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瀟洒な使い魔‐03


「トリスタニアに買い物に行くわよ!」

あれから少し経った虚無の曜日。
現代で言う日曜日に当たるこの日は、トリステイン魔法学院も当然のことながらお休みである。
咲夜の部屋でたむろしていた咲夜・タバサ・キュルケの3人は、ルイズのそんな一言に首を傾げた。

「買い物って……何を買うのよルイズ。必要なものは大体揃ってるから今の所欲しいものは無いけど?」

愛用のナイフの手入れをしながら、咲夜が言う。

「……虚無の曜日」

手に持った本から視線を外さず、ぽつりと呟くタバサ。

「買い物って言うけど、お金は大丈夫なの? いっつも失敗魔法で物を壊してぴぃぴぃ言ってるくせに」

マニキュアを塗りながら、溜息混じりにキュルケも口を出す。

「ああもう、ツェルプストーに心配される筋合いはないわよ!
 お金がなかったらそんな事言うはずないでしょ!? 大体、咲夜はともかくなんであんた達がここに居るのよ!」

顔を真っ赤にして怒鳴るルイズに、キュルケはアメリカンに肩をすくめてわざとらしく溜息をつく。

「あら、だってサクヤと私はまんざら知らない仲じゃないもの。
 夜にワインを飲みながらおしゃべりする位に仲が良いのよ?」

「否定はしないわ。まあ、話して楽しい相手だとは思うけど」

あの日から、キュルケはよく咲夜の部屋に遊びに来る事が多くなった。
夜は毎日と言うわけではないがこの間のように酒を酌み交わしながら語り合い、
それ以外でもなにかにつけて咲夜の部屋へとやってくる。
そしてその際に何故かタバサも連れてくる事も多く、一応は咲夜の主人であるルイズも加え、
咲夜の部屋はいつもこのようにかしましい。主にルイズとキュルケの口論であったが。

「ぐぬぬぬぬ……と、とにかく! いつまでもそのメイド服ばっかりじゃ主人の私が変な目で見られるわ!
 服だって色々買ってあげるから買い物に付き合いなさい、サクヤ!」

「まったく、ヴァリエールの女は嫉妬深いわねぇ。使い魔を独占したいんだって素直に言えばいいのに」

「うるさいうるさいうるさーい! 色ボケツェルプストーにだけは言われたくないのよ!」

またぞろ口論を始めた2人を尻目に、咲夜は自分の姿を省みる。
持っている服は紅魔館で着ていたメイド服1着。それに加えてこの学園のメイド服を予備として貰っているが、
下着などは体格の似ているメイドから借り受けるなどしてごまかしていた。
服はメイド服だけでも不満はないが、下着は新しいのを買っておくべきだろう。
そう結論付けると、横で本を読んでいるタバサの肩をつつく。

「タバサ、トリスタニアって、どんなところ?」

「この国の王都」

「ああ、都なのね。じゃあ武器屋とかはあるのかしら」

タバサは質問の意図を測りかね首を傾げるが、一先ず頷く。

「私の得物ってナイフなんだけど、やっぱりスペアを確保しておいた方がいいかな、とも思うのよね。
 そういう所があるなら見ておきたいのよ。買わないまでも、どのくらいの相場なのかは知っておきたいし。
 折角だし、タバサも一緒に行かない? まあ、キュルケが誘うだろうとは思うけど」

「……わかった」

タバサはそう言うと、今まで呼んでいた本にしおりを挟んで閉じ、テーブルの上に置いた。
虚無の曜日は日がな一日本を読んでいるタバサだが、キュルケの言う事には比較的素直に従う。
それが友情から来ているのか、それとも何を言っても無駄だという諦めから来ているのかは分からないが。



瀟洒な使い魔 第3話「トリスタニア・ブルドンネ街を行く」



それから少しして、魔法学院の正門では3人が咲夜を待っていた。
1ヵ月分の給金を前借りしに行った咲夜を待っているのだ。
タバサの横には風竜の幼生、タバサの使い魔シルフィードが寝そべり、主人の命令を待っている。
少しして咲夜が戻って来た。手には皮袋を持っている、あれが今月分の給料なのだろう。

