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魔導書が使い魔-第二章-01


そこは長い長い廊下だった。
そんな道を、わたしは走っていた。
わたしは同世代から見ても小さい部類なのだが、今はより一層縮んでいる。
目に涙を溜め、ただひたすらに走り続けるその顔は、いつも鏡で見ているもの
より少々幼い。
そこで気が付いた。あれは昔の自分、そしてここが夢なのだと。
幼いわたしが走り去った後を、使用人たちが追いかけるように走る。
わたしはそれから逃げるように走る――走る――走る――
ああ、どこに行こうとしているかはわかった。
庭の小池だ。
そこなら誰にも見つからず、傷ついた心を、流れそうな涙をさらけ出すことが
できる。
そして、優しい“彼”が迎えに来てくれる場所だから。
だから幼いわたしは走る/走る/走る――
走る:走る.走る=走る~走る>走る#走る♪走る――
――だが、いつまで立っても廊下からは抜け出せない。
分岐することはなく延々と続く道。
外れようにも窓の外にはなにもなく、落ちれば永遠に落ち続けることになるの
だろう。
焦る――ここにいたら、いつかは捕まってしまう。
勉強は好きだった。稽古も好きだった。
だけどその稽古が魔法の分野になると、とたんに苦痛となり。いくら努力して
も叱咤の対象にしかならない。
逃げるわけではない、諦めるわけではない。
ただ、一時でも涙を流したかったのだ。
それなのに――廊下は続く。
終わりのない道は、どんどんどんどんどんどん――続き。
ふと、今までわたしを探していた使用人たちの気配がないことに気が付いた。
立ち止まる。
どくどくと血を送り続ける心臓の音が五月蝿く、逆にそれ以外は何も聞こえな
かった。
振り返る。
そこには延々と続く廊下。
誰もおらず、廊下以外になにもない。
ぞくりと悪寒が背を駆け上がった。
悪寒を感じる方を向くと、廊下の先――そこに長身の女が凍りつくような笑み
を浮かべて――

わたしは目を開けた。
そこには見慣れた天井があり、横を向くと人外2匹が寝こけている。
カーテンが翻り、月明かりが部屋を照らし、それにわたしはほっとして。
「月明かり?」
おかしい。
窓は閉めたはずだ。
でも、現実では開いている。
「…………」
わたしは言いようの無い不安を抱えながら、窓を閉めた。
窓枠は、心なしか冷たかった。



「どうしました皇太子」
兵士は宝物庫の前に立っているウェールズへと声をかけた。
その声にウェールズは顔を上げる。
「いや……扉が開いていてね……」
顔をしかめる兵士。
「賊ですか?」
それにウェールズは首を振る。
「いや……今更この城に賊が入る理由が無い。こんな危険な場所なんてないん
だから」
「それでは、反乱軍の間諜かも……」
「それもないだろう。間諜ならこんなミスはしない。そもそも古ぼけた骨董品
しかないこんな場所に、なんのようがあるというんだ」
考え込む2人。
だが、答えも出るはずもなく。
「もうここはいい。一応、みんなの警戒態勢を高めておいてくれ」
「は、はい」
一礼し歩き去っていく兵士を見送った後、ウェールズは扉へと手をかけ――
パキ……。
「ん?」
何かが扉から剥がれ落ち、それを拾った。
「……氷?」
思わず見上げたウェールズの顔を冷たい風が撫でる。
「……一体何なんだ……」
その先には、ぼんやりと青い輝きを放つ鉄の造形があった。



〈番組を始める前に、司会者からのお話です〉

このお話は、1人の少女から始まる“はずだった”異世界での下らなく使い古
されるも、懸命で力強いボーイミーツガールに、
交わるのは、拙く愚かしくも、いとおしく情熱的な大円満(デウスエクスマキナ)の残
骸、片翼の少女のその後。
目覚めの第一章は終わり、今ここに幕上がるは第二章。
さあ、ご覧あれ!
「妄想」が「真実」に、
「駄作」が「堕作」に、
「迷作」が「名作」に、
「全作」が「悪夢」になる瞬間を!
「喜劇」という名の「悲劇」を! 「悲劇」という名の「喜劇」を! 「喜劇」
という「狂劇」を!
監督は■■アル■■■テ■■!
全ては、我の監修の元にお送りいたします。

