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狂蛇の使い魔-20


第二十話



ルイズたちが船倉で途方に暮れている頃、空賊船の船長室では、空賊の頭を名乗った男と、杖を持ったタバサとが、船長の机を挟んで対峙していた。

扉の外から突然現れた謎の人物に、男は一瞬驚いたものの、すぐに冷静さを取り戻し、机に置いてあった杖を構えた。
一方のタバサは、開いていた扉をゆっくりと閉めると、手に持った杖すら構えずに立ち尽くしたまま、微動だにしない。
部屋に侵入しておきながら依然として動きをみせない少女をいぶかしみながら、男は口を開いた。

「お前、一体何者だ?」
「私はトリステイン王国の王女、アンリエッタ様の遣いの者。ウェールズ皇太子、あなたに用がある」

侵入者にいきなり皇太子と呼ばれた男は、一瞬その顔をしかめる。
しかしすぐに余裕の笑みを見せると、タバサに言葉を投げ返した。

「俺がウェールズ皇太子? 馬鹿を言っちゃいけねえ」
「隠しても無駄。その程度の変装では、私の目は誤魔化せない」

声色一つ、表情すら変えないタバサに、男は笑うのをやめ、黙りこくる。
なんだか何もかも見透かされているような気がしてならないと、男は目の前にある二つの青い瞳を見て、そう思わざるをえなかったのだ。

しばらくにらみ合いを続けた後、男は真剣な顔つきでタバサに問いかけた。

「仮に俺がウェールズ皇太子だったら、どうすると言うんだね?」
「トリステイン女王があなたに宛てた密書を預かっている。それを届けに来た」

空賊の頭が再びいぶかしむような表情を見せる。

「……ほう。で、その密書とやらは?」
「手元にはない。閉じ込められた仲間が持っている。案内してほしい」
「おいおい、そんな言葉だけで使者だと信じろってのか? そりゃあ無理があるってもんだぜ」

はっ、と笑い、タバサに向けて小馬鹿にしたような表情を浮かべる男。しかし、その眼は笑っていなかった。

「あなたに拒否権はない。私の言う通りにしてもらう」

男が自分を信じようが信じまいがお構い無し、といった口調で、タバサが言い切った。
流石に空賊の長としてのプライドが許さなかったのか、男は顔に怒りの色を浮かばせながら、杖を少女に向かって振り上げた。
ここまで挑発しておきながら、いまだに杖すら動かさない少女に疑問を抱きつつも、男は呪文を詠唱していく。
間もなく呪文が完成しようとしたところで、突然男の背中に強い衝撃が加えられた。そのあまりの勢いに、男は床に打ち倒され、持っていた杖を取り落としてしまった。
何事か、と後ろを振り返ってみたものの、そこにはガラス張りの窓があるだけであった。

足元に転がってきた杖を拾い上げると、つかつかと男の元へ歩み寄るタバサ。起き上がろうとしている男と視線が合ったところで、彼女の口が開かれた。

「もう一度言う。私を仲間のところへ案内してほしい」

――――――――――――

「いつまでここにいればいいのかしら……」

古びた木の床の上に座り込み、つまらなそうに頬杖を突きながら、キュルケがため息混じりに呟いた。
空賊に捕らえられ、この薄暗い船倉に閉じ込められてから小一時間。あれから議論は進展することなく、未だ脱出の算段がつかずにいた。何しろ杖を取り上げられているのだから、メイジであるキュルケたちにはどうしようもできないのである。
唯一の戦力であるはずのルイズの使い魔、浅倉は、床に寝転がってすっかり熟睡しきっていた。ワルドはひとり思慮にふけっているし、ルイズとギーシュは今もなお無駄な議論を続けている。タバサに至っては行方不明だ。

(ま、あの子なら大丈夫でしょうけど)

青髪の少女の姿を脳裏に浮かべながら、キュルケは心の中で呟いた。機転のきく彼女のことだ。ならず者たちに捕まることなく、無事に逃げおおせただろう。魔法の実力も申し分ないし、何よりあの不思議な力があるのだ。
もしかしたら、私たちを救う手立てを探るくらいの余裕があるのかもしれない。手も足も出ないこの現状を打ち破ることができるのは、もはやタバサ以外にいないだろう。

(……ごちゃごちゃ考えてても仕方ないし、私も少し眠らせてもらおうかしら)

眠っている浅倉に目をやりながら、キュルケは大きく背伸びをした。そして、置かれていた木箱に寄りかかろうとした、ちょうどその時。
不意に、目の前の扉が開かれた。
「タバサ!」

