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ジ・エルダースクロール外伝 ハルケギニア-55


55.ルイズの悩み

貴族とは、メイジとは。来客用のベッドで横になって、ルイズはそんなことを考える。
ルイズの理想は立派な貴族になること。けれど、どのような貴族が立派だと言えるのか?
もちろんルイズには理想がある。父や母のような貴族……けれど、
あの二人は自分がいない所ではどの様に振る舞っていたのだろう?
ルイズはエレオノールの話を通じて、自分の考え方が世の中とずれていることに気がついた。
ああでもない。こうでもない。色々考えているといつの間にか空が白みはじめ、
気がつけば朝になっていた。

考えが深みに入り、思考が鈍化する。徹夜で考えた事柄はルイズに悩みだけを植え付ける。
朝食を終えても全くそれから抜け出せず、底の方へ引き込まれていく。

「……私、一体どういう貴族になりたいのかしら?」

額に右手を当てて、何やら思い詰めた表情のルイズは廊下で会ったマーティンにそうたずねた。

「どうしたんだい、急にそんなことを言って」
「なんだか、分からなくなってきたの」

マーティンはいぶかしげにルイズを見る。一晩考え込んだ顔をしていた。
それでも解決できなくて悩んでいる顔つきだ。若人にとってそれだけ悩むのは好ましい。
誰かが話を聞く限りは。マーティンは近くのベンチに座って、ルイズに座るようにうながした。

「立派な貴族になりたいとずっと言っていたじゃないか」
「うん。でもなんだかよくわかんなくなってきたの」
「どんな風に?」

ルイズはマーティンに昨日エレオノールから聞いたことを全て話した。
平民がもしかしたら魔法が使えるかもしれないこと、
それの実験をすることが国を危険にするかもしれないこと、
それを聞いて自分が考えていた立派な貴族像が何だかぼやけてしまったこと。

ルイズの話を真摯に聞いたマーティンは、再びルイズの様子を見る。
答えを求める瞳でマーティンを見ていた。マーティンはそれを言うつもりはない。
考えた末自分で見つけた方が良い答えになるし、自分の考えを全て押しつけるのは良くないことだ。

「理想を求めることが悪いわけじゃない。けれど難しいことでもある」

マーティンはこの国にそれほど長くいるわけではないが、
それでも魔法の使える者、使えない者の差がとても大きいことは理解している。
国や宗教がそれに乗っ取って動いている以上、もし使えない者が「いなかった」と分かったら、
とんでもないことが起こるのは想像に難くない。少なくてもこの地域一帯の常識が全て崩れてしまうだろう。

「でも、マーティンの国じゃ魔法は広まったんでしょ?使えた方が便利だもの」

悩ましく頭をひねるルイズに、マーティンは頷いた。

「確かに広まったよ。けれどそれは魔法に対する考え方が違うからだろうね。
 杖が無くても魔法は使えるから、 簡単な治癒魔法ならなんとなく使えるようになるんだ。
 すり傷を治すくらいの効果の薄い物だけど」

専門的で難しい魔法でなければ誰だって扱えるようになる。タムリエルとハルケギニアで使われる魔法の、
最も大きな違いの一つだ。

「それでも最初はメイジの反発があったんだ。魔法が使えなければ貴族になれないこの国で、
 それが問題になるのは仕方のないことだろう」

「うん……」

不服そうにルイズは返事をする。言われていることについて、分かってはいるのだ。
昨日エレオノールに言われたこともある。しかし、どこか納得ができない。
そんな風なルイズを見たマーティンはやはり柔らかく言った。

「納得しなくても構わない。君が答えを見つければ良い。色々な本や人の考え方を通して、
 何かを得ていけばいいんだ。しかし貴族は先を見通して動く必要がある、と私は思うよ」

ほんの少し先なら、誰でも予見することができる。しかし、
もっと後のことを考えるとしない方が良いことはたくさんある。
マーティンはルイズに優しげに語る。

「ただ条件の良い選択は誰でも選ぶことができる。その良い部分だけを見ているからね。
 しかしそれらは大きな危険をはらんでいることが多い。
 そうした所を見て、どれが一番より良い選択かを考えることも立派な貴族には必要なことではないだろうか」

