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狂蛇の使い魔-21



第二十一話



部屋で身支度を整えたルイズは、キュルケ、タバサ、ギーシュの三人と共に城のホールへと向かった。
パーティーの開始時刻より少し早く到着したルイズたちであったが、ホールは既に大勢の貴族たちで賑わっていた。
豪華に彩られた会場に負けじと、貴族たちも精一杯に着飾り、ホールの中は目が眩むかのようなきらびやかさに包まれていた。
国が物資に困窮しているという話を聞き、もっと質素なものを想像していたルイズたちは、この光景に目を丸くしていた。しかし、驚きはすぐにパーティーの雰囲気に打ち消され、しばらくするとそれぞれ目当ての場所へと散らばっていった。
そんな中、ルイズだけはその場に留まっていた。

(どうして……どうして笑っていられるの?)

会場内は常に貴族たちの笑い声で溢れていた。明日には国が滅びるかもしれないというのに、会場にいる誰もが悲しむような素振りを見せず、明るく振る舞っている――。ルイズはこの光景に、違和感しか感じることができなかった。
しばらくして、パーティーの雰囲気に耐えきれなくなったルイズは、こっそりとホールを飛び出した。


「まったく……いくら私が素敵だからって、よってたかって話しかけてくるなんて、マナー違反だわ」

疲れた様子のキュルケが、部屋に戻ろうと暗い廊下をひた進んでいた。時には口説かれ、時には料理を勧められ、何十人という貴族たちを休む間もなく相手にし続けた末、ようやくパーティーを抜け出して来たのである。
明日に備えて、今日は早めに寝ようかしら、などと考えながら歩いていると、途中、窓の外を眺めている人影が見えた。月明かりの逆光でも目立つ桃色の髪は、紛れもなくルイズのものであった。

「あら、ルイズも出てきちゃったの? ま、それもそうよね。次から次へと話しかけてくるんですもの」

やれやれといった感じで、キュルケは肩をすくめた。

「しかも変な料理まで勧めてきたのよ? 青いスープの麺料理の上に、フルーツがたくさん乗ってるの。ラ・メーンとかいう名前だったけど、あれはどう見ても人間の食べられる料理じゃ……って、ちょっと! どこ行くのよ!」

話を無視して立ち去ろうとするルイズを、キュルケはあわてて引き止めた。

「……なによ。今はあんたと話したい気分じゃないわ」
「もう、またしんみりしちゃって。今度は何? 言ってみなさいよ」
「別になんでもないわよ。いいからほっといて」

歩き出そうとしたルイズの目の前に、キュルケが立ちふさがった。腰に手を当て、まっすぐルイズの顔を優しい笑顔で見つめる。

「そんなこと言わないで、ほら。言っちゃった方が楽になるわよ?」
「……」

初めは話すのをためらっていたルイズだったが、しばらくすると、ゆっくりと窓の方を向き直しながら、口を開いた。

「……姫様は、なんで私なんかにこんな大切な任務を任せたのかしら」

窓の外を眺めながら、呟くように言った。ルイズの隣で、キュルケも夜空に目を向けた。

「私より有能な人なんて、王宮にはたくさんいるはずなのに、なんで私なんかに……」
「そりゃあ、親友だからじゃない?」
「そんな理由で? 私には魔法が使えないのよ?」
「他に理由ないじゃない」

素っ気ない答えに、ルイズがむっとした顔で、キュルケの横顔を睨み付けた。当のキュルケは、窓のふちに肘を置き、頬杖をついている。真っ赤な髪が、窓から吹き込む風になびいていた。

「困っていたら迷わず助ける、それが親友ってものよ。いつまで経っても魔法が使えなくて、おまけに使い魔に虐められて落ち込んでるあんたに手を差しのべてあげるのは、親友として当たり前でしょ?」
「それはそうかもしれないけど……だからって、なんでこんな仕事を?」
「あんたに、やればできるっていう自信をつけてあげたかったんじゃない? それか、お姫さまがあんたをどれだけ信用して、頼りにしているのかを分かってもらいたかったのかもしれないわね」

