次回予告
「バルカだよーん。ルイズ思いつめすぎちゃって空回り。それじゃワルド子爵にも相手にされないよ。気楽にいこうぜ、アミーゴ!」
「ルイズ、負けないで!」
「GP-16 子爵ノホンネ
――GO ON!!」
「バルカだよーん。ルイズ思いつめすぎちゃって空回り。それじゃワルド子爵にも相手にされないよ。気楽にいこうぜ、アミーゴ!」
「ルイズ、負けないで!」
「GP-16 子爵ノホンネ
――GO ON!!」
ウェールズ・ケガレシア達は、結婚式会場でルイズ達の登場を待っていた。
神父役・ウェールズがブリミル像前で静かに待っている。
ケガレシア達とキュルケ達は2つの長椅子に分かれて座っていた。
「このような晴れ舞台なのだから礼装を着ないかね?」
そう一同はウェールズに質問されたが全員やんわり断った。
戦争の準備で忙しいようでここにいるのはこの7人だけだ。ウェールズもこれが終わったらすぐに向かうという。
「ミス・ケガレシア」
「何でおじゃるか?」
「もう1つ貴女達に頼みたい事がある。……ラ・ヴァリエール嬢の事を頼んだ」
ウェールズがケガレシア達に授けたのは、自分には叶えられない願い。彼女達に自分と同じ思いはさせたくないと。
神父役・ウェールズがブリミル像前で静かに待っている。
ケガレシア達とキュルケ達は2つの長椅子に分かれて座っていた。
「このような晴れ舞台なのだから礼装を着ないかね?」
そう一同はウェールズに質問されたが全員やんわり断った。
戦争の準備で忙しいようでここにいるのはこの7人だけだ。ウェールズもこれが終わったらすぐに向かうという。
「ミス・ケガレシア」
「何でおじゃるか?」
「もう1つ貴女達に頼みたい事がある。……ラ・ヴァリエール嬢の事を頼んだ」
ウェールズがケガレシア達に授けたのは、自分には叶えられない願い。彼女達に自分と同じ思いはさせたくないと。
――GP-16 子爵ノホンネ――
(……落ち着くのよ)
深呼吸しただけなのにルイズはかなり体力を消耗した気がした。
(……とにかく状況を確認しないと)
まず早朝部屋を訪問してきたワルドに叩き起こされ、次に突然「今からウェールズ皇太子に君と僕の結婚式を~」と言われ、意味不明のまま朝食を食べていたらキュルケ達から「おめでとう」と言われ、城内の礼拝堂までワルドに強引に連れて行かれ、新婦の冠を頭に乗せられ、何が何だかわからないうちに制服の黒いマントを外され花嫁用の白いマントを羽織わされ……。
……そしてブリミル像前で正装したウェールズの前でワルドの横に立たされて、現在に至っているというわけだった。
(……落ち着くのよ)
周囲を見渡すと、参列客としてキュルケ・タバサ・ギーシュ・ケガレシア・キタネイダスがいる。
キュルケ達はどうも今のこの状況に疑問を抱いていないらしく、吹っ飛ばしたくなってくる。
一方ケガレシア達はこんな状況での結婚式に不満こそ抱いていても、疑問は感じていないようだった。ただしその表情を見る限りこの式には何かしら裏があるのだろう。
(……ちょっと待って……、落ち着くのよ、ルイズ)
現時点での最優先事項は「現状把握」及び「対応策の検討」だ。
まず現状把握。
(もうすぐ結婚式……。新郎はワルド……、新婦は私……)
この状況に対してどう対応するか。
(……どうしよう)
何もかも突然すぎて考えをまとめられないが、とにかく自分がワルドと結婚させられそうになっている事はわかる。
(ワルドと結婚……)
幼少時にはぼんやり幻想を抱いているだけで、単純な憧れと言ってよかった。しかしいざこうして結婚に踏み切らされると……。
(……ワルドと結婚)
少なくとも昔はワルドの事が好きだった。今も少なくとも嫌いにはなっていない。
(でも今すぐ結婚してもいいと思えるほどじゃないわ。一人前のメイジにもなってないし、今は自分1人の幸せよりもケガレシア達に協力して目的を達成する方を優先するべきよ。それにワルドに抱いている気持ちは結婚とは違う気がする。だから……)