「お待たせ皆。それじゃあ行きましょうか」

「乗って」

先に乗ったタバサに促され、ルイズとキュルケがシルフィードの背に乗る。
それを確認し、咲夜がふわりと浮く。それに驚いたルイズが思わず声をあげた。

「えぇっ!? サクヤ、あんた『フライ』が使えるの!?」

咲夜は非常に返答に困る。幻想郷においてはある程度の力のあるものは大概が飛べるため、
まさか驚かれるとは思っていなかったのだ。

「魔法と言えば魔法なのかしら……意識して使ったことないのよね、これが。
 私は魔法使いって訳でもないし。幻想郷……私の住んでいたところでは、
 ある程度以上の力があれば大体は空を飛べるのよ。決闘も魔法なんかを派手に使った空中戦がメインだし。
 さ、私は自分で飛ぶから早く行きましょう。時は金なり、って言うしね」

咲夜がそう言うと、タバサが軽く首を振ってシルフィードの背を叩く。

「乗って」

「いいの? 4人も乗って重くないかしら」

「シルフィードの方が速い」

ここからトリスタニアまでは馬で3時間。飛んで行っても問題はないのだが、
タバサがここまでいうのなら乗ることも吝かではない。
それに、幼生とはいえ風竜である。確かに自分が飛ぶよりは速いのだろう。

(……何より楽よね)

そんな咲夜と3人を乗せ、風竜は一路トリスタニアへと飛ぶ。




トリスタニア。トリステイン王国の王都であり、人類に系統魔法をもたらした始祖ブリミル、
その末裔が代々住まう場所。そのためか活気に溢れ、大通りには沢山の露店が並んでいる。
咲夜達が立っているのはメインストリートであるブルドンネ街。
その道沿いにある店の1つ、ルイズの目的地である服屋に入ろうとしたところ、不意に後ろから声をかけられた。

「やぁ御一行。こんな所で会うとは奇遇だね!」

胸元にフリルの突いたシャツを着た金髪の少年。ギーシュ・ド・グラモンである。
先日の決闘の後、ギーシュは二股をかけていた少女達に謝罪。もう1度双方から平手打ちを食らうも、
なんとかその片方と関係を修復する事に成功した。ただその性格の根本は変わっていないため、
その内また浮気して張り倒されるだろうな、というのが周囲の見解でもある。
4人はギーシュを一瞥した後、何事も無かったかのように店に入ろうとする。慌てて呼び止めるギーシュ。

「ま、待ってくれ! 特にミス・イザヨイ! 話を聞いてくれないか!」

「……用件は手短にお願いしたいのだけど」

何処となく冷ややかな咲夜の視線に目を合わせないように軽く視線をずらし、ギーシュは咳払いをする。

「あ、ああ。あの後冷静になって考えてみたが、どう考えても僕が悪いという結論に至ってね。
 詫びの印のプレゼントでも買おうかと思ってここに来てみたら、偶然君達に出会ったというわけなんだ。
 ここで会ったのも始祖ブリミルのお導きだ。ミズ・イザヨイ、こんな事は償いにならないのは承知しているが、
 服を買うのであれば僕からもプレゼントさせて頂きたい。如何かな?」

優雅に一礼するギーシュ。4人は顔を見合わせ、どうしたものかと話し合う。
構う事はないわ、無視してさっさと買い物しましょ、というルイズ。
プレゼントぐらい貰っておいて損はないんじゃない? というキュルケ。
どうでもいい、といつもの無表情で呟くタバサ。
ギーシュを蚊帳の外に女4人であれやこれやと議論を交わし、出た結論はと言うと。

『財布が増えたと思いましょう』

という、咲夜の残酷な一言であったという。

服屋で咲夜の服を見繕い、露店を冷やかし、街を巡り、そろそろギーシュの懐が寒々しくなってきたところで、
咲夜達は裏路地にある一軒の店の前に立っていた。剣のマークを描いた銅の看板を掲げた店。武器屋である。

「ミス・イザヨイ。こんな所に何の用があるんだい?
 僕の財布はそろそろ寒々しくなってきたわけだが」

ギーシュが首をかしげる。キュルケやルイズも同じように怪訝な顔をしている。
学院を出る前にタバサに言った、ハルケギニアにおけるナイフの相場を確認するために訪れたのだが、
それを言った時口論していた2人には知る由はない。