「……」

その言葉には何か重みがあった。きっとマーティンもそうした選択を迫られたことがあったのだろう。
そう思ったルイズは小さく頷いた。

「後は……私が答えるべきではないだろうね。私が知っている貴族とか、
そうした為政者が行う政治についての考えはシロディール市民のものだから」

皇帝として行った職務は演説が二回。前線で指揮をしながら戦闘に参加したデイドラとの戦いが二回。
そして未遂に終わった戴冠の儀が一回。
若い頃はメイジとして魔法の力やデイドラの力に誘惑されて、
痛ましい事件によって心を改めた後は、聖堂で働く人生を過ごした。
そんなマーティンは学問として、また為政者としての政治を知らない人だ。
そもそも自分が皇帝の隠し子だと思いもしないマーティンが、
それらについて詳しく学ぶはずもない。

「市民?」
「ああ、ここで言うところの平民のようなものだよ。中身は全く違うけれど」
「ふうん」

シロディールは帝国の中央だけあって、生まれた時から市民として生きることが許される。
市民とはつまり帝国の政治に参加できる市民権を持つ者のことだ。
市民である限りは条件を満たせば種族を問わず貴族になれる。
たとえ一部の地域で奴隷として扱われていた獣人たちや、
その恐ろしげな外見と緑色の肌で敬遠されがちなオークだろうと。

とはいえ貴族になるには大金が必要だ。コネもないといけない。
コネがなければ辺境の荒れ地の領主がせいぜいだろう。
オーク貴族の会に入会しているラグダンフ卿の私有地もへんぴな場所にある。
それを知っているマーティンは、ゲルマニアも似たような物なのだろうと思っている。

マーティンと話をして少し気が楽になったらしい。ルイズはベンチから立ち上がった。

「すっきり、とはいかないだろうね」

マーティンの問いに満面の笑顔とはいえない、どこか困った風にルイズは笑う。

「うん、まるでダメ。全然答えが浮かんでこない」
「簡単に片づく問題ではないからね。しっかり悩むべきだ。良いことだよ。大人になってしまったら全て割り切って考えてしまう」

考えるのをやめてしまうんだ。マーティンはそう言ってベンチから立ち上がると、ルイズに優しく微笑んだ。
そういうものだろうか。ルイズはそんな風にはなりたくないなと思った。

「様々なことに触れていけば、自分の中の理想と現実に折り合いをつけて考えられるようになるものさ」

とりあえずルイズは頷いたが、そんな風に妥協するのは嫌だという気持ちはある。
とはいえ、現実を知らなければ立派な貴族になれそうにないというのも理解はした。

「……何だかとっても面倒な気がしてきたわ」

魔法が使えない時は考えもしなかった様々な事柄はどれも魔法ほど理路整然としていない。
むしろ魔法が使えなかった頃の方が頭を使わずに済んでいるような気がする。
ルイズのそんな呟きに、マーティンは笑った。

「何かになろうとしたり何かを成し遂げようとしたりすることは、例外なく面倒なことだよ」

それもそうか。とりあえず少しは気分が良くなったルイズは、向こうの方からエレオノールが近づいて来ているのに気が付いた。

「なに油を売っているの。さ、行くわよ」
「はい、姉さま」

素直な返事だった。しかしエレオノールはそんなルイズの様子を変に思う。
昔なら自分の考えと違うことを言いきかせたら、二日三日はしかめっつらで元気が無くなったのに。
そんなエレオノールはマーティンに気が付いて、合点がいったように頷いた。

「良い使い魔ですこと」
「従者です。姉さま」

エレオノールは適当に頷いてルイズとマーティンを連れて行く。
こうして今日もルイズとマーティンを対象にした実験や研究が始まる。わけでは無かった。

「私はね、研究したいの。あなたを使って。でも『巫女』様は色々とお忙しいようで」

自分の研究室で巫女という言葉を強調するエレオノールは机から何かメモを取り出した。
今後のルイズの予定であった。ゲルマニアに旅立つまでにしておかなければならないことは、
ルイズが思っているよりとても多いのだ。

