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虚無と最後の希望 Level18


level-18「信念」


「殺せぇ!」

 と、二人が天井が崩れる礼拝堂から飛び出すと、アルビオンの兵士が二人を見つけるなり叫び走り寄って来る。
 攻めていなかった礼拝堂から出てきた、敵だな。
 そんな単純過ぎる考えなのか、ワルドの咎める声を無視して突っ込んでくる。

「馬鹿者が!」

 杖を向け、迫ってくる一団に風の魔法、ウインド・ブレイクを放った。
 人を跳ね飛ばす強烈な突風、それをまともに受けて数十名が纏めて吹き飛ばされた。

「私はレコン・キスタのワルド子爵だ! 味方すら分からぬとは、この部隊の指揮官は誰だ!」

 声を張り上げ、一遍して睨みつける。
 杖を向け声を張り上げる子爵は『怒っている』、それが容易に分かるような『演技』。
 演劇について目が肥えているわけでは無いチーフから見ても、『大根』だった。
 そんな下手な演技ではあるが、それを見て兵士が動揺し狼狽し始める。

「も、申し訳ありません!」

 兵士を掻き分け、焦りながらも前に出てくる男。

「このような間違い、私で無かったら今頃お前は魔法で殺されていたぞ」

 怒り心頭の子爵に恐れを為しての行動。
 やはり兵士を纏めて吹き飛ばした事が効いているようだ。

「……まぁいい、司令部は今どこにある?」
「まだ城外に……」

 脅すような物言い、真実は隠れていても今はレコン・キスタに所属する者。
 子爵が言うように、他のメイジだとしたらこの隊長は間違いなく殺されていただろう。
 それだけ隔絶した存在の差、それは熱いものを触り、意識せず瞬間的に手を離すような。
 脊髄反射的に頭を下げる、貴族と平民と言う型枠に嵌められ、それから抜け出す事が非常に難しいものとなっていた。
 地球人類の有史以上に長く続く、この貴族格差が骨の髄まで染み込んでいるかのようだった。

「しっかりと見よ、そうして気を付けるのだ」
「は、はい!」

 許してやる器量を見せる、元より構ってやる必要も無いので先へ進む。
 数十数百のもアルビオン兵士とすれ違う、城へ向かう者達と、城から出る者たち。
 後者のワルドとチーフはニューカッスル城の門を悠々と後にする
 城内中庭と変わらず、チーフに視線が注がれるがたいした事にはならないので放って置く。
 縦に大きく、横にも大きい全身緑色と黒の、顔の大部分に明るい橙色を付けた存在に目が行かないわけが無いが……。

「ワルド子爵でしょうか?」
「ん? ああ、そうだが……」

 そうして目標が居るだろう司令部を探し歩み進んでいれば、前方から走り寄って来るマントを羽織ったメイジ。
 ワルドとチーフを一遍した後、話しかけられた。

「閣下からワルド子爵に言伝を預かってまいりました」
「閣下から……? 聞こう」
「『子爵の報告を今すぐ聞きたいのだが、余にも色々やらねばならん事がいくつもある。 すまないが、天幕を用意したので余の手が空くまでそこで休んでいてくれたまえ』、との事です」
「……確かに」
「こちらです、付いてきてください」
そう言って背を向け、歩き出す伝言役のメイジ。

「……怪しいな」

 そう小声で呟く子爵、やはりすぐに目標の達成は出来ないようだ。



 歩く事十数分。
 指定された天幕、そこの前まで案内される。
 周囲には同じく幾つもの天幕が張られていた。

「それでは失礼します」
「……ああ」

 踵を返し、歩き去るメイジ。
 見送らず視線だけで周囲を見渡し、天幕の中に入る。
 チーフもそれに続き、中に入る。
 子爵はそれを確認した後杖を取り出し、ディテクト・マジックを唱え、魔法による盗聴や盗見が無いか探る。
 光が収まり、目や耳が無い事を確認した後杖を収める。

「……どう思う」
「時間稼ぎ、縫い止める目的もあり得る」

 何のために、と言う疑問があるが。
 推測、憶測でしかないがここは敵地であり、こちらの行動がばれている可能性もある。
 子爵の裏切りも疑惑もまだ晴れては居ない、何らかの意図があると注意して掛かる事は決しておかしくない。