「自分の得物のスペアを確保しようかと思うのよ。
 変えなくても相場くらいは確認しておきたいし」

「あ、そういう事……まあいいわ、ギーシュのお陰でサイフには余裕もあるし、
 ナイフくらいなら買ってあげてもいいわよ」

「あら、気前がいいのねルイズ。それじゃ、お言葉に甘えようかしら」

そう言うと、咲夜達はギーシュとキュルケを店の前に残し店内へと歩を進めた。



武器屋の中は昼だと言うのに薄暗く、ランプの頼りない明かりが周囲を照らしている。
周囲には剣・槍・盾等の様々な武具が雑然と並べられ、店の奥では店主であろう中年の男が暇そうにパイプをふかしていた。
男は咲夜達に気付くと眉をひそめたが、タバサやルイズのタイ留めを見ると慌てて居住まいを治して立ち上がる。

「おっと、貴族のお嬢様方。うちはお上に目付けられるようなこたぁなんもしてませんぜ?
 それとも、何かご入用のもんでも?」

「ケッ、よく言うぜ! 大方このお嬢ちゃんらをカモにしようって算段だろ?
 見え見えなんだよこのタコ親父!」

揉み手をせんばかりに不自然な笑顔で客を迎えた店主であったが、
不意に横合いから飛んできた暴言に一瞬で顔が引きつる。
咲夜達が声のした方を見ても誰もいない。余り広い店内でもないので、どこかに隠れたというわけでもないようだ。

「あ、あれ! ねえサクヤ、あの剣が動いてる!」

声のした辺りを見ていたルイズが指を指す。その辺りには乱雑に剣が積んであるだけだったが、
よく見ればその中の1本がカタカタと動いている。咲夜が手に取ってみると、左手が淡く輝き、体が軽くなる。
そして、この剣の使い方を「身体で」理解する。先日のギーシュとの決闘の際にも感じた感覚だ。
使い魔のルーンを刻むと、稀に特殊な能力を授かる者もいるという。
自分もそうなのだろうか、と思いながらも手に取った剣を眺める。
大きさは1.5メイルといった所か。鞘から引き出してみれば表面には錆が浮き、ボロボロといった有様。
これではあんな乱雑に置かれていたのも当然だろう。こんな物、売れるわけがない。

「インテリジェンスソード」

なぜか付いて来ていたタバサが、ナイフを品定めしながらぽつりと呟く。
インテリジェンスソード。魔法によって自我を与えられた剣。ただ喋る以外に何ができるというわけではないらしく、
その外見や口の悪さが災いして長いこと埃を被っていたらしい。
デルフリンガーと言うらしいそれと二言三言言葉を交わしていると、不意にデルフリンガーが黙り、驚いたような声を出す。

「へぇ、こいつはおでれーた。まさか『使い手』の手に握られる日がまた来るたぁ思わなかったぜ。
 お前さん、持ち合わせはあるかい? あるんだったら俺を買いな。損はさせねぇぜ」

「ごめんなさいね、欲しくないわけではないんだけど、私の武器ってナイフなのよ」

おもむろに鞘に戻し、軽く埃を払ってから元に戻す。残念ながら持ち合わせはそれほどない。
前借した給金も、多少色をつけてもらったとはいえ多くはない。
店の主人に聞いてみたところ、このデルフリンガーですら金貨で100枚は必要なのだそうだ。
喋る剣は珍しい。欲しくないといえば嘘になるが、咲夜の得物はナイフだ。剣など買ってもしょうがないのである。
タバサと一緒にナイフでも見ようか、と踵を返すと、デルフリンガーが物凄い勢いでまくしたて始めた。

「お、おい! 頼む、俺を買ってくれよ! おい親父、厄介払いのチャンスだぞ、半額くらいにして売り込めって! な!」

最早恥も外聞もない。彼の言うところの『使い手』が何を指すのかは分からないが、
咲夜はそれほどまでに彼が待ち望んだ存在なのだろう。
何となくその剣に同情が沸いたルイズは、必死に自分を売り込むデルフリンガーと、
それを瀟洒にスルーする咲夜との間に割ってはいる。

「ねえサクヤ、ここまで言ってるんだから買ってあげなさいよ……なんかもう可哀想になってきたわ。
 お金足りないんだったら私が出してあげるし、出せる範囲なら」

「あら、悪いわね。それじゃあ頂こうかしら。おいくら?」

「厄介払いもしたかったことですし、100のところを50で十分でさぁ。
 ったく、コレでようやくお前ともオサラバだな、デル公」

憎まれ口を叩くも、この店主の口ぶりからして心底嫌っては居ないようである。
手のかかる悪餓鬼、といった風だろうか。そう思いながらも、ルイズより預かったサイフから金貨を50枚ほど取り出す。
ついでに、ナイフのコーナーから投擲に適したナイフを数本選ぶとカウンターに持っていく。

