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ハルケギニアの狼-02


 第二話 「砕けぬ牙」

召喚された次の日、斎藤は学院勤めの平民たちの計らいで、賄いを昼食として食べていた。
ちなみに召喚主のルイズとは結局契約を交わさぬまま別れ、一度も顔を合わせていない。
それは彼の部屋が平民寮にあるのに加え、朝からずっと図書館に入り浸っていたからである。
図書館へ入室する許可は、コルベールを通して既に学院長からもらっている。
余談ではあるが、コルベールが彼のために色々と奔走した結果、頭皮の面積が若干増えたことは果てしなくどうでもいい。

昼食を終え再び字の勉強をしようと、図書館へ向かう途中で人だかりを見つけた。
これから決闘が始まるようだった。


 「諸君、決闘だ!」

人の輪の真ん中で、気障ったらしい少年が薔薇を掲げて宣言する。
「魔法」の力を知る良いチャンスだと思った斎藤は気障の相手を見る。

 「わたしを侮辱した罪はとても重いわよ、ギーシュゥゥ……」

どこかで見たことのある顔だった。
暫く考え、昨日自分を召喚した人物であることを思い出す。
そんなことはどうでもいいかとばかりに鼻を鳴らし、決闘の観戦を決め込む。

 「助けないの?」
 「俺には関係のないコトだ」
 「使い魔は主人を守るのが仕事」
 「俺は使い魔じゃない」
 「……」

背後から掛けられた声に斎藤は振り向きもせずに答える。
顔を見ずとも、それが昨日あからさまに自分を警戒していた者だということぐらいはわかる。
あっさり切り捨てられた少女――タバサは、少し考えた後で次の言葉を投げかける。

 「メイジの実力が知りたいのなら自分で戦った方がいいハズ」
 「そしてお前は俺の実力を推し量るか?」
 「……」
 「フン、まあいいだろう」

自分の目論見はとっくに見透かされていたようだ。
彼の雰囲気に多少気圧されていたタバサは溜息を吐き本を閉じる。

(これで彼の実力が少しでも分かればいいが)

どうやら斎藤はルイズの代わりに決闘に出ることに決めたようだ。
群がる生徒達を押しのけギーシュの前に立ちふさがる。

 「誰だ貴様は。これから神聖な決闘が始まるんだ。邪魔だからどっかへ行きいたまえ」
 「あ、あんた……」

突然の乱入者をギーシュは怒りで、ルイズは驚きで出迎えた。
しかし、ルイズのその驚きようを見て、ギーシュは何か納得したような顔になる。

 「なるほど、それが君の使い魔か。主人思いのいい平民じゃないか。いいだろう。その忠義に免じて、改めて君に決闘を申し込もう!」
 「え? え?」
 「よく喋るやつだ……。オイ、邪魔だどいてろ」

よく状況を掴めていないルイズの襟を掴んで群衆の方へ放り投げる。
何やら喚いているがようだが当然の如く無視。
そして改めてギーシュを見やる。


 「さすがはギーシュ様! ゼロといえど女性にはなんてお優しいのかしら!」
 「そいつの目が気に入らないな! 徹底的にやっちまえ!」

群衆に向けて手を振っていたギーシュは、歓声が収まると斎藤を見やった。

 「僕はメイジだ。だから魔法で戦う。よもや文句はあるまいね?」
 「なんでもいいからさっさと来い」
 「躾がなっていないなぁ。まあいいだろう。主人に変わり、僕がその体に叩き込んでやる」

そう言うなり薔薇を振り、花びらを一枚散らせる。
地面に付くかというところで花びらが光を放ち、瞬く間に女性騎士をかたどった人形に変化する。
そして聞いてもいないことを喋り出した。

 「僕は青銅。青銅のギーシュだ。従って彼女たち、青銅のワルキューレが君の相手をするよ」
 「フン」
 「行け! ワルキューレ!」

掛け声とともにワルキューレが殴りかかってくる。
避けるのも馬鹿らしいくらいお粗末な攻撃だったが、恐らく様子見のつもりなのだろう。

 「なかなかやるようだな、平民。ならばこれならどうだ!」

今度は武器を手にして襲い掛かってくる。
先ほどとは違うぞと言いたげなギーシュだが、相変わらず単調な攻撃で見切る必要もない。
彼はこの決闘を一種の見せ物として考えているのかもしれない。
それにわざわざ付き合ってやる必要もないので、斎藤は軽くギーシュを挑発することにした。

 「この程度かメイジというのは。もう少し愉しませてくれると思っていたんだがな」
 「いや、びっくりしたよ。まさかここまで出来るとは思わなかった。だがこれを見てもそんな口が叩けるかな?」

そう言うと今度は六枚の花びらが宙を舞い、六体のワルキューレが形成された。
それを見て顔色を変えたのは斎藤ではなくルイズだった。
盛り上がる群衆を押しのけ声を上げる。

 「もうやめてよギーシュ! そもそも決闘は禁止されているはずよ!」
 「おいおい。急に割り込んできて何を言うのかと思ったら。僕に決闘を申し込んできたのはそちらだろう?」
 「そ、そうだけど、あの時はどうかしてたのよ! ……あんたも! これ以上やったら今度こそ怪我するわよ!」
 「そうだな。もう終わらせるか。お前と闘りあっても退屈なだけだ」

