あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

第漆話「」


トリスタニアで聖帝様が大変お楽しみされている頃

時は6XXX年
頭部は核の炎に包まれた!
頭皮は裂け、毛穴は枯れ、あらゆる毛根が絶滅したかのように見えた……!
だが、毛髪は絶滅していなかった!!

「……やれやれ、これでよし」
そんな世紀末の荒野を体言したかのような頭の持ち主であるコルベールが鉄の巨大な扉を閉めながらようやく一息付く。
その扉の先は、宝物とガラクタが入り混じった、まさに玉石混交という言葉が最も似合うであろう学院の宝物庫。
そこにまた一つ何か保管すべき物が増えたのかと聞かれると、正しくもあるし間違いでもある。

「これを宝物庫に入れているところなど、ここだけでしょうな」
少し疲れたような声で扉に閂をかけ、鍵を使い錠前を閉める。
単純にハルケギニアにおいても一つしかないような秘法を収めたかのように聞こえるが、実際はその斜め上。

物ではないが保管が必要。
コルベールが運んできたものは、物ではなく者。
南斗鳳凰拳先代伝承者オウガイの遺体である。

最初はコルベールの研究室に安置してあったのだが、研究室というだけあって様々な薬品などがあり、常に異臭が漂っている。
もちろんコルベールはその遺体がサウザーがこの世で唯一愛し敬った師である事は知らない。
知ってたらもっと早く移している。

木乃伊化しているとはいえ、本来はそういったものを保管するには不適切でさらにコルベール自身も実験もできないのでオスマンに頼み込んで宝物庫を使わせてもらう許可が降りたのが今日。
まぁ、実際はオスマンが寝ててド忘れしたというのが遅れた原因なのだが。

他にも場所が無いというわけではないが、モノがモノだけに人目に触れない場所である事と、長期保存が可能という事でやはりここが最適な環境だ。
スクウェアメイジ何人も集まって設計し、さらに固定化までかけられた宝物庫の分厚い壁なら巨大なゴーレムの力を以ってしても壊す事は難しく後は遺体にも固定化をかけておけば朽ちることは無い。
当然固定化も万能ではなく物理的な力には意味を成さず、鼠にでもかじられれば事だが、そこは学院長の使い魔でもあるモートソグニルが仕切っているらしい。
主人に似ずよく働く使い魔である。
閂をしてから錠前の鍵を閉めるとそれにしても、とコルベールが顔をしかめた。
宝物庫の中には様々な宝がある。
価値の有無などはこの際別にしておくとして、その中に一つだけ異質な物が存在していた。

『炎の杖』
どのような経緯で手に入れたかは知らないが、平民だろうと火のスクウェアメイジにも勝るとも劣らない炎を出す事が出来ると言われているマジックアイテム。
それだけならさして気にも止めはしない。
ただ、炎の杖からあの人の焼けた臭いが微かに伝わってくるのがどうにも気に入らない。
あれは間違いなく人を焼いた事がある。

二十年前に置いてきたはずの経験から、漠然とした思いでそう判断すると階段を上がってくる音に気付いた。
「おや、ミス・ロングビル。こんな場所で奇遇ですな。宝物庫にご用ですかな?」
さっきの緊張感はどこへやら。
上がってくるのがロングビルだと分かった瞬間、かっこいい禿から間の抜けたハゲへと大変貌。
その変わりっぷりは初期と後期のアミバぐらいの差があった。

「ええ、ミスタ・コルーベール。宝物庫の目録を作りたいのですが……オールド・オスマンはご就寝中なのです」
愛想のいい笑みを浮かべられてコルベールのテンションが一気に上がる。
なにせ、ロングビルと言えば、知的かつ物静かで男性教師の間では評判の美人。
当然、コルベールも例外ではなく、食事にでも誘ってしまおうと考えたりもしていたりする。
ロングビルが学院に来てまだ二ヶ月ぐらいという事も手伝って誘う機会は無かったが、今が絶好の機会。