「ええと、今日の予定は婚儀に着る巫女服の寸法合わせと学院からの試験と詩の草案と……まずは試験からね」
「……し、試験?」

学院はそろそろ終わり。学生にとって面倒な試験のシーズンである。ルイズは汗をたらりと流す。
そういえば学院長、試験はそっちですればとか言ってたわね。しかし昨日は何もしていない。
顔を青くしたルイズはエレオノールに小さな声で呟いた。

「姉さま……私、勉強」
「しなくても平気よね?カトレアが見るそうだから、私はあんたの使い魔と祈祷書を調べさせてもらうからね」

羽ペンと机を用意して、その上に問題用紙を置く。もちろん裏向きで。
のんびりと研究室にやってきたカトレアは、ルイズの隣に座った。

「ルイズ。がんばるのよ」
「はい、ちいねえさま」

ルイズは少しほっとした。もしエレオノールが試験官だったら緊張して試験どころではないだろう。
エレオノールは早々とマーティンと一緒に出て行った。また色々と伝説についての研究に使われるのだろう。

「それじゃ始めるわね」

懐中時計を見てカトレアは宣告する。ルイズはとりあえず用紙に目を走らせた。

「時間は30分」

カトレアの声で空気が変わった。試験の入っていた封筒には60分と明記されている。
母と一緒に勉強した日々の冷たい感覚。それを思い出したルイズはえ、と用紙から目をそらしカトレアを見る。
カトレアにもちゃんと母の血が混ざっていたことがよく分かる顔をしていた。

「これくらいにしないと、時間が足りないの。できるでしょう?わたしの妹なら」

カトレアは笑っている。情け容赦なくコロコロと笑っている。
目が猫のように細くなって楽しそうにルイズを見ていた。
ああ、誰かに無茶な行いをさせるのはどうしてこんなに面白いのかしら。
例えばフォークで遊ぶのとか。想像するだけで楽しそうよね。

「ち、ちいねえさま」
「終わったら休憩無しで次の用紙を渡すから、死にものぐるいでしてね」
「ねえさま、ねえさまどうか」

カトレアは可愛らしくウインクをする。ルイズにとってそれは何も聞いてあげないと宣言されたようなものだ。

「もう、一分経ったわ」

その言葉が全てを物語る。ルイズはやけくそになりながら問題を解いていく。むしろ姉さまの方がよかったんじゃないかしら。
そんなことを考える余裕すらすぐに吹き飛んだ。問題が多く、時間が無い。
入学以来筆記は常に首位だったルイズが、初めてその座を悪友に明け渡すことになった試験はこうして始まった。


王宮は麗しき姫殿下の居室にて、アンリエッタはイスに座って足をばたつかせていた。
すぐ側に、額に青筋を浮かばせるのを必死にこらえているマザリ-ニがいる。

「なりません。お輿入れ前のこの大事な時期に王宮から出たいなど」

またいつものわがままであった。アンリエッタの近くには最近のお気に入りであるアニエスが付き従っている。
魔法が使えるし、かの『烈風』殿が認めたのだから構わないだろう。というより姫様の側近に平民とかダメだから。
との判断で賜ったマントをしっかり身につけている。結構いい加減なものだ。もらったアニエスが一番驚いている。

「でも、これからはゲルマニアで生活するのですよ?最後に一度くらい……」
「最後ではございません。殿下はこの後も何度となくこの国に足をお運びになられます」

頬をふくらませ、明らかに分かるように無言で抗議する。マザリ-ニは咳払いした。
まだまだ公務は山のように残っているのだ。そんなことをやっている時間はない。

「とにかく式までは大人しくしてくだされ。それがこの国の為なのです。
この後のご予定は分かっておりますな?」

有無を言わさぬ物言いだった。そのにらみをきかせた表情に、アンリエッタは気のない返事をして、
そっぽを向く。マザリ-ニはため息をついて出て行った。

「どうしてこう育ったのか……」

マザリ-ニが扉から出る間際、そんな声が聞こえたがアンリエッタは気にしない。
王家の乙女はこの程度の陰口なぞにへこたれはしない。
邪魔者がいなくなった後、王女は可愛らしくアニエスの方に向いてにこやかにほほえみかける。