〈多少のアドリブ等ございますが、此度の幕も存分にお楽しみ下さい〉



前回の事件から暫くたった後。ルイズを取り巻く環境は、見た目は変わらぬが、
中身は激変していた。
常に蔑みと、嘲りと、侮蔑の視線に晒されてきたルイズであったが、それはと
ある出来事によって払拭される。
それは決闘でギーシュを降したこともあるが――アル・アジフ。ルイズの使い
魔の影響が大きい。
初めは平民を喚んだとして騒がれた噂も、ギーシュとの決闘中。アルが杖を持
たずに『錬金』を使ったことから一変した。
メイジや先住魔法を使う亜人、果てまでは姿を変えた韻竜やエルフではないか
とまで騒がれ、一部の生徒は教師へと追求したが、その正体を満足に答えられ
る者はいなかった。
唯一知っているであろうオールド・オスマンは飄々と質問をはぐらかすばかり。
そして決闘で見せた剣技、更にはフーケの追跡に任務で一番手柄を立てたとい
うことで、ルイズを見る皆の目はもはや無能の『ゼロ』を見るものではなかっ
た。
だが、皆戸惑っている。
今までおちこぼれと蔑んでいた相手が激変したのだ。
『フリッグの舞踏会』ではその場の勢いもあり、ルイズへダンスを誘った者た
ちも冷静になった今、どう接していいかわからない。
自然、接する態度は腫れ物を触るかのようになり。結局ルイズの環境は以前と
変わらぬままとなる。
ただ、少しルイズについて他の疑問を持つ者たちもいた。
それは最近ルイズが、体のいたる所に包帯やガーゼをしているからである。
なぜ? という疑問は上がるが、答えられる者はいない。
結局は彼女に近づくことさえ出来ない彼らにはわからなかった。



風を切る、空を切る、地を蹴る、身を翻す。
時は早朝。場所は学院本堂の屋上。
まだ日が昇ったばかりの時間、おおよそ誰も近づかないだろう場所で、黒と桃
色が踊っていた。
その動きは流麗で素早い。
「どうした! 避けるばかりではいつまで立っても終わらんぞ!」
時折はいる罵声。
「うるさいわね!」
怒鳴り返す桃色――ルイズに相対するのは黒。
それは漆黒だった。日の照る中、障害物の無い吹きさらしの屋上で切り取った
ような黒。それには頭を、腕を、足を持つが人ではない。それは人にはありえ
ない尻尾と羽を持っていた。
ナイトゴーント。アルが作り出した夢魔の一種。
ルイズは手にした大剣を、ナイトゴーントは己の爪を持って、競う争う戦う。
そしてルイズの張り上げた声に、罵声の主――アルがさらに罵声を被せる。
「ほら、余所見をしている余裕があるのか!」
「危ねえぞ相棒!」
手の中の大剣――デフルの声に視界を戻すと、眼前に黒い影が迫っていた。
渾身の力を持ってデルフで切り飛ばそうとする。
「こ、んのぉっ!」
が。
「え?」
ガギリと、デルフが影の腕で受け止められた。
「シギャーー!!」
影が腕を振るう。
「ひゃうっ!?」
咄嗟に引いたデルフで体を庇ったが、その勢いまでは殺せず吹き飛ばされた。
ルイズはゴロゴロと転がり――
ふ、と重力から開放される。
見上げるのは青空。
どこまでも広く、高く、美しく、雄大なる空。
無限の包容力を持つかと思われるその空は地を這う者たちを嫌い、翼無き者を
追放しようとする。
過剰なる拒絶。
それに比べ、なんと大地の寛容なことか。
すべからくを、重力という鎖に繋ぎ引き寄せる無理やりな抱擁。
そう、今まさにこの時のように――って!
「おいおい! 相棒! 危ねぇ! 危ねぇ!!」
デルフの声に我に返る。
そこにはさっきまで立っていた学院の屋上はなく、まさに空へと投げ出されて
いた。
もちろんルイズに翼などあるはずもなく、普通一般的に高所から人間が落ちた
ら死ぬ。
メイジなら空を飛ぶことも可能だが、ルイズには魔法は使えない。
そうなると当然、重力に従いルイズは落下しはじめる。
「――ていやぁああああ!」
だがその寸前、学院の壁にデルフを突き立てた。
「ぜはぁ……ぜはぁ……」
息も絶え絶えと壁面にぶら下がり深呼吸するルイズ。
体勢こそ辛いが、しばし息を休めようとした時、上から声がかかる。
「ああ、言い忘れていたが――」
バサリ、と羽音がした。
「――ナイトゴーントは飛ぶぞ」
視線を上げた先、そこにはバッサバッサと羽をはためかせ、太陽を遮る闇色の
ヒトガタがいる。
「そ――」
ナイトゴーントはゆっくりと腕を構え。
「――そんなことは早く言いなさいよーーっっ!!」
「シギャーー!!」
朝の学院にルイズの絶叫が響いた。



