あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

使い魔は紅き薔薇‐04


「――じゃあ、言った通り持って来なさい」
「はい、分かりました。 ミス・ヴァリエール」

黒髪のメイドは頭を下げ、厨房へと向かった。
無論、紅茶を淹れるが為である。
ルイズはそんなメイドの後ろ姿を見届け、軽く息を吐いた。

――まったく。 どうせ人形を召喚するなら、メイドみたいに従順なのが良かったわ。
偉そうな態度をする真紅を思い出す。
ローゼンメイデンだか知らないが、何にせよ人形。
伝統も歴史も無いただの人形だ。
あれだけの人間に近い人形を作れるのだから世に知れ渡るほどのメイジだろうが、
随分と調教がなっていないものだ。
貴族に対する態度とは思えない。

――……でも、一応今は『主人』だわ。
――そのうち使い魔としての自覚の植え付けるのに変わりはないけど、今は『主人』として『客人』を迎えようじゃない、『今は』。
『今は』を強調する。

ルイズは今の立場が気に入らなかった。
使い魔のくせに、ご主人様を『しもべ』扱いなど許せない。
だが、それは真紅も同じ。
お互いに高いプライドは動かせない。
だからの打開策としての『主人』と『客人』。

しかし、いつかこの関係を『ご主人様』と『使い魔』に変えてみせる。
貴族として、ヴァリエール公爵家の娘として当たり前の事。

――その為には……あぁ。
思い出した。
この状況を打破するものではなく、今しなければならない事だ。

今のルイズは、本人の気はどうあれ『主人』。
主人とは客人をもてなすものだ。
ルイズの足は、自分の部屋ではなくメイドが向かった方へ向いた。

――これは『主人』としての義務なんだから。
そう自分を納得させながら。


ドアを叩いたルイズを迎えたのは、真紅でも黒髪のメイドでもなく大柄の平民だった。
ドアが開いた瞬間に、料理の香りがする。
これは夕食に出たスープのものと同じだった。

そこは、学院に奉仕する使用人達が料理をする厨房。
ルイズの様な貴族にはほとんど縁の無い場所である。

「これはこれは、貴族様。
この様な場所に一体何の御用ですかな?」
言葉は敬ったものだが、そこに敬意ではなく侮蔑に似たものが混じっている。

――なによ、平民のくせに。
自分より縦や横の幅が大きい平民をやや睨むと、ルイズは言った。

「明日より私の隣に、貴族のものと同じ、しかしサイズは小さい食事と背の高い椅子を用意しなさい」
一方的に言うと踵を返し、足早に去っていく。
本来貴族はこの様な場所に居るべきではない。
それでも居たのは、あくまでも『主人』としての義務だ。

ルイズの後方で平民が強く扉を閉める音がした。
しかし構わない。

――貴族が羨ましいのね。
やや勘違いの事を考えていたから。

――そういえば、私……。
言うことは聞かない、自分を『しもべ』扱いするとはいえ、
召喚したのは実に精巧な人形。
何度も思う様に、アレを作れるのだから『お父様』がスクウェアなのは間違いない。
しかも自分に反抗するという、気にいらないが意思もある。

そんな人形を召喚したという事は、自分は将来有望なメイジになれるということか。
人形。
つまり、土系統か水系統なのだろう。
『烈風のカリン』とその名を轟かせた自分の母と同じ風系統ではないのは残念だ。
だが水は、幼馴染みであり敬愛するアンリエッタ王女と同じになる。
土は、微妙なところだが。

しかし、少なくとも自分は『ゼロ』ではない。
サモン・サーヴァント、コントラクト・サーヴァントが出来た。
それが何よりもの証拠。

――そうよ。 きっとこれは、始祖ブリミルが私にお与えになった試練なんだわ。
――あの使い魔を完全に従えさせたその時、私はヴァリエール公爵家の娘として誇れるメイジになれるのだわ!
そう思えば心が晴れやかになった。

「あら。 誰かと思えば『ゼロ』のルイズじゃない」
後ろから声がかかる。
その声は、非常に聞き覚えなあるものだった。

「何かしら、ツェルプストー?」

「……」
普段のルイズからは想像出来ない、非常に清々しい笑顔。
貴族として、むしろ令嬢としてこれ以上無い笑顔で、振り向いた。
声をかけたキュルケはやや唖然とする。
こんなに余裕のあるルイズは初めてだ。

