あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ゼロのロリカード-47


 アーカードは棺桶の中ででひたすら眠り続けた為、アンデルセンと衝突することもなく。
特にトラブルも無いまま、時に休みながらも飛行し続ける。
そしてシルフィードがアーハンブラ城を視界に捉えたのは、丁度陽射し強い昼時であった。
一旦、小高い丘の麓の宿場町からガリア軍の布陣を確認し、作戦を立てる。
町で情報を収集した上で推察するに、敵軍兵士の数はおよそ連隊か旅団規模と言ったところ。

 空に布陣する艦隊はない。
表立った戦争でもないから、艦隊を動かすのは難しかったのか。
或いはエルフの土地が近い為に、刺激しないよう布陣していないのか。
理由は定かではない。哨戒が見当たらないのも不可解であった。
だがどのような理由にせよチャンスであることに、違いはなかった。
シルフィードがいるおかげで、空中から直接アーハンブラ城に乗り込める。
高高度から攻めれば、魔法による哨戒にも引っ掛からない。
完全な不意を突ける分、零号開放するよりもリスクは少なく確実だった。

 情報収集と作戦立案が終わる頃には、既に黄昏時になっていた。
いざ乗り込んで奇襲をかけるべく、シルフィードは五人と棺桶を乗せて飛行する。


 アーカードは精神を集中する。
(ふ~む・・・・・・)
主のピンチに使い魔の視覚が共有されることがある。
かなり前のことだが、アルビオンでワルドにルイズが迫られた時に見えたことがあったのだった。
丁度ウェールズが、ワルドに胸を貫かれる辺りから視覚が共有されたのである。
それ故にルイズの危急に間に合った節もあった。

 もし今、ルイズの視界を得られたのなら、居る位置を探す際の重要な情報となる。
敵戦力や配置がわかるだけで、作戦成功率はグッと高まる。
そのことから、同様にアンデルセンも集中していた。
ルイズにせよティファニアにせよ、その視覚が共有されれば楽になる。
もし別々の場所に囚わているのであれば、尚の事であった。

 しかし二人共その視界には一向に見えない。
それは主人である二人に危機が迫っていないからなのか。
それとも主人と使い魔を繋ぐ筈のルーンが、二人には刻まれていないからなのか。
出来得ることであるならば、前者であって欲しいと願っていた。
もし仮にアーハンブラ城にいないのなら・・・・・・城にいる者を締め上げ、新たに聞き出す。
そして万が一、既に二人の命が無かったとしたら・・・・・・ガリアを滅ぼすだけであった。



 アーカードとアンデルセンは、ひたすら神経を研ぎ澄ませ続ける。
――――――その所為で、一歩、遅れた。
自分達に迫り来る"殺意"に。襲い掛かる"糸"に。
気付いた時には、それを咄嗟に防ぐという行動しか残されていなかった。
アーカードとアンデルセンは他の者に被害がいかないよう、それぞれ糸を掴む。
しかし勢い余って二人はそのままシルフィードから落下する。

 突然の攻撃に驚いたシルフィードがとった回避行動で、さらに全員が振り落とされる。
棺桶も背中から落ちて、シルフィードはそのまま離脱するしかなかった。
シルフィードは作戦を立てていた時のことを思い出す。
ガリア国内から全員が脱出する為にも、自分だけは絶対に傷ついてはいけない。
たった今の襲撃は、アーカードとアンデルセンが何とかしてくれたものの、自分だけではどうしようもない。
全員を空中で拾っても、あの糸のようなものがある限りこのまま飛行を継続するのは困難。
故にこそ自分は、一刻も早くこの場を離れることが優先される。
作戦成功した時に、いつでも、すぐに、全員を回収できるように・・・・・・。


 浮遊感を味わいながら、アーカードとアンデルセンは揃って舌打ちをした。
さらにアーカードは心の中で毒づく。
艦隊がいなかった理由――――――それは必要ないからだったのだ。
ウォルター一人で、十二分に制空圏を取れるのだ。

 だが自分もアンデルセンも神経を集中させていたとは言え、周囲にも気を張っていた。
吸血鬼となり、視力が強化されたアニエスも周囲を見張っていた。
(なのに何故、ウォルターは我々に気付けた・・・・・・?)
しかして時既に遅し、そんなことは最早考えても詮無いことだった。

