窓から差し込む光が目覚まし替わりとなり、ルイズの睡眠は終わりを告げた。
「ん、うう……」
「おはよー」
「おはよー」
瞳を開けて起き上がるのと、黒い少女が部屋に飛び込んで来るのは同時だった。
「誰……ああ、昨日召喚したのよね」
「ひどっ!」
「その桶は何? 後、朝から何処行ってたのよ」
「あ、うん。顔洗うのに水道探そうと思ったんだけど見つからないから、聞きに回ったのよ。
そしたら親切なメイドさんが『近くに井戸があるから、桶で汲んで行ったらどうですか』って言ってたから。ルイっちも洗うでしょ」
「水道って何か知らないけど、洗うわよ……ルイっちって何よ?」
「あだ名だけど? 例えば千歳ならちーちゃん、さやかならさやさやってみたいに」
「ひどっ!」
「その桶は何? 後、朝から何処行ってたのよ」
「あ、うん。顔洗うのに水道探そうと思ったんだけど見つからないから、聞きに回ったのよ。
そしたら親切なメイドさんが『近くに井戸があるから、桶で汲んで行ったらどうですか』って言ってたから。ルイっちも洗うでしょ」
「水道って何か知らないけど、洗うわよ……ルイっちって何よ?」
「あだ名だけど? 例えば千歳ならちーちゃん、さやかならさやさやってみたいに」
例に挙げるのが胸の小さいのばかりなのはいじめか、と知らない筈の人間を思い浮かべた。
「ルイっちはやめなさいよ、そんな緑の弟みたいな」
「じゃあルイルイ」
「爆弾男の恐竜も却下」
「わがままねえ……」
「じゃあルイルイ」
「爆弾男の恐竜も却下」
「わがままねえ……」
脳天気のあんたには言われたくない、と強く思う。
「ルイズでいいわよ、いやホントに」
「仕方が無いなあ……」
「仕方が無いなあ……」
こんな使い魔だけど、何故かうんざりしない自分がいて、ルイズは不思議だった。案外、そういう点は本当に天使なのかもしれない。
顔を洗って着替えた後、食堂に向かう途中、ルイズ達はキュルケ・フォン・ツェルプストーに出会った。
「じゃあキュルキュルね」
「……ぶっ!」
「やめてお願い」
「……ぶっ!」
「やめてお願い」
なんてやり取りがあったものの、朝食を取りに食堂にたどり着いた。
「ここが食堂?広いわねぇ」
「生徒数が多いから、広くなるわよ」
「生徒数が多いから、広くなるわよ」
二人は席につき、祈りを捧げて食事を手に取るが、
「ねぇ、ルイちゃん」
「……何よ」
「あたしの食事って、これだけ?」
「……何よ」
「あたしの食事って、これだけ?」
遊羽の目の前にあったのは、パンと薄いスープが一つのみ。ルイズ達貴族の豪華で物量の多い食事とは対称的だった。
「仕方ないでしょ、使い魔扱いなんだから。肉あげるから、我慢しなさい。
本当なら、使い魔は食堂にすら入れないのよ?」
「はぁい……あ、このパンおいしい」
本当なら、使い魔は食堂にすら入れないのよ?」
「はぁい……あ、このパンおいしい」
がっかり顔だった遊羽だが、パンを口に入れた途端に顔をほころばせる。
「それ、安物よ?」
「うーん、天か―――向こうじゃ、食事は取るだけが目的で、味は二の次だったからね。
美味しいもの食べるのは、ほんと久しぶり」
「うーん、天か―――向こうじゃ、食事は取るだけが目的で、味は二の次だったからね。
美味しいもの食べるのは、ほんと久しぶり」
天界と言いかけてやめたのは、事前にルイズから、
「あんたが天使かどうかはともかく、天界とか自分が天使とかいう言い方はやめときなさい。頭がおかしく思われるわよ」
「ま、仕方無いわね。他の人は羽根見えないんだし」
「ま、仕方無いわね。他の人は羽根見えないんだし」
とのやり取りを受けての事だ。ただの脳天気バカと思ったら、ちゃんと空気は読めるらしい。
それはともかく、ルイズは遊羽の食生活を不憫に思った。
いつも自分達は旨い食事を残す程、飽きる程食べているのに、平民ですらこれよりましな美味しいものを食べられるというのに、彼女は使い魔用のパンですらおいしいと言うような食生活。
どうせ一か月くらいしかいないんだから、こっちでおいしい食事を取って喜んで欲しい。
