニアで開発された新鋭戦艦
ランブリング級の三番艦で、次世代型の実験艦として様々な新機軸が
導入されており、高速艦として徹底的な軽量化が推し進められた結果、
なんとマストすらもなく、完全に風石でのみ航行をおこなうために、
これまでの戦艦のなんと三倍もの速度を発揮することに成功して、
今もなんとかこの艦に追随できるのは、兵を分乗させた六隻の
軽駆逐艦のみというありさまであった。
 むろん、欠点も数多くはらんでおり、船体が脆弱で防御力が
皆無に等しく、武装も従来艦の半分以下しか積んでいない、
さらに今後の問題として、風石の消費量が従来艦の五倍という
経理泣かせがついているが、実戦となったら大砲の照準を
合わせる暇もない速度にものを言わせて、敵をかく乱できるものと
期待されていたし、燃費の問題も、今トリスタニアのアカデミーでは
風石の力を数倍の効率で取り出す方法が研究されており、これが
成功すれば、格段に少ない風石で船を動かせるようになる。
 むろん、そんなことは不可能だと断じる者も少なくはなく、確かに
人間ではまだ成功したものはいないが、現実にエルフとの戦争中に、
追い詰められたエルフが小石ほどに小さな風石のかけらで、何十リーグもの
距離を目にも止まらぬ速さで飛んで逃げたという実例も報告されているので、
技術的には可能なはずであり、主任研究員のエレオノール女史以下が、
上層部がそっくり入れ替えられて自由度の増した研究室で、日夜
研究に没頭しているために、実現の日も遠くはないであろう。
 さらに、このエクレールを含む三隻の実験艦の運用実績を参考にして、
まだ青写真はおろか仮称すら決まっていないが、これまでの常識を
超越する、対怪獣用の巨大万能戦艦の建造も計画されているというから、
そのうちの一隻を任されたアンリエッタの責務は重かった。
 もっとも、今アンリエッタに必要なのは、この船の常識外れの
速力のみであったが。

「ウェールズさま、今まいりますから、どうぞご無事で」
 十日ほど前に、ウルトラマンAがバードンやテロチルスと戦った
空間も駆け抜けて、七隻のトリステイン艦隊は、持ちえる風石を
全部使い果たす勢いで走り続ける。



 後半部へ続く。




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