 アーハンブラ城に直で乗り込めなかったのはまだいい。
だがアンデルセンの存在を知られてしまったのが、何よりも痛かった。
本来であるならば、相手方にとって警戒すべき駒は自分だけ。
当初考えていた作戦は、零号開放で敵軍を引き付け、その隙にアンデルセンが救出するというもの。

 空中艦隊が布陣してないこと、哨戒を担っているガーゴイルや使い魔も見当たらなかった。
それ故に直接乗り込むことを選択したのだが、完全に裏目に出てしまった。
アンデルセンという隠し札は露呈し、警戒も確実に高まる。
このまま地面に降り立ち、零号開放をしたとしても策としては既に死んでいる。

 アーカードは迷う。今この場で、ウォルターを殺しておくべきか否か。
否、倒せるとは限らない。ウォルターが持つ力、ミョズニトニルンは侮れない。
殺すにしても、時間が掛かりすぎる。・・・・・・今は、捨て置くしかない。
それに――――――こうなった以上、次の作戦遂行の為には誰一人として欠けてはならなかった。
零号開放して自分だけが残るという選択肢も最早ない。
そもそも開放したところで、ルイズが戻る確約があるわけでもない。
故にこそ、零号開放は交渉材料として残しておく。
それに・・・・・・アンデルセンが、自分への殺意を抑えられなくなったら困る。
零号開放の瞬間を狙われでもしたら、策がどうのというレベルですらなくなる。

(ルイズに何かあった時は・・・・・・)
まぁ殺すことはないだろうが・・・・・・手足の2,3本でも千切られていたら、いっそ吸血鬼にしてもいいか。
人間としての強さを持つルイズを吸血鬼にするのはあまり気が進まないが、それはそれで面白いかも知れない。
(はてさて、どう転ぶものやら・・・・・・)


 『遠見』の魔法による哨戒網に掛かったので、すぐに空へと上がり強襲した。
自分がミョズニトニルンとガーゴイルで、何日も寝ずに哨戒し続けるのはきつ過ぎる。
なるべく体調は万全を期していたいし、城攻めしてくるアーカードに対して空中艦隊なぞ置いても殆ど無意味。
空中にいるアーカードを堕とすには、自分の糸が最も確実。
故にアーカードが攻めてくる可能性が高い夜中は自分が、昼間はメイジが哨戒する分担であった。

 ――――――本来『遠見』の魔法は、見張り続けねばならない哨戒任務には向いていない。
四六時中魔法を使い続けるには、絶対的にメイジの魔力も足らない。
それを補ったのは、元素の兄弟がトリステインのアカデミーで入手してきた、とあるポーションであった。
虚無の担い手を探す情報収集任務の時に、手に入れたという特殊な効果を持った魔法薬。
副作用として感情を必要以上に高めてしまうが、同時に魔力を増幅させるという。
とりあえず適当なメイジで試験的に使って欲しかったらしく、魔法薬を預けていったのだった。

 結果はなかなかのもの。遠見は高高度までも的確に捉える射程となり、持続力も素晴らしかった。
ポーションの副作用は個人差あるようで、廃人も同然になるものもいれば、ギリギリで崩壊を免れる者もいた。
さらに精神が破壊された者も、別の手で回復させることができた。
それはティファニアが持っていた、先住の水の指輪の強力な治癒効果である。
ティファニアから奪い、ミョズニトニルンである自分ならば容易に扱えた。
おかげで廃人同然になったメイジも、使い捨てることなく任務を継続させることが出来た。


(あっぶねェ~・・・・・・)
ウォルターは堕ちゆく面々を見つめながら、胸中で呟く。
攻撃する瞬間に気付いたが、まさかアンデルセンまでいるとは思わなかった。
アーカードとアンデルセンが共闘するなんて、二人を知っている者からすればありえない。
さらにマチルダもいた上にタバサと・・・・・・もう一人、フードを被った謎の人物の五人。
フードの人物は、最低でもトライアングルメイジクラスの実力者であるのは間違いないだろう。

(にしても二人にとって、それほどまでにルイズとティファニアが大事・・・・・・なのかね)
出会えば殺し合わねばならぬ業、と言えるほどの因縁を持った宿敵同士。
そんな二人が争わず、しかも共に乗り込んできた、今のところ考えられる理由はそれしかない。
そもアンデルセンらにはアーハンブラ城のことは教えてないから、ここにやって来るとすら思わなかった。

