あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

赤目の使い魔-06




食事を終えた後も、クリストファーは暫くシエスタとの会話を楽しんだ。
楽しむ、とはいっても、殆どクリストファーが質問を投げ掛けるだけだったのだが。
内容は多岐に渡る。
メイジとは何か。
貴族と平民について。
メイジと使い魔の関係。
学院の説明等、その他エトセトラ。
一方的な疑問の大群に、シエスタは不快な素振りも見せずに答えてくれた。
自分に聞きたい事は無いのだろうかと、彼は少し疑問を感じた。例えば、自分の赤目と牙についてとか。
しかし、その問いにもシエスタは笑顔を崩さなかった。
曰く、『そんな事を気にしていたら魔法学院での使用人など務まらない』と。
確かに、此処は今朝方見たフレイムみたいな怪獣が悠々と闊歩しているような世界である。その言い分には素直に納得するしかないだろう。
尤も、クリストファーに遠慮して聞かない、と言う可能性も有ったのだが。

しかし、少なくとも、悪い気分はしなかった。

「……あら、もうこんな時間ですわ。そろそろ戻られたほうがよろしいのでは?」

「え、嘘」

食堂の方を見、気付いた様に声を上げるシエスタ。
見れば、ちらほらと扉から生徒が出てきている。

「あらら残念。もうちょっと聞きたい事有ったのに」

「続きは何時でも構いませんよ。知っている限り答えさせて頂きますわ」

肩を竦めて笑うクリストファーに、シエスタも笑顔で応える。

「ありがと。ただ、こんな状況ルイズに見られたら、また怒らせちゃうかも」

笑い混じりに言葉を紡ぐクリストファー。
しかし――その言葉にシエスタの笑顔が、強張る。

「……『また』?」

「ちょっと、色々からかい過ぎちゃってね。あんまり反応が面白かったもんだか……ら………」

この時に於いて、彼はやっとシエスタの雰囲気が変わっていることに気付いた。
彼女の纏っている気勢に気圧され、思わず声が尻すぼみになる。
『仕事』中の彼ならば、この程度の迫力なら難なく吹き飛ばすことが出来るだろうが、彼は先程まで普通の会話を楽しんでいた身であり、あまつさえ気勢の許は先程まで慈愛に満ちた笑顔を浮かべていた彼女だ。
その落差は著しく、彼は思わず額に冷や汗をかいてしまう。

「……クリスさん」

「………えっと、何?」

静かに紡がれる言葉。
そこにさっきまでの楽しげな様子は、無い。

「詳しく教えて頂きますか?」


                   ● ● ●


「……全く、そんな子供みたいな」

手を頬に当て、溜息を吐きながら話すシエスタ。
クリストファーは、気まずげに彼女から顔を逸らしている。
構図のみを見れば、悪戯小僧とそれを叱る母親の様だ。

「まぁ、そんなに大それた事ではなかったのは安心ですけれど……。しかし、それが命の恩人に対する態度なのですか?」

「……返す言葉も無いね」

決して声を荒げる訳では無いが、言葉の節々に厳しさを混ぜながらシエスタは続ける。
この世に生を受けて五十余年。クリストファーは初めてまともな『お叱り』と言うものを体験していた。

「先程看護をお手伝いしたと言いましたけれど、中心的にお世話していたのは、他ならぬ彼女なのですよ?」

「う」

――言われてみれば、確かに。

彼が目を覚ましたとき、傍らにはルイズが座っていた。
恐らく、夜間にも献身的に世話をしてくれていたのだろう。それこそ、彼の足を枕にして寝てしまう程に。
暫くの沈黙が続いた後、彼は降参といった様子で両手を挙げた。

