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ゼロのメイジと赤の女王‐03


 ふたりが城に到着したのは、とうに日も暮れてのことだった。
 ルイズは迷いのない足取りで城の中の一室に入ると、物も云わずにベッドへ飛び込んだ。
 あれじゃ制服が皺になるんじゃないかなと陽子は思ったが、声をかけられるような雰囲気でもない。
 何の気なしに窓へと視線をやって、驚愕に目を見張った。
「・・・月が、ふたつ・・・?!」
 月影の国にも様々な非常識が溢れていたが、流石に月と太陽はひとつずつしかなかった。
 ああこれはもう異世界確定だな。陽子は軽く頭を抱える。
 どうしよう、不可抗力だと思うんだけど、やっぱり怒られてしまうだろうか。こんなに遠くまで来る気はなかったのだけれど。
 仏頂面をさらに渋くした景麒と、穏やかなままで威圧する浩瀚を想像してしまい冷や汗を流す。
 これはどうしたものかなと悩んだ末、意を決して身じろぎもしないルイズに声をかけた。
「ルイズ。悪いがもう一度教えてくれないか。わたしをこちらに呼び出したのは、何故?」
 ぴくりと動いた少女は、ゆっくり起き上がりベッドに腰掛ける。
「・・・あんたなんか、呼びたくて呼んだ訳じゃないわよ」
 勝手に呼んでおいてそのいい草はあんまりではないかとは思ったが、口は挟まずにおく。
「試験だったのよ。春の使い魔召喚の儀式。2年生に進級するために、使い魔を呼んで、契約する。その使い魔召喚のゲートをくぐって、あんたがここにきたの」
「つかいま、って?」
「そんなことも知らないの?メイジの目となり耳となって働き、主人の望むもの・・・秘薬なんかを見つけてきたり、その能力で主人を守る存在よ。
 大概は、っていうか普通は動物か幻獣が召喚されてくるわ」
 つまり使令のようなものか、と考える陽子にルイズは溜め息を吐く。
「・・・っていっても、あんたじゃ無理ね。何にも見えないし聞こえない。何よりあんた平民だもの。・・・仕方がないわ。
 あんたにもできるようなことをやらせてあげる。とりあえず掃除と洗濯、その他雑用ね」
「・・・なるほど」
 下働きの使用人扱いかと陽子は苦笑する。
「それはいつまでやればいいの?」
「いつまでも何も、メイジと使い魔は一心同体なんだから、一生に決まってるでしょ」
「一生?!」
 突然切羽詰ったように叫ぶ陽子にルイズはびく、と肩を震わせた。しかし続けられた言葉に再び怒りに頬を染める。
「・・・それは無理だ、ルイズ」
「なんですって?!あんた、貴族の云うことが聞けないっていうの?!」
 違うそういうことじゃないと激昂する少女を押し留める。そういうことじゃないんだ、もっと根本的な話。
「もしわたしがこのままもといた世界に帰れないというなら、わたしは必ず数年以内に死ぬだろうから」
「・・・・・・なによそれ」
 ルイズは視線に物理的な力があれば陽子の顔など射抜いていたに違いないほどつよく彼女を睨みつけた。荒い息の下から絞り出した声は怒りに震えている。
「そんなに私の使い魔になるのが嫌だっていうの?!あんたですら私を馬鹿にするの?!あんたなんか平民の癖に!平民のあんたまで私を――――!!」
「ルイズ」
 叫ぶ少女をなだめるように静かに名を呼ぶ。
「違うんだ、ルイズ。そういう理なんだよ。わたしが長い間国を空ければ、国は荒れる。国が荒れれば、麒麟は病む。麒麟が死ねば――――わたしも死ぬ」
 そういうことわりなんだと静かに繰り返す。
「・・・何よそれ。意味わかんない」
「・・・かもね。わたしも最初はそうだった」
 薄く笑って、陽子はルイズを見詰めた。静かな、穏やかな、誠実さが伺える、真っ直ぐな笑みだった。


