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瀟洒な使い魔‐02


翌日ルイズが目を覚ますと、隣で寝ていたはずの咲夜の姿はなかった。
周囲を見回すと、この学院のものではない、スカート丈の短いメイド服が視界に入る。
あれ?こんなメイド学院に居たっけ。ていうかなんで平民が私の部屋に居るのかしら。
ああ、そういえばこの平民は使い魔だっけ。昨日は一緒に寝たのよね、そういえば。
名前は確かサクヤとかいったかしら。平民の癖に魔力があるし、異世界の住人だとかいうよく分からない使い魔。
そう寝ぼけた頭でとりとめもないことを考えていると、あれよあれよと言う間に着替えさせられ、髪を梳かされる。
数分後には一部の隙もないほどに完全な形で身だしなみが整った自分がそこにいた。

「……なんか釈然としないんだけど」

「こういうこともメイドの勤めでしょ? ほら、もたもたしない」

なおもぶつぶつと文句を垂れるルイズの背中を押しながら部屋の外に出る。
すると、虎ほどもある巨大な蜥蜴を連れた燃えるような赤い長髪の少女と出くわした。
途端、ルイズの眉尻が跳ね上がり機嫌がレッドゾーンに突入する。
咲夜はここ数日で築いた薄い交友関係から名前を拾い上げる。確かキュルケと言う名前だったはずだ。
トリステインの隣国ゲルマニアからの留学生で、ルイズとは先祖代々いがみ合ってきた仲だと言う。

そのいがみ合いの系譜は子孫である彼女らにも受け継がれているらしく、事あるごとにこうしてにらみ合う。
もっとも、キュルケがからかってルイズがムキになる、というのが実情だが。
魔法使いとしてもかなりの腕前らしく、ボタンがいくつか外されているシャツから覗く豊満なスタイル、
そして何より歳や身長でも、何一つとしてルイズが勝っているところはない。
それがなおのことルイズの敵愾心を煽るのだろうなぁ、と思案しつつ、キュルケに話しかけてみる。

「おはようキュルケ。フレイムも元気そうね」

「あらサクヤ、ようやく観念したのかしら?」

「ええ、とりあえず暫くは使い魔をやってみようと思うわ。改めてよろしくお願いね」

そんな感じで言葉を交わしていると、背後から殺気にも似た威圧感を感じる。
ルイズの短い堪忍袋の緒が切れそうになってるな、と咲夜は直感し、
「それじゃあ、先に行くわね」とキュルケに次げてルイズとともにその場を後にする。

「……まったく、サクヤも大変そうね、ルイズのお守りだなんて。
 フレイム、使い魔同士、仲良くしてあげなさいね?」

キュルケは苦笑しながら傍らの使い魔に語りかけ、フレイムはそれにボッ、と軽く火を噴いて了承の意を示した。



瀟洒な使い魔 第2話「メイドと青銅のドットメイジ」



朝食が終わればルイズは授業である。よって咲夜も手が空くため、ルイズの部屋の掃除、洗濯などの雑用をこなす。
元々紅魔館に居た頃も屋敷の雑務はほとんど自分一人でやっていたので、
ルイズの部屋自体はそれほど時間をかけずに終わってしまう。
いつも屋敷でやっている「裏技」でやれば、この魔法学院全域の掃除すら昼には終わってしまうだろう。
つまるところ、暇なのである。

こうした時に何をしているのかと言うと、ルイズ以外の部屋の掃除などの雑用である。
屋敷一つをほぼ1人で切り盛りするためか、幻想郷に居た時の咲夜の仕事量は異様なほど多い。
そんな中で何年もやってきているためか、なんとなく仕事をしていないと落ち着かないのだ。
そうオスマンに話すと「ではメイドに混じって色々やってくれんかのう、給金は出すぞい」と頼まれた為、
今このようにして雑用をこなしている。これも職業病と言うものであろうか。

