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ウルトラ5番目の使い魔-68



 第68話
 決闘!! 才人vsアニエス (後編)

 殺し屋宇宙人 ノースサタン 登場!


「決闘のルールは、お前が決めろ」
「どちらかがあきらめるまで、それだけでいい」
 人のいなくなった小さな村の、小さな広場で、アニエスと才人がそれぞれの剣を抜いて、一〇メイルほど離れて身構えていた。才人の左手のガンダールヴのルーンが武器を抜いたことに呼応して輝き、対してアニエスは自然体で、どこからの攻撃にも対処できるように悠然と立っている。
 その二人の姿を、ルイズたちは広場の端からじっと見守っていた。
「どちらも、動かないわね」
「二人とも、相手の実力を知ってるからよ。うかつに手を出せば、カウンターを受けるのはわかっているからね」
 ルイズのつぶやきにキュルケが答えた。魔法にせよ、剣にせよ、人間が扱う武器ということに関しては変わりなく、攻撃した瞬間こそ最大の隙が生まれる。
 確かに、アニエスと才人では剣術の腕に天地ほどの差があるが、才人はそれをガンダールヴのルーンで極限まで高められた運動力と反射神経で補っている。アニエスといえど、至近距離から人間の反射速度を超えた速さで攻められたらかなわないだろう。むろん、それは才人にしても同じで、速いだけで突進しても、剣筋を読まれてやすやす回避されてしまう。
 ロングビルと、彼女に背負われたミシェルも、もはや止めようのない戦いを、息を呑んで、どちらかが動くのを待っている。
「先に動いたほうが、負けるってやつですかね……」
「馬鹿を言うな、隊長はそんなに甘くない」
 誰よりもアニエスの力を知っているミシェルは、この沈黙が長くは続かないということを確信していた。
「こないのなら、こちらからいくぞ」
 最初に動いたのはアニエスだった。しかし、一気に距離を詰めるのではなく、一歩一歩、隙無く構えたままで間合いを詰めていく。才人は心の中で舌打ちし、ロングビルやキュルケはなるほどと思った。これでは、才人の一番の勝機であるカウンターが使えない。
「さすが、小手先の生兵法が通じる相手じゃないな」
 才人は心の中で苦笑して、こうなったら真っ向勝負しかないと覚悟した。どのみち、自分から申し込んだ決闘である以上、逃げるわけにはいかない。二人は、互いの距離が剣先をつき合わせられるくらいにまでなったときに、同時に地面を蹴った。
 その瞬間、才人の裂帛の気合を込めた縦一文字の斬撃と、アニエスの猫のようにしなやかな跳躍がぶつかって、才人の斬撃が空を切ったときに、アニエスの剣の柄が才人の腹にめり込んでいた。
「甘い、隙だらけだ」
 出来の悪い生徒を酷評する教師のようなアニエスの声が流れたとき、才人は嗚咽を漏らしながら、地面にひざをついていた。
 やはり、この人はとんでもなく強い、正面きって戦ったら、その予測は見事に上方修正されて的中し、才人は戦いを挑んだことを後悔はしなかったが、少しでも甘い見通しをしていたことを今更ながらに悔いていた。だからといって、これで終わりというわけでは決してない。
「まだやるか?」
「当然!」
 起き上がって、再びデルフリンガーを構えた才人は、今度は自分から打って出た。右上段に振りかぶって、ガンダールヴの力を振り絞っての突撃は、並の戦士であれば反応すらできなかったであろう。彼は、万一にもアニエスを殺すわけにはいかないと、片刃剣であるデルフリンガーを峰に返しているが、それでも棍棒と同じなのだから、直撃すれば骨の五、六本は砕け散る威力だ。
 が、わかっていることではあるが、アニエスは並の戦士ではない。
「隙だらけだと、言っただろうが!」
 デルフリンガーが広場の地面を掘り返したときには、アニエスは才人の顔面を剣を握ったままの拳でかちあげたばかりか、背後に回りこんで背中を蹴り飛ばしていた。
「痛ーっ……」
 パーカーの前半分を泥で汚して、唇から血を流しながらも、才人は振り返って悠然と自分を見下ろしているアニエスを見上げた。
 どうも、さっき上方修正した評価もまだまだ甘かったようだ。自分は最初から全力なのに、この人は剣の刃すら使っていない。本気を出してないどころか、才人をまともに敵とすら見ていないだろう。
 これならば、宇宙金属の刀や、人間と宇宙人の身体能力の差というハンディがなければ、一人でツルク星人を倒すことも可能なのではなかったのではと才人は思ったくらいだ。むろん、それは彼女が宇宙人ではなく、あくまで人間相手の戦闘のエキスパートであるということを考慮すれば、いささか過大な評価であるのだが、アニエス自身も、宇宙人相手には生半可な実力では敵わないことを知り、あれからずっと鍛錬を欠かさず、その実力はあのときより格段に上がっていた。少なくとも剣を使った戦いでは、テロリスト星人くらいならば圧倒できるだろう。
「どうした、当然まだやるのだろう」
「当たり前だ!」
 三度目はやはり才人のほうが仕掛けた。小細工は通じない、かといって大降りの攻撃が当たる相手ではないならば、こちらも動体視力の全てを駆使して、アニエスの手元を見て、その動きにあわせて小手を狙う。
