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虚無と最後の希望 Level16


level-16「真意」


「杖を失ってまだ抵抗するか、それとも予備の杖でも手に取るか?」

 場所はニューカッスル城の城壁内にある礼拝堂。
 その中に四つの影、その内二つが激しい魔法の打ち合いをしていた。
 それは長くは続かず、傷一つ無く笑みを作り浮かべるワルドと、全身に浅い傷を作り膝を着くタバサであった。

 お互い放った魔法の風がぶつかりあい出来上がったカマイタチで、いくつも皮膚を切り裂かれて血を滲ませていた。
 それを見据えるワルドはタバサの将来を感じさせる才覚に、多少なりとも驚いていた。
 それと同時に遺憾の意、己の道を塞ぐ邪魔者である事に残念な思いを抱いた。
 邪魔をするなら排除せねばならん、そう思い睨むような視線をタバサへと向ける。





「まさかとは思うが、その腰の玩具で立ち向かうか?」

 ワルドが言う通り、タバサにはこの手しか残っていない。
 杖は弾き飛ばされ、魔法は使えない。
 いや、既に魔法の力量の差が顕になっている以上、魔法で対抗するのは自殺行為に等しい。
 今のタバサには剣の一撃に掛けるしか勝つ手段は残されていない。

「………」

 深く、ゆっくりと深呼吸。
 落ち着かせて、右手に剣の柄を握る。

「……良かろう、お遊びに付き合ってやろう」

 子爵は落胆したようにため息を吐き、一言。
 立ち上がりながら鞘を固定するために巻きつけていたベルトを、弾いて外す。
 自重に引かれ、落下する鞘を利用して剣を抜き取る。
 カチン、と軽い金属音が鳴り鞘が転がった。

「……始める前に一つだけ聞かせてもらおう、何故そこまでする? 逃げるなら見逃してやっても良いというのに」
「……頼まれた、だからここに居る」
「それだけか? それだけの為に一つしかない命を無駄に散らすのか?」
「………」

 もう話すことは無いと、タバサは黙りこくる。
 応えないタバサを見て、ワルドは愚かなと呟いた。



 戦いはすでに始まっている、子爵は魔法を使う気が無いのかただレイピアを構えるだけ。
 お遊びに付き合う、剣のみでの戦いをやると言うことか。
 ……ならば付き合ってもらう、この剣で、教わった戦い方で子爵を倒す。
 身を低く、素早く、一撃で、斬る。
 大の男に対して長期戦は不利になる一方、故に、短期決戦。

 そう決めてタバサが動いた。
 流れる水でありながら、空を切る風。
 ワルドの守りが一番薄い箇所、そこに狙いを付けかく乱。

「ぬっ」

 キンッと金属音、膝を着いた時に握っておいた小石を、ワルドの顔に向け放った。
 ワルドはそれをレイピアで弾く、そして生まれる隙。
 持てる最速で駆け、斜め下からの右腕を狙い切り込んだ。
 その速度、ワルドは自身を上回る速さに驚きながらも、辛うじて攻撃を防ぐ。

「チッ!」

 防いだ時には高速の斬り返し、刃が翻ってワルドの右脇腹に向かっていく。

「このッ!」

 それも辛うじて防ぐ、ほんのコンマ数秒遅れていたならば脇腹を切り裂かれていた。
 圧倒的なスピードと手数、ワルドは一瞬で守勢へと回された。
 攻撃を繰り出す暇がない、刃を防ぎ、押し崩そうとすればすでに別の箇所へと攻撃を繰り出される。
 ここでワルドは後悔する、茶番に付き合うべきではなかったと。

 二合の打ち合い、それだけでタバサは自身の近接格闘能力を上回っていると判断した。
 単純に速い、一極特化型のタイプであるが故に追随を許さない。
 追いつけないワルドはただ守りに入るしかなく、攻撃に転じれば一撃で命を持って行かれかねない。
 だからワルドは守りのみに集中する、この速度で長時間の攻撃は無理だとタバサを見て判断した。

 逆にタバサは攻め倦む、どの攻撃も辛うじて防がれ、ワルドの身に入ることはない。
 これが最速、これ以上は無い。
 今だ数合しか打ち合っていない攻防だが、決着は付いたと言えた。
 全力を持って攻撃を加えるタバサ、それを辛うじて防ぎ続けるワルド。
 そうして動かなかった推移は徐々に傾き始める、タバサの体力消耗によって。

