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mission 12「Cross Sword」


 戦争が始まろうとしていた。
 神聖アルビオン共和国への、ゲルマニア・トリステイン連合艦隊による侵攻だ。
 王軍だけではなく、各貴族の諸侯軍もこれに加わる予定で、多くの傭兵も稼ぎ所と見てこれに参加しようとしていた。
「あん? おめぇらはいかねぇのかよ」
「先約があってな。詳しくは言えないが、今回の戦闘中に他の場所で行動を起こさなくてはならない」
「おいおい……まさかアルビオンに付くんじゃねーだろうな?」
 知り合いの斧使いがぎょっとしたような表情で尋ねてくる。そんな筈があるか、とスコールは軽くいなす。
 スコールとアニエスが参加しないのは、確かに先約があるのが理由で間違いない。
 ラグドリアン湖の精霊にして、今現在G.F.となっているラグドリアン。彼女(彼?)からの依頼である指輪の奪還は、連合軍に加わっていては自由な行動が制限され果たすのが難しくなってしまうのだ。
 故に、スコール達は戦況を見極め、実際に戦闘が始まった後皇帝を急襲する。連合軍から見ると手柄をかすめ取ろうとしているようにも見られるかも知れないが、側面援護も兼ねるのだから勘弁して欲しい。
(それに俺たちの襲撃で皇帝を討ち取る訳にもいかない。そんなことをすればアルビオンの全戦力が俺たちに向けられてしまう)
 逆に皇帝の命が無事であるならば、その命を守るために防備を厚くして追撃は手薄になるだろう。そうでなければ逃げ切れない。
 ラグナロクで撮影した帝都周辺の地理と、城の形を思い浮かべながら思考を続けていたスコールへ、別の方向から声がかけられた。
「久しぶりじゃのう、ミスタ・レオンハート」
「……どこかで会いましたか?」
 首をかしげながらスコールはその老人に尋ねた。


 数分後、ぶつぶつ文句を口に乗せながらその老人――オールド・オスマンはくたびれた椅子に腰を下ろしていた。
「全く……そりゃあ君にとってワシらはあまり良い印象など無いじゃろうが、あの言い方はあんまりというモノじゃ」
「済みません……前話したG.F.の影響で、気をつけていないとすぐに忘れてしまうんです」
「難儀なシロモノじゃのう……」
 無論、嘘である。いくら何でも半年でそこまで影響は出ない。忘れていたのはスコール自身の不注意によるものだ。ちなみに、スコールがこの手で言い逃れをするのは二度目である。
「ところで、オールド・オスマン。依頼ですか?」
 わざわざ挨拶のためにこの老人がここに来るとも思えない。だからこそ、カウンター席からテーブル席に移る際にアニエスにも声をかけていた。
「うむ。実は、届け物をして欲しくてな」
 ぴら、と一枚の便箋がテーブルの上に置かれる。すっとそれを手元に寄せるアニエス。
「手紙……? ……我々は運搬屋ではない」
 キッと眉がつり上がる。
「いやいや、そう怖い顔をするな。ワシとてそれぐらいは心得ておるが、なにぶん送る場所が問題での。今の状況、正規の手段でアルビオンに手紙を送っても、届くかどうかは非常に疑わしい」
「アルビオンに?」
 オールド・オスマンの話はこうだった。
 以前雇っていた秘書が、故郷に残してきた妹が心配だというのでレコン・キスタが統一したところでアルビオンに帰ってしまったらしい。
 だが、そうなってみて気づいたのだが、その秘書はとても有能だったようで居なくなってから仕事が大変になったのだそうだ。
「でだ、何とか戻ってきて欲しいので手紙は書いたのじゃが、今度はそれを届ける手段が無くてのぉ」
 なるほどな、と納得する。
「トリステイン、ゲルマニアの連合軍が攻め込んで今日明日にも再び戦場になるかも知れん国に手紙を届けるとなれば、やはり戦場のプロに頼むのが筋というモノじゃし……君らは、もっとるんじゃろう? 赤い竜のフネを」
 ぴくん、とスコールの眉が跳ね上がり、アニエスも気を張る。
「ご存じで……?」
「少々調べれば判る事じゃ。鶏の骨も君たちを有効活用しとるようじゃしの」
 まぁ実際、自分たちを頼ってきた事情もわかったし、成る程、確かに依頼の内容は自分たちに頼むのが最も効率が良いだろう。しかし……
(鶏の骨……マザリーニ枢機卿だったか?)