「いたた……」
「ほらルイズさん、動かないでください」
「染みっ! 染みる染みる!」
新たにこさえた生傷に、シエスタが容赦なく消毒を施しルイズがそのたびに悲
鳴を上げる。
屋上にナイトゴーントはすでにおらず、チラホラと登校しだす生徒の姿が見え
た。
「なんだ、それぐらいで情けない」
アルが口を挟むとルイズが睨みつける。
「そもそもがあんたの所為でしょう!」
「ふむ?」
「あんたがこの前いきなり特訓とか言って、無理矢理始めたんでしょうが!」

事の始まりは数日前。
土くれフーケの事件が一段落し、ルイズへ周囲の新たな認識も徐々に定着して
きた頃であった。
「なによ。朝早くこんな所につれてきてなんなの」
突如アルが朝早く学院の屋上へ引っ張っていくと、欠伸交じりのルイズへ開口
一言。
「これから特訓をする」
「は?」
思わずルイズは間の抜けた声を出した。
アルの話しによれば、ルイズの力はとても不安定なものであるという。
中途半端な契約、跳ね返ったルーン、絡み合ったその2つ。
そしてこの前の事件の際に発動した力。
あれは本来、真に契約した者にか発動しないものであったのだが。
「あの時。汝のパスから流れてきた力が大きすぎて、妾から記述が汝に流れ込
んでしまった。それが原因なのか、汝は手足だけであったがマギウスになれた
のだ。まあ、かなり危険な力でのゴリ押しだったがな」
「力が大きすぎるって、それに何よ記述やマギウスって」
「記述は、汝は一端とはいえ体感しただろう。マギウスについては後日話そう」
その言葉にルイズは不満そうな顔をするが。
「汝の中には強大な……そう、とてつもなく強大な力が溜まっている」
「強大な……力? そんなものが……わたしに?」
驚くルイズにアルは頷くと。
「まあ、力はあっても才能と妾との相性は格段に悪いがな」
「な、なんですってぇ!」
「これまで契約してきた者たちの中でも才の無さは群を抜いていおる……いや、
ある意味これも才能か」
「余計なお世話よ!」
今にも噛み付きそうなルイズを抑えたのはシエスタであった。
「まあまあ、ルイズさん」
抑えられている間にアルが話を締めくくる。
「とりあえず、今のままの汝ではその力を扱いきれん」
風が吹いた。
「ということで――」
するとアルの体から数枚の紙片が舞い、渦を巻き。
「こやつと戦ってもらう」
気が付くと、そこに黒尽くめの人影――ナイトゴーントがいた。
「へ?」
「なにを間の抜けた声を上げておる」
「いや、だって……普通、力を操る特訓って……なんかこう、瞑想とかなんと
か……」
呆れたようにアルは言う。
「汝の力の根源もわからんのに何をしろというのだ」
「そ、それはそうだけど」
「まあ、どんな力であれ。まずは自衛する力を自力でつけてもらう。汝には都
合のよい効果のルーンがあるからな」
アルがデルフを投げてよこす。
デルフを掴むとルーンが輝きだし。
「では、さっそく始めるか」
「へ? ちょっと待って、こころの準備が――」
ルイズがそう言おうとした時、すでにナイトゴーントが迫っていた。

そんなこんなの数日。
「おお、そんなこともあったな」
「特訓ってのなら、あの魔術ってのを教えなさいよ」
ペタペタとガーゼを張られながらルイズが言うと。
「汝にはまだ早い」
にべもなくアルが撃ち落した。
「な、なんでよ! あのフーケの時だってわたしは――」
食い下がるルイズにアルは目を細めた。
「汝、なにか勘違いしていないか?」
「勘違いって……」
鋭く、射抜くような視線を向けられ、ゴクリとルイズは唾を飲む。
「汝があの時読み取った我が記述など、深淵の端にすら届いていない。魔術と
は外道の技。人外の知識を、深淵を、人でありながら外道となり使う技術。汝
はそれとまだ向き合う位階まで達しておらぬ」
「そ、それはっ!」
「現に、夜中にこそこそと偃月刀を作ろうとしているらしいが、あれから成功
しておるまい」
「――っ」
キッとデルフを睨むと、カチャリと唾が鳴った。
「すまねえな。俺は黙ろうと思ったんだが、その娘っ子が相棒の命に関わるっ
て言うんでな」
「半端な気持ちで魔術を使おうとするな。気軽に深淵を覗き込めば、逆に呑ま
れることになるぞ」
「~~~~ッッ」
冷酷な言葉が胸に突き刺さる。
「アル、わたしは――」
そしてルイズが口を開こうとした時。
「ふむ、そろそろ時間か。汝も学徒だ、遅刻せぬようにな」
そう言うやいなや、背を向けてひらりと屋上から飛び降りた。
「待ちなさい!」
ルイズが慌てて下を覗いたときには、すでに彼女は走り去った後である。
「では、私も朝食の手伝いがありますので。ルイズさんも後ほどいらしてくだ
さいね」
シエスタもそう言い立ち去ると、残されるのは1人と1本。
「……なによ」
「まあ相棒。元気出せ」
「うるさいわね……」
しばしルイズは立ち尽くした。