「さっきよりはましだが、集中しすぎだぞ」
 アニエスが剣を戻して足を振り上げると、剣に視線が集中していた才人の腹に、見事にカウンターの形でキックが入り、またも才人はもんどりうって倒れ、胃液を逆流させた。
 それでも、才人はくじけない。四度目の攻撃では突きを狙って弾き飛ばされ、五度目では足元の土をはじきあげて目潰しにしようとしたが、剣を下げたためにできた隙をつかれて、顔面にしたたかにパンチを食らって鼻血を流した。
「汚い顔だな」
「別に、ハンサムでもイケメンでもないんだ。多少崩れたところで問題にゃなりませんよ」
 せめて、ツルク星人の二段攻撃のような必殺技が自分にもあればと思うが、ゲームじゃないんだから、レベルが上がって○○を覚えました、などと都合のいいことは起こらない。袖で鼻血と泥をぬぐうと、才人は六度目の攻撃をかけていって足払いを食らわされ、七度目の攻撃で額から血を流し、八度目で左肩をはずされた。それでもなお、デルフリンガーを握る手は緩まない。
 九回目、十回目、何度仕掛けても才人の攻撃はアニエスにかすりもせずに、彼女自身は息一つ乱してはいない。
 ぶつかる度に、醜く傷ついていく才人の姿を、ルイズたちはじっと見守っていたが、やがて十六度目の突撃で、腹部を強打された才人が一時的な呼吸困難に陥って地面に崩れ落ちると、ついに見ていられなくなったミシェルがルイズに怒鳴った。
「ヴァリエール! もうやめさせろ、いくらやっても隊長に敵うはずがない。お前はあいつの主人だろう、なぜ止めないのだ!?」
 するとルイズは、一瞬だけミシェルに横目を送ると、すぐに立ち上がろうとしている才人に視線を戻し、そのままで静かに話し始めた。
「……わたしも、一応あいつの主人である以上、半年にも満たない程度だけど、少しはあいつのことを理解してるつもりよ。あいつはね、普段は大抵適当で、いい加減だけど、自分で決めたルールだけは絶対に譲らないのよ」
「自分で決めた、ルール?」
「そう、あいつはね、言ってみれば、弱きを助け強きをくじくといった、そんな子供じみたルールを自分に課してる。理不尽だと思えば貴族に物申すことも辞さないし、それを貫く諦めの悪さを持ってる。単なる意地っ張りといってもいいけどね」
 ルイズは、才人が自分に召喚されてすぐ、まだウルトラマンAと会うより前に、ギーシュと些細なことから決闘をしたときのことを思い出した。あのとき才人は、まだハルケギニアのことをほとんど知らずに、メイジであるギーシュと素手で戦って、青銅のゴーレム・ワルキューレに、今よりもずっとひどく、腕を折られ、骨を砕かれるほどに散々叩きのめされた。それでも、たかが平民と見下して降参しろと言ってくるギーシュに、「下げたくない頭は、下げられねえ」と、最後まで抵抗し続けて、初めてガンダールヴの力を発動させて勝利した。
「理解に苦しむでしょう? けどね、あいつはそれに誇りを持ってるし、何より、わたしも含めていろんな人を、そのルールで守ったり、救ったりしてきたわ」
 ホタルンガに捕らわれたとき、才人は我が身を省みずに助けに来てくれた。ツルク星人が暴れたときも、犠牲者が増えるのが我慢できずに飛び出していき、ミラクル星人がテロリスト星人に襲われたと知ったときも、助けに行くのに一切躊躇しなかった。
「あいつはね、悲劇ってやつが大嫌いなのよ。だから、目の前で誰かが不幸になろうとしたら、無理矢理にでもシナリオを変えようとする。たとえ、あなたが裏切り者でもね」
「……」
「考えてみれば、あいつは主人を守るっていう使い魔の役目を、誰よりもこなしているのかもしれないわね。まあ、その対象があたしだけじゃないってのが、多少しゃくだけどね」
 思い起こせば、才人は毎度不服と不平を並べながらも、誰かを助けてきた。ロングビルがフーケとして捕まったとき、衛士隊に引き渡せば死罪になるとわかったとたんに才人が大反対したから、ルイズも彼女を擁護しようと思ったし、また、ギーシュも、才人と決闘して負けて以来、傲慢さがなりをひそめて、馬鹿なのはそのままだが、憎めない性格になったのも、ある意味では才人に救われたといえるかもしれない。
 それに、ミシェル自身もワイルド星人の事件の際に、崩れる地底湖の崩落から救われているし、何より、なんだかんだと言いながら、才人はずっとルイズの隣にいてくれる。
「ただ、あいつがそうまでして戦う本当の理由は、まだわたしにもわからない。だから、主人としてわたしはサイトのやることを見届ける。あなたも、たとえこの決闘がどういう形で終わるにせよ、最後まで見届けないと許さないわよ。あいつは、あなたのために戦っているんですから」
「……わかった」
 自分に、まだこの世に残った義務があるのならば、せめてそれを成し遂げよう。今さら歪みきった自分の運命が修正されるとは思えないが、この決闘で、才人がどういう答えを見せてくれるのか、それを見届けるのが、こんな自分に手を差し伸べてくれた才人への、せめてもの礼儀だと、ミシェルは二十回目の攻撃をアニエスに弾き飛ばされて、背中から地面に叩きつけられた才人の姿を、目を逸らすことなく脳裏に焼き付けていった。

