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赤目の使い魔-02



血痕が線となって続き、その源である男は尚も死から逃れんと、両手を動かす。
自らの血よりも濃い、その紅い両目から光を失わせながら。
研ぎ揃えられた八重歯の群から、血の泡を溢れさせながら。

「何が違うんだよ…」

男が呟いた。

とある錬金術師により独自に産み出された、人間とは根本から異なるホムンクルス。
『不死者』のように不死と不老を供には持たず、出来損ないの『不完全な不死者』のように不死が与えられたわけでもない。
どれにも属さず、ただ不老のみが与えられた生き物。それが彼。
男は、自分が如何に不自然な存在か、生きてきた間中常に思い知らされ続けてきた。

しかし、そんな自分があっさりと負けた。しかも、一番下に見ていた只の人間に。
その事実は、彼の心に抜けることの無い楔となって打ち込まれる。
彼は動揺した自分の心に整理をつけるため、大好きな自然を眺めて気を静めていた。
しかし、追い討ちを掛けるように背中に走る衝撃。
気がついたときにはもう遅く、自分に恨みを持つ人間が、彼に深々とナイフを突き刺していた。
そのまま返り討ちにして息の根を止めたが、背中の傷は否応無しに彼の命を削り取る。

「何が違うんだよ…」

男は、再び先刻の言葉を繰り返す。
その身に迫る死の恐怖から、意識を逸らそうとするかのように。

「俺だって普通に生きて、死ぬときは死にたくねえんだよ……誰か教えてくれよ……何が、何が違うんだよ」

声が小さくなるにつれて、腕の動きも少しずつ鈍くなる。
男は、顔を伏せた。

「畜生…」

あきらめたように最後の言葉を放ち、男の体は完全に静止した。

故に、彼は気付かなかった。
目の前に、緑色の鏡が浮遊していた事。
最後に動かした手、その指先が鏡に触れていた事に。

数分後、其処には生乾きの血河が残されているだけだった。


● ● ●


嗚呼、なんだろう。この浮遊感。
とうとう死んだのかな、僕。
浮かんでいるって事は、天国?
……うん、無いな。
何百人て殺してきた僕が、天国なんて行ける訳無いじゃないか。
馬鹿だな。愚かだな。滑稽だな。
でも、せめて地獄には行きたいな。
そうすれば、少なくとも人間とは認めてもらえたって事だ。
それなら、業火に焼かれても、針の莚に突き落とされても、笑って過ごしてやるさ。
よし、歌っていこう。僕による、僕のための鎮魂歌だ。
さん、はい。
さぁ行こう、深遠の奥深くへ♪
六道、ジャハンナム、ヘルへイム♪
ラララ♪ ルラ……



…何だろう、この人たち。
僕、死んだんじゃなかったっけ。
………悪魔?
へぇ、悪魔って人の形してたんだ、ちょっとビックリ。
あれ、なんか恐がってる。
もしかして、ここでも僕って不自然?
悪魔にも恐がられるなんて、かなりガックリ。
とにかく、安心させなきゃ。レッツスマイル。
多分、これから長い付き合いになるんだし。

「やぁ…………」

仲良くなれると、いいんだけどな。

「友達に…ならないか?」


● ● ●


男が目を覚ますと、其処はベッドの上だった。
半目でまどろみ、数分間頭の中が空白になる。
しばらく虚ろに目を動かしていたが、徐々に意識が覚醒して来た。やがて、ゆっくりと体を動かす。

「痛っ………」

背中に走る鈍い痛み。しかし、そのお陰で頭は完全に活性化した。

「ここは…」

見回すと、部屋は多少狭いながらも、質、量ともに並以上の家具類が見えた。
それなりの地位にいる人間の部屋らしい。
いや,そんな事よりも、

「……生きてる?」

少なくとも、これが死後の世界なんて事はないだろう。
空白の頭が、混乱に満たされる。
そこに、

「んぅ……」

「へ?」

聞きなれない声が聞こえると共に、足元に少しの重量を感じた。
見ると、中学生になり立てと言うような見た目の少女が、彼の足を枕にして寝息を立てている。
ご丁寧に、涎のシミまで付けて。