深呼吸しただけなのにルイズはかなり体力を消耗した気がした。
(……とにかく状況を確認しないと)
まず早朝部屋を訪問してきたワルドに叩き起こされ、次に突然「今からウェールズ皇太子に君と僕の結婚式を~」と言われ、意味不明のまま朝食を食べていたらキュルケ達から「おめでとう」と言われ、城内の礼拝堂までワルドに強引に連れて行かれ、新婦の冠を頭に乗せられ、何が何だかわからないうちに制服の黒いマントを外され花嫁用の白いマントを羽織わされ……。
……そしてブリミル像前で正装したウェールズの前でワルドの横に立たされて、現在に至っているというわけだった。
(……落ち着くのよ)
周囲を見渡すと、参列客としてキュルケ・タバサ・ギーシュ・ケガレシア・キタネイダスがいる。
キュルケ達はどうも今のこの状況に疑問を抱いていないらしく、吹っ飛ばしたくなってくる。
一方ケガレシア達はこんな状況での結婚式に不満こそ抱いていても、疑問は感じていないようだった。ただしその表情を見る限りこの式には何かしら裏があるのだろう。
(……ちょっと待って……、落ち着くのよ、ルイズ)
現時点での最優先事項は「現状把握」及び「対応策の検討」だ。
まず現状把握。
(もうすぐ結婚式……。新郎はワルド……、新婦は私……)
この状況に対してどう対応するか。
(……どうしよう)
何もかも突然すぎて考えをまとめられないが、とにかく自分がワルドと結婚させられそうになっている事はわかる。
(ワルドと結婚……)
幼少時にはぼんやり幻想を抱いているだけで、単純な憧れと言ってよかった。しかしいざこうして結婚に踏み切らされると……。
(……ワルドと結婚)
少なくとも昔はワルドの事が好きだった。今も少なくとも嫌いにはなっていない。
(でも今すぐ結婚してもいいと思えるほどじゃないわ。一人前のメイジにもなってないし、今は自分1人の幸せよりもケガレシア達に協力して目的を達成する方を優先するべきよ。それにワルドに抱いている気持ちは結婚とは違う気がする。だから……)
そんなこんなで式が始まってしまった。
扉が開き、魔法衛視隊の制服を纏い剣を帯びたワルド・枯れない花冠と純白のマント姿のルイズが入ってくる。
「では式を始める。新郎ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド。汝は始祖ブリミルの名において、この者を敬い、愛し、そして妻とする事を誓いますか?」
「誓います」
「新婦ラ・ヴァリエール公爵三女、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。汝は始祖ブリミルの名において、この者を敬い、愛し、そして夫とする事を誓いますか?」
「………」
「ルイズ?」
皇太子の言葉に続くはずの誓いの言葉をルイズは口にしなかった。
「ワルド、私あなたとは結婚できないわ」
「……緊張してるんだ! そうだろう、ルイズ! 君が僕との結婚を拒むわけがない!」
「ごめんなさい」
「世界だ! ルイズ、僕は世界を手に入れる! そのためには君が必要なんだ!」
「子爵、君はふられたのだ。潔く……」
突然訳のわからない事を口走ったワルドに、普段の余裕は見えなかった。ウェールズが伸ばした手をはねのけてルイズを睨みつけ、
「ルイズ! 君は始祖ブリミルにも劣らぬ優秀なメイジに成長するだろう! 君の才能が僕には必要なんだ!」
「子爵、今すぐラ・ヴァリエール嬢から手を離したまえ。さもなくば我が魔法の刃が君を切り裂く」
杖を抜いたウェールズの最後通告に、ようやくワルドはルイズから手を離す。
「こうまで僕が言っても駄目なのか! ルイズ! これほど僕が愛しているというのに!!」
「お前はルイズを愛していないでおじゃる!」
「お前が愛しているのはルイズの才能だけなり!」
「そのようなお前と結婚する者などいないぞよ!」
3人の言葉にワルドは顔をしかめ、