そんな仏心が働いたのかどうか、ルイズは残ったスープの皿をそっと遊羽に差し出した。
いつも自分達は旨い食事を残す程、飽きる程食べているのに、平民ですらこれよりましな美味しいものを食べられるというのに、彼女は使い魔用のパンですらおいしいと言うような食生活。
どうせ一か月くらいしかいないんだから、こっちでおいしい食事を取って喜んで欲しい。
そんな仏心が働いたのかどうか、ルイズは残ったスープの皿をそっと遊羽に差し出した。
「?」
「か、勘違いしないでよね。もうお腹いっぱいで余って勿体ないからあげるだけだからね?」
「ありがとう。うん、噂通り地上の食事は美味しいわね」
「あと、コックにあんたの分の食事を今度から用意してくれるように頼んどいてあげるわ。
あんたが犬みたいにお腹空かせるのがうっとおしいからじゃないんだからね!」
「~♪」
「……聞いて無いし」
「か、勘違いしないでよね。もうお腹いっぱいで余って勿体ないからあげるだけだからね?」
「ありがとう。うん、噂通り地上の食事は美味しいわね」
「あと、コックにあんたの分の食事を今度から用意してくれるように頼んどいてあげるわ。
あんたが犬みたいにお腹空かせるのがうっとおしいからじゃないんだからね!」
「~♪」
「……聞いて無いし」
***************
トリステイン学院の上空から、ルイズ達を窓を通して見つめる一つの影があった。彼女らがいる教室では、爆発が発生し、阿鼻叫喚の悲鳴が外にまで飛んでいた。
だが、影が見つめるのはただ一点、この混乱を気にしている様子の無い遊羽だけ。
だが、影が見つめるのはただ一点、この混乱を気にしている様子の無い遊羽だけ。
「遊羽は、いつも通りのようですね」
明るく、脳天気で、前向きなまま。
きっと、今起こっている事態に気付いていないんでしょうね、と嘆息する。
きっと、今起こっている事態に気付いていないんでしょうね、と嘆息する。
「そう」
現在、異常を通り越して非常事態が発生していた。場合によっては、直ちに天使試験を中止せざるを得ないような事態が。
『上』から、受験者が試験外世界に行ってしまったとの報告があった。影達『大天使』に下された命令は、その詳細を調査し、試験が可能か判断する事。
そのうちの一人であるこの影は、残りの担当の数人には試験不可能、延期と判断して天界に送り返したのだが、最後の遊羽を迎えにこの世界に来た時に、非常事態に気付いた。
『上』から、受験者が試験外世界に行ってしまったとの報告があった。影達『大天使』に下された命令は、その詳細を調査し、試験が可能か判断する事。
そのうちの一人であるこの影は、残りの担当の数人には試験不可能、延期と判断して天界に送り返したのだが、最後の遊羽を迎えにこの世界に来た時に、非常事態に気付いた。
―――天界への道が、開かない。
つまりは、自分をも含めて帰れない事を意味した。
故に、影は遊羽を元々の試験監督をしながら、いざという時の為に見張ってもいた。
試験は安全な世界、安全な場所で行われる―――以前に見習い天使へ暴行が発生し、帰還不能になったと報告が幾つかあった為―――のだが、この世界は安全とはとても言えない。
そして、帰還の方法も探さないといけない。大変になったとは思う。
だが自分はまだいい。遊羽の為に、それをしなければならない。試験監督として、何より友人として。
故に、影は遊羽を元々の試験監督をしながら、いざという時の為に見張ってもいた。
試験は安全な世界、安全な場所で行われる―――以前に見習い天使へ暴行が発生し、帰還不能になったと報告が幾つかあった為―――のだが、この世界は安全とはとても言えない。
そして、帰還の方法も探さないといけない。大変になったとは思う。
だが自分はまだいい。遊羽の為に、それをしなければならない。試験監督として、何より友人として。
「このまま帰れなければ、来たるべき時に大変な事になりますから」
遊羽のより一回り大きな翼を翻し、影は去って行く。翼からこぼれた羽は、地面に落ちる前に消えた。