「オールド・オスマン、俺たちは枢機卿から依頼を受けた事はありません」
「ほっほっほ。別に直接に依頼を受けずとも、自分が誰かに利用されていることなぞよくあることじゃよ。例えば、女王を救出してみたりな」
 酒場の喧噪がやけに大きく聞こえる。
 不意打ちではあった。だが、それに対しての対応は既に決めていた。
「救出……? 俺たちが、そんな大きな事を?」
「かくさんでも良いじゃろう? 大変名誉な事じゃ」
「そんな名誉なことが……一介の傭兵である俺たちに出来ますか」
「ふー……何が何でも口は割らんか」
 軽くため息を口にして、安酒を口直しとでも言わんばかりに口元へ運ぶ。
「いや、すまんのう。実は、わしの依頼があったのも事実じゃが、今日わしをここに送り込んだのは鶏の骨での」
「……そうですか」
 いつか王宮からの使いが来るとは思っていたが、こんな形で接触してくるとは。
「わしが君と初めて会った一人という事で、話が来てな。君の真意を確かめたいと」
「俺の真意、と言われても」
「枢機卿は不審がっているのじゃよ。君が名誉も金も欲しがらないでいることをな」
「俺が得られるものでもありませんから」
 頑なに返答を拒み続けるスコールに、オスマンは可笑しそうに笑う。
「ふふふ、用心深いのう。それなら君の『推測』だけでも良いから、わしに教えてくれんか?」
 それはつまり、ここで真意を語れと言うことか。
「女王陛下を助け出した男は、何故その事について王宮へ何の説明もせず、またその事を手柄にしようとしないのか? そして何故、女王陛下を助ける際に使った力を駆使してのし上がろうとしないのか?」
(女王を助ける力……一番の不審はそこか)
 確かに、メイジ数名がかりの誘拐犯を、それより少ない数の平民が倒してしまったのでは不審がられて当然かも知れない。いつその力が自分たちへ向けられるのかと。
(下手な回答は出来ないな)
「それは……きっと、その場に自分が居たと認識して欲しくないんでしょう。地位も名誉も金も、そして何よりも貴族から要らない不興を買うのも求めていないから、その一件に自分は関わっていなかった事にしたい。
 何故関わっていなかった事にしたいかは判りませんが、そういった所じゃないですか?」
「うむ……貴重な意見、感謝する。それでは依頼の件も一つ宜しくな」
 アニエスと顔を向け合い、軽く頷いて確認を取ると依頼を受ける旨をスコールは発した。


 物資をラグナロクに積み込んで、西の浮遊島へ。高々度からの実見と地図とを見比べながら、旧サウスゴータ領の森の中に着陸。シティオブサウスゴータへ。
「ここか……?」
 便箋に記された住所に立っているのは、酒場だった。
「どうも……な」
 アニエスが首をかしげながら辺りへ軽く目配せをする。
 貴族のいる学院の秘書の実家としては、余りにも立地が悪い。スラム街と言っても良いくらいに、辺りにはならず者が目に付く。
「ともかく、ここの住人に尋ねてみるしか無い。入ろう」
 スコールが促し、二人で酒場へ入る。
「おい、まだ準備中だぜ」
 店主らしき男が、鬱陶しそうにこちらに目を向ける。
「手紙を届けに来たんだが、ここにロングビルという女性はいるか?」
「は、うちは俺一人だ。何かの間違いだろ」
「緑髪のメイジらしいんだが」
「……しらねぇっつってるだろ。ほら、出てけ出てけ。店の邪魔だ」
 店主によって払われる手に従い、酒場を後にする。が、すぐに店の方へ視線を向けつつ頭を寄せ合う。
「……知っているな」
「ああ。ロングビルという名に心当たりは無いようだったのが気になるが、緑髪のメイジは関わりがあるようだ」
「ロングビルというのは偽名か?」
「そうらしいな。ますます怪しくなってきたが……」
「おい、てめぇら」
 そんな二人の相談に水を差す声が入る。
「さっきからこそこそと何やってやがるんだ」
 ずらりと並ぶのはいかにもかたぎでは無さそうな男ばかりずらりと8名。要するに、この辺りを縄張りにしている連中だろう。
 こいつらをのすのは簡単だが、面倒なことになるのは間違い有るまい。さりとて真っ正面からのまともな話し合いで解決するかも疑わしい。
「……逃げるか」
「そうだな」
 ダッと男達と反対方向へ一気に駆け出す。
「な!? 逃がすな!」
「ブリザガッ!」
 後を追おうとする男達との間、道を塞ぐ形で氷柱を出現させる。
「うお!? め、メイジか!?」
「だが杖を持ってないぞ!」
「じゃ、じゃあエルフか!?」
 地上と違って、ビッグスとウェッジの訪れていないアルビオンでは擬似魔法はほとんど普及していないらしい。
「ふん、今時擬似魔法も知らん田舎者がっ」
 完全に出鼻をくじかれた形のちんぴら共を尻目に、ダッと二人は一気に路地を駆け抜けた。


「なんだいありゃあ……」
 道のど真ん中に聳える氷柱に、彼女は呆れと驚きの顔を浮かべる。風と水の……トライアングルでも居たのだろうか?