「なるほど、ご就寝中ですか。あのジジ……オールド・オスマンは、寝ると起きませんからな。それより、ミス・ロングビル。その、よろしかったらなんですが……夕食をご一緒にいかがですかな?」
「そうですね……特に予定はありませんし、喜んでお付き合いしますわ。それにしても、この宝物庫は立派な作りですわ。あれではどんなメイジを連れてきても、開けるのは不可能でしょうね」
「そうでしょうなぁ。スクウェアクラスのメイジが何人も集まって、あらゆる呪文に対抗できるように設計したそうですから、並みの錬金では歯が立たないでしょう」
自分の申し出があっさりと受けられた事に気をよくしたのか、コルベールが間髪入れず多少自慢気に説明をした。
もちろん、設計に関わっていたわけではないが、女性に対して免疫を持たない彼がこんな状況で落ち着いていられるはずもなくテンパっているのである。
「ほんとにミスタ・コルベールは物知りでいらっしゃる。ミスタのお傍にいられる女性は、幸せでしょうね。だって、誰も知らないような事をたくさん教えてくれるんですから……」
少々上目遣いにコルベールを見つめるロングビル。
「か、からかってはいけませんぞ!い、いや……研究一筋といいますか、暇にあかせて書物ばかり読んでいるような毎日でして。はは、おかげで、この年になっても独身なのですよ、はい」
その効果は絶大で、聖帝様に槍を放たれたシュウの如し。
神が一つだけ願いを叶えてくれたと、横にロングビルが居なければ涙が出ているところ。
色んなゲージが世紀末といったところで、具体的に言うと、二ラウンド目、オーラゲージ150%、ブーストゲージ240%で画面端の赤いジャギ様。
魔法の数字は27。今にも部活動開始と言わんばかりに興奮していらっしゃる次第だった。

「と、ところで、ミス・ロングビルは『フリッグの舞踏会』はご存知ですかな?」
ここまできたら、バスケ開始と言わんばかりに行き着くとこまで行ってしまおうとコルベールが真顔になってロングビルに向き直った。
「は、はぁ。なんですの? それは」
「その、なんてことはない、ただのパーティなんです。ただ、ここで一緒に踊ったカップルは結ばれるとかなんとかいう伝説がありましてな!それで……その、よろしければ、私と踊りませんかと、そういう、はい。いや、嫌なら結構なんですが……」
額の汗を拭きながらしどろもどろになんとか言い切ると、ロングビルはにっこりと笑って言った。
「喜んで。その舞踏会も素敵ですが、それよりもっと宝物庫の事について知りたいわ。魔法の品々にとても興味がありますの」
喜んでという言葉を聞いてコルベールの心臓が激心孔でも突かれたかのように動き始めた。
フリッグの舞踏会の事をそこまで説明して申し出を受けるという事は、プロポーズを受けたも同然である。
はっきり言って、本来、四十過ぎて独身の頭の薄いうだつの上がらない中堅教師なんぞが一緒に踊ってくれるはずもない程の相手なだけに
コルベール自身は駄目元で言ってみただけなのだが、これが成功。難度五%のバスケを超ガソでフィニッシュしたような気分にもなる。

宝物庫とロングビルの気を引きそうな話題を語り尽くしたところで、ようやく宝物庫の鍵を持っている事を思い出し、『たわば!』したのが一時間半後だった。


トリスタニアを出るのが日が沈んでいる頃だったので、風竜の上の聖帝様ご一行が学院を視認出来る頃にはもうすっかり日が落ちていた。
民家も無く電気も無い世界ではあるが、幸いというか二つの月が地上を照らしているので夜でも完全な闇になるという事は珍しい。
とはいえ、今日はその珍しい日らしく薄闇先に学院の光が見える程度。

