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ゼロの黒魔道士-58


「うぅ……」

ダメだ。体が、動きそうにない。
アンリエッタ姫は、なんとか助けられたけど、ボクはわき腹をやられた。
ボクの体を貫いたのは……杖、なのかなぁ?
エルフ戦で減った体力を回復できてなかったのは痛い。
反撃するだけの力も出ない。
蛍がチラチラ瞬いている。
「相棒!相棒ぉぉぉ!?」
デルフの叫ぶ声が、遠い。
「ウェールズ……ウェールズ……」
お姫様の声は、それよりもさらに遠い。

なんだか、景色も急に遠くなってきた……
声が、出ない。息が、出ない。
ダメだ。言わなきゃいけないのに……
「一緒に来てもらうよ……無理やりにでも、ね」
このウェールズ王子は……

偽者、だってことを……!!


ゼロの黒魔道士
~第五十八幕~ 暗闇×沈黙×混乱



ピコン
ATE ~彼女達の背中には~

ルイズの目に映ったのは、風刺画よりも性質の悪い、冗談みたいな光景だった。
地に伏す、自らの使い魔。
壊れたように1つの名を叫び続ける、女王アンリエッタ。
そして、血ぬられた杖を持つ美貌の男、皇太子ウェールズ。

亡国の王子。悲劇の王族。
ウェールズ・テューダー。
思いだされるのは、アルビオンの最期の日。
愛する人の想いを抱き、自ら死地に赴いた悲しき英雄。
ルイズは覚えていた。
その言葉を。その姿を。その気高さを。その強さを。
今目の前にしているその人物は、紛れもなくウェールズの姿であった。

混乱。
アンリエッタとルイズの心境を現すのに、これほど適切な言葉も無いだろう。
何故、彼は生きているのか。
何故、彼はここにいるのか。
何故、彼は倒れたビビに杖を向けているのか。
何故、何故、何故。
脳の中の歯車が疑問符に埋もれ、問うこと以外の動作が一切できない。
彼女たちの身体もまた同様である。

「さあ、アンリエッタ。行こうよ。 僕達の未来へ……」
杖を地に倒れているビビに向けたまま、ウェールズが手を差し伸べた。
さながら、ソリストに合図を送る指揮者といった風情であろうか。
どんな凶行も昔のことと思わせてしまうような、優雅な動き。
導かれるように、アンリエッタがゆるゆると立ち上がった。
疑うことを忘れ、考えることを恐れ、水が低きに流れるがごとくに、ただ彼の言葉に従って。
アンリエッタの目は他を見ることを忘れ、ただウェールズだけを見つめていた。
もう、どうなっても構わない。
従順なまでの家畜が牧童に従うかのごとく、彼女はウェールズの元へと歩き始めた。

と、何かにぶつかり、アンリエッタはそれ以上前へと進めなくなる。
虚ろな瞳で見ていたはずのウェールズの姿も見えない。
「―― 何の真似だい?」
ウェールズがそう問うた。
彼女の目前にある障害物に対してである。
アンリエッタの視界を防いだ何か、
アンリエッタの歩みを妨げた何か、
焦点の合わない瞳でそのモノをアンリエッタは見定めようとした。
桃色の髪。小さな背中。
彼女の数少ない真の友。ルイズの姿である。

「姫さまを……どちらへお連れするおつもりですか?」
ルイズが、気を吐いた。
彼女とアンリエッタを分けた物。
それぞれのウェールズに対する関係、否、それだけでは無い。
ルイズは、これまで幾度となく、『悪意』と対峙していた。
それは、より幼い頃の蔑視の言葉より始まり、
近頃あったアルビオンでの婚約者の裏切り、
小物ではあるがチュレンヌと呼ばれた腐った役人、
そして多くの『悪意』が渦巻くタルブでの戦争行為……
これらに共通して言えること。
それは他者を落とし飲み込んでまでも、自らの利を得ようとする『欲』の悪しき発現。
対象は金銭や領土であったり、あるいは単なる優越感であったのかもしれない。
いずれにしても、ドロドロにねとついた『欲』による『悪意』に、ルイズは接してきたのだ。
それらのときと同じ感覚を、今ルイズは感じていた。
純粋な愛などでは決して無い黒く蠢くような『欲』と『悪意』。
例えるなら、寒気。
嫌悪感に起因するものだろうか、氷水を頭からかぶるような寒気を感じていた。
その感覚が、ルイズを目覚めさせた。