「通常ならば、重要な報告はすぐにでも通されるのだが……」

 何かある、今現在の状況は勘ぐっても不思議ではない状態だと言う事だと子爵は言う。
 攻城戦が終わり、城内への進行、城に潜む王党派の殲滅戦へと移行していると言う状況。
 戦争は既に終わりに近い、消化試合にも似た戦闘。
 今の状況なら子爵の報告を耳に入れても良い頃合なはず、それをしないとなると……。

「……天幕の中に居るのは危険か」

 奇襲、それもあり得る。
 過ぎたる警戒か、損をする訳でもなく怠る理由もない。
 天幕の入り口、垂れ下がった幕を腕で押す。
 空は雲一つない蒼、晴天が広がっている。

「……周囲からの奇襲か」

 張られた天幕相応、何人もの兵士たちが忙しそうに走り回っている。
 その中でこちらに向けられている視線は無い、覗いているという可能性もあるが、見える範囲にワルドとチーフを見ている者はいない。

「天幕に入った瞬間にでも魔法を放てば良いものを……、何故そうしないか……」

 処分する気なら子爵が言った通り、天幕に入るのを見計らって何らかの、殺傷力の高い魔法を放てば終わる。
 チーフならばエネルギーシールドがあり、キャパシティ限界まで身に入るダメージを無効化するが。
 少なくとも子爵なら怪我を負い、死に至る可能性も十分過ぎるほどあった。
 それをしないとなると、何らかの狙いがあるのかもしれない。

「……考え過ぎかも知れんな」

 警戒するに足るかと言う疑問、そんなものなど必要なく、警戒し続けるのが当たり前。
 当面の目標はレコン・キスタの指導者クロムウェルの捕獲、それが不可能なら排除と言う手段をとる事になっている。
 だが今現在はニューカッスル城から一キロも離れていない平原の天幕、クロムウェルの居場所も掴んでいないためにまともに動けない。
 現在の状況を鑑みて選ぶ、ここは大人しくしているべきだと。






 そうして30分と言う予想以上に短い時間の内に命令を伝える、先ほどと同じメイジが伝令として天幕を訪れた。


「失礼します、閣下からワルド子爵への言伝を預かってまいりました」

 そう言って優雅に一礼するメイジ。
 それを取り成し、子爵も礼を交わす。

「何かあったのか? 閣下は随分と忙しいのだろう?」
「閣下は『天幕では何分休みにくかろう、落としたニューカッスル城に部屋を用意してあるので、そこで休んでもうしばらく待っていて欲しい』との事です」
「……君は」
「すぐに案内役を遣しますので、その者に付いて行ってください。 それでは失礼します」
「待ちたまえ!」

 と子爵が制止を掛けるが、伝令のメイジは意に介さず立ち上がって天幕から出て行った。

「……なんだ、今の伝令は」

 子爵が不満の声を上げる、確かにそう言う感情が湧き出るかのような行動。
 まるでただ伝令を伝えるだけのような、子爵の言葉が全く聞こえていないかのような感じが見受けられた。

「………」

 杖を取り出し、ディテクト・マジックを唱える子爵。
 魔法の目や耳が無いか調べ、そうして問い掛けてきた。

「……どう思う?」
「おかしい、何らかの異常があるのかもしれない」

 まるで人形のよう、淡々と命令された事をこなす機械のような印象を受けた。
 だが、実際の伝令はどこからどう見ても人間にしか見えない。
 この惑星で科学技術、機械技術など無きに等しい。
 そこで代用、と言うわけではないがガーゴイルなどの魔法人形なのかとも思ったが、動きの端々に人間臭さが見えた。

「……何か有ると思った方が良いか」

 だが普通ならば子爵が呼び止めた時に足を止め、何かあるのか聞くだろうが完全な無視。
 何らかの理由で出来るだけ早く戻らねばならないにしても、子爵に一言断れば良いはずだ。
 聴覚不全などの者を伝令として使う訳もないだろう、そうして考えるとあの伝令役のメイジは『どこかおかしい』。
 少しずつ積み重ねられる異常、不安感を煽るには十分なもの。

