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毒の爪の使い魔-54


最初の一撃が相殺し、二人は弾かれる様に離れた。
同時にエルザは素早く蝙蝠をジャンガ目掛けて放つ。
牙を剥いて飛び掛って来るそれを、ジャンガは爪で難無く切り払う。
続けざまにエルザのマントの両端が伸びた。
太い杭の様な形になり、唸りを上げて襲い掛かる。
地面へと突き刺さったそれは、凄まじい勢いと質量で大きな穴を穿ち、大量の土砂を宙に巻き上げる。
エルザは瞬き一つせず、ジッとそれを見つめる。
煙幕とも思える土煙が、徐々に晴れていく。
そこには地面に突き刺さったマントの上に立ち、余裕の笑みでこちらを見ているジャンガの姿があった。
マントを引き戻そうとエルザが動く――よりも早く、ジャンガはマントの上を駆け出す。
マントが戻る速度よりもジャンガの方が早い。
だが、エルザは顔色一つ変えずに大鎌を構えるや横一文字に振るう。
刃が前方の空間を薙いだが、既にジャンガの姿は無い。
大抵の相手ならばこの事態にうろたえて辺りを見渡したはずだが、エルザはそんな事はしなかった。
ただ無造作に頭上で弧を描くように大鎌を振るう。
ガキンッッ!!
金属音が響き渡る。頭上に跳んだジャンガの振り下ろした爪を受けたのだ。
そのままジャンガはエルザの後方へと着地する。それに続くようにエルザのマントが元に戻った。
振り向きながら、エルザは大鎌を振るう。
その一撃をしゃがんでかわすジャンガ。
すぐさま立ち上がり、カッターをお見舞いしようと腕を振り上げる。
「危ない!!?」
タバサの声が響いた直後…、大斧の様な形に変わったマントがジャンガを襲う。
エルザが大鎌を振るったそのままの勢いで一回転し、背中のマントを間髪入れずに叩き込んだのだ。
まるでそこに何も無いかのように…、何の抵抗も無くマントが一閃される。
一瞬遅れ、ジャンガの首が宙を舞う。
それを見てルイズやタバサの顔に絶望が浮かぶ。だが、そこで笑うべきであろうエルザは笑わない。
小さく鼻を鳴らし、先程大鎌を振るった時のように、無造作に左手でマントを引っ張り上げる。
ドゴンッッ!!
硬い物を力任せに叩く重い音が夜闇に響く。
チッ、と音がした場所から舌打ちが聞こえる。
分身を囮にし、エルザの側面に回り込むや蹴りを放ったジャンガの物だ。
蹴りを受け止めたままの体勢で、エルザは大きく踏鞴を踏む。
地面を突き破り、蛇の様にうねる無数の木の根がジャンガへと伸びる。
それを見てジャンガは大きく跳び上がり、爪を振り翳しながらコマのように回転する。
彼に伸びる木の根は瞬く間に切り裂かれていく。
木の根が全て切り刻まれるや、ジャンガはそのまま眼下のエルザ目掛けてカッターを放つ。
猛烈な回転により、通常の数倍の大きさと切れ味を得たカッターはエルザへと襲い掛かる。
エルザは静かに大鎌を構える。
迫るカッター目掛けて大鎌を一閃、…それだけで真っ二つに切り裂かれたカッターは多少強い程度の風になる。
風はエルザの髪を揺らし、森の中へと吹き抜けて行った。

