あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

絶望の街の魔王、降臨 - 16


「I love working for Henrietta(アンリエッタが大好きな)」
『アイラヴウァーキンフォアンリエッタ!』
「Let me know just who we are?(俺が誰だか教えてよ)」
『レッミーノゥジャストフーウィーア゙ー!?』
「1,2,3,4 Tristain magic corps(トリステイン魔法部隊)」
『ワンツースリーフォートリィステインマジッコー!』
「1,2,3,4 We love magic corps(愛してる魔法部隊)」
『ワンツースリーフォーウィーラヴマジッコー!』
「My corps(俺の部隊)」
『マイコー!』
「Your corps(お前の部隊)」
『ユアコー!』
「Our corps(俺達の部隊)」
『アッワコー!』
「The magic corps(魔法部隊)」
『ザマジッコー!』
 少年達は走る。トリステイン風に改編されたラニングカデンスを歌いながら。
 先頭には『王宮から派遣された教導隊』の隊長。そして生徒の列を囲むように教導隊員が走っている。
 生徒達の中には目が虚ろだったりする者もいるが、更なるペナルティを恐れて気力で走っている。幾つかの班に分けられ、チームから脱落者が出たら一人につき十周のペナルティ。団体責任の恐ろしさをその身に刻んでいる。
 そんな様を遠くから──寮の一室から──見つめている影があった。キュルケとタバサだ。
「体力が無いのは判るけど、一日中走るのはどうなのかしら。それに、あの歌は何なの?」
 PT! PT! と叫ぶ男子生徒達。貴族なら絶対に言えるはずはないが、意味を知らなければ関係無い。要は雰囲気なのだ。それはどこか宗教的なものをキュルケに感じさせた。


「…………」
 タバサは返事を返さず、黙々と本を読みふける。
「それに、あっちはあっちで何かしてるし」
 学院外周を這い回るミミズのような人の列から眼を離し、塀の中の広場を見る。数人が二人を囲んで座り、囲まれた二人は激しく動き回って、隙あらば素手で襲い掛かる。ギーシュとマリコルヌ、それに何人かの名も覚えていない男子生徒だ。
 ルイズ達が学院を離れている間、思うところがあったらしく見よう見まねで訓練していた連中だ。あの短期間の割にはそれなりに体力がついたらしく、こうして次のステップに移行しているのだ。こころなしか、マリコルヌが少し痩せたように見える。学院外周マラ
ソンも、自主訓練組の中で最下位ながらも完走している。
 そこから少し離れたところでは、スコップを持った生徒が深く長い穴を掘っている。ペナルティを受けずに完走した奇跡のチームが、戦場の命綱である塹壕を掘っているのだ。
「学院はいつ軍隊になったのかしら」
 確かに、それは紛れもない軍事訓練だった。訓練メニューはジルが提案し、それをウェールズ経由でアルビオン貴族達に教え、彼等は生徒に訓練を施す。
「ジルもいないし……どうしようかしら」
 ジルはこの訓練に参加していない。彼女の教え子であるギーシュは、日々淡々とジルに与えられた訓練メニューをこなしていた。訓練中は砂鉄の入った50kgの背嚢を背負い、早朝の50リーグマラソン、各種筋トレ、格闘訓練。時々、手合わせをするくらいか、
ジルが干渉するのは。


「こんな時にも関わらず、コルベール先生は……」
 研究小屋から煙が昇っている。彼がそこで何かをしている証拠だ。
 キュルケは彼を軽蔑していた。彼女が誇る、何よりも攻撃に特化している火の系統を、土の補助であると言わんばかりに使い、その術を研究しているのだ。この前も妙な機械を教室に持ってきて総スカンを喰らっていた。そして気弱でヘタレで、同じ火の使い
手として恥ずかしい、そう思っていた。ぼーっと見ていると、煙突から上る煙が濃くなり、やがて火山の様に火を吹くが、いつものことだ、誰も気にしない。
「まあいいわ。ジルとルイズが帰ってくるまでの我慢よ、我慢」
 退屈は、いつもからかう相手であるルイズがいないのと、愛しいジルがいないのが原因だ。男が全員訓練に駆り出されていなければ暇のつぶしようもあるが────いま時間があるのは女子だけだ。授業は全て中止、暇を持て余した女子は大多数が寮塔
にひきこもっている。百合に覚醒はしているが、ジルが男より(ある意味)たくましくりりしいからであって、誰でもいい訳ではない。
「何があったのかしら?」
 城で随分待たされ、ジル達が戻ってきたと思ったら『先に帰れ』。
 下手に逆らって王族に睨まれるのも嫌なので大人しく従ったが、あれから何等の連絡もない。来たのはどこかの軍人貴族達がわらわらと。男子生徒が集められ、すぐに訓練が始まった。
「また厄介事を頼まれてるんじゃないでしょうね」
 窓の外に向けて呟く。蒼髪の少女からは返事はなく、ページをめくる音すら聞こえない。振り向くと、
「あ、サイレント」