それぞれが今、考えている事は、ルイズの頭の中はモット伯と鉢合わせになった時どうしようという考えで一杯でキュルケはキュルケで今夜の相手は誰にしようかとか考えていたり、タバサは何を考えているか分からなかったりする。
そして肝心の聖帝様であるが、その思考は至って簡潔。
YouはShockという歌にもあるように、邪魔する奴は指先一つでダウンってやつである。

風竜が学院に近付くと、本塔がある中庭で土が盛り上がってあっという間に巨大な人型が出来上がった。
「なにあれ!? 土のゴーレムじゃない!」
土とはいえ、その大きさはギーシュのワルキューレとは比べ物にならない。
それを見てサウザーが「ほう」と呟く。
存外使える奴も居たものだ。とやっぱり他の三人とはその考えはズレている。

「あのゴーレムが現れたあたりって……確か宝物庫よね」
「土くれのフーケ。街で噂になってた」
トリステインの貴族ばかりを狙う神出鬼没の大怪盗。それが土くれのフーケと呼ばれるメイジの盗賊だった。
その手段は様々で、三十メイルあまりの巨大なゴーレムを使い壁や屋敷を破壊するという手口からも、あれがフーケであるという事は三人には認識できる。
そうなれば当然その目的が学院の宝物庫であるという事も。
「それって学院の宝物庫を狙ってるって事じゃない! と、止めなきゃ!」
まずルイズが率先して、そう提案した。
が、当然と言うべきか、サウザーは器用に風竜の背びれに肘を付いた何時もの姿勢で、ごく当たり前のように言った。
「知らぬな。お前達の国ではどうかは知らぬが、俺の国では力こそが正義。それ程大事な物であれば、まず自分の力で守ってみたらどうだ」
「はぁ!? あんた、この前力貸すって言ったじゃない!!」
サウザーにとって学院の宝物庫なぞどうでもよく興味も無い。
盗まれるのは盗まれた方が間抜けだからで、奪われるのは力を持たぬ方が悪い。
力を貸すとは言ったが、まずは人に頼らず自分の手で掴み取ってみろ、という事である。

「俺を従えさせたいのであれば、あの程度の相手に遅れをとる事はなかろうしな」
あのゴーレムにルイズをぶつけて、現段階でどの程度の力を持っているか測ろうとしているのもある。
もちろん、その言葉の裏には土人形如きこの俺の相手ではない、という意味が含まれているが。
風竜がいれば少なくとも無様に潰されるような事はないし、あの土人形(デク)相手でも互角に渡り合えるだろうというのがサウザーの見立てだ。
それを知ったこっちゃないルイズはというと、サウザーの言い方に琴線に触れられたのか、まんまと乗ってしまっている。
「ああ、当たり前じゃない! わたしが盗賊なんかに遅れをとるもんですか!」
「お前達も足掻いてみるがいい。今のままでは俺に腕一本しか使わせる事しかできぬぞ?」
「冗談抜きで腕の一本も使ってないんだから余計自信無くすわね……」
完全に諦めたような口調でキュルケが杖を取り出すと眼下のゴーレムを見つめる。
ゴーレムは巨体だが、動きそのものは重鈍で、こちらは機動力に富むタバサの風竜がある。
なによりここ数日はゴーレム以上の化物とやり合っているため、自然その事が三人に冷静さを保たせていた。

「では、俺は下で見物させてもらおう。つまらぬ結果にならぬよう期待しているぞ。くははははははは!」
「下って……まさか……!?」
三人が声を出した頃には俺はお前の拳法では死なん! とばかりに聖帝様が地面へとダイビングを開始。
死兆星が頭上に輝いていたり、北斗十字斬を食らったわけでもないので空中で一回転して地面に着地した。
フライもレビテーションも使わずに平然と飛び降りるあたり、文字どおり桁が違うという事である。
「……あたし、この先ちょっとやそっとの事じゃ驚かないって自信あるわ」
「同感」
エア・カッターの比ではない刃を飛ばし素手で青銅を切り裂く。
そんな世紀末の片鱗を垣間見れば、多少の事では動じなくなるというのは自然の道理。
おまけにサウザー自身は特に否定もしていないため、三人の頭の中では今まで本や人づてでしか知り得なかったロバ・アル・カリイエという東の地域がCrazyTimeを生きるToughなBoy達が群れをなす修羅の国へと書き換えられていく。