「……分かったよ。後でしっかり謝っとくからさ」

「よろしい」

そう言うと、シエスタの表情はまた柔和な物へと戻った。
そんな彼女の様子を見て、クリストファーは静かに苦笑する。

「友達になった直後に、そんな事言われるなんてねぇ」

「親しき仲にこそ礼儀あり、ですよ?」

清清しい彼女の笑顔に、彼は思わず声を出して笑う。
それは、楽しそうに。それは、嬉しそうに。

「……それじゃ、ご主人様の元に戻るとしようかな」

ひとしきり笑い声を響かせた後、クリストファーは立ち上がり、食堂へ向かおうとする。
その背中に、言葉が投げかけられた。

「クリスさん」

「……えーっと、まだ何かあった?」

冷や汗をかきつつ振り向くクリストファー。
しかし、シエスタはその相貌に先程の様な厳しさをたたえてはいない。
纏っている雰囲気は何処か、暗いものを感じさせる。

「彼女――ミス・ヴァリエールは、本当は心根の優しい方なんです。只、とある事情から周りにも、更には自分にも辛く当たってしまう様で……」

沈痛な面持ちで話し続ける彼女に、クリストファーは思わず笑顔を消す。

「ですから、クリスさんも腹に据えかねることが多々あるかもしれません。ですが――」

「――どうか、彼女を悲しませないであげて下さい。」

言いつつ、シエスタは丁重に頭を下げる。
その直前に彼が見たのは、彼女の顔に浮かぶ楽しさでも怒りでも厳しさでも無い――どちらかと言えば、母親が娘を心配する、そんな表情。

「それは、さっきの続きかい?」

「いえ、友人としての『お願い』です」

その言葉を最後に、周囲に再び沈黙が流れる。
暫くして、口を開いたのは、クリストファー。

「分かった。まぁ、努力してみるよ」

「……有難うございます」

そういって顔を上げたシエスタの顔には、沈んだ空気など微塵も浮かんでいなかった。
クリストファーは、再び苦笑する。

――ある意味、一番強い友達かもなぁ。

そんな考えが頭に浮かび、彼はその表情をいっそう深くした。
そして苦笑いをいつもの笑みに変えると、踵を返し厨房の出口へと向かう。
その彼の背中を、シエスタは微笑みながら見つめていた。


                   ● ● ●


「なーんかご機嫌ね。何か良いことでも有った訳?」

「いやいや、小さな友情を見つけただけだよ」

放つ言葉に小さな棘を乗せるルイズだが、それは見事に空を切る。
朝食の後、腹がふくれて落ち着いたお陰もあってか、ルイズは会話に付き合ってくれる様にはなった。
尤も、そのささくれたった機嫌だけは、どうしようもなかったが。
一方的な険悪ムードを孕んだまま、一行は朝食後の授業へと向かう。

「言っとくけど、あんたが本気で反省の色を見せるまでご飯抜きだからね。これ絶対。例外無し。」

「はいはい」

飄々としたクリストファーの態度に、ルイズのこめかみがピキリと鳴る。

――ダメよ。此処で怒ったら負けだわ。

これ以上おちょくられてたまるかと、深呼吸をして気を沈めてから、教室へと足を踏み入れる。
トリステイン魔法学院の教室は広く、石造りであるという点を除けば、大学の講義室を思わせる。
中には既に殆どの生徒が集まっており、遅れてきたルイズ達は必然彼らの視線を集める事となる。
すると、教室の空気が少し変わった。
所々からくすくす笑いが漏れ、その他の者も顔にあからさまな嘲笑を貼り付ける。
ルイズは少し表情を強張らせたが、気にしていないふりをして席に着いた。

クリストファーはといえば、そんな周囲の様子にも気付かず、改めて此処がファンタジーであることを実感していた。
カラス、猫、ふくろう等普通の動物がいると思えば、六本足のトカゲに下半身が蛸の人魚。窓を見れば巨大な蛇が覗いている。
件のフレイムとか言うサラマンダーは、机の下で眠りこけていた。

――まるで神話の世界だな。

興味深げにきょろきょろと見渡しながら彼はルイズの隣に座った。
ルイズの眉が釣り上がる。本人としては使い魔は床に座らせておきたい所だったが、言った所でこの男が素直に従うとは思えない。
諦めた様に溜息を吐いたところで、教師らしき人物が教室へと入ってきた。ふくよかな頬と体型をしている妙齢の女性だ。
お喋りに花を咲かせていた生徒達が一斉に自らの席へと戻る。
女性は優しげな微笑を浮かべながら、教室を見回す。そして、ルイズの席に目を留めた。