 ジルは宝物庫を漁る。明らかに価値のありそうなものは無視して、見覚えのあるものだけを探す。それらは既に山になっており、その扱いの酷さに案内した衛士は蒼くなっていた。メイジの彼には雑然と積み上げられたガラクタにしか見えないとはいえ、ここに
ある、即ち、これらはまがりなりにも国宝なのだ。
「こんなものね」
 一ヶ所に集められた金属と木の塊。それらは確かに禍々しい。なんてことのない、平民が使うただの銃だ、何も恐れることはない。そのはずなのに。
「さ、運んで」
 数百年前から伝わる『朽ちぬ台車』に載せて、それを衛士に示す。平民とはいえ、王女の勅命により動いている者の命令に反すると言うことは、即ち王女の命に反すると言うこと。
 せめてもの抵抗と言わんばかりに、返事もせずに衛士はそれに従い、ジルは一人残される。
「こんなとこにもあるとはね」
 誰もいないのを確認すると、ジルは宝物庫を振り返る。視線の先には錆びた鉄の箱。どこかでは四次元BOXとか呼ばれていたらしい。不思議だが、便利極まりないもの。
 ジルはその蓋を開け、中から小さな箱を取り出す。アルビオンの宝物庫にあった金銀財宝、その中にやたらとキラッキラ光るものがあった。まるでキーアイテムの様に。
 しかし、それはニューカッスルでは使える場所はなかった。そしてジルの勘では、これは仕掛けのキーアイテムではない。鳴らないオルゴール、恐らくこれは、何か他のものと組み合わせて使う、魔法的なもの。或いは、魔法による何かが隠されている。気には
なっていたが、今まで取り出せる暇がなかった。


 取り敢えずこれは保留にする。今は、アンリエッタ親衛隊に渡す銃器の確保が最優先だ。ニューカッスルから勝手に回収した宝物は後でウェールズに返しておくことにして、その時ついでにこのオルゴールの事も訊いておこう。そう結論を下す。
「さて、次は倉庫ね」
 仕掛けの前で安息室に忘れ物をしたのに気付く、なんて間抜けは多分しないと高をくくり、オルゴールをアイテムBOXにしまってから、次の目的地に向かう。
「AKがあるといいんだけど」
 1949年から60年以上に渡り使われ続けている、カラシニコフ式突撃小銃47年型、それとそのヴァリエーションを探す。扱い易く整備が簡単、火力・威力共に申し分なく、頑丈で信頼性が高い。旧ソヴィエト、現ロシアのみならず、あらゆる国で様々なヴァリエー
ションやコピー品が造られ、そしてこれからも使われ続けるであろう、人類史上最高傑作の銃。
 この世界に於いては、これでもかなりのオーバーテクノロジーの塊だが、相手は魔法という反則技を連発するのだ。これくらいのチートは許されなければ、銃士隊は常に苦戦を強いられるだろう。
 それに────ジルは思い出す。ニューカッスルの一室に封印されていたコートの巨漢。もしかすると、最悪ああいった化物とも戦わねばならない可能性もある。7.62mmや5.56mm程度では、散々叩き込んでやっと気絶させるくらいしかできないが、足止め程
度はできる。剣であれば────殴られてジ・エンド。
 ……まさか、ね。
 そう思いつつも、悪い予感は消えない。
「お待ちしておりました」

 扉の前の男がジルに声をかける。朝、城の前で別れたケイシーだった。つまり、ここが最後の倉庫。
「ご苦労様。早速開けてもらえるかしら?」
「は」
 巨大な扉には不釣り合いな程に小さな、しかし、それでも普通の鍵に比べればかなり大きな鍵。それを扉に突き刺し、回す。相応の重苦しい音を立てて鍵は解放され、扉は開かれる。まるでどこかの洋館か地下施設か、その扉にジルは既視感を覚える。
「ねえ」
 と、ジルはケイシーに問う。
「何でしょうか?」
「なんでハルケギニアの貴族って────」
 その奥に鎮座していたのは、明らかにおかしいもの。ガラクタの山の中に、これでもかと言うほど、自己主張する大きな箱。
「物騒な物を集めたがるのかしら?」
 バイオハザードマークとアンブレラのロゴつきの、コンテナ。