「くっ……! この旅で君の気持ちをつかむため随分努力したんだが、こうなってはしかたない! 目的の1つは諦めよう!」
「目的?」
首を傾げるルイズにワルドは人差し指を立てる。
「第1の目的はルイズ、君を手に入れる事! しかしこれは果たせないようだ! 第2の目的はルイズ、君のポケットに入っているアンリエッタの手紙!」
「貴様……、やはりレコン・キスタか……」
「第3の目的……! 貴様の命だ、ウェールズ!」
そう叫んで抜刀と同時に斬撃を浴びせるワルド。しかしウェールズは微動だにせず微笑すら浮かべその一撃を受ける。
「皇太子!?」
本来であれば致命傷を与えるに十分な威力を持って振り下ろされたワルドの剣は、ウェールズの肩口に直撃した瞬間鈍い金属音を立ててへし折れてしまった。
「何だと!?」
「ふふふ……、相変わらず計算がなっていないようですね、ワルド子爵? ……いえ、仮面のメイジとお呼びした方がよろしいですかな?」
ウェールズの姿がぐにゃりと歪み、先程までとは似ても似つかない異形へと変化した。
キュルケ達は見た事も無いその異様な姿に息を飲んだ。そしてワルドは苛立たしげに、ルイズは頼もしげにその男を呼ぶ。
「あの時の鉄仮面っ!」
「ヒラメキメデスっ!」
「申し訳ありませんね、ワルド子爵。ウェールズ皇太子は昨夜のうちに蛮ドーマSPによってアルビオンを脱出済みですよ。あなたの野望と命にはここで潰えていただきます」
鉄仮面……害地副大臣ヒラメキメデスは、余裕の笑みと共にワルドを挑発した。
「巻き添えをくわせるわけにはいかないから、ちょっと離れているでおじゃるよ」
ケガレシアのその言葉と共に、ケガレシア達3人はキュルケ達3人を後方に押す。
よろめいたキュルケ達を受け止めたのは1人の男と2人の少女達だった。
「君はあの時の……!」
「到着だよー」
「お待たせしましたー」
「ルイズ様、王女殿下からの任務は果たせましたか?」
天真爛漫な笑みを浮かべる食い逃げ少女とクドラーフカに、スーツ姿の男。
「一昨日食い逃げしてた……!」
「……クドラーフカ……」
「大丈夫、味方よ」
2人の少女と見知らぬ男を見て驚いたキュルケ達に、ルイズが笑みを浮かべて言い聞かせた。
「くっ、随分用意がいいじゃないか、ミスタ・ヒラメキメデス。物量作戦か? もっとも、その3人がどれほど使えるかは疑問だがね」
「使えますとも。あなたにも奥の手を出してもらいましょうか」
「なるほど、お見通しか。ユビキタス・デル・ウィンデ……」
ワルドの体がゆらめいた次の瞬間に次々分裂していき、本体を含め5人にまで増えた。
「言っておくが、1人1人が力や意思を持っている。つまり5人の私と戦っているのと同じだ!」
「それならやってもらいましょうか」
そう言うと同時に三角形の光弾を発射するヒラメキメデス。直線的な単発の攻撃を標的にされたワルドAは牽制以上の何物でもないと考え軽く回避したが、その考えは覆される。
食い逃げ少女・クドラーフカ・スーツの男が、床を蹴って残る4人のワルド達のうちの3人に飛びかかる。
「何!?」
突然の突撃に一瞬狼狽したワルド達だったが、冷静に襲われた3人が雷撃で迎撃する。 ――バチイッ!!
爆発音と共に全ての電撃が3人に直撃する。しかし負傷どころかひるんだ様子すらなくなおも3人は突っ込んでくる。
自分の攻撃を苦も無く乗り越えてきた3人の姿を見て、ワルド達はその理由を悟った。
3人はそれぞれ、砲台の基部を彷彿とさせる装甲を纏い背中に大砲を背負った少女・左腕が鋭く巨大な鑿と化している少女・両腕が注射針になっているハチじみた機械人間と、正体である蛮機獣の姿を露わにしていたのだ。
「ウグーッ、カノンバンキ!」
「ワフー、ノミバンキですう!」
「チュウシャバンキ!」
「流石だな」
状況は決してよくなかったものの、ワルド達は自分自身に余裕を見せるように笑った。
蛮機獣3体の突撃を受けかけている3人を回避させ、次の攻撃に移る。
(1発の電撃には耐えられても、5発の電撃ならどうだ?)