着地したジャンガはエルザを見据える。
「キッ…、あん時あっさりと活け作りにされたヘタレガキとは思えないゼ。大した強さじゃねェか?」
そう言いながらも、ジャンガの口元には嘲りの色が見て取れた。
エルザはそんな事は気にも留めず、不敵な笑みを浮かべる。
「今のエルザを前と同じだと思ったら大間違いだよ? 助けてくれたおじさんが大分強くしてくれたから」
「ハンッ! ガーレンの腰巾着をやってそんなに楽しいかよ、クソガキ?」
エルザは口元に手を当て、驚いたような表情を浮かべる。
「…凄いや、言ってもいないのに解るんだ」
「あの妙なササルンを見りゃ想像はつく。加えて、テメェら吸血鬼はここ<ハルケギニア>じゃ完全な日陰者だしよ。
わざわざ自分を餌にするような奴を助けるような酔狂な奴はいねェだろうからな~」
「あはは♪ 確かにそうだよね~」
エルザは楽しそうな声で笑う。
「そりゃ…少しばかり自由が無いから窮屈だけどさ…。それでも感謝してるんだ~。
お陰でおじさんに”仕返し”できるし、おねえちゃんともまた会えたし、良い事の方が多いもん♪」
言いながら楽しげにスキップを始める。一見隙だらけに見えるが…その実、全く隙が無い。
ジャンガはつまらない物でも見るような目でエルザを見据える。
暫くスキップしていたエルザだが、唐突に立ち止まる。
そしてニタリ、と口が大きく裂けたかのような笑みを浮かべた。
瞬間、大きく右腕を振り切る。
手放された大鎌が高速で回転しながらジャンガ目掛けて飛ぶ。
向かって来るそれを、ジャンガはジャンプして余裕でかわす。
背後で何本もの木が切り裂かれ、倒れる音を聞きながら、ジャンガはエルザ目掛けて駆け出す。
走りながら大量に分身を生み出す。そしてエルザを惑わすべく、シャッフルするかのように複雑な動きをする。
「つまらない事をするなぁ~?」
呆れたような表情でエルザは右手の人差し指を、クイッ、と動かす。
先程投げた大鎌が方向転換し、こちらへと戻って来た。多くの分身が切り裂かれ、消えていく。
更にエルザがマントを大きく翻すと、無数の蝙蝠が四方八方に飛び散る。
弾丸の如く突撃する蝙蝠は、動き回る分身を次々に貫き、消し去っていく。
全ての分身が消え、エルザは戻って来た大鎌を掴む。
辺りを見回し、ジャンガの姿が無い事に気付く。
「…どこ?」
「テメェの目の前さ」
「ッッ!?」
慌てて視線を前方に戻す。
低い姿勢でその場に立つジャンガの姿が在った。
マントを引くよりもジャンガが爪を振り上げる方が早い。
血の糸を引きながらエルザの小柄な身体が宙に浮く。
それでもエルザは空中で受身を取り、地面に着地する。
胸に三本の紅い線が走り、血が滴っている。
「……」
無言でエルザはジャンガを睨む。
――今の動きは完全に読めなかった。さっきは余裕で掴めたのに…。
早すぎる動きだ。あの亜人の本気なのか?
ジャンガがニヤリと笑ってみせる。
「テメェは確かに強くなったゼ…、俺が本気出せるぐらいにはよォ~」
やっぱり本気じゃなかったのか、とエルザは歯噛みする。
ド素人でもない者が相手にわざと手加減をされる事は、最初から全力で叩き潰されるよりも非常に屈辱な事だ。
加えて言えば、彼女の場合漸くお礼が出来ると思った矢先でもあるのだから尚更イライラするのだ。
「…エルザを馬鹿にしないで欲しいな…。おじさん…あんまりふざけていると、死ぬよ?」
「端から殺る気満々のくせに今更なんだよッ!」
ジャンガの姿が蜃気楼のように霞んで消える。
常人離れの瞬発力で駆けたジャンガは相手の懐に一瞬で飛び込み、トドメとばかりに爪を叩き込んだ。
爪が小柄な身体を抉り血の花を咲かせる――はずだった。
しかし、吹き飛んだのはジャンガだった。

「チッ…」
吹き飛びながらジャンガは何とか受身を取って地面に着地したが、
勢いを完全に殺しきれず、砂塵を引きながら数メイルの距離を滑走する。
ジャンガは立ちながら帽子を直す。顔を上げ、エルザを見据える。
爪がエルザの胸を抉ろうとした瞬間、ジャンガの身体が吹き飛ばされたのだ。
殴りつけられたわけでも、蝙蝠をぶつけられたわけでもなく、エルザに特に動いた様子は無かったのだ。
強いて言えば指を軽く弾いたぐらいだが…、それで何かが出来るだろうか?
しかし、現に自分は吹き飛ばされた。”何も無かったのに”だ…。
何も知らない相手が見れば何が起こったのか解らないだろう。
…だが、ジャンガはそれに心当たりがあった。
「こいつはおでれーた…」
背中のデルフリンガーが鞘から飛び出す。彼は解って当然だろう。
何しろ、今起こった現象は以前ジャンガに”彼自身が説明している”物なのだ。
「ボロ剣、ありゃやっぱり…あの長耳のだな?」
「ああ、相棒の想像通りさ。あれは”反射”<カウンター>だ」