「ま……早いとこ終わらせちゃいましょ。ゴーレムは無理でも、フーケ本人ならあたし達でもなんとかなるわ」
土のゴーレムは周りに土があるなら生半可な攻撃ではすぐに再生される。
炎球を飛ばしたところで崩れ落とせるだけの火力は無く、竜巻を以ってしても吹き飛ぶ事は無い。
ただし、そのゴーレムの肩に乗っている術者本人はそうはいかない。
考える事は同じなようで、三人が同時に杖をフーケに向けた。
「さて……」
地面に降りたサウザーが少しだけ歩くと落ちていた石を拾うとそれを投げる。
「鼠が一匹隠れているようだが、いかに気配を消そうともこの俺の前では無駄な事よ」
石が植え込みを突き抜ける音がすると、そこから人の声が返ってきた。
「ど、どうしてわたくしが居ると分かったのですか?この暗闇の中こんなにも正確に……」
「下手な芝居はよせ。ロングビル……いや、土くれだったか? あの土人形で目を惹きつけ、その隙に逃げる算段か。俺でなければ成功していただろうが残念だったな」
そう言われると、植え込みからがさがさという音がしてフードを被った女が現れた。
「……はぁ、わたしも年貢の納め時ってやつかね。煮るなり焼くなり好きにしなよ」
その声はまぎれもなく、ロングビルのものだ。
両手を広げて敵意の無い事を示しているが、頭の中ではどうにかして油断させその隙を付いて逃げようと考えている。

しかし、どう考えても活路が見出せない。
一見して隙だらけに見え思わず杖を手にしたくなるが長年盗賊として培ってきた危険察知能力が下手に動けば取り押さえられるどころか殺されかねないという事を告げている。
「……降参。なにもしないから、あの坊やのゴーレムみたいにされるのはご免被るわ」
どう足掻いても逃げられないと悟ったのか、下唇を噛み顔を青ざめさせるとその場に座り込んだ。
ただ、この場で逃げる事を諦めるだけで、逃げるという事自体を諦めたわけではない。
目の前の男からは逃げる事などできないだろうが、他の場所ならまだいくらかのチャンスはある。
チェルノボーグの監獄にぶち込まれるまでが勝負だと決意を決めたが、生殺与奪を握っている男からは予想もしなかった言葉が飛び出てきた。
「言ったはずだ。俺の障害にならねば貴様がどうしようが、この俺の知った事ではない。それになぜ聖帝である俺自らが鼠の退治などせねばならぬのだ?」
見下した笑みを浮かべフーケの事を鼠と言い放つ。
宝物庫を食料庫に見立てるなら、盗賊という物も食料をかじる鼠と同じというところだ。
そんな事は番人か猫にでもやらせておけばいい。

「……鼠呼ばわりされるのは気に食わないけど、見逃してくれるってんなら好きに呼びなよ」
軽く悪態を付くものの、相手に捕まえる気が無い事が分かり、心底安堵した。
残してきた子達の為にも捕まるわけにはいかず、そうならないのならどう呼ばれようが些細なことだ。
そうと決まればさっさとお宝を持って学院から去ろうと隠しておいた炎の杖を背負うと、ほんの少しだけ驚いたような感じのサウザーに呼び止められた。
「ほう……貴様、それをどうした?」
「それって……この炎の杖かい?そりゃあ宝物庫の中に入ってたのさ。なんでもこれ一つでスクウェアメイジ並の炎が出せるってね。好事家に高く売れそうじゃない」
なるほど。確かにそう言われればそうとも言える。
「ふっ……ふふ……ふははははははは!」
突如高笑いを始めたサウザーを見てフーケが身構える。
ただ、今回ばかりは特に他意は無い。
「くっはっはっはは。よかろう! その杖、貴様にくれてやる。元々俺の物だ。誰にも文句は言わせぬ」
炎の杖と呼ばれた物が、馴染み深くよく知っていたものだからだ。