 村ではなかなか手に入れられない布や調味料などを買っての帰り道。馴染みの酒場に顔を出す。
「まだ準備ちゅ……ってあんたか」
「ああ。何なんだい? あの表の氷」
「あんた何かへましたのかい? あんたを捜してた奴だぜ、あれをやったのは」
「な!?」
 トライアングルクラスのメイジが、自分を追っている? 余りの事実に息を飲む。
「ロングビルって緑髪の女を捜してここまで来たとか言ってて、名前は違ったが、ここに出入りしてるので緑髪なのはあんたぐらいだし……」
「ロングビル!? まさかあたしの事を言ったんじゃないだろうね!」
「まさか! 適当にあしらっておいたさ! けど気をつけてくれよ。おまえさんは有名すぎるんだ。下手に足が付いたら俺まで一緒に首くくられちまうんだ」
 そこまで言うと、店主は声には出さず口の動きだけで女を呼んだ。『フーケ』と。
「判ってるよ! けど、ロングビルか……」
 トリステイン魔法学院。あそこに務める際に、そういえばここに住所を指定していたんだったかと思い出す。
(まさか、秘宝を盗んだのがあたしだとばれたのか……?)
 結局使い方が判らずに、二束三文で手放すこととなってしまった『破壊の鎌』。
 確かにあれが盗まれる前と後で、学院に出入りをしたのは自分だけだろう。だが退職したのは盗んでから一月近く経った後で、もう誰も秘宝のことなど思い出そうとしていなかったはずだ。
(ちっ……拙いかもね……)
 どうせなら全く関係の無い街にでもしておくべきだったのかも知れない。いや、しかし、それでは妹達への仕送りが出来なくなっていた……。
(遅かれ早かれこうなる運命だったって言うのかい! ちくしょう!)
 内心で毒づきながら、フーケは意を決する。対処しなければなるまい。追ってきた連中を、街中で始末してはダメだ。どこか、他の場所で消さなければ。
「そいつらの人相は?」
「男と女の二人連れ。女の方は金髪で軽鎧、剣を下げてる。男の方は茶がかった黒で額に傷、鎧なんかは付けてねえくせにやけに刃の広い剣をぶらさげてたな」
 簡単に頭の中でその姿形を思い浮かべることに成功すると、酒場を飛び出しもうじき夕焼けに染まる町並みに身を投じた。


 フッとスコールは視線を元に戻す。
 先程追ってきていたやくざ連中は完全に撒き、さぁこれからどうしようかという時。視線を掠めたのは、緑色の髪。
「? どうした」
 不思議そうに相棒が尋ねる。
「いや、今一瞬緑色の髪が……」
 また見えた。
「! あれは……あれがロングビルか」
「見つけたのか?」
 その後ろ姿を追っていくスコールを、更にアニエスが追う。
 人並みに隠れそうになるその髪の色を必死に追いかけていくうちに、人並みはまばらになり、建物の数も減っていき、明らかに街の外に出て……。
「おい、明らかに走っているぞあれは!」
 既に雑木林と言ってもいい位に辺りには木が茂っていた。
「何だか、誘き出されている気分だ……」
 だが、一体何故あのロングビルらしき人物が自分たちを誘き出す必要があるのか? これではまるで……
「なぁレオン、私たちが彼女から狙われる理由に心当たりはあるか?」
 ゆっくりと足を止めつつ、二人は愛剣の柄に手を伸ばす。
「いや、無い」