「ッ」

 ゆっくりと速度が鈍り始める、万全の状態ならまだ持っていたはずだった。
 今のタバサの身は怪我が多い、切り傷擦り傷で血が滲み流れ出る。
 痛みもあるし、打ち身だってある。
 気にするほどでもない小さな傷であったが、確実にタバサを死へと追いやる物であった。

 だからこそ、タバサは賭けた。
 こちらが攻撃を緩めれば、確実に向こうは攻勢に出る。
 狙いはそれを用いたカウンター。
 いわゆる『肉を切らせて骨を絶つ』、捨て身に近い攻撃であった。

 タバサの狙い通り、攻撃速度、手数が減っていけばワルドは攻勢に出始める。
 攻撃一辺倒から回避を取り入れ、ワルドの攻撃を避ける。
 余裕が出来たのか、ワルドは笑みを浮かべ始めていた。
 一瞬の緩み、攻勢に移れると判断したときに生まれた隙。
 まさに目論み通り、最後の力、搾り出した最速の一撃をワルドの身に打ち込んだ。



「やはり、か」

 捨て身の突きは確かにワルドへと届いた、だが狙っていた場所には届いていない。
 痛みにお互い顔を歪め、タバサは狙いが外れたことを悔やむ。
 ワルドのレイピアはタバサの肩を貫き、タバサの剣は胸への攻撃を防いだ腕に突き刺さっている。

「その身で見事」

 跳ね上がったワルドの足、つま先がタバサの腹に突き刺さり、大きく身を圧し曲げる。

「だが未熟」

 衝撃でレイピアが抜け、一歩下がったタバサに再度突き出された。
 腹部の鈍痛に苦しみながらもその身をそらし、倒れながらも飛び退き回避した。
 しかし鈍った体では避けきれず、左鎖骨を抉る一撃となった。

「ッァ」

 派手に飛び仰向けに倒れ、苦悶を漏らす。
 それを見下ろすのはワルド。

「驚くべき、と言った所か。 ままごとかと思えば並みの者を切り伏せる速さ、見かけに騙されたか」

 立ち上がろうとして左腕に力が入らない。
 視線を自分の胸に落とす、そこには肉とそれを赤く彩る血で濡れていた。

「その武器格闘術、高い水準と言わざるを得ない」

 そう言って左腕に刺さっている剣を抜き捨てる。
 剣が落ちて甲高い音、そしてワルドがレイピアを構える。

「魔法の才もかなりのものか、何れは優れたメイジとなるかもしれんが……」

 杖先、レイピアの切っ先に光が灯る。
 魔法行使の予兆、狙いは勿論タバサ。

「未来は無い」

 振り下ろされる一瞬の間に悔やんだ。
 結局は何も出来ない、こんな所で屍を晒す。
 お父様の復讐や、お母様を治してあげることも出来ない。
 彼に教えてもらった事が、ただ一度実践で使ったっきり。
 それもただ敵の腕を貫いただけ、それは上手く扱えていない証拠。
 私は弱く、そして弱いまま生を終える。

「っ!」

 悔しい、溢れ出た涙が頬を伝う。
 悔しい、肩の怪我と腹部の痛みがそれを助長する。
 悔しい、私は、何も出来なかった。





 タバサ、ルイズ、ウェールズの命はここで終わる。
 ワルドがその身と魔法を使い、引き裂くだろう。
 そしてそれは一分も掛からず終わる、そうなるはずであった。

「ッ、何だ!?」

 ワルドが杖を振り下ろす直前、礼拝堂の天井が吹き飛び、大量の埃を舞い上げながら何かが落ちてきた。
 飛び退き、崩れた天井の瓦礫を見る。
 ここでワルドは人生で最も致命的なミスを犯した。
 障害物に隠れるなり、ウェールズやルイズを人質にでもするべきであった。
 『自分は強い』と言う過信、何が来ても正面から打ち据える事が出来ると言う思い込み。

「ナ」

 その代償、耳を塞ぎたくなるような激しい炸裂音。
 衝撃がワルドの右手を揺らし、一歩後退させた。

「グッ、アァ……!!」

 右手の甲を抉り沿い抜けた何か、余りの衝撃でレイピアを取り落とす。
 超高速、風を持ってしても認識出来ない何か。
 皮膚が抉れ、肉が抉れ、骨が見える。

「なに゛」

 焼けるような痛み、まるで炎に炙られるかのような初めて感じる痛み。
 それは攻撃、天井を突き破って落ちてきた何者かが放った攻撃。
 どのような攻撃か、瞬時に恐れを抱いた。

