あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

失われた世界から新世界へ-05


 静まり返った学院を、二つの月が照らす。その光が、本塔の5階に相当する外壁に垂直に立つ
女性の姿を、おぼろげに浮かび上がらせていた。
 学院長の秘書ロングビルだ。その美貌と理知的で柔らかな物腰から、学院の男たちから熱い眼差しを
送られる事も多い彼女。しかし今の彼女は、昼間の顔が嘘のように、冷たく狡猾な目をしていた。
その目は今、足元に向けられている。何かを探るようにすり足で壁の上を歩き、時折つま先で軽く叩く。
「フン、さすがは魔法学院。中にいるヤツらはクソったればかりだけど、モノは良い。軍隊に攻撃されても
数ヶ月は持つってのも、まんざらホラでもないか」
 ブツブツと呟きながらすり足を続けていたロングビルの足が、ピタリと止まった。サッと跪き、手を壁に
つける。そこにはひび割れが縦横に走っていた。場所は、今は明りの消えている学院長室の窓の真下。
「あの時の爆発……。もしやと思ったけど、大当たりだね」
 ロングビルの口元に笑みが浮かんだ。
「こんな所で何をしている」
 突然背後から掛かった声に、ロングビルは声も無く叫んだ。顔を引きつらせ、弾かれたように振り返る。
わずか数メイル離れた所に、ルイズを抱えた超戦士たちが滞空していた。
「星空を見上げながら詩を書いてた、ってわけでも無さそうだな」
 ニヤリと笑ってモヒカンの超戦士が言う。しかし、茶化すような台詞とは裏腹に、彼らのサテライトは
警戒するように両者の間に回りこんでいた。
「ミス・ロングビル?」
 ルイズが、蒼白になったロングビルの顔を見て、怪訝な顔で声を発した。
「知り合いか?」
「学院長の秘書をやってる方だけど……」
 ロングビルはじっとりと額に汗を浮かべ、唇を震わせている。
「秘書か。で? そんな忙しそうな姉ちゃんが、こんな所で何をしてるんだ?」
 改めて投げかけられた問いは、重苦しい圧力がこもっていた。
 ロングビルが身じろぎする。その足が壁のヒビに引っかかった。その瞬間、彼女は身を強張らせた。
「ん? どうした、答えられないのか?」
 金髪の超戦士が、さらに低い声で問うた時、ロングビルは突然大きなため息をつき、胸元に手をやって
責めるような視線を超戦士に向けた。
「お、驚かさないでください! 危うくレビテーションが切れて墜落する所でしたわ!」
「なに?」
 怪訝な表情をする金髪の超戦士に、ロングビルは強い口調で言葉を続ける。
「貴方たちこそに何をなさってるんです? 貴族の子女がこんな時間に」
「おいおい、質問してるのはこっちだぜ」
 眉根を寄せて、モヒカンの超戦士が返す。
「私は仕事をしていたんです。予定外の、ですけれども」
 腕を組み、ため息交じりに彼女は言う。
「こんな所で、こんな時間にか」
「ええ。言いにくい事ですけれど、ミス・ヴァリエールに関係する事で」
「わたしに?」
 突然名前を出され、ルイズが目を丸くする。
「どう言うこった」
「ここを」
 そう言うと、ロングビルはしゃがんで壁のひび割れを手で示した。
「ひび?」
「昼間の決闘騒ぎの際、ミス・ヴァリエールの爆発が当たった場所ですわ」
 ルイズが息を飲んだ。
「そう言やぁ、あの時この辺りから砂埃が上がってたが」
「こ、固定化が掛かってるはずじゃ……」
 うろたえたような声を出すルイズ。
 立ち上がって手の埃を払い、ロングビルが答える。
「私もそう聞いていますが、施術者が手抜きをした所に運悪く当たってしまったか……」
 そう言って眼鏡を掛け直し、彼女は続ける。
「理由はどうあれ問題ですわ、ミス・ヴァリエール。教室を半壊させ、決闘騒ぎを起こし、さらに本塔にも
傷をつけてしまった。これほど不始末が重なっては、ご実家に連絡を──」
「それだけはっ!!」
「うおっ!」
 蒼白な顔で悲鳴のような声を上げ、ルイズが身を乗り出した。危うくバランスを崩しそうになり、金髪の