ワルド達は、カノンバンキに狙いを集中して再度電撃の魔法を放った。さらに言うと、標的を集中させただけではなく可能な限り命中箇所も1点かつ同時になるように狙ってだ。
しかし蛮機獣達はまたしてもワルドの予想を上回った。
ワルド達が発射した電撃を回避したカノンバンキの後方に立つノミバンキが、左腕のノミを前方に向ける。
「くどどん波ですうーっ!!」
数日前に電撃1発で容易に相殺できた破壊光線は、たやすく5発の電撃を蹴散らしてワルドAに迫っていった。
そこでようやくワルド達は気付く。ラ・ロシェールでの攻撃は単に自分達の実力を測っていただけにすぎず、今回は本気だと。
しかし時既に遅し。破壊光線がワルドAの体を貫通する。
次の瞬間、ワルドAは断末魔の絶叫を上げつつ大気に還元されていった。
「残念、ハズレでしたか」
ヒラメキメデスが薄笑い混じりに告げた。
「くっ!」
ワルドが冷や汗を流しつつ杖を振り下ろそうとしたその時、
「ファイアーボール!」
ワルドBに後方にいたルイズのファイアーボールが炸裂してワルドBは爆発四散、残り3人。 しかし状況は決して楽観できるものではなかった。ワルドを倒すためには遍在を含め全員を倒さなければならない。
(カノンバンキさんが離れた場所にいれば、砲撃でまとめて倒せるのですが……)
しかしそれを許すほどワルドが甘い相手ではない事は知っているし、ノミバンキにはその手札自体無い。
……いや、彼女にはたった1枚だけそれを可能にする切り札となるカードが存在した。それ自体に効果は無くてもカノンバンキというカードと合わせる事で一発逆転の大技という手役になるカードが。
「ワフーッ!」
何を思ったか、突然ノミバンキはワルド達から離れ建物の床・壁・天井・調度品を無差別に削り始めた。
みるみるうちに殺風景になっていく室内が削られた物の成れの果てで煙っていく。
「今ですう!」
カノンバンキに叫ぶノミバンキ。
ノミバンキはカノンバンキに思いを託し、カノンバンキはノミバンキの思いに応えたかった。
その思いがカノンバンキに全てを悟らせた。
「ウグーッ! リトルバクハーズ!!」
カノンバンキの砲口から火花が散った瞬間、一面火炎地獄と化す。
粉塵爆発。ノミバンキのノミによって非常に細かい粉末となった建材が空気中に飛散する事で周囲に存在する豊富な酸素と相まって、燃焼反応に敏感な状態になってしまったのだ。
「ぎゃあああああー!!」
ワルドは思わず顔を押さえ魔法をかけて応急処置を行う。一方残る偏在は爆風に飲まれて全滅していた。
「貴様!」
しかしその時、カノンバンキは既にワルドの視界から消えて懐近く入り込んでいた。
「もう立ち上がらないでね……。約束……だよ……」
渾身の砲撃を零距離射撃でワルドに浴びせ、その体を木の葉のように屋外へと吹き飛ばした。
「終わったでおじゃるな……」
ケガレシアがそう呟いたその時、
「貴様ら、許さん!」
声が響いた。ワルドはまだ生きていた。顔も片目も鼻も焼けほぼ全部の四肢が折れてつい先刻の端正な容貌の青年と同一人物とは思えない面相になっていたが、それでもまだ生きていた。
流石はスクウェアメイジ・閃光のワルドといったところだろうか。
「しつこいでおじゃる!」
そう言って鞭を振るおうとしたケガレシアはワルドに接近してくる者の存在に気付き、ワルドは憤怒のあまり自分に接近してくる者の存在に気付かなかった。それが彼勝敗を分ける要因となった。
「でいやあっ!」
ステンドグラスを破って乱入したデルフリンガーが刀身状の鉤爪を一閃、ワルドの左腕は細切れにされた。
「遅いでおじゃるよ!」
そう言いつつもケガレシアの顔にはかすかな笑みが浮かんでいた。
扉が開き、魔法衛視隊の制服を纏い剣を帯びたワルド・枯れない花冠と純白のマント姿のルイズが入ってくる。
「では式を始める。新郎ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド。汝は始祖ブリミルの名において、この者を敬い、愛し、そして妻とする事を誓いますか?」
「誓います」
「新婦ラ・ヴァリエール公爵三女、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。汝は始祖ブリミルの名において、この者を敬い、愛し、そして夫とする事を誓いますか?」
「………」