「従わぬのは拙いか、だが素直に付いていくのも……」

 何が有ろうが無かろうが、行くしか方法は無いだろう。
 とりあえず天幕の外に出る。
「本当にそれしかないのか……、そこの君!」

 子爵が頭を上げ、走る兵士を呼び止めた。

「君! 司令部がどこにあるか分かるかね?」
「司令部……ですか、自分ではちょっと……」
「知っている者はここら辺にいないかね?」
「部隊長なら知っていると思いますが、今は城内に……」
「……そうか、行って良いぞ」
「失礼します」

 敬礼をして走っていく兵士。
 子爵が次に呼びつけたのは、先ほどの兵士より装備が充実した兵士。

「そこの者! 司令部がどこにあるか知らないか」
「いえ、詳しい位置は……」
「そうか、行って良い」
「はっ」

 そうして次々に声を掛けるが、一人たりとも司令部の位置を知らない。
 中にはメイジも居た、前線に出る貴族は部隊を率いるか、メイジだけで構成された魔法攻撃隊として動く。
 十中八九知らされているはず、しかし誰もが司令部の場所を知らない。

「……どう言う事だ? 何故誰も知らない?」

 子爵の物言いでは知っていて当然と言ったようだ。
 何かがおかしい、浮き彫りになっていく異常。
 不安が過ぎるが、ここはこうだろう、あそこはこうするだろうと言う決め付けは危険だ。
 視野を狭め、自身所か友軍の危険まで呼び込んでしまう。
 そうして決めて行動するのは尚早、求められるのは即応性、臨機応変の対応能力。
 どうしても後手に回ってしまうが、今現在はそれしか選べる選択肢は無いと思われる。

「子爵」

 積もる不安と思案、この状況に対してどう動くか決断を迫られる。
 天幕が並ぶ平原に、走る兵士やメイジの間を抜けてこちらを向いて歩いてくるメイジが見えた。

「……行かねばならんか」

 そうして案内役のメイジを向かえる。
 礼を交わし、案内役のメイジが口を開く。

「こちらです」

 進む案内役に付くワルドとチーフ。
 歩いていく3名をひたすら見る者、走り回っていたメイジや兵士が完全に足を止めて遠のく3人を見る。
 その状態から数分、完全にワルドとチーフの姿が見えなくなって動き出す。
 ゆったりと動き出す者たちの表情は無い、真顔、無表情で動き出して天幕を片付け始める。
 それからものの十分、ワルドとチーフが休んでいた天幕を含む、この一帯に敷かれていた天幕群が完全に消え去った。



 そんな事を知らず、案内されるがまま陥落して一日と経っていないニューカッスル城へと入る。
 ぼろぼろに崩れた城門を潜り、城内に歩を進める。
 一階エントランス、大広間に広がるのは惨状、片付けたのだろう死体は無いが激しい激戦の後が見て取れる。
 床や壁に大きな亀裂や抉れた跡、火の魔法で出来た焦げ目、窪みに溜まる溶けた水、棘が生えたように隆起して激しく変形した床。
 そしてどこに視線を向けても赤いこびり付き、要は生き物の血が飛び散り乾いている血痕。

「………」

 死戦、元より生き残る心算が無かった為の激しい抵抗。
 激戦故か、豪華だったらしい内装も見る影は無い。

「こちらです」

 大広間を抜け、通路に入っても変わりない。
 亀裂や抉れ、魔法行使を確認できる跡、血痕も変わらず残っている。
 それを踏み分け、通路を進み続ける。
 半分以上砕けた階段を上り、上り上り上り、六階、七階、八階と次々と上がっていく。
 折り返す階段を上る事9回、階層にして10階まで上る。

「こちらです」

 低い、と感じる。
 もちろん高低という意味ではなく、チーフが思う低さとは戦闘時に発生する『撤退、退却の成功確率』。
 クロムウェルを捕獲し、アルビオンから逃れる必要がある以上、クロムウェルを抱えて追っ手から逃げ切らなければいけない。
 もしニューカッスル城で捕獲できたとして、どうやって逃れるか。

 隠れるにしても数百数千と探索に人員を導入出来るであろうから、それこそ一時間も持ちはすまい。
 いや、それだけ隠れられれば御の字と言った所だろう。
 見つかり戦う事になっても城の中なので一度に対峙する兵士の数はそこまで多くは無いだろう、だが総数は五桁にも及ぶためにまともに相手には出来ない。

