あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ゼロのロリカード-45


 アーカードと、――――――そしてアンデルセン。
常人ならば心臓すら止まりそうな・・・・・・。
その殺気の満ち満ちた空間で動けるのは――――――原因となっている、二人だけであった。
底冷えするような空気の中、キュルケやタバサは当然。コルベールも、アニエスですら動けなかった。
アーカードは困惑の色こそ浮かんだが、宿敵の姿にそんな瑣末なことは頭の中から霞のように消えていた。

 アンデルセンは大股に歩を進め、アーカードへと近付いていく。
互いの間合いに入り、今にも壮絶で凄惨な殺し合いが始まりそうなその雰囲気。
・・・・・・しかし、そんな一触即発の状況は一方的に解かれた。

 アンデルセンが・・・・・・いきなりそれを抑え込んだのである。
アーカードはそこでようやく、思い出したかのように困惑する。
何故トリステインに、それも学院にアンデルセンがいるのか。
そしてなによりも、ここに来て何故・・・・・・殺意を抑えたのか。

「はぁ・・・・・・全く、勘弁しておくれよアンデルセン神父」
アーカードが何故かを問おうとした直前。
弛緩した空気に言葉を発したのは、アンデルセンの後方にいる人物だった。
フードを被った人物――――声からすれば女性――――が近付いて来る。

 女のフードはアニエスのように日差しを防ぐ為ではなく、顔を隠す為のそれである。
フードの奥の瞳が、その場にいる者達を見渡す。
「やっぱりいないね・・・・・・」
女は深い溜息を吐いた後にそう言った。
「二度とアンタとは会いたくなかったんだけどねぇ、まっしょうがないさね」
そう言うと、女はフードを取って顔を見せる。そこには・・・・・・見知った顔がいた。
かつて学院に勤め、破壊の杖を奪い、アーカードに敗れた盗賊。

「『土くれ』のフーケ・・・・・・!?」
「ミス・ロングビルッ!?」
キュルケとコルベールは声を上げ、タバサは無言で杖をフーケへと向け身構える。
アーカードはその瞳に、ただ疑問だけを浮かべていた。
フーケはタバサの反応に両手を上げ、敵意が無いことを示す。
「そう構えないでおくれ。別にお礼参りに来たとか、そういうわけじゃない。
 その説は世話になったけどねぇ・・・・・・それはそれ。今は別の用があって来たんだよ」

「どうだか」
と、キュルケ。タバサは抑揚のない冷たい瞳で、フーケを睨んだまま動かない。


 すると、フーケは「やれやれ」と言って杖を出す。
一瞬緊張が走るものの、フーケはそれを躊躇なく地面へと放り捨てた。
フーケは再度両手を上げて、目まで瞑って敵意が無いことを示す。
「これでいいかい?話だけでも聞いて欲しいんだけどねぇ。それからでも遅くないだろ?」

「・・・・・・ティファニア、か」
片瞳だけ開き、アーカードがその名を口にする。
かつてアルビオンで会った、アンデルセンを召喚したハーフエルフの少女の名前。

 アンデルセンが学院くんだりまで足を運び、しかも一度は出した殺意を抑えたという事実。
今にも殺し合いが始まってもおかしくない状況で、そのような行動を取る理由はそれしか考えられない。
ガリア王ジョゼフは虚無の担い手を集めている。当然ルイズだけでなく、ティファニアも例外ではない。
一度捕まり脱走したらしいフーケが、何故ここにいるのかまでは不明であったが・・・・・・。

「そうさ、わたしの可愛い妹が攫われちまってね」
「妹?」
「わたしにとっちゃ妹みたいな存在ってことさ。娘とも言えるね、つまりは大切な家族。
 シェフィールド・・・・・・いや、本当の名はウォルターと言ってたか、あんの小僧。ったく、まんまとハメられたよ。
 神父から話は聞いた。アンタんとこの主人、あの小娘も虚無の担い手なんだってね。
 もしかしたらと思ったけど、・・・・・・遅かったみたいだねぇ。先回りしてとっ捕まえようと思ってたんだけど」

