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瀟洒な使い魔‐04


「メイド長! 火の塔の清掃終わりました!」

「メイド長! マルトーさんが昼食の味見お願いしたいそうです!」

「メイド長! ミスタ・クリストフとミスタ・フィオールの使い魔達が喧嘩を始めて手がつけられません!」

――――あれ? 何でこんな事になっているのかしら?

ふと、咲夜はそんな事を考えた。あれからメイドに混じって働きつつルイズの世話を焼くと言う生活を続けていたのだが、
いつの間にか同僚のメイドたちが『メイド長』と呼ぶようになっていた。
マルトーですら『我らがメイド長』などと言うようになり、気がつけばメイド長という呼称が定着してしまった。
普通に仕事してただけなんだけどなぁ、と思いつつ首を捻るも、答えが見つかるわけでもなく。

実の所、紅魔館におけるあらゆる仕事をほぼ一人でこなしてきた咲夜にとって学園で働く程度のことは造作も無い。
その上、基本的に役に立たない紅魔館の妖精メイドとは違い学園のメイドは人並みに働けるため、
咲夜が負うべき仕事は余り多くない。一度1人で全てをこなしてしまって怒られたことがあるくらいである。
元々メイド長と言う立場であれこれ指揮を行っており、その才能を遺憾なく学園でも発揮したための結果であるのだが、
咲夜はそれに気付いていない。咲夜にとって、我侭な主人の世話とメイドとしての仕事は幻想郷でもここでも変わらない。
そのため、いつもどおりに体が動いてしまう為に普通の人間からは『物凄く有能な人間』に見えてしまうのだ。
いつしかメイド長などと呼ばれるようになったのもある種必然と言える。

だが、それに咲夜が気づく事はないだろう。彼女としてはいつも通りに、むしろ手を抜いているくらいであり、
人にあれこれと褒められるような大したことをしているという自覚は全く無い。
そんな、凄く有能であるのにほんのちょっとだけ抜けているところが、咲夜の魅力の一つではあるのだが。



瀟洒な使い魔 第4話「時色マスタースパーク」



「サクヤさん、『土くれ』のフーケって知ってますか?」

いつもの様に厨房で昼食をとっていると、横に控えていたシエスタが話しかけてきた。
『土くれ』のフーケ。貴族のみを狙って盗みを繰り返す怪盗。
あるときは宝物庫の壁を『錬金』の魔法で土に変え、そこから進入。
またある時は30メイルもある巨大なゴーレムを操って力技で壁を破壊して持ち去る。
挑発的なことに、盗みを行った現場には必ず『○○、頂きました』というメッセージカードまで残す。
現れるところには全て土くれが残る為に、付いたあだ名が『土くれ』のフーケ。
その存在は、今ではトリステイン全土の貴族の脅威となっている。

「お、フーケか。知ってるぜ、武器屋の親父が『お陰で武器を買いに来る貴族も増えたし、フーケ様々だぜ』ってよ!
 ま、俺みたいなオンボロ剣にゃあ興味はないだろうが、俺らも気ぃつけたほうがいいんじゃねえか?
 ここの宝物庫にもそういった品はあるんだろ?」

壁に立てかけられたデルフリンガーが言うと、マルトーが肩をすくめて苦笑する。

「ま、お貴族様自慢の『固定化』がガッチリかかってるから、流石のフーケでも難しいだろうがな。
 俺は平民だから詳しい事は門外漢だけどよ」

『固定化』。物質をそのままの状態で、劣化しないようにとどめる魔法。
その度合いは使うメイジによっても変わってくるため、
最上級のメイジであるスクウェアクラスのメイジがかけたものならば大砲でも傷が付かないという話である。

「魔法のことはよく分からないけど、それなら安心していいんじゃないかしら?
 それだけ厳重に魔法がかけてあるなら、その土くれとやらも諦めるでしょう」

そこまで言って、そういえば幻想郷にも似たような泥棒が居たなあ、と言うことを思い出す。
あの泥棒ならこの学園のような宝物庫にはどう対処するだろうか?
主な被害が自分の勤め先であったので、戻ったらアレもそろそろ手を打たないとなぁ、と考えていると、
厨房に緑の髪の女性、ロングビルが入ってくる。

