ギーシュとの一件から、学院の生徒達のアズマに向ける視線が、ほんの僅かではあるが変化していた。
ドジで間抜けな平民では無く、得体の知れない使い魔だ、と誰かが言い出し、それが定着した。
当のアズマは、そんな評価など知ったことかとばかりに、ルイズの使い魔として、へらへらとした顔をしながら日々を過ごしている。
ドジで間抜けな平民では無く、得体の知れない使い魔だ、と誰かが言い出し、それが定着した。
当のアズマは、そんな評価など知ったことかとばかりに、ルイズの使い魔として、へらへらとした顔をしながら日々を過ごしている。
「わたしが馬鹿にされてる時は、誰に何か言う事もなかったのに、どうしてメイドの時はあんなつっかかったのよ」
決闘を終えた日の就寝前、どうしてもその事に納得がいかなかったルイズは、意を決してアズマに尋ねたのだが、彼から返って来た意外な言葉に、その目を丸くした。
「おまえは強いからな」
どこか羨ましそうに自分を見るアズマに、それ以上ルイズは言葉を続けることが出来なかった。
それから、お互い言葉を交わすことも無く床に就いたのだが、アズマはなかなか寝入る事が出来ず、自分の言った発言を反芻しながら静かに呟いた。
それから、お互い言葉を交わすことも無く床に就いたのだが、アズマはなかなか寝入る事が出来ず、自分の言った発言を反芻しながら静かに呟いた。
「……ほんと、俺なんかと違って、ルイズは強いよ」
たった数日暮らしただけの間柄だが、ルイズの誇り高さとその勤勉さを、嫌と言う程アズマは目の当たりにしていた。
だからこそ思う。このまま自分は、ドジで間抜けなふりを続けていいものかと。
こんな臆病で弱虫なままでは、結果として自分を呼び出したルイズまでも貶めるかもしれない。
だからこそ思う。このまま自分は、ドジで間抜けなふりを続けていいものかと。
こんな臆病で弱虫なままでは、結果として自分を呼び出したルイズまでも貶めるかもしれない。
「雹、か。とっくに忘れてたと思ったのにな」
決闘の際に用いた己の技を思い、ふっとその顔に笑みを浮かべながら言う。
――雹。銃などの飛び道具に対して素手で勝つ為に、その練習相手として生み出された彼の一族ならではの技。
広場に赴く前に、食堂から拝借したフォークでその技を行ったのだが、名を捨てる以前より、その技の切れは遥かに増していた。
――雹。銃などの飛び道具に対して素手で勝つ為に、その練習相手として生み出された彼の一族ならではの技。
広場に赴く前に、食堂から拝借したフォークでその技を行ったのだが、名を捨てる以前より、その技の切れは遥かに増していた。
「よく分からんなぁ」
その一言で考える事を放棄し、アズマは藁の寝床に背をもたれかけ、そのまま目を瞑った。
平穏な日々を送っていたアズマに転機が訪れたのは、それからまた数日が経ってからの事だった。
巷で話題を呼ぶ、貴族相手に巨大なゴーレムを使って盗みを働く一人の盗賊、土くれのフーケの登場が、事の発端だ。
彼女によって盗み出されたのは、学院に伝わる秘宝、破壊の杖と呼ばれる物だった。
その翌日、急遽編成された追跡隊の中には、ルイズの名前があった。彼女の熱心な志願により、最初は渋っていた学院長のオスマン氏も、ついには熱意に押されて参加を許したのだ。
最も、追跡隊と言ってもアズマを含め、たったの五人。それも五人の内三人が学院の生徒と来ている。流石のアズマもこの事態には頭を抱えた。ろくでもない大人達がいたものだと。
紆余曲折を経て、追跡に参加する一人、ロングビルが突き止めたフーケの潜伏先で彼らを待ち受けていたのは、巨大ゴーレムによる襲撃だった。
同行していたキュルケ、タバサによる魔法攻撃も歯が立たず、撤退も止む無しと思われた時、ただ一人ルイズだけが敢然とゴーレムに立ち向かい、杖を振っては失敗魔法による爆発をお見舞いする。
巷で話題を呼ぶ、貴族相手に巨大なゴーレムを使って盗みを働く一人の盗賊、土くれのフーケの登場が、事の発端だ。
彼女によって盗み出されたのは、学院に伝わる秘宝、破壊の杖と呼ばれる物だった。