 戦いは、永遠に続くようにも思われた。
 照りつける夏の暑すぎる日差しの中で、全身砂と泥まみれになり、左手がしびれて動かなくなって、右手でかろうじてデルフリンガーを握っているだけの状態ながら、才人は三八回目の攻撃の失敗からも、ようやく立ち上がってアニエスに剣先を向けた。
「まだ、意識はあるか?」
「ああ、一応な」
 すでに目が半分開かなくなって、本能が無意識に立たせているのではと思えるほどにボロボロの状態になった才人が、意外にも明瞭な返事をすると、彼とは正反対に、一太刀も浴びることなく、暑さで流した汗以外は最初と何も変わることなく立つアニエスは、そろそろ飽きてきたとばかりに、軽くため息をついてみせた。
「まだ、負けを認めんか?」
「全然、おれはまだまだ元気だぜ」
「念のために言っておくが、自分が傷ついてみせて、私の同情を買おうというならば、無駄な狙いだぞ」
「へっ、アニエスさんが、そんな甘えさせてくれる人じゃないのはわかってますよ。それに、そんなんじゃ負けたも同然だ!」
 そうして、才人は三十九回目の攻撃をおこなったが、すでに体力は落ちきり、全身にダメージを受けている今では、最初の頃のような速度もパワーもなく、アニエスは剣を使うこともなくかわすと、後ろから才人の首根っこを掴んで地面に引きずり倒した。
「いい加減に、手加減して戦うのもくたびれてきた。これ以上やるというのなら、殺しはしないが、手足を切り落とすくらいはしてやるぞ、あきらめろ!」
 しかし、才人は顔面を地面に強く押し付けられながらも、決してまいったとは言わない。
「そうか、ならば仕方ない。せめて剣を握れない程度で済ませてやる。覚悟しろ!」
 業を煮やしたアニエスは、いまだデルフリンガーを握って離さない才人の右腕に、剣を突きたてようとした。それを寸前で防いだのは、それまで無言で見守っていたルイズたち、そしてミシェルの彼の名を呼ぶ声であった。