「ミス・イザヨイ。こちらにいらしたんですね」

デルフリンガーを買った次の日オスマンに面会したい旨を伝えたのだが、諸々の事情で忙しかったらしく、
手が空くまでは難しいとの返答が帰って来たのだ。そのため、今日この時まで面会が延びていた。
特に急ぐ事でもないので特に問題はないのが唯一の救いか。

「ええ、昼食の時間でしたから。オールド・オスマンもようやくお手空きになったようで」

「ええ……ほんと、人のスカートの中をのぞく暇があるなら仕事をして欲しいものです」

「本当ですねぇ」

2人揃って溜息をつき、咲夜はデルフリンガーを背負って立ち上がった。
そのままシエスタとマルトーに会釈して厨房を出、学院長室へと向かう。
その途中、咲夜は何とはなしにロングビルに話しかけてみた。

「そういえば、ミス・ロングビル。『土くれ』のフーケってご存知?」

「フーケ、ですか? あの怪盗の。ええ、聞き及んでいます。一応は学院長の秘書ですから、
 そういった情報なども常に耳に入れておく必要がありますからね。
 なんでも、物凄く大きなゴーレムで何もかも打ち壊してしまうのだとか」

その様を想像したのか、ロングビルがぶるりと体を震わせる。
咲夜もギーシュのような小型のゴーレムならともかく、
そんな大型のゴーレムともなれば自分の技では相対するのは難しいな、と考える。
主人であるレミリアやその妹フランドール、レミリアの友人であるパチュリーなどであれば、
あるいはそういった巨大な敵相手でも問題なく撃破できるだろう。が、自分にはそう言った高い火力を持つ攻撃はない。
何か手を打つべきだろうか、とまで考えて、自分は何故真面目に相対する事を考えているのだろうか? と気付く。

襲われる理由はあれど必ず襲うと限ったことではないし、そもそも自分は一介のメイドであり使い魔である。
主人であるルイズに危害が及ばないならば特に戦う理由もないのだ。
それにこの学園には風のスクウェアメイジであるギトーをはじめ多数のメイジが居る。
それに宝物庫には厳重に魔法がかけてあるそうだし、そうそう自分が戦う羽目にはなるまい。
そう思って思考を終わらせる咲夜であったが、なんとなく感じる嫌な予感だけはどうしても拭えなかった。

「ははは、見ていてくれよヴェルダンデ! この僕の新技を!」

新しいゴーレムの使い方を編み出したらしく、自信満々で目の前の使い魔に話しかけているギーシュ。
本塔の窓からその様子を眺めながら、咲夜は先程オスマンと交わした会話の内容を考えていた。
『ガンダールヴ』。どうやらそれが自分の、そして自分の左手に刻まれたルーンの正体らしい。
ハルケギニアに系統魔法をもたらした偉大なメイジ、始祖ブリミル。
その始祖が従えた4人の使い魔のうちの1人、神の盾ガンダールヴ。
あらゆる武器を使いこなし、1人で千人の軍隊にも匹敵する伝説の使い魔。
ナイフやデルフリンガーを握った時に感じたあの感覚、それそのものが『ガンダールヴ』の力なのだそうだ。

デルフリンガーが言っていた『使い手』というのは、すなわちそういうことだったのだろうか?
となると、デルフリンガー自身も何らかの形で始祖に、『ガンダールヴ』に関わっているということなのだろうか。
問うのデルフ自身は『そんなんだった気がしないでもない』と覚えておらず、真相は分からずじまいであった。
どうやら運命と言うのは相当にひねくれているようだ。
縁もゆかりもない異世界に呼びつけた挙句、この世界においては余所者に過ぎない自分に伝説を押し付けるなど。
はぁ、といつかのような何度目とも知れない溜息が漏れる。

「ほんと、にわかには信じがたい内容だったわね……」

「ま、深く考えるこたぁないんじゃねえか? 何がどうなったって相棒は相棒さぁ。
 それ以上でもそれ以下でも、ましてやそれ以外でもありえねえ。
 相棒も俺も、娘っ子も。自分以外の何かには絶対なれねぇもんさ。何があったってな」

