あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ゼロと損種実験体-21


 トリステイン魔法学院は平和であった。
 アルビオンとの戦争も、戦場から遠く離れた学院の生徒たちには、どこか他人事というか対岸の火事のような感覚であったからだ。
 だからといって、戦争が始まる前と始まってからで、まったく変化がなかったのかというと、そうでもない。
 何故なら、学院にその戦争に関わった者がいるからである。
 それは、ルイズとアプトムであり、ギーシュとシエスタであった。
 前者二人に対する学院の生徒たちの反応は薄い。ルイズがアルビオンの艦隊を墜としたことはタルブの村人以外には知られていないし、村
人たちもアプトムのことは知らない。そして、詳しいことを知らなければ、ゼロのルイズが一人で何かができるはずがないと誰もが思うので、
特に話を聞きたがる者も少なく、せいぜいキュルケくらいのものであった。
 ただ、シエスタから村をオーク鬼から守ってくれた恩人だと聞いた他のメイドやコックの彼女を見る眼が少しだけ変わったが、その辺りは
些事であろう。
 そして後者二人に対してであるが、こちらはそれなりに騒ぎが起こった。
 なにしろ、ギーシュは危険を顧みずアルビオンに潜入し情報を集め、戦争ではタルブの村人を守るために活躍したと言うのである。これが
本人の口からだけ出た話であれば、またお調子者がいい加減なことを言っているとしか思われなかっただろうが、彼にはアルビオン艦隊が壊
滅した後、アンリエッタの率いる軍に合流したり、その後に王宮に呼び出されたりという事実がある。
 更には、当事者であるシエスタからも事実であると告げられ、しかもお礼だと笑顔で手編みのマフラーなどを送っているのを見ては疑いよ
うがない。
 そんなわけで、学院の生徒たちにちやほやされる事となったギーシュであるが、意外にも彼は、そのことで調子に乗ることが無かった。
 本来お調子者であるギーシュが、ここで自分の立てた手柄を自慢しないということに違和感を感じる者は多かったが、それは好意的に受け
入れられることになった。
 ギーシュとしては、一方的にライバル視しているアプトムが自分よりずっと大きな手柄を立てているのだと思い込んでいるので、この程度
で浮かれて入られないと考えているだけなのだが、そんなことを知らない周囲の者は気取らない彼の姿が大人になったように見えた。
 そして、そんなギーシュに、ちょっとした好意を抱くある少女がいた。
 かつては、ギーシュと付き合っていた少女、モンモラシーである。
 モンモラシーは、ギーシュの浮気性に愛想がつきて、二股をかけられた一件を切欠に別れたのだが、考えてみればその一件以来ギーシュが
他の女の子に声をかけているところを彼女は知らない。さすがに、目を向けもしていないとはいかなかったが。
 それは、ギーシュがアプトムに決闘を申し込み、勝利することを何よりも最優先していたからであるが、その姿は前よりも魅力的に映るも
のであり、よりを戻してもいいかなと彼女に思わせるものであった。
 と言っても、自分からそうしたいと思うほどの好意ではなかったのだ。その光景を見るまでは。
 季節はずれのマフラーを送るメイドと、それをにこやかに受け取るギーシュ。それは両者にとっては、お互いに対する特別な感情のない行
為であったのだが、見ている者が同じように感じるかは話が別である。
 ギーシュに対して、愛想がつきたモンモラシーが、彼に抱く好意は小さなものである。そのはずなのだが、他の人間に取られそうになって
いると思うと、急に惜しくなったのかもしれない。なんだか腹が立ってきたのだ。


 アルビオンから学院に帰ってきて、最初にギーシュがやったのはアプトムに挑戦することである。
 マチルダというトライアングルメイジに師事して力を上げたと信じた彼は、しかし勝てるなどとは思っていなかった。
 相手は、スクウェアメイジと互角にやり合える実力者である。ほんの数日の修行をしたくらいで彼我の差が縮まると思うほどおめでたい頭
はしていない。
 ただ、彼は手ごたえが欲しかったのだ。自分が前に比べて前進したのだという手ごたえが。
 そして、あっさり惨敗した彼は、しかしその顔に笑みを浮かべていたのだった。
 とはいえ、満足には程遠い。少年が真に満足の笑みを浮かべる時が来るのは、真正面から正々堂々とアプトムと勝負し、打ち破った時であ
ろう。まあ無理だが。