 順当に考えれば――――――奇襲のつもりだったのだろうか。
(零号開放をせずに、城に乗り込んで来ようとしたってことは・・・・・・)
アーカードは開放を渋っているのか?
それとも、ルイズの安否を確認するまではしないつもりなのか。
命が一個になったらアンデルセンが殺しに掛かるから、封印しているのか。
もし地面に降り立っても零号を開放しなければ――――――。


(最終手段は・・・・・・使いたくないなぁ)
開放しないとルイズを殺すと脅す。だがそれをやれば心象が最悪になるだろう。
開き直られでもすれば、それは非常に困る。
(それに零号開放させたとして、もしもアンデルセンに先を越されたら・・・・・・)
悔やんでも悔やみ切れない。
アンデルセンにお膳立てした形で、自分が馬鹿を見るだけじゃないか。
ウォルターは葛藤する。交渉するか?ルイズという切り札を使うか?

「う~ん・・・・・・」
思わず声が漏れる。
(本当の本当に最終的には、トリステインに攻め込めばいいんだろうけど・・・・・・)
ガリアとトリステインの戦力差は歴然。戦争をすればその結果は火を見るよりも明らかである。
国を守るにはアーカードという切り札を切る必要があるだろう。その時を狙う――――――。

 そうだ、別に今が最後のチャンスってわけじゃない。
その気になれば、まだまだ機会は十分に作れることは可能なのだ。今ここで焦る必要性はない。
(・・・・・・まっとりあえず、ヨルムンガントをけしかけて様子を見るとするか)
ウォルターは決断すると・・・・・・右手の親指に血を滲ませ、左手をポケットに突っ込んだ。


 突如空から降って現れた、五人の人間と棺桶に、ガリア軍は困惑した。
しかもその内の三人はレビテーションすら使わなかった。
豪快な音と共に土埃を巻き上げ、地面を陥没させ着地したというのに平然と立っていたのだ。
棺桶も破損することなく、地面に突き刺さり立っていて、異様過ぎる状況。
「このまま突っ切るぞ~」
黒い長髪の少女が声を上げ走った。
その言葉に呼応するように、他の四人もそれぞれ走り出す。

 ガリア軍は、ようやくそこで異分子を排除する為に動き出した。
完熟訓練と称して集められた大部隊。
常に完全武装でありながら、今までやってきたのは陣形の確認などばかり。
さらにアーハンブラ城とその周辺に紛れ込んだ者は、容赦なく攻撃せよという不可解な命令も下っていた。
非常に良く訓練されたガリア兵士は、すぐに指揮官の号令に従い、五人の異分子を囲むように布陣し始めた。

 アーカードとアンデルセンが先駆けとなり、敵陣を中央突破する。
少女姿のアーカードは、いつの間にか青年の姿をとっていた。
ヘルシング教授に倣い着ている、赤色のコート。
つばの広い赤い帽子と、サングラスは身につけていない。
少女形態の時よりは短くなったものの、長めの髪の毛を無造作に。
両の手には、カスール改造銃とジャッカル。

 しかし、アンデルセンを殺す為の銃は・・・・・・アンデルセンには向けられてはいない。
そして、化物を倒すアンデルセンの銃剣も・・・・・・アーカードには向けられてはいない。
互いが互いを滅ぼす為の武器は、一つの目的の為に、別の標的を狙う。
アーカードの二挺拳銃とアンデルセンの双銃剣。
微塵の躊躇無く、一片の後悔無く、一切の容赦無く。
ガリア軍兵士達を思うさま蹂躙し、鏖殺し、薙ぎ倒していく。


 ――――――アニエスは近付き攻撃してくる兵士を、的確に斬り裂いていく。
吸血鬼のスペックを有したアニエスを、止められる人間はいない。
血がこびりつき、鋭さを失った刃でも、吸血鬼の膂力で強引に斬り伏せ、刺突で貫いていく。
女だてらに剣士として磨いた技術と、吸血鬼の能力が合わさったアニエスに敵はいない。

 アニエスは思う。
吸血鬼になって、思うさま暴れるのは・・・・・・これが初めてであった。
まだ夕暮れの日があるおかげで、完全に力を出し切れてるとは言い難い。
それでも自分でも怖くなるくらいのその強さに、少しだけ身震いした。
吸血鬼になって、そこそこ時間も経つ。
未だに血液を飲むのは憚られたが、棺桶で眠るのには慣れてしまった自分がいた。