風で乱れた前髪を手で払いながら、キュルケは夜空に輝く月を見上げた。

「とにかく、あんたは姫さまに期待されてるんだから、無事に仕事を終わらせてその期待に応えなさい。あとは帰るだけなんだから、ね?」
「……そうね、そうよね」

不安で固くなだった表情を綻ばせて、ルイズが笑った。
しばらくの間、二人で窓の外を眺めた後、ルイズが再び口を開いた。

「私、怖かったんだ。明日にはもう何もかもがなくなってしまうのに、笑っていられるこの城の人たちがすごく怖くて、不安になってきちゃったのよ」
「……」
「それで、これまでずっと思っていたことが、頭の中いっぱいに広がって……とても辛かった。でも、キュルケのおかげで楽になったわ。ありがとう」

そう言って、ルイズはにっこりと笑ってみせた。しかし、ルイズに初めて笑顔で感謝されたキュルケは、呆然とその顔を見つめていた。

「なに? 私、なにかおかしいことでも言った?」
「……あんた、やっぱり変わったわねぇ。前はあたしにありがとうなんて、意地でも言おうとしなかったのに。あいつにやられたのが、そんなに堪えたのかしら?」

ルイズは、フーケを捕らえに行った時のことを思い出した。使い魔に牙を向かれ、自分がどれだけ無力な存在なのかを叩きつけられた、あの出来事――。

「……そうね。私は変わったわ」

寂しげな笑顔で、ルイズはもう一度、窓の外に目をやった。

『少しは身の程を知ったらどうだ?』

あの後、アサクラに言われた一言で、ルイズはこれまでの自分の態度を改めようとした。誰の役にも立てず、必要とされないのならば、あまりでしゃばらずにひっそりとしていた方がいい、と。
また、誰かに必要とされたい、と今まで以上に渇望するようになった。アサクラに、ワルドに、そして今のキュルケとの会話によって、この思いは幾分満たされてきたように思えた。
しかし同時に、こんな役立たずの自分が本当に必要にされているのか、と疑心暗鬼に陥ることもあった。結局、不安は募る一方だった。

それでも――

「変わらなくちゃ、いけなかったんだ」
「え? 何か言った?」
「ううん、何でもない。……なんか体が冷えてきちゃったから、先に部屋に戻るわね」
「……ルイズ!」

部屋に向かってそそくさと歩き始めたルイズを、キュルケが後ろから呼び止めた。

「無理はしないでよね。何かあったら、私たちに言いなさいよ?」
「……うん。そうするわ」

返事をすると、ルイズは再び歩き始めた。
その後ろ姿を、キュルケが寂しげな表情で見送っていた。
翌朝……。
キュルケ、タバサ、ギーシュの三人は、迫りくる戦禍から逃れるため、ニューカッスルの人々とともに『イーグル号』に乗り込んでいた。トリステインからの使いということで、三人には他の客とは別に、貴族専用の一室が与えられていた。
貴族専用とはいうものの、部屋の中身は平民も貴族も全く変わらず、狭くも広くもない空間に、窓が一つと多段ベッドがあるだけであり、ある程度の華やかさを期待していたキュルケとギーシュは、やや落胆ぎみであった。

「シケた部屋ねぇ。もっと気の利いた家具とか飾りとかなかったのかしら? 仮にも他国の大使なのに、こんな待遇じゃああんまりだわ」
「混んでるんだし、仕方ないさ。他の部屋みたいに、十人近くと相部屋するよりはマシだろう?」

木製の固い床の上に座りながら、キュルケとギーシュが言った。タバサは相変わらず読書に夢中である。
何もない部屋を眺める度に、僕もタバサのように本でも持ってくればよかったな、とギーシュは思うのだった。

「そういえば、ルイズやアサクラの姿が見えないな。彼らはどうしたんだい?」
「ルイズなら、まだやり残したことがあるって言ってたわよ。一緒に行くって言ったのに、思いきり断られちゃった」