杖の先から迸る炎は人間などあっという間に焼き殺す。
その光景を見て人々は恐ろしいと額を地にこすり付け、暴風という名の軍団が通り過ぎるのをただひたすらに待つ。
平伏す人々の間を進むのは極星・南斗十字星を旗印としたバイク軍団。
ハルケギニアで言う炎の杖を手にするのはサングラスを装備したモヒカン達。
そして彼らは汚物を見た時にはサングラスを輝かせ決まってこう叫ぶ。

汚物は消毒だーーー!!


この炎の杖は聖帝正規軍で使用されていた火炎放射器だ。
小さく聖帝軍のマークが入っている事から見間違えはしない。
まだ燃料が入っているかどうかまでは知らないが、案外この世界と世紀末は近いところにあるのかもしれない。

「それじゃあ、使い方も知ってるって事?それじゃあ、もののついでに教えてくると有難いんだけど」
「ふっ……この俺を前にして抜け抜けと言う。まぁいい、教えてやってもよいが、貴様には一つ働いてもらわねばならん」
「働くって……ここで何を?」
「あの三人。その土人形で構わぬ。奴らの相手をしろ」
月から雲が晴れた空を指差すと、その先には風竜がゴーレムの頭の上を飛んでいるところだ。
「相手しろって、いいの?万が一墜としても」
「構わぬ。貴様、腕前はトライアングルだったな? ならば、無様に敗れるような事はあるまい」
トライアングルが二人に、未知数のゼロが一人。
ルイズの爆発の威力が真に拳王の一撃と同じならば、あの土人形とてただでは済まない。

「はぁ、盗賊に主を襲わせる使い魔なんて聞いたこと無い……って契約してなかったっけ。わかったよ」
呆れながらもフーケが杖を握ると、今まで動きの鈍かったゴーレムの動きが鈍いなりにも風竜を叩き落そうと腕を振り回し始めた。
避けた先からは炎が伸びてもゴーレムの一部を燃やすだけで一向に意に介さず腕を振り上げる。
「いくらここの連中が普段からサイレントかけてるって言ってもそろそろ出てくるだろうから、厄介な事になる前に終わらせて欲しいね」
フーケがゴーレムを出してから五分あまり。
いくら夜とはいえ、まだ寝るには早く、振動も出るから気付かれる頃合だ。
学生連中はゴーレムにビビって出てこないというだけのもあるが、教師達は皆トライアングルクラスなのである。

そうしていると、魔法が放たれたのか、ゴーレムの後ろにあった壁。
丁度、宝物庫があるあたりの壁が爆発した。
ルイズがゴーレムを狙ったらしいが、旋回する風竜から呪文を唱えたため狙いが反れたらしい。
壁にひびが入ったのはここからでも見て取れた。

「ふむ……壁一つ壊せぬか。俺としたことが、いささか過大評価をしていたか」
たかだが、石の壁一つ崩せぬようでは拳王とは比べ物にならぬ。
ルイズに対する評価を改めようとしたが、隣に居るフーケは心底驚いていた。
「あの壁にひびを入れただって?あそこの壁はわたしのゴーレムでもひび一つ入れられないってのに!」
一度下調べであそこの壁の強度を測り己のゴーレムの力でも破壊は不可能と判断したのだから当然の事だ。
おまけに固定化がかかっているのだから、あの爆発が錬金だったとしてもひびが入るという事は一切無いはずだった。