 そんな彼は今、モンモラシーに呼ばれ、ワインを飲もうとしていた。
 何故こういう事態になったのか、今一つ彼は把握できていない。
 かといって、そのことに頭を使う余地は今の彼にはない。
 別にモンモラシーに対する想いが消えたわけではない。彼の女好きは完治不可能な病気なようなものだし、今までに好きになった数多の女
の子の中で、一番好きな女の子がモンモラシーであることにも変化はない。
 ただ、今の彼にはそれ以上に重要なことがあるだけなのだ。

 マチルダの教えを受けたギーシュは、彼女と共にいた包帯の男にもアドバイスを受けていた。
 自分より強い相手に勝つために必要なのは、観察することである。相手の能力や戦法を把握し先回りして攻撃を封じておいてこちらの攻撃
だけを決める。それが唯一の方法である。
 平民が自分より強いと認めるのは気に入らないが、事実であるからにはしょうがない。
 だから、今の彼は頭脳を全力で働かせアプトムの一挙手一投足を頭に刻み込み、再戦に備えていた。


 『香水』の二つ名を持つモンモラシーの得意とすることは香水を作ることであったが、それは魔法の薬を作る趣味から派生したものである。
 彼女が作る魔法薬は、基本的に無害なものばかりであったが、たまにはそうでない物を作りたいと思うこともある。
 作るのが趣味なのだ。悪用しようなどとは考えていない。ならば作成や使用の禁止された魔法薬を作っても許されてしかるべきである。
 そう、使うつもりで作ったわけではなかったのだ。惚れ薬などと言うものを。
 だけど、結果として彼女はそれを使った。ギーシュに飲ませるワインに入れてそれを使用した。

「ギーシュって少し変わったわよね」

 そんな言葉をかけたことに大した意味は無い。急に呼び出して、ワインを飲むように勧めた自分の行動に不信感を持たれないように何かを
話しかけてみようと思っただけであるのだが、事実としてギーシュは変わったとモンモラシーは感じていた。
 彼女の知るギーシュは、もっと軽いというか、いい加減な人間であったと思うのだが、今はそう見えないのだから。
 もちろんギーシュの方に、その自覚は無い。彼は自分が変わったとは思っていない。と言うか、根本的な部分で彼は、別に変わってなどい
ない。単純に優先順位の違いなのだ。
 それまでのギーシュは、かわいい女の子と仲良くすることを最優先にしていて、今はアプトムに勝つことを最優先にしている。ただそれだ
けの話。
 だから少年は、自分は変わっただろうかと尋ね、少女は、ええと答える。
 そうして彼は思う。そうか、自分は変わったのかと。
 モンモラシーに何を言われても、やはり自分が変わったという実感は湧かない。だけど、変わったとしたらそれは……、

「多分、アプトムのせいだろう」
「アプトムって、あのルイズの使い魔の平民? なんで、あんなのを気にするわけ?」

 モンモラシーは、ルイズのようにアプトムの獣化の能力を知らない。キュルケのようにアプトムを嫌う理由が無い。タバサのようにアプト
ムが恐怖してしかるべきバケモノだと知らない。
 彼女からすれば、アプトムなど今口にした程度の存在でしかない。
 だけど、ギーシュには違う。彼にとってアプトムは壁なのだ。乗り越えるべき高く分厚い壁。これを越えなければ先には進めない。
 そう告げる少年だが、やはりモンモラシーには納得がいかない。