超戦士が慌てて抱きなおす。
「お願いします! 実家に連絡するのだけは、どうか!」
 胸の前で手を組み、目に涙を浮かべながら懇願するルイズ。
 鬼気迫るその物言いに、ロングビルは思わずのけぞった。
「お、落ち着いて、ミス・ヴァリエール」
 襟を正し、コホンと一つ咳払いをして、ロングビルは続ける。
「この壁を完璧に補修するとなれば、スクウェアメイジによる固定化が必要となるので、その費用は
大変な高額となります。残念ながら、学院の予算ではまかなえないでしょう。そうなるとどうしても、
ヴァリエール卿に出資していただく、と言う事になるかと」
「そんな……」
 ルイズが、この世の終わりと言った顔で俯く。ロングビルも、口に手を当てて考え込むように顔を
伏せた。しかし、手で覆われたその口元には、狡猾な笑みが浮かんでいた。
「そんなにおっかねえのか、お嬢ちゃんのオヤジは」
 ルイズのあまりの絶望ぶりに、心配そうにモヒカンの超戦士が尋ねる。
「お父様より、お母様よ……ズタズタにされるわ、わたし……」
「おいおい、穏やかじゃねえな」
「そして領地に引き戻されて、一生屋敷の中から出してもらえないわ……もうおしまいよ……」
 どんどんと絶望の底に沈みこんでいくルイズ。
「なんとかならねえのか、秘書さんよ」
 さすがに気の毒になったのか、金髪の超戦士がロングビルに訊いた。
 すると、彼女はしかつめらしく顔を上げ、腕組みをした。
「私としても、ミス・ヴァリエールのような優秀な生徒の前途を奪う事はしたくないのですが……」
 そう言った後、ハッと気づいたような顔になり、続いて難しい顔になって唸った。
 その様子を見て、モヒカンの超戦士が尋ねる。
「何か妙案でもあるのか?」
 彼の言葉に、ルイズが顔を上げ、すがる様な目でロングビルを見つめる。
「ええ。私が個人で補修するのですわ。幸い、調査に来たのは命令があっての事ではありませんし」
「無かった事にしよう、ってわけか」
「そ、それは……」
 たじろぐルイズ。
 ロングビルは、そんなルイズを真正面から見据えて、言葉を掛けた。
「ミス・ヴァリエール。貴方が貴族の誇りを重んじる方だと言うのは存じております。自分の過ちを
糊塗するような事は、貴方にとっては承服しかねるでしょう。でも、これは貴方の為だけではないのです」
 困惑した顔で、ルイズはロングビルを見返した。ロングビルは言葉を続ける。
「一介の生徒の魔法で、壁が崩れるなど 、学院にとっても不名誉な事ですわ。そんな事が王宮や
有力貴族に知れたら、彼らは嬉々として学院の不備をあげつらい、運営にまで介入してくるでしょう。
今は、オールド・オスマンの権威によって中立が保たれていますが、そうなれば学院が政治の舞台と
なってしまいますわ」
 そこで言葉を切り、ロングビルはルイズの反応を伺う。ルイズは眉根を寄せ、額に汗を浮かべて
不安の色を隠そうともせずに、ロングビルの言葉を待っている。
「最悪の場合、学院を巡って貴族同士の紛争が起こる事も……」
「そんな!」
 ルイズが色めき立って声を上げた。超戦士も驚いて唸る。
「そんな事が有り得るのか?」
「十分に。ここには各地から貴族の子弟が集まっています。当然、反目しあう貴族の子弟も。有力貴族と
それに取り入ろうとする者たちで作られた派閥もあります」
「……火薬庫だな。一度火がつけば、大爆発」
 金髪の超戦士が呟いた。ロングビルも深刻な顔で頷く。
「ええ。学院は中立であるべきなんです」
 そう言って、ロングビルはルイズに顔を向けた。
「ですから、ミス・ヴァリエール。ここは無かった事にしませんか? 私も平和なこの学院を、汚い政治の
舞台にしたくはないんです」
 唇を震わせ、瞬きもせずにロングビルを見返すルイズ。色の消えた頬を、汗が伝う。
「そうしましょう? ね?」
 にっこりと笑ってロングビルが念を押す。
 手を強く握り、目を伏せるルイズ。やがて小さく頷き、呟いた。
「分かりました」
 ロングビルの笑顔が蛇のようなそれに変わった事に、ルイズも、ルイズを心配そうに見ていた超戦士も