「アニエス、アニエス」
「は、はい」

どういうわけかアニエスは嫌な予感がした。自分を見るアンリエッタは笑顔でとても美しかったが、
どこかしら腹黒くも見える。感情の掴めないなんとも奇妙な笑みを浮かべているからだ。
様々な思いを一つの笑顔に収束させているような、そんな表情だった。

「ひどいと思わない?マザリ-ニったら」
「い、いえ……」
「ひどいわよね?」
「え、ええ。ひどいと、思います」

ずいっとにらむは王女の双眼。気圧されたアニエスは首を縦に振る。
そうでしょう、そうでしょうとアンリエッタはうなずいた。

「だからわたくしは外に出ますわ」
「……あの、殿下」
「なにかしら」
「それで、一体どちらに参られるのですか?」

アンリエッタはそれまでのどこかしら黒さを含む笑みをやめて、
年相応の少女のようにいたずらっぽく笑う。いつもこれなら良いのだが。
アニエスはそんな感想を心の底にたたき落とした。

「ルイズが、ああ、わたくしのおともだちなのだけれど、彼女が今アカデミ-にいるそうなの。
 お話がしたくなって。どうせゲルマニアで話せるだろうけれど、今話したいの」

そんな理由で、と思ったが王家のお方というのはそういうものなのだろう。己を納得させる。
しかし止めなくていいのだろうか。アニエスは鏡台の奥に隠されている変装用の小道具を漁るアンリエッタを見る。
多分、私もついて行かなくてはならないのだろうな。でも拾ってもらった恩があるしなぁ。
ちょっと騙されてしまったのだろうか。等と考えている内に、自分の前に服が投げられていた。
質の良い服とその上からはおるアカデミー職員の白衣。どうやって手に入れたのかは考えないことにした。

「着てちょうだいね」

アニエスはうなずく他なく、今着ているものを丁寧に折りたたんで渡された服に袖を通す。
さすがに着心地は悪くない。

「よく似合っていますわ」

うんうんとうなずいて、アニエスにそう言った。
そんなアンリエッタは念入りに髪の色まで変えていた。その上伊達メガネを身につけていて普段より知的に見える。
もちろん魅力的なのはいうまでもない。姫殿下は何を着ても似合うのである。

「ありがとうございます。それで殿下……」
「なにか」
「どちらから外に?」

ああ言って出て行ったマザリーニ様のこと。おそらく外に出ようとしたらたちどころに見つかってしまいます。
そんなアニエスの話に心配するそぶりすら見せず、アンリエッタは余裕を持った笑みを浮かべてメガネをずり上げる。
アニエスはメガネがキラリと光った気がして、何だか悪い人がやる仕草だなぁと思った。

「アニエス。偉い人が住む所には秘密の抜け道があるものなのです」
「抜け道……?」

部屋の隅に飾られてある絵画の前で、アンリエッタは呪文を唱える。
すると絵画が飾られている壁が地面に降りてゆき、下へ続く階段が現れた。
アニエスは驚いてそれを見る。その先は暗くて何も見えない。
内側から壁を降ろし、すぐ側にある燭台に明かりを灯してアンリエッタは言った。

「お父さまから教えていただいたものよ。明かりをつけておかないと帰れなくなってしまいますわ。さ、出かけましょう」

魔法で杖に明かりを灯し、アンリエッタは城の地下通路を歌を口ずさんで抜け出ていく。
その後マザリーニが部屋を見て、激怒した後倒れたのはいうまでもない。


お昼にはまだ遠い朝方。ルイズはヘトヘトになりながら巫女服の寸法を合わせている。
頭脳を使い果たした妹に代わってカトレアがああでもない、こうでもないと言ってお針子たちを動かしている。
そうこうしている内に何事もなく寸法合わせは終わったが、ルイズはイスに座ったまま動かない。