「…………」

その様子に男は少し顔を顰めるが、少女の安らかな寝顔を見ていると、叩き起こすのもはばかられる。
少しの間思案していたが、

「……………ふへ?」

とりあえず、彼女の頬をつまんでみる事にした。
頬の違和感に気付いた彼女は、半目に寝ぼけ眼といった様子でゆっくりと周囲を見渡す。
そして、彼と目が合った。

「「…………」」

両者に言いようの無い静けさが生まれる。
やがて、先に動いたのは男の方だった。

「ハーイ♪」

片手を挙げ、本人としては長年の友人に声を掛けるようなつもりで、にこやかに挨拶したつもりだったのだが、

「……!?」

彼女は驚愕に目を見開き、顔から彼の手を振り払い、そのまま驚異的な速さで後ずさり、

「い゛っ!?」

壁に強か頭を打ちつけた。

「ぅぅぅぅぅ……」

そのまま頭を抑えて蹲る。あまりの痛みから、双眸に涙が浮かんできた。

「あらら、大丈夫?」

其処にかけられた能天気な声に、彼女の目から一瞬にして涙が消え去り、代わりに炎を纏ったような怒りの色が現れる。
彼女は手近にあったクッションを引っつかむと、声の聞こえる許に投げつけた。

「おっと」

しかし、男は難なくそれを受け止める。
その間に、彼女はつかつかと彼に詰め寄り、

「『大丈夫?』、じゃないわよこの馬鹿!死にかけの、しかも平民が召喚されたなんて前代未聞よ!しかも三日も眠りこけて、あたしがどれだけ心配…じゃなくて、迷惑をこうむったか!」

開口一番に怒鳴り声、しかもかなりの早口。
思わず彼は肩を竦めた。
しかし、彼女はそんな男の様子など気にも留めずに猛り続ける。
彼はしばらく、そのまま彼女の三日間の苦労への文句を含めた罵詈雑言を聞いていたが、

「兎に角あんたはあたしの使いむぐ」

あまりに五月蝿いので彼女の口を塞ぐことにした。片手なので、顔を掴む形になる。
見方によっては危なく見える光景だが、男が紡ぐ言葉は相変わらず明るい。

「はいはいはいはい静粛に。まずは深呼吸。自然は心を癒す。そして空気も自然の一部。即ちそれを体内に取り入れれば僕らは自然と一つになって、気も静まるって寸法だ。せーの、ヒッヒッフー」

色々と壊れている彼の台詞も、怒り心頭といった様子の彼女は気にも留めない。
両手を使って彼の手を強引に解くと、額に青筋を浮かべて彼に向き直る。

「……し、主人に手を上げるなんていい度胸じゃない。いいわ、今からその身に刻んであげる…」

口調はゆっくりになったが、その分倍加した怒りが言葉から滲み出る。
そして、袖口から小さな棒切れのようなものを取り出した。
よく見ると、それなりに形は整えられており、それが杖だとわかる。
彼女は、それを頭の上に大きく振りかぶる。

「私の力、自分の立場、そしてご主人様に逆らったらどうなるか、たっぷりと―――――――」

「君が助けてくれたのかい?」

「………え?」

唐突に掛けられた声に、思わず手が止まる。
先程まで顔に浮かんでいた憤怒の表情も、斑となって消えていった。

「だから、助けてくれたのは、君?」

そんな彼女の様子を見て、彼は問いを繰り返す。
しばらく少女は呆けた様に口を開け閉めしていたが、やがて体勢を取り直して言った。

「そうよ!この由緒正しき貴族、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール様がわざわざ魔法まで使って助けてくれるなんて、滅多に無い事なんだからね!海よりも深く、空よりも高く感謝して感動の涙を流しなさい!」

「そう」

大仰な少女の答えに対し、彼が返すのはあまりに素っ気無い言葉。
それを聞いた少女は再び肩を怒らせ怒鳴りつけようとするが、

「ありがとね」

そんな彼女に向けられたのは、明るい笑顔。
それにより、少女の動きは再び停止する。
それは召喚の際に見せたそれと同じようなものだったが、今回は不思議と恐怖は感じない。

固まっている少女に向けて、彼は手を差し伸べ、言った。

「僕の名前はクリストファー。クリストファー・シャルドレードだよ。よろしく」




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