 結局AK-47・AKM・AK-74シリーズだけでは数は揃わず、RPKやガリルなどのコピーやヴァリエーションで代用することになった。
「石造りの建造物の内部では、銃声で耳を痛める確率が高いわ。跳弾で自分や味方が負傷することもあるの」
「は!」
 それでも幾つか足りなかったので、Kar98KやM1903などのボルトアクションライフルでその穴を埋めた。今ジルの管理下にある銃で、扱いが容易なのはそれくらいしかなかった。西側の銃もあったが、どうしても予備パーツの量──AKシリーズのジャンクは他に
比べかなり存在した──や整備性などで劣る。近代の銃に慣れない彼女達に、やたらと複雑なM4やG3を使わせるとなると、教育にかなりの時を要するだろう。それこそ、月単位で。アンブレラのコンテナの中身など論外だ、あんな超兵器、ハルケギニアの技
術レベルでどうやって運用しろというのだ。
「いい? レシーバーのカバーを取り付けて……そう、それを元に戻すの」
「これですね?」
 だが、AKシリーズやボルトアクションライフルは、そこまで扱いが難しい物ではない。むしろ簡単と言えよう。訓練開始から三時間、既に分解整備の講習が終わっていた。
「じゃあ、実際に撃つわよ」
『は!』
 ガシャガシャと、初弾を装填する音がジルの周りで起きる。
「合図したら、セミオートで一発ずつ撃つのよ。まずは慣れることから」
『了解!』


 アンリエッタ親衛隊は、素直にジルの言葉に従う。ソヴィエトの上層部が兵士を信用しなかった故に右側に付けられたセレクタがセミになっているのを確認して、
「Fire」
 ────案の定、7.62mmの反動を制し切れなかった何人かが姿勢を崩したり倒れたりする。一人一人の間隔はかなり空けてはいるが、もしフルオートなどで撃ったら悲劇が起きただろう。低性能な黒色火薬を使うマスケット銃に慣れた彼女達に、トリプル
ベース火薬を使う近代銃はかなり反動が大きく感じられるだろう。おまけにAK-47は曲銃床だ。
「倒れた者は伏射姿勢に」
『コピー!』
 慣れさせるのが目的なのだから、射撃姿勢はより安定していた方がいい。いずれは土のメイジが作った鉄の像を相手に射撃訓練をさせるが、今はこれくらいしかできない。
「全弾撃ち尽くしたら待機」
 サイドアームとしてハンドガンを渡してはいるが、いかんせん数が少ない。いや、あるにはあるが、フェイファー・ファイアアームズやS&W謹製の化物リボルバーが木箱に詰め込まれているのを見たときは、流石のジルも呆れた。こんなものを戦場で撃てるのは、
レオンかゲームやドラマの中のフィクションでしかない。自分のことは棚に上げて。
「リロード」
『アイ、リローディン!』


 マガジン、ベルトリンク、クリップ。比較的簡単な構造で、予備部品の多いものを選んだのだが、どうしても統一はできない。部品の互換はないし、いずれは修復できないものがちらほらと出てくるだろう。少なくとも、バレルやチェンバー関係は供給する必要が
ある。弾薬もジルに依存し続ける訳にはいかない。
 精度を度外視して土のメイジに作らせるか────いや、ギーシュやシュヴルーズの錬金は全く精度が無い。まるで鉄を粘土の様に手で成形している、そんな印象がある。全部全く同じに見えるワルキューレも、近くで見れば粗悪なつくり──とはいっても、
ハルケギニアではそれなりの精度だ──だと判る。こんなものでは精度どころの話ではない、爆速の高い装薬を使う近代銃では暴発しかねない。黒色火薬と球状弾丸を使うマスケット銃だから許されるのだ。AKがいくらパーツの精度が悪くても確実に動くとし
ても、流石に限度がある。
 コルベールに依頼してあるものの、優秀ではあるが人員が少なすぎる。エンジンの原型のできそこないや、基本的な数学・物理学、材料工学、鍛造技術、etc...
 数えればきりがないほどの研究をたった一人で抱えている。シュヴルーズやロングビルにも協力するよう頼んではいるが、ロングビルは秘書と諜報で三足の草鞋を履くことになり、シュヴルーズは練金分野でしか使えない。オスマンに協力を頼んだが、教員に
は積極的に研究に参加してくれそうもない。アンリエッタにトリステインの最高研究機関であるアカデミーと協力できないかと相談してみたが、アカデミーはロクな研究をしていないという。宗教が技術の発展を阻害しているいい例だった。
「腕のいい技術者……あ、もしかしたら」
 もし今、ジルを見ている者がいたとすれば、その頭上に『!』マークを視認できただろう。妙な効果音に反応した何人かがジルを見るが、既にエクスクラメーションマークは消えていた。
 全員がある程度撃ちまくって、そこでジルの意識は思考の海から浮上した。