「見れば見るほど謎は深まるばかりか……」
唸り声を上げ、コルベールは手の中のスケッチを覗き込む。
そこに描かれているのは複雑かつ精緻な紋様。
もしも地球の工学の知識があるものが見たならば、それは電子回路に似ている
と気が付いただろう。
そして更に謎を深めるだろう。その紋様は電子回路にしては、奇怪な線や図形
が多すぎるのだ。
「やはり魔法に関すること……にしては紋様が複雑すぎる……それにこんな紋
様は本ですら見たことが無い」
先住魔法を除き、メイジの使う魔法はほぼ統一されているこの世界。
その紋様は余りにも異質であった。
「これは本当に……ミス・アル・アジフの話を信じざる得ませんね」
コルベールがスケッチから顔を上げた先。
そこには、巨大な鋼鉄の巨人が佇んでいる。
胸部に大穴が開いた巨人。スケッチの中身は、ここ数日、巨人の全身に奔って
いる紋様を写したものである。
コルベールには、それが何かしらの力を伝導するものだとわかった。
だが、それだけである。
「本来どれだけの力を必要としていたのか」
胸部の穴の中も見たが、そちらは所々に細かい金属部品がぎっちりと噛み合い
詰まっており、さすがにそれに手を出すことは戸惑われた。
一度、アルに詳しく調べてもいいかと訪ねたが、きっぱりと断られている。
「今日はこれまでですかね」
日が昇ってかなり経つ。そろそろ朝食の時間であった。
学園へと向かおうとする途中、コルベールは今一度巨人へと振り返る。
50メイルに届こうかという巨体に全体に施された複雑な紋様。
引き連れて来たのは、異界から来たという魔導書の精霊。
そして召喚者は――『ゼロ』とあだ名を持つ少女。
このことは彼女にとっていかな影響を与えるのか。
いや、フーケ事件の報告ではすでに影響が現れている。
「……何も無ければいいのですが」
呟いた言葉を聞くものはいない。



「――で、あるからして風の系統は」
面白みの無い教師の声が教室に響き、面白みの無い授業が淡々と進む。
誰もが授業に退屈している中、ルイズもその1人であった。
その傍にアルの姿は無い。
最近はいつもそうである。
ルイズが回復して、部屋での食事は無くなり、朝の訓練が終わるとアルはいつ
も1人どこかへ消えていく。
夜には帰ってくるのだが、その頃にはルイズも疲れ果て問いただすこともでき
ない。
そんな微妙なすれ違いが続いていた。
「……なんだってのよ」
授業を聞き流しながらルイズは先ほどのアルの言葉を考える。
確かにルイズは魔術の本質や深淵を完全に理解しているわけではない。
だが、それでも言い方というものがあるのではないか、と思ってしまうのだ。
「なに悩んでいるんだい相棒」
カチカチと傍に置いているデルフが喋る。
「うるさいわよボロ杖」
「剣なのに杖たぁ、これいかに!」
「メイジの契約結んで魔法も使えたんだから、あんた自身は剣でもわたしにと
っては杖なの」
杖にしたのはいいが、お喋りが過ぎるこの剣にルイズはうんざりしていた。
鞘に入れれば黙るのだが、どうやらちゃんと入っていなかったらしい。
「その魔法も失敗だけどな」
「少しは黙りなさい!」
思わず怒鳴ったルイズに周囲の視線が集中した。
「……ミス・ヴァリエール。私に黙れと?」
「い、いえ……そういうわけでは」
教師のギトーに睨まれルイズはたじろぐ。
「ふん、まあいいでしょう。授業を続けます」
不快気にギトーはルイズから視線を外すと、再び風系統を至上とする講釈が始
まる。
ルイズは一息つくと授業を聞こうとして、止めた。
彼の語ることは要約すると、風は最強の系統、それだけである。
実にくだらなかった。
ルイズに最近芽生えた傍観者気味の思考が頭をもたげる。
風が最強ならばなぜギトーはフーケ討伐に立候補しなかったのか、フーケの巨
大なゴーレムを前にして風がどれほどの力となるのか、“たかが風を操る程度
が”人知を超えたモノたちに立ち向かうことができるのか。
そしてふと周囲が騒がしくなっていることにルイズが気づくと、教室の中央に
ギトーと対峙するキュルケがいる。
「試しに、この私にきみの得意な『火』の魔法をぶつけてきたまえ」
「火傷じゃすみませんわよ?」
目を細める彼女にギトーが挑発し、キュルケが杖を抜いた。