キュルケがつまらなそうに答えた。

「アサクラは知らないけど、大体分かる気がするわ。タバサは何か聞いてない?」

隣にいるタバサに話を振ると、タバサは読んでいる本から目を離すことなく、淡々と答えた。

「遊びに行く、と言っていた」

遊びとはなんなのか、その行く先はどこなのかを一瞬で悟った二人は、呆れたように溜め息をついたのだった。

一方、当の浅倉はというと、二人が予想した通り、戦場の真っ只中へとやってきていた。

「まだ始まっていないのか。つまらんな」

王蛇に変身した浅倉が立っているのは、ニューカッスル城にある、最後の砦とも言うべき城門の上であった。見下ろせば、城門から少し離れた場所に、数百人のレコン・キスタ軍がひしめいているのが見える。
アルビオン軍の総員300人のうち、その大部分が城門に当てられているのだが、それでも敵の一部隊には及ばなかった。しかも、後方にはまだ約5万の兵が控えているのである。勝敗は決まりきっていた。
早朝から睨み合っている両軍は、たまにメイジの魔法による小競り合いがあるものの、未だ目立った動きを見せていなかった。
アルビオン側は、敵の総攻撃に備えて少しでも力を温存しておきたいし、対するレコン・キスタ側は、城を攻略するための本隊が到着するまで、本格的な攻撃をする必要がなかったからである。
お互いにそれが分かっていたため、両軍の間には一時の沈黙が保たれていたのだが、浅倉にとっては、沈黙した戦場ほど腹立たしいものはなかった。

「まあいい。始まらないなら、俺が勝手に始めてやる!」

デルフリンガーを手に取ると、王蛇は城門から勢いよく飛び降りた。


「な、なんだお前は!?」

いきなり現れた謎の敵兵に、レコン・キスタの兵たちは慌てて武器を構えた。紫色の奇妙な鎧を着た王蛇を、レコン・キスタ兵たちは敵と認識し、その周りを囲むと、槍や剣、弓、銃、そしてメイジの持つ杖を、一斉に彼へと向けた。

「この時を楽しみにしてきたんだ……。少しは楽しませろよ?」

敵に囲まれているにも関わらず、王蛇は首を回しながら、嬉しそうに呟いた。そして、一歩足を踏み出すと、手近にいた兵士に、思いきり剣を振り降ろした。

「がっ……!」

短い断末魔とともに、兵士は持っていた剣ごと叩き斬られ、絶命した。返り血をその身に浴びながら、王蛇は次の標的を見つけると、すかさず剣で薙ぎ払った。
吹き飛ばされた兵士を確認することもなく、今度は呆然としていたメイジを捉えると、剣を握った方の手で殴り倒し、続けざまにその隣にいたメイジを左足で蹴り上げた。
兵士たちが唖然としている間に、次々に獲物を見つけては、それを斬り伏せ、蹴り飛ばし、殴り倒す――。
恐るべきスピードで、周りを囲んでいた数十人の兵士を蹴散らすと、本能の求めるがままに、更に敵陣の奥深くまで突っ込んでいった。
我にかえったレコン・キスタの兵たちの中には、果敢にも王蛇に挑んでいく者もいた。しかし、その圧倒的な力と速さの前に、一人、また一人と地に臥せていく。

「もっとだ! こんなんじゃ全然足りねえッ!! もっと戦えッ!!」

瞬く間に半数以上の兵を失ったレコン・キスタの兵たちは、背後から聞こえる雄叫びに怯えながら、一目散に本陣へと逃げ帰って行った。
同じ頃、ルイズはワルドと共に、ニューカッスル城の一角にある礼拝堂にいた。
昨日の晩、急にワルドに結婚式を挙げようと言われ、ろくに準備もできないまま、朝早くからこの場に連れてこられたのであった。着いてすぐにアルビオンの礼装に着替えさせられると、目の前でウェールズが詔を読み上げ、式が始まった。
三人しかいない静かな礼拝堂に、ウェールズの声が響き渡る。その声を聞きながら、ルイズはまだぼんやりとしている頭で考えていた。

(なんで、ワルド様はこんなにも急ぐのかしら……)