 如何に魔法の不可思議な力で強化されるとは言え、相手に出来る数にも限度はある。
 弾薬にしても魔法にしても、消耗品には変わりなく一日二日で補充、回復できる物でも無い。
 自身が無事に帰還するには最悪、クロムウェルの捕獲ではなく暗殺に切り替えるべきかもしれない。
 またクロムウェルと対談する場所にも因る、案内される部屋なのか、また別の場所なのか。
 場所的に捕獲するか、暗殺するか、どちらの方が最適かを判断しなければいけない。

「ここです、閣下からの御用命があればすぐにでもお伝えしますので」

 一礼、頭を下げて案内役のメイジは下がった。
 子爵は去るメイジには目を向けず、立ったまま数十秒。
 それから動いたにしても鈍重、警戒しているとも取れる動き。
 腰のレイピアに右手を掛け、左手でドアノブをゆっくり回す。

「……何も無いか」

 既に基本と言って良い探知の魔法を掛ける。
 確認した後、大きなため息を子爵は吐いた。
 攻城戦の被害が少なかったのだろう、小奇麗な部屋のソファに座りながら問いかけてくる。

「さて、これからどうする? おそらくは向こうから来ると思うが、そうでない場合は退却の方法でも考えねばならん」

 捕獲か暗殺か、どちらかになって逃げる際に選ぶ選択肢。
 敵陣を抜けて強行突破か、何かしらの乗り物を奪って逃げるか。
 前者はどう考えても無理だろう、戦車(スコーピオン)でもあれば可能かもしれないが。
 そうなると後者、風竜でも奪って飛んで逃げる位しか出来ない。
「……だろうな、とは言えクロムウェルを都合良く捕まえられるかどうかか」

 尤もだ、皇帝であるクロムウェルにはスクウェアクラスの護衛が複数ついているだろう。
 捕獲するとなると護衛を排除しなければならない、スクウェアともなればドットスペルでも容易くで人を殺せる。
 子爵と同レベルのメイジである可能性が高い故、魔法を使う前に排除が必要になる。

 そうなるとより暗殺の方が確実に思える。
 しかしながら皇帝であるクロムウェルが持つ情報も捨て置く事は出来ないだろう。
 状況に応じて決めるしかない。

「待つか、そうする他手はあるまい……」

 違いなく、二人はそれ以外に選ぶ選択肢は無い。
 それしかない故に止まる、ワルドはソファに座りっぱなしになり。
 チーフはチーフで立ったまま、会話一つ無くただ時間が流れる。
 息苦しいとか、雰囲気が悪いなどではなく、二人とも一定の緊張を保っているだけに過ぎない。
 ここは敵地であり友好を深めると言う場所でもない、そうして時間が流れて一時間を過ぎた辺りに事は動いた。

「……反応が6」

 唐突、近寄る影の一つも無くただ時間が過ぎるだけであったこの場所に近寄ってくる反応。

「左右の通路から3ずつ」

 その声にワルドは頭を上げ、チーフを見る。

「こちらに近づいてきて、移動速度を緩めた」

 どう言う事か、なぜ移動速度を緩めるのか。
 またその6と言う数は何なのか、何故左右に分かれてくるのか。
 答えは確信に近い。

「………」

 ドア近くに立つチーフはワルドを見る。
 すばやく背中のアサルトライフルを右手に取り、左手にはハンドガンを取った。
 そしてそのハンドガンの銃口を子爵へと向けた。

「……そう取るだろうな、君がそう思ったならやれ。 不安材料を抱えたまま逃げるのも厳しかろう」

 立ち上がり険しい表情の子爵、持っていたレイピアを手放しチーフの足元へ放る。
 魔法発動媒体である杖を放り投げるのは、今の現状命の放棄に近い。

「………」

 礼拝堂の時と同じ、覚悟があるのだろう。
 右手のアサルトライフルを背中に担ぎなおし、左手のハンドガンも下ろす。
 足元に転がるレイピアを拾い上げ、柄を子爵へと向け差し出す。

「それは自分が判断すべき事ではない」

 最先任上級兵曹長<Master Chief Petty Officer>たるSPARTAN-Ⅱ-117に求められるのは『戦闘能力』。
 罪過を決める事ではなく、敵を打ち砕く武器となる事。

「罪を裁いて欲しくば生き残れ、罰を受けたくば生き残れ」

 マスターチーフははっきりと、ワルドだけに聞こえる声でそう言った。


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