(また……心ここにあらず、か)
ギトーの語る風の講釈を話半分に聞きながら、キュルケはルイズへと視線を向
ける。
フーケの事件が終わった辺りから彼女は変わった。
いや、それ以前。
ギーシュとの決闘後のあたりから“ルイズの何かが”変わり始めていたのだ。
最近のルイズは授業への集中力が低下している。
さきほどのように教師に注意されることなど前はなかった。
どこまでもプライドが高かったルイズは、例え既知の内容であっても授業には
真剣に参加するはずである。
だが今はときおり授業中に見下すような、何か児戯を見るような目をすること
があった。
原因はわかっている。
それはルイズの使い魔が原因だった。
アル・アジフというイレギュラー。
そのアルが現れてからルイズは変わった。
学院側は隠しているが、アルが人外であることをキュルケは知っている。
そしてキュルケは見たのだ。
ルイズがフーケのゴーレムに使った謎の魔法を。
あの時。気絶から覚めたキュルケが見たのは、ゴーレムの半身を焼く業火。
破壊するだけならトライアングルで可能だろう。だが、30メイルのゴーレムを
半身とはいえ、あの物量を消し炭に変えるのは、スクエアのメイジでさえでき
るかどうか。
アルが現れてから、変わった。
少なくとも、キュルケのいる場所から確実にどこか遠い所へと進んでいる。
そう、遠い場所へ――進んでいるのだ。
密かにライバルとして認めていた相手が、遥か先にいるような感覚がキュルケ
を襲う。
それは焦りだった。
だからだろうか。
「――つまり最強の系統とは『風』であるのです」
その言葉に反応したのは。
「失礼、ミスタ・ギトー。それは違うと思いますわ」
突如立ち上がったキュルケに皆の視線が集まる。
「ほう、それでは最強の系統は何ですかミス・ツェルプストー」
キュルケは目端でルイズを見るが、ルイズはまたどこか上の空で反応をしない。
それがキュルケをイラつかせた。
「それは『火』。全てを燃やし尽くす炎と情熱ですわ」
「……ではミス・ツェルプストー。前に出なさい」
その言葉に静かに従うと、ギトーは杖を取り出し。
「試しに、この私にきみの得意な『火』の魔法をぶつけてきたまえ」
馬鹿にしているのかとキュルケは思うと。
ギトーの見下した瞳が、どこかルイズの視線と重なる。
「火傷じゃすみませんわよ?」
次には杖を抜いて詠唱を始めていた。
唱えるは『火』の二乗。持ち札の中でも最も使い慣れ、最も強力なもの。手加
減する気はない。
火が火炎に、火炎が業火へと変わり、巨大な球となる。
「――『ファイヤーボール』」
そしてキュルケの渾身の魔法はギトーへと襲いかかり。
風の防壁にあっけなくも弾かれた。
「――え」
あまりにもあっけない結果に呆然としているキュルケに。
「ラナ・デル・ウィンデ――『エア・ハンマー』」
余裕めいた詠唱と共に、風の塊が腹へ叩き込まれた。
視界が白く染まり、吹き飛ぶ体がゆっくりとキュルケは感じる。
そして視界の端で呆れ顔のルイズを見た気がして悔しくなったところで、自身
が倒れた音を聞いた。



