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『零』の使い魔-5

結局、ルイズとその使い魔である双識が、地獄絵図の後始末をさせられることになった。
吹き飛んだゴミを片付け、吹き飛んだ窓を付け、吹き飛んだ机を並べる。
元は椅子だった木屑を片付けている双識の目の前で、ルイズはかろうじて生き残った机を拭いている。
「使い魔なんだから――」という例の言葉が出てくると思っていた双識は面食らっていた。
さしものルイズも自分が引き起こした惨状を双識一人に片付けさせるのは気が引けたのだろうか。

「最悪だわ……」

暗澹たる気分でルイズは呟いた。
使い魔に知られたくなかった事実――魔法が使えないということがばれてしまったのだ。
これで、ルイズの今までの努力は全て水泡に帰したことになる。

ルイズは手際よく掃除をこなしている双識を見る。
まだ正面切って馬鹿にされるなら良い。だが陰で笑われるのは耐えられなかった。
この従順に見える使い魔も、心の中では自分を笑っているのかもしれないと思うと、悔しくなった。
ルイズが俯くと、窓を拭いている双識が唐突に口を開いた。

「――まだ話してなかったかもしれないけれど、私の嫌いな言葉のベスト3は不誠実、無責任、非人情でね」


「……え?」

ルイズの方を向くことはなく、双識は独り言のように続ける。

「初めてこの世界に私が召喚されてきたとき、ルイズちゃんはベスト3を全て満たしていた。
 勝手に呼び出して文句を言って、まともな食事もくれず、おまけに人間扱いすらしてくれない。
 本来なら『不合格』間違いなしなんだが――私にはどうもきみを『不合格』にする気が起こらなかった。
 それが私にはどうにも不思議だったんだが、」

一旦言葉を切って、双識は振り返り、ルイズに真正面から向き合う。

「けど、さっきの爆発を見てわかったよ。ルイズちゃん、きみは――魔法が使えないんだね?」

「……そうよ。もうわかったでしょ、確かに私は『不合格』だわ。魔法が使えないメイジなんて、聞いたことないもの」

痛いところを突かれたルイズは、自嘲ぎみに言う。俯いた顔から諦めと、それ以上の悔しさが伺えた。

「いや、そういうことが言いたいんじゃない。問題は精神だ。魔法が使えるか、使えないか、そんなくだらないこと――」

「くだらないことなんかじゃない!私は貴族なのよ!魔法が使えなくていいなんて、そんな、そんなこと!」


顔を上げて、双識に食って掛かるルイズ。
自分の今までの苦労を、生き様を踏みにじるような双識の発言が、ルイズには許せなかった。

「――きみは魔法を使えるように、貴族として『普通』になれるように、努力を重ねているんだろう?」

憤るルイズに構わず、双識はさっきの混乱で床に落ちたルイズの教科書を拾い、パラパラと捲る。
要所に貼られた付箋、丁寧な字で入れられた注釈、何度も開いたためによれたページ。
それらは紛れも無く、ルイズの努力を表す証拠だった。

「私にとっては『普通』を求めようとするその精神こそ、賞賛に値すべきものなのだよ。
 無意識のうちにその精神を感じ取ったから、私はきみを『不合格』にしなかった――今ならそう思える。
 それに、今魔法が使えないからってそう悲観することもないさ。
 ――きみが前に向かって進む限り、目標は近づきこそすれど、遠ざかることは無いのだからね」

どうやら双識はルイズのことを励ましているらしかった。
双識の柔らかく諭すような口調を聞いていると、不思議とルイズの心は安らいだ。

「……ありがと。あんたに慰められるとは思わなかったわ」

「それじゃ、続きをさっさと終わらせてしまおうか」

元の飄々とした態度に戻った双識と、ルイズは掃除を再開する。
机を拭くルイズの胸中からは、さっきまでの鬱屈とした気分が綺麗に消えていた。


掃除が終わるとルイズと双識は、食堂で遅い昼食を食べた。
教室での出来事のせいか、ルイズの機嫌はそれなりに良かった。
出すぎた説教だったかもしれないと後悔した双識だったが、存外に効果があったようだ。
もっとも、相変わらず机の上での食事は叶わなかったのだが。