半開きの扉からひょっこりと現れた人影に、キュルケは思わず叫んだ。

「お、おどかさないでくれよタバサ……」
「よかった! 無事だったのね!」

ギーシュとルイズがそれぞれ安堵の言葉を口にする。ワルドは黙ったままだが、こわばっていた表情が幾分か和らいで見えた。

「ここまで無事に来れたってことは、空賊たちをどうにかして追い払えた……ってことでいいのかしら?」
「そのことだけど」

タバサが半開きだった扉を押し開くと、そこには一人の男が立っていた。
紛れもない、空賊の頭を名乗った男である。

「な、なんであんたがタバサと……」

ルイズたちが唖然とした表情で男の顔を捉えた。和みかけていた部屋の雰囲気が、再びはりつめたものに変わっていく。

「ここまで案内してもらった。今の彼に、私たちをどうにかできる力はない」

そう言って、タバサは一本の杖を取り出した。空賊の頭を名乗る男が、苦々しい表情を浮かべる。

「なるほど。どうやら我々と立場が逆転したようだな。それなら……」
「それと、彼に王女様の手紙を見せてあげてほしい」

ワルドの話を遮り、タバサが続けて提案する。予想外の一言に、その場に居合わせた者たち全員が我が耳を疑った。

「敵に手紙を見せるなんて……君は一体何を考えているんだい?」
「私たちの身分を、彼に証明するだけ」

ギーシュの問いかけに、タバサが憮然とした態度で答えた。

「……そうね。タバサがそう言うなら、私は信じるわ」

キュルケが、どこか納得したように言った。タバサと目が合うと、微笑みながら頷いた。

「確かに、手紙の存在を示して、我々が大使であることを証明するくらいなら、大丈夫かもしれないな。ルイズはどう思う?」
「えっ? えっと、ワルド様がそう仰るのであれば、私も……」

ワルドにいきなり話を振られて、答えを決めあぐねていたルイズはたじろぎながら答えた。それなら僕も、とギーシュも賛同する。

「意見の一致をみたな。さあ、ルイズ」

ワルドが手紙を見せるようにとルイズに促す。ルイズはアンリエッタの手紙を取り出すと、それを男の目の前に差し出した。
目の前に出された手紙を、男はまじまじと見つめた。手にとろうとしたところで、ルイズがこれを引っ込める。

「どう?」

タバサが男の方を向き、尋ねた。

「……間違いない。これはトリステイン王家の花押だ」

下品じみていた男の声が、一転して爽やかなものへと変わる。ルイズたちは目を丸くした。

「いつまでもこの格好では失礼かな。……それにしても、まさか見破られるとは思ってもみなかったよ」

そう言って、男はかぶっていたカツラと眼帯、そしてつけ髭を慣れた手つきではずしていく。気がつけば、先ほどまでいた品のない男の姿が、いつの間にか凛々しく立派な青年の姿に変身していた。

「私はアルビオン王国皇太子、ウェールズ・テューダーだ。これまでの無礼の数々、深くお詫び申し上げる」

ウェールズはそう言うと、気品溢れる仕草で深々とお辞儀をした。一方のルイズたちは、突然目の前に現れた国の最重要人物に唖然としている。

「ウェ、ウェールズ皇太子だって……!?」
「いかにも。まあ、この肩書きがいつまでもつのかはわからないけどね」

滅びゆく祖国を憂い、ウェールズは虚空を見上げた。残された時間があとわずかであることを悟ったルイズが、あわてて手紙を差し出そうとするが、ワルドがそれを制した。

「失礼だが、皇太子である証拠は……?」
「証拠か……そうだな。君がはめている水のルビーを見せてくれるかい?」

ウェールズの言葉を受けて、ルイズが水のルビーをはめた手を差し出した。ウェールズも、指輪を嵌めている右手をルイズの手の甲に向き合わせるようにして差し出す。
ルイズのはめた指輪と、ウェールズのはめた指輪が向かい合った瞬間、二つの指輪の間に、七色の小さな虹が現れた。