そうこうしているうちにどうにか仕事も一段落し、一休みとなる。
掃除用具を仕舞った後に向かうのは食堂。正確に言うならば、そこの厨房である。
出迎えるのは学園付きのコック長であるマルトーや、同じく学園付きのメイドであるシエスタ。
この数日間で親しくなった数少ない知り合いで、異邦人である咲夜でも快く迎え入れてくれた。
オスマンに衣食住の保障を取り付けるより先に彼らと知り合っていたために咲夜が今まで生きてこれたといっても、
過言ではないだろう。まあ、出会っていなかったら出会っていなかったでどこかから失敬していたかもしれないが。

基本的に出されるものは残り物や賄いであるが、幻想郷に居た時とは余り違いがない。
というか、幻想郷に居た時より豪華である。何せ咲夜は人間とは食べるものが違う吸血鬼を筆頭に、
比喩表現抜きで(種族的な意味で)化け物揃いである中で唯一の人間であった。
そのため量を作る必要はなく、自分の分だけに限って言えば豪華に作る必要性は余りなかったのである。
貴族達の食事は量が多い。しかも全部食べるわけではなく手付かずで残る料理も数多く、
咲夜に回ってくるのはそう言った物の場合も多い。しかもマルトーの力作ばかりである為、不味いはずがない。
昔よりかえって栄養状態がよくなったような気がする、とは3日目の夕食の際彼女が漏らした呟きであったりする。

「ご馳走様でした、マルトーさん。今日の料理もまた格別に美味しかったですよ」

「なぁに、貴族連中の残り物で良ければまだ山のように残ってるぜ?
 おかわりが欲しけりゃどんどん言ってくれよ!」

そう言ってシエスタに追加の料理を持って来る様に指示するマルトーであったが、
これ以上食べ続けると教師の1人であるミス・シュヴルーズのようになってしまいかねないので丁重に断り、
何とか話題をそらそうとする。

「そろそろ生徒の昼食の時間でしょう? 腹ごなしにお手伝いさせてもらいますわ」

「おお、そういえばそんな時間だったな! それじゃあ遠慮なく手伝ってもらうとするか!」

なんとかこれ以上栄養状態が良くなることは避けられたようである。
かくして咲夜は今、トレイに乗せたデザートを配って歩いている。今日のデザートはケーキのようだ。
すいすいと淀みなく椅子の間を抜け、無駄のない動きでケーキを配って行く。
自分の受け持ち分は全て配り終えた後ふと何かを蹴飛ばしたと思ってそちらを見ると、
色の着いた液体の入った小さな小瓶が転がっていた。香水の瓶だろうか?
拾い上げて周囲を見回すと、金髪にフリル付きのシャツを着た少年が友人であろう少年達と談笑していた。
恐らく彼のものだろう、と推測した咲夜は、邪魔をするのも悪いのでテーブルの上にそれを戻して置く。
こうしておけば気付くだろう。そう思考して、咲夜は厨房へと戻っていった。
一休みしていると、食堂の方がなにやら騒がしくなっていたようだが、
ルイズ絡みのことではなさそうなのでそのまま食後の紅茶としゃれ込んだ。

「さて、昼休みもそろそろ終わりのようだし、午後の授業くらいはルイズに付き合いましょうか」

「なんだ、もう行っちまうのか? 腹が減ったらいつでも来てくれよ!」

軽く手を振って答え、厨房を出る。すると、さっきの少年が物凄い剣幕で駆け寄ってきた。
両の頬には綺麗な平手打ちの跡があり、少し離れたところでは友人であろう少年達がくすくすと笑いながらその様子を眺めていた。

「ききき、君だな! さっき僕のテーブルの上に香水の瓶を乗せたのは!」

「そうだけど、貴方のものじゃなかったのかしら?」

「いやあれは僕のであってるが……お陰で2人の少女の名誉に傷がついてしまった! どうしてくれるんだ!」

少年の言っている事がよく分からない。どういうことなのだろうかと後ろに居る少年達を見ると、
その中の1人が腹を抱えながら解説する。

「あの香水、そいつが女の子からもらったプレゼントなんだよ!
 そいつさ、だっていうのに他の女の子と付き合ってたりしてて、お前が香水を返したのが原因で二股がばれたんだ!
 ばれるくらいなら最初から浮気なんかするな、って言う話だよな!」