「貴様の土人形でもひびを入れる事ができぬだと? よかろう、試してみろ」
それ程までに強靭な壁だというならば、やはり奴の魔法は別格という事になる。
有無を言わさぬ声で試してみろと言われ、フーケがゴーレムに呪文を唱えるとその拳が鋼鉄へと変わる。
そして振りかぶると、拳をひびの入った壁の横へと叩き付けた。

「ほう……確かに、今の一撃でもひび一つ入らぬとは大した物だ」
ゆっくりとゴーレムが拳を壁から離すが、ひび一つ入っていない。
もっとも、ひびが入った壁は拳がぶつかった衝撃で鈍い音がして崩れ落ちてしまったが。
ルイズ本人が未熟な事を差し引いてもあの爆発が異様な事ぐらいはサウザーでも理解できる。
少なくとも、その才はトライアングル以上である事が確認できただけでも良しとせねばと思ったところで、崩れ落ちた壁の先に彼がよく知る人物が見えた。
「あれは……!」
その姿は決して見紛う筈もなく、忘れるはずもない。
まるで聖帝十字陵の聖室に鎮座しているかのように、師オウガイの遺体が月明かりに照らされていた。
今までオウガイも一緒に召喚されたなど思ってもおらず崩れ落ちる聖帝十字陵の中に埋まってしまったかもしれないという事が気掛かりだっただけに、思わぬ誤算だった。

「で、もう一回試してみる?」
そんな事など知らないフーケがもう一回やるかと聞いてきた。
「ならぬ。本来なら、我が師オウガイの遺体を傷付けようとした罪、万死に値する。が、そうせねば俺が気付かなかった。よって罪には問わぬ」
自分でやれと言ったくせに随分な言い方である。
差し引きゼロだからよかったものの、万が一あの遺体が傷付いていたらと思うとゾッとする。
かなり複雑な心境のフーケだったが、わらわらとこの中庭に人が集まり始めた事に気付いた。
どうするのかと、フーケが問いたそうとすると、尋常でない悪寒に襲われてその場にへたり込んでしまった。

「ちょうど良い。貴様にも、あの小娘にも今回の礼に良いものを見せてやろう」
そう言うと、少しざわつき始めた中庭によく通る呼吸音が聞こえ始める。
呼吸音が深まるにつれフーケの目にはサウザーの身体がうっすらと光っているように見えた。

         南斗鳳凰拳
          奥  義

『鳳 凰 呼 闘 塊 天』


サウザーの身体が光っているように見えるのは、その身に纏う闘気。
呼吸法により肉体の潜在能力を極限まで引き出す奥義は、なにも北斗神拳に限ったものではない。
北斗と南斗は表裏一体。北斗に天龍呼吸法があれば、南斗に鳳凰呼闘塊天があり。

「はぁ!」
ゴーレムの胴目掛けサウザーが飛び蹴りを放った。
巨大なゴーレムと、長身とは言え人の身でしかないサウザーでは蟻と象のようにも見えるが、象すら相手ではない。
サウザーの脚がゴーレムに触れると、その足先が少しめり込む。
飛び蹴りで跳ぶ高さではない事は置いておくとしても、分厚い土の壁にめり込むだけで終わるはずだった。

「しぇぇぇらぁぁぁぁぁ!」
ボンッ! というルイズが起こした爆発のような音が中庭に響くとゴーレムの背中から大量の土砂が散弾銃の如く飛び出し、石が壁にぶつかり土の塊が窓ガラスをぶち破る。
正面は人一人が通るような小さな穴しか開いて居ない。
だが、背中はそれこそ大穴と呼ぶに相応しい穴がぽっかりと口を空けていて、そこからサウザーが姿を見せ地面へと着地し
巨大な穴を穿たれたゴーレムはというと、再生の限界を超えたのかボロボロと崩れ落ち、土の塊へと還っていった。