「ガッ!?」

 さらに土埃の向こう側から炸裂音。
 左太腿に衝撃、激しい痛みと共に蹴られた様に左足が下がった。

「グゥウオォ……」

 辛うじて倒れるのを押さえ、右足だけで立つ。
 見れば左足の太腿、ズボンに穴が空きその下からドクドクと血が流れ出ている。
 その傷を見てまさかと、しかしありえないとも思う。
 こんな威力のある銃など……。
 そんな疑問を吹き飛ばす、この攻撃を放った存在が土埃の向こう側から飛び出してきた。

「チーフ!」

 皇太子の傍に居るルイズが叫ぶ、邪魔をするのは使い魔か!
 魔法は使えぬ、右手は痺れ、左足は傷を負う。
 まともに戦えぬ中、相手をしなければならないのは全身をくまなく包むおかしな鎧を着た大男。

「クゥオオオォォォ!!」

 力を込める、無様な姿勢の威力の無い拳。
 成し遂げなければならない願い、邪魔はさせぬと全力を込める。

「──ッガ!」

 だがその思いは、ガンダールヴとの接触によって儚くも終わる。
 突き出した左拳を絡め取られ、床に叩き付けられるようにうつ伏せに倒された。
 立ち上がろうとすれば、左腕を背中に回され締め上げられる。
 そうして腰に掛かる凄まじい重み。

「グオッ! こ、このようなことがぁぁ!!」

 骨が軋むような、強烈な締め上げ。
 負けぬと言う思いとは裏腹に、現実には体を押さえつけられてこれ以上の抵抗は出来ない。
 私の願いは終わったのだと、それを悟れば全身から力が抜けた。





 その出来事を半場呆然に見つめていたウェールズ。

 タバサ嬢が子爵と猛攻を繰り広げ、惜しくも打ち負けた。
 いよいよ持って、このような終わりを迎えるのかと悲観したところに。
 天井を突き破ってきた竜とその背に乗る子爵を倒した者、緑を基調とした2メイルを超える……恐らくゴーレムが落ちてきた。

 視線をやれば膝で踏みつけられ倒れ伏し、少しも動かない子爵。
 右手と左足から血が流れ出ていた。
 何がどうなった、天井を突き破って落ちてきた全身緑と黒の鎧を着た存在が、子爵をいとも簡単に打ち伏せた。
 落ちてきたもう一方の竜はタバサ嬢に擦り寄っている、恐らくは使い魔だろう。

「……ルイズ、怪我は」
「無い、無いわ。 どこも、怪我してないわ」

 そんな考えを他所に、緑色のゴーレムが話しかけてきた。
 ヴァリエール嬢は平然と、声からして男の問いに答える。
 ヴァリエール嬢が擁する兵士か何かか、しかしながら助かった。
 あと少し遅れていたら、僕とタバサ嬢は子爵に殺され、ヴァリエール嬢は連れ去られていたかもしれない。

「チーフ、……死んで無いわよね?」
「生きている」

 ヴァリエール嬢がチーフと呼ばれた全身鎧の男の足元を見る。
 そこにはぐったりと、力の抜けたような子爵が踏み敷かれていた。

「チーフ、と言ったね。 助かった、感謝する」
「いえ」

 膝で子爵を押さえ込んだまま、変わらずの姿勢で応える。
 ヴァリエール嬢を伴い立ち上がり、杖を取り出してタバサ嬢の元へと歩む。
 ゆっくりと起き上がっていたタバサ嬢に向け杖を振り、治癒魔法を掛ける。

「感謝」
「こうできるのも彼のお陰だ、謝意は彼に述べると良い」

 それを聞いて頷き、チーフ殿の下へ歩むタバサ嬢。
 それに続き、同じくチーフ殿の下へ歩む。

「………」

 一通りの会話、タバサ嬢が謝意を述べ、それを聞いて頷くチーフ殿。
 ヴァリエール嬢がどうやってここまできたのかと問えば、歩いてきた、最後は飛んできたと応えるチーフ殿。
 そういった問答が終わり、四人がチーフ殿に押さえつけられる子爵を見る。

「子爵、一つ聞きたい」

 襲撃が失敗した今、子爵に反撃の余地など残っては居まい。

「……何でしょうか」
「何故裏切った」

 その問いに、子爵は一間以上の間隔を空け、ゆっくりと喋りだした。

「力を手に入れたかったのです」

 そう語りだした子爵の声は、なんとも悲観が篭った声だった。


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