なんだそれ、と咲夜は思った。まるで言いがかり、というか言いがかりそのものじゃないか。馬鹿じゃないのかこいつ。
咲夜の視線が困惑から哀れなものを見るような視線に変わったのを察したのか、
少年の顔が段々と赤く染まっていく。拳は硬く握られ、小刻みに震えだす。
相当怒ってるなぁ、と思いつつ嘆息し横を通り過ぎようとすると、肩を掴まれた。

「痛いのだけど、離して貰える?」

「残念ながらそれは出来ないな、メイド君。そういえば君には覚えがあるぞ、
 確かあのゼロのルイズが召喚した使い魔だったね?」

「ええ、そうよ? 貴方が二股をかけていたことと私がルイズの使い魔であることと、何か関係があるのかしら」

少年のこめかみに青筋が浮く。確かに全く関係ねぇや!と友人達が大笑いする。
肩と掴む手に力がさらに加わった。

「……知ってるかい? メイジにはこんな言葉があってね。
 『メイジを見るときはまず使い魔を見ろ』。なるほど、あのルイズの使い魔らしい口ぶりだ。
 まあいい、仕事は出来るようだが所詮平民、口の効き方を知らないのも道理だ。
 では本題に入ろう、僕が君に何を求めているのか、分かるかい?」
「興味ないわね。この後はルイズに付き合って午後の授業を見に行く事にしているのよ。
 見等外れの逆恨みに付き合っている暇はないわよ?
 それとも、貴族のお坊ちゃんは流れのメイドと戯れるのをお望み? 御免被るわ」

肩にかかった手を払いのけて歩を進める。
幻想郷に居た頃からこうして突っかかってくる相手は叩き落としていたものだが、
今はルイズの使い魔兼学園付きのメイドという立場であり、そこらをうろついていたような妖怪とは事情が違う。
迂闊に怪我をさせてしまってはそれはそれで問題だろうと食堂を出ようとすると、少年達が道を塞いでいる。

「なあ使い魔さん、悪い事は言わないよ、あいつに謝ったほうがいいぜ?
 ほら、あいつプライド高いから。そろそろ切れるんじゃないかな」

そういわれて振り返ると、額に手を当てて不敵に笑っている少年がいた。

「ふう、僕としたことがつい熱くなってしまったようだ……
 よくよく考えてみれば所詮平民の言う事、しかも聞くところによれば遥か遠く、東方の生まれだそうじゃないか?」

もっと遠くだし別に幻想郷で生まれたわけでもないのだけど、と思いつつも、とりあえずは話を聞くそぶりを見せる。

「ならば礼儀を知らずとも仕方ない、しかもゼロのルイズの使い魔だ、
 察しが悪いにも程があるのもまた道理! だが無知は罪であり、罪は裁かれねばならない!
 礼儀を知らない平民に礼儀作法を教え込むのもまた貴族の、このギーシュ・ド・グラモンの務めである!」

そして薔薇の花を匂いをかぐようにかざし、おもむろに咲夜を指差した。
その目は一見冷静に見えるが口元がひくついていたり、腕がプルプルと震えていたりするため、
咲夜は「ああ、怒りが収まったわけではないんだなぁ」と半ば呆れながら溜息をつく。