「どうして、そんなに、あの平民にこだわるの?」

 メイジと決闘して勝てるというのは確かに凄いとは思うが、言ってみればそれだけのこと。メイジ殺しと呼ばれる者たちにも可能なことで
しかない。
 それがモンモラシーの考えであり、ギーシュにも頷けるものではある。
 しかしだ。彼はアプトムの姿を思い浮かべる。自分をまったく見ていない、あの男を。自分と言う存在を取るに足らないと見なしている男
を。
 頭に血が上る。こみ上げてくるのは怒りか憎しみか。渇く喉を潤すためにワインを口に含む。
 自分は認めさせなければならない。アプトムに。あの男の脳裏に自分という存在を刻み込んでやるのだ。

「そうだ。ぼくは……、ぼくは、あいつが……」

 ワインのせいなのか、こみ上げる感情のせいなのか頭の中が真っ赤になる。

「好きだーっ!!」
「え?」
「ふふふ、こんな素敵な屈辱、生まれて初めてさ!! 待ってろよアプトム! 愛してるぞーっ!!」

 そして走り去るギーシュ。その口には、薔薇の造花が咥えられていた。
 そして、その場には事態が飲み込めずにいるモンモラシーが残されたのだった。



 その日、モンモラシーは頭を抱えていた。彼女がギーシュに飲ませたワインに入っていた惚れ薬。それは、違法な代物であった。
 だけど、彼女には、その事を隠し通せる自信があった。元々は女の子にだらしのないギーシュである。その彼が、自分にメロメロになった
としても、学院のみんなは、ああまたかとしか思わないだろうと彼女は確信していた。
 実際にそうなっていた保障はないが、彼女は信じた。だけど、それはスタートの時点で失敗した。
 惚れ薬というのは、飲んで最初に見た相手に恋心を抱くという魔法の薬だ。
 だが、それは例えば最初に見たのが犬や猫なら、獣に惚れるのだろうか?
 見たのが石像や青銅像なら、彫像に惚れるのだろうか?
 否だ。相手を、自分と同じヒトだと認識して、初めて惚れ薬は効力を発揮する。
 では、もし惚れ薬を飲んだものが目の前の誰かを認識することができないほどに、別の誰かのことを考えていた場合はどうなるのか?
 その答えが、目の前にあった。

 アプトムという平民の男に愛を囁く金髪の少年という気色の悪い光景が。

「なんとかしなさいよ!」
「できたら、やってるわよ!」

 文句を言ってくるルイズに怒鳴り返して、モンモラシーは頭を悩ませる。
 こんなはずじゃなかったのに。なんでこうなったの? わたしは悪くないわ。じゃあ、誰が悪いの? そうよ、あの平民が悪いのよ!
 アプトムを睨みつけてやると、視界に入るのは平民に愛を語るギーシュの姿。ついでに、こちらを睨みつけるルイズ。



「あんたが作った惚れ薬のせいで、こうなっちゃったんでしょうが!」
「知らないわよ! わたしだって、こんなことになるなんて思ってなかったわよ!」

 口喧嘩を始める二人の少女を見、次に自分に対して好きだの愛してるだのと繰り返し口にする少年を見るとアプトムはため息を吐く。
 さすがの彼も、このような状況での対応は考えつかない。というか、考えたくない。
 ただ、魔法というものについて思うことがある。
 彼は、魔法というものは戦闘に関して役に立つものではないと思っていた。先に戦争でルイズが使った魔法は別としてだが。
 しかし、この惚れ薬という心を操る薬などは、彼から見てもかなり強力な兵器になると思える。
 方向性に、かなりの問題があるが。

「どうしたんだいアプトム? そんな熱い眼差しを向けられると、ぼくは、その視線だけで燃え尽きてしまいそうだよ」

 熱い眼差しとやらを向けて来ているのは、お前の方だろうと、氷点下の視線でギーシュを見てから、アプトムはモンモラシーに顔を向ける。

「で? こいつは、いつ治るんだ?」
「個人差があるけど、一ヶ月か一年くらいじゃないかしら?」
「なによ、それ! そんなに長い間、このホモーシュを連れて歩けって言うつもり?」