「これもお願いするわね。100で間に合うかしら?」

「ひのふのみの……へぇ、確かに。うまくやれよ、デル公」

「ケッ、てめぇに言われなくても分かってらぁ」

デルフリンガーを背負いベルトをたすきがけにすると、タバサがナイフを一本抱えて持ってきた。
どうやら彼女もナイフを探していたようで、ナイフも小ぶりではあるが実用性が高そうである。
咲夜はルイズと共に入り口で待ち、タバサがこちらに歩いてくるのを確認してから外に出た。



その日の夜。咲夜は部屋のベッドに寝転びながら、今日買ったばかりのインテリジェンスソード、
デルフリンガーとあれこれと雑談をしていた。
ルイズがどうの、とか、店主の頭がどうの、とか、そういったたわいもない話を続ける内、
いつしか話題は今日デルフリンガーとであった時の事に移っていた。

「そういえばデルフ、貴方私のことを『使い手』って言ってたけど、あれはどういう意味かしら?
 私の得物はナイフだし、今まで剣を使ったことはないわよ?」

「ああ、あれか……実は俺も詳しい事はわからねえっつーか、忘れちまってるんだわ。
 これでも長いこと剣やってるからよ、あんまり昔の事は忘れちまったんだ。
 でもよ、かなり昔、お前さんみたいな奴に握られてた、って感覚だけは覚えてるんだよな」

「私みたいな、か……」

咲夜はギーシュとの決闘、そして、デルフを握ったときのあの感覚を思い出し、
左手に刻まれたルーンを見る。オスマンはこのルーンを「珍しいルーン」だと言った。
そして、今までの生活の中で「人間の使い魔」というものは他に類を見ないものであることを知った。
ならばこのルーンがなんであるかが分かれば、あるいはこの物忘れの激しい魔剣の出自も分かるかもしれない。
それに、自分の身体に起きたこの異変も。

「ま、俺も色々思い出そうとはしてみるからよ、お互い頑張ろうや。宜しく頼むぜ、相棒」

「……そうね。まだまだこの世界にも不案内だし、宜しくお願いするわ、デルフ」

とりあえず明日はオスマンのところにこのルーンについて聞きに行ってみよう。
そんな事を考えながら、咲夜は灯を消し、眠りに着いた。



時は遡り、ルイズが咲夜を呼び出すよりも前。トリステインの隣国、ガリア王国は王都リュティス。
その王城であるヴェルサルティル宮殿の一室にて、一人の男が立ち尽くしていた。
蒼く色づいた髪、古代の剣闘士のような、しっかりと筋肉のついた雄々しき肉体。
きりりと引き締まった端正な顔に、それを引き立てるかのようにそよぐ髪と同色の髭。
このガリア王国の支配者、ジョゼフ1世その人である。

その若々しい美丈夫然とした外見に似合わず、彼の評価は国内外共に低い。
内政をさせれば国が傾き、外交をさせれば国を誤る。人呼んで『無能王』ジョゼフ。
貴族としての存在意義とも言える魔法の才能に乏しく、気分屋で皮肉屋。
その上、彼の今は亡き実の弟であるオルレアン公シャルルが魔法の天才であった事もあり、
長年にわたり父母や臣下に軽んじられていた。
国王に即位するに前後してシャルルが暗殺され、時期が時期でもあったので口さがない者達、
またシャルルを慕っていたもの達よりは『簒奪者』とも呼ばれる。
それも当然だろう。事実、彼がその意思で実弟を死に至らしめたのだから。

そんな彼は今、自室にて杖を構え、呪文を口ずさんでいた。
呪文の名は『サモン・サーヴァント』。使い魔を呼び出す魔法である。
自分に魔法の才能がないと知ってよりは使う気も起きなかった魔法であるが、
今しがた不意に思い立って呼び出してみよう、と思ったのだ。
さて、自分の使い魔はどんな生き物であろうな、と思いを馳せる。
魔法の才能など皆無に等しいのだから、そう行った類のものであろうか。
鼠か、虫か、いや、もしかしたらオーク鬼やトロール鬼やも知れぬ。
そんな事を考えている内に呪文は終わっており、数瞬後、目の前に輝く鏡のようなものが現れる。