「故に僕は君に決闘を申し込もう! 名乗りたまえ、平民!」

「十六夜咲夜。ケンカがしたいなら最初からそういって欲しいわね。そういうのなら嫌いじゃないのに」




ヴェストリの広場でギーシュとゼロのルイズの使い魔が決闘をする。
そんな話を耳にしたルイズは、授業の準備も放り出して広場へと直行した。
広場には既に人だかりが出来ており、中央に開いた空間では咲夜と少年……ギーシュ・ド・グラモンが対峙していた。
ギーシュは咲夜に対してなにやら口上を語っていたが、咲夜はソレを興味なさげに聞き流している。
周囲から聞こえてくる呟きから察するに、咲夜がギーシュに言いがかりを付けられ、
そのまま決闘へともつれ込んだらしい。「戦いは得意」だと言っていたが、何かあってからではまずい。
ギーシュはメイジとしては最下級の「ドット」だが、それでも平民はメイジには勝てないのだ。
そう感じたルイズは人垣を押しのけ、咲夜へと近づいていく。

「ちょっとサクヤ! どういうことなのこれ!?」

「あらルイズ、案外早かったわね。見ての通り、売られた喧嘩を買ったまでよ。
 それに何より、そろそろご主人様に自分の実力を見せておいてもいいじゃない?
 言ったでしょ、『こういうことは大得意だ』って」

もっとも、あんな坊やじゃ本気になる前に殺しちゃいそうだけど。
そう呟いてルイズをギャラリーの方に下げ、手を一振り。その手の中に、魔法のようにナイフが1本現れる。

「さて、それじゃあ始めましょうか。ルールはどうするの?」

「ここは平民の君にも分かりやすいようにシンプルに行こう。参ったといった方の負け。 
 僕に限りこの薔薇の造花……これが僕の杖だ。これを手放しても負けと言うことにしよう。
 怪我をしないうちに降参したまえよ?」

「あら、優しいのね? それじゃあ私もハンデをあげるわ。このナイフ1本で戦ってあげる。
 貴族のお坊ちゃんを針山にしてしまったら問題でしょう?」

咲夜はナイフを手の中でもてあそびながらくすりと笑う。
それがきっかけになったのか、ギーシュが薔薇を振り上げる。花びらが一枚地面に落ち、
それが瞬く間に鎧を纏った女性を象る。ギーシュの十八番、ゴーレムの生成だ。

「そういえば二つ名を名乗っていなかったね。 僕の二つ名は「青銅」。
 「青銅」のギーシュだ。僕はメイジだ、魔法を使っても卑怯だとは言うまいね?」

「まさか。こんな可愛らしい魔法を卑怯だなんて言ったら、貴方がかわいそうでしょう?」

「……っ! ワルキューレ、その無礼者に現実を教え込んでやれ!」

哀れみを含んだ咲夜の挑発にギーシュが吠える。
ギーシュの絶叫に応えるようにゴーレム……ワルキューレが駆け、咲夜に殴りかかる、はずだった。

「遅すぎるわ」

そんな呟きとともに、咲夜はその横をするりと通り過ぎる。
その瞬間金属と金属がぶつかり合う音が連続し、ワルキューレがバラバラに分解した。

「な……!?」

ギーシュが驚愕に表情を強張らせる。自慢のワルキューレが、一瞬でバラバラに砕けたのだ。
ルイズにも、ギャラリーにも、何も見えなかった。咲夜が横を通り過ぎた。
ただそれだけにしか見えなかったのだ。しかし、今何が起こったのかを認識できた人物が1人居た。
ギャラリーの最後尾、蒼い髪を短く揃え、身の丈を超える長い杖を抱いたルイズより小柄な少女。
その横には赤い髪の少女……キュルケが並び、横目で少女を見ながら話しかけている。