 耳元で叫ぶルイズに、モンモラシーは耳を押さえる。

「わたしだって嫌よ、そんなの! でも、しょうがないでしょ! 解除薬は作ってないんだから!」
「じゃあ、作ればいいじゃない!」
「それが出来ないから困ってるのよ! 惚れ薬も解除薬も、作るのには高価な秘薬が必要なの! 惚れ薬を作るのに、お金は全部使っちゃっ
て、もう残ってないのよ!」
「いばって言わないでよバカ!」
「あんたに言われたくないわよゼロ!」
「落ち着け」

 二人して、アプトムに首根っこをつかまれ、猫の子のように持ち上げられたモンモラシーは「平民のクセになにすんのよ」と怒りに顔を赤
くし、慣れてるルイズは「何?」と、彼に顔を向ける。

「秘薬とやらを買う金が必要なら貸してやる」

 貸すって、平民が出せる金額じゃないわよ。と馬鹿にしたように見返すモンモラシーを降ろし、金貨の詰まった袋を差し出してみせる。

「え? 嘘? なんで、こんなに持ってるのよ?」

 驚いて尋ねてくるが、答える気はない。アンリエッタに貰ったものだなどというわけにもいかない。

「これで、足りないというなら諦めるが、そうじゃないなら、必要な分だけ持って行け」




 そう言うアプトムに、足りるわよと答え、秘薬を買うのに必要な金額より少しだけ多めの金貨を持って出て行く。
 その時、ちらっと眼を向けて見たギーシュは、自分はアプトムに相手にしてもらえないのに。と、モンモラシーを嫉妬に満ちた眼で見てい
た。

 だけど結局、秘薬は手に入らず、彼らは秘薬を求め短い旅に出ることになるのだが、今より少し前に比較的親しい間柄にある二人の少女が
同じ方向に旅行に出かけたことも、旅先で出会うことになることも、今の彼らが知るはずはなかった。




 土くれのフーケが座る椅子の横には、怪我人が眠るベッドがあった。
 正確には怪我人の眠るベッドの横にある椅子に腰掛けていると言うべきなのだが、その辺りはどうでもいい。
 そこに眠るのは、自分をレコン・キスタという組織に引っ張り込んだ男だが、さて自分は何をやっているんだろうかと考えてしまう。
 彼女が、レコン・キスタに入った理由は選択の余地が無かったからというものでしかない。
 入るならよし、入らないなら殺す。そんな二択。
 逃げられるものならそうしたのだが、向こうはこちらの素性を知っている。もし逃げて、自分の身内に危害を加えられたらと思うと、そう
するわけにはいかなかった。
 だけど、ここに来て何もしないで日々を過ごしていたわけではない。自分の素性を知るのが、ここにいる怪我人以外には、レコン・キスタ
の最高権力者オリヴァー・クロムウェルと、その秘書だけだということも、後者の二人が自分に対して大した興味を持っていないことも、そ
してこの三人が、自分の素性は知っていても、身内に関する情報を持っていないことも、把握している。
 つまり、潮時なのだ。たいしと給料が出るわけでもないことだし、さっさと抜けたほうがいいのではないかと彼女は思う。
 こいつさえ、いなきゃねぇ。と壁を背に立つ一人の男を横目に覗く。
 彼女が、その男のことで知っていることは少ない。バケモノだということと、虚無の魔法に興味を持っているということだけである。
 自分が抜けたところで、男はなんとも思わないだろう。クロムウェルと秘書も同じだ。
 だが、寝ている怪我人はどうだろう? このワルドという子爵は、彼女の事を役に立ちそうな手駒としか思っていないわけだが、その手駒
が裏切った場合、どう考えるのかが今一つ予測できない。
 子爵は手駒と言えるものをフーケしか持っていない。だから、フーケがいなくなれば彼は孤立する。
 その時、彼は自分を放っておいてくれるだろうか? ワルドには他に手駒がいない。だけど、それは命令をする相手がいないというわけで
はない。
 ワルドは、この組織で最もクロムウェルの近くにいる人間の一人である。その彼が命じれば、クロムウェルに近づきたいと思っているバケ
モノさんは黙って従うかもしれない。それが、彼女を殺せという命令でもだ。
 それはゴメンだと思うので、彼女は抜けられない。
 まったく困ったものだと彼女は、ため息を吐くのであった。



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