 敵を殺す度に、前方にいるアーカードとアンデルセンを何度も横目に捉える。
自分が強くなって、初めてわかる戦力差というものがあった。
やはりマスターであるアーカードは、血を飲まない己と違って完全な吸血鬼であり、さらにはその年季も違う。
はっきり言って強さは比べ物にならない。夜でなくともまるで関係ないような強さを見せている。

 そしてそれよりも驚くべきは、アンデルセンという男。
アーカードに負けず劣らずの強さを見せている。
聞けば純人間であり、化物退治がその職務の一つらしい。
シルフィードの上で一度だけ睨まれた。その時に内に隠された強さを垣間見て、知らず全身が震え上がった。

 どれほどの研鑽や鍛錬を積み重ねればああなるのか。
そもそも同じ人間でも、別世界であるだけで、こうも搭載されているものが違うのか。
これから闘う敵の一人、ウォルターとかいう男も似たような強さを持っていると言う。
自分は吸血鬼であるものの、それ以上に化物だらけなのが向こうの世界のようだった。


 ――――――アニエスを中心に配し、守られるような形でタバサとフーケは走っていた。
魔力を温存しておく為に、最低限の魔法のみで矢や魔法に対して防御する。
近付く敵は前衛のアニエスが全て斬り倒し、間接攻撃は後衛のメイジ組が対処する。

 そして殿を務めるのは――――――棺桶であった。
無数の手足を生やして、傍若無人に暴れ回る。
あらゆる攻撃をものともせずに、片端から敵をぶちのめしていく様は、非常にシュールな画であった。

 アーカードとアンデルセンは互いに背中合わせになるような形をとっていた。
廻転するようにガリア兵を粉砕し、その路を開いていく。
まるで長年連れ添った夫婦の如く、ピッタリと息の合った連携。
正確にはアーカードがアンデルセンに合わせている。
その為にアーカードは少女から青年へと姿を変えた。その方が背格好的にも、都合が良かった。

 宿敵であるが故に相手の呼吸がわかる。
救出するという目的の為に、最も効率の良い方法を実行している。
こんなような・・・・・・協力して敵陣を突破していくような日が来ようとは、夢にも思わなかった。
アーカードはそう嫌でもなかったが、アンデルセンにとって本来ならば虫酸が走るほどの行為。
だが・・・・・・アンデルセン自身、それほど悪い気はしていなかった。自分でも・・・・・・驚くほどに。

 ――――――アーカードとアンデルセン、二人が生み出す暴力は圧倒的過ぎた。
ガリア軍には恐慌が拡がり、まともな応戦も少なくなってきている。
頭では駄目だとわかっていても、本能が死を回避し、敵前逃亡という選択をさせていた。


 軍としての形すら保てなくなった集団は、烏合の衆と化し・・・・・・。
アーハンブラ城が立つ小高い丘を、あっという間に難なく登り切る。
いよいよ以て入城するという矢先、城の敷地内から跳躍して現れる影があった。
音も静かに着地したのは、天を突く巨人。
落ちかけた夕暮れとのギャップが、より一層の不気味さを醸し出していた。

「ヨルムンガント・・・・・・」
アーカードは確認するかのように呟く。やはり・・・・・・まだストックがあった。
とりあえず一体だけのようだったが、虚無がない以上は脅威以外の何者でもない。
案の定、肩には悠々と立つウォルターの姿。

 アーカードは、どう対処したものかと思考を巡らせる。
拘束制御術式321号を開放して、力押しでもするか。
開放するまでのタイムラグは、アンデルセンが何とかしてくれることだろう。
若しくは、操っているウォルターだけをぶちのめすか。
片方がヨルムンガントを、片方がウォルターを相手にする。
やってやれないことはない筈。

 と、アンデルセンが命令ではなく告げるように口を開いた。

「合わせろ」

 その――――――・・・・・・たった一言だけ。だがそれだけで全てを察した。
以心伝心とはこのことか。アーカードは一瞬驚いた表情を見せ、次いで微笑を浮かべる。

 瞬間――――――無数の銃弾と銃剣が、横殴りする暴風雨の如く、ウォルターへと一斉に降り掛かった。
ウォルターは全霊で糸を編みこみ、何重もの盾でそれを防ぐ。

 その間隙を縫うように、アーカードとアンデルセンは全くの同時に跳んでいた。
今より放たれる攻撃こそ、真の連携。
その位置も、そのタイミングも、ほんの少しでもズレれば・・・・・・ヨルムンガントには通じまい。
しかして寸分違わず完璧な攻撃であるならば。
例え反射が掛かっていようとも。鉄の厚みがどれだけあろうとも。
どんな物だろうとも、突破する。そう確信出来た。何一つ憂いはない。