目の前で起こった自体に、ルイズはどこか呆れ、そして不思議にも思った。
あの余裕に満ちたキュルケがあんな風に自ら教師に突っかかることに。
そしてなぜ自分が、キュルケが吹き飛ばされた時に、デルフを握ったかという
ことに。
「諸君、『風』が最強たる由縁を教えよう。簡単だ。『風』は――」
生徒に勝ち得意気に話すギトーを細めた目で見ながら、その疑問が発展する寸
前……教室の扉がガラッと開いた。
「失礼します。ミスタ・ギトー」
入ってきたのはコルベールである。
「授業中です」
ギロリと睨みつけるギトーを無視しコルベールは重々しく告げた。
「今日の授業は全て中止になります」
騒ぎ出す生徒達。
その中でルイズは中途半端に止まった思考を持て余しキュルケを見る。
キュルケはいつの間に近づいたのか、タバサの手によって助け起こされている
ところだった。
「やっぱり悩みかい相棒?」
「ふん」
「あ、ちょ――」
出歯亀気味の剣をしっかりと鞘へ押し込んだ所で。
「恐れ多くも、我がトリステインがハルケギニアに誇る可憐な一輪の華、アン
リエッタ姫殿下が、本日ゲルマニア御訪問からのお帰りに、この魔法学院に行
幸なされます」
そんなことをコルベールが言った。



「本当によろしいのですか?」
魔法学院へ行く道中。
ガタゴトと揺れる馬車の中でマザリーニは、アンリエッタへ問いかけた。
「何がですか?」
それにアンリエッタは目も向けず、外を見るばかり。
「ミス・ヴァリエールはあなたの幼少の頃からのご友人です」
どこか苦渋が込められた声に、アンリエッタはようやく目を向ける。
「それがどうしたというのですか?」
アンリエッタの瞳は凍り付いていた。
その瞳に負けずにマザリーニは切り出す。
「……やはり、この件はワルド子爵に預けた方が」
マザリーニが窓の外を見ると、そこにグリフォンに乗った凛々しき男がいた。
そしてマザリーニの視線に気づくと、優雅に会釈をした。
だが、マザリーニの提案も。
「――本当に、それでいいと思っているのですか?」
その言葉で一切を切り捨てられた。
「で、ですがっ」
なんとか食いつこうとするが。
「わたしはトリステイン王国の末座へ座す者。始祖の血を引き継ぎ、宿命を背
負う三柱の一柱」
アンリエッタの瞳はすでにここへ向けられていない。
「たとえ実の親でも、想い人でも、幼少からの“親友”でも。この宿命を果た
すためならば、使い潰し、使い捨て、切り捨てましょう」
その瞳はどこを睨んでいるのだろうか。
「わたしは冷徹な、王家の歯車にならないといけないのです」
握り締めた手に爪が食い込み、白い手袋に赤が滲んだ。
「……すみません」
マザリーニが頭を下げる。
「殿下が辛くないはずがありませんでしたね。過ぎた言葉をお許しください」
その言葉にアンリエッタは顔を向けると、微笑を浮かべた。
「いえ、あなたはわたくしを思って言ってくれているのです。謝ることはあり
ません」
「殿下……」
頭を上げマザリーニはアンリエッタの姿を目に焼き付ける。
再びアンリエッタは窓からそっと空を見上げた。
「王家の血と力を保つためには――世界を保つためには――我が身をも切り売
りしましょう」
その瞳は、空へ。
空をも越えた先を睨みつけていた。



見下ろしていた。
そこはフーケによって破壊され、その後修復された塔。
盗難防止のためにより強固に作り直された塔の頂上で、アルは自らの手を見下
ろしていた。
「おかしい……」
呟いた言葉は風に散る。
「記述修復は進んでいるはず――なのに」
――記述損傷率は29.62547% 修復率は8.15845%
「なぜ力が戻ってこない」
その疑問に誰も答えることはない。
「気づかぬうちに、誰かに記述をいじられたか? いや、そんなことができる
ような……者は……」
(――情報停止、シャットダウン、検閲削除、フリーズ)
探ろうとするたびに脳内にノイズが走った。
自らの内部が虫に食われるような……書き換えられていくような悪寒に晒され
ながらアルは必死に検索を繰り返す。
「っぐ!」
(『武装』関連の項目……アトラック・ナチャが近日修復予定。他の武装は随
時修復予定――だが、クトゥ●ア、イ●カァに関しては記述頁自体が欠落――)
「――って、またか! あの娘達は!」
思わずアルは不調も忘れて怒鳴った。
そんなことをしていると、ふとゾロゾロと学院から人が出てくるのが見える。
「なにかあるのか?」
そうアルが思っていると。
いつしか学院の門の前が生徒で溢れかえり、ファンファーレが鳴る。
そして学院の門が開かれた。


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