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第27話 家族 前編





 ルイズとなのはが公爵寮に入ったと判ったのは、地元民達の熱烈な歓迎によってであった。
 王家の紋章を付けた馬車が、同時に公爵家の紋章を付けた小旗を掲げているのだ。地元の民達が紋章学なぞ知るわけはないが、さすがにこの二つの紋章だけは見ただけでなんであるかが判った。
 農民達の声にルイズが顔を出すと、その声はいっそう強まった。ルイズが魔法を使えない『ゼロ』だったということは、実のところ地元ではあまり知られていない。
 というか気にされてもいなかった。公爵家の城で働いている者達はともかく、普通の平民にとって見れば、ルイズは『魔法を学びに』学院に行ったのである。それ以前に魔法が使えないと聞いても、ずいぶん奥手の姫様なのだな位にしか思われていなかったのだ。
 だから彼らの目には、ルイズの慣れ親しんだあの期待と蔑みの複雑に絡んだ色は浮かんでいない。
 ごく当たり前に先触れがはしり、途中の村の宿で歓迎の手筈が整えられ、日が暮れる頃に入った村の様子は『ようこそルイズ姫様』という垂れ幕がかかっていないのが不思議な様子になっていた。

 「いつもこんな調子なんですか?」
 「わりと、ね」

 なのはは驚いたが、ルイズはわりと平静だ。なのははふと故郷での甲子園優勝チームの凱旋を思い出していた。そしてそういうものか、と納得する。
 ついでに疑問に思ったことを聞いてみた。
 「今夜はここで一泊みたいですけど、お城までまだかかるんですか?」
 「ここからだと半日くらいよ。朝に出て昼に付く位かしら」
 もっとも、多分こちらの出発は昼前くらいになるかしら、とルイズは付け加える。
 「先触れは出ているけど、私たちが朝早く出ると、城側の準備が大変なのよ。いくらこちらが少人数とはいえ、王家の馬車で送ってもらっているでしょ? だから彼らを普通の使用人と一緒には出来ないの」
 「あ、普通の使用人なら適当にあしらえますけど、王家ゆかりとなると、それなりにというわけですね」
 「そう。だとすると準備の手間が倍加するから、あんまり早く行くと城の使用人達が大変なのよ。それに……」
 そこで少し口ごもると同時に含み笑いをするルイズ。
 「私たちはともかく、貴族には朝弱い人が多いから」
 納得するなのはだった。
 もっとも、この気遣いは画餅に終わったりする。



 王都からラ・ヴァリエールの城までは、馬車だとだいたい二日程度の距離になる。貴人の乗る馬車なのでかなりのんびりと走ることになるが、今回のルイズ達を載せた馬車はやや速めの速度で城へと向かっていた。
 少し急げば、領内のこの村までたどり着けると判っていたからである。実際、ちょうどこの村に着いたところで日が暮れた。ここで一泊すると同時に先触れを出し、明日城に入るという手順になる。
 ここまでは予想通りであったが、翌朝、思わぬ手順違いが来襲した。
 こんなときでも欠かさない朝のトレーニングを終えたなのはが、こっそりと宿まで戻ってきた時だった。ちなみにこっそりなのはここは魔法学院とは違い、まわりの人がなのはが魔法を使えるとは思っていないからだ。
 さすがにロマリアのような場所に行った時は取りやめているが、こういう場所の場合は極力訓練は欠かさないなのはだった。
 朝の早い農家の人には散歩だと言って、人目に付かなそうな近くの森で日課の練習をしてきたなのはが宿に戻ると、何故かそこに出た時にはなかったやたらと大きな馬車がでんと止まっていた。ワゴンタイプのもので、十人以上は乗れそうなものだ。
 「あの、この馬車は……」
 なのはが近くにいた宿のおかみさんに尋ねてみると、彼女は笑顔のまま答えを教えてくれた。
 「ああ、先ほどカトレア様がおいでになりましてね。カトレア様はそりゃもう昔からルイズ様をかわいがっていらっしゃいましたから。お躰があんまり丈夫じゃないんですが、そんなもの吹き飛ばしたみたいに」
 「ちいねぇさまっ! ちょ、ちっと! 苦し……なのは~っ! 助けて~!」
 おかみの言葉を遮るように、明らかにルイズのものと判る悲鳴が宿中に響き渡った。
 なのはは苦笑いを浮かべると、おかみさんに頭を下げつつ言った。
 「助け出してきます」
 「はいはい、よろしくね」



