あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

使い魔は紅き薔薇‐02


「――――動かない」
ルイズは呟いた。

人形に契約の口付けをしても、使い魔のルーンが刻まれても動く事は無かった。
少しだけ待っても、動かない。

「……どうして。 どうしてなの……!?」
ルイズは、やや青ざめながらも理由を探す。

――これは、主の代わりに呪いを受ける人形?
――これは、主の危機に目を覚ます人形?
――これは、ただの鑑賞用……!?

「――ぷっ」
誰かが、耐えきれないといった様子で声をもらした。

「あは、あはははは!! 流石だわルイズ! 動かない人形を召喚するだなんて!」
「見た目だけ豪華なのは同じだな!」
「流石はゼロ!」
「ゼロのルイズ!」
しかしルイズにその言葉を聞く余裕は無かった。

――どうして、どうして動かないの!?
ルイズは抱いた人形を隅から隅まで見る。

赤いドレス。
まるで紅薔薇の様な華やかさ。
緑のリボン。
白い肌。
金の髪。

見た目は美しい。
だが、動かなければ意味がない。

「どうして……!」
耐えられず、ルイズの目に涙が溢れてゆく。

使い魔の召喚には成功した。
でも現れたのは、見た目は美しい、でも動かない人形。

ルイズは人形を胸に抱き締めた。
柔らかい。
暖かさは無いけれど、まるで小さな子供を抱き締めているようだ。

本当に生きている様に、美しい。
花の様な儚さを持つ、緻密にして繊細な人形。
これを作ったのは、とても腕の良いメイジだろう。
土系統のスクウェアだろうか。

しかし美しいのは見た目だけ。
飾る人形としてこれに比肩する物は無いだろう。

だが、それでは意味が無い。
ルイズは使い魔を召喚したのであって、鑑賞用の人形を出したのではない。

「どうせ、その人形も買ったのでしょ?」
「ヴァリエール家ですものね!」
「そんな人形は買えて当たり前だろ!」

「……う、るさいっ……」
だが声は掠れていた。
かろうじて聞こえたのはコルベールぐらいなものである。

ふと、ルイズは奇妙な場所に気が付いた。
背中。 リボンのある場所。
そこに、穴の様な物が……。

「……これは」
ゼンマイを巻く為の穴だ。

ルイズは箱を見る。
ちゃんとそこに、金の細工も美しいゼンマイがあった。

――これだわ。
これを回せば、きっと使い魔は動く。
きっと、自分に従順で素直な使い魔となる。
ルイズは、目を涙で潤ませながらゼンマイを差し込み巻く。

――そうよ、私は『巻く』って言ったわ!
『巻く』とはきっと、ゼンマイを巻くという意味!

二回、ゼンマイを回したその時。
ひとりでに、ゼンマイが回り始めた。

「きゃっ!」
ルイズは人形から手を離す。
しかし人形は、宙に浮いていた。
誰もレビテーションの魔法は使っていない。

宙に浮き、ゼンマイが回っていた。
何回も何回も。
周囲の生徒やコルベールも黙してその様子を見守る。

ただ、コルベールは杖を人形に向けていた。
いつでも魔法は使える。
奇妙な動きをしようものなら、生徒を預かる教師として燃やすつもりだった。
キリキリと、ゼンマイは回る。
やがて、止まった。

人形の、赤いドレスとは反対に青い目が開かれる。
ふわりと優雅に地に降りると、人形はルイズを見た。
視線が合う。

そして。

「……まったく、貴女が泣いたおかげでドレスが濡れたじゃない」
はっきりと言葉を口にした。

「……し、喋った……」
ルイズの言葉はその場に居る誰もの思いを代弁していた。
喋った。
人形が、喋った。

ルイズのすぐ傍まで歩み寄り、やや見上げる。

「レディが、人前で簡単に涙を見せてはいけないわ。
どんなに辛くても、心に咲いた花は枯らせてはいけないのよ」
そう言って、微笑んだ。
まるで花が咲いたかの様に。

――慰められた。
その事実にルイズは一瞬呆然とし、すぐに涙を拭う。

「あ、当たり前じゃないの! 私は貴族なのよ!」

「そう、良い子ね」
さしてそう思ってはいない声。
だが、優しさを感じられる。

この優しげな声が、本当に人形のものなのだろうか。
新種の亜人ではないかと囁く声がする。

「おまえ、名前は?」

「おま……!?」
貴族に向けるにはあまりにも無礼な発言だった。
だが人形ならば仕方ない、もしこれが平民ならばファイアーボールやエア・ハンマーをぶつけていた。

「ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールよ。
『ご主人様』と呼びなさい、あんたは私の使い魔なんだから」
五芒星がよく見える様にと胸を張る。

「あら、そう。 ルイズ」
呼ぶつもりは全く無い様子。

『ご主人様よ!』
ルイズが使い魔に対する躾としてそう言おうとするより先に、人形が言った。

「私の名は真紅。 ローゼンメイデンの第五ドール」

「ろ、ローゼン……?」
分からない単語が飛び出し、ルイズは言葉を飲み込む。

――ローゼンメイデン……薔薇、乙女?
確かにこの人形は薔薇の様に美しい。
美しい、が。

「そしてルイズ。 おまえは、これより真紅のしもべとなる」

「なっ――!?」
いくら人形でも限度がある。
誇り高き貴族。
それも名門である、ヴァリエール公爵家が三女のルイズに向かって『おまえ』そして『しもべ』。
しもべになれ、など有り得ない。
有り得てはならない。