「ねえタバサ、今の見えた? 何があったの?」

タバサと呼ばれた少女は軽く頷き、ポツリと呟く。

「あのメイドが切り刻んだ」

「へぇ……ただのメイドかと思ったけど、案外やるじゃない」

「只者じゃない。おそらくは『メイジ殺し』」

「あんたがそこまで言うとはね。今度ゆっくりお話を伺ってみたいもんだわ」

キュルケはそう一人ごちると、視線をタバサから決闘へと移した。

「いまのでお終い? もっと歯ごたえがあると思ったのだけど、期待はずれだったかしら」

「う、な、何故だ、僕のワルキューレがぁぁっ!?」

にこやかに微笑みながら歩を進める咲夜。ギーシュは半ば恐慌状態に陥りながらも次々にワルキューレを生み出す。

2体目生成、やはりすれ違い様に『分解』した。
3体目生成、今度は頭頂から開きにされた。
4体目・5体目生成、手足を切り飛ばされて地面に転がった。
6体目生成、盾を持たせた。無駄だった。
7体目生成、槍も持たせた。2体目よりさらに細かく『分解』した。

何故だ、何故だ。適当に痛めつけて降参させるつもりだったのに。
なんでワルキューレがこんな風にばらばらになるんだ。自分はとんでもない相手に喧嘩を売ってしまったんだろうか。
そんなギーシュの葛藤には関係なく、咲夜は歩み寄ってくる。
顔は微笑んでいる。白い肌、銀色の髪、蒼い瞳。ギーシュのお眼鏡にかなうほどの美人だと今更ながらに気づく。
だが目が笑っていない。あんな目は今まで見た事がない。自分は何をされるんだろうか。
ワルキューレのようにバラバラにされるんだろうか? そんなのは嫌だ。怖い、怖い、怖い怖い怖い――――
ギーシュの表情が恐怖一色に染まる。身を一歩引こうとしたその瞬間、首筋にちくりとした痛みを感じた。
振り返ればそこには1本のナイフ。咲夜の持っていたものだろう。ただそれは、『何の支えもなく』『宙に浮いていた』。
なんだこれは、あいつはただの平民じゃないのか? まるでこれは……魔法じゃないか。
理解不能な事象にギーシュの思考が一瞬真っ白になる。そして気がつけば、咲夜に胸倉を掴み上げられていた。

「ま、まいっ……」

パァン!

空気が破裂するような音と共に、ギーシュの頬が張り飛ばされた。
周囲が唖然とする中、返す手の甲でもう一度張り飛ばす。往復ビンタである。

「ちょ、ま」

パァン!

ギーシュに二の句を告げさせず、往復ビンタが繰り返される。
手首のスナップを聞かせ、右に左に打ち据える、
途中ギーシュが何かを言いかけるが無視する。

「お」

パァン!

また何かを言いかけたようだが、こうなると中々手が止まらない。
10回、20回と繰り返すうち、流石にこれ以上は不味いのではないかとルイズが咲夜を止めに入った。

「さ、サクヤ! もうギーシュは参ってるわ! もう止めて上げなさいよ!」

「あら、でもまだ『参った』って言葉聴いてないわよ?」

笑みを崩さずに繰り返される往復ビンタ。そろそろギーシュの頬が餌を詰め込んだリスのようになって来る。
喋る暇も無く打ち据えられているのだ、参ったと言えるはずがない。

「『参った』と言う言葉が出せない以上、決闘をやめるわけには行かないものね?
 それにルイズ、身の程知らずにはきちんと身の程を教えてあげないと。
 それこそ、トラウマになるくらいに」

だめだこいつはやくなんとかしないと。
今更ながらにとんでもないのを召喚してしまったと焦るルイズであったが、ルイズでは咲夜を止められそうにない。
何か方法がないかと頭を高速回転させ……地面に落ちた薔薇を見つける。ギーシュの杖である。
それを拾い上げ、咲夜に突きつけた。

「ほら、ギーシュの杖! もうとっくにこいつは杖を手放してるわ! この決闘は貴方の勝ち!
 だからもうその手を離しなさい! いいわね! ねえ皆!」

「仕方ないわねぇ。……ギーシュ君だったかしら、これからは言いがかりをつけるなら相手を見てからにしたほうが良いわよ」

ルイズは周囲に同意を求め、全員が頷く。
咲夜が手を離し、ギーシュはようやく往復ビンタから解放されたのであった。
友人の1人が駆け寄り、腫れ上がった頬に治癒魔法をかけ始める。
それを一瞥すると咲夜はその場を後にし、ルイズがそれを追いかける。
その場にいる全員が思った。彼女だけは怒らせるまい、と。




