あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ゼロのメイジと赤の女王‐04


 翌朝、早々に目覚めた陽子はとりあえずいいつけを済ませようと、そっとルイズの部屋を抜け出した。
 広い廊下を歩きながら周囲を見て回るが、無駄に大きな城は何がどこにあるのかさっぱりわからない。
「・・・さて、水場はどこにあるんだろう」
 少し困ったようにひとりごちた陽子に、冗祐が助言する。
「使用人をつかまえて訊いたほうが早いのでは?」
「そうだな、これだけ広いのなら働いている人も大勢いるか・・・」
「ならば丑の方角に、人が」
「わかった、ありがとう」
 教えられた方向へ向かえば、遠くから人影が向かってくるのが見えた。彼女――――どうやら女性だ――――は陽子に気づくと軽く目を見張って、にこりと笑んだ。
 切りそろえられた黒髪と白い肌に散ったそばかすの愛らしい、陽子とそう歳の変わりなさそうな少女だ。
「お早うございます。・・・えーと、新しい使用人の方ですか?」 
 陽子は苦笑して首を振る。
「お早う、・・・わたしは使用人ではないよ。どうやら昨日、ルイズという子に召喚されたらしくって」
「まあ。・・・それじゃ、あなたがミス・ヴァリエールの使い魔さんですか?」
 驚いた様子の少女に、陽子は苦笑したまま尋ねる。
「・・・もう、そんなに有名か?」
「ええ。召喚の魔法で平民を呼んでしまったって、それは噂になっていますわ」
「そうか・・・」
 どうやら人間が召喚されたことは本当に珍しいことらしい。これはしばらくは見世物かなと辟易する陽子に、少女が小首を傾げた。
「それで、ミス・ヴァリエールの使い魔さんは、こんなに早くにどうされたんですか?」
「ああ、彼女に洗濯を申し付けられて・・・そうだ、すまないけれど、洗濯する場所を教えてもらえないか?」
 少女はそうですかと屈託なく笑んで、片手に下げた籠を示してみせる。中にはシーツか何かだろうか、白い布が丸められて詰め込まれていた。
「わかりました。私も丁度向かうところだったんです。一緒に参りましょうか」
「助かる。・・・わたしは中陽子。あなたは?」
 少女は珍しいお名前ですねとにっこりして、先導して歩き出した。
「シエスタと申します。平民同士、これからよろしくお願いしますね、ヨウシさん」
 他愛無い話をしつつ洗濯をしながら、陽子はシエスタにうまく表現できない不思議な感覚を覚えていた。
 無礼にならないように気をつけてはいたが、あまりに視線をやるのでシエスタも見られていることに気づき、少々居心地が悪そうに訊ねる。
「・・・あの、ヨウシさん?私に何かついてますか?」
「・・・あ!・・・いや、」
 ぶしつけを恥じるように陽子は視線を逸らし、そしてようやく彼女に感じるものが何かに思い至る。――――郷愁、だ。 
「・・・じろじろ見てしまってごめん。なんだか、懐かしい気がして。・・・わたしが昔住んでいたところの人々が、シエスタのような綺麗な黒髪をしていたんだ」
「まあ、そうなんですか」
 シエスタはわずか陽子にさした影に気づかぬ振りで笑って見せた。召喚というものがどういうものか、学院に住み込みで奉仕しているシエスタは多少ではあるが知っている。
 シエスタと同年代か少し下のように見えるこの少年は、いきなり家族や友人や馴染んだ場所から引き離されたのだ。心細い中に懐かしさを感じるものを見つければ気にもなるだろう。
 それにシエスタは曽祖父譲りの髪色を気に入っていたので、褒められたことは単純に嬉しかった。
「この色、珍しいでしょう。曾お祖父ちゃん譲りなんです。私の地元でも、この髪は私の家族だけなんですよ。
 もしかしたら、ウチの曾お祖父ちゃんとヨウシさん、同郷だったのかもしれませんね」
「・・・・・・だったら、面白いね」
 苦笑交じりに答える陽子に、シエスタは余計なことを云ってしまったことを悟る。
 ふるさとのことはタブーなのかしら――――召喚されてしまった身であるならばそれもあるのかもしれない、あるいはもっと複雑な事情かもと考えて、シエスタは話題を変えることにした。
「ところで、人が使い魔として召喚されるなんて今までになかったって話ですけれど、ミス・ヴァリエールはヨウシさんになんておっしゃっていました?」
「ああ・・・」
 陽子は思い出すようにすいと視線を上に向ける。