 なのに、何故こんな巨大なゴーレムが進行方向上に、しかもロングビルが従えているように立っているのだろうか。
(ジャンクションを整えている余裕はない)
 既に戦闘状態である。
「あのゴーレム、材質は土か?」
 ジャコッとスライドを引きつつスコールは呟く。
「そのようだな……あの大きさで土? まるで土くれのフーケだな」
 土で出来ているのなら、現状の装備でも何とかなるだろう。
「ウォータで支援してくれ。こっちは水属性のG.F.で攻める」
「了解だ!」
 巨大な槌のように振り下ろしてくる腕の範囲から散開して避け、アニエスは剣を掲げる。
「ウォータ!」
 ゴーレムの右肘目掛けて放たれた魔法が、土を泥にして流し始める。だがそれは、ゴーレムの巨体から見れば微々たるものだった。流れる先から地面の土を補充して修復して行き、振り上げるのは左腕。
「ファイガ!」
 炎を叩きつけた衝撃で拳を遅くさせつつ、再び狙いから体を外す。
「レオン、まだか!」
「この間イフリートばかり使ったせいでへそを曲げている! あと10秒!」
「ちっ……ウォータ!」
 今度は足を、特に今再びアニエスを狙うために体重を移動させつつある左足に叩き付ける。足諸共、地面までが泥と化して流れ、ゴーレムは完全に足下を掬われた形になりその巨体が倒れ込む。
「期はのがさん! ウォータ!」
 腕を突き、立ち上がろうとするゴーレムの、その腕をピンポイントで狙う。泥化して流れ出し、その自重もあってずぶずぶと泥に腕が沈む。
「G.F.召喚!」
「来たか!」
 スコールの声を聞き、一気に離脱を計る。
「リヴァイアサン、大海嘯」
 長く束ねられた水が宙を割って現れ、カッと光が収縮すると、龍の様なリヴァイアサンの体が形成されていた。
 そのリヴァイアサンが天への飛翔を見せると、それに引きずられるようにスコールの眼前、起きあがろうとしているゴーレムとの間の地面から岩が迫り上がっていく。
 ようやく立ち上がったところでゴーレムの前でリヴァイアサンの体が爆ぜ、大量の水が滝となってゴーレムの体にぶち当たる。
 土が水で流され、泥と化してその体が崩れていく。かき集めるべき土も、辺りの木ごと、文字通りの根こそぎで流されていく。
「……やったか!」
 水が流れきった後、ある程度の土の塊が泥に覆われて残っていたが、動く気配は見られなかった。
「ロングビルは?」
「ギリギリまで操っていたのなら、そう遠くには行っていないはずだが……」
 辺りの気配を探っていると、ばちゃっと泥の跳ねる音がする。
「しまっ……く!」
 空が茜から紺に変わっていこうとする暗い空の下、だが木々が流されて開けたこの場所には残照が差し込む。そんな朱に染まった人影が木々の間に走っていく。
「待てッ!」
 慌ててその後ろ姿を追う。
「あんたがロングビルなのか!?」
 その背に向かって呼びかけるが、いらえはない。
「くそ、なんで逃げる……!」
 悪付きながらも、走りやすくするためにライオンハートを収めようとしたところで、上方で動きを見た。咄嗟に刀身を横に構えた所へ、斬檄が打ち込まれる。
 轟っ!
 炸裂音と共にスコールがライオンハートを振り切り、襲撃者は大きく後退する。
「剣に……爆発!?」
 スコールがあの構えでトリガーを引くとは思えない。ならば、撃ったのは?