「……ふむ。コルベール君、彼女をどう見るね?」

決闘からここまでの咲夜の様子を魔法によって見ていたオスマンは、傍らのコルベールに問いかける。
コルベールは少し考え、先ほどまでの咲夜の行動を思い返し、口を開いた。

「……彼女は相当に実戦慣れしていますね。まだ実力の10分の1も出していないでしょう。
 一体どれだけの修羅場をくぐればあれほどまでに練り上げられるのか、見当もつきません」

「なるほど。コルベール君が言うのであればその見立てに間違いはなかろうな。
 ミスタ・グラモンの首の後ろにナイフを浮かせていた技、あれはただの『念力』でもあるまい。
 少なくともワシのみる限り、あのナイフは一瞬でミス・イザヨイの手からあそこまで移動しておる。
 それこそ、まるで魔法のようにな。して、コルベール君。例の件だが……」

オスマンがそう言うと、コルベールは頷いて古い書物と1枚の紙片をデスクの上におき、書物を開く。
紙片には使い魔のルーンらしき紋様が描かれており、開かれた書物にも全く同じ紋様が描かれている。
この書物の名前は『始祖ブリミルの使い魔達』。メイジたちが一般的に使う『系統魔法』をもたらした人物、
始祖ブリミルが従えたという伝説の使い魔の事が記されている書物である。

「ミス・イザヨイのルーンは一字一句寸分たがわずこの『ガンダールヴ』のルーンと同じです。
 これは一大事ですよ、オールド・オスマン!」

「そうじゃな。かの伝説の使い魔はあらゆる武器を使いこなし、一騎当千の武勇を誇ったという。
 じゃが、強い力と言うものは必ずいらぬ厄介も寄せ付けるものじゃ。
 コルベール君、この件、ワシが良いと言うまで他言無用じゃ。良いな?」

「ええ。分かっております。特に王室やアカデミーには知られないようにしなければ……」

コルベールは書物を閉じると、一礼して学院長室より退出した。
オスマンは瞑目し、咲夜の左手に刻まれたルーンを思い浮かべる。

「ワシの代で虚無が蘇るというのか……始祖ブリミルも余計な事をしてくれたものじゃのう……」

溜息と共にそう呟き、部屋の外で待機していたロングビルを呼び戻すべく声を上げた。




その日の夜、咲夜は与えられた私室で休んでいた。
与えられた部屋はルイズの部屋の隣で、丁度空いていた部屋だったらしい。
もっとも、何故空き部屋だったのかは大体見当がつく。あえて口には出さないが。
そろそろ眠りに着こうかとランプに近づくと、誰かがドアをノックした。
ルイズだろうか、1人じゃ眠れないなんて可愛いところもあるものね、と苦笑しながらドアを開けると、
そこに居たのはルイズではなかった。ルイズよりも背が高く、燃えるような赤髪を持った少女。
キュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストー であった。

「はぁい、サクヤ。今日は大活躍だったわね?」

「あら、キュルケじゃない。立ち話もなんだから中に入ったら?
 何にもないところだけど、外よりはマシだわ」

キュルケを招きいれ、テーブルを挟んですわり、向かい合う。
身長は咲夜と同程度であったが、その過剰なまでの色香、そして豊満な肢体は、
彼女から発散される魅力を「少女」ではなく「女性」としてのものに変えていた。

「昼の決闘、見てたわよ。凄かったじゃない」

「まだ本気の10分の1も出してないわ。流石にこういう場所で刃傷沙汰は不味いでしょ?」

「それに最後に見せたアレ。杖もなしにやってのけるなんて凄いわ。メイドじゃなくてメイジだったのかしら」

キュルケは興味深げに咲夜を見つめる。情熱に溢れ、好奇心旺盛。そしてなにより、気が多い。
それが、ここ数日で咲夜が知ったキュルケの性格であった。
そんなキュルケに、咲夜はオーバーに肩をすくめ、苦笑交じりに否定する。