 そう言うとフーケは、聞いてもいないティファニアが攫われた時の話をし始めた。




「やっぱり男手があると楽だねぇ」
フーケもとい――――マチルダ・オブ・サウスゴータ――――は、少し呆けるように言った。
元はアルビオンのシティ・オブ・サウスゴータと、その一帯の領地を支配していた貴族。
王室に逆らった所為で没落し、その後は盗賊に身をやつし、トリステイン魔法学院で秘書をやっていたこともある。
そして破壊の杖を盗み出したものの、吸血鬼アーカードに打ちのめされ、捕まった。
その後、脱走の手引きを受け、アルビオンで仕事をし、紆余曲折を経て今に至る。
そんなマチルダが、何故ここウエストウッド村でのんびりしていると言うと・・・・・・。
心休まる我が家へと帰って来た、ただそれだけであった。

「うん!とっても助かってるわ」
ティファニアが屈託のない笑顔を浮かべる。
マチルダとアンデルセンにジャック、ジム、エマ、サム、サマンサ。
かけがえのない家族が村に揃っていて、これ以上ない幸せを感じていた。

 ――――――ティファニアの父親は、かつてのアルビオン王の弟。
サウスゴータを含むさらに広い一帯の大公であり、アルビオン王家の財宝を管理する財務監督官でもあった。
母親はその妾でエルフ。人間とエルフは本来相容れぬ存在だが、それでもティファニアの両親は愛し合っていた。
当然そんな母とティファニアは、二重の意味で日陰の生活を強いられたが、それでも幸せだった。

 しかしその幸せな日々は突然に崩れ去った。
エルフである母の存在が露見すると、厳格な王はそれを決して許さなかった。
ティファニアと母の二人は、父親の家来だった者の家に一時避難することになるその家来の娘がマチルダであった。
そして最終的に父親は投獄され、母親は殺された。

 ティファニアとマチルダはそんな頃からの付き合い。
父の家来だったその人はティファニアの命の恩人であり、娘のマチルダは姉代わりであった。
マチルダからすれば、ティファニアは妹であり、子供達の里親も同じである。
そして今は親をなくした孤児達を引き取り、小さな村で平穏に暮らしている。
ウエストウッド村はマチルダにとって・・・・・・唯一心を落ち着けることが出来る、自分の家なのだ。


 トリステイン・ゲルマニア連合軍とアルビオンの戦争は終結し、久し振りに村へと足を運んだ。
また食い扶持を探さねばならないものの、今はこの平穏な生活を楽しむのも悪くない。
ある程度の蓄えはあるし、新しいターゲットを定めるまではゆっくりすることにした。

「やっぱりサモン・サーヴァントをして正解だったろう?
 あの時はまさか、人間が召喚されるとは思わなかったけどねぇ」

 ティファニアは一瞬言葉に詰まる。何故人間が召喚されたのか。
既にティファニアは、アンデルセンの出自を知ってしまっている。
何故人間が召喚されたのか、それは自分が虚無の担い手だからだ。ルイズ達と会い、話した時のことを思い出す。
ハルケギニアとは別の、違う世界の住人であるアンデルセン。
元の世界では既に死しており、今はこの世界にいる。
アンデルセンは気にしてない様子であったが、こちらの都合だけで喚んでしまったことには変わりない。
そのなんとない後ろめたさが、少しだけテファの胸中に影を落とす。

 もう大分前の話になるか、ふとした時にマチルダが召喚を提案した。
召喚動物がどんなものでも、役に立たないということはないからだった。
食費の嵩む幻獣だとしても、村の用心棒代わりになればそれはそれで問題なかった。

 そして召喚した結果、人間であるアンデルセンが召喚された。
人間が召喚されることなど、過去の例にも聞いたことない。
それでも一応召喚した者として契約を結ぼうとしたが、キスを交わす際にそれは止められてしまった。
「そういうことは無闇にするものではありません」と。
結局そのままティファニアとアンデルセンは契約しないまま、今もこうして過ごしている。