ここにきて初めてギーシュの表情に変化が見られた。
馬鹿にされたことにカチンと来たようだったがそれも一瞬で、すぐに可哀相なものを見る目で斉藤を見た。
「遊ばれているということも気付かずに」とでも考えているのだろう。

 「そうだね。ズルズルと長引かせてもギャラリーは退屈してしまうだけだし、これで終わりにしようか。君をね」

六体のワルキューレが一斉に襲い掛かってくる。
ルイズは身をかがめ目をつむり、斎藤は刀を抜いた。


周囲の歓声が消えたことに気がついたルイズは、恐る恐る目を開けた。
そして周りに散らばるワルキューレだったモノを見て言葉を無くす。

ワルキューレの活躍を見届けようとしていたギーシュにも何が起こったか分からなかった。
分かることは二つだけ。
自分にはもう戦う手段が残っていないというコトと、これから殺されるかもしれないというコトだけだった。
誰も動けないでいる広場の中を、斎藤はギーシュに向かってゆっくりと歩き出す。
一歩一歩確実に近づいてくる死という恐怖に、ギーシュはとうとう限界を超えてしまった。


 「アヒイイイィィッ!!」

声にならない悲鳴を上げ、斎藤に向かって自分の知る限り全ての魔法を放つ。
だが精神力の尽きかけた彼が使える魔法は一つもない。
そのはずだった。


 「成る程な……。いくら雑魚とはいっても油断は禁物、というコトか」

半狂乱のギーシュに耳にその言葉が何故かハッキリと聞こえた。

斎藤は、使い物にならなくなった自分の愛刀を見下ろしていた。
刀は錬金を喰らい中ほどで折れ、刃もボロボロになっていた。
格下とはいえ、魔法はその壁を簡単に飛び越えることが出来る。
メイジたちが魔法が使えないものを見下す理由が分かった。
だが、彼はギーシュの実力を過大評価していた。
ドットクラスである彼が、鉄製の刀を錬金で分解することは簡単なコトではない。
では何故錯乱状態にあった彼が成功出来たのか。
それは、己の死をハッキリとイメージしてしまったからである。
その恐怖心がギーシュの本能に働きかけ、彼に実力以上の力を発揮させ斎藤の刀をナマクラ以下の一振りにしたのである。
所謂「火事場の馬鹿力」である。
ここで今の自分に起こったことを冷静に見つめ直せればギーシュは優秀なメイジになれるだろう。
だが、それが出来ないのがギーシュという男である。おまけに彼は非常に調子に乗りやすい性格だった。

斎藤が刀だったものを見つめているうちにギーシュはどうにか落ち着きを取り戻し、自分の勝利を確信した。
そしていつも通りの口調で彼に声を掛ける。

 「……こ、これでわかったかい? 平民が貴族に勝とうなんて100年早いんだ。さ、早く謝罪したまえ。今ならそれだけで許してやろう」

ギーシュが言い終わると一瞬の間が空き、次いで大きな歓声が上がる。

 「何言ってんだギーシュ! もっといたぶってやれ!」
 「ギーシュ様ステキー!」
 「平民ごときが付け上がるからこうなるんだ! ギーシュの恩情に感謝しろ!」

様々な声が上がる中、ルイズは複雑な顔をしていた。
それは自分を庇って戦ってくれた斎藤に対する負い目であり、そんな彼に対して何もできない悔しさでもあった。

 「最初は凄かったんだけどねぇ。ま、平民にしては良くやったほうかしら? 」

いつのまにかタバサの隣で斎藤とギーシュの決闘を見ていたキュルケも皆と同じ考えらしい。
そして彼を決闘にするよう説得したタバサも、もう興味をなくしたのか本を読み始めていた。
―――だが


 「……フ」

周囲に遅れて彼が笑い出す。

 「フフフ…ハハハ」

少しづつ歓声が小さくなる。

 「ハーッハハハハハハハハ!!!」

歓声は、完全に止まった。


そこにいたのは貴族に恐怖する平民でもなく、戦意を失い呆然としている平民でもなく、先程と変わらぬ鋭い目をした男が立っていた。
普段の彼らなら気でも触れたかと思うだろう。
だが、そう言い出すものは一人もいなかった。
否、出来なかった。
彼の笑いにはそういった感情がまるで感じられなかった。
今さっきまでの自分達と同じ、相手を嘲笑う笑いだった。
その「平民」の異常さにその場にいた学生たちは飲まれてしまったのだ。
タバサですら驚きの表情を浮かべている。


 「な、何が可笑しい!!」

ギーシュが声上げた。
声が多少上擦っていたのも場の雰囲気に飲まれているためだろう。
むしろよく声を掛けることが出来たと褒めてやるべきなのかもしれない。
それほどまでに斎藤の笑いは異常なものだったのだ。

 「可笑しいさ、小僧。これが笑わずにいられるか」
 「何…だと…!?」
 「貴様らは何か勘違いしているようだな。ならば教えてやる」
 「な、何を…!」
 「刀剣は魔法で砕ける。だが……」

そう言って斎藤はボロボロになった刀を鞘に納め、素手で牙突の構えを取る。

 「な、何だそれは! ハッタリか!? そ、そんなものは……」
 「狼の牙は、何人たりとも砕くことは出来ん!」

ギーシュは最後まで言うことが出来なかった。
言い終わる前に、彼の意識は斎藤の拳によって刈り取られてしまった。


彼は気絶したギーシュを見下ろし煙草に火を点けると、

 「――身の程知らずが」

そう言ってヴェストリの広場を後にした。


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