 アーカードが右腕を弓のように引き絞る。
アンデルセンが左腕を弓のように引き絞る。
二人の腕がビキビキと軋むような唸りを上げる。
内包する力の全てを溜め込み、一点に集約する。

 狙うはヨルムンガントの心臓部分。
アーカードの貫手と、アンデルセンの銃剣が。
刹那のズレも無く、ヨルムンガントへと――――――突き立てられた。
その鉄鎧の表面部分に、反射の光が一瞬だけ輝く。

 何物よりも鋭き、"二つの刃"の重なり。

 螺旋を描くかのように、一つの大きな衝撃となった"刺突"。

 その"窮極の矛"は。

 放たれた――――――聖槍ロンギヌスもかくやというその"一撃"は。

 先住の反射を、鋼鉄の鎧を、その躯を、突き貫く。

 そして巨大な穴を、その心臓部分に穿った。

 アーカードとアンデルセン。
最凶の宿敵同士が組み、放つ"それ"に、貫けぬモノなど存在しない。


   ウォルターは絶句した。
虚無なしに反射が破られるなど、ありえないと。
落ちゆく陽に追従するかのように、機能を停止したヨルムンガントが倒れゆく。

 そして――――――気付いた時には、ウォルターの目前に拳が迫っていた。
破壊し倒れるつつあるヨルムンガントを足場に、アーカードは距離を詰めていた。
防御しようにも回避しようにも、時既に遅し。
アーカードの拳がウォルターに炸裂する。
顔面が粉砕され、首から上が消し飛んだかのような錯覚を覚えた時。
――――――ウォルターは既に、息絶えていた。

 目下の障害を退け、アーカードは少女姿へと変わる。
そして絶命したウォルターを一瞥した。
「・・・・・・ふむ、今ので死んだか」
感じた手応えに少し違和感を感じるも、一応は殺す気で放った攻撃。
しかも完全に無警戒の顔面に叩き込んだのだ、死んだとしても別段不思議はない。

 再生せずに死んだということは・・・・・・ウォルターは吸血鬼ではなく人間、ということか。
聖釘を刺して茨と化したアンデルセンが、人間のままこちらへと召喚されたように。
ウォルターの本質が吸血鬼ではなく人間に近かった為に、人間として召喚されたのか。
それとも無理な施術で吸血鬼になった所為で、そのまま召喚されなかったのか。
理由は・・・・・・わからない。
そもそも召喚されること、それ自体がおかしいので深く考えてもしょうがない。


 それに・・・・・・既に死した者について、考えるのも無駄であった。
ウォルターには気の毒だが、運が悪かったと思って諦めてもらうしかない。
(尤も・・・・・・既に死んでいるから諦めるも糞もない、か)

 いずれにせよ、最大の脅威は消えた。
これでもう、ヨルムンガントにさらなるストックがあったとしても、大した脅威にはなりえない。
あれほどのデカブツを操るのは、ミョズニトニルンの効果あってのものだろう。
仮に使えても、ウォルターなしのヨルムンガント単体であるならば、力押しでも何とかなる。

(残念だったな、ウォルター君。まっ、裏切り者の末路などこんなものだ)
アーカードは死体に語りかけるように、心中で呟く。

 人は死ねばゴミになる、ゴミに弔いは必要ない。

(・・・・・・お前が言った言葉だったな、ウォルター。ばか踊りも今日で仕舞いだ)
少佐のように、零号開放を引き出すには至らなかった。
それに・・・・・・ルイズを攫った時点で、こういう結果になることも予想出来た筈。

 そして今の自分は、自ら進んで他者を喰らい、その身の内に取り込むことはしない。
――――――故に、ウォルターを喰ってはやらないし、このまま野晒しである。
長いようで短いような付き合いだった気がする。だが不思議と何の感慨も湧かなかった。
「さてと・・・・・・」
ここまで来れば、あとは考えていた作戦の一つを実行するのみ。

 アーカードは背後を振り向く。
追いついてきたタバサ達と合流し、一向は夜闇に包まれつつあるアーハンブラ城へと歩を進めた。





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