気づかなかった。

 翌日から、ルイズは謹慎処分を受ける事になった。入浴時以外の外出を禁じられたルイズは、
食事も運ばれて来たもので済ませる。
 その朝食を運んできたのは、自ら役目を買って出たと言うシエスタだ。スプーンすら持たせない
奉仕ぶりを見せる彼女に、終始押されっぱなしのまま、ルイズは朝食を終えた。
「何を食べたのかさっぱり分からなかったわ。なんなのかしら、あの子……」
 シエスタが出て行ってからルイズがそう呟くと、モヒカンの超戦士が、
「あれも罰の一環なんだろうさ」
 ニヤリと笑ってそう言った。
 奇妙な疲労感を覚えて朝食を終えたルイズは、机に向かって参考書を開く。もともと勤勉な彼女は、
授業に出なくともその空いた時間を無為に過ごすことは無かった。
 一方の超戦士たちはと言うと、部屋の掃除を済ませてしまうと、後はもうやる事がない。手慰みに銃の
手入れをして時間を潰すだけだった。
「お、そうだ」
 そんな時、モヒカンの超戦士が思い出したように顔を上げた。
「お嬢ちゃん、ちょっといいか」
「なに?」
 手を止めて振り返るルイズ。
「時計を調達したいんだが、ここで手に入るのか?」
「時計? 何で?」
 怪訝な表情をするルイズに、超戦士は肩を竦める。
「昨日はお嬢ちゃんを起こす時間に遅れちまったからな。時計がねえと、色々不便だぜ」
「ああ、そうだったわね」
 その話を聞いて、ルイズが不機嫌な顔になった。手に持っていた羽ペンで額をつつきながら、
「そうねぇ……」
 と考え込む。
「安物でいいぜ、時間がわかりゃそれでいい」
 金髪の超戦士が、そう付け加えた。ルイズが頷く。
「なら、街に行きましょ。取り寄せもできるけど、高くなるし。謹慎明けがちょうど虚無の曜日だから、
その日に」
「オーケーだ。それでいこう」
 モヒカンの超戦士がそう言った時、ノックの音がした。
 ドアに目をやってから、ルイズが不思議そうな顔をした。
「誰かしら、こんな時間に」
 どうぞ、と彼女が声を掛けると、ドアを開けてロングビルが入ってきた。鼻白むルイズ。
「失礼いたします、ミス・ヴァリエール」
 穏やかな笑顔を浮かべて、ロングビルがルイズに頷きかける。
「ご、ごきげんよう、ミス・ロングビル。……今日は何か?」
 やや上ずった声で挨拶を返し、無意識に首を竦めて、ルイズが尋ねた。
「ええ。不躾なのですが、使い魔の二人をお貸し願えないかと思って」
「こいつらを?」
 目を丸くして、ルイズが超戦士たちを振り返る。
「なんだ? 化け物の団体さんでもお出でなすったか?」
「ヌードモデルなら他をあたってくれや。体に自信がねえんでな」
 口の端を上げてそう言ったモヒカンの超戦士に、ルイズは口を半開きにして汚物を見る目を向ける。
「まあ、うふふ」
 口元に手を当て、目を細めて笑ってから、ロングビルが言葉を続ける。
「残念ながら、どちらも違いますわ。少し、力仕事をお願いしたいのですけれど」
「俺たちは構わねえが──」
 そう言いながら、金髪の超戦士がルイズに顔を向けた。その視線に気づいたルイズは、顔を
引き締めて一つ咳払いをすると、ロングビルに向き直った。
「分かりました。存分にお使いください」
「ありがとうございます。では、参りましょうか」
 ロングビルに促され、超戦士たちが立ち上がる。部屋を横切る彼らを見ていたルイズは、ふと、彼らの
頭上に浮かぶサテライトに目を留めた。
「ねえ、あんたたち。その浮かんでるの、置いてったら?」
 その言葉に超戦士たちが振り返る。ひょいと肩を竦めて、金髪の超戦士が言葉を返す。
「こいつとリンクしてると、体の調子がいいのさ」
「力が沸いてくるしな。仕事するには、あった方がいいぜ」
 ふうん、と気の無い返事をするルイズ。
「失礼ですけど、それは何なんです? 何かのマジックアイテムですか?」
 隣でやり取りを聞いていたロングビルが、超戦士たちに尋ねる。
「そんなようなもんだ。俺たちの商売道具さ」
「ま、ここじゃただの飾りみてえなもんだがな」