反射――ガリアのアーハンブラ城で戦ったビダーシャルとか言うエルフが使ってきた先住魔法。
あらゆる攻撃、魔法を跳ね返すと言うそれにはジャンガも散々苦戦させられた。

厄介な物を使いやがる、とジャンガは心の中で毒づく。
そんな彼の背からはデルフリンガーの声がまだ聞こえてくる。
「しっかし…おかしいな。吸血鬼は確かに先住魔法を使うが、あんな強力な物を使えたりはしないはずだ」
「はずだっつっても…ああして現に使ってるじゃネェかよ?」
「だからおかしいんだよ」
すると、エルザの笑い声が聞こえてきた。
「あははは、その剣喋るんだ…面白いね」
そう言って頻りに笑うエルザにデルフリンガーは問いただす。
「おい、吸血鬼。お前さんはどうしてそんなもんを使えるんだ?
先住の腕前はエルフの足元にも及ばないはずだがな」
エルザは笑い声を止める。
「エルフなんかは精霊と契約をする事で先住魔法を使うよね?
精霊にお願いして、力を貸してもらうって感じで先住魔法を使う…。
でもね、吸血鬼の先住魔法の使い方はエルフなんかとは根本的に違うんだ。
”契約してお願いする”んじゃなくて、”服従させて命令する”んだよ」
ジャンガは興味深げに目を細め、デルフリンガーはカチカチと金具を鳴らす。
「エルザ達吸血鬼は日陰者だしね…、精霊もまともに契約はしてくれないんだよ。
じゃあどうするのかって言うとね、自分達の力というか…存在感というか…、そう言ったもので脅すの。
そうして怯えて服従した精霊に力を使わせる…、っていうわけ。
だから、あまり強力な物は使えない。精々木の枝を操ったり、眠らせたりするだけ。
でも、今のエルザは昔と違う…。ずっとずっと強くなったんだ。だから、精霊もより怯える…、より服従する…」
「だから、その反射も使えるってか?」
「ピンポーン♪ その通り!」
楽しそうな笑顔で拍手するエルザ。
それを見ながらジャンガもニヤリと嫌らしい笑みを浮かべる。
「あの長耳は媚び諂って使ってもらってたが、テメェは力で捻じ伏せて使わせてるってか。
俺の玩具に二度も手を出したテメェは正直気にくわねェが……キキキ、そこは賞賛するゼ」
「おじさんには褒められても嬉しくない。寧ろ吐き気がする…」
汚物を見るような目で見つめるエルザの視線に、ジャンガも射抜くような鋭い視線で睨む。
「…あんま、ふざけた事言うんじゃネェよ?」
放たれる殺気が陽炎のようにジャンガの周囲の空気を歪ませる。
エルザは小さくため息を吐く。
「別に良いけど……おじさんにこれを何とか出来るかな?」
言いながら目の前の何も無い空間を指し示した。
僅かに空気が揺らぎ、見えない壁が姿を現す。
ジャンガは考える。
確かにあのエルフの時のような戦法は使えない。
ここは野外の森の中、風も吹いており毒を撒いても吹き散らされてまともに吸わせられない。
更に付け加えれば余計なギャラリーも数人居る。誤って吸い込んだりしたら後々面倒だ。
ジャンガは小声でデルフリンガーに声を掛ける。
「オイ…、あの反射ってのどうやったら破れる?」
「お前さんの毒以外じゃ娘っ子の”虚無”以外に無いな」
「…そんな物唱えさせたら、一発で殺られるな」
「だねぇ…」
「他には?」
「特に無い。だが…もしかしたら、相手の意識をかき乱すような事が出来れば、あるいは…」
「…精霊の力を使えなくなるかもってか?」
「まぁ…可能性だがね」
ジャンガは逡巡し、ニヤリと笑う。
「…試してみるか」
ジャンガは両手の爪を顔の前で交差させると、口を近づけて息を吹きかけた。
交差させた爪の中央から、緑色の泡が浮かび上がる。
それは瞬く間に大きくなり、直径十メイルほどの巨大な泡となる。
それを見てエルザも流石に驚いた表情を浮かべる。
「な、何それ?」
「毒の泡さ」
ジャンガは、しれっと言い放つ。
デルフリンガーは慌てた声で叫ぶ。
「おいおいおい相棒!? そんなデカイ毒の塊を破裂させる気か!?
そんな事したらどうなるか、解ってんだろ!? 娘っ子達がやばいだろうが!」
「知ったこっちゃねェ」
冷たく、そう一言だけ呟いた。
デルフリンガーは唖然となるが、直ぐに声を荒げる。
「相棒、その毒が反射を潜り抜けるかどうかも解らねぇんだぞ!?」
「問題無ェ。毒ってのは日常的に空気中を漂ってるもんだ。毒素が極力無かったとしても前の物も毒。
それが問題なく通過したって事はだ…、攻撃以外は素通りなんだろ?
この毒の泡を投げつけずに此処で破裂させれば、あとは毒性が”少々”強めの埃となんら変わり無ェ。
あの”反射”が空気でも遮るんなら別だがよ」
「うっ…」
エルザは僅かに顔を引き攣らせる。
”反射”は確かに攻撃に対しての防御は万全だが、それ以外の物に対しては全く無意味。
それこそ壁など無いかのように風や雨は通り抜け、自分の身体に吹き付ける。
毒も塊を投げつけられるような物でなければ、全くの無意味なのだ。
「い、いいの!? おねえちゃん達も被害を受けるよ!? 死ぬかもしれないよ!?
エルザが手を出したら怒るぐらい大切なはずでしょ!? それなのに何で!?」
マシンガンのように言葉を吐き出すエルザにジャンガは深いため息を吐く。
「言ったはずだ…、知ったこっちゃねェ」
「な?」
「俺は確かにこいつらの幾らかはお気に入りだ。だがよ…別に他にもお気に入りの玩具はある。
今はテメェを殺す方が重要だ。…大体、お気に入りの物だから壊すのもテメェの手でしたいのさ」
ゆっくりと腕を振り上げると、エルザの目が見開かれる。
「ちょっ――」