 射撃訓練で、狙撃に向いていそうな者、支援に向いている者、突撃・突入に向いている者に分け、それぞれに最適な銃を与え、撃ち方を教えた。それが今日の結果だ。
 今のジルは色々と忙しい。帰る術を探す、そのために動いているはずが、とんでもなく遠回りになっている。洋館や街の仕掛けを解くのとは、レベルが違う。アークレイもラクーンも、脱出する方法はあった。だが、ここは異世界。
「ヴァレンタイン教官、少し、お話が」
 アンリエッタに渡す書類を書きながらボーッと思考していた頭が、誰かの声で引き戻される。この声は親衛隊な隊長、アニエスだ。
「何かしら?」
 ジルは平民の食堂で書類を書いていた。他に机と椅子のある場所を知らなかった──或いは、貴族の部屋で使えなかった──ので、こうしてきわめてオープンな場所で作業をしていた。どうせ、内容はそんなに秘密にするような事ではない。
「私と手合わせ願いたい」
 教官に反抗したり、模擬戦したがるのはどこの世界も同じ。大抵は返り討ちに遇い、或いは派手に砲撃を喰らって撃墜がパターンである。有名だが稀な例として、トイレで部下に射殺されることもあるが。
「いいわよ。いつ、どこでする?」
「今から、練兵場はどうです?」
「Ok」



 次の日、アニエスは必要以上にジルに従順だった。時折、憧れる様な眼でジルを見ていた事に、何人かは気付いたという。

 アニエスに訓練メニューを伝え、しばらくは基礎を続けさせる。銃の扱いに慣れ、次のステップに移行できるまでは。しかし、この世界で連発銃は珍しいし、命中精度もケタ外れに高いので、今のまま出撃してもそうそう負けるようなことはない。そもそもAKは比
較的低い命中精度を補うための高火力なのだ。『下手な鉄砲数撃ちゃ当たる』理論だ。
 とりあえず科学技術を発展させるために、学校と研究所の設立をアンリエッタに提言したが、財政難で却下された。次のアルビオン反乱軍に対する戦争への準備で国力の少ないトリステインは火の車だという。
「ですので……わたくしはゲルマニアに嫁ぐことは未だ覆りません。かの国と軍事同盟を結ばなければ、トリステインは終わりです」
 どうあがいても、そんな金は無い。だが。
「ウェールズはいるのかしら?」
「ええ、ウェールズさまだけ、報告に戻られていますが……」
「いくわよ」
「え?」
 手を引かれ、強引に部屋から出され、ウェールズの部屋まで引きずられていく。
「ウェールズ、ちょっと来て」
 ウェールズの部屋で、更に一人増える。
「ここは……」
 ウェールズはともかく、長年城に住んでいたアンリエッタすら知らない場所。やたらと見つけづらく難解な仕掛けの先に、その部屋はあった。


「この城もたぶん、ジョージ・トレヴァー建築よ。仕掛けがなかったらおかしいわ」
 王城をうろついていたジルが感じたもの、それはアークレイの洋館との共通点だった。石像の眼がキラキラ光っていたり、いかにもなくぼみがあったり、壁に不自然な切れ込みがあったり。
「いろいろな場所に隠し通路や隠し部屋があるわ。後で教えてあげるから、もし賊に襲われるようなことがあれば、使うといいわ……と、それよりも。これを見てくれるかしら?」
 ジルが、次の部屋の扉を開く。安息室特有の『絶対的な安心感』がそこにはあった。
「ん? な、こ、これは!」
 ウェールズが驚愕の声を上げた。
「知っておられるのですかウェールズ様?」
「ニューカッスルに置いてきた財貨か!」
 整理されず、ただ雑然と積み上げられている金銀財宝・美術品・貨幣。その中に幾つか、ウェールズの見覚えのあるものがあった。
「敗走するなら、敵には何も与えちゃいけないわ。食糧は燃やしたし、城は潰した。一応、全部あるわ。慌ただしくなる前に、本来の持ち主に返しておこうと思って」
 ニューカッスル城跡には、瓦礫と反乱軍の死体しかない。王党派兵士が仲間の遺体を船に運び、ジルが様々なものを回収し、そして全てを破壊したからだ。
「敗走……」