「トリステインに伝わる水のルビーと、アルビオンに伝わる風のルビー……二つは共鳴し合い、美しい虹を作り出すんだ」

ウェールズはルイズたちにそう説明すると、ゆっくりと手を降ろした。光っていた虹が、たちまち霧散する。

「……我が無礼をお許しください、殿下」
「いや、いいんだ。こんな所で皇太子を名乗れば、疑われない方がおかしいからね。それじゃあ、改めて用件を聞こうか」

ウェールズはワルドに向かってにっこりと微笑むと、差し出された手紙を受け取った。
ウェールズ皇太子との意外な対面から、およそ三時間。ルイズたちを乗せた船は、アルビオン王国最後の砦であるニューカッスル城へと帆を降ろした。
ルイズたちは今の今まで眠っていた浅倉を、なるべく機嫌を損ねないようにして起こすと、ウェールズの案内の下、目的の手紙があるという彼の居室へと向かった。
途中、ウェールズが今夜行われるというパーティについて話し始めると、浅倉が思い出したかのように、彼に食べ物の在りかを尋ねた。
ウェールズが食堂の場所を教えると、浅倉は持っていたデルフリンガーをルイズに押しつけて、「飯を食ってくる」とだけ言い残し、ウェールズの部屋とは真逆の方向に向かって歩いて行ったのだった。
またか、とルイズたちが呆れる中、ウェールズは一人、去っていく浅倉の背中を不思議そうに見つめていた。

「面白い人だね。君たちの護衛かい?」
「……私の使い魔です」

ルイズが申し訳なさそうに頭を下げた。



「ここが僕の部屋だ。入ってくれ」

ウェールズに先導され、ルイズたちがたどり着いたその部屋は、一国の王子にしては控えめ過ぎるほどに見栄えのしない場所であった。
ルイズたちが部屋の質素さに驚いている間に、ウェールズは部屋にある机の引き出しを開け、中から小さな箱を取り出した。

「私の大事な宝箱でね。ほら、これが件の手紙だ」

ウェールズが箱から手紙を取り出すと、折り畳んであったそれを開き、読み始めた。既に何度も読んでいたのか、読み終わるまでにあまり時間はかからなかった。

「……見ての通り、この手紙はボロボロだ。できる限り大切に扱ってほしい」
「承知致しました」

ルイズが、元通りに折り畳まれた手紙を受け取った。目的が達成されたのを受けて、一番後ろにいたキュルケを皮切りに、一行がぞろぞろと退室していく。
最後の一人になったところで、ルイズが口を開いた。

「ウェールズ殿下、あの……」
「ん? まだ何か用かい?」
「失礼だとは思いますが、殿下とアンリエッタ姫の関係とは、一体……?」
「なんだ、聞いていなかったのかい? てっきり知ってるものかと思ったんだが」

ウェールズが意外そうな口振りで答えた。

「僕とアンリエッタは恋仲だったのさ」
ウェールズの言葉に、ルイズは軽い衝撃を受けた。二人に何らかの関係があることはわかっていたものの、愛し合う仲だったとは予想していなかったのである。

「さっき渡した手紙は、彼女が僕に永久の愛を誓ったものさ。これが見つかれば、アンリエッタの婚約もご破算になってしまうからね」

ウェールズは窓の方を向き直ると、夕闇に染まり始めた空を見上げた。

「……殿下。この戦いに、勝ち目はあるのですか?」
「ないよ。五万の敵に対して、こちらは三百。例え奇跡が起こっても、勝つなんてことはあり得ない」
「なら、私たちと一緒にトリステインへ参りましょう! 殿下さえいれば……」
「それは無理だ」

ウェールズが窓の外を向いたまま、首を横に振った。

「今トリステインへ逃げ出せば、レコン・キスタはこれぞ好機とトリステインに軍を差し向けてくるだろう。そうなれば、君たちの働きが全て水の泡になる」
「でも……」
「それに」

ルイズを遮るように、ウェールズが話を続けた。

「アンリエッタも自分の立場をわきまえなければならない。いつまでも過去の思い出を引きずっていては、いずれトリステインという国は廃れてしまう」
「……じゃあ、姫さまのお気持ちはどうなさるんですか? 殿下がいなくなってしまっては、それこそ悲しみに暮れて、自分の立場どころではなくなってしまうのではないのですか!?」

親友のためにと必死に懇願するルイズ。しかし、ウェールズに動じる様子は見られない。

「そんなことはないさ。今も昔も、アンリエッタはしっかり者だからね。どんなに辛い出来事でも、きっと乗り越えていけるだろう」

ウェールズが笑顔で振り返る。こんな悲しい運命を前にして、なんで彼は笑顔でいられるのか、ルイズにはわからなかった。

「切なさも、悲しみも、時間が連れていく。時が経てば、辛い記憶も忘れることができよう。……さて、そろそろパーティの支度をしなくては。君もそろそろ行きたまえ」

ウェールズに促されるまま、ルイズは部屋の扉を開けると、彼に向かって一礼した後、重い足取りで部屋を出たのであった。
すっかり日も落ち、ランプに火が灯り始めた城の廊下を、ルイズはとぼとぼと自分の部屋に向かって歩き出した。



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