「くたばりな」

呟くと同時に腕が振り下ろされ、泡が真っ二つに裂かれる。
瞬間、凄まじい大爆発が起こり、衝撃波が当たりに広がった。



「うぐっ…」
押し寄せる空気の波に耐えながらもエルザは慌ててマントで目鼻を覆ったが、毒の量が多すぎる。
吸血鬼と言えど呼吸をして生きているのには変わらない。
数分もしないうちに限界を向かえ、思いっきり呼吸をする。
当然、辺りに広がる毒も纏めて吸い込んでしまい、激しく咳き込む。
「うう…、え? あ、あれ!?」
エルザは戸惑った。悲しくも無いのに唐突に涙が流れだしたのだ。
目が痒くてたまらず、幾ら擦っても次から次へと止め処無く溢れてしまう。
更に体中に妙な痒みが走って仕方が無い。痒みだけでなく、軽い痛みも感じる。
遠方で戦いを見ていたルイズ達も同じように目を擦り、涙を溢れさせていた。
唯一人、ジャンガだけが平然と立っている。
「な、何をしたの!?」
エルザが声を張り上げる。
相変わらずのニヤニヤ笑いを浮かべながら、ジャンガが口を開く。
「キキキキキ! テメェ、本気で俺が猛毒撒き散らすと思ったのかよ? ンな事するわきゃネェだろうが、バァ~カッ!」
「じゃあ…これは何…?」
頻りに目を擦りながらエルザが言う。
「毒は毒だ…、ただし内容はチィ~とばかり違うがよ。こいつは即効性の神経毒…いや、神経ガスだな。
ただし、殺傷力はほぼゼロ。内容的には眼球への過剰な刺激による止まらない涙、
全身の神経の過敏な反応による痒みと微妙な痛み、ってとこだな。
まァ……ようするに相手を甚振る際に使う物さ」
ジャンガはニヤニヤ笑いながら得意げに説明する。
エルザは未だに涙や痒みが止まらないようだ。

――重い音が響く。

ジャンガが放った踵落しがエルザの頭を捉え、地面へと叩き付けたのだ。
「あ、ぐぅ…」
激しい頭痛が駆け巡るのか、エルザは苦しそうに呻く。
ジャンガはそれを楽しそうに見下ろしている。
「キキキ、どうやら消えてるみたいだな?」
そして始まる、ジャンガお得意の袋叩き。
分身三体との蹴りの連打に加え、死なない程度に爪で切りつける。
相手が相手ならば容赦もクソも無い。
出来ている借りの分を返しきる勢いでラッシュを繰り返す。
全身ボロボロの状態になったエルザを、ジャンガは手加減無しで蹴り飛ばす。
エルザは森の一角へと吹き飛び、木を数本圧し折って地面に倒れた。
それを見て、ジャンガはつまらなさそうに鼻を鳴らす。
「ケッ、ちょっと本気を出したらこの程度かよ…。ダッセ~の」
「相棒…、幾らなんでもやりすぎじゃ…」
流石にジャンガのやり方に引いたのか、デルフリンガーが声を掛ける。
「良いんだよ。どうせ世界の裏側を寂しく生きるしかないはみだし者だ…。
別に気の毒に思う奴は居ねェよ…、少なくとも人間の中にはな。俺と似たようなもんだし、それは良く解る。
そして…さっきも言ったが、俺の玩具に手を出した以上、生かしておくつもりは最初から無い」
「…それはわたしもだよ」
言いながらエルザが立ち上がる。
前進に爪による切り傷が走り、汗の代わりに流しているかのように錯覚するほどの血が流れている。
だが、それでもエルザは不敵な笑みを浮かべながらしっかりと立っている。
「…悪いけど、エルザ本気で怒ったよ? おじさん…もう容赦しないから」
「御託並べてないでとっと来な? それとも、口上並べているうちに切り裂かれたいのか?」
言いながら爪を見せる。
すると、エルザはマントで全身を覆い隠した。
何をするつもりだ? とジャンガが怪訝な表情をすると、突如無数の蝙蝠が現れてエルザへと纏わり付いていく。
どこからどもなく現れる蝙蝠に次々と纏わり付かれ、エルザの身体は大きくなったように膨張していく。
やがて、エルザの姿は見えなくなり巨大な黒い塊がその場に現れた。
と、黒い塊が”翼を広げた”。
それは一匹の巨大な蝙蝠だった。大きさは五メイルにも達するだろう。
「…吸血鬼のクソガキが大鎌を持って死神の真似事をしたと思ったら、今度は蝙蝠に化けたか……何のハッタリだ?」
『ふざけられるのもここまでだよ?』
微妙に高くなった声で蝙蝠――エルザが言う。
「ハァ~…、別に良いがよ。来るんだったらさっさと――ッッ!?」
――目の前に顎を大きく開き、牙を除かせた蝙蝠の顔があった。
両の爪でその牙を掴み、全力で押し止める。
「チィッ…」
『これでもハッタリだと思う?』
ジャンガに牙を突き立てんとしながらエルザが言った。
…ギリギリだった。僅かにでも反応が遅れていたら、目の前の鋭い牙が突き刺さっていただろう。
「…ハッタリじゃないのは解った。だがよ…相手を仕留められなきゃ、意味無ェゼ!!!」
素早く足を振り上げ、無防備な胴体を蹴り上げる。
エルザの口から呻き声と共に血が溢れ、身体が大きく跳ね上がった。
間髪入れず、ジャンガは爪を叩き込む。
しかし、エルザは素早く翼を羽ばたかせ、その場を離れる。
巻き起こる旋風がジャンガの身体に吹き付けた。
「くっ…」
致命的過ぎる隙だった…。
エルザは急旋回し、今度は逆に無防備になったジャンガの腹目掛け、牙を剥いて突撃した。