 ティファニアはマチルダの問いに柔らかく頷いた。
利己的に召喚してしまった罪悪感は多少残るものの、アンデルセン神父は自分の意思でここにいてくれている。
アンデルセンから暖かい情を感じるのは確かだし、言葉でも「大丈夫」と否定してくれた。
アーカードと相対した時の変容は怖かったが、それ以外は皆の父親代わりとして普通に過ごしている。


「・・・・・・にしても、アンデルセン神父。なんか雰囲気変わったかい?」
なんとなく、本当になんとなくなのだが、マチルダはそんな気がしてアンデルセンに問う。
吹けば飛んでしまいそうな僅かな機微。それでもマチルダは感じ取っていた。
それは戦いに身を置く者だからこそ気付く、本当にささやかな変化であった。
「いいえ、そんなことはありませんよ」
アンデルセンは柔和に否定する。その返答に、特に不自然なところは感じなかい。
マチルダは、「そうかい」と自分の勘違いかと頷き納得する。
(なんだかこう少し・・・・・・獣臭、みたいなものを感じたんだけどねぇ)

「いつまでゆっくりしていけるのです?」
アンデルセンは温和な表情で聞いた。
「特に決めてないね、しばらくはのんびりしてく予定さ」
「ホントッ?マチルダ姉さん」
「ああ、本当さ」
ティファニアは「そうなんだぁ」と、心底安心したような笑顔で顔を満たす。

「ふふっそんなに喜ぶことかい?」
「もちろん!やっぱり家族は一緒が嬉しいもの」
ティファニアの吐露した素直な気持ちに、マチルダはなんだかムズ痒く感じた。
金を稼いで家族を養っていく為とはいえ、長く家を空ける日が多かった。
ティファニアはアンデルセンが召喚されるまで、誰に甘えることもなく頑張り続けた。
その所為で・・・・・・寂しい思いをさせてしまった。

 大切な物がまんまと盗み出された貴族の、慌てふためく顔を見るのが愉快だった。
下調べや仕込みに時間は掛かるけれど、一回で得られる報酬も大きく、実益も兼ねた貴族専門の盗賊。
仕事のことは当然皆に隠している。だがその所為で、余計な心配をかけているのもまた事実であった。
それにそこそこ長く続けていた所為か、自分も大分年齢を重ねてしまっていた。
いい加減いつまでも、やんちゃをしているというのも・・・・・・。

(・・・・・・良い頃合かも、知れないねぇ・・・・・・)
ティファニアや子供達にも、外の世界を見てもらいたい。
足を洗い、皆で引っ越し、真っ当に働き、いい男を見つけて結婚する、なんてのも悪くない。


 マチルダがそんな儚い将来のヴィジョンを思い描いている。
と、突然扉が勢いよく開け放たれた。
「エマ・・・?ジム・・・?そんなに急いでどうしたの?」
ティファニアが首を傾げて訊ねた。
「大変なの!」
「よーへーだって!!村長を呼べって!!」
息を切らせたエマとジムが、必死に叫ぶ。

(よーへー・・・・・・、傭兵?)
目を鋭くしたマチルダが椅子から立ち上がる。
するとアンデルセンが手を出して制し、首を左右に振った。
「私が行きましょう」
顔こそ笑顔であったが、眼鏡の奥の瞳は笑っていないことに気付く・・・・・・が。
「・・・・・・あぁ、任せたよ」

 マチルダは座り直す。さしずめ戦争が終わって盗賊業に戻った荒くれ者ってとこだろう。
その程度の連中なら自分と神父、どちらが行っても簡単に治められる。
神父は自分を気遣ってくれているのだ。久し振りに戻ったわたしに、ゆっくり休んでいろと。
だからその心遣いに甘え、自分はのんびりすることにした。