ルイズは手にした杖を振りかざした。

「ファ――」
「その左手にある指輪にキスをしなさい」
凛とした上からの言葉。
ルイズは『ファイアーボール』を唱えるのを止めて、自分の左手を見た。

金。
精緻な飾りの施された、指輪。
嵌めた覚えなど無いそれが、いつの間にか薬指にあった。

「な、何よこれ!」
無理やりにでも抜こうとする。
しかし、ルイズの指によく合うサイズで、まるでルイズの左手の薬指に付ける為に誂えたかのようだ。
ぴったりとして抜く事が出来ない。

「無理に抜くと、肉が削げるわよ」
当たり前の様に言われ、ルイズは手を指輪から離す。
今まで黙っていたコルベールが急いで駆け寄り、薬指を見た。

「これは……」
抜く事が出来ない。
人形の言う通り、抜いてしまうと肉が削げてしまう。

「ご主人様に何という事をするの、今すぐ外しなさい!」
ルイズは言う。

しかし人形――真紅は、何処か達観した、諦めも含んだ表情でルイズを見る。

「私からすれば、使い魔になれというのは不本意だわ。
おまえが『しもべ』を不本意だと思う様に、私からすれば『使い魔』は不本意だもの。
でも私はネジを巻かれてしまった、人工精霊ホーリエの問いに、応えたはずよ」

「問い――!?」
ルイズの脳内を、先ほどの声が駆け巡る。

『巻きますか、巻きませんか』
それにルイズは巻くと答え、確かに巻いた。

「で、でもね! 使い魔の契約とは神聖な物なのよ!
あんたの言う『しもべ』よりも意味があるわ!」

「おまえの言う『契約』がどんなに神聖で順序の高いものでも、私にとってはそうではないていうこと。
薔薇の指輪にかける誓いは、とても神聖なものよ」
二人の話は平行線だった。
どちらも譲る気は無い。
耐えかねてコルベールが言う。

「お二人とも、少しよろしくですか」

「……何ですか、ミスタ・コルベール」
「そこの人間よりはまともそうね、何かしら」
両者、共に人の話を聞かないタイプではない事が証明された。
ただ、お互いの認識と常識とは違う話をされて対立しているだけである。

まず、とコルベールは周囲に居た生徒達を部屋に戻らせた。
生徒達は後ろ髪を引かれるかの様に振り向きながら、『フライ』で去っていく。
その中でも、青い髪の少女タバサは無表情な瞳の奥に『興味』を抱きながら。

「ミス・シンク。 その、ローゼンメイデンとは何ですか?」

「お父様が作った、ドールよ」

「『お父様』とは……」

「お父様はお父様よ。
『アリス』を探しているの、たった一人で長い間……」
真紅は昔を思い出すかの様に遠い目をする。

「どんな花よりも気高くて。
どんな宝石よりも無垢で。
一点の穢れも無い、世界中のどんな少女でも敵わないほどの、至高の美しさを持ったアリス」

――姫様……。
ルイズの幼い頃共に遊んだ、トリスティンの王女を思い出す。
気高く、美しい少女。
しばらく会っていないが、それらには磨きがかかっているだろう。

「そのアリスを追い求めて形にしようと創られたのが、私達、ローゼンメイデンのドールよ。
でも……」
真紅は少し俯く。

「私達は誰もアリスに届かなかった。
お父様は、悲しみに暮れて姿を消してしまった」

「…………」
コルベールは返しようもなく、沈黙した。

ドールとは人形の事。
お父様とは作者の事だろうが、姿を消したとはつまりそのままだ。
彼女には親が居ない。
そういう意味だ、悲嘆に暮れた様子は無いが。

「だから私達は戦う。
アリスゲームを戦い、アリスになる為に生き残る。
その為には、指輪を嵌めた者が必要なのよ」
そして、真紅の指輪を持つのはルイズ。

「……ミス・シンク。 あなたの事情は分かりました。
しかし、此方にも事情はあるのです。
貴女が使い魔になることを了承して下さらないと、ミス・ヴァリエールは最悪退学になってしまう」

「そ、そうよ!
退学になったら、そのアリスゲームだとか、やってられない、んだから……」
語尾が小さくなる。
未来を想像したのだ。

『ゼロ』と笑われ誰からも相手にされない、自分を。
そのまま、老いて逝く自分を。

「……私が知る使い魔とは、主のしもべだわ」

「主の目となり耳となり、秘薬を集め、主を守るのが使い魔です」
コルベールは言う。

真紅はその意味を理解したのか、ゆっくりと頷いた。

「その秘薬を集める事や、目と耳になるのは出来ない。
でも、私は誇り高きローゼンメイデン、戦う力くらいは有るわ。
交換条件よ。
おまえは、その指輪にキスをし誓うのよ。
薔薇の指輪にかけて、私のローザミスティカを護ると。
その代わりに私はおまえの使い魔となり、護るわ」

「ローザ、ミスティカ……?」
ルイズは問う。

「私達の力の源よ。
無くなってしまえばただの人形になってしまう。
それで、どうするのかしら?」

「私は……」
ルイズは、暫し迷う。

それならば、真紅は自分の使い魔となり両方丸く収まる。
問題は無い。
『しもべ』になるのは、貴族の誇りが許さない。
でも退学はもっと許せない。

ルイズは覚悟を決めると、真紅と真正面に向き合った。

「良いわよ。
この指輪にキスをし、誓えば良いのね」
そう言うとルイズは指輪にキスをした。
途端周囲を薔薇が舞う。

赤い、赤い薔薇。
真紅に相応しい、紅薔薇。

今ここに、二人の二つ目の契約が結ばれた。
『しもべ』と呼ばれるルイズと『使い魔』と呼ばれる真紅。
そんな二人の、奇妙な契約が。


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