「ああルイズ。やっぱりあなたはかわいいわね。まるでお人形さんみたい」

疲れ果てているルイズは、うんともすんとも言わない。
カトレアはルイズと目を合わせる。ルイズは上の空でカトレアを見てはいない。
楽しそうにカトレアが言った。

「食べちゃいたいくらい好き」
「……はい?」

視線がしっかりカトレアを捉えて数秒経った後、意識を今に戻したルイズは顔を真っ赤にする。
カトレアはやっぱり楽しそうだ。

「な、ななななにいってるのねえさま」
「ほっぺたとかおいしそうよね」

あれおいしそうよね。食卓のパンを取ろうとするようにルイズのほおをつまもうとする。
ルイズはその手を払いのけて、若干想像していたこととは違うものの危なっかしいことをいう姉に叫んだ。

「そ、そういう物騒なこと言うの禁止!」
「あらあら、それは残念ね。じゃあお昼になったから食事にしましょうか」

ぽふぽふと頭をなでられてから、からかわれていることにようやく気がついた。
イスから立ったルイズはカトレアが差し出した手を取らず、ぷいっとした顔で外に出る。

「怒った?」

後から追いついたカトレアはそうたずねた。ルイズはもちろん怒った風に低い声で返事をする。
本当に怒っているわけではない。ただちょっとばかりからかわれたから謝って欲しいだけだ。

「うん。ちいねえさまのこと、きらい」
「あら嬉しい。嫌われちゃった」

満面の笑みでそう言われて、またルイズの調子が崩れた。
そこはごめんなさいとか言ってもらわないと困るのに。
渋い顔のルイズをよそに、カトレアはやっぱり楽しそうだ。

「全部好きっておかしいもの。嫌いな所も見て、それで好きって言ってもらわないと」

案外深そうなことを言っている気もするがルイズにとってはどうでもいい。
肝心なことは、大好きな姉はこれっぽっちも謝る気がないということだ。

「ちいねえさまのこと、全部きらいだもん」

ふてくされたルイズは子供の頃のように困らせようとしてみた。
だが、カトレアは何か困る様子を見せるわけでもなく、できるだけルイズをマネてつぶやいた。

「ふうん。わたしもルイズのことだいっきらいだもん」
「マネしないで」
「マネなんてしてないもん」
「ちいねえさま!」

ルイズは怒って口をとがらせるが、カトレアは腹を抱えて笑うだけだった。

「ああ、やっぱり、面白いのね。あなたをからかうのって。ふふ、ははは」
「いい加減にしてよちいねえさま。私、本当に怒っているんだから」
「昔できなかったことをしているだけよ。あなたが小さい頃にしたら面倒なことになったから」

今は大丈夫だもの。ルイズにはそう言っているように聞こえた。
ルイズは幼い頃カトレア以外に頼れる人はいなかった。
カトレアは病気で苦しくてもルイズを見放したりはしなかったから、
ルイズは誰かから隠れる時大抵カトレアの所か、秘密の場所にいたのだ。

むう、とルイズは頬を膨らませて一言呟く。

「ちいねえさま。性格ひんまがっているのね」

カトレアは驚いた風にルイズを見て、少しあきれたように言った。

「今頃気がついたの?あの時分かってくれたと思っていたのだけれど。
 でも好きな人にはいたずらしたくなるものじゃない。あなたもたくさんしてくださったじゃないの」

「そんなに?」
「ええそうよ。忘れたの?……忘れたくなる気持ちも分かるけれど」

そんなことしたっけ?小さい頃の思いではほとんど忘れてしまっている。
もやの中、手探りで落とし物を探すように記憶を思い起こすが、覚えているはずもない。
思い出そうとしているルイズに、カトレアは優しく声をかける。