「ガンブレードが……もう一振り!?」
「なんで……!」
「あんた!?」
「ったく、帰りがおせえから何があったのかと様子を見に来てみれば、厄介な奴に追われやがって……」
 トントン、とガンブレード、ハイペリオンの背で肩を叩きながら、ロングビルの方を向く。ボロボロの白のロングコートを身に纏い、金髪が短くそろえられたその額には、スコールと同じような傷が刻まれている。
「サイファー!」
「サイファー!?」
 ロングビルとスコールの声が重なる。
「久しぶりだな、スコール」
 懐かしい幼なじみへと、サイファー・アルマシーは顔を向けた。
「サイファー、あんたもこっちに来てたのか」
 斬檄を避けきれなかったか、左頬から血を流し、驚愕の表情でスコールはサイファーを見る。
「サイファー、あんたの知り合いかい?」
「ああ。ガキの頃からのライバルって奴だ」
 シャッとハイペリオンの切っ先がスコールへと向けられる。
「……通りで訳のわからない強さだったわけだよ」
 苦虫を噛み潰したような表情でロングビルは呻く。
「さぁ、それじゃあスコール。久々に手合わせ、願うぜ」
 サイファーの右手がハイペリオンを真っ直ぐにスコールへと向ける。頬に流れた血を、グローブの甲で拭い、スコールもライオンハートを構え直す。
「……良いだろう」
 サイファーが独特の構えから一気に踏み込み、再びハイペリオンとライオンハートが火花を散らす。
「サイファー、あんたここで何してるんだ!」
「何、夢よもう一度、ってな。ロ~~~~マンティックな夢を、また追いかけてるのさ!」
 前にもどこかで口にしていた言い回しを口にするサイファーに、スコールは表情を歪ませる。サイファーの夢、というと
「夢……? ハルケギニアにも魔女が居るのかっ?」
 ライオンハートを一気に押し切り、スウェーバックから再度斬りかかってくるのに逆袈裟で切り払う。
「まぁ! 魔女じゃなくてメイジなんだが……今度は、風神や雷神に心配かけることも無いさ!」
 二人同時にトリガーを引き絞り、その反動で再び鍔迫り合い状態から離れる。
「メイジか。あんたは、使い魔になったんだな」
 そのスコールの言葉にいささかムッとしたようにサイファーは怒鳴り返す。
「使い魔じゃなくて騎士だ! 俺は! ……その口ぶりじゃ、お前は違うみたいだな、スコール!」
 サイファーの突きを切り払い、こちらも返す。
「あんた風に言うなら、もう俺はリノアの騎士だ! 他の誰かの騎士になろうとは思わない」
「フン、そうかい!」
 スコールとサイファー、扱っている武器は双方共にガンブレードだが、その得物は大分特徴が異なっているようだ。
 スコールのライオンハートはどちらかというと重さで斬るバスターソードの類に近く、サイファーのハイペリオンはレイピアのように突きにも使える様だ。そしてそれぞれの特徴を生かしつつ、双方とも高レベルの剣戟を繰り広げていた。それは良いのだが……。
 知り合いと斬り合いを始めてしまったスコールに、アニエスは頭を抱える。
「おいレオン! 依頼を忘れたのか!?」
 答えがない。完全に斬り合いに没頭しているらしい。
「まったく……!」
 仕方なく、とりあえず自分は依頼の対象に向かう。
「!」
「おい、逃げるな!」
 再び駆け出すロングビル。しかし今度はずっと近い。これならば
「ドロー クエイク!」
「う、うわぁぁぁあああ!?」
 ロングビルからドローした魔法でもって、その足を止める。地面が大きく揺れ動き、四つんばいに這い蹲らざるをえなくなったロングビルを、アニエスはようやく捕まえた。すぐさま杖を取り上げて投げ捨てる。
「何で逃げる!」
「そっちが追ってくるからだろう!?」
「そっちが逃げるからだ!」
「逃げるに決まってるじゃないか!」
 水掛け論になりかけたが、その言葉にアニエスは眉を顰める。
「……なんで逃げるに決まってるんだ」
「? ……だって、あんた達はあたしを捕まえに来たんだろう」
「……お前まさか、ホントに土くれのフーケか?」
「知らないで追ってたのかい、あんた達はっ!」
 言ってから、ロングビル――フーケはハッとした顔で口を押さえた。
「あのゴーレムからまさかとは思っていたが、本物か。女だったとはな」
「あんただって女だろうに……」
 バツが悪そうにじと目で睨んでくるのを小さく笑う。
「ふ、最近はそうやって揶揄されることも少なくなったな……」
 少し懐かしくなる。腰から包帯を取り出し、フーケの両手を後ろ手に縛る。
「確認するが、お前がトリステイン魔法学院学院長秘書のロングビルで合っているのか?」