「興味深いですわね」
 眼鏡を指で押し上げて、彼女はサテライトをしげしげと眺める。
「私、マジックアイテムの研究に力を注いでおりますの。後で使い方を教えていただけません? もし
良ければ、私も使ってみたいのですが」
 超戦士たちに顔を向け、目を光らせるロングビル。
「使い方を教えるのは構わねえが、こいつは俺たち以外には使えねえぜ?」
 肩を竦めて金髪の超戦士がそう言うと、ロングビルの顔から興味の色が音を立てて消えた。
「あら、それは残念ですわ。では、ミス・ヴァリエール、使い魔さんたちをお借りしますわね」
 ルイズに向かって一礼し、ロングビルは踵を返してスタスタと歩いていった。
 彼女の豹変に、怪訝な顔を見合わせて肩を竦めあってから、超戦士たちも後を追う。
 ドアが閉まり、室内が静まり返る。ふう、と一つため息をついてルイズが机に向き直った時、再びドアが
ノックされた。
「失礼します」
「うっ……」
 ルイズが呻いて顔をしかめたのと、ドアが開いたのはほぼ同時だった。油の切れたブリキ細工の
ように、ぎこちなくルイズが振り返る。入り口に立っていたのは、輝く笑顔をしたシエスタだった。

 授業が終わり、生徒たちが三々五々、教室から食堂へ向かう。
 その人の流れに逆らって、コルベールが歩いていた。両手に、彼自身が考案した奇妙な道具を
抱えている。彼は、午前の授業時間の大半を使って、その道具のすばらしさを熱弁したが、生徒の
反応は芳しくなかった。
「まったく、最近の生徒ときたら、新しいものに挑戦する意欲と言うものが──」
 などとグチりながら自身の研究室に向かっていた彼は、塔の陰から出た所で、ふと足を止めた。
 彼の視線の先では、超戦士たちが、工具片手に奉公人の宿舎の屋根に登っていた。
「あれは、ミス・ヴァリエールの……」
 塔の陰に身を隠し、コルベールは彼らの様子を観察する。
 力任せに屋根板を剥がし、それを軒下に放り出す超戦士たち。
 板の落ちる先を目で追ったコルベールは、屋根を見上げて立つロングビルに気づいた。怪訝な顔をして
しばらく考え込んだ彼は、ふむ、と区切りをつけるように唸ると、塔の陰から出て彼女に近づいていった。
 彼の抱える道具がカチャカチャと鳴る音に気づき、ロングビルが振り返る。
「ごきげんよう、ミス・ロングビル」
 朗らかな笑顔で挨拶するコルベールに、ロングビルも笑顔で挨拶を返す。
「ごきげんよう、ミスタ・コルベール。授業はいかがでした?」
「はは、これの説明にだいぶ時間を割いたのですが、あまり理解してもらえなかったようです」
 そう言いながら、手に持った道具を持ち上げて見せるコルベール。
「それは残念でしたわね。ところで、それは一体何ですの?」
「これはですな……!」
 コルベールの目が光った。ロングビルはしまったと言う顔になったが、時既に遅し。彼は持っていた
道具を地面に下ろし、かがみ込んで忙しなくセッティングを始めていた。
「簡単に言うと、湯気で風車を回す道具なのです。ここの部分に──」
 そう言いながら、三脚を溶接した鍋のような部分を示す。
「水が入ってまして、これに蓋をして密閉します」
 漏斗を逆さにして管の部分を横に曲げたような蓋を鍋に取り付け、フックで固定する。
「そして火にかける」
 鍋の下で杖を振り、火を起こすコルベール。猛烈な火力で熱せられた水があっという間に沸騰し、
蓋についた細い管から湯気が出始めた。
「この湯気の先に風車を置くと、ほうら!」
 台に固定された風車が置かれ、湯気を受けて回り始める。
「風車が回りますぞ! どうです? すごいでしょう!?」
 目を輝かせて声を上ずらせるコルベールに、ロングビルは困ったような顔を返す。
「そ、そうですわね。非常にその、なんと言いますか……素晴らしいですわ」
 おほほ、と空笑いをする彼女の反応に、コルベールががっくりと肩を落とした。
 超戦士たちが投げ下ろした屋根板が、地面に跳ね返って乾いた音を立てた。
 雨でずぶ濡れになった捨て犬のような目をそちらに向けるコルベール。