「サイト!!」

 その声を聞いたとき、才人の中に沈んでいた最後の力が、輝きを増した左手のガンダールヴのルーンとともに蘇った。彼は、肺の底辺から搾り出してきた叫び声とともに、押さえつけていたアニエスの予想を超えた力で呪縛から脱出し、彼女を払いのけると、動かなくなっていたはずの左腕も使って、デルフリンガーを正眼に構えなおしたのである。
「まだ、それほどの力が残っていたのか……」
 才人に与えたダメージからみて、もう起き上がる力もないと思っていたアニエスは、はじめて余裕を崩して才人を見返した。さらに、ルイズたちの中から歓声があがり、黙って使われ続けていたデルフも、「相棒は不死身かよ」と、驚いた声をもらした。
 けれど、才人は皆を見渡して軽く笑い、ルイズたちにありがとよと言うと、何かを成し遂げたように晴れ晴れとした声で、ミシェルに微笑みかけた。
「ミシェルさん、あんたまだ、それだけ元気な声を出せるんだな、よかった」
「え……」
 思いがけない才人の優しい言葉に、ミシェルはたった今自分が大きな声で叫んだのを思い出して、まだ自分にそんな気力が残っていたのかと驚いた。また、意表をつかれたのはアニエスも同じで、いぶかしげに問いかけた。
「お前、まさかこのために?」
 返ってきた答えは、勝ち誇ったようにも聞こえる才人の短い笑い声であった。
「……ミシェルに、生きる気力を取り戻させるために、あえて傷ついてみせたのか、しかし、それもお前が私に勝たないことには、無駄なあがきに過ぎんぞ」
「いいえ、おれは負けませんよ。絶対にね」
「わからんな、勝機などどこにもない。かといって私を説得できるはずもない。なのに、なぜあきらめん? お前のその自信はどこから来る?」
 すると才人は、今度はやや自嘲げに笑って、アニエスの顔を見た。
「別に、自信なんてありませんよ。おれごときが逆立ちしたってあなたに勝てないのは、もう嫌というほど理解しました。単に、おれはおれの理想を裏切りたくないだけです」
「お前の……理想?」
「傷ついて打ちのめされても、何度でも立ち上がって、誰かのために戦うこと! だから、おれは絶対にあきらめないし、負けもしない!」
 デルフリンガーを強く握りなおし、才人は一片の迷いなく言い放った。
「そんなことが、私相手にかなうと思うのか!?」
「できる!!」
 このとき、一瞬だがアニエスは才人に気おされた。

「どんな強敵が相手でも、どんな卑怯な策略に陥れられようと、ウルトラマンは絶対にあきらめずに立ち向かって、何度も不可能を可能にしてきた。それが、絶望に打ちひしがれた人々にも希望を与えて、奇跡を起こしてきた。それが……おれの憧れた、ウルトラ兄弟だ!!」