咲夜の側に立てかけられたデルフリンガーの言葉に、咲夜ははっとする。
この剣は物忘れが激しいくせに、時折こうして妙に含蓄のある台詞を吐く。
いわれて見れば確かにそうだ。使い魔であろうがなんであろうが、自分は十六夜咲夜。
紅魔館の主、レミリア・スカーレットに仕えるメイド長なのである。

「そういうものかしら」

「そういうもんさ、何事も突き詰めりゃあ単純に出来てるもんよ」

「ありがと、ちょっと気が楽になったわ」

けらけらと笑いながら言ってのける傍らの剣に、咲夜は溜息を一つ。
苦笑してデルフリンガーを背負い直すと、その場を離れた。



その夜、本塔の外側、5階に当たる高さの場所に、人影が浮いていた。かの『土くれ』のフーケその人である。
フーケは壁面に手を触れたりノックをしたりして感触を確かめるが、ほどなくして溜息を一つ吐く。

「やっぱりあたしの魔法じゃどうしようもないか……仕入れた情報じゃ物理的な衝撃に弱いらしいけど、
 この厚さじゃ弱いもクソもあったもんじゃないじゃないか、このっ!」

げしげしと壁に蹴りを入れるも、それで崩れるほど壁もやわではない。
その内『フライ』への集中が途切れそうになりぐらりとぐらつくが、慌てて態勢を立て直す。

「ゴーレムでも無理そうだね、こりゃ。でも、ここで諦めるってのもこのフーケ様の沽券に関わる。
 こうなりゃ絡め手でいくしかないか……まずはあのハゲを口説き落とすか? いやそれとも……」

フーケがぶつぶつと思案していると、地面の方がなにやら騒がしくなってきた。
慌てて本塔の屋上に退避すると、背の高い赤髪と背の低い桃髪に蒼髪という3人組がやって来て何やら口論を始めた。
ルイズにキュルケ、タバサだ。今にも杖を抜きそうな剣幕に、フーケはこれはまたツェルプストーが怒らせたな、と直感する。

「やれやれ、こいつは今日はやめろってお達しかねぇ……」

諦めの顔と共に天を見上げ、フーケはその日3度目の溜息をついた。



同じ頃、咲夜の部屋のドアが乱暴に叩かれた。まるで軽く蹴っているかのような感じの音だ。
それに、妙に打点が低い。ドアの一番下の辺りを何度もどんどんと叩いている。
こんなノックをする相手を咲夜は知らない。
ルイズはもう少し穏やかに叩くし、キュルケの場合は軽くノックした直後に入ってくる。
シエスタは指の付け根で控えめに叩くし、ロングビルなら声もかける。
まさかキュルケのボーイフレンドが部屋を間違えたか? と思うも、
こんな蹴り飛ばすようなノックはしないだろう。では誰だろう、と思い薄くドアを開けると、
そこには虎ほどの大きさの大きな蜥蜴が居た。キュルケの使い魔、フレイムである。

「あら、フレイム? どうしたの、こんな時間に。キュルケが呼んでるのかしら」

「あーいぼーう。どっか行くなら俺も連れてってくれよー」

その問いにフレイムは顎をしゃくるようにして反転すると、のそのそと歩き出した。
進行方向はキュルケの部屋ではなく、階段の方へと向かっている。
外で呼んでいるのだろうか? キュルケなら『今日は外でおしゃべりしましょ!』と言いかねないが、
それにつき合わされるフレイムも大変そうだなぁ、と咲夜は思う。
フレイムが促すようにこちらを振り向いたので、デルフリンガーを引っつかんで慌てて追いかける。
フレイムの言葉は分からないが、どことなくあせっているような気がする。早く呼んでこないと怒られるのだろうか。