――どうやら、あの使い魔とは上手くやっているみたいね。
家同士の確執は関係無く、年下の少し生意気な妹の様に思っていたキュルケは内心微笑む。
少し前にルイズが、情熱ではなく高貴さを感じさせる赤いドレスの人形を上品に抱いて来た時には少し驚いたが、
どうやら恙無く、穏やかに主従関係を持つ事が出来たらしい。


もっとも、現実は違ったが。


――それでこそヴァリエールだわ。
余裕のあるルイズ。
手のかかる妹が少し大人に成長したようで、嬉しいやら寂しいやら。
だが、それでこそ自分のライバルに相応しい。
周囲が何と言おうとルイズは自分のライバルだ。

「こんな時間に出歩くだなんて、珍しいわね」

「そうかしら?
でも確かに、普段から男と歩く誰かさんとは違って珍しい事ね」
輝かしい笑顔、最大値到達。

「あら。
今日の私は男を連れていないわよ?」
キュルケは自分の後ろを見る。
居るのは、ルイズよりも小柄な眼鏡をかけた青い髪の少女。
視線は手にした本を向いている。
その少女の事は、よく知っていた。

――ミス・タバサだわ。 ……よくツェルプストーと居るけど、まさか。
嫌な予感が駆け巡る。

「流石はツェルプストーね。
年下の、それも同性を相手にするなんて」

「タバサはれっきとした親友よ。
友達が居ない何処かの誰かさんとは違って、私は話をする相手が居るわ」

――う。
少しだけ痛い所を突かれた。

ルイズには親友どころか友人も居ない。
学院とはいえ、居るのは使用人を除けば生徒は貴族の令息令嬢、教師も貴族。
今のうちに仲良くなり、将来に使える繋がりを作る事も学院に在籍する目的の一つだ。
しかしルイズにはその繋がりがない。

遡れば王家の血を引く公爵家。
とはいえ、しなくても良いという理由にはならない。

それに、何をするにしても自分の近くには話をする友人が居ないのはとても辛い。
話をするといえば、キュルケくらいなものである。
とはいえ友人ではない。
ルイズとしてはそこのところは、はっきりさせておきたい。
断固、友人ではないと。

「タバサったら、放っておいたら図書館で夜を明かす事になるもの。
別に悪い事ではないけど、女性としては夜更かしは良くないものね」

「……気にならない」
タバサが呟いた。

「気にしなさい。
今はまだ若いからなんとでもなるけど、年をとってからは肌がボロボロになってしまうから。
あなたが気にしなくても私が気にするのよ、さ、タバサ。
部屋に戻るわよ」

「…………」
小さく頷いた。
逆らうつもりは全く無いのだろう。

ルイズは知らないが、今までタバサは図書館に入り浸っていたのをキュルケがなんとか連れ出したのだ。
その努力は、キュルケが男を陥落させるに必要な労力の数倍。

自分達の部屋に向かおうと数歩足を進めた時に、キュルケは振り向いた。

「ルイズ、あなたも早く寝ないと、寝坊するわよ」


「寝坊なんてするワケないじゃない!」
実技は酷いが座学は誰にも負けない。
実技のマイナスを座学のプラスで相殺しているのだ。
故に、寝坊による遅刻など有り得ない。
有り得てはならない。

憤るルイズにキュルケは軽く笑むと、今度こそタバサを連れて去っていった。
キュルケが去った方を暫し睨むと、ルイズもそちらへ歩き始めた。
もう少しすればメイドが紅茶を持ってくる。
紅茶を冷ますなど、許せない。




「自由に動き自由に話をする人形。
ローゼンメイデン、か」

「はい、オールド・オスマン。
あれほどに精巧な人形は初めてです」

学院長室。
生徒が滅多に近寄らないその部屋に、三人は居た。
一人は頭の砂漠化絶賛進行中の教師コルベール。
一人は緑の髪をした知的な女性、黙々と作業をする秘書ロングビル。
そして一人は、髭をたくわえた威厳ある老人、学院長であるオスマン。

「ローゼンメイデン……。
聞いた事は無いのぅ、さぞや高名なメイジの作品じゃろうが」

「人形……ゴーレムを操る土系統のスクウェアメイジに、あそこまでの物を作れる者が居るという話も聞いた事がありません」

「ふむ……」
オスマンは右手で髭を撫でる。

余った左手は腰に当てられていた。
その原因は老人らしいぎっくり腰ではなく、『とある人物』による蹴り。
理由も、その『とある人物』を怒らせたから。
その問題の『とある人物』は、素知らぬ顔で書類にペンを走らせる。