その翌日、急遽編成された追跡隊の中には、ルイズの名前があった。彼女の熱心な志願により、最初は渋っていた学院長のオスマン氏も、ついには熱意に押されて参加を許したのだ。
最も、追跡隊と言ってもアズマを含め、たったの五人。それも五人の内三人が学院の生徒と来ている。流石のアズマもこの事態には頭を抱えた。ろくでもない大人達がいたものだと。
紆余曲折を経て、追跡に参加する一人、ロングビルが突き止めたフーケの潜伏先で彼らを待ち受けていたのは、巨大ゴーレムによる襲撃だった。
同行していたキュルケ、タバサによる魔法攻撃も歯が立たず、撤退も止む無しと思われた時、ただ一人ルイズだけが敢然とゴーレムに立ち向かい、杖を振っては失敗魔法による爆発をお見舞いする。
「止めろ、ルイズ! こんなのに敵いっこねぇ!」
「うるさい! 弱虫! あんたはそうやっていつだってのらりくらり逃げてるけどね、こっちは貴族なのよ! 誇りがあるの! 敵に背を向けるって事は、自分の名前を捨てるのと一緒なのよ!」
「うるさい! 弱虫! あんたはそうやっていつだってのらりくらり逃げてるけどね、こっちは貴族なのよ! 誇りがあるの! 敵に背を向けるって事は、自分の名前を捨てるのと一緒なのよ!」
ゴーレムを目の前にし、その足を震わせながらも毅然と言ってのけたルイズに、アズマは心の中に刃物を突き立てられた様な気がした。
逃げ続けても、得られる物などありはしない。名を忘れたふりをして逃げ続けても、きっと自分は救われない。自分はあの小さな少女の半分の勇気も持ってはいない。
逃げ続けても、得られる物などありはしない。名を忘れたふりをして逃げ続けても、きっと自分は救われない。自分はあの小さな少女の半分の勇気も持ってはいない。
――――だけど、
「きゃあっ!」
「ルイズ!」
「ルイズ!」
ゴーレムの拳がルイズを掠める。掠めただけとは言っても、あれ程巨大な拳だ、人の身体を吹き飛ばす事など造作もなかった。
まるで人形の様に吹き飛び、傷ついたルイズの身体をアズマは咄嗟に抱きとめた。
まるで人形の様に吹き飛び、傷ついたルイズの身体をアズマは咄嗟に抱きとめた。
「いい加減……本当の力を見せてよ……」
ギーシュとの決闘の際、アズマが見せたその実力の片鱗に、どことなく気づいていたルイズは、彼の腕の中で力無く呟いた。
アズマの中で何かが弾けた気がした。
アズマの中で何かが弾けた気がした。
――――今、思い出してしまった。
「ちょっとアズマ!? あんたまで何してんのよ!? 逃げないと!」
「早く」
「早く」
風竜、シルフィードに乗ったタバサとキュルケが、アズマからルイズを受け取りながら、同じくシルフィードの背に乗れと言う。
だが、アズマはにっと笑ってこう返した。
だが、アズマはにっと笑ってこう返した。
「大丈夫だよ。あれは俺が倒すから」
――――『陸奥』という名前を。
身構えた瞬間、左手の甲に光が灯り、アズマは身体全体がまるで羽毛の様に軽くなった感覚を得た。そして、同時に金剛の如き力が身の内から溢れ出して来るのを感じる。
アズマは、彼の名を表す字、雷の如き素早さでゴーレムの足元に潜り込み、その拳を当てた。
アズマは、彼の名を表す字、雷の如き素早さでゴーレムの足元に潜り込み、その拳を当てた。
「…………ッ!」
本来ならばこんな巨大な物、破壊出来るわけが無い。だが、今の自分ならば……
拳にありったけの力を篭めて、それを開放する。
拳にありったけの力を篭めて、それを開放する。
「やっぱり無駄よ!」
ゴーレムに変化は無い。目障りな足元の虫を踏み潰すかの様に、その巨大な足を下ろそうとした瞬間。
――ゴーレムは内側から瓦解する様に崩れ落ちた。
――ゴーレムは内側から瓦解する様に崩れ落ちた。
「……アズマ」
怪我によって気を失う寸前、ルイズはアズマの姿を見てふっと微笑んだ。
アズマはそのゴーレムの姿を確認し、突き出した拳を構えたまま呟く。
アズマはそのゴーレムの姿を確認し、突き出した拳を構えたまま呟く。
「……陸奥圓明流奥義、無空波」
彼が本当の意味で、その名を取り戻した瞬間であった。