「ほんと使い魔って大変よね。同情するわ、フレイム」

「ま、そいつが普通の使い魔の仕事さ。娘っ子の使い魔やってる相棒よりはマシなんじゃねえの?」

「…………それもそうね。さ、行きましょう。フレイムにも悪いし」

その言葉に振り返ったフレイムは、ありがとよ、とばかりにボッ、と軽く火を噴いた。

咲夜が駆けつけたそこは本塔の根元であった。そこではキュルケとルイズがにらみ合い、
そこから少し離れてタバサが本塔にもたれかかるように座り込み、傍らに置いたカンテラで本を読んでいた。
フレイムが軽く頭を伏せ、目を瞑る。咲夜はなんとなくその意図を理解した。
この呼び出しはフレイムの独断で、要するに『この2人を止めてくれ』と言うことなのだろう。
本当にこの2人には困ったものだ。また溜息が漏れる。

「ほら2人共、またケンカ? 本当に飽きないわねぇ」

「喧嘩するほどなんとやらって奴さ、相棒。この年頃の娘っ子はそういうもんさ。
 キュルケはともかく、娘っ子は無駄にプライド高いからなぁ。ま、キュルケもそれが楽しいんだろうけどよ」

「毎回仲裁する私の身にもなってほしいわ」

「うるさーい! 止めないでサクヤ、今日こそこの発育過多の色ボケに引導を渡してやるのよ!」

ばたばたと羽ばたくように両手を動かして怒りを表現するルイズをあやすように後ろから覆いかぶさって引き離す。
どう考えたところでルイズがキュルケに勝てる道理は無く、上手く失敗魔法が直撃でもしない限りは無理だろう。
しかも命中するまでにどれほどの被害が発生するかわからない。結局困るのはルイズなのである。

「はいはい。立派な貴族になりないんなら安い挑発には乗らないような度量も大切よ?
 キュルケもあんまりルイズを挑発しないでね、仲裁するの私なんだから」

「ごめんなさいねサクヤ。怒ったルイズがあんまりにも可愛らしいもんだから、ついね」

くすくすと意地悪く笑うキュルケ。その様子が癇に障ったのか、突然ルイズがキュルケに杖を向けて詠唱を始めた。
『ファイアーボール』だ。『火』系統の使い手であるキュルケはそう直感し、とっさに横に飛んだ。
失敗魔法であろうとはいえ、直撃すれば気絶するくらいの威力はある。
しかも、ルイズのやる気に呼応するかのように威力が高まるのだ、もしかしたら気絶ではすまないかもしれない。
結果的に言って、その行動は無駄だった。なぜなら、ルイズの失敗魔法が吹き飛ばしたのはキュルケではなく、
タバサの上方、本塔5階の壁であったからだ。厳重に『固定化』をかけてあるはずの壁が、
まるでビスケットのように軽々と吹き飛ぶ。あれを食らったら骨の一本は折れてたろうなぁ、と、
キュルケは冷や汗を垂らした。これからルイズをからかうのは程ほどにしようとも。

「…………」

その場に気まずい沈黙が流れる。吹き飛ばしたのが本塔の壁と言うのもあるが、
吹き飛ばした辺りには運悪く宝物庫の壁がある。いや、あった。
その辺りの壁は1メイルほどの穴が開いており、爆発の凄まじさを否応なしに見せ付けていた。

「ルイズ」

「ひゃ、はいっ!」

底冷えのする咲夜の声に、直立不動の態勢で硬直するルイズ。
咲夜の表情は笑顔だった。ただし、ギーシュをリスのようなほっぺたにした日の。
優しげな笑顔だ。とても魅力的だと思う。しかし、ルイズは恐怖していた。
ギーシュをリスのようなほっぺたにした日の笑顔、すなわち、今咲夜は凄く怒っているという事だ。
リスのように頬を膨らませた自分を想像する暇も無く、その脳天にゲンコツが振り下ろされる。

「~~~~~っ!!」

「とりあえずはこの一発で私からの処罰はお終い。タバサ、先生を呼んできて。
 確か今日の担当はシュヴルーズ先生だったわね、丁度良いから穴を塞いで貰いましょう。
 キュルケとルイズはここで待機。あなたたちのせいで壊れたんだから当然よね?」