 なのはが部屋の前に来ると、大きく開け放たれた扉から声が漏れていた。部屋に入ると、寝室まで扉が全部開けっ放しになっている。道理で悲鳴が聞こえたわけであった。
 「失礼します」
 無意味とは思いつつも声を掛けてなのはが寝室に入ると、ベッドの上でルイズが彼女と同じような桃色がかった髪の女性に抱きすくめられていた。
 「あ、なのは、お願い、ちょっとちいねえさま何とかして!」
 「何とかしてと言われましても……」
 さすがになのはも少し困る。ちいねえさま、と呼ばれていることからすると、二人いるという姉の内の小さい方、公爵家の次女に当たる女性なのはすぐに想像が付く。
 だがそんな相手を力尽くではぎ取るわけにも行かない。
 もっともなのはの逡巡はすぐに解消された。なのはの気配に気がついたのか、彼女はすぐにルイズに対する抱擁を解いて、なのはの方を見たからであった。
 その彼女を見て、なのはは少し驚いた。ルイズによく似た顔、それでいて大人の体つき。
 ルイスがもう少し大人らしく成長して、かつ胸が育ったらこんな人になるのではないかという容姿を、彼女は持っていた。
 一瞬、同じ女性でありながら見とれてしまう、そんな独特の雰囲気のある女性であった。
 が、慌ててなのははその目の前の彼女に対して礼をする。この場において、彼女はルイズの上位者に当たるのだ。一月くらいの間に染まったなあと内心思いつつも、なのはは使用人としてふさわしい立場を取るべく頭を下げた。
 ところがその瞬間、場の雰囲気が唐突に変わった。言葉に出来るものではない。なのになのはは、はっきりと辺りの空気がピンと張り詰めたような印象を受けた。
 「ち、ちいねえさま?」
 とまどったようなルイズの声が、その緊張に拍車を掛ける。
 「顔を上げてくださらないかしら」
 「わっ」
 頭を下げていたなのはの耳に落ち着いた女性の声が入った。顔を上げると、目の前に女性の顔があり、なのはは彼女らしくもなく慌てて後ずさってしまった。
 慌てて改めて頭を下げ直し、謝るなのは。
 「す、すみません、失礼いたしました」
 「謝らなくてもいいんですのよ、先生」
 一瞬、沈黙が場を満たした。
 「せんせい?」
 「って、なのはが?」
 なのはとルイズは、思わずそう聞き返してしまう。
 そんな二人の様子に、なのはと同じ高さまで下げていた頭を元に戻すと、ばつの悪そうな笑顔を浮かべながら言った。
 「あら、わたしまた間違えてしまったかしら」
 「ちいねえさま、なのははわたしの大切な使い魔なの。先生って言うのも、間違いじゃないけどちょっと違うわ」
 「あら、そうだったの。ごめんなさいね」
 そう言ってルイズの頭をなでるカトレア。その様子を見て、なのはは奇妙な戸惑いにとらわれていた。
 その光景には一片の曇りもない。カトレアというルイズの姉らしき女性が、心からルイズを大切にしているのは一目でわかる。
 なのに何故かなのはの胸には、一抹のかげりがどうしても離れてくれなかった。



 「それじゃ夕方早めにつくようにすればいいのね」
 「ええ。多分同じ頃にお父様も国境付近の視察から戻られるはずよ」
 カトレアはただ単に妹にじゃれに来たわけではなかった。先触れに対する返答を持ってきたのだった。
 もっとも本来なら病弱な彼女がそんなことを受け持つはずがない。それにかこつけて無理矢理出てきたというのは、ルイズを含めたヴァリエール領の人間には自明のことであった。
 理由はともかく、カトレアの話によれば、今日の夕方にちょうど父親であるヴァリエール公爵も戻ってくるとのことである。
 「だとすると結構時間空いちゃうわね……どうしようかなあ。この辺から半日ないんじゃ、なのはに見せてあげられる場所もないし」
 「お気遣いは結構ですよ。そうでなくても、久しぶりとなれば、つもる話はいっぱいあるのではないですか?」
 そんな会話をしつつも、実のところ、なのははまだ少しとまどったままであった。
 今彼女たちが会話しているのは、宿の食堂である。こちらの常識に合わせるなら、ルイズとカトレアは宿の部屋で食事を取り、なのはが名目上とはいえ使用人として給仕をするのが本来の筈である。
 なのにカトレアは、そもそもここへ来るのにさえ御者以外の使用人を誰一人つれておらず、こうして食事の際にもごく当たり前になのはを同席させている。ただでさえ病気がちだというのに。
 どうやらカトレアは、この国の貴族にしては珍しいくらい身分意識の低い人物だと、なのはは思った。こうしてまわりに宿の人や村人がいてもまるで気にしていない。かといって無視しているわけでもないのも見て取れる。
 そしてルイズは、真剣に悩んでいた。
 「まあ、あると言えば……あるわね。でも殆どはお父様も同席していないと」
 「あら、ルイズ。あなた、そんなに話しづらいことばかりしていたの?」
 穏和な彼女が眼を細めると、とたんに慌て出すルイズ。
 「い、いえ、その、ちょっとものすごい複雑な事情が……」
 「あらあら、身内にも話せないことなの? でもお父様にはだなんて」
 「そういう事じゃありません! ちょっと国家きみむぐっ」
 さすがにそこから先はなのはが後ろから口を押さえる羽目になった。
 「申し訳ありませんカトレア様。そのへんの話はいささか事情がありまして、さすがにこの場でとは」
 「あら、ここはヴァリエールの領内よ」
 「それでも、です」
 そういいきるなのはに、カトレアはちょっと残念そうにしながらも言った。
 「わかったわ。じゃあしかたありませんわね。時間までは、あの子達を遊ばせてあげましょう。よければなのはさんも遊んであげてくださらないかしら」
 「あの、わたしのことはなのはとお呼びください。人目もありますし」
 さすがになのはにも、カトレアがなのはのことをさん付けで呼ぶのがこの世界の常識から外れていることは理解できた。
 「そうですか? わたしは敬意を払うべき人にそういう呼び方をするのは好きではないのですが……しかたありませんね」
 なのははカトレアに対する人物評がますます混乱するのを、必死になって押さえなければならなかった。