ルイズの食事が半分も進まないうちに、双識の食事は終わった。
マナーに従って上品に食べているルイズとは食べる速度も、量も違うので、どうしても時間差が出てきてしまう。
暇になった双識が昨日のように食堂の中をのんびりと眺めていると、食堂の一角で大きな声が上がった。
続いて乾いた高い音が響く。どうやら、何か揉め事が起こっているらしい。
双識は食後の退屈しのぎに覗きに行ってみることにした。

「す、すみません!」

双識の目にまず飛び込んできたのは、メイド服の少女が、同じ年齢ぐらいの少年に平謝りしている光景だった。
謝られている方の少年は薔薇の花をワイングラスでも持つかのように指に挟み、足を組んで悠然と少女を見下ろしている。
本人は格好をつけているつもりなのだろうが、頬に咲いた紅葉のせいで、なんとも間抜けである。
さっきの乾いた音の正体はこれらしい。
いずれにせよ、年若い少女が苛められている光景というものは、双識にとってはあまり気分の良いものではなかった。



「何にせよ、二人の女性の名誉を傷つけたのは事実だ。謝罪したまえ」

「そんな、私は香水を拾っただけなのに……」

「違うね。君の気が利かないから、だ。そもそも平民ごときが――」
「その辺りで勘弁してあげる、というのはどうかね?」

突然会話に割り込んできた部外者に、その金髪の少年は不機嫌そうに少女をなじる口を閉じた。
少女も、意外なところから差し伸べられた救いの手に、驚いたように双識を見ている。

「何だね、君は……ああ、ゼロのルイズが呼び出した平民か。
 ふん。礼儀を知らない平民を少々叱っていたところだ。わかったらさっさと行きたまえ」

「ギーシュ!お前が二股かけてたのが悪いんだろ!」と取り巻きから茶々が入る。
どうやらこのギーシュという少年は、二股の責任を少女に転嫁しようとしているらしい。
双識は少女の頭を上げさせると、ギーシュに向き直った。

「大体の事情はわかった。結論から言えば、きみは二股をかけた女性たちに謝ってくるべきだね。
 文句を言われ、場合によっては叩かれるかもしれないが――なあに、かえって免疫がつく」

「いきなり出てきて何を言うかと思えば……君は誰に向かって物を言っているのか、わかっているのかね?」

『反論をしたら許さない』と言外に含ませ、ギーシュは双識をねめつける。
ギーシュの見下したような視線を意にも介さず、双識は笑う。笑って、言う。

「勿論だとも。『三人』の女性の名誉を傷つけた少年に対して、私は言っているのだよ」

「ッ!……いいだろう。平民が貴族に逆らうとどうなるか教えてやろう。ヴェストリの広場で待っている」

どうにか感情を表に出すことを抑えたらしいギーシュは、ゆっくりとした足どりで去っていった。


「食事が終わっていなくなったと思えば……あんた、自分が何したかわかってんの!?」

振り向けば、いつの間にか双識の横にルイズが立っていた。顔色が悪い。
そういえばさっきの少女はどこにいったのだろう、と双識が辺りを見るが、既に少女の姿はない。どうやら怯えて逃げてしまったようだ。

「『苛められるメイド少女』は十分に私のストライクゾーンだったんだが――ギーシュくんの不誠実さに我慢ができなくてね」

双識のふざけた動機に、ルイズの顔が更に蒼白になる。

「そんな理由で……?あなた、殺されるわよ!」

「――私を殺せるなら、是非とも殺していただきたいものだね」

ルイズは不思議な気持ちだった。
この使い魔の妙な余裕の裏には、何の根拠もなく、何の打算もないのだろう。
貴族を相手にして勝てる平民なんか、一握りもいないのだ。
ましてや、こんな平民には到底無理な芸当のはず――なのに。
その姿は余りにも悠然としていて――
その姿は余りにも颯爽としていて――
歩き出した双識の背中に、ルイズは思わず声をかけずにはいられなかった。


「……ヴェストリの広場はそっちじゃないわよ」


(青銅のギーシュ――試験開始)
(第五話――了)

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