「魔法使い(メイジ)じゃないわね。どっちかというと奇術師(マジシャン)、といった所かしら?」

「中々奥ゆかしいのね。別にとって食おうって訳じゃないわよ。
 ただ知りたいだけ。人間の使い魔なんてほんと今までにないことじゃない?
 そかもそれがあのルイズが召喚した使い魔だって言うんだから、気になってしょうがないわ。
 そう思っていたところにあれでしょう? 韻竜は喋らない、って奴かしら。
 実力者ほど、無闇に力をひけらかさないものよね」

視線にさらに力が篭る。キュルケの二つ名は『微熱』。主に恋愛的な意味で使われることの多い名だが、
どうやら、興味を持った事に対してもそれは適用されるようだ。
咲夜は溜息を一つつくとその場を離れ、チェストの上においてあった差し入れのワインの瓶とグラスを手に取る。
グラスにワインを注ぐと、片方をキュルケ、片方を自分の側に置いた。

「どちらでもないわ。これは本当。ただ種も仕掛けもないだけ。
 貴方達の言うところの魔法ではない、とだけ言っておくわね」

「話す気はない、ということ?」

「奇術師にとって手品の種は命より大事よ。簡単に手の内を明かすわけにはいかないわね」

「……そう、残念だわ。どうやら、それを聞き出すにはまだまだ親密にならないといけないようね?」

等と言いつつも、キュルケはちっとも残念そうではない。
むしろ、さらに好奇心を刺激されたという顔でグラスの中のワインを煽ると、
咲夜へと目配せをする。はいはい、と言いながら2杯目を注ぎ、咲夜自身もワインに口をつけた。

「そういう貴方も中々手強そうね。あのギーシュ君よりも、よっぽど」

「ギーシュなんかと一緒にしてもらっちゃ困るわね。
 私の名はキュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストー。
 そして私の二つ名は『微熱』。情熱と破壊の象徴たる『火』のトライアングルよ。
 いくら貴方でも、一筋縄じゃ行かないんじゃないかしら?」

その燃え盛る炎のような髪を悩ましげにかき上げ、不敵な笑みを浮かべる。
ああ、そういえばあの魔法使いもこんな感じだったわね、と、
咲夜は幻想郷に居る1人の魔法使いを思い出す。
もっとも、身長もスタイルもキュルケのほうが遥かに上回っているが。
トライアングルといえばメイジとしては一流だ。教員のほとんどもトライアングルであることだし、
少なくとも学園ではトップクラスの才能を持つということなのだろう。

「へぇ、ドットではないと思ってたけど、トライアングルとは中々やるのね。
 でも、あまり油断しない方がいいわよ? 世の中にはそんなランクなんて関係無しに、
 一切合財張り倒す非常識な手合いも居るんだから」

「あら、実体験?」

「ええ。人間としては強い方だと自負してたけど、あんな非常識な相手にはちょっと勝てる気がしなかったわね」

その言葉に、キュルケはさらに興味を引かれたようだ。ぐいと身を乗り出し、咲夜に顔を近づける。

「決めた。今夜は貴方とおしゃべりをして過ごす事にしたわ。
 それにサクヤ、ワインなんかを出すと言うことは、最初から長話をするつもりだったんでしょう?」

「まあね。私も聞きたい事がないではないし、とりあえずワインがなくなるまで、ということでどうかしら?」

心底楽しそうなキュルケの言葉に、咲夜は苦笑しつつ返した。
これは今夜は寝れそうにないなぁ。ワインがなくなっても、きっと何処からか新しいのを持ってくるわ、この子。
咲夜のその予想は不幸にも大当たりし、その夜咲夜はずっとキュルケのおしゃべりに付き合わされたと言う。



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