「南斗聖拳は、地上のどんな物質をも力で打ち砕く。例えダイヤだろうと、俺の前では小石に等しい」
「じょ、冗談じゃないよ……こ、これじゃあ……」

――素手で火竜を殺すって事も嘘じゃない。

土とはいえ、魔力で固められているはずのゴーレムを飛び蹴りのたったの一発で破壊した事に、いよいよ以ってあの与太話が現実味を帯びてきた。
なんとかして立ち上がろうとしたが力が入らない。
サウザーの闘気を間近で浴びた事と、切り札だったゴーレムが一発で粉砕された事で腰が抜けてしまったのだ。
そうこうしていると、ゴーレムが崩れた事を見て、上から風竜が中庭へ降りてきた。
もっとも、背中に乗っている三人は目を丸くしているが。
「……今、ゴーレムが凄い勢いで吹っ飛んだとこに、あんたが飛び出てきたんだけど……見間違いじゃないわよね?」
くちなし動物と化していたルイズがようやく口を開くものの、さっき、ちょっとやそっとじゃ驚かないという事に同意したばかりだが、即日撤回である。
「そう見えなかったのであれば、貴様の目は役立たずという事だ」
半分ぐらい嘘であって欲しいという質問をあっさりと肯定する。
三人が三人とも、何があってもロバ・アル・カリイエには近付かない決心を固めると、キュルケが腰を抜かしているフーケと背負っている物に気付いた。
「ミス・ロングビル、こんなところで何を。それに、それって……炎の杖じゃありませんか?」
「炎の杖って、宝物庫にあるはずじゃないの?」
「あたし、宝物庫を見学した時に見たことあるの。間違いなく炎の杖よ」
どういう事かしら、と疑問符が浮かんだ所にオスマンと頭に包帯巻いたコルベールが現れた。
「それは、彼女が土くれのフーケだからじゃな」
「オールド・オスマン。ミス・ロングビルがフーケって、ほ、本当ですか!?」
「うむ。宝物庫の中にはしっかりと『炎の杖、確かに領収いたしました。土くれのフーケ』というサインが残っておったし、宝物庫に侵入された事については、ミスタ・コルベールが一番よく知っとるからのぉ」
「は、はい。わたしが宝物庫の鍵を閉めて出てきたところを襲われ鍵を奪われまして……いや、本当にお恥ずかしい」
恐縮した様子で説明をするコルベールだが、色仕掛け食らって完全に油断していたという事は言わないし言えない。
幸いフーケは半ば放心状態で、そんな都合のいい説明を聞いてなかったというのも天はコルベールに味方している。
ようやく正気を取り戻した時には完全に包囲され脱出など到底不可能な状況に陥ってしまっていた。

「……まったく、とんだ計算外だよ。こんな化物って分かってたなら盗みになんか入らなかったのにさ」
サウザーは見逃すと言っていたが、こうなってしまっては手の打ちようが無い。
せいぜい愚痴をこぼす事ぐらいしかできず、さっさと逃げてればよかったと悔いるのみ。
「でも、確かにゴーレムの上には人影が……」
「わたしを誰だと思ってるのさ。土くれのフーケ。人の形をした人形を作るなんて事は造作もないよ」
要は自分たちはまんまと騙されていたという事で、サウザーの近くで腰を抜かしていた事から、サウザーも最初から知っていたという事に気付いた。
でも、追求しない。してもどうせ無駄だし、なにより飛び蹴り一発でゴーレムを粉砕したという事実から目を反らしたい。