「ああ、そうだよ。半年前に学院の宝物庫から秘宝を盗んだのもあたしさ!」
 やけっぱちになったようにそう叫ぶ。
「ああ……そういえばそんな噂も有ったな」
「それも知らなかったのかい……」
 がっくりと首を降ろす。
「バカな奴だ。私たちが用があったのは、ロングビルであってフーケではない。ロングビルとして大人しく私たちと話していれば、こんな事にならずに済んだというのに」
 呆れたようにため息を付きつつフーケを引っ張り上げる。
「ロングビルに……? あんた達ホント一体何の用だい」
「私たちはただお前宛の手紙を預かっているだけだ。相棒が持っている。あちらに戻るぞ」
 フーケの腕を掴みつつ、先程の地点に戻ると、相変わらずスコールとサイファーは剣戟を繰り返していた。
「いい加減に止まれ! レオンハート!」
「サイファーに言ってくれっ!」
 その剣戟にしっかり応じているのはお前自身だろう、とアニエスはため息を付いた。
「ハハハハハ! そうだ! 俺の守る魔女を狩りに来たスコール、スコールと幼い頃からの知り合いの俺! その二人の運命的な戦いに口を挟むな女ぁっ!」
「お前の所のあの男、一体何を言ってるんだ?」
「あたしに聞かないどくれよ。あたしとしてもあいつの扱いには困ってるんだから」
 投げやりにそこいらの地面に視線をやるフーケ。やれやれと首を振り、アニエスは手を掲げる。
「メテオ!」
 残り少ない強力な擬似魔法だが、バカ共を止めるのにはこれぐらいするしか無さそうだ。
「くっ!」
「うおっ!」
 ジャンクションで守られている双方、やはりこれくらいでは倒れないが、完全に注意はこちらに向いた。
「アニエス、ここまでやるか……」
「邪魔をするな!」
 不満げにアニエスへ顔を向けるスコールと、怒鳴るサイファー。
「私はいい加減に止めろと言ったんだぁっ!」
 そんな二人の間につかつかと歩いていって、左手のアッパーでサイファーの顎を、右手のストレートがスコールの頬を打っていた。


 サイファー・アルマシーがハルケギニアに来たのも、スコールとほぼ同時期だったようだ。召喚主を守る使い魔。そこに自身の目指していたモノとの共通点を見いだして、サイファーは使い魔になったらしい。
「だから、使い魔じゃなくて騎士だって言ってるだろう」
「……何なんだこの男のこだわりは」
「小さい頃からの夢だったそうだ。好きに言わせてやってくれ」
 相棒のうんざりとした声に、そう返す。
(あの第二次魔女戦争のうち、サイファーに関してのことは、ラグナも原因に一枚噛んでるんだよな……)
 あんなスタッフもロクに居なかった映画、ラグナが役者のバイトを引き受けていなければ、存在していなかったかも知れない。そうなればサイファーの夢だって全然別のモノになっていただろう。
 一体何が原因で何が起こるかなど判らないものだなとスコールは首を振った。
「ライバルだと言っていたが、それだけか?」
 顔をさすりながら並んで座るスコールとサイファーは、相対照の額の傷もあって何だか仲が良さそうにアニエスには見えた。
「同じ孤児院の出で、同じガーデンに所属していた幼なじみだ」
「ほぉ……ではお前もSeeDなのか?」
 アニエスが尋ねると、サイファーは露骨に嫌そうな顔をした。
「……サイファーはまだSeeD試験に合格していないから、SeeDじゃないんだ」
「ふん、下らない試験で俺のことを評価しようとするな」
 不機嫌そうにそっぽを向くサイファーにちらりと目をやってから、スコールは立ち上がってアニエスに耳打ちをする。
(あれで結構気にしてるんだ。余り刺激しないでやってくれ)
(お前も気を使っているようだな……)
「マチルダ、その手紙、なんて書いてあるんだ?」
 話題を逸らそうとしてか、ぶっきらぼうにフーケにそう尋ねる。というか
(ロングビルにフーケ、マチルダ。一体いくつの名前があるのやら)
 これが本名だとは、無論アニエスには知る余地がない。
「例の学院からだよ。もう一度働かないか、とさ。誰が二度と行くもんかい。あんなセクハラ爺の所に」
 ビリ、と手紙を破り捨て、腕を組む。
 手紙を渡された際に縛ってあった包帯は解かれていた。良いのかい? とフーケが尋ねると、別にお前を捕まえに来たわけじゃない、とアニエスはあっけらかんと答え、スコールも無言でそれに追従していた。
「とはいえ、しっかりと手紙を書かれたからねぇ……一応形だけでも整えておかないといけないか。あんた達、今日はサウスゴーダの街の流精邸って宿で泊まってくれないか?