「別にいいのよ。あなたが体を治してくれてから、昔できなかったことを楽しめるようになったのよ」

火竜山脈に行ったり、おいしいものを食べたり。カトレアは楽しく人生を過ごしているようだ。

「私に意地悪したりとかも?」

「ええもちろん。エレオノール姉さまがあなたをつねる理由がよく分かるわ。
 つねりがいがあるのよ。あなたって」

嫌だなぁそれ。ルイズはそう思った。何でつねりがいがあるのだろうか。痛がるから?でもあれ痛いじゃない。
むぅとルイズが考えながら歩く内に、二人は食堂の前に着いたが人の気配がしない。

「あら、まだ開いてないのね」

食堂には着いたものの扉は閉まっている。カトレアは懐中時計を取り出して時間を見た。
まだ11時にもなっていない。ルイズははてと先ほどの試験時間について思い出した。
時間足りないって言ってたじゃないの。なんで余るのよ。
少しばかりとげのある調子でカトレアに聞いた。

「ちいねえさま。これならもっと試験をゆっくりできた気がするのだけど……」
「え?ええそうね」

ルイズに視線を合わさずにそう返す。ルイズの怒りが大きくなりだした。
ルイズもカリーヌの娘である。はっきりとしたことは大好きだが、
白か黒か分からない灰色は嫌いだ。本来のカトレアとは相性がとても悪いともいえる。
灰色が好きそうな神様から慈悲をもらったカトレアは、同じように濃い灰色が好きだからだ。

「ねえさま。なんで30分にしたの」
「ん……どんな理由なら許してくれるの?」
「ちいねえさま!!」

ルイズはカトレアに向かって怒鳴った。元々気分は良くないのだ。
朝からずっと頭の奥に悩みがあって、その上冗談では済まない悪ふざけをされたら誰だって怒る。
しかしカトレアはそんなルイズに言い返すわけでもなくただ黙っている。

「いくらなんでもひどいわ。おかしいわよ。試験は大事なものなのに」
「人生おかしなことだらけよ。たとえばあなたの後にいる人たちとか」

そう言われてルイズは後を振り向いた。そこには金髪でメガネをかけた年若い少女が自分に向かって手を振っている。

「あれ……?」

こんな人いたかしら。その手を振る職員らしき人をよく見る。アカデミー以外のどこかで見かけたような。
金髪の女性が駆け寄ってくる。その走り方にも見覚えがあった。それが誰だか分かった時、姉への怒りはどこかへ飛んでいった。
驚きで頭が包まれたのだ。

「ああ、ルイズ!お久しぶりね」
「……アンリエッタ?」

きゃいきゃいとはしゃぐ幼馴染みを見て、そう言えば変装得意だったっけ。ルイズは思い出す。
それにしても手が込んでいる。髪の毛は魔法の染料を使っているようだし、
その変装も一目でアンリエッタと気づける者はいないだろう。
しかし、どうやってここに来たのかしら?きっと忙しいだろうに。
アンリエッタのそばにいる、アカデミー職員らしからぬ体格の女性とたまたま目が合った。
考えてはいけません。目で言われた。たしかに考えてはいけないことだ。
難しいことはとりあえずおいといて、ルイズはアンリエッタに顔を合わせる。

「アンリエッタ、元気そうでなによりだわ」
「ふふ。ちゃんとわたくしを名前で呼んでくれるのね」
「タルブでもそうだったじゃない」
「ええ。そしてこれからも」

二人の少女は互いを抱きしめ、再会を喜んだ。ルイズは何となくダメな気がしたが、
それでも再会を喜んだ。

「あなたのお悩み、色々と聞いてもらえそうね」

カトレアはルイズの耳元でそう呟いて、どこかに歩いて行こうとする。
ルイズはそういうことだったのかと思い、カトレアを申し訳なさそうに呼び止めた。

「ち、ちいねえさま」
「うん?」
「さっきは怒って……」
「ああ。気にしないでいいのよ」

カトレアはコロコロと笑って続ける。

「たまたまだから」
「……え」
「わたしが30分にした理由は適当に考えてね」

笑顔で去っていくカトレアを見て、面白半分でやられたと気がつく。
きょとんとした顔のアンリエッタをよそに、苦い顔で姉の後姿を見るルイズであった。



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