 その瞬間、ガンダールヴのルーンがこれまでにない輝きを見せ、才人の体が重力を逆に受けたかのように飛び出した!
「なにっ!?」
 万全のときと比べてさえ、はるかに勝る速度と威圧感に、アニエスもとっさに対応できずに、反射的に剣を上げて才人の斬撃を受け止めざるをえなかった。二つの剣が、衝突の勢いで火花を散らし、勢いに押されてアニエスの足が後ろに ずり下がる。
「くっ……まだこんな余力がっ!」
 まさか力で押されるとは思っていなかったアニエスは、それまでの余裕をかなぐり捨てて、才人の全力に全力で応えた。つば競り合いで鈍い金属音が流れ、二人の歯を食いしばる音が、それに二重奏となって戦いの旋律を奏でる。
 けれど、アニエスも銃士隊隊長としての意地があり、押し切られるのをよしとしなかった。
「っ、なめるなぁ!!」
 全身のばねを使って、才人の突進の衝撃を吸収しつつ、逆襲に転じたアニエスの体運びの見事さは、ロングビルやミシェルでさえ感歎を禁じえないものであった。勢いを殺され、行動の自由をアニエスに回復された才人は、体勢を立て直すには時間が足りなさすぎ、人体急所の一つであるこめかみに、剣の柄を使った一撃を叩き込まれてよろめいた。
 だが、急所への攻撃が直撃したというのに才人は倒れない。
「お前……本当に不死身か?」
「おれは、ただの人間ですよ……」
 驚いたことに、この冷徹豪胆な女騎士の顔に、明らかな焦りの色が浮かんでいた。もうすでに、普通の人間ならば激痛で立っていられないほどのダメージを与えたはずなのに、どうして立っていられるのだ。
「ちっ、もういい加減にしろ! これ以上戦えば、お前は確実に死ぬぞ、それでもいいのか!?」
 これまで才人はあくまでデルフリンガーの刃の部分を使わずに、峰でのみ戦っていたので、アニエスもそれに応えて才人への反撃はすべて体術か、柄を使用していたが、それでもこれ以上の打撃は致命傷になってしまうだろう。
「……死ぬのは、まっぴらごめんこうむりますね」
「ならばさっさと降参しろ! そうすれば」
「そうすれば、ミシェルさんが殺されてしまうでしょう……そっちも絶対やです」
「ちぃっ……」
 どれだけ痛めつけられても、まったく心を折る気配を見せない才人に、逆にアニエスのほうが追い詰められているかのように、ルイズたちには見えた。
「アニエスさん、お願いします。ミシェルさんを、見逃して……いいえ、許していただけませんか」
「許す、だと……何度も言わせるな。隊の模範となるべき隊長が、造反者を許すなど、できるわけがない」
「わかってます。けど、それじゃあ銃士隊という組織や、アニエスさんたちの誇りは、”守る”ことはできますが、たった一人の人間を、”救う”ことはできません。それに、いろんな消えない傷を残してしまう」
 皆を見渡して、才人は不思議な微笑を見せたように見えた。見えたというのは、もはや彼の顔が傷つき、汚れすぎて表情が不明確であり、もしかしたら悲しんだのか、ただうなずいただけだったのかもしれない。
 それよりも、アニエスやルイズたちは、これまで才人が単にミシェルの境遇を悲しみ、純粋な善意でその生命を守ろうとしているだけだと思っていたのだが、彼の言葉を聞くと、それだけではないことに気づいていた。
「お前、まだ何か、そこまで意地を貫く理由を隠しているな? もういい加減白状しろ! お前をそこまで駆り立てるのは、理想だけではあるまい。もう一本、何がお前を支えている!?」
 すると才人は、今度こそはっきりとわかるようにため息を吐き出し、観念したように答え始めた。
「……好きに、なっちゃったからですよ」
「なに?」
「ルイズ、キュルケ、ロングビルさん、アニエスさん、ミシェルさん、それにこの場にいないみんなも、こっちに来てひとりぼっちだったおれと、つながりを持ってくれた大事な人たちだ。だから、アニエスさんの手が仲間の血で汚れることも、ルイズたちが人が死ぬのが仕方がないことだとあきらめるようになるのも、絶対に認められねえ!」
 一瞬の時間の空白をおいて、アニエスをはじめとしたその場にいる全員が、頭をハンマーで殴られたような衝撃を感じたのは、自らの見識が狭隘だったことを思い知らされたからだけではなかった。
「わたしたちの、ために……」
 才人が守ろうとしていたのは、ミシェルの命だけではなかった。アニエスやルイズたちの心に、永遠に消えない暗い影が差さないように、皆の心までも救おうとしていたのだ。
「だから、おれは負けるわけにはいかない! あきらめるわけには、いかないんだぁーっ!!」
「ぬううっ!」
 最後の力を振り絞って向かってくる才人を、アニエスも今度は本当の全力をもって迎え撃った。技量がどうとかいうのならば、才人の斬撃は単なる上段からの振り下ろしだが、そこに込められた気合は、まさに鬼神も退くといった絶大なもので、それはアニエスにはっきりとした恐怖すら感じさせたのである。