 勘違いして襲った分として、そっちの泊まり賃はあたしが持つし、明日の昼までには、返事の手紙を持たせられるよ」
「流精邸、か。わかった。……ところで、サイファー」
「帰る方法なら、俺もしらねえぜ。帰る気も無いしな」
 ぷいとそっぽを向く。
「ここに来て判ったのさ。きっと俺はあいつの騎士になるために居たんだ。だからかえらねえ」
「いや、その反対だ。俺たちと同じく、こちら側に来ているオダイン博士に聞いたんだが、二年以内に俺たちの世界との繋がりが強くなって強制的に帰ることになるらしい」
「何だと!? そんなバカな!」
 サイファーが焦りの表情を浮かべる。
「あのオダイン博士の推測だ。外れてるとは思えない」
「くそ、何てこった……」
「…………」
 ギリ、と奥歯を鳴らすサイファーにスコールは声をかける。
「約束をしてると良い」
「……何?」
「あんたの、守りたい人と。会う約束をしていたらいい。そうすればきっと、その時を迎えても離ればなれになることはない」
 それは間違いなく、自分も体験した上での経験則。
「俺もリノアと会う約束をしていた。俺は危うく忘れかけていたけれど、彼女がちゃんと俺との約束を覚えていてくれたから、俺はまたリノアに会えた。今度もきっと、リノアと会う約束をしていたから会えるんだと、そう信じている」
 ――また一緒に並んで見よう。
 夢想するのは夜空。SeeD就任パーティ、対魔女戦全任務終了記念パーティ、そしてハルケギニアで初めて見上げた夜空。
「約束、か……参考にさせてもらうぜ」
 そう答えて、ゆっくりと立ち上がる。
「じゃあな。下手すりゃこれが最後かも知れねぇが」
 スコールの脇を通り過ぎ、フーケと共に森の深部へと歩を進める。
「……風神と雷神に、何か伝えておくことはあるか?」
「……もう俺は間違えない、っていっといてくれ」
 背中にかけた言葉に、振り向きもせずにサイファーはそう答えていた。
 その背中をスコールは見送ったが、夜の森故か、その姿はあっという間に見えなくなった。
「良いのか? もう会えないかも知れないのに……」
「サイファーが自分で決めたことだ。嫌々でもなく、他に選択肢がないからでもなく、自分から。それなら止められない」
 懐のカードの束から、一枚を抜き出す。そこに写るのは、不遜な表情のサイファーだ。
「そっちこそ良かったのか? フーケを見逃して。俺としては、サイファーのためにもそっちの方がありがたいが」
「ん……まぁ、少し、な、フーケに共感を覚えたのかも知れない。異世界から来た人間とこうして一緒にいることにな」
「そうか。……?」
 アニエスに頷き返し、スコールは首をかしげた。
「どうした?」
「いや、おかしいと思ってな。フーケ……ロングビルは俺が召喚された時には学院にいた。そしてサイファーも同時期に召喚されたと言っていた。それなら、学院長から俺かサイファーか、後に呼ばれた方に話が行っていなければ変だ」
「……と言うことはあの男を喚んだのは、フーケではない……?」


 隠してあった荷物を回収しての村への帰り道。
「本当に大丈夫なんだろうね。あいつらをあのまま行かせて」
「心配いらねぇよ。そもそもその気なら、まずはとっととお前を役所に突き出してるさ。わざわざ泳がせる必要は無いんだからな、あいつには」
 不満げに尋ねてくるフーケ――マチルダ・サウスゴータに、めんどくさそうにサイファーは答える。
「第一、お前が怪盗フーケだって事にも気づいてなかったあいつらが、村の事なんて知ってるわけ無いだろう」
「なら良いんだけどね……」
「あしたちゃんと手紙を届ければ、これ以上探ってくるようなことも無いし、もし探ってきたとしても、スコールならむしろ庇う立場に立つさ。それについては俺が保証してやる」
「ふん、信頼してるようだね。その言葉、覚えておきなよ」
「ああ、良いとも。あんたが居ない間、誰がティファニアを守ってきたと思ってるんだ」
 そっと、サイファーは左手甲を撫でる。そこには刻まれているのだ。自分が彼女の、ハーフエルフの少女、ティファニア・モードの騎士だという証が。
(強力なG.F.ガンダールヴ。俺があいつの守り手だ)



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