「ま、ゲンコツ一発で済んだならもうけもんだわな。この後先生さんからのお説教も待ってるわけだが」

デルフリンガーの一言にどんよりとしたオーラを纏う2人。
しかし、そんな3人と1本は不意に腹の底に響くような震動を感じた。まるで、何かがゆっくりと歩いてくるような。
見上げてみれば、学園の外、塀の向こうに30メイルにもならんとする巨大な土人形……ゴーレムが聳え立っていた。
その肩には人影。ローブを被っているようでシルエットは判然としないが、特徴から見て噂の『土くれ』だろう。
何もこのタイミングで来なくても良いのに、と、咲夜は歯噛みした。

「フーケだわ! なんてタイミングで……」

キュルケが目を見張る。確かにタイミングが悪すぎる。どれだけ強力に『固定化』がかけてあろうと、
今はルイズの失敗魔法が吹き飛ばした大穴が開いている。
あのゴーレムの拳をたたきつければ容易く穴の拡張がすんでしまうだろう。

「ああもう、こんなことならタバサを行かせるんじゃなかったわ!」

「落ち着け相棒! どうするよ、逃げるか!?」

「冗談言わないで。戦うわよ。ゴーレムは無理でも、フーケを倒せば止まるでしょう!」

「それでこそ相棒だ! やっちまえー!」

咲夜の手の中に魔法のようにナイフが現れる。今回はギーシュのときとは違い、両手に各3本づつ。
力がみなぎり、体が羽のように軽くなる。『ガンダールヴ』の効果が発揮され始めたようだ。

「キュルケ、ルイズをお願いね」

「了解。無茶しないでね? あなたは大切なお友達なんだから」

「善処しておくわ」

軽く手を振って駆け出す。それに気付いたのか、ゴーレムが塀を突き崩しながら咲夜の方へ歩いてくる。
咲夜はルイズの授業に付き合って覚えた事を思い出す。ゴーレムは大きければ大きいほど不器用で動きが鈍い。
もっとも、フーケは『土』のトライアングルと言う話だ。ゴーレムに使われている土を操って反撃してくるだろう。
気をつけるとしたらそこね、と考えながらナイフを投げるが、ゴーレムによって阻まれる。

「流石にこの距離じゃ阻まれるわね……」

ゴーレムが拳を振り上げ、咲夜目掛けて巨大な拳を振り下ろす。
轟音と共に地面が砕け散るが、そこに咲夜は居ない。紙一重で前に跳び、既にその腕を半ばまで駆け上がっていたからだ。

「悪いけど、手短に片付けさせてもらうわ」

その手の中に、今度は1枚のカードが現れる。それを目前にかざし、咲夜は呟く。
スペルカード。幻想郷における決闘で使われる技、スペルを放つ前に宣言と共に掲げるカードである。

―――時符「プライベートスクウェア」―――

その言葉と共に、咲夜の周囲の動きが突然スローになる。
周囲の時の流れを遅くし、その中で自分のみが通常の速度で動く咲夜のスペル。
咲夜以外の人間には、咲夜が超高速で動いているように見えるだろう。

『時間を操る程度の能力』

それが、只の人間でしかない十六夜咲夜を化け物揃いの紅魔館のメイド長たらしめている能力である。
咲夜はゴーレムの腕を駆け上がり、肩に立っている人影の両腕めがけナイフを投じた。
殺しはしないが、最低限魔法が使えないように腕の腱を狙う。

「よし……っ!?」

ナイフは間違いなく人影に食い込んだが、音がおかしかった。
はっとして目を凝らせば、肩に乗っていたのは人の形をした人形。明るいところで見ればすぐばれる程度のものだが、
夜と言う時間、月光を背にして立っており、さらに距離もあったため気づくのが遅れてしまったのだ。
フーケは『土』系統の魔法を得意とするメイジ。自分の身代わり人形を仕立てるくらいは訳も無いのだろう。
そして、周囲の速度が通常に戻る。『プライベートスクウェア』の効果時間、5秒が経過したのだ。
直後背筋を悪寒が走り、咲夜は空中に飛び上がる。その後を追うようにゴーレムの体から数本の土の槍が伸びた。