違和感である。
わずかな時間しか会ったことのないウェールズであるが、このような『悪意』を出す人物では決してなかった。
ルイズはその点に違和感を感じていた。
アンリエッタを、女王陛下を、彼女の友を、こんな『悪意』にさらして良い理由があろうか。
答えはもちろん、否、である。

「先ほども言わなかったかい? 『僕達の未来』へ、さ。虚無の子よ」
「!」
ルイズは、確信する。
学科ではそう悪い成績ではないルイズだ。
「……ウェールズ殿下……どこで、私が『虚無』、だと?」
「!!」
しかし、できることならば、気付きたく無かった。
それが、いかなる真実に繋がろうとも。
「―― レコン・キスタに、通じてらっしゃいますね?」
ルイズを『虚無』と知るのは、目の前のアンリエッタを初め、ごくごくわずかな友人だけだ。
しかし、例外は存在した。
   『君には『虚無』の力が眠っているんだ。そう、間違いなくね』
ワルド。
レコン・キスタに通じていた、かつての婚約者。
彼はルイズを『虚無』と信じて疑わず、その力を集中に収めんと襲いかかった。
つまり、彼女を『虚無』と知る、あるいは信じているのは……

「―― だとすると、どうするかなッ?」
最後の言葉がスタッカートのように短く切られると同時、ウェールズの杖が風をまとって襲いかかる。
風魔法の近接攻撃の要、『エア・ニードル 』だ。
ビビの腹を貫いた魔法の刃。
「ッ――『錬金』っ!!」
応えるのは、ルイズの『失敗魔法』。
呪文は、何でも良かった。短ければ短いほど。
どうせなら『解錠』の呪文の方がより短くて良いのだが、アレは『成功してしまう』。
今、『確実に失敗』できる最短の魔法は『錬金』ぐらいだった。

「―― ッ!……なるほど。 頭も度胸もあのときと同じ、いやそれ以上か」
狙い通り、ルイズの魔法は『失敗』し、ウェールズの杖は『爆発』に巻き込まれる。
発せられた感嘆符とは裏腹に、ウェールズの顔には驚きは無く、むしろ快楽の笑みが浮かんでいた。
「姫さま! 下がっていてくださいませ! 私がお守りいたします!!」
ルイズは、一度背後のアンリエッタを振り返る。
呆けた顔。知性も何も無い、混乱の淵に佇むばかりの顔。
今すぐにでも、頬でもひっぱたいて目を覚まさせてやりたいところだった。
それが、女王陛下の臣下の、いや幼少よりの友達である者の務めだからだ。

だが、それは今はできない。
王女から視線を地面へと向ける。
深く深く息を吐いて整える。何を臆することがあろうか。
自分は幾度も覚悟を決めていたではないか。
『相手に後ろを見せないのが貴族よ!』
長く長く息を吸って覚悟する。何を迷うことがあろうか。
『おそれながら姫さまに、私の『虚無』を捧げたいと思います』
何度も夢見た『貴族らしさ』を、今、見せずしてどうするというのだ。

「別に危害を加えようってわけでは無いんだがなぁ……一緒に来てくれないかい?」
誰かに守られるだけの、情けない背中が嫌と言っていたのは誰だ。
自分より小さいのに大きな背中を、ただただ見続けるだけだったのは誰だ。

「僕達の未来を、理想を、共に築こうじゃないか」
今、目前にしているのはウェールズ皇子の皮をかぶった敵。
悪意と欲を隠そうともせず、平然と笑っている敵。
大切な姫さまを誘拐しようとしている敵。
ビビを……自らの使い魔であり友達であり憧れの存在を傷つけた敵。
彼女はビビにはなれない。彼女は何があっても彼女だからだ。
だが、憧れても良いではないか。小さくても、大きな背中に!