「騒々しい。一体何事ですかな?オールド・オスマン」
かなりgdgdな雰囲気になってきていると、先ごろサウザーにボロ雑巾にされた人がその場に姿を見せた。
「おや、モット伯。傷の方はもうよろしいのですかな?」
「おかげ様で……それより何事ですか?」
「例の土くれのフーケを捕まえたところでな」
「ほう、それは素晴らしい」
さて、モット伯と聞いて今度はルイズが頭を抱える番になった。
自重しない。この使い魔は実に自重しない。
さらに状況を悪化させそうで見てられないのだ。
そうなる前にサウザーをモット伯の視界から動かそうとしたが、それより先に絹を切り裂くような悲鳴がした。
手遅れである。
「ひぃぃぃ!どど、どうしてここに!」
「うん?貴様か。この俺を前にして一度ならず二度までも不快な姿を見せるとはどういう了見だ」
二度目の会合から僅か一秒。
あっという間に腰砕けが一人増え、這いずるようにサウザーから逃げ出した。
「えうっ! トワッタ! ワヒィィ!」
よく分からない悲鳴を上げ始めたが、人間真に恐怖した時はそういうもんである。ジャギ様の素顔を見た時とか。
「ふむ。やはり使えんな」
いくら一度叩きのめされた相手とは言え、このように無様に逃げ出すようでは役には立たない。
使い道が皆無というわけではないが、これでは使い道を探す方に莫大な労力がかかってしまう。
使い方を知りたがっていたようだし、あの汚物で試してやるか、と消毒する事を考えると這いずってきたモット伯を見てフーケが動いた。
その手には杖が握られモット伯を人質にこの場を乗り切ろうという意図があるのは明白だった。

――わたしは、あの子達の光を守るためにも、こんな所で捕まるわけにはいかないんだよ!

ここで捕まれば、妥当なところで縛り首。良くて島流しで二度とハルケギニアの大地を踏む事ができなくなる。
そうなれば、世間から大幅にズレた妹や他の子供達が内乱が起こっているアルビオンで無事に生きていけるという保障は無い。
だから、この機を逃すまいと頭で考えるよりも先に身体が他の誰も反応できない絶妙のタイミングで動いていた。

とはいえ、世の中には常に例外という物が存在するのであって、この場合も例外というものがこの場に居合わせているのを忘れてはならない。
ショットガンの弾丸ですら撃たれてから避けることの出来、逆に射手の懐に飛び込めるだけの踏み込みを持つサウザーである。
その反応速度はまさに神速。人の域を遥かに凌駕した動きで、傍目には動作も見せずかき消えたように見える程。
ルイズ達が声を出した時には、サウザーの手刀がフーケの鳩尾に深々と突き刺さっていた。

「か……っ…は!」
肺から全ての空気が押し出されるような感覚に襲われ視界が暗転し意識が遠くなる。
空気の他に喉の奥から熱い物がこみ上げてくるのは血を吐いたからか。
つくづく化物だ。
薄れていく意識の中でぼんやりとそんな事を考えていると、最後にウェストウッド村の光景が浮かぶ。
「……ごめん、テファ」
残された最後の空気と共に誰にも聞こえない程の声でそう呟くと、手刀を抜かれ支えを失った身体が崩れ落ちるようにして倒れた。

「どぉえへぷ! ぎゃあっはっ! ここ、殺した!」
倒れた先は丁度モット伯の身体の上。
またも悲鳴をあげているが、殺したという声に反応してコルベールが駆け寄って脈を取ってみたが、鼓動は一切無い。
あまりの出来事に全員が声を失い立ち尽くしていると
当のサウザーは悪びれる様子など一切無く言い放った。
「ふん、俺の邪魔をするとは愚かな。だが、命拾いしたな。おかげで興が冷めたわ。俺の気が変わらぬ内に失せるがいい」
「はぁひゃ~~! ひょ~~! たた助けてくれぇ~!」
両手を上げて逃げ出す様は、拳王に出会ったモヒカンの如し。

「くはははははははははははは!」
二つの月の下で世紀末の帝王の笑い声が響く。
巨星堕つ。
土くれの盗賊が引き起こした一連の騒動は、フーケの死という形で幕を閉じた。



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