「あら、ミス・ヴァリエール。貴方の使い魔、目を覚ましたのですね」

我が身の事のように嬉しそうな口ぶりで、ルイズに話し掛ける。
しかし、その言葉は図らずも生徒達が笑い出すきっかけを作る事となった。

「ゼロのルイズ! 幾ら召喚が出来ないからって、その辺の平民に仮装させて連れて来るなよな!」

教室中の笑いを味方につけ、一人の生徒が立ち上がりながら言う。
只でさえ鬱憤が溜まっていたルイズは、その言葉に遂に感情を爆発させた。

「五月蝿い風邪っぴき! 私はちゃんと召喚したわよ! あんたもその場に居たでしょうが!」

「ふん、僕にはお前が爆発の中で涙目になってる様子しか思い出せないな」

教室の笑いが更に大きくなった。
ルイズは唇をきつく結び、衝動に任せるまま杖を抜こうとし――

「そこまでです。ミスタ・マリコルヌ」

そのまま椅子にへたり込んだ。
見れば、マリコルヌも力が抜けたように座っている。口に赤土粘土のオプションをつけて。
周囲の笑っていた面々も、同様に赤土で口に蓋をされていた。

「学友にその様な事を言うのは、貴族はもとより、始祖により生を受けた者としても間違った行為です。貴方たちはそのまま授業を受けなさい。」

厳しい顔のまま教師――シュヴルーズは手に持った小振りな杖を袖口にしまった。

「それでは、授業を始めます」

授業の内容は、相も変わらず前年度の復習だ。
「火」「水」「風」「土」の四代系統についての概要、そして失われた「虚無」について軽く触れながら、シュヴルーズは淡々と授業を続ける。節々に土系統を擁護する様な言動を挟んでいるが、身内贔屓は彼女個人に限った行為ではないので、わざわざ気にする事も無い
座学『は』基本優秀であるルイズにとって、それらは聞かずとも空で暗唱出来る様な内容だ。必然、途中で飽きが来る。
ふと、横の自らの使い魔を見る。
彼は顔にもう見慣れた笑顔を浮かべながら、興味深そうに授業を聞いていた。
魔法を知らないという彼の言葉を信じるならば、その反応は当然と言えるだろう。

ルイズの目が、クリストファーの赤目と牙を交互に捉える。
先程、あの子豚は彼を「仮装をした平民」だと言った。
それが、あの召喚の場にいた生徒全員の認識だ。彼が質問に答えられる状態でなかった事もあり、それが事実として完全に定着している。
しかしこうして近くで見ると、その目と歯は仮装と言うには、あまりにもしっくり来すぎていた

――コイツ、一体何なのかしら

怒りと驚きで麻痺していた頭が弛緩し、当たり前とも言える疑問が浮かぶ。
考えれば、自分はこの男の事を何も知らないのだ。
もしも彼の赤い眼球、牙が本物ならば、

――亜人?

有り得ない、とは言い切れない。
ルイズは数多くの書物を読んでいるが、決してその方面の分野に明るいわけではない。
噂に聞く東方の出なのか、それとももっと異質な――

「ミス・ヴァリエール!」

そこまで考えが至った所で、ルイズの意識は強制的に現実へと引き戻された。

「ミス・ヴァリエール!」

急に険しい顔をして、シュヴルーズは顔に似合わぬ大きな声を響かせた。
何事か、とクリストファーが横を見ると、ルイズが吃驚した顔で固まっている。

「授業中に余所見とは感心しませんね」

「す、すみません」

どうやら、不注意を見咎められたらしい。ルイズは、普段の彼女からは想像がつかない程恐縮している。
しかし、シュヴルーズの言葉はそこで終わらない。

「丁度いい。それでは、貴方にやって貰いましょうか」

え、と言った表情で、ルイズが再び固まる。おずおずと、シュヴルーズに向かって口を開いた。

「やるって、一体何を……?」

「決まっているでしょう」

そして、シュヴルーズは机の上に転がる石――先程杖から出したものだ――を杖で小突いた。

「練金ですよ、練金」

そして――教室が先の爆笑よりも、激しい喧騒に包まれる。

ある者は机上にある教材を慌てて仕舞い、またある者は羽織っているマントを防空頭巾の如く頭に被せる。
行動こそ様々だが、クリストファーは彼らの根底に、共通した『何か』への恐怖を感じた。