「さぁ、どうだい?虚無の子よ。 僕とアンリエッタと共に……」
「いい加減にしろよなコノヤロー!!!!!」
ビビがいつだったか教えてくれた、『勇気の出る呪文』。
それが必要なのは今だと感じ、思いっきり相手を睨みつけて叫んでやった。
もう後戻りを考えることは許されない。
何故なら、彼女のその小さな背中には。
「……残念だよ。虚無の子よ」
守るべき友達がいるというのだ。何を迷う必要があろう?
素早く唱えられる詠唱を頭から引っ張り出して矢継ぎ早に唱え始める。
今は、守ってくれるビビも、キュルケも、ギーシュすらもいない。
これは、その背中に負うモノを賭けた、彼女の戦いなのだ。
 ・
 ・
 ・
「――『錬金』ッッ!」
「二度も効かないさ!!」
彼女は、それを遠くから眺めていた。
『彼女』とは、アンリエッタのことである。
身体は事の真正面にありながら、彼女はそれを遠くから眺めていた。

(――夢だ。夢なんだ)
彼女は、想う。
想うことしかできない、か弱い存在だからこそ、想う。
これは事実ではない、いつか終わる夢の中にまだいるのだ、そう想おうとする。
「『ファイヤ・ボール』!!」
「こっちも爆発か!器用だね」
最も親しき友と、最も愛しい人が争っている?
そんなバカな話があってたまるか。

(――起きれば、アニエスが叱るんだ。『また寝坊ですか』って。それでまた退屈な公務の始まり。うん、きっとそう)
アンリエッタは、文字通りの箱入り娘、籠の中の鳥だった。
王女となってから、積極的に戦災地に赴いたりはしたものの、
臣下の尽力により、際立って凄惨な現場を目に入れずに済んだ。
だから、彼女はまだ侮っていたのだ。
闘いというものの現実を。
どこかの舞台の上で繰り広げられる芝居と同じように、絵空事のように感じていたのだ。
だが、今目の前で繰り広げられている事実は、ハリボテの剣や光の錯覚を利用した偽物魔法の応酬では無い。
本物の殺陣。互いが互いを傷つけあおうと牙を剥く、本物の戦い。
その圧倒的な現実に、アンリエッタは目を背けた。
友と恋人が殺し合うことから、虚ろなままの瞳を背けた。

(――お人形さん?)
背けた先にも、また現実。
倒れたままのビビの姿が、そこにあった。
だが、空虚に満ちたアンリエッタの双眸には、それがただの人形としか映らない。
(――昔、人形遊びをよくしたかしらね)
逃げた思考の行く先は、幸せだったあの頃へ。
何も悩むことの無い、無垢だった幼少の頃へ。

小さい頃の、自分の顔が浮かぶ。
お化粧に憧れて、自分でもやってみようと母の口紅を持ちだして、顔中真っ赤にした鏡の中の顔。
小さい頃の、ルイズの顔が浮かぶ。
『私、いつでもずっと、姫さまといますわ!』と今と変わらぬ胸を張って答えた誇らしげな顔。
『まぁルイズ、うれしいわ!』
そう言って、彼女はルイズを抱きしめた。

『姫さま……私、きっとすっごいメイジになって、姫さまをお守りいたします!』
その誇らしげな顔が、浮かぶ。浮かんで、消えない。
彼女は、想う。想い出す。
ルイズの優しさを。強さを。いつだってアンリエッタのために力になってくれた彼女を。
出会ったばかりの頃の、共に遊んだ頃の、
身代りになってくれた頃の、手紙を取り返してくれた頃の、
全てのルイズを想い出す。
(―― 私は ――)
目の前の人形を見る。
彼女のために傷つき、倒れた人形の姿を。
(―― 私は ――)
人形の姿が何かと重なる。
それは件の、凱旋式の少年だ。
必死にブンブンとその小さな両手を振り回して歓声を挙げていた貧民の少年。
(―― 私は ――)
アンリエッタは、想う。想うことしか、できないから。
何故、彼がああも手を振っていたのかを。
(―― 私は ――)
アンリエッタは、想う。想うことが、できるから。
彼は、決して何かを求めて手を振っていたのではないということを。
(―― 私はッ!!)
虚ろな瞳が、現実をとらえる。
身体と意識の歯車が、音を立てて噛み合った。

凱旋パレードの少年は、何かをして欲しくて、
加護を求めて手を振っていたのでは無いということを彼女は知る。
凱旋パレードの少年は、ただ自分が『ここにいる』ということを、
ただそれを伝えたくて手を振っていたのだと、彼女は知る。
凱旋パレードの少年は、一人でもアンリエッタを応援するから、
安心して欲しいと願って手を振っていたのだと、彼女は知る。

彼女を守ろうと、安心させようと、差し伸べられた多くの手。
なんと守られてばかりであろうか。
なんと弱いのであろうか。
そんな脆い彼女を守ろうと、ルイズは一人戦っている。
アンリエッタは、想う。
想うことしかできないから。想うことができるから。