(肩に乗っていたのはフェイク、でも今のタイミングは間違いなく目視していないと出来ないもの……
 なら、フーケはどこに……)

咲夜は周囲に目を凝らす。あの状況でゴーレムの上にいた自分を目視できる場所と言うと多くはない。
例えば高所。塔の屋上のような……

「―――そこっ!」

振り向き様にナイフを投げると、一瞬早く本塔の屋上からローブを被った人影が跳ぶ。今度は本物のフーケのようだ。
追撃しようとする咲夜とフーケの間をさえぎるようにゴーレムが腕を伸ばし、フーケを確保する。
咲夜は宝物庫の穴の前に滞空し、隙を伺う。『プライベートスクウェア』はさっき使った。そうすぐには使えない。
ならば、ぶっつけ本番だが試してみるのも良いか。咲夜はナイフを収め、デルフリンガーを抜き放った。

「ようやく使ってくれるか相棒! 俺ぁ頑丈だ、少々乱暴に使ってくれても構わんぜ!」

「なら、遠慮なく」

フーケ目がけて全速で突っ込むが、それをさせじとゴーレムが腕を伸ばす。
―――狙い通り。咲夜は薄く笑みを浮かべると、デルフリンガーを振りかぶり、目にも留まらぬ斬撃を繰り出した。

―――傷符「インスクライブレッドソウル」 ―――

蒼い魔力の尾を引き、デルフリンガーが縦横無尽に空を走る。
咲夜を握りつぶさんとしていたゴーレムの腕が、斬撃の軌道に触れた瞬間、前腕部の中程までが切り刻まれ土に返った。
咲夜の試そうとしていた事。それは、『ガンダールヴの能力と自分のスペルの融合』であった。
本来この『インスクライブレッドソウル』は両手に持ったナイフで繰り出す技であるが、
ガンダールヴの能力と併用すれば、デルフリンガーのような剣でも繰り出す事が可能ではないか?
そう思い試してみたが、見事に成功した。
咲夜の持つスペルは大別して2種。主に能力を用いたスペルと主に自分の技術を用いたスペル。
どうやら、後者のスペルととこのルーンは非常に相性が良いようだ。
これならば射程や範囲を拡張した上位スペルである『ソウルスカルプチュア』でも十分応用が効くだろう。
確かな手応えを感じ、咲夜はくすりと小さく笑う。

「ヒュー! なかなか景気のいい技じゃねえか! っと、相棒! 腕が再生しやがったぞ!」

デルフリンガーがその威力に快哉を挙げ、土煙を破って再生した腕が咲夜へと向かう。
咲夜は接触直前にデルフリンガーを前方に投げると、そのままデルフリンガーの周囲の時間を加速。
それによって威力と速度を増したデルフリンガーは掌を軽々と貫通し、フーケへと向かう。
慌ててフーケが足元の土を使って壁を作り、壁に突き刺さったデルフリンガーの切先がフーケの鼻先1サントで停止する。

「チッ、あと少しだったんだけどな! それにしてもフーケよ、お前さん一つ忘れてねぇか?」

デルフリンガーの意味ありげな言葉に、ローブの奥のフーケの眉がひそめられる。
その言葉の意味にフーケが気付いたのと、一瞬前までフーケがいた場所にキュルケの放った火球が炸裂したのはほぼ同時であった。

「まったく、サクヤだけに見とれてないで、私も忘れないで欲しいわね」

ゴーレムから少し離れた地面で、キュルケが不敵に笑う。
フーケは歯噛みした。このメイドだけでも厄介なのにトライアングル相手じゃ分が悪い。
あの風メイジの小娘が戻ってこないうちに逃げるか……? だが、こんなありえない幸運を逃す手も無い。
こうなったら多少強引にでも押し通る! フーケはゴーレムを動かす。行動は単純、片足を挙げて降ろす。それだけだ。
地響きと共に地面が揺れ、地面に立っていたキュルケとルイズが体勢を崩す。
ラッキーなことにあのメイドもそれに気を取られて一瞬動きが止まる。好機。フーケはゴーレムに新たな指示を送る。