「私は、王なんだ」


「・・・何それ?嘘ならもっとマシな嘘を吐きなさい」
 間髪入れずに切り捨てられ、陽子は苦笑した。
 本当なんだけどな、と嘆息するが、流石にこの格好が王に相応しいものではないことは陽子とて重々承知している。
 執務中であるならいざしらず、そもそも民に混じろうとしてわざわざ袍など持ち出してきたのだからそれは当然のことだ。
 こんなどこにでもいる子供のようななりでは、例え慶の民だとて陽子が王だと何人信じてくれるだろう。
「・・・・・・・・・もういい」
 ルイズは陽子の言を世迷言の類と断じたのだろう、それ以上の話を拒むように会話を打ち切った。
「あんたは床で寝なさい。毛布は恵んであげるから。あと――――」
 のろのろと着物を脱ぎネグリジェを被ったルイズは毛布と共に脱いだ下着を放って寄越した。
「明日の朝はまずそれを洗濯。それから私を起こして。いいわね、サボったら承知しないわよ」
 それだけ云い置くと陽子の返事を待たずにベッドに頭までもぐりこんでしまった。

(くやしい、くやしい、くやしい・・・!)
 ルイズは毛布の中で必死で喚きだしたい衝動を抑えていた。泣きたいけれどそれはプライドに触る。
 もうちいさな子供ではないのだ、このくらいのことで泣いたりできない。
 しかし感情は嵐の海のように激しく荒れ狂い、抑える理性はその中に漕ぎ出した小船のように翻弄されるがままだった。
(せっかく使い魔を召喚できたと思ったのに、コントラクト・サーヴァントだって成功したのに、やっぱり私はゼロのままなの?)
 すぐに露見するような下手な嘘を吐いてまで使い魔になどなりたくないと、何度も何度も何度も何度も失敗した末にやっと呼び出せた使い魔(しかも小汚い格好の平民の少年だ!)にまで拒絶されて、ルイズは心底泣きたかった。
 どうしてこんなにみじめな思いをしなければならないのだろう。
 ドラゴンとかグリフィンとか、そんなものでなくていい。学院長のようなちいさなネズミでも構わなかった。
 ――――平民なんて!あんな変な格好の、同い年くらいにしか見えない男の子にさえ馬鹿にされるなんて!
(みてなさい)
 メイジを見るには、使い魔を見ろ――――。
 あんな平民を召喚してしまった。構わない、凄い使い魔を召喚して見返してやりたかったけれど、そんな威を借るようなやりかたでなくたって、きっと皆を見返してみせる。
 他でもない、自分自身の力で。
(みてなさい)
 強い誓いを抱きながら、ルイズは瞳を閉じた。眠りはすぐに訪れた。

 少女の安らかな寝息を聞きながら、やれやれと本日何度目になるかわからぬ溜め息を吐いた陽子に、冗祐が問う。
「・・・・・・どうするので?」
「仕方がない。幸い抜け出してきたばかりだし、しばらくは付き合おう」
 その間にルイズの気が変わって、わたしの話を聞いてくれればいいのだけど。苦笑して陽子は毛布と下着を拾い上げ、壁に寄りかかって座り込んだ。
 長居をする気は毛頭ない。期限を切って書置きを残してきたから、それが過ぎればきっと皆一斉捜索に乗り出すだろう。
 ひょっとしたら景麒がまた迎えに来てくれるかもしれない。こうまで違う世界だとちょっと不安だけれど、まあ、アレでも一応神獣だし。
 できればそれまでにルイズを説得し、慶に送り返してもらえればベストなのだが。・・・きっとそのほうが説教が少なくて済む。
「悪いが冗祐、お前にも付き合ってもらうぞ。誇り高い女の子に顎で使われる切ない状況を一緒に楽しもう。
 たぶん帰ったら祥瓊や鈴が可愛らしく見えること請け合いだ」
 楽しそうな言葉に微かに苦笑する気配が伝わる。是、と答えた彼に笑って頷いて、陽子も眠りに落ちていった。


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