 日が中天を過ぎたのち、ルイズ達はカトレアの乗ってきた大型馬車で城に向かうことになった。王宮からの馬車はここで引き返すことになる。本来なら城まで送り届けるべきなのだが、当主の娘が直々に出迎えに来たので、それは不要になったからだ。
 「疲れた~」
 「さすがに、同感です」
 馬車の中で、ルイズとなのはは思いっきりへたれていた。
 その馬車の中には、ものすごくたくさんの動物たちがいた。虎や熊と言った猛獣までが、おとなしくカトレアになついている。
 先ほどまでルイズ達は、村はずれの野原で彼ら達と飛び回る羽目になっていたのだ。
 ある意味気が気ではなかったが、虎や熊も決して人を襲おうとはせず、そのあまりにもおとなしい様子から、どちらかがカトレアの使い魔なのではないかと勘違いしたほどだった。
 馬車に乗って少し気力の回復したなのはが聞いてみたところ、
 「残念ですけど、違いますのよ」
 と、当のカトレアからあっさりと否定されてしまった。
 「今はわりと調子がいいのですけど、わたしは昔から、魔法を使うと具合が悪くなってしまうんですの。ですので使い魔召喚のような、長い集中を必要とする魔法には耐えられないのですわ」
 それを聞いたなのはは、ふと親友のことを思い出していた。そして自分のことも。
 「あの、カトレア様の病気は、魔法を使うと悪くなるのですか? 後これは確認なんですけれども、水の魔法では治らない病なのですよね」
 「ええ。幼い頃から、父が八方手を尽くして名医に当たってくれましたが、どなたも答えは同じ。私の躰には、水の魔法で直すべきところがないそうなのです」
 「そうなの。全体的に体が弱ってはいるけど、どこかが壊れているっていうことはないって」
 ルイズもそう補足する。
 なのはにはこの症状に覚えがあった。この世界でも直せないとなれば、可能性は大変に高い。
 意外な事だが、ハルケギニアの医療技術は、ある意味においてミッドチルダのそれすら上回っている。
 生理学や病理学については遅れているのだろうが、こと治療に関してはこの世界の魔法医療はミッドチルダを上回る。水の魔法による治療技術は、拒絶反応すら無効化する図抜けたずるさがあった。
 もっともそれにかかる諸費用などは社会的事情から高騰し、平民の手に届かないものになっているが、これはカトレアには当てはまらない。彼女には望むかぎりの治療が受けられる地位と財力が付いている。
 ならば彼女の病は身体の故障である可能性は少ない。そして魔法を使うと不調になるというあからさまな理由。
 ミッドチルダなら出てくる病名は一つだ。
 リンカーコア障害。
 かつて親友である八神はやてが、闇の書の侵食によってリンカーコアから魔力を奪われ、下半身麻痺の障害を負っていた。
 なのは自身も、魔力を蒐集された時全身の不調を訴えた。
 リンカーコアは非物理的な存在であるが、間違いなく肉体面に影響を及ぼす、『姿なき肉体』なのである。
 ましてやこの世界の貴族は、遺伝的にリンカーコアにユニゾンデバイスが融合して生まれてくるのだ。本来なら異常が出まくって当然なくらいである。
 そんな話をついぞ聞いたことがなかったからには、その融合はある意味完全な、完成されたものなのだろう。だが物事に完全はそうあり得るものではない。
 おそらくカトレアは、リンカーコアそのものか、あるいはユニゾンデバイスたるレゾナンスコアとの接合に異常を来しているのであろう。
 魔力によるストレスは、間違いなく肉体に悪影響を及ぼす。そもそも非殺傷攻撃そのものがそのことを利用しているし、はやてのような症例もある。
 だがそれが判ったとしても、現時点ではなのはに出来ることは何も無い。ミッドチルダの医療機関で検査すれば原因は発見できるであろうが、この世界内においては診断すら出来ないに違いない。
 黙ってしまったなのはを見て、カトレアはルイズに向かって話しかけた。
 「なのはさんは、お優しい方なのですね」
 「え、ちいねえさま、いきなり何を……その通りですけど」
 「うふふ、今度は間違わなかったみたいね」
 「ですがちいねえさま、なんでいきなりそんなことを?」
 疑問系になった妹の言葉に、カトレアは優しく答えた。
 「彼女はいろいろと判っているみたいですから。ルイズ、あなたは本当によい人と巡り会えたのね」
 「ちいねえさま、本気で何を言ってるのか判んないわ!」
 ルイズが混乱しかけた時、馬車はちょうど城へ到着した。





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