確かに、結婚を拒む理由はないのだが、何もこんな忙しい時に結婚式をやらなくてもよかったのではないだろうか。帰ってからでも遅くはないのに、こんな戦場の真っ只中で結婚式を開いたのは、なぜだろうか……。
彼を信じてはいるものの、どこか納得がいかなかった。

「……新婦?」

俯いて考えごとをしているルイズを、ワルドとウェールズが見つめていた。ルイズが慌てて顔を上げると、ウェールズは咳払いをし、再び詔を読み上げ始めた。

「……新婦、ラ・ヴァリエール公爵三女、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。汝は始祖ブリミルの名において、このものを敬い、愛し、そして夫とすることを誓いますか」

一瞬、どう答えようかと迷ったルイズだったが、今はワルド様を信じようという気持ちが勝り、誓いの言葉を述べようと、口を開く。
しかし、突如開かれた礼拝堂の扉の音で、ルイズの声はかき消されてしまった。

「何事だ!」

ウェールズが、扉から現れたアルビオンの兵士に向かって叫んだ。

「大変でございます! 城門前にいたレコン・キスタの一部隊が、何者かの攻撃によって壊滅! 撤退を始めました!」
「なにっ!? 城門前にいた我が精鋭部隊が、敗れただと……!?」

ウェールズよりも先に、ワルドが驚きの声をあげた。言い終わった後で、その顔に「しまった」という表情を浮かべた。
ウェールズはその様子をいぶかしみながら、兵士に下がるように命令を下した。

「僕もすぐそちらへ向かう。君は戻って、皆に待機しているよう伝えてくれ」
「はっ!」

兵士が去って行くのを見届けると、ウェールズはワルドの方を向き直り、問いただした。
「子爵。今の発言は、一体どういう意味だ? きみは何か知っているのか?」

無言でたたずむワルドに向かって、ウェールズが鋭い視線を投げかける。ルイズは、目の前の二人を見比べながら、事の成り行きを見守っていた。
しばしの沈黙の後、ウェールズが再び問いつめようとしたところで、ワルドの口が開いた。

「……こういうことですよ。プリンス・オブ・ウェールズ」

ワルドがにやり、と口角を吊り上げた。その意味を悟ったウェールズが杖を構えるよりも早く、ワルドは呪文を詠唱すると、引き抜いた杖をウェールズめがけて真っ直ぐに突き出した。

「ぐっ……!!」

ウェールズが呻き声をあげ、持っていた杖を取り落とす。魔法によって淡い光を纏ったワルドの杖が、その無防備な胸をしっかりと貫いていた。
流れるような動作から繰り出された一撃は、まさに『閃光』の如く、一瞬にして敵の命を奪い去ったのであった。

「殿下!? そ、そんな……!!」

豹変したワルドと、崩れ落ちたウェールズの二人の姿に、ルイズは思わず後ずさった。

「あの男のせいでだいぶ予定が狂ってしまったが……まあ、遅かれ早かれこうなる運命だったのだから、よしとしよう。それよりルイズ、君には見苦しいところを見せてしまったね」

横で呻き苦しむウェールズをよそに、ワルドはルイズに向けて微笑みかけた。いつも通りの優しい笑顔だったが、その眼差しは冷たく、まるで獲物を狙っているかのような非情な目をしていた。

「ワルド様……あなたもしかして……!?」
「そうだ。僕は貴族派『レコン・キスタ』の一員だったのさ」

ルイズは驚愕した。この数日間、ルイズたちと共に戦い、共に進んできたはずのワルドが、実は敵の内通者だったのだ。
特に、ルイズとは婚約者であったのだ。受けた衝撃は計り知れないものがあった。

「本当に……本当に裏切ったのですか?」
「裏切った、だって? 僕は正しいと思う道を選んだだけさ。……それより」

ワルドはルイズの目前まで歩み寄ると、ルイズの顎をくいと上げ、互いの吐息が届くぐらいに顔を近づけて、言った。

「結婚式の続きだ。僕の花嫁になるのか、ここで哀れな骸を晒すか、選びたまえ」

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