――ジャンガの腹にエルザの鋭い牙が食い込んだ。

「ガッ…!?」
激痛に苦悶の声を漏らす。血が気管に入り込んだのか、口から血が溢れた。
『もらったよ…』
嬉しそうにエルザは言い、顎に力を込める。牙が更に身体に食い込んでいく。
骨と内臓が圧迫され、全身が悲鳴を上げ始めた。
――不味い…、このままでは噛み砕かれる。
ジャンガは何とか逃れようと暴れるが、エルザはシッカリと咥え込んでいて外れそうにない。
『もう面倒だから…このまま噛み砕いてあげる。骨も残さずに食べてあげるよ』
言いながらエルザは更に力を込めていく。
それを見ていたルイズ達が何もしない訳がないが、実質何も出来なかった。
ジャンガの振り撒いた神経ガスにより涙や痒み、痛みが止まらない為まともに杖も構えられないのだ。

「クソが…」

徐々に意識が遠退いて行く…。

肋骨の一本が砕ける感触がした…。

腕も…、足も…、感覚は無い…。

…エルザの瞳が紅く輝く…。

…意識が消えていく…。

…意識が…。

………。

……。



『ぎゃあああああああああああああああああああぁぁぁぁぁーーーーーーーーッッッ!!!?』



耳を劈く凄まじい悲鳴が響き渡る。
ドサリ、と音がしてジャンガの身体が地面に投げ出された。
何故地面に落ちたかなど、エルザが咥えていたのを放しただけだろうが、一体どうして?
痛む身体に鞭打ち、起き上がるジャンガが見るとエルザは両の翼で顔を抑えてのた打ち回っている。
その翼の隙間からは夥しい量の血が流れている。
更に目の辺りからは一本の大きな氷の矢が突き刺さっている。
タバサか? とジャンガは顔を向けるが、当人は相変わらず顔を擦っている。
だが、エルザの叫びには気が付いたらしく、涙で濡れた顔を向けていた。
「大丈夫ですか、ジャンガさん!?」
その場に先程までは聞こえなかった声が響く。
見ればアンリエッタが水晶の付いた立派な杖を構えているのが見えた。傍にはアニエスと何故だかティファニアの姿もあった。
ガスは既に消えているから吸い込んだりなどはして無いようだ。
ジャンガは荒々しく呼吸を繰り返しながらフラフラと立ち上がる。
何とか痛みに耐えながら氷の矢を引き抜いたエルザも同様に立ち上がる。
潰れたのは右目らしく、残った左目でジャンガを睨み付けた。
怪しかった目の輝きは今や炎の様な輝きになっている。…怒り狂っているのは確実だった。
『う、ううう……ゆ、許さないッッ!!!』
「テメェに…許しなんざ請う必要がどこにあんだ…? いいから…とっととくたばりなッッ!!」
『ああああああああッッッ!!!!!』
奇声を発してエルザが両翼を広げる。
同時に空気が震え、ビリビリとした衝撃がジャンガの全身を襲う。
傷だらけでボロボロなジャンガの身体に更なる激痛が走る。
「グッ……な、なんだ…こいつは…」
『超音波だよ! 知らないの!? 蝙蝠はこれで餌や障害物を見つけたりするんだよ!
でも、それは強くすれば生き物を殺して、物を壊せるんだよ!』
エルザが叫ぶや、その口から放たれる超音波は更に強力になっていく。
頭痛がする…、耳鳴りがする…、全身の細胞が…神経が悲鳴を上げる…。
ジャンガだけでなく、ルイズやアンリエッタも耳を押さえ、地面に蹲る。
『死んじゃえ! 死んじゃえ! おねえちゃん以外はメイジも人間も、み~~んな死んじゃえッッッ!!!』
狂気に満ちた声が響き渡る。完全に我を失っていた。
地面が砕け、木々が圧し折れ、森が破壊されていく。
ジャンガは、ギリッと歯を噛み締める。
痛みに耐えているからではない…、目の前で暴れる吸血鬼<クソガキ>に対して苛立っているからだ。
「いい加減ウルセェんだよ…、ハァ…」
息を吐き、腕を振り上げる。グルグルと物を投げる為の予備動作のように勢いを付けて回す。
「とっとと、くたばってやがれッッ!!!」
叫ぶや、勢いを付けた腕を一気に振り上げる。
巨大なカッターが超音波を切り裂きながらエルザ目掛けて飛ぶ。
エルザが目を見開くと同時に、カッターは彼女の右の肩口を大きく切り裂く。
声にならない獣の様な叫び声を上げるエルザ。
ジャンガは素早くエルザに組み付き、懐から出したハンドライフルを胸板に押し付ける。
「地獄の果てに、ハァ…、送ってやるゼ…。三途の川の…渡し賃はサービス…しといてやる」
『ッッッ!!?』
引き金を引く。