「しまった……!」

「やべぇぞ相棒! フーケの野郎、強引に押し通る気だ!」

ゴーレムの肩口で突き刺さったままのデルフリンガーが吠える。
あのまま攻めていればあるいは捕縛できたかもしれないが、転んだルイズたちに一瞬気をとられたのが失敗だった。
キュルケも呪文を唱えているようだが、それよりはゴーレムのほうが早いだろう。
ゴーレムが腕を振りかぶる。対抗すべくスペルを使おうとするが、その時。
目前で起こった爆発に咲夜の体が塔に叩きつけられ、後を追うようにしてゴーレムの拳が咲夜ごと宝物庫に開いた穴に叩き込まれた。



「あ、あぁ……」

ルイズは呆然としていた。咲夜を援護しようと魔法を唱えたら、いつものように意図とは違う場所で爆発が生じた。
フーケではなく、咲夜を巻き込んで。その直後にゴーレムの拳が叩き込まれ、咲夜は拳と共に宝物庫の中へと消えた。
声が出ない。体が震える。心を喪失感が満たす。自分のせいだ。自分のせいで咲夜が。
いつもこうだ。何かをすれば裏目に出る。それが、よりによって今起こってしまった。
何で自分は魔法を唱えてしまったんだろう。唱えなければあるいは自分で何とかしてしまったかもしれないのに。
咲夜を援護しようと思ったから? 違う。フーケを倒したかったのだ。
フーケを倒し、捕まえられれば私は『ゼロ』のルイズなんて呼ばれなくなる。
それに、悔しかった。さっき咲夜はキュルケに言った、自分の事を頼むと。
その時、思わず自分の頭に血が上った。自分はそんなに信用されていないのかと。
その後にキュルケが咲夜の援護をしたのを見て、思ったのだ。自分にだって出来る。自分は『ゼロ』じゃない。

―――自分は、役立たずではない。

だが結果はどうだ? 自分のせいで咲夜はゴーレムの餌食になり、自分の無様さを思い知っただけだ。
自分の無能さと、それを認めようとしない分不相応なプライド。それがこのような結果を招いてしまった。

―――結局のところ、自分は『ゼロ』なのだ。

そんな思いと共に、過負荷に耐えかねたルイズの意識は一旦闇に落ちる。
薄れ行く視界の端に、銀色に輝く光の束を見たような気がしながら―――



ルイズが意識を手放すより少し前、咲夜は宝物庫の中に居た。
ゴーレムの拳が当たる直前、身体を丸めて宝物庫の穴の中に飛び込んだのだ。
もっとも無傷で済んだわけではなく、右腕と右足があらぬ方向に曲がっている。折れたらしい。
改めて確認してみれば肋骨の辺りも酷く痛む。折れてはいないようだが、ヒビ位は入っているかもしれない。
これでは立つのは無理だろう。宝物の乗っていた台に背を預け、穴のほうを見た。
ゴーレムの腕が抜け、ローブの人影が入ってくる。フーケのようだ。

「今ので生きてるとはねぇ。悪運が強いというか、運が悪いと言うか。
 下手に実力があるってのも考えもんだね」

咲夜はその声に覚えがあった。数日寝床を共にした相手でもあり、昼に軽くとはいえ会話した相手。

「その声……ミス・ロングビル?」

「ご名答。あたしが巷で噂の大泥棒、『土くれ』のフーケさ。
 さっきはヒヤッとしたけど、あんたがご主人様やお友達をスルーできるほど薄情者じゃなくて助かったよ。
 おかげで今こうしてここに踏み込めてる。あのお嬢ちゃんにも感謝しないとね、
 アタシのゴーレムでもブチ壊せない壁に軽々と穴あけてくれてさ」

ロングビル……フーケは、そういって後ろの大穴を示す。

「ご自慢の投げナイフもそのザマじゃロクに腕も振れないだろ? 何、恥じる事じゃないさ。
 あたし相手にここまでやったってだけでも十分賞賛に値するよ。
 もらう物だけ貰ったらさっさとおさらばするし、そこで見てな」