 刹那……

 二人の激突は、一瞬で終わった。
 共に、渾身の力で剣を降り抜いたとき、剣と剣の衝突の火花が閃光のように見守っていたルイズたちの目を焼き、次の瞬間に目を開けたときには、すでに戦いは終わっていた。
 二人の剣のうちの一本が、主人の手を離れて回転しながら宙を舞い、広場の一角に突き刺さったとき、その主人もまた、全ての力を使い果たして倒れたからである。
「サイト!」
 今度こそ、目を閉じて動かなくなった才人へ向けて、ルイズたちが駆け寄って助け起こしたが、才人は息はしていたが、すでに意識は完全に途切れていた。
「終わった……」
 死んだように倒れた才人の姿に、ルイズたち、そしてミシェルは才人の敗北を確信し、つらそうに目を閉じた。
 これで、才人の願いは完全に断ち切られ、同時にミシェルの命運も完全に尽きた。やはり、伝説の使い魔の力をもってしても、圧倒的な実力差を覆すことはできなかった。才人の力からすれば、信じられないほど善戦したといっていいが、決闘は勝たなければ意味がないのだ。
 アニエスは、倒れている才人にゆっくりと歩み寄ると、傷だらけになった彼の顔を見下ろした。
「サイト……よくやったとほめてやりたいところだが、決闘に情けは許されん、わかっているだろうな」
 聞こえるはずのない声を送りながら、アニエスはルイズとキュルケが憎しみをこめて睨んでくるのを無視し、覚悟を決めてロングビルの背から、なんとか自力で降りようと苦悶しているミシェルを一瞥して、もう一度才人に視線を戻した。
「この勝負は、私の……」
 そのとき、ルイズたちは不自然なところで言葉を切ったアニエスの表情が、微妙に変化していたのに気づいた。勝利宣言を前にして、壁にぶつかってしまったかのように固まるアニエスの姿に、ルイズたちは怪訝な表情をしたが、やがて彼女たちの不審はそのアニエス自身によって破られた。