直後、巻き起こる大爆発。

爆発に吹き飛ばされたジャンガとエルザは正反対の方向にすっ飛んだ。
木に叩きつけられ、ジャンガは盛大に血を吐く。
「ジャンガさん!?」
「…ハァ…、テメェもこんな所まで……ご苦労な…グッ…」
「喋ってはダメです!」
アンリエッタは杖を翳して”治癒”を唱える。
ジャンガの傷が少しずつ塞がっていく。
漸く神経ガスの責め苦から解放されたタバサも、ジャンガに拙いながらも治癒を唱えた。
しかし、ジャンガはまだ酷い怪我にも拘らず立ち上がろうとする。
「ダメです、まだ傷が…」
「大人しくしていて」
アンリエッタとタバサは止めるが、ジャンガはその手を振り解く。
「…まだ…あのガキは仕留めて…いねェ…」
ジャンガの視線の先へと皆は顔を向ける。
暗闇の中から血だらけのエルザが姿を現した。
夥しい血が全身から流れ落ち、アンリエッタの氷の矢で傷つけられた右目はポッカリと穴が開いている。
右の肩口は腰の辺りまでパックリと裂けており、まるで割る為に開いた割り箸の様だ。
正直、吸血鬼であっても生きているのがおかしい状態だ。
そんなボロボロな身体になってもエルザは燃えるような怒りを目に宿し、ジャンガを睨み付けている。
「ゆ、許さ…ない…。絶対に……絶対に…、殺してやる…、殺してやるんだからッッッ!!!」
怒号。凄まじい叫び声は木々を揺らし、夜空に浮かぶ雲を散らす。
ジャンガは不快感を隠しもしない顔でエルザを睨み返す。
「ウルセェ…、今…何時だと…思ってやがる…。静かに…しやがれ…」
「うるさい! 殺すと言ったら……殺――」
エルザは唐突に言葉を止める。
空の彼方を見つめたまま恐怖に怯えた表情で悔しそうに歯を噛み締める。
「…太陽…」
呆然と呟く。

――直後、陽光が森を照らした。

「嫌ああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーッッッッッ!!!!!?」
エルザの絶叫が迸る。
日に照らされた顔をマントで厳重に覆い、顔を背ける。
吸血鬼は日の光に弱い…、その弱点はガーレンに拾われて強化されても変わらなかったようだ。
苦しそうに呻きながら森の暗闇に引き返すエルザは、一度だけ暗闇の中からギラギラと輝く片目で睨んだ。
「絶対に…この屈辱は…忘れない…。絶対に…復讐してやる…」
ジャンガを睨み、次いでアンリエッタを睨む。
「わたしの顔に傷を付けた…メイジのおねえちゃんにも復讐するから! 絶対にこの痛みは忘れないからッッッ!!!」
力の限り、怒りのままに叫ぶと、エルザは暗闇の中に消えていった。