「ルイズ?」
皇太子の言葉に続くはずの誓いの言葉をルイズは口にしなかった。
「ワルド、私あなたとは結婚できないわ」
「……緊張してるんだ! そうだろう、ルイズ! 君が僕との結婚を拒むわけがない!」
「ごめんなさい」
「世界だ! ルイズ、僕は世界を手に入れる! そのためには君が必要なんだ!」
「子爵、君はふられたのだ。潔く……」
突然訳のわからない事を口走ったワルドに、普段の余裕は見えなかった。ウェールズが伸ばした手をはねのけてルイズを睨みつけ、
「ルイズ! 君は始祖ブリミルにも劣らぬ優秀なメイジに成長するだろう! 君の才能が僕には必要なんだ!」
「子爵、今すぐラ・ヴァリエール嬢から手を離したまえ。さもなくば我が魔法の刃が君を切り裂く」
杖を抜いたウェールズの最後通告に、ようやくワルドはルイズから手を離す。
「こうまで僕が言っても駄目なのか! ルイズ! これほど僕が愛しているというのに!!」
「お前はルイズを愛していないでおじゃる!」
「お前が愛しているのはルイズの才能だけなり!」
「そのようなお前と結婚する者などいないぞよ!」
3人の言葉にワルドは顔をしかめ、
「くっ……! この旅で君の気持ちをつかむため随分努力したんだが、こうなってはしかたない! 目的の1つは諦めよう!」
「目的?」
首を傾げるルイズにワルドは人差し指を立てる。
「第1の目的はルイズ、君を手に入れる事! しかしこれは果たせないようだ! 第2の目的はルイズ、君のポケットに入っているアンリエッタの手紙!」
「貴様……、やはりレコン・キスタか……」
「第3の目的……! 貴様の命だ、ウェールズ!」
そう叫んで抜刀と同時に斬撃を浴びせるワルド。しかしウェールズは微動だにせず微笑すら浮かべその一撃を受ける。
「皇太子!?」
本来であれば致命傷を与えるに十分な威力を持って振り下ろされたワルドの剣は、ウェールズの肩口に直撃した瞬間鈍い金属音を立ててへし折れてしまった。
「何だと!?」
「ふふふ……、相変わらず計算がなっていないようですね、ワルド子爵? ……いえ、仮面のメイジとお呼びした方がよろしいですかな?」
ウェールズの姿がぐにゃりと歪み、先程までとは似ても似つかない異形へと変化した。
キュルケ達は見た事も無いその異様な姿に息を飲んだ。そしてワルドは苛立たしげに、ルイズは頼もしげにその男を呼ぶ。
「あの時の鉄仮面っ!」
「ヒラメキメデスっ!」
「申し訳ありませんね、ワルド子爵。ウェールズ皇太子は昨夜のうちに蛮ドーマSPによってアルビオンを脱出済みですよ。あなたの野望と命にはここで潰えていただきます」
鉄仮面……害地副大臣ヒラメキメデスは、余裕の笑みと共にワルドを挑発した。
「巻き添えをくわせるわけにはいかないから、ちょっと離れているでおじゃるよ」
ケガレシアのその言葉と共に、ケガレシア達3人はキュルケ達3人を後方に押す。
よろめいたキュルケ達を受け止めたのは1人の男と2人の少女達だった。
「君はあの時の……!」
「到着だよー」
「お待たせしましたー」
「ルイズ様、王女殿下からの任務は果たせましたか?」
天真爛漫な笑みを浮かべる食い逃げ少女とクドラーフカに、スーツ姿の男。
「一昨日食い逃げしてた……!」
「……クドラーフカ……」
「大丈夫、味方よ」
2人の少女と見知らぬ男を見て驚いたキュルケ達に、ルイズが笑みを浮かべて言い聞かせた。
「くっ、随分用意がいいじゃないか、ミスタ・ヒラメキメデス。物量作戦か? もっとも、その3人がどれほど使えるかは疑問だがね」
「使えますとも。あなたにも奥の手を出してもらいましょうか」
「なるほど、お見通しか。ユビキタス・デル・ウィンデ……」
ワルドの体がゆらめいた次の瞬間に次々分裂していき、本体を含め5人にまで増えた。
「言っておくが、1人1人が力や意思を持っている。つまり5人の私と戦っているのと同じだ!」
「それならやってもらいましょうか」
そう言うと同時に三角形の光弾を発射するヒラメキメデス。直線的な単発の攻撃を標的にされたワルドAは牽制以上の何物でもないと考え軽く回避したが、その考えは覆される。
食い逃げ少女・クドラーフカ・スーツの男が、床を蹴って残る4人のワルド達のうちの3人に飛びかかる。
「何!?」
突然の突撃に一瞬狼狽したワルド達だったが、冷静に襲われた3人が雷撃で迎撃する。 ――バチイッ!!