 誰もがその場の空気を読んで言わなかった一言。それはウェールズの心をちくちくとなぶる。
「それで、どうするの? アルビオン王国の再建に必要でしょう?」
「いや、アンとジルで使ってくれ。アルビオン王国はもう亡国だ。それに再興しようにも、反乱軍にトリステインが負けたら元も子もないからな」
 少しばかり悲しそうな顔で、ウェールズは決断した。
「Ok.じゃあ、ついでに」
 サイドパックをごそごそと漁るが、それは見つからない。
「あ」
 思い出したようにジルが錆びついた大きな鉄の箱から、何かを取り出す。
「バルブハンドルじゃないんだから……」
 珍しくばつの悪そうに呟きながら、手のそれを差し出す。
「始祖のオルゴール! 全部というからまさかと思ったが……」
「知っているのね。だったら、使い方を教えてくれないかしら。どうも気になるのよ」
 キラキラと必要以上に自己主張するアイテムは、たいていが重要なものだった。そしてジルの勘が告げていた。
「いや、判らないんだ。そもそも本物かどうかも怪しいのでね」
「一緒に似たようなものが伝わってない? 始祖ゆかりの物とか場所とか」
 これは組み合わせて使うもの。時計塔の鍵やクロノスギアを手にした時の感覚が、このオルゴールにもあった。

「むぅ……」
 ウェールズは考え込むが、一向にその閉じたまぶたが開かれる気配がない。
「……ああ、ありますわ! 風のルビーが!」
「それがあった! いや、完全に失念していた」
 ウェールズが右手を差し出す。その中指に、宝石のついた指輪がはめられていた。
「アンリエッタがしている指輪と似ているわね。それも風のルビーかしら」
「いいえ、これは水のルビー。始祖の祈祷書と共にトリステインに伝わるものですわ」
 ジルの口の端がわずかに上がる。
「近いうちに、それも見せてもらえないかしら?」
「何があるのですか? 国宝ですから、そう簡単にはお見せすることができませんので、相応の理由が無ければ……」
「無理なら、その内容を教えてもらえないかしら」
「いえ、それが、お教えすることができないのです」
「祈祷書に書かれていることじゃないの。そうね……異様に重かったり、メダルが入っていたり、白紙だったりとか、そういった特徴よ」
 その言葉は、何故かアンリエッタを驚かせた。
「な、何故それを!?」
「え?」

「なんだって?」
 ジルが提示した『例え』は『重い』『メダルが入っている』『白紙』。
「もしかして、異常に重くて、メダルが入っていて、白紙なのか?」
 ウェールズの勘違いは、しかしジルが手に入れたことのあるアイテムの中にあった。最後の書(上・下)。大鷲のメダルと狼のメダルがそれぞれに入っており、それぞれが対のキーアイテムだった。
「いいえ。白紙なのです」
 『白紙の本』。ただ本棚の空いたところに差すだけのキーアイテム。しかし、国宝をそんな風に扱うのはあり得ない。たとえ高価な美術品を仕掛けに使うトレヴァーも、まさかそんな事に使ったりはしないだろう。
「鳴らないオルゴールに白紙の本……」
 共通点は、役立たず――――
「ルイズだわ。足りない鍵は多分、ルイズ、いえ、虚無の使い手だったのよ」
『な、なんだってぇぇぇぇぇ!?』
 あまりのトンデモ理論に、王族二人は今まで発したことのない叫びをあげる。
「まだ確証はないのだけど、そうだとすると説明がつくのよ。私が、人間が召喚されたのも、『ガンダールヴ』のルーンが刻まれているのも、ルイズの系統魔法が爆発するのも」
 ルイズの爆発は、あらゆる面で他の攻撃魔法より遥かに恐ろしい。キュルケのファイアボールと比較した場合、同じ呪文でも有効殺傷範囲・威力共に非常に高い。魔法の発動と同時に目標が何の前触れもなく爆発するのだから、事前に知っていても避け
ることさえ難しい。余談だが、ジルはこれを『レーザー兵器みたい』と評する。