「こっちだ!!」
ジムがアンデルセンを先導し、二人は外へと出て行った。


 不安げな表情を浮かべるエマとティファニアに、マチルダは優しく語り掛ける。
「神父なら大丈夫だよ、安心おし」

 アンデルセンが召喚されまだ間もない頃、只者ではないと軽く手合わせをしたことがあった。
だからアンデルセンの実力は知っている。ゴーレムを作る暇すらなく、負けてしまった。
仮にゴーレムを出せたとしても、全く以て勝てる気がしなかった。
あぁ、そうだ・・・・・。今思えばあの化物、アーカードと戦ったような感じだ。
アンデルセンは、そういう同種の空気を纏っている。

 衰えを感じさせぬ鍛え抜かれた肉体と、長い時間を掛けて洗練された技術。
盗賊紛いの傭兵が何人いようと、仮にメイジが混ざっていようと何も問題はない。

 ティファニアはしがみつくエマの不安を取り除くように、頭を優しく撫でながら聞く。
「他のみんなは?」
「お家にいる」
それならば・・・・・・安心だろう。何も不安がる必要はない・・・・・・筈。
なのだが、ティファニアは自身が抱く不安を払拭できなかった。

 アンデルセンに万が一が起こる不安?
それともアーカードと邂逅した時のように、悪鬼のごとく変貌する不安?
子供たちに何かあるかも知れないという不安?
そのどれでもない。
言い知れぬ漠然とした嫌な予感だけが、何故かティファニアの心の中に在った。




「あんたもしかして・・・・・・アンデルセンって名前かい?」
一人の傭兵の言葉に、アンデルセンの眉が俄かに動く。
ジムと他の子達は既にまとめて一所に避難させた。心配することは何一つない。
子供を人質に取らなかったのは、小さな村一つにそこまでする必要性が無いと考えたからだろう。

 しかしいきなり自分の名を呼ばれたことは不可解極まった。
目の前にいる傭兵の数は十数人ほど。
いずれも顔は知らない。なのに何故、己の名が知られているのか。
(・・・・・・まぁいい)
アンデルセンはクイッと眼鏡を指であげると、恫喝する。

「見逃してやるから今すぐ消え失せろ。そして二度と近付くな」

 はっきり言ってしまえば、異教徒が兆人死のうが、何人死のうが、知ったことではない。
自分にとってかけがえのない大切な者達以外は・・・・・・どうでもいい。
殺すことも厭わないが、ティファニアや子供達を思えばこそ、それは躊躇われた。
闘争とは無縁のこの静かな村を、血で汚したくはない。血生臭い行為をするのはなるべく控えたい。

 それがアンデルセンがこの世界で選んだ生き方。
子供達が心身共に健やかに育つこと。
子供達が平穏な生活を送れるよう守ること。
子供達が泣くようなことが無いように努めること。
もう二度と――――――マクスウェルのような子は生み出さない。
それが、アレクサンド・アンデルセンの願いであり・・・・・・誓いであった。

 敬虔を通り越し狂信的で、暴力的なカトリックであったアンデルセン。
生まれながらの嵐、神罰という名の銃剣、脅威、一つの炸薬、恐ろしい暴風。
そんなアンデルセンは・・・・・・もうこの村にはいない。
もしも鬼になる時があるとするならば・・・・・・。
宿敵であるアーカードを打ち倒す時だけであろう。


「生憎だがこっちも雇われた身分。はいそうですか、ってわけにはいかない」
アンデルセンに少し気圧されるも、傭兵達はそれぞれ武器を構える。
「・・・・・・雇われただと?」
「っと、思わず口が滑っちまったな。ま・・・・・・言うわけねえだろ、常識的に考えて」

 彼らの中に多少なりと実力者がいれば、退くという選択肢が挙がったことだろう。
強者がいたならば、任務を放棄し、雇い主のことを話し、見逃してもらうという選択肢が挙がった筈だ。
しかしアンデルセンとの圧倒的な戦力差の所為で、実力をいまいち計り切れなかったのだった。
ネズミなら象を認識できよう・・・・・・しかし、蟻に象を認識することはできないのだ。



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