「……彼らは、何を?」
「雨漏りの修理をしていただいているのですわ」
 話題が変わった事を喜ぶかのように、ロングビルが急いで答えた。
「ずいぶん前から、雨漏りがすると報告があったのですが、奉公人たちは自分の仕事に忙しくて、補修に
手が回りませんでしたの」
「そこで彼らに、と言うわけですか」
「ええ。ミス・ヴァリエールも謹慎中ですし、手も空いているかと思って」
 そうですか、と言いながら、屋根を見上げていた顔を下ろしたコルベールは、積まれた材木の側に
置かれたバスケットに気づいた。中には、麦パンで作ったサンドイッチとチーズ、それにワインが入って
いる。むむむ、と唸ってそれを見つめたコルベールが、やおら立ち上がった。
「なるほど、そう言うことでしたら、私も一肌脱ぎましょう!」
「えっ?」
「この材木を持っていけばいいんですな?」
 そう言って、スタスタと積まれた材木に歩み寄る。
「そ、そんな、結構ですわ。ご自分のお仕事もおありでしょう?」
「いやいや、午後は授業もありませんし、どうせ研究にしか使わん時間です。それに、こう見えて工作の
腕には自信がありますぞ!」
 自信に満ちた顔で材木に手を掛けるコルベール。そして勢いよく持ち上げようとした瞬間、鈍い音が
響いた。
「あ゛っ! あだだっ!!」
 苦悶の表情を浮かべ、コルベールが倒れた。
「こ、腰がっ! あだだだだっ!!!」
「ちょ、ミスタ・コルベール!」
 慌ててロングビルが側にかがみ込む。
「ミスタ、大丈夫ですか? ミスタ!?」
 うーうーと呻き声を上げるコルベールと、彼を介抱しようとしているロングビルを屋根から見下ろし、
金髪の超戦士が呆れ顔をした。
「何をしてんだ? あのおっさんは」
 相方の言葉に、モヒカンの超戦士はニヤリと笑って返す。
「見りゃ分かるだろ? 青春してるのさ」

 ランプの光が、鏡かと見紛う程に磨き上げられた床に反射している。ルイズの部屋は、わずか半日で
学院のどの部屋よりも美しくクリーンアップされた。木製の机ですら、金属のような光沢を放っている。
 その机に、ルイズが向かっている。積み上げられた本と、びっしりと書き込まれた羊皮紙の束が、
彼女のその日の成果を物語っていた。しかし、今、ルイズの目は机の上に広げられた本には向けられて
いない。彼女は、思い悩むように窓の外を見ていた。
 月を隠していた雲が晴れ、淡い光が差し込んできた。
 それを契機としたのか、うん、と小さく頷き、開いていた本を勢いよく閉じて、ルイズが立ち上がった。
「そろそろお休みか?」
 磨き上げられ過ぎた床に腰が落ち着かず、壁に背を預けて立っていた金髪の超戦士が、ルイズに
声を掛けた。
「まだよ」
 短く答えながら、ルイズが窓に歩み寄る。鍵を外して開け放つと、超戦士たちを振り返って言った。
「学院の外に連れて行ってちょうだい」
 超戦士たちが驚いた顔になる。
「今からか? いったい何をするつもりだ?」
「魔法の練習をするのよ」
 そう言って、ルイズは小さく首をかしげた。
「部屋の中でバカスカ爆発させるわけにもいかないでしょ? 近所迷惑だし」
「いいのか? 外出禁止なんだろ?」
 金髪の超戦士がそう訊くと、ルイズは窓の外に顔を向けた。
「……考えたの。教室を壊したのも、本塔にひびを入れたのも、ギーシュに負けたのも、結局は魔法が
上手く使えなかったせい。わたしが魔法を使おうとすればするほど、悪いほうに転がっていく。これじゃ、
ゼロどころかマイナスだわ」
 ため息をついて、ルイズが向き直る。
「なら、一生魔法を使わずにいればいい? わたしはそんなのイヤよ。だから、練習したいの。
あんたたちを呼び出した感触が残ってるうちに」
 彼女のまっすぐな目を受け止め、超戦士たちは口元を緩ませた。
 その夜、学院から遠く離れた草原では、二つの月が中天を過ぎるまで爆発音が響き続けた。

つづく


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