「生憎と諦めは悪いほうなのよ、コソ泥相手に遅れをとったとあっては私の沽券にも関わるしね。
 それに……打つ手が全く無くなったわけでもない」

その瞬間、フーケは違和感を覚えた。全く動いていないはずなのに、咲夜が遠ざかったのだ。
咲夜は台にもたれかかっており、片足が折れている。そんな事が出来るはずはない。
気のせいか、とも思ったが違う。実際に距離が開いているのだ。どちらも全く動かないままで。

「な……なんだい、こりゃあ!」

驚くフーケを尻目に、距離はぐんぐん離れていく。
実を言えば、これも咲夜の能力の内である。咲夜が操るのは時間だけではなく、空間もその範疇に入る。
部屋の空間を拡張して広くする、といった事は容易い事なのだ。

(とはいえ、これも時間稼ぎにしかならないわね。何か手を打たなければ……)

その時、咲夜の手に何かが触れた。背にしている台から落ちた物のようだ。ふとそれを手にとって見る。
それは八角形の箱で、上面に開いた穴を囲むようにして直線で構成された紋様が描かれている。
そして、咲夜はそれを見たことがあった。

「これは……どうしてこんなところに?」

咲夜の記憶にあるソレと同じ物かどうかは分からないが、こんな形状をしているものがそうそうあるとも思えない。
あるいはこれがあれば状況を打開する事が可能かもしれない。それを掴み、穴の開いている方をフーケに向ける。
使ったことはないが、使っているところなら何度も見たことがある。出来ない事はないだろう。
空間の拡張を一旦停止し、ナイフに能力を行使する時の要領でそれに力を込める。
先端から細い光が放射され、軌道上のフーケをすり抜けて外へと向かう。盗賊としての勘か、
突然自分をすり抜けていった光から抜けうとするフーケに、不敵な笑みを向ける。
勿論、フーケの動きに合わせて照準を調整するのは忘れない。

「多分死なないとは思うけど、もしそうなったらごめんなさいね」

そして、光の軌道に沿って閃光が走る。腕ほどの太さの銀色の光はさっきのお返しといわんばかりにフーケに直撃し、
そのまま外へと吹き飛ばす。吹き飛んだフーケは呪文を使う間もなくゴーレムに激突すると、
集中が途切れたのか大量の土砂となって崩れ去るゴーレムに飲み込まれていった。
咲夜が使ったのは、手の中のマジックアイテムを媒介に魔力を収束させて撃つ一種の魔法だ。
最も、咲夜は魔法使いではなく、骨折の激痛に耐えながらであるためか怪我を追わせるほどの威力もない、
スペルとも魔法ともいえないようなお粗末なものであったが。
咲夜の記憶にあるこのマジックアイテムの使い手がやっているようにしてみたが、
気力を振り絞ったためか酷く疲れた。こういった魔力で直接攻撃するタイプのスペルは自分に合わないのだろう。
ヒビの入っていたであろう肋骨がさらにずきずきと痛む。どうやら本格的に折れたようだ。
あの魔法使いのスペルを真似するのも癪だったが、おかげでフーケを撃退できた。
今ばかりはなぜかここにあったこのアイテムとあの魔法使いに感謝しよう。

穴の縁から地面に視線をやると、ミス・シュヴルーズを連れたタバサがようやく戻ってきたところだった。
いや、時間としてはそれほど経っていないのだろう。
懐の懐中時計を開いてみれば、まだここに来てから20分も経っていない。
キュルケは何故か気絶しているルイズを介抱しており、
フーケは崩れ去ったゴーレムを構成していた土の山の一箇所から足が出ている。
崩れた土がクッションになったようで大事は無いようだ。
生き埋め同然の状態だがすぐに助かるだろう。流石に死なれては寝覚めが悪い。

「やれやれ、これでなんとか一件落着、って所ね」

この痛みは流石に耐えがたい、それに、魔法もどきは思ったよりずっと力を消耗するようだ。少し休もう。
穴の縁にもたれかかり、咲夜はそのまま眠るように気を失った。



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