「――い、いたたた……え、あ、あれ?お姫さま……?」
「あ、相棒、無事だったかぁ~!!」
急いで紡いだ呪文は、彼女のために働いてくれた人形を回復させる。
「――えっ!?」
「―― アンリエッタ、君かい?」
ルイズとウェールズの動きが止まった。
そびえる、水の障壁。
アンリエッタの次いで唱えた呪文が、
ラグドリアン湖の水を借りて、透明な壁を争う二人の間に築いたのだ。

「――もう、止めて。ルイズ……これは、命令です」
「そ、そんなっ!?姫さま!?」
アンリエッタは、想う。
想うことしかできないから。想うことができるから。
彼女の背を守る多くの手があったことを。
「そして、ウェールズ……ごめんなさい。貴方にも、退いて欲しいの。お願い……」
「―― 君を連れずには、帰れない」
アンリエッタは、想う。
想うことしかできないから。想うことができるから。
彼女の背は、今まで何も負わず、よりかかる一方であったということを。
「では――私だけをお連れください。彼女達を傷つけないで」
「お、お姫さま!?」
「おいおい姉ちゃんそりゃねぇだろ!?」
アンリエッタは、想う。
想うことしかできないから。想うことができるから。
その背中で守るべき物が、守れる物があるということを。

「――それで、僕が納得すると?」
「貴方を嫌いになんて、絶対になれない。でも……彼女達が傷つくのはこれ以上見られません」
アンリエッタは、水の壁を解除してウェールズに歩み寄った。
その手に持った杖を、薄汚れたローブの奥にしまって。
そして、ウェールズが構えた杖を自らの喉元に押しあてた。
「妥協してくださらないのなら、私は……自ら死にます」
そう、真剣な眼差しで告げた。

愛する人が、何故ルイズと争わねばならないのかは理解しきれない。
だが、想い人が行ったことなのだ。何か事情があるのだろう。
その事情が、己の身で済むならば安い物ではないか。
アンリエッタはそう決意した。
万が一、ウェールズに殺されたとしても、それはそれで納得がいく。
どうあっても、アンリエッタは彼を愛していたし、愛しているのだ。
「なるほど――しょうがないな」
ウェールズが、慎重に杖を退きながら、アンリエッタの身体を抱きとめる。
安堵の息をもらすアンリエッタ。
「そんな!?」や「待って!」と叫ぶ背後の守るべき者達。
これでいいのだ、アンリエッタはそう自分を納得させていた。

「―― やはり、障壁はちゃんと潰さないとな!!!」
退かれた杖に代わり、予備の杖を用意していたのか、反対の手から新たな風が巻き起こる。
驚愕に見開かれるアンリエッタの眼。
杖を取りだす時間は、無い。
「ウェールズ!?」
「さようなら、だ!虚無の子らよ!!!!」
何1つ、守れないと言うのだろうか。
彼女の弱い背中では、何1つとして守れないというのだろうか。
アンリエッタが、悲鳴をあげようとする……

「お別れには早いと思うよ?」
悲鳴を上げそうな口を覆うキスのような、優しい声が聞こえた。
前からか?後ろからか?
その懐かしい声は、方向も分からない場所から聞こえてきた。
「ッ! 何者だ!!」
ルイズやビビに向けられた杖を、強引に真上へ向けて放つ、ウェールズ。
「ふんっ!!」
巻き起こる風が、二つ。
それらの力はほぼ等しく、
空中でつばぜり合いをするように激しい風を誘発させながら、
やがて散り散りに爆ぜた。

「名乗るほどの者じゃないさ。うーん、そうだなぁ……」
ふわりと、声が舞い降りた。
『フライ』の魔法だろうか。
軽やかに優しく、その人物は地面に立った。
青を基調とした船乗りの装束によく映える、金髪。
何よりも、その優しく煌めく蒼い瞳。
「――名乗る代わりにこう唱えよう。
       『風吹く夜に』!!!!」
高らかに、杖を構えてその男は立っていた。
幽霊では無い証拠に、透き通りもせずその足でしっかりと。
「僕の大事な人を返してもらおうか   偽者め!!!」


ウェールズが、2人。
やっぱり、夢の中の出来事なのだろうか。
アンリエッタの頭は壊れそうなほど混乱した。


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