エルザの気配が消え、一同は一斉に安堵の息を漏らした。
張り詰めていた緊張の糸が切れたのだろう。
ジャンガはアンリエッタへと顔を向ける。
「今回ばかりは礼を言ってやる…」
「わたしはたくさん作っている借りを返しただけです。御礼は必要ありませんわ」
そう言って笑うアンリエッタに、ジャンガも笑って返した。
「あ、ああ……嫌あああぁぁぁ!!!?」
…突然聞こえたティファニアの叫び声に一同は驚いた。
見れば、ティファニアは地面に倒れた頭の無い死体を抱えている。
それはエルザに屍人鬼にされ、頭を破壊された少年の物だった。
「ティム!? ティム!?」
頻りに叫んでいる名は彼女が帰って来ないのを心配した少年の名だ。
死体の着ている服を認め、ジャンガは小さくため息を吐く。
そして、何とか立ち上がりティファニアの元へと歩み寄る。
「頭が吹っ飛んでるのに、生きているわけねェだろうが…」
ティファニアが涙に濡れた顔を向ける。
「同情とかならしねェぞ…。こんな所に何時までも閉じこもってるからこうなったんだ。自業自得だ…諦めろ」
「そんな言い方は…」
「言い方も何も無ェ…、事実だろが」
「待って! それは違う…」
タバサが口を挟む。
ジャンガはゆっくりと振り返る。
「何が違うってんだ?」
「…エルザはわたしが狙いだった…。そして、あの子はそれに巻き込まれた被害者…」
タバサはティファニアに抱かれた物言わぬ少年を見る。
「…で?」
それがどうした? とでも言わんばかりの態度でジャンガは聞き返す。
「…原因はわたし達にある…。不用意にこんな所に来たりしなかったら…あの子は死なずにすんだから…。だから…」
「だから責めるのは間違ってる…ってか?」
タバサは深く頷く。
「…それならわたしにも責任はありますね。あの吸血鬼はわたしにも用があったみたいですから…」
それまで事の成り行きを見守っていたカトレアが唐突に口を開き、
驚いたルイズやエレオノールは彼女を振り返る。
「ちいねえさま、何を言っているの!? ちいねえさまに責任なんか無いわ…、全部あの吸血鬼がした事じゃないの?」
「ちびルイズの言うとおりだわ。カトレア、あなたが気に病む必要など無いのよ?」
でも、とカトレアが言い掛けた時、誰かの言葉が遮った。
「そうですわね。…一番の原因はわたくしにあります」
そう言ったのはアンリエッタだった。
「陛下? 何を言って…」
アニエスの言葉をアンリエッタは手で静する。
彼女は申し訳ない表情でティファニアを見つめる。
「わたくしがここへ長居をしたから、ルイズ達はわたくし達を探しにここにやって来た。
それが引いてはあの吸血鬼を呼び寄せてしまい…、結果的にその少年の命を奪ってしまったのです」
その場の誰もが黙り込む中、アンリエッタは言葉を続ける。
「…アニエスが迎えに来てくれたあの日に帰国していれば、このような事態は避けられたはずなのに…」
そう言って彼女はティファニアに頭を垂れた。
「全てはわたくしの判断ミスです。…ティファニアさん、申し訳ありません」
しかし、ティファニアは大きく首を振った。
溢れる涙が雫となって飛び散る。
「陛下や皆さんだけが悪い訳じゃありません…。わたしも…不注意でした…。
森に遊びに行かせても必ず戻って来たから…子供達への注意を怠ってしまったんです。
わたしがもっとしっかりしていれば…」
「でも、わたし達があいつを呼び寄せたのには変わらない…」
タバサは申し訳無さそうに言い、目を伏せた。

それまで黙って話を聞いていたジャンガは深くため息を吐いた。
「じゃあなにか? 今回の事が無けりゃ、この先ずっとここは平穏無事だった……とでも言う気かよ?
ハッ、ガーレンが虚無を集めているガリアと組んでいるんなら遅かれ早かれ…ここには手が伸びていたさ」
以前、虚無の使い魔であるミョズニトニルンであるシェフィールドと組み、ルイズを拉致しようとした事があった。
シェフィールドがガリアの者だと言う事を考えれば在りえない事ではないだろう。
「まぁ…百歩譲って奴を呼んだ責任がこっちに有ると認めるとしてだ…。
俺達なんかがいない時にあれに出くわして…お前はガキ共守りきれるのか?」

ジャンガの言葉にティファニアは口篭る。
たまにやって来る盗賊などとは違う圧倒的な恐怖を感じた、恐ろしい相手――吸血鬼
自分にあれと立ち向かう事が出来るか? と問われたら”できない”と答えるしかない。
記憶を奪う呪文も人間以外には試した事が無い以上、聞くかどうかも保証が無い。

黙り込む彼女をジャンガは暫く見つめていたが、やがて背を向ける。
「ま、お前には色々と借りが在るし…これ以上は言わないでおいてやる。
だがよ…次に何かあったとしても俺は知らねェぞ。何度もこんな所に足を運ぶほど、俺は物好きじゃないからな…。
それでもいいなら好きにしな…。またこんな事が起きる恐怖に怯えながら暮らしやがれ」
じゃあな、と話を打ち切りジャンガは村の方へと歩き去って行った。

ジャンガの姿が見えなくなり、ティファニアは腕の中の子供に目を落とした。
アンリエッタがそんな彼女に声を掛ける。
「ごめんなさい、彼は少し口が悪くて…」
しかし、ティファニアは首を振った。
――あの亜人の言う事には一理ある。
いつかはこんな事になるかもしれない…と、今まであのようなものが来なかったのは偶然だった…と、薄々は考えていた。
しかし、何時までも平穏無事に過ごせる……そんな甘い考えが自分の中に僅かに在った。
暗い場所に閉じこもって、平穏無事に過ごせるなどありえない…。それを自分は母が殺された時に知ったのではないか?
自分から何もしないで何かが変わるわけでもない…、誰かが変えてくれるわけでもない…。
自分がしなければならないのだ…。それなのに…。
「ごめんね…、ごめんね…、ごめんね…」