「しかし、アレに似たものを見た事はあります。
私は一度も動いた所を見た事はありませんが……」
コルベールがそう言うとオスマンが息を吐いた。
コルベールの言う『アレ』とは即ち真紅の事。
それに似たものとは、この学院の宝物庫にある物である。
作業をするロングビルの手が動くのを止めた。

「『破壊の人形』の事かのう?」
オスマンがちらりとコルベールを見れば、
「はい」
と頷く。

「あんな人形は『破壊の人形』とミス・ヴァリエールの使い魔の二つしか知りません。
おそらく、同じメイジの手によるものでしょう」

「そうなるのう」

――同じメイジではないという方が、信じがたい事だ。
コルベールは思う。

あれほどの人形を作れるメイジが世に出た事が無いなど、不思議な話だ。
およそ土系統のスクウェアクラスだろうが、何故、コルベールやオスマンですら知らないのか。
もしかしたら世から離れて暮らすメイジなのやもしれない、だが、何故そのメイジの作品があるのだろう。
真紅が、ではない。
『破壊の人形』が、だ。

「オールド・オスマン。
あなたがあの『破壊の人形』を手に入れたのですよね。
あなたの言を疑うという失礼の事をします、しかしあなたは作ったメイジを知っているのでは……」

「ワシは知らん。
ただ、作り主らしき人物を『お父様』と呼んだのは、事実じゃがのう」
首を横に振りオスマンは答えた。

――へぇ、『破壊の人形』に似たものがあるだなんてねぇ。
ロングビルは思う。
彼女、ロングビルとは偽りの名。
『土くれ』のフーケと言えば、気付く貴族は居るだろう。
そのフーケの名も偽りにすぎないのだが、彼女がその名を名乗るのはたった一人の前でのみ。
血の繋がりは無い、それでも彼女にとって大切な妹。

――あんなに見た目も良いんだ、二体セットにすればさぞかし売れるだろうねぇ。
――でも片方は使い魔……諦めるしか無いか。 まぁ良いさ、元々の目標さえ手に入ればそれで十分な金が入る。
彼女が欲しいのは名声ではなく金。
全ては、妹の為に。

「それと、オールド・オスマン。
使い魔の額のルーンの事ですが……」
コルベールは、紙に書いたルーンの模写を見せる。

「これは、珍しいルーンじゃのう。
ミスタ・コルベール。 このルーンを調べてはくれぬか、図書館の深夜使用許可は出す」

「ありがとうございます」
そう言うと紙を仕舞い、コルベールは一礼すると部屋を退出した。
残るのは、オスマンとロングビルのみ。


「『お父様』、のう……」
オスマンは回想する。

それは昔の事。
若き頃の彼を、結果としてワイバーンより救った人形の少女。

真紅が紅薔薇ならばあの少女は。

「……ついでにミスタ・コルベールに頼めば良かった」
ローゼンメイデンについて、を。
彼はやや悔いながらもいつもの様に、ロングビルの尻に手を伸ばすのだった。



「ルイズ、何なのかしらこの落書きは?」

「何って。 使い魔のルーンじゃない」
部屋に戻ったルイズを迎えたのは、やや顔を赤らめ怒り奮闘といった様子の真紅だった。
真紅が窓から空を見上げた時、夜である為に鏡のように映った、
普段髪に隠れた自分の額に妙なものが見えた。
それは、文字の様なもの。
見覚えなど無い。

「お父様のくださった体に傷を付けるだなんて、付けるだなんて……」
怒りと悲しみが混ざった声だ。

「何も落ち込む事はないじゃない! 私だって勝手に指輪付けられたのよ!」

「あなたのは装身具として振る舞えるじゃない。
でもこれは消えないわ!」
額には少し擦った様な後が残っている。

「私にはあんたの『しもべ』の証があるのに私の『使い魔』のルーンを拒絶するだなんて卑怯よ!」

「レディの体に傷を付ける事が問題だと言っているのよ!
こんな傷があるだなんて……」
黒髪のメイドが紅茶を運んでくるまで、二人の言い争いは続くのだった。


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