「・・・そうだね、普通人が召喚されることはないって云っていたな。それで、使い魔は主人の目となり耳となり、そして主人を守る存在だって云ってたけど、わたしには無理だから雑用とかをやるようにって」
「まあ。それじゃ、使い魔というよりは使用人に近いんですね。そうですよね、幾ら何でも人間にそんな危ないことはさせられませんよね」
「そうだね。・・・よし、シエスタ、これで洗濯物は全部?」
 ぱん、と最後のシーツの水気をきって、陽子はシエスタを見た。シエスタは空の籠を見下ろし、笑顔でシーツを受け取る。
「はい、これでお終いです。・・・すみません、私の分まで手伝ってもらっちゃって」
 陽子も薄く笑んで答える。
「案内してもらったお礼代わりに。また何かあったら頼りに行ってしまうかもしれないし」
「ああ、それならいつでもいらしてください。私、基本的に厨房周りにいますから。もしいなくても厨房の誰かに聞けばどこにいるか教えてもらえると思います。それから、」
 シエスタは陽子の脇に絞ってある白いレースを手に取った。
「ついでに、これも干しときますね。乾いたらミス・ヴァリエールのお部屋まで持っていきますので」
 少し迷ったが、陽子は素直にシエスタの好意を受けることにした。
「ありがとう。じゃあ、お願いしても構わないかな」
「どういたしまして。それでは、私戻りますね」
「うん、ありがとう、シエスタ」
「いいえ。それでは」
 礼をしてぱたぱたと駆けていくシエスタの背を見送り、さて、陽子は聳え立つ白亜の城を見上げた。金波宮とはまるで違う建築様式で造られた城は朝日を受けきらきらと輝いている。
「・・・それじゃ、お姫様を起こしにいこうか。そろそろ良い時間だろう」
 呟いて、朝特有のざわめきに溢れ出す城をストロベリーブロンドの髪の少女の元へと歩き出した。
「ルイズ。ルイズ、朝だよ」
「んー・・・。あと5分・・・・・・」
「・・・どこかで見た光景ですね」
「煩いぞ冗祐」
 余計なことを呟く使令を黙らせて陽子はルイズを呼ぶ。少女はむにゃむにゃとなにやら呟いて顔をしかめ、むーと寝返りをうち朝日に背を向けた。意外に寝起きはよくないようだ。
「ルイズ。そろそろ起きないと、遅れてしまうんじゃないか?起きて、ルイズ」
「うー・・・。うるさいわねえ・・・」
 身体を軽く揺さぶられ、とうとう観念したようにルイズがむっくりと起き上がる。手の甲でこしこしと目元をこすると、ようやくそこで陽子の存在に気づく。
「ひぇっ?!あ、あんた誰よ?!どういう訳で私の部屋に入ってきてるの?!」
「・・・どういう、って。ルイズが起こせと云ったんだろう」
 悲鳴さえ上げられて、陽子は流石に呆れ返る。盛大に寝惚けているにしても忘れられているとは思わなかった。
「あなたが昨日召喚した使い魔だ。もう一度自己紹介が必要か?」
「・・・・・・・・・。あー。・・・あー・・・、そうだったわね。・・・いいえ、自己紹介は必要ないわ」
 ルイズは可愛らしく欠伸をしながら、ベッドの上に座り込んだ。服、と単語だけで命じられ、陽子はベッド脇の制服を彼女に渡す。
「下着」
 制服を受け取ったルイズは次いでそう告げた。まだ眠たそうで、とてものこと意識がはっきりしているとは思えない。
「どこにあるの?」
「そこのー、クローゼットのー、一番下の引き出しに入ってる」
 妙に間延びした口調に苦笑を噛み殺しながら適当に一揃い取り出して彼女に渡す。ルイズはのっそりした動きで下着を身につけた。
「服」
「その服は違うの?」
「着せて」
 こどもではあるまいしと陽子は呆れたが、はたと思いついてなまぬるい顔をする。・・・そういえば、王になった直後はいつでもどこでも女官がついてまわり、なんでもやろうとしてくれたことを思い出す。
 特に陽子を着飾らせることについてはそれが使命とばかりにものすごく燃えており、どれだけ簡素な格好で赦してもらうかが重大な問題だった。ちなみにその攻防戦は現在進行形である。
(・・・・・・そんなもんなんだろうか)
 どうせ同性なんだしと陽子はいまだ寝惚け眼のルイズにブラウスを着せだした。
 老人ホームのボランティアで要介護者の着替えを手伝ったときのことを思い出しつつだったことは、ルイズには云わないほうがいいかもしれない。


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