 と、対人殺傷能力及び対物破壊能力に関して右に並ぶもののないルイズの爆発だが、これほどの威力と効果範囲を持つ戦術破壊魔法が、普通のメイジと同じ精神力の消費で放てるものか。精神力なんて曖昧なものにエネルギー保存則を無理矢理適
用して考えてみると、同じファイアボールでも、キュルケとルイズでは消費する精神力が数倍ほども違うのではないのだろうか。変換効率が違うと考えて、たとえ消費が同じであったとしても、ルイズとキュルケではキャパシティにかなりの差があるだろう。何せ
放っておけば一日中バカスカ魔法の練習をするのだ、尋常な量の貯蔵量ではない。
 ならば何故、この膨大な精神力を持っているのか。タンクが大きい理由は、放出が多いから。放出が大きい理由は、それだけの大出力が必要とされる魔法があるから。イコール、伝説の虚無系統。伝説と謳われるくらいだから、その威力たるや、系統魔法と
は比べ物にならないだろう。比例して、消耗も莫大なものになる。
 ここで、爆発の原因が判る。その馬鹿でかい蛇口から垂れ流される精神力は、系統魔法ごときの呪文で制御できる代物ではない。ルイズが意図してその量を極端に小さくすればあるいは可能かもしれないが、精神力を正しく使う術を知らない彼女には無
理な話。結局、.50BMG弾をリベレーターで放つような状況になり、暴発。
 といきたいところだが、仮定と予想が多すぎて穴だらけの理論。アンリエッタとウェールズは信じたようだが、デタラメではないにしろ不確定。ルイズのキャパが馬鹿でかいのと、もしかしたら虚無かもしれないという仮定と、虚無とルイズの魔力に関する想像で
立てられた戯言に過ぎない。カヴァーストーリーならぬ、カヴァーセオリーだ。
 本当は、『伝説の虚無』という単語でオルゴールと祈祷書、ルビー、そしてルイズという要素がぴったりはまった、そんな感覚が理由だった。ジルが喚ばれたのはルイズが虚無だったから、ならばルイズが虚無に目覚めれば、その虚無の魔法で元の世界に戻
れるかもしれない。そう考え至り、先程のトンデモ理論で二人を納得させ、手っ取り早くオルゴール、祈祷書、ルビーを借り受けルイズに渡してしまおうと考えたのだ。


「もし、ラ・ヴァリエール嬢が虚無だとしたら……」
「ゲルマニアと同盟をせずとも、レコン・キスタに対抗できますわ! いえ、それどころか、アルビオン奪還も夢では……」
「ウェイト」
 浮かれる二人を、冷たい眼で見据えながら、ジルはそれを制した。
「ルイズを生物兵器として使って、レコン・キスタを駆逐してアルビオンを奪還する。その先はどうなるのかしらね?」
 アンリエッタが一瞬で青くなる。どうやら、その先が想像できたらしい。対してウェールズはきょとんとしている。質問の意味が理解できないようだ。彼はどちらかというと軍人で、政治はそこまで得意ではない。内政はそれなりに上手くできるが、外交は恐らくダメ
なタイプだろう。
「取らぬ狸の皮算用だけど、もしルイズが虚無だったとして、アルビオンを奪回するなら、二種類のパターンに分けられるわ。大々的に『こっちには虚無があるぞ』と喧伝した場合と、『何か非常に強力な兵器』で殲滅する場合。前者はハルケギニアの崩壊、後
者はルイズが壊れる危険があるわ」
「こちらに虚無があると大々的に宣伝した場合、レコン・キスタは正当性を失います。虚無の使い手は即ち始祖の直系ですから、その発言力は非常に大きいのです。しかし、もしロマリアに知れたら、聖女に祭り上げられて聖戦の引金になるでしょう。暗殺の可
能性もあります」
「ルイズを兵器扱いしたら、戦争神経症になりかねないし」
 ルイズを兵器扱いする。それは即ち、ルイズにジェノサイドを実行させるということに他ならない。今まで戦場や殺戮とあまり関係なく育ってきたルイズにいきなりそんな任務を与えるということは、彼女に狂うか壊れるかの二択を与えるということだ。
「それに、まだ虚無と決まったわけじゃないの。どっちにしろアルビオン内乱にルイズを投入できないけど」
「しかし、ルイズが虚無だった場合、トリステインに大きなカードができることになりますわ」
「使い方を誤れば世界ごと心中しかねない切り札ね。さて、じゃあどうする? ルイズにルビーとオルゴールを渡してみる?」
 二人の答えは同じだった。


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