「……なるほど、そういうことか……ふふふ、はーっはっはっは!」

 突然堰を切ったように大笑しはじめたアニエスに、ルイズたちは今度はだらしなく口を開いてあっけにとられる番であった。
「た、隊長?」
 特に唖然としたのがミシェルだったのは言うまでもない。これまで猛禽のように目じりを鋭く研ぎ澄ませ、一切の妥協を許さないと冷徹無比な厳格さを保ち続けていたアニエスが、まるで憑き物が落ちたかのように晴れ晴れとした穏やかな表情で笑っている。
「サイト! お前この私をハメてくれたな、お前が最初に提示したこの決闘のルールは、『どちらかがあきらめるまで』だった。つまり、どれだけ傷つこうが気を失おうが、お前があきらめない限り、私が勝利することは絶対にない。すなわち、勝敗がつかない以上、私がミシェルに手を出すことはできない。そういうことだな!」
 心の底から愉快そうに、最初からこの決闘は、どちらが勝つこともありえないのだと悟って呵呵大笑するアニエスの言葉に、ルイズたちの顔にも笑みが浮かんできた。
「それじゃあ、この決闘は……」
「引き分け……てことは、改めて勝負がつくまで、どっちも勝利条件を履行することはできないってこと……つまり!」
 頭の回転の速いルイズとキュルケは、それでもう全部を理解した。才人は、勝利条件にミシェルの身柄を預かるとは言ったが、本当の目的はアニエスに処刑をやめさせることだったはずで、それは見事に成功した。しかも、どんな理由があろうとも、一度受けた決闘の条件を反故にすることは、騎士として絶対にできないのだ。
 アニエスは、手のひらを顔に当てて、こみ上げ続けるおかしさに耐えようとしていたが、あまりに見事にひっかけられてしまったのがおかしくておかしくて、こらえるのはとても無理そうだった。
「本当に、とんだ茶番劇につき合わせてくれたものだ。まったく、なにが伝説の使い魔だ、このペテン師め!」
 だが、これほどに優しいペテンはほかになかろうと、穏やかな顔で、アニエスは眠り続ける才人の顔を見下ろして思った。
 それに、ルイズたちもだまされていたことには変わりないのだが、これほどあざやかなペテンだと、怒るよりも先に唖然としてしまうし、何よりもだまされたことがこれほどうれしいペテンがほかにあるだろうか。
「あっはっは! サイト……あんたって奴は、人に心配させたと思ったら……」
「ほんと、それでこそあたしが見込んだダーリンよ! きゃははは!」
「ぷぷ……この私が、こんな簡単にひっかけられるなんて……あなた、詐欺師の才能ありますよ」
 笑いはルイズたちにも伝染し、才人とミシェルを包んでいく。
 呆然とするしかないのはもちろんミシェルだ、こんな展開、いったいどこの誰が予測できるというのか。才人とアニエス、どちらが勝とうと、つらい別れが待っていると思っていたのに、今はみんなでそろって笑っている。
 だがやがて、呼吸を整えたアニエスは才人の前で座り込んでいるミシェルの視線にまで顔を下げると、その目をじっとのぞきこんで、ゆっくりと話しかけた。
「さて、ミシェル……次は、お前が選択する番だ」
「え……?」
「形はめちゃくちゃだが、サイトは身をもってお前の命をつなぎとめた。しかし、結局命をどう使うのかは、その人間本人が決めることだ。ここで死ねば、もうお前は二度と苦しまずにすむ。けれど、もう一本、多くの苦難と、我慢ならない怒りや憎しみにさいなまされるかもしれないが、新しい道をサイトは作ってくれた。どちらを選ぶか、ここで決めろ」
「……私は」
 彼女は、じっと才人の顔を見下ろした。はじめて会ったときから、こいつには驚かされっぱなしだが、今回は格別だ。実力もなにもかも違うというのに、本当に最後まであきらめずに戦い、奇跡を起こしてしまった。
 それに、才人は生きる希望を失った自分に怒鳴った。
「守るべきものなど、いくらでもある、か……」
 才人にとっては、本当にそうなのだろう。国や立場などは最初から関係なく、目の前に不幸になろうとする人がいれば、手を差し伸べていく。そう、彼があこがれたウルトラ兄弟のように、そこには心ある人々を守りたいという優しさのみがあり、それに特別な資格などは必要ない。
 ミシェルは少しの間考え込むと、やがて決心したようにアニエスの目を見返した。
「私には、もう帰るべき場所はありません。ですがそれでも、生きていいというのであれば、残った人生は、サイトの示してくれた道を、最後まで駆け抜けてみたいです!」
「そうか、だがお前のこれまでの罪が消えることはない。険しい道だぞ」
「わかっています。ですが、その……できるなら、サイトに恩返しも、したいし……」
 そこで、ふとアニエスはミシェルのこわばっていた顔が、サイトを見ているうちになんとなく紅潮してきたのに気づいた。
「なるほど、生きる目的はもう見つけたようだな」
「あっ、いえ……その」
「ふっ、いまさら片意地を張ってもしょうがあるまい。まあ、生きる目的がないよりはあったほうがいい。だろう、ミス・ヴァリエール?」
「な、なんでわたしに、きき、聞くのかしら」
 妙に赤面するミシェルと、反比例して顔をこわばらせはじめたルイズを交互に見渡して、アニエスは意地の悪い笑みを浮かべた。彼女自身には、そういった類の経験はほとんどないが、仮にも女ばかりの銃士隊の隊長である。部下のそういった関係には不干渉だが、自然と目と耳にそういう話は入ってくるので、意外にも知識はそれなりにある。
「だが、サイトも罪作りなやつだ。意識がなくて、幸せなのか不幸せなのか、しかし……感謝するぞ」
 アニエスは静かに思った。本当に、たいしたペテン師だ、生きるか死ぬかの死闘と思わせておいて、負けなかったばかりか、ちゃっかりおいしいところだけをかっさらっていってしまった。そればかりか、自分も部下殺しという重いかせを負わずにすんだし、誰の心にも傷をつけずに戦いを終わらせた。

 だがそれだからこそ、そんなささやかな幸せを奪おうとする者への怒りは深い。背後から突然不気味な気配を感じたアニエスは、とっさに護身用の短剣を懐から抜いて、気配のした方向へと投げつけた。

「出て来い、のぞき見など下種のやることだぞ!」

 短剣はダーツのように空を裂き、一軒の家の屋根の影に吸い込まれていった。
 しかし、次の瞬間には何かにはじき返されたかのように、真っ二つにへし折れて戻ってきたかと思うと、続いて影の中から青い色の肌と、鋭く尖った耳、さらにオレンジ色に不気味に輝く目を持った怪人が飛び出してきたのだ!