「ほう、『サモン・サーヴァント』は成功するのか。さて、鬼が出るか蛇が出るか……」

そして、鏡に変化が起こる。何かが出てきたのだ。
肌色で、平たく、同色の細い棒が5本突き出ている。手だ。それも、女の手である。
それは見る間にこちら側に姿を現し、黒い袖、頭頂周辺が紫に染まっている茶髪、そしてすぐ後に全身が現れた。
こちら側に引き込まれた勢いのまま、べちん、と言う音と共に女性が倒れる。
いい音したなぁ、と想いながら、ジョゼフは女性を助け起こした。

「おい、大丈夫か? 随分といい音がしたようだが」

返事はない。よく見れば気絶しているようだ。と言うか、人間が召喚されるなんて思っても見なかった。
とりあえず彼女をベッドに寝かせ、さてどうしたものかと思案する。
ひとまず魔法は成功したようだ。でも人間の、それも女が呼ばれるというのはどういうことか。
男が呼ばれなかっただけマシであろうか。余りそういったことに興味のないジョゼフであったが、
流石に男と口付けを交わす趣味はない。
女をよく見てみる。年の頃は20代後半と言った所か。よく見てみればかなりの美女である。
ガリアでは見ない服装や顔立ちから見るに、おそらくは噂に聞く東方のものであろう、と辺りをつける。
使い魔は、自分と似たタイプのものや、相性の良い物が召喚される、と聞いたことがある。
ならばこの女もどこかしら自分と通じるものがあるのだろう。
あるいは、この者ならば自分のこの心に生じた虚無を真に理解してくれるやもしれん。
そう思いかけ、ジョゼフは首を横に振る。

「いや、ありえんな。この胸の内の虚無は、何者にも理解は出来ぬ。
 そんなことは、シャルルをこの手にかけてよりずっと、分かりきった事ではないか」

ジョゼフは自嘲気味にそう呟くと、声を殺し、低く唸るようにしてしばし笑い続けた。



それから少しして、女性が意識を取り戻した。
目覚めてすぐは多少戸惑っていたようだが、こちらの事情を簡単に説明してやると落ち着いた。
彼女自身もメイジであったようで、理解が早いのは助かった。
聞くところによれば、ハルケギニアとは違う異世界より召喚されたらしい。
自宅で寛いでいたところ目の前にゲートが現れ、誰かに呼ばれているのならば応えねばならない、と
召喚に応じたようだ。送り返す手段はないが、戻る手段がないではないと言うので問題は無いだろう。

「さて、契約についてだが……余としては別にしてもしなくても構わぬのだが。
 お前のような人間を使い魔にした場合どうなるのか。そこには興味がないではない」

「私も魔法使いとして興味がないといえば嘘になるのですが……
 その、キスしか契約の方法はないんですか? 私も外見どおりの歳ではありませんが、
 流石にちょっとばかり恥ずかしいのです」

「その辺りの苦情は始祖ブリミルに言ってくれると助かる。
 一応余の祖先に当たりはするが、確かに余もよくもまあこんな魔法を考えたものだと思うぞ」

その後語り合う事しばし。結局魔法使いとしての好奇心に負けたのか、彼女は契約を承諾した。
呪文を唱え、口付けを交わす。普通の男であれば心躍る場面であろうが、
ジョゼフの心は不自然なほど平静だった。やはりこの程度では心躍らぬか。
内心で毒づき、彼女と交わした契約の様子を見る。
彼女の額が輝き、ルーンが刻まれる。ふとそのルーンがどこかで見たことのあるものだった気がして、
配下を呼び、そのルーンについて調べさせる。面白いものなら良いがな、と、
呼びつけた者がジョゼフと彼女を見てたいそう驚いたのを思い出し、笑みを浮かべた。
そして、ジョゼフはあることに気づく。余は今しがた使い魔としたこの女の名を知らぬ。
これから暫くは共に在るであろう人間の名を知らぬのも何だ、と思い、名を尋ねる。

「名前、ですか。そうですね、ばたばたしていてすっかり忘れておりました。
 私の名前は――――」



――――その使い魔の名は、聖白蓮と言った。



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