「先生! 止めて下さい! それはあまりにも危険です!」

あの余裕しゃくしゃくだったキュルケでさえ、周囲の意思を代弁するかのように抗議の声を上げる。
一体何をそんなに恐れているのか、とクリストファーは訝る。やる事と言えば只石くれにちょっと魔法をかけるだけ、尚且つそれをするのは先程まで嘲笑の的だったルイズである。

「……分かりました。やります」

結果として、周囲の猛反対は逆に沸点の低い彼女の矜持に火を点ける事となった。腰を上げるルイズを見て、生徒の何人かが声にならない悲鳴を上げる。

教壇に立った彼女に、シュヴルーズは微笑みながら練金の手解きを始めた。彼は初めて、素直に従うルイズというのを見た。
すると、前席の生徒がそそくさと机の下に潜り始めた。
見れば、教室の生徒全てが似た様な回避行動を取っている。
ふと視線を感じて周りを見渡すと、キュルケがクリストファーに『伏せろ』と手振りで示していた。

そうこうしている間に、ルイズは杖を握り締めていた。
短くルーンを唱え、勢いよく杖を振り下ろす。

教室を、光が包んだ。

その光の意味を察知したクリストファーは、慌てて身体を机の下に滑り込ませる。
同時に、響く爆発。
頭上を駆け抜ける熱風と共に、教具の破壊音、窓ガラスの割れる音が悲鳴混じりに彼の鼓膜を揺さぶる。
顔を上げると、粉塵が立ち込める中見えた光景は、戦地と見紛う程の有様だった。
だが、悲劇はそこで終わらない。

「俺のラッキーが! 俺のラッキーが蛇に食われた!」

「落ち着け! そいつは餌じゃない!」

「誰か、私のフレイムを止めてぇ!」

衝撃により、一時的に野性を取り戻した使い魔達が手当たり次第に暴れ始めた。
火柱が立ち、雷撃が行き交い、教室を更に破壊しつくす。
窓の外にいた大蛇も、教室に入り込んで手が付けられない様になっていた。
正に、阿鼻叫喚の地獄絵図。クリストファーも、余りの惨状に思わず目を丸くする。
そんな中、ルイズが立ち上がった。
ブラウスが破れ、スカートが裂けと惨々たる様子だったが、傍らで目を回しているシュヴルーズに比べれば、意識を保っているだけでも僥倖と言った所か。
ポケットから取り出したハンカチで顔を拭き、教室の惨状を見渡すと、彼女は通る声で言った。

「ちょっと、失敗したみたいね」

瞬間――教室の喧騒が、怒号となり彼女へと投げ掛けられる。

「何がちょっとだルイズ!」

「だから言ったのよ! あいつにはやらせるなって!」

「もう退学にしてくれよ!」

次々と襲い繰る罵声にも、ルイズは眉一つ動かさない。既に慣れてしまっているのか。それとも、表に出さないだけか。
すると、彼の耳にある生徒の言葉が引っかかった。

「ゼロのルイズ!」

「いつだって、成功の確率ゼロの癖に!」

「この魔法力ゼロ!」

彼の脳裏で、食堂でのやり取りが反芻される。

『よりにもよってあんな『ゼロ』に呼び出されるなんてな』

『……それは、御本人から聞いた方が宜しいかと』

魔法力、成功率共に皆無。
故に――ゼロのルイズ。

「あー、あーあー」

ポンと手を打ち、納得の声を上げる
ルイズの二つ名の意味とシエスタの意図を、彼は同時に理解したのだった。






新着情報

取得中です。