爆発音と共に全ての電撃が3人に直撃する。しかし負傷どころかひるんだ様子すらなくなおも3人は突っ込んでくる。
自分の攻撃を苦も無く乗り越えてきた3人の姿を見て、ワルド達はその理由を悟った。
3人はそれぞれ、砲台の基部を彷彿とさせる装甲を纏い背中に大砲を背負った少女・左腕が鋭く巨大な鑿と化している少女・両腕が注射針になっているハチじみた機械人間と、正体である蛮機獣の姿を露わにしていたのだ。
「ウグーッ、カノンバンキ!」
「ワフー、ノミバンキですう!」
「チュウシャバンキ!」
「流石だな」
状況は決してよくなかったものの、ワルド達は自分自身に余裕を見せるように笑った。
蛮機獣3体の突撃を受けかけている3人を回避させ、次の攻撃に移る。
(1発の電撃には耐えられても、5発の電撃ならどうだ?)
ワルド達は、カノンバンキに狙いを集中して再度電撃の魔法を放った。さらに言うと、標的を集中させただけではなく可能な限り命中箇所も1点かつ同時になるように狙ってだ。
しかし蛮機獣達はまたしてもワルドの予想を上回った。
ワルド達が発射した電撃を回避したカノンバンキの後方に立つノミバンキが、左腕のノミを前方に向ける。
「くどどん波ですうーっ!!」
数日前に電撃1発で容易に相殺できた破壊光線は、たやすく5発の電撃を蹴散らしてワルドAに迫っていった。
そこでようやくワルド達は気付く。ラ・ロシェールでの攻撃は単に自分達の実力を測っていただけにすぎず、今回は本気だと。
しかし時既に遅し。破壊光線がワルドAの体を貫通する。
次の瞬間、ワルドAは断末魔の絶叫を上げつつ大気に還元されていった。
「残念、ハズレでしたか」
ヒラメキメデスが薄笑い混じりに告げた。
「くっ!」
ワルドが冷や汗を流しつつ杖を振り下ろそうとしたその時、
「ファイアーボール!」
ワルドBに後方にいたルイズのファイアーボールが炸裂してワルドBは爆発四散、残り3人。 しかし状況は決して楽観できるものではなかった。ワルドを倒すためには遍在を含め全員を倒さなければならない。
(カノンバンキさんが離れた場所にいれば、砲撃でまとめて倒せるのですが……)
しかしそれを許すほどワルドが甘い相手ではない事は知っているし、ノミバンキにはその手札自体無い。
……いや、彼女にはたった1枚だけそれを可能にする切り札となるカードが存在した。それ自体に効果は無くてもカノンバンキというカードと合わせる事で一発逆転の大技という手役になるカードが。
「ワフーッ!」
何を思ったか、突然ノミバンキはワルド達から離れ建物の床・壁・天井・調度品を無差別に削り始めた。
みるみるうちに殺風景になっていく室内が削られた物の成れの果てで煙っていく。
「今ですう!」
カノンバンキに叫ぶノミバンキ。
ノミバンキはカノンバンキに思いを託し、カノンバンキはノミバンキの思いに応えたかった。
その思いがカノンバンキに全てを悟らせた。
「ウグーッ! リトルバクハーズ!!」
カノンバンキの砲口から火花が散った瞬間、一面火炎地獄と化す。
粉塵爆発。ノミバンキのノミによって非常に細かい粉末となった建材が空気中に飛散する事で周囲に存在する豊富な酸素と相まって、燃焼反応に敏感な状態になってしまったのだ。
「ぎゃあああああー!!」
ワルドは思わず顔を押さえ魔法をかけて応急処置を行う。一方残る偏在は爆風に飲まれて全滅していた。
「貴様!」
しかしその時、カノンバンキは既にワルドの視界から消えて懐近く入り込んでいた。
「もう立ち上がらないでね……。約束……だよ……」
渾身の砲撃を零距離射撃でワルドに浴びせ、その体を木の葉のように屋外へと吹き飛ばした。
「終わったでおじゃるな……」
ケガレシアがそう呟いたその時、
「貴様ら、許さん!」
声が響いた。ワルドはまだ生きていた。顔も片目も鼻も焼けほぼ全部の四肢が折れてつい先刻の端正な容貌の青年と同一人物とは思えない面相になっていたが、それでもまだ生きていた。
流石はスクウェアメイジ・閃光のワルドといったところだろうか。
「しつこいでおじゃる!」
そう言って鞭を振るおうとしたケガレシアはワルドに接近してくる者の存在に気付き、ワルドは憤怒のあまり自分に接近してくる者の存在に気付かなかった。それが彼勝敗を分ける要因となった。
「でいやあっ!」
ステンドグラスを破って乱入したデルフリンガーが刀身状の鉤爪を一閃、ワルドの左腕は細切れにされた。
「遅いでおじゃるよ!」
そう言いつつもケガレシアの顔にはかすかな笑みが浮かんでいた。