もう顔も見れない少年の身体に顔を埋め、ティファニアは暫く泣き続けた。



――数時間後――

「皆…用意は出来た?」
ティファニアは子供達を振り返る。
子供達から一斉に「は~い」という元気な返事が返ってきた。

――あの後、ティファニアはトリステイン行きを了承した。
理由はやはり子供達の安全の為が大きいが、何も知らない自分の無力さを痛感したティファニア自身が外の世界を見たいと思った事もあった。
エルザに殺されたティムは直ぐに簡易的な火葬にし、遺骨はティファニアの手の中にある。
この場に埋葬した方が一番手っ取り早かったのだが、一人だけこの場に残すのは可哀想だとティファニアが言ったのだ。
子供達はティムの行方を当然ティファニアに尋ねたが、彼女の辛そうな表情を見るとそれ以上の事は聞かなかった。
また、最初は場の空気の為に気づけなかったルイズ達はティファニアがハーフエルフだと知り、大層驚いていた。
しかし彼女がアンリエッタの説明で無きアルビオン王家の血を引く者であり、争いを嫌う心優しい存在であると知り、とりあえずは丸く収まった。

「んじゃ、とっとと行くゼ」
ジャンガはそう言いながら一人で歩いて行く。
そんな彼の背にルイズは声を投げかける。
「ちょっと待ちなさいよ!? アンタ一人で行ったってしょうがないでしょう!」
「ルセェな…。だったらもたもたすんじゃネェよ」
振り向かず、足も止めないままそれだけ言う。
ルイズはイライラしたが、カトレアに優しく宥められ、怒りを飲み込んだ。
エレオノールはそれを見ながら、呆れたようにため息を吐く。
その横を再び人に化けさせたシルフィードと一緒にタバサが通り過ぎて行く。
そんな彼女達を微笑みながら見つめるアンリエッタはティファニアを見つめた。
「さ、行きましょう」
「はい…陛下」
「アンリエッタで宜しいですわ、ティファニア殿」
「はい…アンリエッタさん」
そう言い、ティファニアは差し出された手を取った。
森を出る時、名残惜しそうに一度だけティファニアは村の方を振り返った。
(さようなら…)
心の中で長く住んだ村に別れを告げる。

そして、ティファニアは外の世界へと一歩を踏み出した。



――同時刻:???――

何処にあるとも知れない、暗く広い空間。
しかし、そこは全くの闇に閉ざされている訳ではなく、所々に明かりが灯っている。
――それはハルケギニアでは決してお目にかかれない、電子機器の輝きだ。
その部屋の一角が一層の輝きを放っている。
そこには円筒状の巨大なカプセル――否、水槽と呼ぶべき物が在った。
鮮やかな緑色の輝きを放つそれの中には何かが浮かべられている。
エルザだ。ボロボロに切り刻まれ、右半身も肩口から切り裂かれ千切れかかっているままの姿。
その身体に無数のコードが付けられ、口には呼吸器が付けられていた。
「気分はどうだ?」
暗闇の中から声が響く。エルザは目を開き、姿を現した相手を睨みつける。
「最悪だよ…」
「そうか…。ククク、まぁ無理も無いか」
姿を現したのはガーレンだった。ボロボロのエルザを見ながら不気味な笑みを浮かべる。
此処はガーレンが新しく作った秘密の地下基地。”向こう”の『ルナベース』とほぼ同じ規模を誇っている。
エルザが入っているのは彼女専用に調整してある生体ポッドだ。
「それにしても、見事なまでにやられたな? まぁ…羽目を外しすぎた結果だ。その苦痛は甘んじて受けるんだな」
「…悔しい……。絶対に…、絶対に許さない…。あの亜人…ジャンガ……それに…あのメイジ…アンリエッタ……殺してやる…」
心底無念そうに呟くエルザ。
「早く…治らないかな…。治ったら…直ぐに…御礼しに行くのに…。そして…おねえちゃんも…わたしの物に…」
「それは残念ながら無理だ」
ガーレンの呟きがエルザの言葉を遮る。
「どう言う事…それ?」
怪訝な表情を浮かべるエルザにガーレンは答える。
「次の予定が迫っている…、残念ながら貴様の好きに出来る時間は一時終わりだ。…それに、次は”奴”の番だからな」
「そ、そんな……」
「なに焦るな…、何事も無ければ直ぐに貴様の次の自由はやって来る」
「…本当?」
「無論だ。”何事も無ければ”だが…」
エルザが身体を乱暴に揺さぶった。
「何事も無く進ませる! エルザが…邪魔させない! 絶対に…絶対に…」
ガーレンは手を振って嗜める。
「解った、解った。あまり動くな…完治が伸びるぞ?」
そう言われてエルザは暴れるのを止めた。
それを見てガーレンは満足げに頷く。
「それで良い。我輩の言うとおりに動いていれば万事は上手く行く」
ガーレンは静かにほくそ笑んだ。


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