「こいつは!」
 突然のアニエスの行動に驚いたキュルケたちだったが、屋根の上から前回転しながら着地してきた怪人を見て、とっさに才人たちを守るように布陣して、すぐさまそれぞれの武器を抜いた。
「亜人……じゃないわね。てことはまた、ウチュウジンってやつね……」
「ふん、ミシェルが死んでないのに気づいて送ってきた刺客ってわけね。サイトが動けないこんなときに……」
 ロングビルとルイズも、その異形の怪人がハルケギニアのものではないと一瞬で悟り、迎撃態勢を整える。ここで才人の意識があれば、こいつがGUYSのアーカイブドキュメントMACに記されたノースサタン星人だと気づいたであろう。等身大の姿を現したことは一度しかなく、写真も残っていないが、こいつと格闘戦を演じたMACの北山隊員が資料用にと書いたスケッチが残っていたのだ。
 臨戦態勢を整える一行の前で、青い怪人、ノースサタンは拳法の構えのように、両腕を上げてじりじりと近づいてくる。
「ウェールズめ……もう完全に人間ではなくなったのか」
「だが、こんな奴が追っ手にかかるということは、裏にヤプールがいるということを証明することでもある。なんとしてでも切り抜けるぞ」
 無言で一行はアニエスの言葉にうなずいた。追っ手として差し向けられるということは、それなりに戦闘力に長けた宇宙人だと見て間違いはないだろう。
今のところ、ブラック星人のように怪獣を引き連れている様子はないが、つまりは単独で充分戦えるということだ。
 ノースサタンは、暗殺対象にこれだけの護衛がいるとは思っていなかったのか、用心しているようにじりじりと間合いを詰めてくる。けれども、その構えには隙がなく、相手が相当な使い手だと見抜いたアニエスは、振り返らずに後ろにいる他の者たちに声をかけた
「ミス・ヴァリエール、ミス・ロングビル、サイトとミシェルをつれて下がれ」
「えっ! なにを言うのよ、わたしだって戦えるわ!」
「馬鹿者! 重傷者を二人も守りながらまともに戦えるか! それに、主人であるお前以外の誰がサイトを守ってやれるというのだ!」
「うっ……」
 また、自分のことばかりに目がいって、才人のことを忘れていたことにルイズは自らを恥じたが、それでも自分のなすべきことを思い直して、才人を肩に背負おうとする。
「感謝しなさいよ。使い魔をおんぶしてあげる主人なんて、普通はいないんですからね」
 そう言いながら、頭一つ大きい才人をあまり苦もなくルイズは担ぎ上げた。
「い、意外と力ありますね……」
 ミシェルを背負いなおしたロングビルが、平然と先に立っていこうとするルイズを追いかけながら言った。
 ルイズは、人より小柄だが、普通のメイジなら魔法で済ませられたりすることまでずっと自力でやってきたり、あの母親の教育方針で乗馬その他の修練も幼い頃から積んできたために、シエスタなどには及ばないにしても、相当な体力を持っているのだ。

 そして彼女たちを背中で見送ったアニエスとキュルケは、逃げていくターゲットを追いかけようとするノースサタンの前に立ちふさがって挑発していた。
「ここを通りたければ、わたくしたちを倒してからにしていただきましょうか」
 言葉が通じているかどうかまではわからないが、ノースサタンは瞳のない目を閃かせて、攻撃目標を二人に変えたようだった。まるで、悪魔のような醜悪な顔が二人を睨みつけるが、ツルク星人、ムザン星人との戦いを潜り抜けた二人は臆することはない。
「さて、足手まといになるなよ、ミス・ツェルプストー」
「その言葉、そっくりそのままお返ししますわ。あなたこそ、わたくしのパートナーが務まりますかしらね」
 減らず口を、と、アニエスは不敵な笑みとともにつぶやき、愛剣を上段に構える。
 また、キュルケもタバサがいないのが残念ですけれど、と、その場に似合わぬ妖絶な笑みを浮かべると、その身に流れる燃え滾るような情熱を、現実に破壊をもたらす烈火に変えるべく、呪文を唱え始めた。
 しかし、いくら並ぶもののない剣士とメイジといえど、まったく未知の宇宙人を相手に、即席のタッグで勝機はあるのだろうか? いや、似ているようであり、逆に、まったく似ていないともいえる二人であったが、一つだけ、これだけは絶対に同じものがあった。

「私の部下には……」
「ルイズたちには……」

 そう、彼女たちに宿る意志もまた、才人と同じ。

「絶対に手を出させん!」


 続く



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